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2009年8月14日 (金)

メモ:岩波書店 [ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上]第1章第7節「エントロピー」中の或る訳語に付いて。ついでに第3版で1パラグラフ講読

昔買ったままでホッタラカシにしていた本を引っ張り出してきて読むと云うことを最近続けいてる。内容は、このブログと同様、極めて雑多なのだが、基本的には、手軽に読める本を選んでいる。ところが、何を読んでいても、極単純である筈のことに引っ掛かりたり、つまらないことでも一応確認したくなったりして、スグに行き詰まって止まってしまうのだ。

「読むのに抵抗を感じなかった書物は、読むに値しなかった書物だ」とは言っても、「頓挫」だからねぇ。自分のリテラシのなさを嘆くばかりだ (話がトッ散らかりそうだが、付け加えておくと、「読むのに抵抗を感じさせない」ことが、重要な要素になる文章作品もある。例えば、理念としての「エンターテインメント文学」がそれだ。その他、記録、報告、取扱い説明書、法規なども、表現自体に限れば、同様だろう。これらは、どれも基本的には [読者/利用者] に考え込ませたり、文意の判断に迷わせたりしてはならない。もっとも、私は、エンターテインメント文学を読んでいてさえ、素直に読み進めないことが大半であって、「読者失格」と言える)。

先日も、[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年)を読み始めたのだが、どうも読みづらい。しかし、それは翻訳文には有りがちの「読みづらさ」(これは「読むに値する」かどうかには余り関係ない)と思えたのが半分、また [ランダウ・リフシッツ理論物理学教程] の他の巻 ([力学] と [場の古典論]) を、かって少しばかり読んだ際に出だしが取っ付きにくかった記憶があるので、[統計物理学] の場合も、それと同様なのだろうと思えたのが半分あったので、我慢して読み進めていった。だが、第1章第7節の、次の一文まで読んだ時に、強い違和感を感じて、頭の上に大きな疑問符が沸いて出てくるのが自分でもわかった。

そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.13-14

その疑問符は、続きを読んですぐ破裂しまった。前後矛盾しているのだ。

恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.15-18

つまり、「考えている系」が、前の文では「恒温槽」の外、後の文では「恒温槽」の内にあることになっている。

それまでの流れから判断すると、前の方が可訝しいと思えたが、それはあくまでも印象であって、「ある程度確実なことは、原文を見てからでないと何とも言えない」と云うのが、その時の私の感想だった。だが、生憎、ロシア語原書は手元になかったのだ。

しかし、その後、ロシア語サイト www.eknigu.org で [ランダウ・リフシッツ統計物理学] のロシア語原書の djvu コピーを見つけた。"Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е" というものだ (前記のサイトは、文書へのアクセスと云うかダウンロードと云うか、が、素直にできないようなのであるし、また著作権上の問題が無しとしないので、文書への直接リンクは張らない)。

でも ИЗДАНИЕ 3-е... って「第3版」だね (ちなみに、"ЧАСТЬ 1"/「第1部」とあるが、「第2部」は「理論物理学教程」に第9巻として収められている)。

困った...。第2版の訳文の翻訳品質を、原書第3版に基づいて喋喋するのは、疝気筋と云うものだろう。

だが、何も書けないと云う訣のものでもあるまいと思い返して書くことにした。以下の話はその程度のものだと思って、読み流されたい。

で、まぁ、怪しそうな「そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしていると考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)」の対応原文を第3版から探してみると:

Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).--p.41 ll.29-32
そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。

つまり、「相互作用をしている」とは書かれていない。

鍵となるのは действительности と云う単語である。これは、「現実」「実際」を意味する女性名詞 действительность の前置格形で、連語 "в действительности" として「実際には」「現実には」の意味となるが、この仮想の構成を叙述している文脈では、「実は...だった(と仮想する)」といった表現に訳すのが適当なところだ。

第2版の原文がどのようなものであったのか、調べが着いていないが、この文を含むパラグラフの第2版の訳文と第3版の原文を比べると、原文段階でも第2版と第3版との間には、全体として変化が無かったろうと思われる。恐らく、第3版の "в действительности" に相当する部分に、第2版原文では「相互作用」を意味する文言が使われていたか、或いは、第2版の翻訳者が、何らかの理由で "в действительности" に「相互作用をしている」と云う誤った訳語を当ててしまっただろう。

「相互作用」と云うと взаимодействие (中性名詞) ぐらいの言葉になりそうで、この単語から「相互の」を含意する接頭辞 взаимо- とった中性名詞 действие には勿論「作用」と云う意味がある訣だが、この単語は確かに действительности の前半に字面が重なっている。あるいは、ここら辺が、ロシア語原書段階か、和訳段階か、不明ではあるけれども、間違いの原因であったかもしれない。

ここで、自分の迂闊さを告白せねばならないが、上のようなことで、ジタバタと調べものをしたり、考え込んでいたりしている間、暫く、第3版の日本語訳が出版されている可能性に思い至らなかった。そして、それは実際に出版されていたのだ。勿論、「暫く」した後には気が付いたので、機会を見つけて、少少遠方の図書館に行き、問題の箇所を確認してみると:
そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年 ISBN-10: 4000057200 ISBN-13: 978-4000057202) 第1章第7節 p.33 ll.17-18

直っているね。一件落着。

上記の説明では、文脈の大きな流れが見えづらいかもしれないので、それをもう少し明らかにするために、問題の文を含むパラグラフの、岩波訳第2版訳文と第3版訳文とを並記しておく。

エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である. 完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである. そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布関数をつかって統計的重み \Delta\Gamma を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.10-26

エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である. 完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる. そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値 E_0 にちょうど一致しているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率 \Delta\Gamma を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率 \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年) 第1章第7節 p.33 l.14- p.34 l.5

ちなみにロシア語原文は以下の通り:

Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство. Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как E_0), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы. Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате). Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии E_0. Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес \Delta\Gamma, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем. Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы. Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов \Delta\Gamma_a этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
--Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е (НАУКА. МОСКВА 1976) p.41 l.24 (l.11 from the bottom) - p.42 l.13

以下、附録として、問題のパラグラフの読解を試みる。その構成は、原書第3版のセンテンス毎に、岩波第2版、岩波第3版、及び拙訳を並記し、その後に単語等を意味を列挙すると云う形式をとることにする。

Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство.
[岩波第2版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である.
[岩波第3版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である.
[ゑ訳]エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。

  1. для:前置詞。生格支配。目的を表わす「...のために」。
  2. ясного:形容詞 ясный の中性生格形。「明解な」
  3. понимания:中性名詞 пониманияе の単数生格形。「理解」
  4. способа:男性名詞 способ の単数生格形。「方法」「やり方」。このセンテンスの鍵となる言葉なので、それなりの訴求力のある言葉を使って訳したほうが良い。「仕組み」と訳しておく。
  5. определения:中性名詞 определение の単数生格形。「確定」「定義」
  6. энтропии:女性名詞 энтропия の単数生格形。「エントロピー」
  7. важно:無人称述語。важно + 不定詞で「...は重要である」を意味する。
  8. иметь в виду:「考慮に入れる」ぐらいの意味らしいが、ここでは вид (男性名詞) が「見ること」「視野」の意味であることを踏まえて「見て取る」と訳したい。
  9. следующее:形容詞 следующий の中性対格形。「次の」
  10. обстоятельство:中性名詞 обстоятельство の単数対格形。「事情」「事実」

Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как E_0), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы.
[岩波第2版]完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである.
[岩波第3版]完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる.
[ゑ訳]完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号 E_0 で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。

  1. энтропию:女性名詞 энтропия 「エントロピー」の単数対格形。
  2. замкнутой:形容詞 замкнутоый の女性生格形。「閉鎖的な」「孤立的な」
  3. системы:女性名詞 система の単数生格形。「体系」「システム」の意だが、この文脈では、単に「系」の語が当てられる。
  4. полную:形容詞 полный の女性対格形。「余すところのない」「完全な」
  5. энергию :女性名詞 энергия の単数対格形。「エネルギー」
  6. которой :関係代名詞 который 女性生格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
  7. обозначим :完了体動詞 обозначить 「記号・マークで表示する」の勧誘形 (語末の те は省略されている)。不活動体名詞対格支配。
  8. как :私の手持ちの辞書では確認できなかっが、「これを А と云う記号で表わすことにしよう」と云う意味で "обозначим его как А" などと書き表すのは普通に行なわれるらしい。
  9. находящейся :不完了体動詞 находиться 「(事物が)ある」の能動形現在女性生格形。
  10. в:前置詞。対格支配なら「...の中へ」、前置格支配なら「...の中に」「...の中で」
  11. полном:形容詞 полный の中性前置格形。
  12. статистическом:形容詞 статистический の中性前置格形。「統計(学)の」
  13. равновесии:中性名詞 равновесие の単数前置格。「平衡」
  14. можно:無人称述語。можно + 動詞不定形で「...できる」を意味する。一般的な可能を意味する場合には、主語は示されず、文は無人称文になる。
  15. определить:完了体動詞不定形。「確定する」「決定する」。確かに「定義する」と云う語義もあるが、「エントロピー定義」の仕組みを解明しようとする、この文脈にあっては「定義する」と云う訳語は、逆にそぐわないように思われる。
  16. и:接続詞。付加・強調を表わす言葉を導く。
  17. непосредственно:副詞。「直接的に」
  18. не:否定小詞
  19. прибегая:不完了体動詞 прибегать の副動詞形。прибегать к + 与格は伴って「(ある手段に)訴える」を意味する。
  20. разделению:中性名詞 разделение の単数与格形。「分割」
  21. на:前置詞。対格支配で「等価交換」を表わす。例文:менять крупные деньги на мелочь 「大金をくずす」
  22. подсистемы:女性名詞 подсистема の複数対格形。辞書では「下部組織」「サブシステム」と云う訳語が与えられているが、今の文脈では「部分系」

Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).
[岩波第2版]そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
[岩波第3版]そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
[ゑ訳]そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は「恒温槽」と呼ばれる)。

  1. этого:近称指示代名詞 этот の中性生格形。"Для этого" で「そうするために」の意味になる。
  2. представим:完了体動詞 представить 「提出する」の勧誘形。"представить себе" で「想像する」を意味する。完了体動詞の勧誘形は、個別的動作を勧誘する。
  3. что:接続詞。従属文を導く。
  4. рассматриваемая:不完了体動詞 рассматривать 「検討する」の被動形女性主格形。ただし、訳文中では、後続の文と揃えるために「検討」ではなく「考察」を使っている。
  5. система:これは、単に「系」と訳すよりも、何を指しているのかを明確にするために「閉鎖系」と訳した方がよかろう。
  6. является:不完了体動詞 являться の三人称単数現在形。造格を伴って「...である」を意味する。
  7. в действительности:「実際には」「現実には」。действительность は「現実」「実際」を意味する女性名詞。「作用」「影響」を意味する中性名詞 лействие とは別語。ちなみに тельность は「物質性」を意味する女性名詞。
  8. лишь:限定小詞。「...だけ」「...のみ」
  9. малой:形容詞 малый の女性造格形。「小さい」
  10. частью:女性名詞 часть の単数造格形。「(全体の)一部分」
  11. некоторой:不定代名詞 некоторый の女性生格形。「ある」
  12. воображаемой:形容詞 воображаемый の女性生格形。「仮想的な」。системы (生格形) に掛かっている。
  13. очень:副詞。「非常に」
  14. большой:形容詞 большой の女性生格形。「大きい」
  15. которой:関係代名詞 который の女性前置格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
  16. этой:近称指示代名詞 этот の女性前置格形。
  17. связи:女性名詞 связь の前置格。「関係」
  18. говорят:不完了体動詞 говорить 「語る」 の三人称複数現在。不定人称文になっている。"о + 名詞生格形 говорят как о + 名詞生格形" と云う表現は「『1番目の名詞』は、『2番目の名詞』と呼ばれる」ぐらいの意味らしい。"о которой говорят как о + 名詞生格形" といった形でも良く使われるようだ。
  19. как:接続詞。「...と同様に」「...として」
  20. термостате:男性名詞 термостат の単数前置格。手持ちの辞書では「自動温度調節器」・「サーモスタット」と云う訳語しか与えられていないが、ここはやはり「恒温槽」と訳すしかあるまい。

Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии E_0.
[岩波第2版]恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする.
[岩波第3版]恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値 E_0 にちょうど一致しているものとする.
[ゑ訳]恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値 E_0 と丁度一致するようになっているものとする。

  1. предполагается:不完了体動詞 предполагать 「前提とする」「条件とする」の被動態 (受動態) 相当の動詞。三人称単数現在。訳としては「...(よう)になっているものとする」ぐらいだろう。
  2. находящимся:不完了体動詞 находиться の能動形現在男性造格形。「(人・事物がある状態に)ある」
  3. полном:形容詞 полный の中性前置格形。「完全な」「最大限に達した」
  4. равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
  5. причем:(причём) 接続詞。「その上」「しかも」
  6. таком: 指示代名詞 такой の中性前置格形。в 以下を受けている。"причем таком" で чтобы 以下を導く。
  7. чтобы:接続詞。未だ存在しない事態の実現への希望・必要・要求を表わす補語的従属文を導く (従属文中の動詞は過去形になる)。「...するような」「...するように」
  8. средняя:形容詞 средний の女性主格形。「平均的な」
  9. нашей:所有代名詞 наш の女性生格形。「(筆者・話者から読者・聞き手に向かって)いま私たちの問題[話題]になっている」「この」。訳文中では「我々が...考察している」としてある。
  10. являющейся:不完了体動詞 являться 「...である」(造格支配) の能動形現在女性生格形。日本語の流れとしては、「...と見なして」と訳した方が、文章がなだらかになるだろう。
  11. теперь:副詞 「今」
  12. незамкнутой:形容詞 незамкнутый 「開放した」女性造格形。
  13. подсистемой:女性名詞 подсистема の単数造格形。
  14. термостата:男性名詞 термостат の単数生格形。
  15. как раз:「丁度」
  16. совпадала:不完了体動詞 совпадать の過去女性形。с + 造格を伴って「一致する」の意味。
  17. истинным:形容詞 истинный の女性造格形。辞書では「真の」ぐらいの訳語が与えられている。しかし問題となっている部分系が、恒温槽中の他の部分系との相互作用によりエネルギーが揺らぐと云うのは仮想上の話なので、その「平均エネルギー」も作業概念である。したがって、それが問題となっている部分系の "истинным значением энергии" と一致すると云うことを日本語として言いたい時には「エネルギーの真の値」と云うより、問題となっている部分系 (本来は閉鎖系である) の「本来のエネルギー値」ぐらいに訳しておいたほうがよいだろう。
  18. значением:中性名詞 значение の単数造格形。「値」
  19. энергии:女性名詞 энергия の単数生格形。

Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес \Delta\Gamma, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем.
[岩波第2版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, その分布関数をつかって統計的重み \Delta\Gamma を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる.
[岩波第3版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率 \Delta\Gamma を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる.
[ゑ訳]このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み \Delta\Gamma を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。

  1. тогда:副詞。「その場合は」「このようにすると」
  2. формально:副詞。「正式に」「公式に」「形式的に」。仮想上の議論をしているのだから「形式的に」と云う含意。
  3. приписать:完了体動詞の不定形。+ 対格 + 与格で「(...を...に)帰する」を意味する。
  4. функцию:女性名詞 функция の単数対格。「関数」
  5. распределения:中性名詞 распределение の単数生格形。「分配」
  6. того:定代名詞 тот の中性生格形。"тот же, что и" で「同一の」の意味になる。ただし "тот же" だけでも「同一の」を意味する。
  7. вида:男性名詞 вид の単数生格形。「外観」「状態」
  8. всякой:定代名詞 всякий の女性生格形。「各々」
  9. определить:完了体動詞不定形。「決定する」。
  10. ее:(её) 人称代名詞 она の生格。
  11. с помощью:前置詞相当の語句。生格を伴って「...を用いて」の意。
  12. статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
  13. вес:男性名詞対格形。「重み」
  14. а:接続詞。「付加」「対比」「対照」「対立」を表わすが、ここでは「付加」だろう。
  15. ним:人称代名詞 он, она の造格。они の与格。
  16. нэпосредственно:副詞「直接的に」
  17. формулам:女性名詞 формула の複数与格形。「式」「公式」
  18. которыми:関係代名詞 который の複数造格形。定語的従属文を導く。
  19. пользовались:不完了体動詞 пользоватсь の過去複数形。+ 造格で「(自分の必要のために)利用する」の意味となる。

Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы.
[岩波第2版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[岩波第3版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[ゑ訳]我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。

  1. ясно:副詞。「明確に」
  2. наличие:中性名詞主格形。「存在」
  3. вообще:副詞。「一般に」。ただし、連語 вообще не は「全然...でない」の意。
  4. сказывается:不完了体動詞 сказываться の三人称単数現在。на + 前置格を伴って「影響を及ぼす」の意。
  5. статистических:形容詞 статистический の複数前置格形。
  6. свойствах:中性名詞 свойство の複数前置格形。「特性」
  7. отдельных:形容詞 отдельный の複数生格形。「個々の」
  8. малых:形容詞 малый の複数生格形。「小さい」
  9. частей:女性名詞 часть の複数生格形。「一部分」
  10. которые:関係代名詞 который の複数主格形。
  11. без:生格支配の前置詞。"и без того" は、辞書では「それでなくてさえ」の訳が当てられているが、ここでは「恒温槽の存在が無かったとしても」と云うことだろう。
  12. замкнуты:形容詞 замкнутоый の短語尾複数形。「閉鎖的な」「孤立的な」
  13. находятся:不完了体動詞 находиться の三人称複数現在形。「(人・事物がある状態に)ある」
  14. равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
  15. остальными:形容詞 остальной の複数造格形。「残りの」
  16. частями:女性名詞 часть の複数造格形。

Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов \Delta\Gamma_a этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
[岩波第2版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
[岩波第3版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率 \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
[ゑ訳]それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み \Delta\Gamma_a が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。

  1. поэтому:副詞。「それ故」
  2. наличие:中性名詞主格形。「存在」
  3. не:否定小詞
  4. изменит:不完了体動詞 изменять 三人称単数現在形。生格を支配して「変える」の意。
  5. статистических:形容詞 статистический の複数生格形。
  6. весов:男性名詞 вес の複数生格形。「重量」「重み」
  7. этих:近称指示代名詞 этот の複数生格形。
  8. частей:女性名詞 часть「一部分」の複数生格形。
  9. определенный:完了体動詞 определить「定義する」の被動形過去男性主格形。
  10. только что:「たったいま」ぐらいの意味。つまり、部分系に分割しないで「統計的重み」を直接的に定義する仕方を指している。この文意からして、日本語表現としては「上記の/上記に」ぐらいに訳した方が良い。
  11. указанным:形容詞 указанный の男性造格形。「指定された」
  12. способом:男性名詞 способ の単数造格形。「方法」
  13. статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
  14. будет:不完了体動詞 быть の三人称単数未来形。[быть の未来形 + 不完了体動詞不定形]は、その不完了体動詞の未来形を作る。
  15. совпадать:不完了体動詞不定形。с + 造格で、「...と同時に起こる」「...と合致する」の意味となる。
  16. прежним:形容詞 прежний の造格形。「以前の」
  17. определением:中性名詞 определениие の単数造格形。「定義」
  18. виде:男性名詞 вид の単数前置格。「外観」「状態」
  19. произведения:中性名詞 произведение の単数生格形。「産物」「積」

ここで、私の訳を一つにまとめておこう:

エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号 E_0 で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値 E_0 と丁度一致するようになっているものとする。このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み \Delta\Gamma を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み \Delta\Gamma_a が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。

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2009年3月21日 (土)

メモ: 岩波書店 [ディラック 量子力學 原書第4版] の誤植及び微妙訳

私が ディラック (Paul Adrien Maurice Dirac) の名前を初めて聞いたのは、たしか中学生だったか小学生の時だったと思う。物理学の啓蒙書ででも聞きかじったのだろう (ガモフのトムキンス物--「不思議の国のトムキンス」とか--など読み散らしていたのだ)。物理学的内容など分かる訣もなく (これは確かに小学生の時だが、友達に「E = mc^2 って知ってる?」と聞かれてヘドモドした記憶がある)、「天才物理学者」達の逸話に無闇と興奮していただけだった。

その中でも、ディラックの逸話は印象的だった。例えば、ある婦人 (今、ネットで調べてみたら、ロシアの実験物理学者ピョートル・カピッツァ --Пётр Леонидович Капица-- の2度目の夫人 Анна Алексеевна らしい。ウェブページ "Paul Dirac" 参照) が、編み物をしているのを見て、数学 (位相幾何) 的に言って、その編み方とは別の編み方が可能だと気付き、それをそのご婦人に説明した所、彼女に、それは昔から良く知られていて「裏編み」と呼ばれていると言われてしまった。。。(つまり、彼女は「表編み」をしていた訣です。)

大学に入ってから、教養学部の、物理や化学の参考書として「ディラック」に再び出会う訣だが、読んでみると、何とも咀嚼しづらかった。これは、勿論私が「劣等生」だったと云うこともあるだろう。何しろ、化学の、分子軌道か何かの授業中に、講師が「 "self consitent theory" は通常『自己無道着理論』と呼ばれるが、『自己満足の理論』とも呼ばれる」と云うジョークを飛ばしたのだが、化学の授業で覚えたは、そのことだけだったりするのだ。

しかし、咀嚼しづらかった別の理由の一つは、当時既に、内容が微妙に陳腐化していたせいもあったろうが (なにしろ「量子力学」ではなくて「量子力學」だからね。ただ、ディラックの名誉のために付言するなら、「量子力學」の内容あるいは表現が陳腐化したのは、ディラック自身の偉業の結果だった。彼の量子電磁気学 (Quantum Electrodynamics/QED) は、現在爆発的成長を遂げた場の量子論の鏑矢となったし、超関数論成立の主要動機の一つは、当初数学的に厳密な根拠が与えられていなかったディラックのデルタ関数の合理化だった)、やはり、大きかったのは、量子力学そのものの「分かりにくさ」(と、当然、私の頭の悪さ) だったろう。

量子論の認識論的な「異常性」はさておき (いや、実は「さておき」ではない筈なのだが、ここでは兎に角「さておき」)、何と言うか「結果オーライ」的な「論理」の進展に私は付いて行けなかったのだ。

「こんなことをしてどうして間違えないでいられるのだろう」と立ちすくむ凡人の呟きを余所に、天才は量子の世界を疾走する。

そう云う訣で、「量子力學」に挫折したのだが、それがずっと心に残っていて (まぁ、「虎馬」と云うヤツだな)、時々思い出す度に「そのうち、また挑戦してみよう」と云う呪文で、記憶の亡霊を封印してきたのだ。

しかし、最近アハラノフ・ボーム効果に就いて少し勉強した ([nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] 参照) ついでに、意を決して「量子力學」も強引に通読してみた (ただし「附録 近似的な解き方」は、読んでいない。また、「譯者の註」も必要に応じて参考しただけである)。

読後感は、「名著であることには異存はないのだけれども、やはり既に『歴史的文書』になっている」と云うものだった。

その際若干の誤植に気が付いた。そこで、以下、[ディラック 量子力學 原書第4版] (朝永振一郎・玉木英彦・木庭二郎・大塚益比古・伊藤大介共訳。岩波書店 1968年4月。ISBN-10: 4000061232 ISBN-13: 978-4000061230) の誤植に就いて纏めておく。利用したのは、私の手元にある第5刷 (1971年12月) である。ただし、単純に活字が欠落していることが明白であると思われるもの (「刷り」によって異なるだろうから、例になるかどうか分からないが、手元のものから挙げておくと p.160 の (29) 式で、指数関数の肩にかかっている式中の y が欠けていたり、p.235 の4行目の1つ目の \alpha に付くプライムは2つでなければならないのが1つになっていたりする) は、無視した。また、適宜、みすず書房刊のリプリント版原書 ("The Principles of Quantum Mechanics. 4th ed." ) を援用する。

併せて、「誤訳」と言えないまでも、翻訳として微妙な部分も纏めておいた。

一つ釈明しておくと、「誤植」・「微妙訳」の指摘と言っても、別に、原書全体と訳本を逐一対照させて検討した訣ではない。あくまでも、作業の基本は、訳本を読んでいて意味の通じないところと、そして、それに対して、私の一存で妥当と思われるような変更を並記しただけのことである。と云う訣で、見落とし・見損ないは当然あり得る。ただし、勿論、指摘した部分に就いて、原書の対応箇所に当たり「裏を取る」ぐらいのルーチンワークはしてある。その結果に就いては「備考」に記した。

岩波書店 [ディラック 量子力學 原書第4版] 正誤表
Chap.V-§31 p.165 l.14
\bra{a(q)\partialdiff{b(q)}{q_r}}\bra \bracket{{a(q)\partialdiff{b(q)}{q_r}}}
備考: 式 (41) の左辺の2番目のブラはケットにすべき。原書 p.123 l.19 from the bottom では正しく表記されている。
Chap.VI-§35 p.191 l.8 from the bottom
無限の回轉 無限小の回轉
備考: 原書 p.143, l.5 from the bottom では "infinitesimal ones". また訳文2行前では "infinitesimal rotations" の対応箇所が「無限小の回転」と訳されている。
Chap.VI-§41 p.222 l.4
\mathcal{H}_z + \hbar\sigma_z m_z + \hbar\sigma_z
備考: 原書 p.166 l.7 では正しく表記されている。
Chap.VII-§45 p.236 l.8 from the bottom
(3) (31)
備考: 式番号の間違い
Chap.VIII-§52 p.271 l.12
\absolutevalue{\bracketo{k}{V}{P^\prime\omega\chi d^\prime}} \absolutevalue{\bracketo{k}{V}{P^\prime\omega\chi\alpha^\prime}}
備考: 式(51) の最終辺の被積分関数中で \alphad と取り違えている。原書 p.203 l.10 では正しく表記されている。
Chap.VIII-§53 p.275 l.5 from the bottom
吸収の係數 (59) と, 放出の係數 (56) を 吸収の係數 (59) と放出の係數 (56) との積を
備考: 原書 p.206 ll.10-9 from the bottom では "the absorption coefficient (59) multiplied by the emission coefficient (56)" と、積を作ることが明示されている。
Chap.X-§60 p.311 l.5
\delta b_{x_r} \delta_{bx_{r}}
備考: 式 (27) 右辺中 \delta の後の b は、下付きの添字。原書 p.230 the bottom line では正しく表記されている。
Chap.X-§62 p.319 欄外
§61 §62
備考: 節番号の間違い。
Chap.XI-§69 p.352 l.3 from the bottom
-c\alpha_1 c\alpha_1
備考: マイナス記号は余計。原書 p.263 l.17 from the bottom では正しく表記されている。
Chap.XI-§69 p.353 l.5
\hbar/2mc^2 h/2mc^2
備考: \hbarh の誤り。原書 p.263 l.10 from the bottom では正しく表記されている。訳書の前2行の2か所で h であることにも注意。
Chap.XI-§73 p.364 l.4
\frac{H^\prime}{mc^2} = \left(1 + \frac{\alpha^2}{s_2}\right)^{-\frac{1}{2}} \frac{H^\prime}{mc^2} = \left(1 + \frac{\alpha^2}{s^2}\right)^{-\frac{1}{2}}
備考: s にかかる添字 2 は、下付きではなく上付き。原書 p.272 l.5 では正しく表記されている。
Chap.XI-§73 p.364 ll.5-4 from the bottom
この場合には, c_s の係數に a を掛け {c^\prime}_s の係數に a_2 を掛けて加え合わせると, この場合には, c_s の係數に a_1 を掛け {c^\prime}_s の係數に a を掛けて加え合わせると,
備考: 原書 p.272 では the first coefficient (c_s) と the second coefficient ({c^\prime}_s) に就いて "In this case we get, multiplying the first coefficient by a_1 and the second by a and adding," (ll.10-9 from the bottom) と正しく表記されている。
Chap.XII-§76 p.382 l.6 from the bottom
-(8\pi)^{-1}\mathcal{A}_r\mathcal{A}^{ss}_rd^3\mathbf{x} -(8\pi)^{-1}\int\mathcal{A}_r\mathcal{A}^{ss}_rd^3\mathbf{x}
備考: 式左辺で積分記号が抜けている。原書 p.287 l.4 では正しく表記されている。ちなみに、原書では \mathbf{x} はボールド体ではなくナミ字。他にも同様な箇所がある。少なくともこの本の範囲内では、趣味とか習慣の問題 (ともに大変重要な要素だが) であって、どちらが正しいと云うわけあいのものでもあるまい。
Chap.XII-§76 p.383 l.3
H_{FL}\!\! =\! (8\pi)^{-1}\!\!\int\!\{(U\!-\!A_0)^r(U\!+\!A_0)^r\! + (V^{rr}\!\!-\!B_0)(V^{ss}\!\!+\!B_0)\}d^3\mathbf{x}
備考: この式には、番号 (49) を付けねばならない。原書 p.287 l.12 では正しく表記されている。ちなみに、原書では \mathbf{x} はボールド体ではなくナミ字。
Chap.XII-§77 p.388 ll.13-14
光子の各状態あたり半エネルギー量子よりなる無限大の數項 光子の各状態あたり半エネルギー量子づつが寄与してなる無限大の項
備考: 原書 p.291 ll.2-1 from the bottom の "an infinite numerical term, consisting of a half-quantum of energy for each photon state." を参照。訳書のままだと、「項」が複数あるように見える。しかし、「無限大の數の項」とすると、日本語としてこなれない。ここは "numerical" を敢えて訳す必要はないだろう。
Chap.XII-§78 p.389 l.4 from the bottom
第2量子化によって, \psi は §65 の \bar{\eta} のように 第2量子化によって, \psi 等は §65 の \bar{\eta} 等のように
備考: この文章の内容には \psi, \bar{\psi}, \eta, \bar{\eta} と複数種類の関数が関わるので、そのことを明示的に示すよう「等」を付け加える必要がある。原書 p.293 ll.3-4 でも "The second quantization makes the \psi's into operators like the \bar{\eta}'s of §65," と複数形になっている。
Chap.XII-§78 p.395 ll.13-21
下記参照
Chap.XII-§79 p.399 ll.11-12
\begin{eqnarray*}&&[\kappa(\mathbf{x},x^\ast_0),\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x^\ast_0)] = [\kappa(\mathbf{x},x_0)+\epsilon v_r x_r[\kappa_{\mathbf{x}},H],\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x_0)+\epsilon v_s x^\prime_s[\lambda_{\mathbf{x}^\prime},H]] \\&&\quad =[\kappa(\mathbf{x},x_0),\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x_0)] + \epsilon v_s x^\prime_s[\kappa_{\mathbf{x}}, [\lambda_{\mathbf{x}^\prime},H]] + \epsilon v_r x_r[[\kappa_{\mathbf{x}},H], \lambda_{\mathbf{x}^\prime}]end{eqnarray*}
備考: 式 (103) の前半部分 (この引用ではスペースが少ないため折り畳んであるが、訳書ではもともとは2行に書かれいてる)。実は、数式としては誤っていない。また、原書 (p.301 ll.2-4) とも一致する。それでも式の全体の流れの統一の観点から言ったら、添え字の s は、4箇所全て r に直した方が良いだろう。実際、反交換子関係に就いての対応する式 (104) では r で統一されている。
Chap.XII-§79 p.400 ll.6-7
我々は方方で \epsilon のべきまで式を計算し, \epsilon^2 は無視してきた. 上記 \epsilon の冪式として計算した箇所においては、\epsilon^2 の項は無視された。
備考: 原書 p.301 ll.8-7 from the bottom では "At several places we worked out expressions in powers of \epsilon and neglected \epsilon^2." ここで "several" は敢えて訳す必要はあるまい。訳すにしても、「方方」などとしてはいけない。
Chap.XII-§80 p.401 l.9 from the bottom
\psi_{a{\mathbf{x}}},\ j_{0{\mathbf{x}}}] [\psi_{a{\mathbf{x}}},\ j_{0{\mathbf{x}^\prime}}]
備考: 式 (109) の左辺。原書 (p.302 the bottom line) でも同じなのだが、1つ前の式を見れば分かるように、荷電密度の添字 \mathbf{x} にはプライムを付けて \mathbf{x}^\prime にする必要がある。
Chap.XII-§81 p.406 l.7
\zeta^\ast_{\mathbf{bp}+\mathbf{k}\hbar} \zeta^\ast_{b\mathbf{p}+\mathbf{k}\hbar}
備考: 式 (120) での被積分関数中の \zeta^\ast の添え字でボールド体の \mathbf{b} は、ナミ字の b にする必要がある。原書 (p.306 l.4 from the bottom) では正しく表記されている。

[量子力學] の翻訳は、「意味を取る」と云う観点からだけ見るなら、概ね出来の良いものだ。ただ、(僅かな比較だけから判断してもうしわけないが) 訳者たちには、原文の「雰囲気」とか「ニュアンス」とかを伝えると云う努力はしなかったようだ。[量子力學]の訳文からは、訳者たちが行なったのは、原文を、単文に分解して、それぞれを直訳した後、英文を参照にしつつも、結局は和文の文脈の中で、適宜、論理的・物理的整合性に従って、訳文の文章を再構成していったと云う印象を受ける。そして、実を言うと、それで良かったので、ディラックの文章そのものが文飾に凝ったと云った類いのものではない。勿論、如何なる文章もその文化・歴史的背景を背負っているから、作者の意図に関わらず「雰囲気/ニュアンス」は発生する。しかし、ザッと見た限りでは、ディラックの文章には、「雰囲気/ニュアンス」が重要な意味を担うと云ったことはありそうもない。実際、彼自身は逸話の多い人で、そういった意味では、文学的対象になりうるのだが、その一方で、彼は文学的営為とは無縁であったらしいことが、その逸話自体から伺える (彼は、詩を書いていると云うオッペンハイマー (J. Robert Oppenheimer) に向かってこう言っている, "I do not see how a man can work on the frontiers of physics and write a poetry at the same time." 「物理学の最前線で活動する一方で、同時に詩を書けるなんて、僕には訣が分らない」)。

だから [量子力學] を「名訳」と呼ぶのは「贔屓の引き倒し」になりかねないにしても、「誤訳」らしい「誤訳」がほぼない (らしい) ことだけでも、十分優れていると言って良い。これは、訳者たちが、内容をしっかり理解していて、英文として日本語にしづらいところは、穏当な「意訳」をすることができたからだ。私が [量子力學] を読んでいて、「こう云う日本語になる英文ってあるのだろうか?」と感じて、原文を当たった所、確かに (少なくとも翻訳の非専門家にとっては) ヤヤ訳しづらいところだったと云うことが数度あった。と言うか、ある意味、[量子力學]全体が「穏当な意訳」からなっているとも言えるかもしれない。

しかし、残念ながら第 XII 章の翻訳品質は、若干落ちる。何か、翻訳に不慣れな人が訳した趣きがあるのだ。それは、自分の英文理解に自信がなく、「手探り」のまま訳しているとでも形容したら良いのかもしれない。。

例えば、XII-§78/p.394 ll.14-19 (原書 p.296 the bottom line - p.297 l.5) の反交換関係が満たすべき性質の箇条書きで "it" を「それ」と訳してしまっているため、日本語としてこなれていないが、ここは、すべて「反交換関係」を使うところだろう。

あるいはまた、XII-§76/p.380 ll.11 and 16 (原書 p.285 ll.14 and 20) で、原文の「波長が零でない波」は、「波数が零でない波」の思い違いだろうと云う正しい指摘を訳者は「譯者の註」(p.465) でしているにも関わらず、訳文では「波長」を温存しているのは、訳者が自分の物理学理解に自信がないためではなく、英語理解に自信がないことのあらわれと見てよい (もっとも「譯者の註」での説明は、大袈裟のような気がするが)。

そうした「不慣れな訳文」の中で、私が一番違和感を覚えたのは XII-§78/p.395 ll.13-21 (原書 p.297 l.8 from the bottom - p.298 l.2) だ。原文と対応させてみると、間違っているのではないのだが、もっと「普通の日本語」に訳せるだろうと云う気になる。これは、ヤヤ長いので、上記の表には纏めず、以下に、その概要を示すことにした。

まず、原文を示す:

Thus (l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)
should be invariant with K_{ab}(x, x^\prime) given by (85), and its invariance would be sufficient to ensure the invariance of the anticommutation relations. We get for (87)

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\Sigma\!\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

This is Lorentz invariant because the differential element p^{-1}_0d^3\mathbf{p} is Lorentz invariant.
--P.A.M. Dirac "The Principles of Quantum Mechanics" 4th ed. Oxford University Prerss (1958) pp.297-298 (XII-§78)

これに対する [量子力學] の訳文は:

從って (85) で與えられる K_{ab}(x, x^\prime) について

(l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)

が不變でなければならない。そして、これが不變であることが、反交換關係の不變性を保証するのに十分である. (87) として,

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p}. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

が得られる. 微分要素 p^{-1}_0d^3\mathbf{p} がローレンツ不變であるから、この式はローレンツ不變である。
--P.A.M. ディラック [ディラック 量子力學 第4版] 東京 岩波書店 (1968) 朝永振一郎・玉木英彦・木庭二郎・大塚益比古・伊藤大介共訳 p.395 ll.13-21 (第XII章第78節)

こまかい翻訳技量の難点をイチイチあげつらっても仕方がないので、私なりの訳文を示すだけにしておく:

と云う訣で (85) で表わされる K_{ab}(x, x^\prime)

(l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)

とは、不変量であるか否かが一致することなる。従って、反交換関係の不変性を証明するには (87) の不変性を証明しさえすれば良い。そこで (87) を計算すると

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p}. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

が得られるが、微分要素 p^{-1}_0d^3\mathbf{p} はローレンツ不変であるから、この式もローレンツ不変である。


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2009年3月17日 (火)

ロシア語 "вечерняя звезда" の「読み」

先程から、[вечерняя звезда 読み] や [вечерняя звезда カタカナ] と云うキーフレーズで、このサイトを何度も訪問されている方がいらっしゃるようだが、「ベチェルニャ・ズベズダ」とか「ヴェチェルニャ・ズヴェズダ」ぐらいになるんぢゃないんでしょうか (ラテン文字表記では "vechern'aya zvezda")。


まぁ、こうしたことは、いくらでも異論が出てきそうなので、正しい発音を反映した表記だと言うつもりは全くありませんけれども。


    参考になるかもしれないサイト:
  1. ズヴェズダ - Wikipedia

  2. звезда - ウィクショナリー日本語版

  3. sundown - Wiktionary

  4. YouTube - Vechern'aya Zvezda /The evening star


    関連記事:
  1. nouse: ロシア語で「宵の明星」は "вечерняя звезда"


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2009年2月22日 (日)

ロシア語で「ローズヒップ」

今日になりたてのころ (2009/02/22 00:40:18)、キーフレーズ [ロシア語で何という ローズヒップ] で、このサイトを訪問された方がいらっしゃるようだ。リモートホスト名から推察するに、ロシア在住の日本人である可能性がある。あるいは、何かお困りなのかもしれない。

勿論、私とて取り立てて詳しいわけではないのだが、簡単に調べてみる。と言っても、遣ることはこのような場合のルーチンワークを外れるものではない。

ローズヒップ写真
Плоды шиповника
собачьего (Rosa canina)

取り敢えず、日本語ウィキペディアの「ローズヒップ」の項から、ロシア語ウィキペディア "Википедия" 中の対応ページ "Шиповник" へ 飛ぶと、これは「ヨーロッパノイバラ」一般を扱った項目なのだが 、その中にローズヒップの写真が出ているので、そのキャプションから、求めるものが "Плоды шиповника" であるとスグに知れる。ここで、Плоды (果実) は男性名詞の複数主格形。шиповника (ヨーロッパノイバラ) は男系名詞の単数生格形である。

ただし、研究社露和辞典 (東京。研究社 1988年 ISBN-10: 4767490332 ISBN-13: 978-4767490335) によれば、その主格形である шиповник だけでも集合名詞としてのローズヒップを表わすらしい。


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2008年6月 5日 (木)

ロシア語で「秋」(と「冬」、「春」、「夏」)

本日昼過ぎ (2008/06/05 13:13:14)、キーフレーズ [ロシア語で秋] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。

同様なケースで、前にも書いたことがある筈だが、こう云う場合は、日本語版のウィキペディアで、問題の言葉 (今は []) の項目を開いて (なければ仕方がないが、この場合はある)、そのページ左側にある [他の言語] コラム中から、ターゲットとなる言語名 (ロシア語ならば "Русский") をクリックすると、対応ページ、つまり、今の場合はロシア語ウィキペディア中の、"Осень" に辿り着く。

このようにすれば、大抵の場合は、その項目名として、求める言葉が得られる筈。[秋] の場合も、例外ではなくて "осень" (女性名詞) が求めるものである。その証拠に、その内容を読んでみると、次のようになっている。

Осень — одно из четырёх времён года между летом и зимой. Состоит из трёх месяцев: в северном полушарии — сентября, октября и ноября, в южном — марта, апреля и мая.

В отличие от календарной, астрономическая осень наступает позже — во время осеннего равноденствия 22 или 23 сентября (в северном полушарии) или 20 или 21 марта (в южном полушарии) и продолжается до зимнего солнцестояния (21 или 22 декабря в северном полушарии, 20 или 21 июня в южном полушарии).
--Осень

秋 - 一年の四季中、夏と冬との間の季節。北半球では9月、10月、11月、南半球では3月、4月、5月の3か月からなる。

暦の上の場合とは異なり、天文学的には、秋の始まりは遅くなり、(北半球では) 9月22日又は23日、あるいは (南半球では) 3月20日又は21日の昼夜平分日に秋となり、冬至 (北半球では12月21日又は22日、南半球では6月20日又は21日) まで続く。

記載が簡単過ぎて、「季節」の文化的意味合いが不明だが、「秋」の説明以外の何ものでもあるまい。

ちなみに、ロシア語版ウィキペディアのこのページには、四季が列挙されていて、次のようになっている。

Зима | Весна | Лето | Осень

夫々、順に「冬」(女性)、「春」(女性)、「夏」(中性)、「秋」である。

余談。クアーズ (Coors) 社から "ZIMA" と云うアルコール飲料が販売されているが、これはロシア語の зима を踏まえた商標とのこと (英文版ウィキペディア "Zima" の項参照)。

ネット上で訳語を調べる同様な手段で、ウィクショナリー日本語版の該当項目を見ると言うものが有るが、[] の場合、現時点ではロシア語訳は記載されていないようだ。


英語を軸にして調べると云う手段もある。その場合、取り敢えず便利であるのが "Webster's Online Dictionary" である。この場合は、検索フォームに、例えば「秋」と入力して、"Non-English" 指定で検索すると、英訳語が現れる (元の日本語よっては現れないこともあるだろうが、その場合は諦める) から、その意味が適切であるならクリックして、該当ページを開けば、その中にターゲット言語への訳語が記載されている可能性が大きい。実際、「秋」の場合は、"Autumn" のページ中に "осень" が見いだせる。("Fall" のページ中にも "осень" が採録されているが "fall" 自体の意味が多岐に亘るので、その訳語も多種類になってしまっている。)

他にも「手管」はあるのだが、私の拙い説明で分かるような人は、もともと知っているか、あるいは私なぞが説明しなくても、自得できる人だろうから、多弁は弄すまい。

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2008年5月 6日 (火)

「ビクトリアシークレット」の ロシア語表記

先程 (2008/05/05 22:18)、このサイトに、キーフレーズ [ビクトリアシークレット ロシア語] で訪問された方がいらしたようだ。

はかばかしいことは何も知らないのだが、もし「婦人服・美容用品を扱うアメリカの企業」(ウィキペディア) "Victoria's Secret" のロシア語表記をお調べであるのなら、日本語版ウィキペディアから対応するロシア語版ページに飛べば、その冒頭に、Виктория Сикрет と書いてある。

Сикрет は "Secret" の音訳だろうが、Виктория の方も、形としては主格だから "Victoria's" のロシア語訳と云うより、やはり "Victoria" 部分のみの音を移したと見做した方が良いかもしれない。丁度日本語でも「ヴィクトリアの秘密」ではなくて、「ヴィクトリア・シークレット」と呼ばれることが多いように(もっとも、日本語版ウィキペディアでは「ヴィクトリアズ・シークレット」だが)。

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2008年3月27日 (木)

"May the Force be with you" (「フォースのともにあらんことを」) を色色な言語で言うと

このまえ、"May the Force be with you." (「フォースのともにあらんことを」) を、スウェーデン語で何と言うかと云う記事を書いた ([nouse: 「フォースのともにあらんことを 」("May the Force be with you.") をスウェーデン語で言うと] 2008年3月2日[日])。昨年は、ドイツ語で何と言うかに就いても書いてある (nouse: 「フォースのともにあらんことを 」("May the Force be with you.") をドイツ語で言うと 2007年2月23日[金])。

それぞれ、そう云う目的でこのサイトを訪問されたらしい方がいらしたために、余計なお世話を焼いたに過ぎない。

しかし、スウェーデン語とドイツ語 (そして、英語) が分かると、その他の言語では何と言うのか気になってくる。そこで、以下簡単に纏めておく。

ただし、「定訳」が存在していないこともありうるし (このような「決め文句」は、文脈上特段の理由がない限り「定訳」が採用するのが好ましい)、また少なくとも一部の印欧系の言語では第二人称の単複と、それに伴う親称・敬称 (もしあれば) の扱いが問題になるのだが、何れもほぼ考慮せず、ネットで発見してものを収集したにとどまる。

それでも、印欧系言語で第二人称単数親称を使った表現らしいものが見つかった場合は、それが最初に来るようにはした。それは "May the Force be with you" が、基本的には使命を帯びて旅立つ者への「はなむけの言葉」であるからだ ([マタイ]28:20 参照。ただし、そこでのイエスの言葉は1人ではなく11人に言われているけれど)。

引用句の最後はピリオドではなく感嘆符とする例も多多あるのだが (スペイン語では文頭にも付くこともある)、以下では一切付けていないので、適宜補って読んで戴きたい。

イタリア語: Che la Forza sia con te. / Che la Forza sia con voi. / Che la Forza sia con lei. / Che la Forza sia con loro.
スペイン語: Que la Fuerza te acompañe. / Que la Fuerza esté contigo. / Que la Fuerza os acompañe. / Que la Fuerza esté con vosotros. / Que la Fuerza esté con ustedes. / Que la Fuerza lo acompañe. / Que la Fuerza les acompañe.
フランス語: Que la Force soit avec toi. / Que la Force soit avec vous.
ポルトガル語: Que a Força esteja contigo. / Que a força esteja com você. / Que a Força esteja convosco. / Que a força esteja com vocês.

ドイツ語: Möge die Macht mit dir sein. / Möge die Macht mit euch sein. / Möge die Macht mit Ihnen sein.
オランダ語: Moge de kracht met je zijn. / Moge de kracht met jou zijn. / Moge de kracht met u zijn. / Moge de kracht met jullie zijn.

スウェーデン語: Må kraften vara med dig. / Må kraften vara med er.
デンマーク語: Må Kraften være med dig. / Må Kraften være med jer.
フィン語 (フィンランド語): Olkoon Voima kanssasi.
ハンガリー語: Az Erö Legyen Veled.

ギリシャ語: Η Δύναμη μαζί σου. / Η Δύναμη να είναι μαζί σου
ラテン語: Vis tecum sit. / Sit vis vobiscum. (2009-09-24 [木]:"nobiscum" を --vobiscum-- に訂正。)

ロシア語: Да пребудет с тобой Сила. / Да пребудет с Вами Сила.

ポーランド語: Niech Moc będzie z tobą. / Niech Moc będzie z Wami.
クロアチア語: Neka Sila bude s tobom. / Neka je Sila s tobom. / Neka Sila bude s vama. / Neka je Sila s vama.
ブルガリア語: Нека силата бъде с теб. / Нека силата бъде с вас.

中国語: 愿原力与你同在。/ 願原力與你同在。
韓国語: 포스가 함께 하기를。 / 포스가 당신과 함께 하기를 빌겠소。

トルコ語: Güç seninle olsun.

ヘブライ語では何というかに就いては調べがついていないので宿題としておこう。例えば "הכוח" "מלחמת הכוכבים" の組み合わせ (「スター・ウォーズ」と「フォース」) で検索してみたが、はかばかしい結果が得られなかった。

補足 (2008-04-30 [水]):
その後、"יהיה הכוח אתכם" で google 検索してみたところ、1件ヒットした (DEMONS: Under the Sink)。また "יהיה הכוח אתך" では1件もヒットしなかった。

2008-05-19 [月]: "יהי הכוח אתכם" でも1件ヒットする。それは、やはり "Demons: Under the Sink" 中の記事だが、別のページ (Reviews Master)である。更に、"יהי הכוח עמך" と云う言い方もありうる。これは数件ヒットするようだ。おそらく「フォースのともにあらんことを」のヘブライ語訳としては、この二つが最も「それっぽい」のではないか (文脈によっては、対象が二人称複数の形にしてもよいだろう)。

"יְהִי כֵן יְהוָה עִמָּכֶם" ([出エジプト記]10:10) が参考になるかもしれないので、ここに書き留めておく。

参考になるかもしれないサイト:
1. Force (Star Wars) - Wikipedia, the free encyclopedia
2. הכוח (מלחמת הכוכבים)

「"May the Force be with you" を色色な言語で言うと」は、「ネタ」としては平凡なものであるので、同主題で既に幾つもの記事が書かれている。そのうちの一つだけを引用しておく:
[Somewhere in the Middle: Que la Fuerza te acompane!]

このブログ記事は、[nouse: 「フォースのともにあらんことを 」("May the Force be with you.") をスウェーデン語で言うと] と [nouse: 「フォースのともにあらんことを 」("May the Force be with you.") をドイツ語で言うと] の他に次の記事にも関連する:
1. [nouse: "May the Force be with you."に就いて] (2004年8月6日[金])
2. [nouse: NIFTY翻訳フォーラム投稿再録(1997年7月3日?)] (2004年7月16日[金])

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2007年12月 6日 (木)

ロシア語で「チョコレート」

先程 (2007/12/06 10:51:11) キーフレーズ [ロシア語 チョコレート] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。あるいは、ロシア語で「チョコレート」を何と言うのがお調べなのだろうか。

たしか、[nouse: ロシアの99%カカオ・チョコレート] には、"шоколада" と云う形で、ロシア語のチョコレートに就いて言及しているのだが、これは「生格形」であって主格形ではない。

主格形を書いておくと、"шоколад" になる。

関連があるかもしれないサイトを幾つか:

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2007年11月30日 (金)

色色な言語で「宵の明星」

今日午前 (2007/11/30 10:29:20) キーワード[宵の明星 明けの明星 イタリア] でこのサイトを訪問されたかたがいらしたらしい。[nouse: 色色な言語で「明けの明星」] (2007年11月14日[水]) は作ったが、「宵の明星」の方はとサボっていたので、この機会に作っておく。

前回と同様 [LOGOS - Multilingual E-Translation Portal] の[evening star] の項と [Webster's Online Dictionary] の [Evening Star] の項を、内容未チェックのまま纏める。

英語: Evening Star
アフリカーンス語: Venus, Aandster
オランダ語: Venus, Avondster
フランス語: Vénus, l'étoile du soir
ドイツ語: Venus
ハンガリア語: Vénusz
イタリア語: Venere, la stella della sera
日本語: 宵の明星, 一つ星
マン島語: Rollage yn Astyr (Hesperus, the evening star). (various references)
Papiamento: Venus //"Papiamento" はカリブ海の所謂 ABC 諸島 で話されている言語。
偽ラテン語 (Pig Latin): eveningay arstay
ルーマニア語: luceafãrul de searã
ロシア語: вечерняя звезда
セルビア・クロアチア語: večernjača
トルコ語: venüs, akşamyıldızı, çulpan
ベトナム語: sao hôm
ユカテク・マヤ語 (Yucatec): Xnuk Ek'
ラテン語: Cytherea, Venus, vesper, vespere, vesperi, vespero, vesperum
スペイン語: la estrella vespertina
デンマーク語: Venus
フィンランド語:iltatähti
ペルシャ語: ناهيد

[nouse: サッポーの詩] にも呼格の形で出てきたが、古典ギリシャ語で「夕づつ」つまり「宵の明星」は Ἔσπερος である。

また、[nouse: 色色な言語で「明けの明星」] で触れたように、中国語では「宵の明星」は「長庚(长庚)」。これをハングル表記すると 장경 になる。

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2007年11月29日 (木)

ロシア語でヘルメス

夕方 (2007/11/29 18:03:32) キーワード [ロシア語でヘルメス] で本サイトを訪問された方がいらしたようだ。

気になって、調べてみて、私は今回初めて知ったのだが、ヘルメスに対応するロシア語は Х では始まらない Г ではじまるのだ。

Гермес と言うのだそうだ。

г を [x] と発音する例は、副詞の мягколёгко に、その例があることは承知していたが、浅学者の悲しさで、「ヘルメス」もそうだとは知らなかった。

勉強させていただいたことに感謝する次第である。

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2007年11月14日 (水)

色色な言語で「明けの明星」

昨夜、20時20分頃、キーフレーズ [イタリア語で明けの明星] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。 まぁ、"l'astro del mattino" ぐらいでしょうね。

「明星」、「明星」と、イチイチ面倒なので、纏めて書いてあるものを探したら [l'astro del mattino - Logos Dictionary - Logos Translations multilingual dictionary] と Webster's Online Dictionary の [Morning Star] と云うものが見つかった。内容未チェックのまま、それに従うと:

英語: morning star
イタリア語: l'astro del mattino
スペイン語: lucero del alba
フランス語: l'étoile du matin
ブルトン語: gwerelaouen
デンマーク語: morgenstjerne
フィンランド語: aamutähti
ラテン語: sidus matutinum //ゑびすや贅言: Lucifer で良さそうな気がするが、キリスト教文化内では、安易に使えない言葉なのだろう。
マプンズグアン語: wüñejfe
ペルシャ語: ستاره صبح
ポルトガル語: estrela da manha, estrela d'alva
ウェールズ語: seren y bore
アルバニア語: ylli i mëngjesit
ブルガリア語: зорницата
チェコ語: jitřenka
オランダ語: morgenster
エスペラント: matenstelo
ドイツ語: morgenstern
現代ギリシャ語: αυγερινόσ
ヘブライ語: עמוד השחר 参考: עמוד השחר
אילת השחר, אילת 参考:morning star | Hebrew | Dictionary & Translation by Babylon
שחר 参考: Isaiah 14:12
ברקאי 参考: Naftali Herz Imber
ハンガリア語: hajnalcsillag
インドネシア語: bintang timur
日本語: 暁星, ぎょうせい, ひとつぼし, よあけのみょうじょう, みょうじょう
マン島語: rollage ny madjin, maddinagh
偽ラテン語 (Pig Latin): orningmay arstay
ルーマニア語: luceafãrul de dimineaţã
ロシア語: утренняя звезда
セルビア・クロアチア語: zvezda danica, zornjača
スウェーデン語: morgonstjärna
トルコ語: sabah yıldızı
ベトナム語: sao mai

以上に追加すべきものとしたら、以下のようなところだろうか(こちらも、あまり自信はない):

中国語: 啓明(启明)
参考: 「太白金星_百度百科」で指摘されているように [诗·小雅·大东 (詩経/小雅/大東]) には 「东有启明 西有长庚」(诗经·小雅) と云う句がある。つまり「啓明」が「明けの明星」を「長庚」が「宵の明星」を指す。

韓国語: 샛별
参考: Paran 사전(辞典):「啓」

古典ギリシャ語: Φωσφόρος

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2007年11月10日 (土)

ロシア語で「宵の明星」は "вечерняя звезда"

本日、午前1時半頃、[ロシア語 宵の明星] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだが、目的は得られたであろうか? おそらくは、ロシア語で「宵の明星」が何と云うのかを探されていたのだろうと思う。

[和露g日記: 天文館 アーカイブ] と云うブログ (2005年10月06日) にも書かれていることだが、ロシア語で「宵の明星」は "вечерняя звезда" である。звезда が「星」(女性名詞単数主格形)、вечерняя は軟変化形容詞 "вечерний" (「夕の」)の女性形。

ちなみに、「明けの明星」は "утренняя звезда" だそうな。утренняя は、勿論「朝の」の意。基本形は "утренний" で、これも軟変化形容詞。

検索してみたら、「夕べの星」と云うシャーリー・マクレーン 主演の米国映画があるのだそうで、その原題が "The Evening Star," ロシア語タイトルが "Вечерняя звезда" とのこと。

一方 "утренняя звезда" は武器の一種の呼称して使われることがあるらしい。日本語でも、「モーニングスター」と呼ばれる由。

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2007年5月11日 (金)

マザーグース "Who killed Cock Robin?" のロシア語訳

どうやら、マザーグースの "Who killed Cock Robin?" のロシア語訳を求めてこのサイトを訪れた方がいらっしゃったようだ。私の承知するところではないので、ご期待に添えなくて申しわけないとでも言うしかない。

ただ、私も探してみた所、第一スタンザだけは、ロシア語サイト上に散見するので、ここに再録しておく。なお、"Cock Robin" に対応するのは малиновку (малиновка の対格) である。

Кто малиновку убил?


Кто малиновку убил?
Я, ответил воробей.
Лук и стрелы смастерил
И малиновку убил.

Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
With my bow and arrow,
I killed Cock Robin.
--Дмитрий Королёв (Беседы с Жоржем)
--AmoreromA (santagloria: .... заслыша голосок...)
--Новопольцев Игорь Андреевич. Обзор Бд от непредвзятого злыдня
--Город... - Клифорд Саймак (Клиффорд Саймак. Город)


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2007年4月28日 (土)

Claude Debussy (クロード・ドビュッシー) のロシア語表記に就いて

アクセス記録を見ると、[クロード・ドビュッシー] (Claude Debussy) のロシア語表記を探して、このサイトを訪問されたかたがいらっしゃるようだ。

勿論、[nouse: フランス語 "net et vif" に就いて] 中に張ったリンク "Сады под дождем (Net Et Vif) (Эстампы)" から辿ることもできるが、目的とすべき [71. Сады под дождем (Net Et Vif) (Эстампы)/(автор музыки: Клод Дебюсси)] が、ページの中に埋もれているので、お節介ながら、直接示しておくと、Claude は Клод (全部を大文字にすると КЛОД)に、Debussy は Дебюсси (全部を大文字にすると ДЕБЮССИ) に表記されている。

なお、以下のサイトも参照されると良いのではないかと思う。

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2007年1月30日 (火)

"One for all, and all for one" (「一人は万人のために、万人は一人のために」) に就いて

記事 [「一人ひとりに、それぞれの必要に応じて。一人ひとりが、その能力に応じて。」と「全員が一人ひとりのために。一人ひとりは全員のために。」] (2007年1月26日) で書いた [三銃士 (ダルタニャン物語 第一部)] ("Les Trois Mousquetaires" 1844年) に現われる "Tous pour un, un pour tous." (「全員が一人のために。一人は全員のために。」) の対応英語形は "One for all, all for one" になる。この変異例としては "One for all, and all for one" や "all for one, one for all" 或いは "All for one, and one for all" がある。日本語の「一人は万人のために、万人は一人のために」も、この系統とみなして良いだろう。

"Voyage en Icarie ([イカリア旅行記] 第3版 1845年)" 表紙における "Tous pour chacun. Chacun pour tous." (全員が一人ひとりのために。一人ひとりは全員のために。) が、どう関わるのかは、未確認。


で、取り敢えず話を日本に限ると 「一人は万人のために、万人は一人のために」(変異例:「みんなが一人のために、一人はみんなのために」)や "One for all, all for one" 等は、様ざまな組織及び個人の pet philosophy になっている:

生活協同組合 (生協)
コープこうべ
全国生協連
大学生協
農業協同組合 (農協)。 ただし「"Each for All, All for Each (一人は万人のために 万人は一人のために)"」を採用している。
JA (農協) 東京中央会
JA 全農
JA 全中
その他の協同組合
全労済
労働組合
動労千葉
自治労群馬県本部
自治労横浜
関西合同労組
全日本郵政労働組合 英文による組織紹介のタイトルが "One for all, all for one"
チーム競技
ラグビー (愛知県「岡崎ラグビースクール」)
サッカー (神戸大学体育会サッカー部)
野球 (松坂大輔)
ソフトボール (茨城県東海村「舟石川ソフトボールスポーツ少年団」)
バレーボール (Vリーグ「トヨタ自動車」チーム)
フットサル (フットサルラボ:脱初級者フットサルブログ)
ラクロス (東京女子体育大学・ラクロス部)
駅伝 (99年北大駅伝)
モダンダンス (大東文化大学モダンダンス部)
チアリーディング (福井県 WENDYS)...
バンドスタイル又はシンガーチームスタイルのタレントの features
H.P.オールスターズ: "Hello! Project" のユニット。「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」は、その楽曲名。
氣志團ちゃんブログ:ONE FOR ALL.ALL FOR ONE. (2006年4月21日)
学校/課外活動のモットー
聖ドミニコ学園小学校(東京都世田谷区)
山口県立豊北高等学校
岡山県立矢掛高校吹奏楽部
学園祭・運動会のテーマ
西九州大学福祉医療専門学校・佐賀調理製菓専門学校の合同学園祭
沖縄キリスト教学院大学・沖縄キリスト教短期大学 学生会2006キリ学祭
横浜市國學院大學幼児教育専門学校“若葉祭”
文教大学付属中学・高等学校学園祭 (東京都品川区旗の台)
神戸山手女子中学校・神戸山手女子高等学校
啓新高校(福井県)
広島県立加計高等学校
大阪産業大学
横浜市立日限山中学校
舞鶴市立城南中学校
高知県立高知追手前高等学校吾北分校
山口県立南陽工業高等学校体育祭...
成人式の標語
秋田県横手市
政治家の看板文句
豊島区議会議員 池田なおひろ (自由民主党)
衆議院議員 後藤田 正純 (自由民主党)
前・衆議院議員 田中慶秋 (民主党)
山口県下関市議会議員 長ひでたつ (公明党)
千葉県浦安市議会議員 辻田あきら
福井県議会議員 のだ富久 (県民連合)
神奈川県知事 松沢成文
長野県下伊那郡下條村議会議員 宮島きよのぶ
衆議院議員 森喜朗 (自由民主党)
ブログのタイトル
多数。無慮数百あるようだ。
個人の「好きな言葉」/「座右銘」
多数。

なにか、こう目眩いがしてくるね。

保険会社も、しばしば「一人は万人のために、万人は一人のために」を標語にする:

その根拠にしているのは、ドイツ語形の "Einer für Alle, Alle für Einen" のようだ。これは、直接にはドイツ(その後米国に移住)の保険学者 Alfred Manes によるらしいが、それが更に由来するものがあるかどうかは、私には不明。

外国での対応表現の使われ方に就いて調べてみるつもりだったが、別の機会を俟つことにする。

    参考になるかもしれないサイト:
  • One for all, and all for one - Wikipedia: 記事中、"One for all, and all for one" をモットーとする団体として具体的に挙げられているのは "Hells Angels" だけである。
  • Panthéon de Paris - Wikipedia: 2002年11月30日に Alexandre Dumas がパリ・パンテオンに改葬された際に、棺にかけられた drap bleu には "Tous pour Un, Un pour Tous " と記されていたと云う (Alexandre Dumas, samedi 30 novembre 2002)。
  • Rugby School Internet Services: rugby football が始まったとされるイングランドの public school "Rugby School" のサイト。"one for all" や "all for one" に就いて特記している様子は見られない。「学校新聞」である "The Grapevine" 2006年2月号に "This term has been a pretty amazing one for all the badminton squads,..." とあるが、これは「今期は、バドミントンチームの全てが素晴らしい成績を残した」と云うこと。
  • Rugby Football Union: 英国ラグビーフットボール協会のサイト。"one for all" や "all for one" に就いて特記している様子は見られない。
  • RugbyRugby: Latest News: ラグビーフットボールの専門サイト中の記事。"one for all and all for one" と云うスローガンに就いての言及がある。
  • Unus pro omnibus, omnes pro uno - Wikipedia: ラテン語。非公式ながらもスイスの伝統的モットー。
  • Trivia for The Truman Show (1998) によれば、映画 "The Truman Show" (1998年) には、"UNUS PRO OMNIBUS, OMNES PRO UNO" が町のモットーとして登場する。この映画は、1967年のイギリステレビドラマシリーズ "The Prisoner" (「プリズナーNo.6」) を意識している。
  • Solidarität im Verfassungsstaat:「立憲国家における団結」"Einer für Alle, Alle für Einen" や Alfred Manes の話が出てくる。副題: "Grundzüge einer normativen Theorie der Verteilun" は「分配の標準理論の基本的特徴」と言ったところか。
  • 集団主義 - Wikipedia 曰わく: 「One for All , All for One」(1人はみんなのために、みんなは1人のために)というスローガンは、個人主義的な成員に、心理的に集団と一体化しよう、と呼びかける理念・イデオロギーで、1844年にイギリスで生活協同組合運動が発足したときに考案されたもの。これを西欧的集団主義と把握する考え方がある。北朝鮮はこのスローガンを愛用し、全体主義批判に対し、自国は集団主義であると反論する。
  • 朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法: 第5章 [公民の基本権利及び義務] 第63条 朝鮮民主主義人民共和国において公民の権利及び義務は、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」という集団主義原則に基づく。
  • Rochdale - Wikipedia: イングランド西北部の都市。協同組合運動 (cooperative) 発祥の地。
  • Rochdale Principles - Wikipedia: 初期協同組合運動の原則。"one for all, all for one." に類する箇条は見当たらない。
  • Statement on the Co-operative Identity - Wikipedia: "International Co-operative Alliance" (ICA 国際協同組合同盟) による協同組合運動宣言。

ついでに書いておくと "one for all, all for one." 及び "one for all, and all for one." に対応するロシア語表現は,それぞれ "Один за всех, все за одного." 及び "Один за всех и все за одного." また、イタリア語形は "Uno per tutti, tutti per uno." 及び "Uno per tutti e tutti per uno."

"Один за всех" "все за одного" が、Сергей Михайлович Эйзенштейн (セルゲイ・エイゼンシュテイン)の 映画 "Броненосец Потёмкин" (「戦艦ポチョムキン」)に出てくるらしいが、未確認(ただし "Battleship Potemkin: Scenario and script by Sergei Eisenstein" 参照)。

"One for all, all for one." は、「ユートピア/革命の昂揚」の指標であるのと同時に、「ディストピア/革命の幻滅」隠蔽の指標でもあると言うべきか。

いみじくも、アレクサンドル・デュマ・ペール (Alexandre Dumas) は、このあたりの機微を、アトスとアラミスに「手を差し出して誓え!」と迫られたポルトスが、「ブツブツ口ごもりながらも、周りの勢いに気圧されて」(Vaincu par l'exemple, maugréant tout bas)、ダルタニャンとの四人で「全員が一人のために、一人は全員のために」と唱和したと、書いていることを忘れるべきではないだろう( [ダルタニャン物語 第一部「三銃士」"Les Trois Mousquetaires"] 第9章)。


    最後に、各国語おける問題の標語を改めてまとめておこう(主な変異例がある場合には、それも付ける):
  • フランス語: "Tous pour un, un pour tous."

  • 英語: "One for all, all for one." ("One for all, and all for one." )

  • ドイツ語: "Einer für Alle, Alle für Einen"

  • 日本語: 「一人は万人のために、万人は一人のために。」(「みんなは一人のために、一人はみんなのために。」)

  • イタリア語: "Uno per tutti, tutti per uno." ("Uno per tutti e tutti per uno.")

  • ラテン語: "Unus pro omnibus, omnes pro uno"

  • ロシア語: "Один за всех, все за одного." ("Один за всех и все за одного.")


    補足
  • スペイン語: "uno para todo, todo para uno." ("uno para todo y todo para uno.")

  • オランダ語: "Een voor allen, allen voor een." ("een voor allen en allen voor een.")

  • ポルトガル語: "um para todos, todos para um." ("um para todos e todos para um.")

  • 中国語形: "我為人人,人人為我" らしい。(中国語ウィキペディアのスイスの項 "瑞士" による。) "one" には「我」、"all" には「人人」が当てられているのが興味深い。

  • ハングル: "전체는 하나를 위해, 하나는 전체를 위해" 「チョンチェヌン ハナルル ウィフィェ, ハナヌン チョンチェルル ウィフィェ」か? (ハングル版ウィキペディアのスイスの項 "스위스" による。"전체"「チョンチェ」は「全体」の意、"는"「ヌン」は主題を表わす格助詞、"하나"「ハナ」は数詞「一」、"를"「ルル」は目的格助詞、"위해"「ウィフィェ」は目的を表わす用言「為である」。)


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2007年1月19日 (金)

ロシアの99%カカオ・チョコレート

先日、ロシアの99%カカオ・チョコレートを食べたら意外とおいしかった。「意外と」などと言っては、申しわけないかもしれないが、外国製のチョコレートは期待ハズレのことが多いのだ(私は、いわゆる「99%カカオ・チョコレート」を好むので、「おいしかった」は、ある程度割り引いて受けとってもらった方が良いかもしれない)。

ВЕРНОСТЬ КАЧЕСТВУ (Vernost Kachestvu) と云う会社の製品だが、商品名は、私には分からない。箱の表に "Шесть плиток горького шоколада" と書いてあるが、これはビターチョコレート6枚入りと云うことだから、商品名ではあるまい。箱の後ろににも説明が印刷されているが、輸入業者(エイム)がしっかり貼り付けたラベルに隠れて見えなかった(剥がすのは面倒くさい)。もっとも、エイムが付けている品名が「ロシアンダーク99」と云う一般的なものだから、やはり取り立てた商品名はないと思しい。

社名の ВЕРНОСТЬ КАЧЕСТВУ は「品質への忠誠」ぐらい意味だろうか。ロゴは、槍を持った鞍上の騎士で、楯に ВК とある。

ネットを探してみたら、すでに記事が相当数ある。写真も示されているので、そちらを見た方が早かろう:

皆さんが公表している写真を見ると、パッケージには2種類あることがわかる。私が買ったのは最後に (99% КАКАО) と書かれているものだ。そして、内容を拝見すると、ごく少数を除いて、圧倒的に評判が芳しくない。私は結構旨いと思うのだが...

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2006年12月14日 (木)

フランス語 "net et vif" に就いて

このサイト (nouse) のアクセス解析を見ていたら、[フランス語 net et vif] と云う検索フレーズで、来られた方がいらっしゃる。net, et, vif の3語は、一語一語としては、どれも極めて初歩的なフランス語だが、フレーズとして特別の意味があるかどうか、全く想像がつかなかった。大修館の [新スタンダード仏和辞典] にも、それらしいものは載っていない。うーむ。

ついネットで調べてしまった。フレーズとしてダブルクオートが付いた "net et vif" で google 検索してみると、(数え方にもよるが) 150 件ぐらいのサイトがヒットするのだが、多くは Claude Debussy (クロード・ドビュッシー) のピアノ曲集 Estampes (版画) 中の3曲目 Jardins sous la pluie (雨の庭) に付随する形で見いだされる。

さらに "Jardins sous la pluie" を避けて検索しても、40件ほどヒットするが、その中には、綴り間違い (日本のサイト Estampes: III. Jadins Sous La Pluie. Net et vif で間違えているのはともかく、フランス・アマゾンのサイト Estampes: Jardin Sous La Pluire (Net Et Vif) で間違えているのを見るのは、少し残念。フランスのアマゾンに引きずられてか、ドイツのアマゾンも間違えているし...) やロシア語形 Сады под дождем (Net Et Vif) (Эстампы) もあるので、"Jardins sous la pluie" の割合は、見かけより大きい。

つまり、"net et vif" は、取り敢えずは、ドビュッシーがピアノ曲 [雨の庭] に付けた、曲想指定と云うことになる。定訳があるかもしれないが、あえてここで翻訳するとなると、「鮮明かつ素ばやく」とか「鮮明かつ快活に」ぐらいだろうか。

ただ、ネット上にあった midi 音源で "Jardins sous la pluie" を聴いてみたが、窓越しに庭に落ちている雨脚を恨めしげに眺めている情景が浮かんでくるから、私としては「快活」とは言いにくい。それどころか、速めの演奏では、驟雨に降り籠められた感じで、軽い圧迫感すらある(最後になって、雨は小振りになり、空が明るくなる印象なんだが)。

これに関連して書いておくと、ウィキペディアの [映像 (音楽)] の項によれば、この曲は『いやな天気だから「もう森には行かない」の諸相(Quelques aspects de “Nous n'iron plus au bois” parce qu'il fait un temps insupportable)』を改作したものだと云う。なるほどね。

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