カテゴリー「物理学」の58件の記事

本ブログ記事[等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」(2008年3月24日 [月])] 補足。あるいは、アインシュタインの「奇妙な結論」

本ブログの記事、[等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」] (2008年3月24日 [月]) に於いて、私は、表題その通りに、「等角速度円運動の旅行者」における「双子のパラドクス」を論じた。

実は、この時、私は重大な失態をしていた。それは、『等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」』の現象そのもの (当時としては、正確には、「現象の可能性」だが) は、「円」のみならず「一般の閉曲線上を等速度で移動させられる時計」の場合に就いて、アインシュタインが、"Zur Elektrodynamik bewegter Körper. In: Annalen der Physik und Chemie. 17, 1905, S.891–921" (「移動中の物体の電気力学」) で指摘していたのを言及しなかったのだ (ちなみに "bewegt" は、「運動する」と云う語感より「移動させられる」と云う語感だと思う)。

問題の箇所は、原論文では、第904頁第16行目 (式を含む) から第905頁第5行目である。岩波文庫「アインシュタイン・相対性理論」では第35頁下から2行目から第37頁第2行、ちくま学芸文庫「アインシュタイン論文選」では、第270頁下から4行目から第271頁第18行に相当する。

それも、言及するのを「失念していた」と云うレベルではなく、当の論文の該当箇所を漫然と読み流してしまったか、あるいは、もっと酷いことには、既知感覚に流されて、読み飛ばしてしまった (つまり、読まなかった) 可能性が高い。振り返ってみると、私は、アインシュタインの論文をどれ一つとして精読した記憶がない (この原稿を書いている時点での話である)。

私の告白を俟たないでも、「そんなことは気づいていた」と云う方々も多いだろうから、これ以上、結局弁解にしかならない懺悔話をするのは控えるが、そのこととは独立して、私にとって興味深い事実は、この「双子のパラドクス」を記述するに当たって、アインシュタインは、

Hieraus ergibt sich folgende eigentümliche Konsequenz.
--"Zur Elektrodynamik bewegter Körper" 第904頁第16行目
上に述べたことから, ここに次のような奇妙な結果が導かれる。
--岩波文庫「アインシュタイン・相対性理論」第35頁下から2行目
と云う一文で始めていることだ (ただし、この場合 "Konsequenz" は「結果」よりも「結論」の方が良いだろう)。

言うまでもないだろうが、"Zur Elektrodynamik bewegter Körper" (1905年) は、特殊相対論の第一論文であり、主論文である。しかし、「双子のパラドクス」は、一般相対論の相の下で解釈すべき現象であって、その一般相対論の完成と発表 は、10年程後のことになる。当然、アインシュタインは、と言うか、世界中の誰もが、一般相対論を知らなかった。従って、『「双子のパラドクス」は「加速度の発生に対応する重力ポテンシャルの差に従う固有時の進み方の違い」に起因する』と云う「正解」(知の大きな整合的体系の中の一齣としての描像) とは無縁であった。

それでも、アインシュタインは、後に「双子のパラドクス」と呼ばれるようになる現象が、「一般の閉曲線上を等速度で移動させられる時計」において発生する筈であることを正しく予言し、しかも、同時に、それが「奇妙な (eigentümlich)」ことだと感じている。「双子のパラドクス」が、特殊相対論の枠組みに収まり切れないものであることを感じ取っていたのだろう。

私には、ここで、後に一般相対論の創設に至るアインシュタインの物理的直観の凄みを見るべきか、あるいは、その逆に、アインシュタインが作り上げたばかりの特殊相対論の理論としての「筋の良さ」(極めて有効だが、自らの限界が何処にあるのかが明確になっている) を感じるべきか、到底判断がつかない。凡人としては「まぁ、両方なんでしょうね」とごまかすしかあるまい。

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メモ: H.フランダース「微分形式の理論」第X章 問題7「サンヴナンの適合条件」(p.234) の前提に就いて。付け足し: 第X章 問題2 及び 問題3 (p.233) に就いての個人的述懐

以前、H.フランダース著「微分形式の理論」(1967年岩波書店刊。訳: 岩堀長慶) を通読したことがある。

著者自身が [まえがき] で認めているように、本書は、「微分形式」と云う「非常に偉大な力をもった新しい道具を, 工学者や物理学者のお役に立て」(p.vi) ることを主目的としている (「本書の材料を数学科の大学院学生に, 現代微分幾何学への入門として推薦することを躊躇はしない」(p.vii)とも豪語しているが・・・)。

原著発行 (1963年) から、半世紀以上経過しているため、的外れな評価になる可能性が高いことを認めつつも、それを棚上げして言うなら、本書の利点と、読んでいて感じる「歯がゆさ」とは、両方とも、この点に集約されるといってよいだろう。

ただし、「無いものねだり」を諦めるなら、微分形式の具体的利用の見本帖として充分に「お役に立つ」。

理論物理・数学の著作ではありがちなことだが、校正ミスが目立つ (著者・訳者又はその補助者が、よほど気を入れないと、これは防げまい。また、理論物理・数学の著作は、「他人の目」で見ると、校正ミスや計算の誤りが、かなり明瞭に分かる、と云う側面もある)。

本書では、p.168 の下から6行目に於けるように、「楕円的」とすべきところを「随円的」とするような「惜しいね!」とでも言うしかない校正ミスばかりでなく、数式内部でのミスも二・三にとどまらないので (原書由来かもしれないが、未確認)、まとめた方が良いのだろうが、そこまで時間をかけることをあるまいと云う気が頻りにするするのでやめておく。

一応、原書 H. Flanders "Differential Forms with Applications to the Physical Sciences" (Dover, 1989) の [Google ブックス] のページのリンクを貼っておく。

ただし、校正ミスのチェックには向いていないように見えるので、それ以上のことことはしないでおく。

それよりも、本題である p.234 の [問題X-7] に急ごう。問題文は次のとおりである。

7. $a_{ij}$ 達を $x^{1},x^{2},\cdots,x^{n}$$n^{2}$ 個の函数とする. このとき積分可能条件

\[
\partialsecondmixed{a_{ij}}{x^{k}}{x^{l}} - \partialsecondmixed{a_{ik}}{x^{j}}{x^{l}} =
\partialsecondmixed{a_{lj}}{x^{k}}{x^{i}} - \partialsecondmixed{a_{lk}}{x^{j}}{x^{i}}
\]
が, 函数 $u_{1},\cdots,u_{n}$ が存在して
\[
 a_{ij} = \inverse{2}\left(\pdiff{u_{i}}{x^{j}}+\pdiff{u_{j}}{x^{i}}\right)
\]
を満たすための必要十分条件であることを証明せよ. $n=3$ および $n=2$ の場合を調べよ. (Saint-Venant による. Love[18], 49頁参照.)

ちなみに、この Love[18] の、[Google ブックス] は "A Treatise on the Mathematical Theory of Elasticity - A. E. H. Love - Google ブックス" で見られる。

必要条件になっていることを示すのは容易である。単に 下の式の添え字を適宜変更して、上の式の各項に代入するなら、左辺は

\begin{align*}
 \partialsecondmixed{a_{ij}}{x^{k}}{x^{l}} - \partialsecondmixed{a_{ik}}{x^{j}}{x^{l}} &=
\inverse{2}\left(\cancelto{A}{\partialthirdmixed{u_{i}}{x^{k}}{x^{l}}{x^{j}}} - \partialthirdmixed{u_{j}}{x^{k}}{x^{l}}{x^{i}}\right) -
\inverse{2}\left(\cancelto{A}{\partialthirdmixed{u_{i}}{x^{j}}{x^{l}}{x^{k}}} - \partialthirdmixed{u_{k}}{x^{j}}{x^{l}}{x^{i}}\right)\\
&= - \inverse{2}\left(\partialthirdmixed{u_{j}}{x^{k}}{x^{l}}{x^{i}} - \partialthirdmixed{u_{k}}{x^{j}}{x^{l}}{x^{i}}\right)
\end{align*}

右辺は

\begin{align*}
 \partialsecondmixed{a_{lj}}{x^{k}}{x^{i}} - \partialsecondmixed{a_{lk}}{x^{j}}{x^{i}} &=
\inverse{2}\left(\cancelto{B}{\partialthirdmixed{u_{l}}{x^{k}}{x^{i}}{x^{j}}} - \partialthirdmixed{u_{j}}{x^{k}}{x^{i}}{x^{l}}\right) -
\inverse{2}\left(\cancelto{B}{\partialthirdmixed{u_{l}}{x^{j}}{x^{i}}{x^{k}}} - \partialthirdmixed{u_{k}}{x^{j}}{x^{i}}{x^{l}}\right)\\
&= - \inverse{2}\left(\partialthirdmixed{u_{j}}{x^{k}}{x^{i}}{x^{l}} - \partialthirdmixed{u_{k}}{x^{j}}{x^{i}}{x^{l}}\right)
\end{align*}
となるから (ストライクスルーして同じ文字 $A$ 又は $B$ が付されている項は、相殺する)、両辺は等しい。

しかし、十分条件の方を確認しようとして、私は行き詰まってしまった。何が原因かは、明瞭だった。函数 $a_{ij}$ が添え字に就いて対称、つまり、$a_{ij}=a_{ji}$ であることが使えないと、式の変形が前進しないのだ。

$a_{ij}$ が添え字に就いて対称であるのは、第2の表式を見れば明らかだ。しかし、原状の設問では、第1の式から、$a_{ij}$ の添え字に就いての対称性も導出することを要求していることになる。しばらく途方に暮れましたね。

上記 [Google ブックス] の Love の本の、 該当箇所を読んでみたけれど、どうもピンとこなかったのだが、もし $a_{ij}$ に対応するのが、歪テンソルだとすると、これが添え字に対して対称なのは、物理的な与件として前提に含まれるとして良い。

そこで、今度は "Saint-Venant" を google にかけて、ネットを右往左往していくと、結局、次のページが見つかった。

Saint-Venant's compatibility condition - Wikipedia (last modified on 23 February 2015, at 19:08.)

そこに曰く、

For a symmetric rank 2 tensor field $F$ in n-dimensional Euclidean space the integrability condition takes the form of the vanishing of the Saint-Venant's tensor $W(F)$ defined by

\[
W_{ijkl} = \frac{\partial^2 F_{ij}}{\partial x_k \partial x_l} + 
\frac{\partial^2 F_{kl}}{\partial x_i \partial x_j} - \frac{\partial^2 F_{il}}{\partial x_j \partial x_k} -\frac{\partial^2 F_{jk}}{\partial x_i \partial x_l}
\]

The result that, on a simply connected domain $W=0$ implies that strain is the symmetric derivative of some vector field, was first described by Barré de Saint-Venant in 1864 and proved rigorously by Beltrami in 1886.

n 次元ユークリッド空間における対称2階テンソル場 $F$ に対する積分可能条件は

\[
W_{ijkl} = \frac{\partial^2 F_{ij}}{\partial x_k \partial x_l} + 
\frac{\partial^2 F_{kl}}{\partial x_i \partial x_j} - \frac{\partial^2 F_{il}}{\partial x_j \partial x_k} -\frac{\partial^2 F_{jk}}{\partial x_i \partial x_l}
\]
で定義されるサンヴナン・テンソル $W(F)$ が消えると云う形で言い表される。

この結果は、単連結領域上で $W=0$ が成立しているなら、歪は、何らかのベクトル場の対称微分となっていることを意味するものであるが、1864年にバレ・ド・サンヴナンにより言及され、そして、1886年になって、ベルトラミにより厳密に証明された。

これを見ても、$a_{ij}$ が添え字に就いて対称であることを、前提として含めるべきことが分かるから、以下、これに従って、「十分条件」部分の確認をすることにする。

そこで

\[
 \omega_{jk} := \sum_{i}\left(\pdiff{a_{ij}}{x^{k}}-\pdiff{a_{ik}}{x^{j}}\right)dx^{i}
\]
と云う 1 形式を考える。

この $\omega_{jk}$ が添え字に就いて反対称 (つまり $\omega_{jk}+\omega_{kj}=0$ である) ことに注意。

すると、まさに上記第1の式により

\[
 d\omega_{jk} = \inverse{2}\sum_{i,l}\left\{\pdiff{}{x^{l}}\left(\pdiff{a_{ij}}{x^{k}}-\pdiff{a_{ik}}{x^{j}}\right) - \pdiff{}{x^{i}}\left(\pdiff{a_{lj}}{x^{k}}-\pdiff{a_{lk}}{x^{j}}\right)\right\}dx^{l}{\wedge}dx^{i} = 0
\]
となる。従って、ポアンカレの補題の逆命題 (本書では pp.34-37 特に p.37 を参照) により、ある 0 形式、つまり、函数 $f_{jk}$ が存在して
\[
 \omega_{jk} = df_{jk}
\]
が成立する。

\[
 d(f_{jk}+f_{kj}) = df_{jk}+df_{kj} = \omega_{jk}+\omega_{kj}=0
\]
だから $\displaystyle{f_{jk}+f_{kj}}$ は定数になる。それを $\displaystyle{c_{jk}}$ と表すことにする。

もし $\displaystyle{c_{jk} \neq 0}$ であったなら、$\displaystyle{f_{jk}-\inverse{2}c_{jk},f_{kj}-\inverse{2}{c}_{jk}}$ を、それぞれ改めて $f_{jk},f_{kj}$ と置くことで、

\[
 f_{jk}+f_{kj}=0
\]
が成り立っているとして良い。つまり、$f_{jk}$ は、添え字に就いて反対称だとすることができる。

ここで 1形式

\[
 p_{i} :=\sum_{j}(a_{ij}+f_{ij})dx^{j}
\]
を考えると
\begin{align*}
 dp_{i} &=\sum_{j}(da_{ij}{\wedge}dx^{j} + df_{ij}{\wedge}dx^{j})\\
        &=\sum_{j}\left(da_{ij}{\wedge}dx^{j} + \omega_{ij}{\wedge}dx^{j}\right)\\
        &=\sum_{l,j}\left(\pdiff{a_{ij}}{x^{l}}dx^{l}{\wedge}dx^{j} + \left(\pdiff{a_{li}}{x^{j}}-\pdiff{a_{lj}}{x^{i}}\right)dx^{l}{\wedge}dx^{j}\right)\\
        &=\sum_{l,j}\left(\pdiff{a_{il}}{x^{j}}dx^{j}{\wedge}dx^{l} + \left(\pdiff{a_{li}}{x^{j}}-\pdiff{a_{lj}}{x^{i}}\right)dx^{l}{\wedge}dx^{j}\right)\\
        &=\sum_{l,j}\left(\xcancel{-\pdiff{a_{il}}{x^{j}} + \pdiff{a_{li}}{x^{j}}}\right)dx^{l}{\wedge}dx^{j} - \inverse{2}\sum_{l,j}\left(\xcancel{\pdiff{a_{lj}}{x^{i}}-\pdiff{a_{jl}}{x^{i}}}\right)dx^{l}{\wedge}dx^{j}\\
        &=0
\end{align*}

再び、ポアンカレの補題の逆命題により、ある函数 $u^{i}$ が存在して

\[
 p_{i} = du_{i} = \sum_{j}\pdiff{u^{i}}{x^{j}}dx^{j}
\]
が成り立つ。つまり
\[
 \sum_{j}(a_{ij}+f_{ij})dx^{j} = \sum_{j}\pdiff{u^{i}}{x^{j}}dx^{j}
\]
と云うことだから、全ての $i,j$ の組み合わせに対して
\[
 a_{ij}+f_{ij} = \pdiff{u^{i}}{x^{j}}
\]
が言える。ここで、$i$$j$ とを交換すると
\[
 a_{ji}+f_{ji} = \pdiff{u^{j}}{x^{i}}
\]

ここで辺々足し合わせると、添え字に就いて $a_{ij}$ が対称、$f_{ij}$ が反対称だから

\[
 2a_{ij} = \pdiff{u^{i}}{x^{j}} + \pdiff{u^{j}}{x^{i}}
\]
つまり
\[
 a_{ij} = \inverse{2}\left(\pdiff{u^{i}}{x^{j}} + \pdiff{u^{j}}{x^{i}}\right)
\]
が得られる。

p.233 の [問題X-3] 及び [問題X-2] に就いても書いておきたいことがある。

その p.233 の [問題X-3] とは、

さて, これらのことを Lie のブラケットと関係づける次の公式を証明せよ.
\[
 (d\sigma, \mathrm{v}{\wedge}\mathrm{w}) + (\sigma,[\mathrm{v},\mathrm{w}]) = \mathrm{v}{(\sigma,\mathrm{w})} - \mathrm{w}{(\sigma,\mathrm{v})}
\]
と云うものだ。

今回、この原稿を書くに際して、関連個所を読み直そうとしている途中、たまたま、以前通読した際この問題の一つ前 [問題X-2] の題意を誤解してており、その誤解の混乱の中で、[問題X-3] に就いても計算間違い (正当な根拠のない式の変形) をしていたことに気が付いたからだ。

負け惜しみを言うなら、今でも、 [問題X-2] の題意は、曖昧だと思う。[問題X-2] は、2つの 1形式 $\displaystyle{\sigma_{1}}$$\displaystyle{\sigma_{2}}$ との外積 $\displaystyle{\sigma_{1}{\wedge}\sigma_{2}}$ と、2つのベクトル場 $\displaystyle{\mathrm{v}_{1}}$$\displaystyle{\mathrm{v}_{2}}$ との外積 $\displaystyle{\mathrm{v}_{1}{\wedge}\mathrm{v}_{2}}$ との間の「内積」(「微分形式の理論」で用いられている用語) $\displaystyle{(\sigma_{1}{\wedge}\sigma_{2},\mathrm{v}_{1}{\wedge}\mathrm{v}_{2})}$

\[
 (\sigma_{1}{\wedge}\sigma_{2},\mathrm{v}_{1}{\wedge}\mathrm{v}_{2}) = 
\begin{vmatrix}
 (\sigma_{1},\mathrm{v}_{1}) & (\sigma_{1},\mathrm{v}_{2}) \\
 (\sigma_{2},\mathrm{v}_{1}) & (\sigma_{2},\mathrm{v}_{2}) 
\end{vmatrix}
\]
で「与えられることを示せ」と云うものだが、この設問の意図するところが、「内積」が、この式により well-defined (つまり、右辺が、局所座標系の取り方によらない) であると云うことなのか、それとも、本書では [問題X-1] (p.232-233) でようやく明示されたベクトル場と 1形式との双対性の延長から構成される、2ベクトルと2形式の双対の1性質としての表式なのか、捕えがたいものがある。

まぁ、いづれにしろ、計算間違いをする言い訣にはならないのは分かっている。

自戒を込めて、[問題X-3] の解として、今回行った計算内容を示しておく。

ほぼ機械的な計算で済むが、その前に背景を説明しておくと $\sigma$ は 1形式、$\mathrm{v},\mathrm{w}$ はベクトル場 (1ベクトル場) である。

従って、(本稿においてすでに利用されている記号を含めて、改めて明示的に定義すると) n次元多様体の、任意の一点に着目して、その局所座標系が $\displaystyle{(x^{i})_{1\leq{i}\leq{n}}}$ で表されるとする。これに対応する接ベクトル空間の基底を $\displaystyle{(\partial{}/\partial{x^{i}})_{1\leq{i}\leq{n}}}$ (以下、これを $\displaystyle{(\partial_{i})_{1\leq{i}\leq{n}}}$ と書くことにする) 、その余接ベクトル空間 (1形式のなす線形空間) における双対基底を $\displaystyle{(dx^{i})_{1\leq{i}\leq{n}}}$ とすると、次の関係式を満たす、多様体上の函数 $\displaystyle{\{s_{i}\}_{1\leq{i}\leq{n}},\{v^{i}\}_{1\leq{i}\leq{n}},\{w^{i}\}_{1\leq{i}\leq{n}}}$ が存在する。

\[
 \sigma \equiv \sum_{i}s_{i}dx^{i}, \mathrm{v} \equiv \sum_{i}v^{i}\partial_{i}, \mathrm{w} \equiv \sum_{i}w^{i}\partial_{i}
\]

さらにここで、[問題X-3] がらみで [問題X-2] の結果の肝心な点を言っておくと ($\displaystyle{\delta}$ は勿論クロネッカーのデルタ)、

\[
 \left(dx^{l}{\wedge}dx^{m}, \partial_{j}{\wedge}\partial_{k}\right) =
\begin{vmatrix}
 \partial_{j}x^{l} & \partial_{k}x^{l} \\
 \partial_{j}x^{m} & \partial_{k}x^{m} 
\end{vmatrix} =
\begin{vmatrix}
 \delta_{j}^{l} & \delta_{k}^{l} \\
 \delta_{j}^{m} & \delta_{k}^{m} 
\end{vmatrix}
= \delta^{l}_{j}\delta^{m}_{k}-\delta^{l}_{k}\delta^{m}_{j}
\]

これが、後出の計算中で、用いられているのである。

さて [問題X-3] の式の左辺 $\displaystyle{(d\sigma, \mathrm{v}{\wedge}\mathrm{w}) + (\sigma,[\mathrm{v},\mathrm{w}])}$ に上記の $\displaystyle{\sigma, \mathrm{v}, \mathrm{w}}$ の表式を代入すると

\begin{align*}
 (d\sigma, &\mathrm{v}{\wedge}\mathrm{w}) + (\sigma,[\mathrm{v},\mathrm{w}]) \\
           &= \left(d\left(\sum_{i}s_{i}dx^{i}\right),\left(\sum_{j}v^{j}\partial_{j}\right)\wedge\left(\sum_{k}w^{k}\partial_{k}\right)\right) 
              + \left(\sum_{i}s_{i}dx^{i},\left[\sum_{j}v^{j}\partial_{j},\sum_{k}w^{k}\partial_{k}\right]\right) \\
           &= \left(\inverse{2}\sum_{l,m}\left(\partial_{l}s_{m}-\partial_{m}s_{l}\right)dx^{l}{\wedge}dx^{m}, \inverse{2}\sum_{j,k}\left(v^{j}w^{k}-v^{k}w^{j}\right)\partial_{j}{\wedge}\partial_{k}\right)\\
           &\qquad + \left(\sum_{i}s_{i}dx^{i},\sum_{j,k}\left(v^{j}(\partial_{j}w^{k})-w^{j}(\partial_{j}v^{k})\right)\partial_{k}\right)\\
           &= \inverse{4}\sum_{j,k,l,m}\left(\partial_{l}s_{m}-\partial_{m}s_{l}\right)\left(v^{j}w^{k}-v^{k}w^{j}\right)\left(dx^{l}{\wedge}dx^{m}, \partial_{j}{\wedge}\partial_{k}\right)\\
           &\qquad + \sum_{i,j,k}s_{i}\left(v^{j}(\partial_{j}w^{k})-w^{j}(\partial_{j}v^{k})\right)\left(dx^{i},\partial_{k}\right)\\
\end{align*}

ここが問題の箇所である。これが次のように変形される。
\begin{align*}
           = \inverse{4}\sum_{j,k,l,m}\left(\partial_{l}s_{m}-\partial_{m}s_{l}\right)\left(v^{j}w^{k}-v^{k}w^{j}\right)(\delta^{l}_{j}\delta^{m}_{k}-\delta^{l}_{k}\delta^{m}_{j})\\
           \qquad + \sum_{i,j,k}s_{i}\left(v^{j}(\partial_{j}w^{k})-w^{j}(\partial_{j}v^{k})\right)\delta^{i}_{k}\\
\end{align*}

更に計算を進めると。。。

\begin{align*}
           &= \inverse{4}\sum_{j,k}\left\{\left(\partial_{j}s_{k}-\partial_{k}s_{j}\right)-\left(\partial_{k}s_{j}-\partial_{j}s_{k}\right)\right\}\left(v^{j}w^{k}-v^{k}w^{j}\right)\\
           &\qquad + \sum_{i,j}s_{i}\left(v^{j}(\partial_{j}w^{i})-w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \inverse{2}\sum_{j,k}\left(\partial_{j}s_{k}-\partial_{k}s_{j}\right)\left(v^{j}w^{k}-v^{k}w^{j}\right) + \sum_{i,j}\left(s_{i}v^{j}(\partial_{j}w^{i})-s_{i}w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
%           &= \sum_{i,j}\left(\partial_{j}s_{i}\right)\left(v^{j}w^{i}-v^{i}w^{j}\right) + \sum_{i,j}\left(s_{i}v^{j}(\partial_{j}w^{i})-s_{i}w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \sum_{i,j}\left(\partial_{j}s_{i}\right)\left(v^{j}w^{i}-v^{i}w^{j}\right) + \sum_{i,j}\left(s_{i}v^{j}(\partial_{j}w^{i})-s_{i}w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \sum_{i,j}\left((\partial_{j}s_{i})v^{j}w^{i}-(\partial_{j}s_{i})v^{i}w^{j}\right) + \sum_{i,j}\left(s_{i}v^{j}(\partial_{j}w^{i})-s_{i}w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \sum_{i,j}\left((\partial_{j}s_{i})v^{j}w^{i}+s_{i}v^{j}(\partial_{j}w^{i})\right) - \sum_{i,j}\left((\partial_{j}s_{i})v^{i}w^{j}+s_{i}w^{j}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \sum_{i,j}v^{j}\left((\partial_{j}s_{i})w^{i}+s_{i}(\partial_{j}w^{i})\right) - \sum_{i,j}w^{j}\left((\partial_{j}s_{i})v^{i}+s_{i}(\partial_{j}v^{i})\right)\\
           &= \sum_{i,j}v^{j}\partial_{j}\left(s_{i}w^{i}\right) - \sum_{i,j}w^{j}\partial_{j}\left(s_{i}v^{i}\right)\\
           &= \sum_{j}v^{j}\partial_{j}(\sigma,\mathrm{w}) - \sum_{j}w^{j}\partial_{j}(\sigma,\mathrm{v})\\
           &= \mathrm{v}\{(\sigma,\mathrm{w})\} - \mathrm{w}\{(\sigma,\mathrm{v})\}\\
\end{align*}

これで [問題X-3] の式が証明された。

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フェルミ、ハイゼンベルク、パウリ3人のカイラリティ

数年前のことになると思うが (2012年のことだったらしい)、近くの図書館で、「アインシュタインの反乱と量子コンピュータ」(発行年:2009年 著者:佐藤文隆 発行:京都大学学術出版会) と云う本を借りて通読したことがある。

「残念! 」と云う読後感だけが残っている (私としては、これは非常に珍しい「症例」)。たしか、著者自身も、内容について弁明めいたものを書いていたようだ。しかし、それだけなら、「『残念感』を味わいたい方には最適」と言う訣にもいかず、ここで取り上げるには及ばない。

しかし、ある一点で、私の記憶の底にコビリついたままのものがあるので、それを書いておく。まぁ、私自身のための厄落としである。

この本の第36ページに、3人の物理学者 (「マスコミ」風に言うと「天才物理学者」) の、所謂「スリーショット」写真が掲げられている。そのキャプションに曰く

1927年にイタリア・アルプスのコモ湖畔で開かれたボルタ記念集会での (左から) フェルミ、ハイゼンベルグ、パウリ。

これを見たとき「オイ・オイ・オイ」と突っ込みましたね。私は、人の顔・名前を記憶するのが病的に苦手なんだが、それでもパウリ (Wolfgang Ernst Pauli/ヴォルフガング・パウリ) の顔は識別できる。左端にいるのは、フェルミ (エンリコ・フェルミ/Enrico Fermi) ではなく、まごうことなく、パウリなのだ。ハイゼンベルグ (ドイツ語風に言うなら「ハイゼンベルク」だが。Werner Heisenberg/ヴェルナー・ハイゼンベルク) もなんとなく分かる。これは、確かに真ん中にいる。フェルミの顔は、申し訳ない知らなかった (と言うか、覚えられていなかった)。

そう言えば、かって、コペンハーゲン (København) にあった「理論物理学研究所/Københavns Universitets Institut for Teoretisk Fysik」での1932年の会議の余興として演じられたと云う「ファウスト」のパロディの中で、パウリはメフィストフェレスを当て書きされていた (ちなみに「主」つまり、「全能の神」は勿論ニールス・ボーア/Niels Bohrである)。少なくとも顔を含めてイメージとしてだけなら、「パウリのメフィストフェレス」は、ハマり役だったろう。

「えっ!? 」と思って、その写真を、二度見してみると、右端のフェルミ (私にとっては「フェルミらしき人」) の胸ポケットが向かって左側(つまり、右胸側) に着いていることに気が付いた。フラワーホールらしきものも向かって左にある。

「なんだ。裏焼きジャン」

しかし、物理学者が書いた書籍中において、「くどいようだが、マスコミ風に言うと天才」物理学者のスリーショットで、裏焼きに気づかないことがありうるのか?

思わず、調べてしまいましたね (当時の話)。

そしたら、CERN (欧州原子核研究機構) の [PAULI-ARCHIVE-PHO-0​18] がマンマ裏焼きになっていた。これは想像だが、親亀がコケタので、子亀だか孫亀だかヒーィッマゴガメだかもコケタのだ (旧い譬えで申し訣ない)。

次を参照のこと。

  1. CERN のアーカイヴ中にある当該の写真:Wolfgang Pauli on a boat on Como lake - CERN Document Serve
  2. 写真に対する私のコメント (今回調べ直して、公表されているのに初めて気付いた):Wolfgang Pauli on a boat on Como lake - CERN Document Server
  3. 正しい向きの写真:Fermi, Heisenberg and Pauli - Stock Image H400/0132 - Science Photo Library

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Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient) の第2、第3添え字に関する反対称化が満たす恒等式

数式を多く含む文書を作成するのに、気がすすまない状況にあるので、一般相対論的な文脈において、所謂「Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient)」(Cf. "Christoffel symbols - Wikipedia") の3つの添え字の内、反対称性を有する添え字対とは異なる添え字対に就いての反対称化の2倍として定義されるスカラー場に関連する恒等式が「Bianchi の恒等式 (Bianchi identity)」(Cf. Bianchi Identities -- from Wolfram MathWorld)に「似て非なる」ものだったのが面白かったと云う体験の、その「似て非なる」部分だけを書いておく。

多様体は、異なるマッピングによる異なる「アトラス/地図帳」を許容するが、特に、物理的実在としての、一般相対論的な時空多様体は、異なるマッピングにより異なる計量テンソルを伴う場合でも、その間に共変変換が存在するなら、その物理的同一性が担保される。と云うか、話は逆で、そうした複数ありうる「地図帳」が、共変変換で等価に結びついていると云うことが、時空の多様体の物理的アイデンティティの意味だと云うことが、一般相対論的世界の根幹をなす、まさに「世界観」である。

しかし、ある同一の時空多様体のもとで、同一の計量テンソルを伴う地図帳であっても、個々の地図をなす局所基準系ミンコフスキー空間の基底 (所謂「標構」) は一意に決まらない (「地図帳」からとられているので、「標構」は、もとの時空多様体上の「場」をなす -- 「(標構)バンドルでの切断」と云った方が、ヨリ適切だが、ここでは、そうしたことには拘らないことにしよう)。そうした複数ありうる基準系基底 (本稿では、「場の古典論(原書第6版)」に倣って、記号 \vvec{e} を用いて表す) から4組の線形独立なものをとって、さらに、その4組の基底の場が一定の条件を満たす時、それをまさに「4つの組」に意味する「テトラード (tetrad)」(あるいは「テトラッド」) と呼ぶ (「場の古典論(原書第6版)」第98節参照)。

ただし、現在では、"tetrad" と云う用語より "frame field" と云う用語の方が一般的らしい (「枠の場」とも「標構場」とも、さらには「動標構場」とも訳せるが、いずれも語感が悪い。なお、「標構場」と云う用語は実際に使われている)。とは言え、本稿では「場の古典論」に倣って、「テトラード」と呼ぶことにする。

なお、個々のテトラードを構成する4つの基底ベクトルを示すのに、"tetrad" の対応ドイツ語 "Vierbein" の含意、「4本脚」(ドイツ語で「4本の脚」なら、正確には "vier Beine" だろうけれど。。。) を踏まえて、以下、「脚」と呼ぶことにしよう。

4組あるテトラードを識別する添え字を、括弧 (, ) で囲んだラテン文字を、例えば (a),(b),(c),(d) のように用いて、それぞれのテトラードを \vvec{e}_{(a)},\vvec{e}_{(b)},\vvec{e}_{(c)},\vvec{e}_{(d)} と記し、更に、各テトラードの脚となるベクトルの添え字を、括弧で囲わない裸のラテン文字、例えば i,j,k,l で表すことにすると、4組のテトラードの脚となる基底ベクトルを表す記号は \vvec{e}_{(a)}^{i},\vvec{e}_{(b)}^{j},\vvec{e}_{(c)}^{k},\vvec{e}_{(d)}^{l} のような形式となる。

こうした、記号法は、基本的には「場の古典論(原書第6版)」第98節に準拠しているが、そこでは「式を書くとき余りに繁雑になるのを避けるため」(「場の古典論」p.326脚註1) 適宜に行われている括弧の省略を、本稿ではしないでおく。そうすると、テトラードの定義要件を表す関係式は、符号系 (+---) の固定した対称行列 \eta_{(a)(b)} が、場の上の全ての点に対して共通に存在して

\[
  \vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{e}_{(b)i}=\eta_{(a)(b)}
\]
が満たされることと表現される (「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.1))。

勿論、ベクトル場 (1階テンソル場) としてのテトラードの裸の添え字の上げ下げは、計量テンソル g_{ij} 及び、その逆テンソル g^{ij} で行われる (言うまでもなかろうが、「計量テンソル」も正確に言うなら「計量テンソル場」である)。つまり
\[
 \vvec{e}_{(b)i}=g_{ij}\vvec{e}_{(b)}^{j}
\]
である。

また、行列 \eta_{(a)(b)} に対して、括弧で囲われた上付き添え字を有する逆行列 \eta^{(b)(c)} (つまり \eta_{(a)(b)}\eta^{(b)(c)} = \delta_{(a)}^{(c)}) が考えられるのに対応して、括弧で囲われた上付き添え字を有する「テトラードの相反」(「場の古典論(原書第6版)」p.326) が
\[
 \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{(b)}^{i}=\delta_{(b)}^{(a)}
\]
を満たす場として定義される (「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.2))。そして、これから
\[
 \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{(a)}^{k}=\delta_{i}^{k}
\]
が導かれる(「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.3))。さらに
\[
 \vvec{e}_{i}^{(b)} = \eta^{(b)(c)}\vvec{e}_{(c)i}, \qquad \vvec{e}_{(b)i} = \eta_{(b)(c)}\vvec{e}_{i}^{(c)}
\]
も得られる(「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.4))。

このほか、「場の古典論(原書第6版)」pp.326-327 に示されたテトラードに就いての基本的関係式を書き写しておく。
\begin{align*}
 &g_{ik} = \vvec{e}_{(a)i}\vvec{e}_{k}^{(a)} = \eta_{(a)(b)}\vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{k}^{(b)} &(98.5)\\
 &ds^{2} = \eta_{(a)(b)}(\vvec{e}_{i}^{(a)}dx^{i})(\vvec{e}_{k}^{(b)}dx^{k}) &(98.6)
\end{align*}
ただし、ds は線素を表す。

また、任意の反変ベクトル \vvec{A}^{i} 及び共変ベクトル \vvec{A}_{i} に対して、個々のテトラードへの「射影」(「場の古典論(原書第6版」) を、例えば、\vvec{e}_{(a)} への「射影」では
\[
 \vvec{A}_{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{A}_{i}, \qquad \vvec{A}^{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{A}^{i} = \eta^{(a)(b)}\vvec{A}_{(b)}
\]
で定義する (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.7))。そして、これから
\[
 \vvec{A}_{i}=\vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{A}_{(a)}, \qquad \vvec{A}^{i}=\vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{A}^{(a)}
\]
が得られる (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.8))。

さらに、スカラー場 \phi$ に対して、各テトラードを基準とする微分 (「場の古典論(原書第6版)」の言い方では「方向に沿う微分」) を、例えば、\vvec{e}_{(a)} を基準とする微分を
\[
 \phi,_{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)}^{i}\pdiff{\phi}{x^{i}}
\]
で定義する (「場の古典論(原書第6版)」p.327)。これは、反変ベクトル場と共変ベクトル場との縮約だから、スカラー場になっていることを指摘しておこう。

「Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient)」は、例えば、添え字 (a),(b),(c) に対するRicci の回転係数 \gamma_{(a)(b)(c)} が、次のように定義される (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.9))。
\[
\gamma_{(a)(b)(c)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)i;k}\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k}
\]
ここで、添え字中のセミコロン記号 ; は、その後ろの添え字が示す局所座標変数に就いての共変微分を表す。つまり ;kx^{k} に就いての共変微分である。

言うほどのことではないだろうが、この「Ricci の回転係数」も、スカラー場であることに注意。そして、Ricci の回転係数の第2添え字と第3添え字に就いての反対称化 (antisymmetrization) の2倍を、記号 \lambda を使って
\[
 \lambda_{(a)(b)(c)} \coloneqq 2\gamma_{(a)[(b)(c)]}
\]
で表す。あるいは、「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.10) 通りに書くと、次のようになる。
\begin{align*}
  \lambda_{(a)(b)(c)} &= \gamma_{(a)(b)(c)} - \gamma_{(a)(c)(b)}\\
        &= (\vvec{e}_{(a)i;k}-\vvec{e}_{(a)k;i})\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k} = (\vvec{e}_{(a)i,k}-\vvec{e}_{(a)k,i})\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k}
\end{align*}

「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.11) と式(98.11) では、\gamma\lambda に就いての基本的な関係式が示されている。
\[
 \gamma_{(a)(b)(c)} = \frac{1}{2}(\lambda_{(a)(b)(c)}+\lambda_{(b)(c)(a)}-\lambda_{(c)(a)(b)})
\]

つまり、Ricci の回転係数 \gamma_{(a)(b)(c)} は、3つの添え字の内の1対、つまり、第1番目の添え字と第2番目の添え字に就いて反対称である。\lambda_{(a)(b)(c)} は、Ricci の回転係数の添え字のうち、反対称性を有することを保証されている添え字の対ではない第2番目と第3番目の添え字の対に就いての反対称化の2倍として定義される。

これで、「テトラード」に就いてなじみの無かった方々にも、次の式を見て面食らわないだろうと思う。つまり、Ricci の回転係数の第2添え字と第3添え字に就いての反対称化の、テトラードの脚を基準とする微分に就いて、次の恒等式が成り立つのである。

\[
 3\lambda^{(c)}_{[(a)(b),(c)]} = \lambda^{(c)}_{(a)(b),(c)} + \lambda^{(c)}_{(b)(c),(a)} + \lambda^{(c)}_{(c)(a),(b)} = -\vvec{e}_{(c);i}^{i}\lambda^{(c)}_{(a)(b)}
\]

これを見て分かるように、等式の左辺は Bianchi の恒等式を連想させるが、右辺は、Bianchi の恒等式と異なり 0 になっていない。

私は、この恒等式を、「場の古典論(原書第6版)」p.328 式(98.14) の成立を確認する過程で、気が付いた。と云うことは、この式は、ほぼ確実に既知で、それどころか当該分野では常識化している可能性が高いが、ネットをザット見たところ、それらしい記載は見られなかったので、「『面白い』は、個人の感想です」と、定番 disclaimer を付けた上で発表することにする。

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「場の古典論(原書第6版)」第11章第96節中の用語「擬テンソル」に就いて

今年も押し詰まってしまった。暮れ切ってしまう前に。過去の記事の補足なり訂正なりでよいから、二つ三つ投稿をしようと11月ぐらいから考えていたのだが、ことここに至って、とても無理だということが分かった。

転居を比較的短い間に2度した後整理をサボっていて、蔵書 (と云うほど、大したものではないのだが) の大部分が段ボールの中に入ったまま、そこら中に積みあがっている。であるのに、現在自宅に「自力リフォーム」まがいのことをしており、どの部屋も乱雑を極めていて、段ボールから本を取り出すことがママならない。そのため「話のタネ」として用いたい本が何処にあるのかさえ見当が付かない状態なのだ。

しかし、去年・一昨年のように年間1本と云うテイタラクではないにしろ、今年も数本しか記事を書いていないのは情けないので、枯れ木に花を一輪足すだけにしかならないにしろ、一文をひねり出すことにする。記事として最低限のレベルを確保できるか危ぶみつつ。。。

「場の古典論(原書第6版)」(発行:東京図書株式会社) 第11章第96節「エネルギー・運動量の擬テンソル」(pp.312-319) の用語「擬テンソル」が気味が悪いと云う、それだけ言えば「出落ち」的に話が終わってしまうだけの話を、以下ヤヤ詳しく書くことにする (第96節には一目で分かる誤訳があるが、それこそ「一目で分かる」から全体の文脈には影響しないだろうから、ここではカカヅラワルことはしない。そうした話は、将来「『場の古典論』講読」と云った記事を書く機会があったら、他のものと合わせて取り上げよう)。

「擬テンソル」と云う用語は、「場の古典論(原書第6版)」の pp.19-20 でも出てくる。こちらの方は、私も気にならない。この両者は別物なのだ。

それは、「場の古典論」の記述自身から明らかだ。それが分かる、それぞれに就いて特徴的な文章を摘出しておく。

任意の階数の[擬テンソル],とくに[擬スカラー]は,回転から合成できない変換を除いて,すなわち,回転に帰着させることのできない,座標の符号の変化である反転をのぞいて,すべての変換に対してテンソルのようにふるまう.
--「場の古典論(原書第6版)」第1章第6節「4元ベクトル」pp.19-20

(重力場のエネルギー・運動量擬テンソルである/引用者補足/)t^{ik} の大切の性質は,それがテンソルをつくらないということである。それは、(p.314 での t^{ik} の定義式 96.5 中の/引用者補足/) \partial{h^{ikl}}/\partial{x^{l}} において現れるのが共変導関数ではなく,ふつうの導関数だということからたやすく示される.しかし,t^{ik}\varGamma^{i}_{kl} によって表わすことができ,\varGamma^{i}_{kl} は座標の1次変換にたいしてはテンソルのようにふるまうから (§ 85 を参照),t^{ik} についても同じことがいえる。
--「場の古典論(原書第6版)」第1章第96節「エネルギー・運動量の擬テンソル」p.315

ちなみに、どちらの「擬テンソル」も英語では pseudotensor, さらにちなみにロシア語では псевдотензор である。

後者の「擬テンソル」である「エネルギー・運動量の擬テンソル」は「ランダウ・リフシッツ擬テンソル」とも呼ばれるので、以下、そう呼ぶことにする。他方、前者を何と呼ぶかが、悩ましい。私としては只の「擬テンソル」としか呼びようがないのだ。しかし、対比の必要上、そうもいかない。仕方がないので、ad hoc な用語として「数学的擬テンソル」と呼ぶことにする。

念のため、一応注意しておくと、単に「テンソル」と云う用語が用いられている場合でも、その意味には大きく分けて2種類あることである。第1は、線形空間又は、その双対空間のテンソル積の元である。第2は、所謂「テンソル場」、つまり,極めて大雑把な言い方で申し訣ないが、可微分多様体の各点に対し、その点上の接空間と余接空間 (つまり接空間の双対空間) とのテンソル積の要素であるテンソルを対応させる写像で、その可微分多様体の構造と両立するものである。

困ったことに、上記の「ランダウ・リフシッツ擬テンソル」にしろ、「数学的擬テンソル」にしろ、可微分多様体の各点に、テンソル又は擬テンソルを対応させる写像だが、「テンソル場」ではない。

もう少し具体的に言うと、「ランダウ・リフシッツ擬テンソル」は、擬リーマン多様体の各点から、その点での余接空間2個のテンソル積の要素としのテンソルを対応させる写像だが、底空間をなす擬リーマン多様体の構造と両立していない。但し、余接空間の基底の一次変換に限るならば「テンソル」として振る舞う。

「数学的擬テンソル」の方は、ミンコフスキー計量が付いた実4次元アフィン空間の各点からその点上の接空間、つまり4次元ユークリッド空間に関わる擬テンソルを対応させる写像であるから、当然「テンソル場」ではない。

これを踏まえて言うと、上記の引用から分かるように、座標反転に対して、数学的擬テンソルは、相対論的環境では、擬テンソルとしてテンソルと異なる振る舞いをするが、座標反転も接空間や余接空間に移れば一次変換となるから、ランダウ・リフシッツ型擬テンソルでは、テンソルと同じ振る舞いをする。

ランダウ・リフシッツ擬テンソルは、擬リーマン多様体上の各点に、上記第1意味での「テンソル」を対応させているものの、テンソル場でないのは勿論、擬テンソルを対応させている訣でもないから「擬テンソル場」(今の文脈を離れた広いの文脈で適切な用語となるか疑問だが)でもない。せいぜい、テンソル場に類似する、テンソル場のまがい物と云う意味での「擬-テンソル場」(「擬テンソル-場」ではなく) といったところだろう。私が感じる「気味の悪さ」が分かっていただけるだろうか。

ただし、微分多様体上の「場」である以上、その局所化されえない属性は、本質的に大域的な存在と云うことになる。これに関連して、「場の古典論」の「重力場のエネルギーの空間内の局在化ということを考えるのは,いずれにしても無意味である」と云う記述 (p.316) は示唆に富む (これと同じことを P.A.M. ディラックが「一般相対性理論」の第31章で言っている)。「ランダウ・リフシッツ擬テンソル」の物理的意味は深い。

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語義: G.N.Watson "a treatise on the THEORY OF BESSEL FUNCTIONS" p.3 の "heavy chain"

G.N.Watson "a treatise on the THEORY OF BESSEL FUNCTIONS" p.3 (第1章) に、次の一文がある。

In 1738 Daniel Bernoulli published a memoir containing enunciations of a number of theorems on the oscillations of heavy chains.
1736年、ダニエル・ベルヌーイは、鎖の振動に関する幾つかの定理をまとめた覚え書きを発表した。

この "heavy" の語感は、「重い」よりも「(個々の環に)存在感がある」に近い。勿論「質量」にも関連していて、詳しくは「無視しえない質量線密度を有する」と云う含意だろう。だから、日本語としては「重い」より「太い」を使いたくなるが、単に「太い」と訳しても、原文における語感と隔たりがある。やや細かく「しっかりとした太さが感じられる鎖」としても、事態は改善されてない。"heavy" の語感を強調すべき文脈ではなく、サラリと訳す必要があるからだ。結局、日本語に訳すなら単に「鎖」とした方が良い。

単振子は「錘」に質量が集中し、錘と支点との間の桿は剛体でありながら、質量は無視されるが、「鎖」の場合は、独立した「錘」は存在せず、支点から懸下した、一定の長さを有する1次元延長体の全体に質量が一様に分布し、かつ、その延長体は、伸び縮みはしないが、自由に変形可能であることが想定されている。

なお、分子医学で、抗体 (antibody 機能名)、つまり、免疫グロブリン (immunoglobulin 物質名) の分子構造の「部品」として、英文で "heavy chain" 及び "light chain" と呼ばれるものがあり、それぞれ「重鎖」及び「軽鎖」と訳されることがあるが (「H鎖」及び「L鎖」と云う用語もある)、分野が異なり、しかも、文脈水準も「マクロな文脈」と「ミクロな文脈」とで異なるので、日を同じくして論ずる訣にはいかない。

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メモ: リサ・ランドール「ワープする宇宙」中の誤植

リサ・ランドール [ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く] (NHK出版 2007年6月30日, ISBN-10: 4140812397, ISBN-13: 978-4140812396) には、次の誤植がある。

  1. p.196 プランク定数の単位が GeV だけになっているので GeV の直前か直後に秒を表わす単位記号をつける必要がある。プランク定数の他の表し方でよく見られる J·s を参照するなら、GeV·s が適当か。
  2. p.230 「一九〇五年」は「一九五〇年代」の間違い。
  3. 数学ノート p.30 【10】のボルツマン定数の単位の erg はイタリック体ではなく、ローマン体 erg の方が良い。

ついでに書いておくと、GPS システムでの一般相対論的効果に関連して、p.165 傍注で Neil Ashby "Relativity and the Global Positioning System" Physics Today, May 2002, p.21 が参照されている。「ワープする宇宙」の原書 Warped Passages: Unravelling the Universe's Hidden Dimensions (Lisa Rudall) が書かれた2005年当時であっても、GPSと相対論についての関係に就いては、Neil Ashby の書いたものが基本的な文献と云うことなのだろう (Cf. このサイトの [ニール・アシュビー「GPS における相対論」第1章及び第2章訳文 (草稿)] 及び [Neil Ashby に就いて: 相対論の実用])。

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メモ: 都筑卓司 [なっとくする量子力学] 及び [なっとくする統計力学]

たまたま図書館で見かけて都筑卓司の [なっとくする量子力学] (講談社。1994年6月) 及び [なっとくする統計力学] (講談社。1993年11月) を借りてきて通読した。子ども (高校生?) のころ読んだ同じ著者の [マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス 152)]の記憶が懐かしかったからだ。もっとも、今、思いだそうしてみても [マックスウェルの悪魔] の内容はサッパリ思い出せない (新装版が出ているが、これに就いては、私は語るべきものを持っていない)。勿論、[統計力学] に就いての啓蒙書であったのだろうけれども、その後に僅かながらに学んだ物理学の雑多な知識に覆いかぶされてしまっているようだ。要するに、「面白いなぁ」と思ったぐらいの印象しか残っていないのだ。

いきなり脱線してしまって申しわけない。で、その [なっとくする量子力学] と [なっとくする統計力学] なんだが、読後感が「ビミョー」なのだ。形容が難しいのだが、強いて言えば、「物理学者の楽屋話」とでも言いたいことが所どころに書いてあって、他の入門書を読んでいて引っ掛かっる所が、まさに「なっとくする」かたちで書いてある。そして、(最近の入門書では改まっているものを見受けられるが) 初歩的なことを丁寧に書くと、自らの「沽券」に係わるとでも言いたげな発想から自由であるのも好ましい。

しかし、では、他人様(ひとさま)、特に初学者に薦められるかと云うと、到底出来ない。私のような「面白がり」が一種のゲーム感覚で読むと云う、本来の目的からズレている「利用法」ではなく、フツーに物理学の学習の為に読むには、いかんせん、[誤植/校正ミス] が多すぎるのだ。

一般論としては、[誤植/校正ミス] は書籍に付き物なので、基本的にはその価値に影響しない。そして、[誤植/校正ミス] に気付いた時には、必要に応じて、公表し、情報の共有をすればそれで済むだけのことだ。また、私の個人的感想だが、物理学関連の書籍、それも数式が出てくるレベルのものは、[誤植/校正ミス] が他の分野より格段に多い傾向がある。だから、物理学分野では、ある程度の [誤植/校正ミス] には目くじらを立てないようにしている。

しかし、何ごとにも限度がある。

私はザッと通読しただけなのだが、それでも [なっとくする量子力学] では20箇所以上、[なっとくする統計力学] では、60箇所程度の校正ミスが見つかった (あり体に言えば、[なっとくする統計力学] では、著者校を含めて、校正を行なったとは思えない)。私の見落としもあるだろうし、見誤りもあるだろうが、少なくとも 、[なっとくする統計力学] は出版物として失格している。

ただ、言い添えておきたいのは、2冊とも呆れながらも通読できたのは、文章に読ませる底力があったからだ。著者が「物理」を学ぶ楽しさを読者と共有したいと云う思いが伝わってくる。もし [誤植/校正ミス] がなかったら、物理学過程の副読本として優れたものになっていたと思われ、そうした意味で、残念な本なのだ。

「失格」などと書いた以上、幾つか事実を指摘しておく (煩わしいので、全てをあげることはしない。この2つの書籍の場合「情報の共有」の必要性は小さいと思われる。更に、記号の表記上、説明しやすいものだけにしておく)。

まず、「まだマシ」と言える [なっとくする量子力学] では、「量子力学は20世紀の初期30年間に花開いた」とすべきを「量子力学は19世紀の初期30年間に花開いた」とか(p.15)とか、「全体的に」を「全体的もに」(p.77) とか、「磁束密度」を「磁末密度」(p.123) とか、「正式」を「制式」 (p.147,p.177) とか、正弦関数の記号 sin を sim (p.181 の 5.24 式) とか、「相対論」を「相体論」(p.192) とかの一目で見て分かる「可愛いミス」 (その他、例えば「すなわち分解能」を「すなわ分解能」としているような脱字もある。p.198) だけではなく:

  • p.137 で Cr と Mn の量子数が逆 (6←→7)
  • p.177 で、ウィーンの公式及びプランクの公式 (式5.20) の両方で、指数関数の指数に誤ってマイナス符号が付いている。
  • p.178 の式 (5.21) は、変数が ν ではなく λ だから、左辺を U(ν) ではなく、U(λ) にする必要がある。
  • p.179 の式 (5.22) の第1辺で、指数関数の指数のマイナス符号は不要。
  • p.224 の式 (6.41) の左辺のブレース {} 内第3項の分母の sin は2乗でなければならない。(水素原子内のポテンシャルに就いての電子のシュレディンガー方程式。こう云う所で間違えられると本当に落胆する)
  • p.226 の「ラゲール関数」の定義式で括弧内の指数関数の指数 - n は - x としなければならない。
  • p.258 の式 (7.55) の亀甲括弧内の ν(n,m) の後に t を挿入する必要がある。
  • p.260 の式 (7.63) の左辺の縦ベクトルの第1要素 u の下付きサフィックス m は 1m にする必要がある。

[なっとくする統計力学] でも、p.41 の図1.7 でのサイコロの出目3-2が重複しているので、前の方を、出目の位置を逆転して、2-3にする必要があるとか、p.42 で「2のでる確率」を「3のでる確率」とし、また、エントロピーの計算式の2つ目の等号は削除する必要があるとか、p.197 で、ドイツ語 "Zunstandessumme" は "Zustandssumme" の綴り間違いだとか、p.236 の表6.1でコバルトの元素記号 Co の "o" が数字の 0 になっているとか、p.271 で「宇宙船」は「宇宙線」の誤りだとか、p.285 で、2箇所の「フォトン」は「フォノン」にしなければならないとかの、やはり「可愛いミス」もあるのだが (脱字もそれなりにある。例:p.179 て「固体結晶」が「固結晶」になっている。また p.235 で「反強磁性」が「反強性」になっている)、こちらの方は深刻な間違いも多い。例えば、式や図の 引用で番号が間違っているものが幾つかあって、これは見かけよりも重大になりうる。気がついたものを列挙しておくと (「→」がある場合、左側が原文で、右側が訂正したもの):

  • p.53 第2行「図 2.2」→「 図 2.3」
  • p.66 第1行「(2.5) 式から」→「(2.15) 式から」
  • p.95 下から6行目の「図 3.8」→「 図 3.9」
  • p.106 第2行「図 3.13」→「図 3.14」
  • p.295 第1行「(8.28) 式」→「(8.27) 式」
  • p.295 下から12行めの「(8.30) 式」→「(8.29) 式」

ついでに書いておくと、式番号 (3.3) はp.80 と p.81とで重複している。式 (3.14) の計算での引用 (p.91第10行) を考えると、p.80での (3.3) を削除した方が良いだろう。

また、単純な誤記であっても、等閑視できないものがあって(「→」がある場合、やはり、左側が原文で、右側が訂正したもの):

  • p.65 式 (2.17) の最後の 0 → 1
  • p.96 図3.8で「π/4 ステラジアン」→「π/2 ステラジアン」(ちなみに、p.95に言及があって、そこでは「π/2 ステラジアン」と正しく書かれている)
  • p.103 ページ末尾の式中で 0.131 + 10-2 t2 → 0.131 × 10-2 t2 (但し、式そのものが古いデータに拠っているようだ)。
  • p.106 クーロンの法則の式中の2番目の等号は不要。(ため息が出るほど初歩的な書き間違い)
  • p.121 「z 方向の速度成分が w + w + dw」→「z 方向の速度成分が w と w + dw」
  • p.145 式 (4.35) の2番目の等号は不要。

しかし、深刻なのは、式中にひどい書き間違いがあることだ。ある程度数学や統計物理を学んだ経験がなければ、その瑕疵を修復することは困難だろうから。「ひどくないかもしれない」ものもあるのだが、弁別が面倒なので、取り敢えず、「説明しやすいものだけに限る」と云う原則で指摘しておくと:

  • p.56-p.57 指数関数の指数内にある分母の 2a は全て乗数として分子側に移さねばならない。実際、そうでなければ、p.57 の『a が大きいほど (よくひっくり返るほど)、それは「すみやか」である』と云う記述と整合しない。ちなみに、件の微分方程式の解法を「いわゆる変数変化法により」と説明しているが (p.56)、寡聞にして「変数変化法」なるものを私は知らない。知っているのは「定数変化法」と「変数分離法」だけである。そして、ここでの処理は、所謂「変数分離法」である。
  • p.57 指数関数の指数内にある分母の a + b は全て乗数として分子側に移さねばならない。
  • p.71 log p の前にマイナス記号 (-) を挿入する必要がある。
  • p.91 式 (3.14) の第2辺の最後の項の対数関数の変数部分での分数の分子は 1 → x。そして、第2辺の全体に係数 T を追加する必要がある。好ましいのは、冒頭のマイナス記号の後。
  • p.132 式の3行めの積分範囲の上端 α → ∞
  • p.135 式 (4.23) で第2辺の分母にも t を補う必要がある。
  • p.138 左辺が N12 の式。右辺に u を追加する必要がある。最後が適当。
  • p.139 「これを先の衝突回数の式に代入して」の直後の式で、右辺被積分関数内の分母の (2πkT)2 の指数の 2 は 3 に改めねばならない。また、ここでも、右辺に u を追加する必要がある。(a1 + a2)2 の後が適当。
  • p.139 「公式 (2.26-b) を利用して」の直後の式で、右辺の被積分関数内の指数中の分子の式で、μu122μ12u2 と改めねばならない。また、(a1 + a2) の指数を2にする必要がある。
  • p.156 式 (4.56) の第2辺のブレース {} 内の式第2項の (r0/r)6 には係数 2 が必要。
  • p.180 式 (5.6) で左辺第1項係数の分母 8m → 8πm。また、左辺第2項の π には 指数 2 が必要。(「調和振動子のシュレディンガー方程式を間違えるなよ」と、ツッコみたくなる)
  • p.183 式 (5.12) の (hνi/kT) には指数 2 を書き加える必要がある。同様に、式 (5.13) の (hν/kT) にも指数 2 を書き加える必要がある。
  • p.186 式 (5.16) 分数係数の分母中の c には指数 3 が必要。
  • p.191 熱容量 Cv を求める最初の式で被積分関数 (でなくて係数部分でもよいが) h が抜けている。或いは、分子の (hν/kT2) 中の h の指数を2にして (h2ν/kT2) でもよい。
  • p.195 下から3番目の式で、2つの括弧の夫々の内部の式で最初の項の 1 は x にしなければならない。また、2つめ括弧の中の式の第3項 ix5/5! の前はマイナス (-) でなくプラス (+) にする必要がある。
  • p.196 アインシュタインの比熱式の右辺の e の指数の分母分子を逆転する必要がある。つまり T/θEθE/T
  • p.242 式 (6.39) の第2辺の括弧内第2項の分子 c → 1
  • p.264 式 (7.20) の第1行の最後 nklog nk → nk
  • p.271 フェルミ関数の式の分母の最後の項は - 1 ではなく + 1 にしなければならない。
  • p.272 式 (8.1) の分母の指数中の + 1 は指数ではなく指数関数全体に係るように変更する必要がある。
  • p.283 式 (8.17) の右辺最後 (kT/μ) には指数 2 を付け加える必要がある。

その他、注意すべき箇所としては p.158 の第2行の「ところが係数が小さいと」は「ところが係数が大きいと」の書き誤り、そして、p.283 で「第二の積分は ζ 関数とよばれるもので」とあるが、正確には ζ(2) の2倍である (だから π2/3 になる)。

と、長々と書いたが、実は、この2冊の本を通読して、一番興味が引かれたのは物理学的な内容ではなくて、著者のちょっとした思い出話だった。

いささかくどいかもしれないが、似たような例で、将棋の金を4枚振る場合を考えよう。現在のようにゲーム器の発達していない昔 (戦前といったらいいか) には、これを盤上で振って、盤の隅を駒を回し、歩、香、桂……と順次上っていったものだ。2 が一番でやすく、ゼロや 4 はなかなか出なかった。そのためゼロを「夜桜」とよび、4を「お歯黒」などと称して、1度に 20 とか 50 とかすすむことができる……などという特典が与えられていたような記憶がある。
--[なっとくする統計力学] (都筑卓司。講談社。1993年11月) p.44

これは、所謂「まわり将棋」のことだろう。私も、子どものころ、遊んだ覚えがある。ただし、「夜桜」や「お歯黒」と云った「特典」に特典に就いては記憶がない。私は「戦争を知らない子供たち 」の一人だから、戦前のことを云々されると、「そうだったのですか」とでも言うしかない。むしろ、日本語版ウィキペディア [まわり将棋] (最終更新 2012年8月31日 [金] 22:36) で説明されているように、駒が立ったりした場合に特典がついた (もっもと、[ウィキペディア] では「裏向きの(何も文字が書いていない方が上を向いている)金将が4枚揃う」場合のことも書かれている)。

ただし、4枚とも表になることを「お歯黒」と呼ぶのは納得できる。駒の一つ一つを「歯」に見立てているに違いないからだ。現在の殆どのテレヴィや映画では無視しているが (歴史的・社会階層的に変動があるので、極めて大雑把な言い方になるが) 都市における既婚女性 (公家においては女性に限らないと云った話は、ここでしない) は五倍子(フシ)に含まれるタンニンと鉄とを用いて歯を黒く染めていた。東京墨田区で生まれ育った私の母の幼少時代 (おそらく、大正末年から昭和初年) でも、近所にお歯黒をしていた婦人がいたとのことだから、全く遠い過去の話ではないので、戦前の子供たちにとっても「お歯黒」と云う言葉に甚だしい違和感はなかっただろう。

しかし、4枚とも裏になることを「夜桜」と呼ぶのは、何故だろう?

将棋の金将の裏は、[王将/玉将] と並んで、空白になっている。共に「成り金」にはなりえないからだが (飛車・角行が「成って」竜・馬になることは、この文脈では無視してよい)、空白になっていることと「夜桜」とはどう結びつくのか、考えてしまったのだった。

一番単純には、4枚揃った白木の姿が、夜空に浮かぶ桜の花弁を連想させるのかもしれない、といったところだろうが、八重桜は論外として、通常の桜はバラ科の花の通例として5枚だろう。そこで、ネット上で調べもしたが、納得できる結論は出せないままでいる。

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メモ:[ハイゼンベルクの顕微鏡] (日経BP社)

所謂 [小澤の不等式] に就いて解説した [ハイゼンベルクの顕微鏡 不確定性原理は超えられるか] (出版社: 日経BP社 2005/12/28 ISBN-10: 4822282333 ISBN-13: 978-4822282332) を読む機会があって、卒読したのだが、なかなか面白かった。ただ、内容に就いて云云する学力は私にはないので、気がついたことだけを2点書き留めておく。

1. 冒頭 (p.7)、「十九世紀の最終年から四半世紀をかけて描かれてきた龍に、不確定性原理という点睛が入ったことにより、量子力学はカンバスを抜け出して二十世紀の空に舞い上がったのである」とあるが、「点睛」の「点」は「一筆描き入れる」と云う意味だから、「点睛が入った」では「描き入れる」と云う意味が重複してしまう。「瞳が描き入れられたことにより」又は「瞳が点ぜられたことにより」、或いは、単に「点睛により」ぐらいにしておいた方が良かったろう。

なお、「画竜点睛」の原文に就いては、このブログの [「画龍点睛」の出典と訳] や、[三省堂中国故事成語辞典] の [画竜点睛] の項 (p.143) あたりを参照していただきたい ([三省堂 中国故事成語辞典] には原文のほかに書き下し文も示されている)。

2. p.215 冒頭の不等式の不等号は、向きを逆にする必要がある。

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メモ:理科年表 [物理/化学部 レプトンとクォークの性質] における誤植

既に、誰かが指摘している可能性が大きいとは思うが、簡単に検索した範囲では見当たらなかったので書いておく。

平成24年度版 (第85冊) [理科年表] (丸善出版 東京 2011年) の [物127(489)] ページにある表 [レプトンとクォークの性質] において、トップクォーク (t) の質量数値には、単位が脱落しているので GeV を補足する必要がある。

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