カテゴリー「数学」の12件の記事

2009年5月29日 (金)

デカルトの正葉線の曲率

Folium of Descartes, or folium cartesii
デカルトの正葉線
Folium of Descartes (folium cartesii)

先日 (2009/05/22 17:22:28)、[デカルトの葉線 曲率] と言うキーフレーズでこのサイトを訪問された方がいらしたらしい。恐らくは、デカルトの葉線 (「デカルトの正葉線」とも言うが、要するに xy 平面上で、式 x^3 + y^3 - 3 a x y = 0 で表わされる曲線のことである。ちなみに、x + y + a = 0 が漸近線になる) の曲率の表示式をお探しだったのだろう。

[デカルトの葉線 曲率] では、デカルトの葉線の曲率表示式は、探しにくいかもしれないが、英語の "Folium of Descartes" や、或いは、ラテン語の "folium cartesii" を使うなら、なにも "curvature" を付けないでも、その検索結果 (Google 検索で "Folium of Descartes" 又は "folium cartesii") から、"Wolfram MathWorld" の "Folium of Descartes" のページに辿りつけて、そこで曲率の表示式を見つけることができる。ただし、その曲率の表示式では、パラメータ (t) が使われている。

「そもそも」と云うほど大げさなことではないが、少し遡って説明を補足するなら、デカルトの葉線は y = f(x) の陽関数で捉えようとすると、原点の近傍 (正確に言うなら、x が正の微小値である範囲内) では1価関数にならない。したがって、パラメータ (t とする) を使って、都合よく x = x(t),\ y = y(t) と表わすことができないかと考えて、葉線の形を見ると、原点を通る直線と葉線との原点以外の交点は、高々1つしかなく、また原点を通る直線の傾きが -1 以外なら、原点以外の交点が必ず1つ存在することが容易に確認できる。従って、 t = y/x をパラメータとするのが適当であると推測できるので、そのようにすると、x^3 + y^3 - 3 a x y = 0 から


\begin{eqnarray*}
x = \frac{3at}{1 + t^3} \\
y = \frac{3at^2}{1 + t^3}
\end{eqnarray*}

が簡単に得られる (ただし、t \ne -1)。従って、求める曲率もまた、このパラメータ t で表わすのが自然な流れとなる訣である。そして、それは "Wolfram MathWorld" の "Folium of Descartes" のページに書いてあるように、


k(t) = \frac{2(1 + t^3)^4}{3a(1 + 4t^2 - 4t^3 -4t^5 + 4t^6 + t^8)^{3/2}}

になる。

この曲率を計算するのは大学初年級の解析学の演習レベル (それどころか、高校生でも、「物好き」なら、この程度のことはするだろう) だから、くだくだしくは書かないが (つまり、書くと「くだくだしく」なる)、一言注意しておくと、平面曲線のパラメータ表記 x = x(t),\ y = y(t) による曲率の計算式


\[
\frac{x^\prime y^{\prime\prime} - y^\prime x^{\prime\prime}}{((x^\prime)^2 + (y^\prime)^2)^{3/2}}
\]

よりも、平面曲線の陰関数表示 F(x, y) = 0 からの曲率の計算式


-\frac{F_{xx}F_y{}^2 - 2F_{xy}F_xF_y + F_{yy}F_x{}^2}{(F_x{}^2 + F_y{}^2)^{3/2}}

を使って、曲率を一旦 x, y, a の式として表わしてから x = x(t),\ y = y(t) を代入した方が計算が若干簡単になる。

しかし、まぁ、こうしただけのことなら何も記事を書く必要はないのだ。放っておいても、自然にこの程度の結果は得られた筈だからだ (因みに、アクセスしてきたのは、数学とは非常に親近性のある技術系の大手メーカー内からである。相応のリソースが備わっていると信じてよいだろう)。

では、何故、今この記事を書いているのかと言うと、"Wolfram MathWorld" の"Folium of Descartes" のページを見たとき、最近 (2009年5月18日) 正式公開された検索エンジン "Wolfram|Alpha" のことを思い出したことから、話が始まる (そして、すぐ終わる)。

実は、"Wolfram|Alpha" の公開直後、一度試しに使ってみて、その「検索」の範囲が科学技術系に限定されているらしいことに気付き、そして反応が遅いことに落胆して、そのまま立ち去っていたのだった。私のように、ネット内を彷徨して知的冒険ならぬ知的遭難を繰り返しているような人間には、不向きな道具に思えたからである。

しかし、「デカルトの葉線の曲率」と云った明確な技術的課題を調べるには適切に思えた。

そこで、"Folium of Descartes" を "Wolfram|Alpha" を調べて見たのだが (私のシステムの場合、スクリプトの実行し続けるとコンピュータが反応しなくなる可能性があるとして、中止を示唆する警告が出るのだが、強いて続行したところ) 確かに、曲率の表示式を含む、幾つかの特徴が表示されたのだった。

しかし、その陰関数表示が x^3 + y^3 = 3xy となっていて、一般的な形式で書かれていなかったのだな。つまり、(やはりパラメータと呼ぶしかないのだが)パラメータの a --この記事の書き方でも、Wolfram|Alpha 内の書き方でも同じ記号 a が使われている-- が抜けいている。勿論、他の部分は a の存在を前提にした書き方をしているから、全体として不統一になってしまっている。

勿論、「検索エンジン」だから、内容のチェックをしていないと言われればそれまでなのだが、しかし、google 式の検索エンジンが、玉石混淆を、そのままブチまけるため、慣れた利用者には「石」の存在に耐性があるのに対し、「単一の答え」を提示する Wolfram|Alpha のスタイルでは、ここら辺で躓いてしまっては、早晩営業が苦しくなるのは目に見えている。

「デカルトの葉線」に就いて、デカルト (René Descartes) とフェルマー (Pierre de Fermat) とのメルセンヌ (Marin Mersenne) を介した応酬 (Cf.「The mathematical career of Pierre de Fermat, 1601-1665 - Google ブック検索」) や、デカルト自身は、「葉線」が第1象限と同じ図形が、第2象限・第3象限・第4象限で繰り返されている (つまり「四つ葉」風になっている) と信じていたらしいと云う話 ("La courbe possède une forme de nœud de ruban. Lors de leur étude, Descartes et Roberval se limitèrent à une boucle, ne considérant que les coordonnées positives (x>0,y>0) car ils pensaient que la boucle se répetait dans chaque quart de repère, à la manière des quatre pétales d'une fleur (d'où son nom de folium = feuille). "--フランス語版ウィキペディア"Folium de Descartes") の真偽などを調べて見たいのだが、今はその餘裕がない。後後の為に、参考になるかもしれないリンクを幾つか纏めて置くだけにする:

  1. Descartes - Œuvres, éd. Adam et Tannery, I.djvu
  2. Œuvres de Fermat - I
  3. persee.fr - Revue d'histoire des sciences, Annee 1998, Volume 51, Numero 51-2-3, pp. 355-362
  4. La géométrie by René Descartes - Project Gutenberg
  5. The mathematical career of Pierre de Fermat, 1601-1665 - Google ブック検索
  6. COMMENT L'HISTOIRE DE LA GEOMETRIE ANALYTIQUE PEUT AIDER LES ...
  7. Richard L. Amoroso Fe, Fi, Fo, Folium: A Discourse on Descartes’ Mathematical Curiosity
  8. Full text of "Oeuvres de Descartes"
  9. File:Folium of Descartes Curvature.svg - Wikimedia Commons

なお、「デカルトの葉線」はフランス語では "Folium de Descartes" だが "nœud de ruban" と呼ばれることもある (ドイツ語では "Kartesisches Blatt")。

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2008年11月18日 (火)

フランス語 "faisceau" の読み方

昨夕 (2008/11/17 17:04:21)、キーフレーズ [faisceau 発音] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。リモートホスト名を見ると、某大学の数学科の関係者ではないかと推察される。まぁ、要するに、「」の対応フランス語である "faisceau" の読み方をお調べになっていらっしゃたのでしょうね。

しかし、確かに取り敢えずネットで調べるのも良いけれど、この場合は、むしろ、適宜の仏和辞典を引く方が、遥かに簡単で確実だろうと云う気がするのだが、如何なものだろうか。そうすれば、そのものズバリで、発音表記 [fεso] が見つかる筈である。それがネット上となると、所望の情報がある、例えば、フランス語版の "Wiktionnaire" の "faisceau" の項に辿り着くだけでも難しいし、その上、その内容は当然フランス語で書いてあるので、どれが発音を表わしているかを見いだすのに、再び苦労することになるだろう。

勿論、オンライン版の仏和辞典も幾つかあるのだが、私が簡単に覗いた限りでは、発音までカヴァーしているものは見当たらなかった。語義そのものも、「単語帳」レベルの越えていないし...

しかし、小言ばかり言っても仕方がない。それに [faisceau 発音] など「カワイイ方」ともいえるのだ。なにしろ、かなり頻繁に [et フランス語 意味] と云う組み合わせの検索が見受けられるからだ。こうなると、もう [and 英語 意味] と云う検索が何時現れるか、私なぞは期待に胸を震わせてしまうことになる。

で、[fεso] に話を戻すと、これをカタカナにするとしたら「フェソ」ぐらいだろうか。大雑把な意味は「束」ですね。「茎 (stalks)」を束ねたものと云うイメージなのでしょう。因みに、フランス語 "faisceau" の対応イタリア語は "fascio" つまり「ファッショ」で、これも「束」が基本語義。

だから、数学用語としても "faisceau" も「束」と訳した方が素直なのでしょうが、残念ながら「束」は、代数用語のことはさておき、位相の範疇でも "fiber bundle" ("vector bundle" や "principal bundle") の "bundle" の訳語として使われていたので、別の訳語が当てられたのでしょう (これは私の推測)。

"faisceau" に「層」と云う訳語を当てたのは秋月康夫さんらしい。「輓近代数学の展望(続)」の註にご自身で書いていらっしゃる、その理由が奮っていて:

層という訳語の由来は仏語 Faisceau のあとの方の 'ソー' をとったというが一つの根拠である。Faisceau の元来の意味は束 (タバ) である。'群の束' (X 上に配置された) の意である。ところで、これを横に見ると地層のような層になる。そこで、垂直を水平におきかえて層と訳してみたのである。この訳がよいか、悪いか、わが国で定着しているかどうか知らないが、この訳語の発案者として、その由来を記しておく。
--秋月康夫「輓近代数学の展望」p.176 (1970年)。ダイヤモンド社。東京

こうした事情を知らなかった或る若手数学者が、当事御存命であった秋月先生の面前で、「層」と云う訳語は問題が有ると発言してしまったと云う話を聞いたことがあるが、事実かどうかは私は知らない。だが、とにかく「層」と云う数学用語は、日本に定着している。先生、以って瞑すべし。

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2008年11月 8日 (土)

ホロノミー (holonomy) としてのサニャック効果 (Sagnac effect): 物理篇

本稿の用語・記法に就いては [nouse: ホロノミー (holonomy) としてのサニャック効果 (Sagnac effect): 数学的準備] (2008年10月31日[金]) を参照されたい。

時空多様体に就いての仮定

時空多様体を、弧連結4次元微分可能擬リーマン多様体 (M, \ g_{\alpha\beta}) として考える (g_{\alpha\beta} は、その計量)。なお、符号系は [{+}{-}{-}{-}] であるとする。

話を単純にするため、次の仮定をする。

  1. (M, \ g_{\alpha\beta}) 上には時間性キリングベクトル場 (time-like Killing vector filed) \mathbf{k}^\ast = (k^\mu) が存在する (以下、接ベクトル場 \mathbf{k}^\ast の共変化余接ベクトル場を \mathbf{k}_\ast = (k_\mu) で表わすことにする)。なお「時間性」とは、符号系 [{+}{-}{-}{-}] にあっては k_\mu k^\mu > 0 と云うことである 。
  2. mathbf{k}^\ast の積分曲線で M を割った商空間 S \ (\equiv M/T)g_\alpha\beta から導かれる計量によって3次元リーマン多様体となっている。これを、所謂「物理的空間」とする。
  3. 射影 \pi : M \to S は微分可能である。


相対論や量子重力論での底空間としの時空多様体

通常、相対論や量子重力論で扱われるのは、4次元時空多様体 M を底空間とし、接ベクトル空間 T_x(M), \; x \in M をファイバとするベクトルバンドル T(M)\{M, \; \pi, \; T_x(M), \; GL(4, \; \mathbb{R})\} (余接ベクトルバンドル T^\ast(M) も?)と、これに同伴する接フレームバンドルであるようだ。


主バンドルとしての時空多様体

しかし、本稿では、時空多様体の「時空」全体 M が全空間、「空間」S を底空間、時間性キリングベクトル場 mathbf{k}^\ast の積分曲線 (つまり、事象の世界線) F が個別ファイバー、mathbf{k}^\ast が生成する1パラメータ変換群 T が構造群 (リー群である) となる主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} を扱う。

この時空多様体内で静止している観測者の世界線は、或る個別ファイバーと一致する。そして、その静止観測者の4元速度 \mathbf{v}

\mathbf{v} = (v^\mu) = \Bigl(\frac{k^\mu}{k_\nu k^\nu}\Bigr)

で求められる。


主バンドルとしての時空多様体の構造群と、それに付随するリー代数

構造群 T は、リー群としての正実数乗法群 \mathbb{R}_+ である。 リー群 T \ (\equiv \mathbb{R}_+) のリー代数 (Lie algebra) \mathfrak{T} は、1次元ユークリッド空間 \mathbb{R} になる。これが「(キリング)時間軸」である。

時間性キリングベクトル場 mathbf{k}^\ast を、基本接ベクトル場として生成する \mathfrak{T} の元を \mathbf{k} とすると、その1パラメータ変換群は \{\mathrm{exp}t\mathbf{k}\} となり (但し、t \in \mathbb{R})

\mathbf{k}^\ast = \Big\{\frac{d (x \, \mathrm{exp} \, t\mathbf{k})}{dt}\big|_{t=0} \; \Big| \; x \in M \Big\}

が成り立つ。

つまり、1パラメータ変換群 \{\mathrm{exp}t\mathbf{k}\} とリー群 T \ (\equiv \mathbb{R}_+) との同一視は、リー代数 \mathfrak{T} \ (\equiv \mathbb{R}) の元 t \in \mathbb{R} を介在させることで成立する。更にこれに対応する右移動を、\sigma_t と記すことにすると、任意の x \in M に対して

x \, \mathrm{exp} \, t\mathbf{k} = \sigma_t(x)

となる。

また、時間性キリングベクトル場 mathbf{k}^\ast は、接ベクトル場であるから、それに着目する場合には \partial_t と記すことにする。


主バンドルとしての時空多様体の水平持ち上げ

特に、任意の x \in M に対して、x = \sigma_t(\pi(x)) となる t \in \mathbb{R} が一意に存在する。

従って、任意の点 u \in S において、その自明化近傍 u \in U をとり、更に t \in \mathbb{R} を固定して \sigma_t : U \to \pi^{-1}(U) \subset M を考えると、これは u \in UM の局所切断になっていて、「水平持ち上げ」を構成する。


水平持ち上げによる局所座標系

ここで、S 内の点 u = \pi(x) の適宜の近傍における局所座標系 (x^1, \;x^2, \; x^3) を取るなら、t と組み合わさって、x \in M の適宜の近傍における局所座標系 (t, \; x^1, \;x^2, \; x^3) が得られる。接ベクトル空間 この局所座標系に対応する接ベクトル場を (\partial_t, \; \partial_1, \; \partial_2, \; \partial_3) と記す。この接ベクトル場は接ベクトル空間 T(M) の基底となる。また、余接ベクトル空間 T^\ast(M) における (\partial_t, \; \partial_1, \; \partial_2, \; \partial_3) の双対基底を (dt, \; dx^1, \; dx^2, \; dx^3) と記す。


主バンドルとしての時空多様体の接続形式

さて、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} としての時空多様体上の1次形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} \ (\cong \mathbb{R}) が接続形式である必要十分条件は (この場合の「右移動」が \sigma_t であることに注意すれば)

  1. \sigma_t{}^\ast \omega = \omega \circ \sigma_t = \omega, \quad \forall  t \in T
  2. \omega(\mathbf{k}^\ast) = 1

でとなる。


キリングベクトル場とポアンカレ接続 (Einstein synchronization)

時空多様体において、時間性キリングベクトル場 \mathbf{k}^\ast = (k^\mu) と、その共変化余接ベクトル場 \mathbf{k}_\ast = (k_\mu) を使って構成した

\omega = \frac{k_\mu d x^\mu }{k_\nu k^\nu}

M 上の1次形式として、これら2つの条件を満たす (第1条件が成り立っているのは、リー微分の基本的性質 \mathscr{L}_{\mathbf{k}^\ast} \, \mathbf{k}^\ast = 0 と、キリングベクトル場の定義式 \mathscr{L}_{\mathbf{k}^\ast} \, g = 0 から分かる。第2条件は自明) ので、時空多様体における接続を定める。これが「ポアンカレ接続/Poincaré connection」もしくは「Einstein synchronization convention」である (E. Minguzzi "Simultaneity and generalized connections in general relativity" 23 May 2003 参照 。本稿は、この論文に多くを負っている)。

ここで、上記の余接ベクトル空間の基底 (dt, \; dx^1, \; dx^2, \; dx^3) で、このポアンカレ接続を表わすと \omega = dt + \sigma_t{}^\ast\omega となるが、この式の第2項は、底空間 S 上の1次形式とも看做せるから、それを \omega^\prime と記すなら、ポアンカレ接続の表式は \omega = dt + \omega^\prime となり、S 上では \sigma^\ast_t \omega^\prime = \omega^\prime が成り立つ。

また \omega は実1次形式だから、\omega \wedge \omega = 0 となり、従って、\Omega を、この接続形式 \omega に対応する曲率形式とすると d\omega = d\omega^\prime = \Omega - \omega \wedge \omega = \Omega が成り立つことに注意。

一応注意しておくと、この曲率形式 \Omega は、一般相対論などで使われる「曲率テンソル」とは別のものである。

上述のように、一般相対論の通常の議論は、時空多様体を底空間とするフレームバンドルの接続 (つまり、アフィン接続) を扱っている。その構造群は、一般線型群 GL(r, \mathbb{R}) (r = 4) であり、付随するリー代数は、全行列環 M(r, \mathbb{R}) だから、当該フレームバンドルの接続形式 \omega は、r \times r の行列 (\omega_\lambda{}^\mu) で表わせる r^2 個の実1次形式となる。

このフレームバンドルの接ベクトルバンドルに働く r^2 個の実1次形式を、局所座標系による自然標構

s : (x^1, \ldots, x^r) \mapsto \Big(\frac{\partial}{\partial x^1}, \ldots, \frac{\partial}{\partial x^r}\Big)

を用いて時空多様体の接ベクトルバンドル上に引き戻して、時空多様体の局所座標系に対応する余接ベクトル場の基底である実1次形式 dx^1, \ldots, dx^r の線型結合として表わす時に現れるのが所謂接続係数、つまりクリストッフェルの記号 \Gamma^\mu_{\lambda\nu} である。つまり

\omega_\lambda{}^\mu \circ ds = \Gamma^\mu_{\lambda\nu}\, dx^\nu

フレームバンドルにおける曲率形式は、この接続形式 \omega を共変微分 (\Omega = D\omega) したものであってテンソル的2次形式になる。


主バンドルとしての時空多様体のホロノミー、つまりサニャック効果

ここで S 内の区分的に滑らかな閉曲線 C : [a, \; b] \to S ([a, \; b] は実数直線内の閉区間であって C(a) = C(b)) の M 内への水平持ち上げ曲線 _\ast : [a, \; b] \to M を考えると、水平持ち上げの定義により C_\ast 上では omega = 0 であるから

\int_{C_\ast} \omega = \int_{C_\ast} (dt + \omega^\prime) = 0

が成り立つ。

dtC_\ast に沿って積分した \delta t が、接続 \omega の、閉曲線 C に沿ったホロノミー (holonomy) がサニャック効果 (Sagnac effect) であるから、接続 \omega に対応する水平持ち上げを引き起こす S 上の M の切断 sigma : S \to M (\sigma \in \Gamma(M)) を考えると、\sigma_\ast(C) =C_\ast であり、また S 上では、従って C 上では \sigma^\ast_t \omega^\prime = \omega^\prime が成り立つので

\delta t = \int_{C_\ast} dt = -\int_{C_\ast} \omega^\prime = -\oint_C \sigma^\ast \omega^\prime = -\oint_C \omega^\prime

となる。


ボルン座標系でのサニャック効果

ボルン座標系に対して、上記の議論を適用して、ミンコフスキー空間に対して等角速度運動をする座標系内に静止している観測者を起点とする径路のサニャック効果を計算してみよう。

ボルン座標系の線素は [nouse: 英文版ウィキペディア "Born coordinates" 導入部、第1節-第3節翻訳草稿] (2008年8月2日[土]) に見られるが、本稿では、その表式を若干改め、座標を表示する記号は、[nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出] に揃え (従って、符号系も逆転している)、また、真空中の光速度に関しても、1 に正規化せず、[nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出] (2007年9月30日[日]) や [nouse: 等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」] (2008年3月24日[月]) におけるのと同様 c として復活して書くことにして、ボルン座標系 (t, \; r, \; z, \; \theta) の線素を

ds^2 = \left( c^2- r^2 \, \omega^2 \right) \, dt^2 - dr^2 - r^2 \, d\theta^2 - dz^2 - 2 \, r^2 \, \omega \, dt \, d\theta

として、以下議論を進める。

線素の係数部分には時間変数 t が含まれないから、\mathscr{L}_{\partial_t} \, g = 0 となり、また、その「長さ」の平方は、この議論におけるボルン座標系の符号系から当然正となるので \partial_t は時間性キリングベクトル場になる。

つまり、ボルン座標系では、時間性のキリングベクトル場 \partial_t に直交する空間的超平面 T = T_0 を自然に底平面と同一視可能であり、射影 \pi も時間座標を捨てるだけで得られる。この場合、t は大域的な時間そのものだから、リー群のリー代数としてのキリング時間軸と 座標系の時間軸とは同一視できる。

従って、キリングベクトル場は局所座標系で \mathbf{k}^\ast = (1, \, 0, \, 0, \, 0) で表わされ、その共変化余接ベクトル場は \mathbf{k}_\ast = (c^2 - r^2\omega^2, \, 0, \, 0, \, -r^2\omega) と表わされる。当然 k_\nu k^\nu = c^2 - r^2\omega^2 となって、その結果、ポアンカレ接続は

\omega = dt - \frac{r^2 \, \omega}{c^2 - r^2 \, \omega^2}d\theta

となる。

ここで、CS 内の閉曲線とすると、それに沿った、ポアンカレ接続のホロノミー、つまり、サニャック効果は

\delta t = \oint_C \frac{r^2 \, \omega}{c^2 - r^2 \, \omega^2}d\theta

で与えられる。特に Cz 軸を中心軸とする半径 r_0 の円であるなら、それに沿ったサニャック効果は、その円の面積を A = \pi r_0^2 として

\delta t = \frac{2\pi r_0^2 \, \omega}{c^2 - r_0^2 \, \omega^2} = \frac{1}{c^2} \cdot \frac{2\omega A}{1 - \displaystyle\frac{r_0^2 \, \omega^2}{c^2}}

で表わせる。

ここで注意しなければならないことは、\partial_t つまり、キリング時間にはローレンツブーストが係っていることだ。そこで、固有時でのサニャック効果は、

\delta\tau = \delta t \sqrt{1 - \frac{r_0^2 \, \omega^2}{c^2}} = \frac{1}{c^2} \cdot \frac{2\omega A}{\sqrt{1 - \displaystyle\frac{r_0^2 \, \omega^2}{c^2}}} \qquad \delta \tau \approx \delta t \approx \frac{2\omega A}{c^2}

となるが、いづれにしろ、\frac{r_0 \, \omega}{c} \approx 0 である限りは、この値は \delta \tau \approx \delta t \approx \frac{2\omega A}{c^2} と看做せる。これは、円を正方向に廻った場合の固有時間のズレである。この円を負方向に廻る場合の固有時間のズレは、符号が逆になって -\!\frac{2\omega A}{c^2} となる。

通常行なわれているサニャック効果の実験 (サニャック干渉計) では、正逆両方の差が測定されるから、その表式は

2\delta\tau \approx 2\delta t \approx \frac{4\omega A}{c^2}

となる。


曲率形式とサニャック効果のゲージ不変性

ここで、一般論に戻って、S 内の閉曲線 C を再び取り上げる。ただし、微妙な議論を避けるために、z 直交平面への C の投影像はジョルダン閉曲線 (Jordan curve) になっているものとする。

この投影像が「何回 (ただし有限回) か 回転する閉曲線」や「区分的に滑らかな閉曲線」の場合も、「病理的な症例」を除けば、単純な場合の極限をとることで、以下の議論と同じ結論が得られるであろう。

更に、この S 内の部分多様体としての1次元C が、(C^\infty級微分可能)多様体であり、それが S 内のコンパクトで向きづけられた2次元(C^\infty級微分可能)多様体 D の向きを込めた意味で境界になっているものとする。つまり C = \partial であるとすると、ストークスの定理 (Stokes' theorem) により

\delta t = -\oint_C \omega^\prime = -\int_D d\omega^\prime = -\int_D \Omega

であることが分かる。これはつまり、サニャック効果が、「空間」上の主バンドルとしての時空多様体の接続に関して、ゲージ不変量であることを意味する。


ボルン座標系での曲率形式

具体例として、ボルン座標系でのポアンカレ接続 \omega = dt - \frac{r^2 \, \omega}{c^2 - r^2 \, \omega^2}d\theta の曲率形式を計算してみると

\omega^\prime = - \frac{r^2 \, \omega}{c^2 - r^2 \, \omega^2}d\theta \qquad \Omega = d\omega = d\omega^\prime = - \frac{2r\omega}{c^2\Bigl(1 - \displaystyle\frac{r^2\omega^2}{c^2}\Bigr)^2} \, dr \wedge d\theta

となる。これがポアンカレ接続に対応する所謂「場の力」だが、古典的なコリオリ力場に対応していることを見るのは容易だろう。


ボルン座標系での一般的な閉曲線に沿ったサニャック効果

やはりボルン座標系での範囲内ではあるが、ここで、C が円とは限らない場合を考えよう。ただし、この場合でも CS 内のコンパクトで向きづけられた2次元多様体 D の向きを込めた意味で境界になっているものとする。更に、座標の回転速度は十分遅くて \frac{r\omega}{c} \approx 0 である場合に限定すると \Omega \approx - \frac{2r\omega}{c^2} \, dr \wedge d\theta が言えるから、サニャック効果は

\delta t = - \int_D \Omega \approx \int_D  \frac{2r\omega}{c^2} \, dr \wedge d\theta = \frac{2\omega}{c^2} \int_D r \, dr \wedge d\theta

この最後の積分内の項 r \, dr \wedge d\thetar 軸と \theta 軸が張る平面、つまり、z 軸と直交する平面における面積要素である。従って、\int_D r \, dr \wedge d\theta とは、2次元多様体 Dz 軸直交平面への投影、つまり、閉曲線 Cz 軸直交平面への投影が囲む領域の面積に等しい。この面積を A とおくなら、一般的な閉曲線に対するサニャック効果の表式が、やはり

\delta t \approx \frac{2\omega A}{c^2}

で与えられることが分かる。回転方向の正負や固有時間に就いての議論は、C が円の場合と同じだから、やはり同じ式

\delta\tau \approx \delta t \approx \frac{2\omega A}{c^2}, \qquad 2\delta\tau \approx 2\delta t \approx \frac{4\omega A}{c^2}

が成り立つ。


サニャック効果とアハラノフ=ボーム効果

サニャック効果は、通常、光や物質波の位相干渉として検出される。光の場合は、Georges Sagnac が1913年に報告しており (G. Sagnac, "Comptes Rendus de l'Academie des Sciences" Paris. 157, pp.708-710,1410-1413 [1913])、「サニャック効果」の呼称は、彼の名に因む。また、物質波のサニャック効果による位相干渉は Cold Atom Sagnac Interferometer (CASI) として研究されている。(CASI に就いては CASI: Cold Atom Sagnac Interferometer などを参照。ただし、この記事のサニャック効果の説明は、感心できるものではない)。

サニャック効果を、引き起こすのは、コリオリ力場ポテンシャルである。 勿論、コリオリ力は、回転軸 (z 軸) に直交する平面内での運動には働かないが、コリオリ力場ポテンシャルは、効果を及ぼして、光や物質波の位相を変えるのである。

これと類似する現象が電磁気学でも知られている。それが、磁場が存在しない領域を通る荷電粒子の波動関数の位相が、電磁気学的ポテンシャルの影響で、径路に依存して変化すると云う アハラノフ=ボーム効果 (Aharonov-Bohm effect) である。アハラノフ=ボーム効果も構造群が1次ユニタリ群 (1) である主バンドルのホロノミーとして理解される。

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2008年10月31日 (金)

ホロノミー (holonomy) としてのサニャック効果 (Sagnac effect): 数学的準備

[nouse: 英文版ウィキペディア "Born coordinates" 導入部、第1節-第3節翻訳草稿] (2008年8月2日[土]) の「ボルン座標表示への変換」への訳註で書いたように、サニャック効果は時空多様体におけるホロノミー (holonomy) である。そのことを、少し纏めておきたいのだが、今はその余裕が無い。これは、のちのち、改めて考える際の手掛かりとして「泥縄式」に書きまとめたものである。内容に就いては保証しない。用語が、一般的な用法と異なる可能性も排除しない。


微分幾何学のお浚い

以下、取り敢えず、微分幾何学の初歩を御浚いしておこう。以下、「多様体」は C^\infty級構造を有する「実微分可能多様体」であり、「多様体」間の写像も C^\infty級「微分可能写像」であるとする。


微分形式

微分多様体 M の全ての点 x \in M において、接ベクトル空間 T_x(M), \; x \in Mk 個のテンソル積 \bigotimes\limits^k T_x(M) から有限次元実ベクトル空間 V への写像 \omega_x が実複線型性と交代性を備え、さらに x \mapsto \omega_x が微分可能である時 (つまり \omega_x を局所座標表示した時の係数が微分可能である時)、\omegaM 上の値域 V の「k-形式 (或いは「k次形式」) と呼ぶ (「次」を付けたり付けなかったりするが、文脈と口調と書き癖によるだけのことで、気にしないで頂きたい)。

値域V の0次形式とは M から V への微分写像である。値域が実数体 \mathbb{R}k-形式を「実 k-形式」と呼ぶ。実0次形式とは実微分可能関数のことである。実1次形式とは、余接ベクトル場のことである。

なお、一般に微分多様体 M 上での値域 Vk-形式 \theta : T^k(M) \to V は、T(M)k重外積冪空間 \wedge^k T(M) から V への線形写像 \theta : \wedge^k T(M) \to V と同一視できる。特に、値域が \mathbb{R} である実 k-形式は、\wedge^k T^\ast(M) の元である。まぁ、正確には、「M 上の \wedge^k T^\ast(M) の微分可能な切断」などとすべきだろうが、混乱が起こりそうでない限り、こうした書き方をしておく。

しかし、念のため、記号だけでも書いておこう:

\theta が、実 k-形式であること、及び、Vk-形式であることとは、それぞれ \theta \in \Gamma(\wedge^k T^\ast(M)) そして \theta \in \Gamma(\wedge^k T^\ast(M) \otimes V) で表わされる。


外積代数 (Grassmann 代数) の外積に就いての注意

ここで、一般に体 K 上のベクトル空間 Ek 重外積冪空間とは、\mathfrak{S}_kk次対称群、その元 \sigma の符号を \mathrm{sgn} \sigma とした時 A_k = \underset{\sigma \in \mathfrak{S}_k}{\Sigma} \! (\mathrm{sgn} \sigma) \sigma で表わされる k次交代化作用素を Ek 次テンソル積空間に作用させた時の余像 (coimage) である訣だが (つまり A_k : \; \bigotimes\limits^k \! E \to \bigotimes\limits^k \! E を考えた時の  \wedge^k \! E := \; \bigotimes\limits^k \! E/\mathrm{Ker}A_k である訣だが)、 \in \wedge^p \! Et \in \wedge^q \! E との間の外積 s \wedge t \in \wedge^{p+q} \! E の定義には2通りの流儀があるので注意する必要がある。

その第1は、

s \wedge t = \frac{1}{p!q!} A_{p+q}(s \otimes t)

とするものであり、その第2は、

s \wedge t = \frac{1}{(p+q)!} A_{p+q}(s \otimes t)

とするものである。

E の双対空間 Estar に就いても A_k : \; \bigotimes\limits^k \! E^\ast \to \bigotimes\limits^k \! E^\ast から \wedge^k \! E^\ast := \; \bigotimes\limits^k \! E^\ast \! /\mathrm{Ker}A_k を構成し、s \in \wedge^p \! E^\astt \in \wedge^q \! E^\ast とから s \wedge t \in \wedge^{p+q} \! E^\ast を導く際に同様なことが言える。

そして、この2つの「流儀」では

e^\ast{}_1, \ldots, e^\ast{}_i, \ldots, e^\ast{}_k \in E^\ast, \ e_1, \ldots, e_j, \ldots, e_k \in E

に対して、第1の場合は

\langle e^\ast{}_1 \wedge \ldots \wedge e^\ast{}_k, \; e^\ast_1 \wedge \ldots \wedge e^\ast_k \rangle = \mathrm{det}(\langle e^\ast{}_i, \; e_j \rangle)

となり、第2の場合は

\langle e^\ast{}_1 \wedge \ldots \wedge e^\ast{}_k, \; e^\ast_1 \wedge \ldots \wedge e^\ast_k \rangle = \frac{1}{k!} \mathrm{det}(\langle e^\ast{}_i, \; e_j \rangle)

となって、実際に異なっている。

本稿の文脈では、後述の、微分形式の外微分の表式や、接ベクトル場と微分形式との内部積の表式が、この両者では異なるので、留意しなければならない (本稿では第2の場合を採用している)。

ちなみに松島与三「多様体入門」(東京「裳華房」1965年) は「いろいろの公式で無用の定乗数をのぞくため」第1の流儀を採用しており、小林昭七「接続の微分幾何とゲージ理論」(東京「裳華房」1989年) では第2の流儀を採用している。


微分形式の外微分

有限次元ベクトル空間 V を値域とする k-形式 \theta : T^k(M) \to V がある時、値域 V(k+1)-形式 d\theta : T^{(k+1)}(M) \to V であって、接ベクトル場 X_1, \; X_2, \;\ldots ,\; X_{k+1} に対して

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
& & d\theta(X_1, \; X_2, \;\ldots ,\; X_{k+1}) \\<br />
& & \hspace{5mm} = \sum_{i=1}^{k+1}\frac{(-1)^{i-1}}{k+1}X_i(\theta(X_1, \;\ldots ,\; \hat{X_i}, \;\ldots, \;X_{k+1})) \\<br />
& & \hspace{10mm} + \sum_{i < j}\frac{(-1)^{i+j}}{k+1}\theta([X_i, X_j], \; X_1, \;\ldots ,\;\hat{X_i}, \;\ldots ,\;\hat{X_j}, \;\ldots ,\; X_{k+1}) <br />
\end{eqnarray*}<br />

を満たすものを、\theta の外微分と呼ぶ。ただし、ここで \hat{X_i}X_i を除くと云う意味である。また、接ベクトル場 XY とに対する交換子積 (「かっこ積」とも謂う) [X, \; Y] は、微分多様体 M の各点 x \in M において その自明化近傍における任意の 実数値微分可能関数 f に対して [X, \, Y]_xf = X_x(Yf) - Y_x(Xf) で定められる接ベクトル場である。

これを、局所自明化座標を使って明示的に表わすと、2つの接ベクトル場

X = \xi^\lambda \frac{\partial\hfill}{\partial x^\lambda}Y = \eta^\mu \frac{\partial\hfill}{\partial x^\mu}

に対して、交換子積は

[X, \; Y] = (\xi^\mu \frac{\partial\eta^\lambda}{\partial x^\mu} - \eta^\mu \frac{\partial\xi^\lambda}{\partial x^\mu}) \frac{\partial\hfill}{\partial x^\lambda}

となる。

値域 V の(微分可能)写像 (つまり、値域 V の0次形式) F に対し、その外微分 dF は、写像としての F の微分になっている。

一般には、外微分

d : \Gamma(\wedge^k T^\ast(M) \otimes V) \to \Gamma(\wedge^{(k+1)} T^\ast(M) \otimes V)

は、ベクトル空間間の実線型写像であって、次の性質を有する。

\theta 及び \omega を、多様体 M 上の、それぞれ k次、l次の (ただし、1次以上の) 微分形式、fM 上の実関数、\varphi : M \to N を、多様体 M から多様体 N への微分可能写像とする時、次の式が成り立つ。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&d^2 \ (:= d \circ d) = 0 \\<br />
&&d(\theta \circ \varphi) = d\theta \circ \varphi \\<br />
&&d(\theta \wedge df) = d\theta \wedge df \\<br />
&&d(\theta \wedge \omega) = d\theta \wedge \omega + (-1)^k \theta \wedge d\omega<br />
\end{eqnarray*}<br />


微分形式の接ベクトル場による内積 (内部積)

また、接ベクトル場 X と、値域Vk-形式 \theta : T^k(M) \to V がある時、値域V(k-1)-形式 i_X\theta : T^{(k-1)}(M) \to V であって、接ベクトル場 Y_1, \; Y_2, \;\ldots ,\; Y_{k-1} に対して

i_X\theta(Y_1, \; Y_2, \;\ldots ,\; Y_{k-1}) = k\theta(X, \; Y_1, \; Y_2, \;\ldots ,\; Y_{k-1})

を満たすものを、\thetaX による内積 (内部積) と呼ぶ。

微分形式と接ベクトル場の内部積には、次のような性質がある。

共通する多様体 M の上で考えて、\theta 及び \omega を、それぞれ k次、l次の (ただし、1次以上の) 微分形式、f 及び g を実関数、X 及び Y を接ベクトル場とした時、

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&i_X(f\theta + g\omega) = f \,i _X\theta + g \,i _X\omega \\<br />
&&i_X \, f = 0 \\<br />
&&i_X \, df = Xf \\<br />
&&i_X \circ i_Y + i_Y \circ i_X = 0 \\<br />
&&i_X \circ i_X =0 \\<br />
&&i_X(\theta \wedge \omega) = i_X\theta \wedge \omega + (-1)^k\theta \wedge i_X\omega<br />
\end{eqnarray*}<br />

が成り立つ。


積分曲線

多様体 M 上の接ベクトル場 X がある時、常微分方程式の基本定理によって、任意の x \in M に対して、M 上の微分可能な曲線 c : (a, \; b) \to M (ただし、(a, \; b) \subset \mathbb{R}) が存在して、c(0) = x であり、かつ、任意の t \in (a, \; b) に対して、c(t) \in M における、曲線 c の接ベクトル ( 「速度ベクトル」と呼ぶこともある) \dot{c}(t) \in T_{c(t)} が、そこでの接ベクトル場 X の値 X_{c(t)} に一致する (\dot{c}(t) = X_{c(t)}) ようにでき、しかも、そのような曲線は一意に定まる。こうした曲線(の集合)を、接ベクトル場 X の「積分曲線」とよぶ。

任意の x \in M に対して、そこを通る接ベクトル場 X の積分曲線の定義域は無数に存在しうるが、それらは有向半順序集合をなしており、その極大元が存在する。それを (a_x, \; b_x) で表わすことにする。この極大定義域に対応する積分曲線を「極大積分曲線」と呼ぶ。

多様体 M 上の接ベクトル場 X がある時、X の極大積分曲線 は M を重複なく一面に敷き詰める (ただし、X の特異点、つまりベクトル値が 0 になる点では、(極大)積分曲線は1点からなる)。

直前の表現からも分かるように、写像としての「積分曲線」の他に、その像も「積分曲線」と呼んで、微妙な形で混用するが、混用の事実そのものを意識するなら、大きな問題にはなるまい。


1パラメータ局所変換群と無限小変換

多様体 M がある時、積多様体 \mathbb{R} \times M の開集合 W \subset \mathbb{R} \times M があって、任意の x \in M に対して、開区間 I_x := \{t \mid (t, \; x) \in W \} \subset \mathbb{R}0 を含み (0 \in I_x)、また、微分可能写像 \Phi : W \to M が存在して、それから導かれる微分可能写像の集合 \{\varphi_t \mid \varphi_t(x) := \Phi(t, \, x)\} に対して、次の2つの条件が成り立っている時、\{\varphi_t\} を「1パラメータ局所変換群 (1-parameter group of local transformations)」と呼ぶ。

  1. \varphi_0 = id_M (ただし id_M は、M の恒等写像。)
  2. \varphi_0 = id_M \qquad (s, \, t), \; (t, \, \varphi_s(t)), \; (t + s, \, x) \in W である時 \varphi_t \circ \varphi_s = \varphi_{t + s}
1パラメータ局所変換群には、次のような性質がある。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\varphi_t \circ (\varphi_s \circ \varphi_r) = (\varphi_t \circ \varphi_s) \circ \varphi_r \\<br />
&&\varphi_{-t} = \varphi_t{}^{-1} \\<br />
&&\varphi_t \circ \varphi_s = \varphi_s \circ \varphi_t<br />
\end{eqnarray*}<br />

多様体 M の各点 x \in M に対して、\{\varphi_t(x) \mid t \in I_x\}x の「軌跡」と呼ぶ。この軌跡の t = 0 における接ベクトル (速度ベクトル) X_x := \frac{d\varphi_t(x)}{dt}\Big|_{t=0} は、接ベクトル場を構成する。この接ベクトル場を「無限小変換」と呼ぶ。


接ベクトル場と1パラメータ局所変換群

多様体 M における接ベクトル場と1パラメータ局所変換群とは等価な概念である。

つまり、接ベクトル場 X があるなら、任意の x \in M に対して、それを通る 極大積分曲線が、ただ1つ存在するから、それを c_{\phi(x)} と記し、各最大積分曲線の定義域と、その上での最大積分曲線の値との組み合わせ全体の集合を

W := \{(t, \, c_{\phi(x)}(t)) \in \mathbb{R} \times M \mid t \in (a_x, \, b_x), \; x \in M \}

として、W から多様体 M への写像

\Phi : W \to M \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} (t, \, x) \mapsto c_{\phi(x)}(t)

を構成すれば、これから1パラメータ局所変換群が導かれて、それから作られる無限小変換の接ベクトル場は元の接ベクトル場に一致する。

逆に、1パラメータ局所変換群から作られる無限小変換接ベクトル場から構成された1パラメータ局所変換群は、もとの1パラメータ局所変換群と一致する。

或る接ベクトル場は、その対応する1パラメータ局所変換群 \{\varphi_t\}\mathbb{R} \times M の全体に対して存在する時、「完備」であると呼ぶ。

「1パラメータ局所変換群」の「局所」は、\{\varphi_t\} が、全ての実数値 t \in \mathbb{R} に対して存在するとは限らないことに配慮したものなので、完備な接ベクトル場に対しては、「局所」を取って「1パラメータ変換群」と呼んでも構わない。

完備な接ベクトル場 X に対応する1パラメータ変換群 \{\varphi_t\}

\mathrm{exp}\,tX (t \in \mathbb{R})

と記すこともある。

ちなみに、「1パラメータ局所変換群/1パラメータ変換群」は、「1径数局所変換群 (或いはむしろ、局所1径数変換群)/1径数変換群」とか「1助変数局所変換群/1助変数変換群」などと呼ばれることもある。

(完備な) 1パラメータ変換群の場合、任意の t \in \mathbb{R} に対して \varphi_t は、多様体 M の自己微分同相写像になる。


写像の「引き戻し」(pullback) と「押し出し」(pushforward)

ここで、少し寄り道して、微分可能写像の「引き戻し」(pullback) と「押し出し」(pushforward) に就いて、本稿の文脈の範囲内だけに限る形で、大雑把に思い出しておこう。

2つの多様体 MN との間に微分同相写像 \varphi : M \stackrel{\sim}{\to} N がある時、N 上の関数 (本稿では微分可能な実数値関数に話題を限って「関数」と呼ぶ) 、ベクトル場、テンソル場、 微分形式などの (本当に大雑把な言い方で申しわけないが)「数学的対象」を、M 上の同種の「数学的対象」に「自然に」対応させることを「引き戻し」(pullback) と呼ぶ。写像 \varphi による「引き戻し」は、しばしば記号 \varphi^\ast を使って表わされる。

また、逆に、M 上の「数学的対象」を、N 上の同種の「数学的対象」に「自然に」対応させることを「押し出し」(pushforward) と呼ぶ。写像 \varphi による「押し出し」は、しばしば記号 \varphi_\ast を使って表わされる。

関数の引き戻しは簡単に構成できる。N 上の関数 f がある時、それに M の関数 f \circ \varphi を対応させれば良いからだ。つまり \varphi^\ast : f \mapsto f \circ \varphi である。

可換図式を使って、表わすなら

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
   M \ar@{->}[r]^{\varphi}\ar@{->}[d]_{f \circ \varphi}  & N \ar@{->}[dl]^{f}\\<br />
   \mathbb{R}  & \\<br />
}<br />
\end{xy}<br />

となる。

次に接ベクトル場の場合を考えると、まず初歩的なことだが、x \in M の適宜の自明化近傍 U_x と、\varphi(x) \in N の適宜の自明化近傍 V_{\varphi(x)} を取ると U_x = \varphi^{-1}(V_{\varphi(x)}) となるようにできることを思い出しておこう。

この U_x 上で微分可能な関数全体のなすベクトル空間を \Gamma(U_x, \, \mathbb{R}) で表わすと、これは関数同士の積 (f, g \in \Gamma(U_x, \, \mathbb{R}))に対して、(f \cdot g)(x) := f(x)g(x)) が導入できて環 (つまり「代数」) を形成する (このあたりの議論は、環付き空間の構造層の茎を考えた方が良いのだが、ここでは余り細かいことは言わないでおく)。

同様にして V_{\varphi(x)} 上で微分可能な関数全体のなすベクトル空間を \Gamma(V_{\varphi(x)}, \, \mathbb{R}) で表わすと、これらのベクトル空間の間には同型

\varphi^\ast{}_x : \Gamma(V_{\varphi(x)}, \, \mathbb{R}) \to \Gamma(U_x, \, \mathbb{R}) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{f \mapsto f \circ \varphi\}

が存在する。そして、この同型は、U_xV_{\varphi(x)} とにおける制限写像と両立するから、varphi^\ast{}_x は自明化近傍の取り方に依存しない。


さて、x \in M における接ベクトル空間 T_x(M) は、\Gamma(U_x, \, \mathbb{R}) から \mathbb{R} への線型写像のなすベクトル空間の部分空間である (T_x(M) \subset \mathrm{Hom}(\Gamma(U_x, \, \mathbb{R}), \, \mathbb{R}))。つまり x \in M における接ベクトル X_x とは \mathrm{Hom}(\Gamma(U_x, \, \mathbb{R}), \, \mathbb{R}) の元であって、微分性条件

全ての f, g \in \Gamma(U_x, \, \mathbb{R}) に対して X_x(f \cdot g) = X_x(f)g(x) + f(x)X_x(g)

を満たすもののことであり、そうした 点 x \in M での接ベクトル全体が作るベクトル空間が接ベクトル空間 T_x(M) であった。従って、その双対性を用いて、M 上の接ベクトル場 X\varphi による押し出し varphi_\ast X が、次のように定義できる。

\varphi_\ast X \qquad \langle (\varphi_\ast X)_{\varphi(x)}, \, f\rangle = \langle X_x, \, \varphi^\ast f\rangle

この接ベクトル場の押し出しで現れる \varphi_\ast とは、自明化近傍間で考えるなら、ヤコビ行列

J_\varphi = \Bigl(\frac{\partial\varphi_i}{\partial x_j}\Bigr)_{(i=1,\ldots,r,\;j=1,\ldots,r)}

で表わされる (ただし、r は、多様体 M 及び N の次元) \varphi の微分 d\varphi のことであり、逆関数の定理により関係式 d(\varphi^{-1}) = (d\varphi)^{-1} が成り立つ。

更に、余接ベクトル空間 T^\ast_x(M) は、接ベクトル空間 T_x(M) 空間の双対空間だから、N 上の余接ベクトル場 (つまり、1次形式) \theta には、\varphi による引き戻し \varphi^\ast \theta

\langle (\varphi^\ast \theta)_x, \, X_x\rangle = \langle \theta_{\varphi(x)}, \, (\varphi_\ast X)_{\varphi(x)}\rangle

で定義される。

こうした、「引き戻し」・「押し出し」から、共変テンソルの「押し出し」や、反変テンソル・微分形式の「引き戻し」も自然に定義可能である。

ここで、写像 \varphi は、微分同相写像であったから、逆写像 varphi^{-1} : N \to M が存在する訣だが、これについて上記と同様の議論をすると、\varphi^{-1} による、M 上の関数・反変テンソル場・微分形式の引き戻しや、N 上の接ベクトル場・共変テンソル場の押し出しを考えることができるが、これらを \varphi による 関数・反変テンソル場・微分形式の押し出しや、接ベクトル場・共変テンソル場の引き戻しと見なすことができて、それらには、次の関係が存在する。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\varphi_\ast = (\varphi^{-1})^\ast = (\varphi^\ast)^{-1}\\<br />
&&\varphi^\ast = (\varphi^{-1})_\ast = (\varphi_\ast)^{-1}<br />
\end{eqnarray*}<br />

特に、\varphi が、M 上の1パラメータ変換群 \varphi_t であった場合、

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&(\varphi_t)_\ast = (\varphi_{-t})^\ast = (\varphi_t{}^\ast)^{-1}\\<br />
&&\varphi_t{}^\ast = (\varphi_{-t})_\ast = (\varphi_t)_\ast{}^{-1}<br />
\end{eqnarray*}<br />

が言える。


リー微分 (Lie derivative) の幾何学的定義

X 及び \{\varphi_t\} を、それぞれ、多様体 M 上の接ベクトル場と、それに付随する1パラメータ変換群とする。

ここで、\ThetaM 上の、関数・微分形式、又は、接ベクトル場・テンソル場であったとすると、\varphi_t による引き戻し (pulllback) \varphi_t{}^\ast\Theta も、それぞれ、関数・微分形式、又は、接ベクトル場・テンソル場になるので、次のリー微分 \mathscr{L}_X\Theta の定義が意味を持つ。

\mathscr{L}_X\Theta \qquad \mathscr{L}_X\Theta := \frac{d}{dt}(\varphi_t{}^\ast\Theta)\Big|_{t=0} = \lim_{t \to 0}\frac{\varphi_t{}^\ast\Theta - \Theta}{t} = \lim_{t \to 0}\frac{\Theta - (\varphi_t)_\ast\Theta}{t}

特に M 上の 関数 f に対して、

\mathscr{L}_Xf= \lim_{t \to 0}\frac{\varphi_t{}^\ast f - f}{t} = Xf

が成り立つ。

また M 上の接ベクトル場 Y に対し

\mathscr{L}_XY = \lim_{t \to 0}\frac{Y - (\varphi_t)_\ast Y}{t} = [X, \; Y]

が成り立つ。特に

\mathscr{L}_XX = 0


リー微分 (Lie derivative) の代数的定義


微分形式や共変テンソル場のリー微分には、こうした幾何学的な定義の他に、等価な代数的定義もある。つまり、, Y_1, \cdots, Y_kM 上の (k + 1) 個の接ベクトル場とし、\ThetaMk 次の微分形式又は共変テンソル場とすると \Theta のリー微分は、次の式で定義される。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\mathscr{L}_X\Theta(Y_1, \cdots, Y_k) \\<br />
&&\hspace{10mm} = X(\Theta(Y_1, \cdots, Y_k)) - \sum_{j = 1}^{k}\Theta(Y_1, \cdots, [X, \, Y_j], \cdots, Y_k)<br />
\end{eqnarray*}<br />


リー微分と交換子積 (かっこ積)

XYM 上の接ベクトル場とすると

\mathscr{L}_{[X, \, Y]} = \mathscr{L}_X \circ \mathscr{L}_Y - \mathscr{L}_Y \circ \mathscr{L}_X

が成り立つ。このリー微分 (とリー微分からなる式) は、接ベクトル場を含む共変テンソル場および関数 (0次形式) を含む微分形式に掛けることができる。


リー微分と微分形式の内部積・外微分との関係

多様体 M での、リー微分と、1次以上の微分形式に適用される内部積・外微分には次の関係が存在する (ただし、XYM 上の接ベクトル場)。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&i_{[X, \, Y]} = \mathscr{L}_X \circ i_Y - i_Y \circ \mathscr{L}_X \\<br />
&&\mathscr{L}_X = i_X \circ d + d \circ i_X = (i_X + d)^2 \\<br />
&&\mathscr{L}_X \circ d = d \circ \mathscr{L}_X<br />
\end{eqnarray*}<br />

当然の事ながら、両辺の式も1次以上の微分形式に掛けられる。


ファイバーバンドル

全空間 が E, 底空間が B, 全空間から底空間への射影が \pi : x \in E \mapsto \pi(x) \in B, 標準ファイバーが F (u \in B 上の個別ファイバーは \pi^{-1}(u) \ \equiv F_u (\cong F)), 構造群が T であるファイバーバンドルを P\{E, \; B, \; \pi, \; F, \; T\} と記すことにする。構造群は、ファイバー F に左側から効果的に作用し F の位相変換群になっている。

直感的には、 構造群は、ファイバー の細い束 (bundle) 同士がどのように (一般的には捻じれながら) 繋がっているのかを規定する。

本稿では、特別の指定がない限り、全空間、底空間、ファイバーその他の「空間」の全てが(微分可能)多様体であり、射影その他の「空間」間の写像が微分可能写像である場合に話題を限定する。

ファイバーバンドル P\{E, \; B, \; \pi, \; F, \; T\} において、底空間 B の開集合 U が、その上での同相写像 \varphi : \pi^{-1}(U) \stackrel{\sim}{\to} U \times F が存在する場合には、自明化開集合と呼び、同相写像 \varphi を自明化写像と呼ぶことにする (多様体における「自明化」とは意味が異なるので注意。ただし文脈が明確なら混同することはないだろう)。また (U, \; \varphi) の組み合わせを自明化マップと呼ぶ。ファイバーバンドルでは、その底空間 B には自明化開集合からなる開被覆 \{U_\alpha, \; \alpha \in A\} が存在する。こうした開被覆を自明化開被覆と呼び、それに付随する自明化マップの全体 \{U_\alpha, \; \varphi_\alpha, \; \alpha \in A\} を、自明化アトラスと呼ぶ。

当然、B の各点 u には、同相写像 \varphi : \pi^{-1}(U) \stackrel{\sim}{\to} U \times F が存在するような近傍 u \in U が存在する (本稿では「近傍」は全て「開近傍」であるものとする)。これを「自明化近傍」と呼ぶ。

自明化を可換図式で表わすと次のようになる (proj_1 は直積の第1成分への射影)。

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
   \pi^{-1}(U) \ar@{->}[r]^{\varphi}\ar@{->}[d]_{\pi}  & U \times F \ar@{->}[dl]^{proj_1}\\<br />
   U  & \\<br />
}<br />
\end{xy}<br />


構造群に就いて

構造群に就いて、基本的なことを書いておく。

まず、底空間に2つの自明化マップ (U_\alpha, \; \varphi_\alpha)(U_\beta, \; \varphi_\beta) とがあって、その自明化開集合には共通点があるとする。つまり、U_\alpha \cap U_\beta \neq \emptyset である時には、写像

\varphi_\beta \circ \varphi_\alpha{}^{-1} : U_\alpha \cap U_\beta \times F \to U_\alpha \cap U_\beta \times F

が存在するが、この写像は直積の成分を使って

\varphi_\beta \circ \varphi_\alpha{}^{-1} : (u, \; f) \mapsto (u, \; t_{\beta\alpha}(u)f)

と表わせる。この

t_{\beta\alpha} : F \to F

を推移関数 (transition function) と呼ぶが、そうした推移関数の全体が群をなすと云うのが、構造群の趣旨である (自明化マップ、ひいては、自明化アトラスのとり方に応じて推移関数は変化しうるので、正確には同値関係を考慮して、その同値類としてファイバーバンドルを捉える必要が有る。これ以上微妙な議論は諦めるが、以下の記述で、アトラスの取り替えを行なっている際には、暗黙のうちに同値なアトラスを採用しているのであって、ファイバーバンドルとしては同一であると御理解していただきたい)。

「構造群」が「群」として成立するためには、ファンバーバンドルの推移関数は、次の性質を持たねばならない (1番目の式で、id_FF での恒等写像。また、3番目の性質は「コサイクル性 "cocycle condition"」と呼ばれ、U_\alpha \cap U_\beta \cap U_\gamma \neq \emptyset が前提されている)。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
t_{\alpha\alpha}(u) = id_F \\<br />
t_{\alpha\beta}(u) = t_{\beta\alpha}{}^{-1}(u) \\<br />
t_{\alpha\gamma}(u) = t_{\alpha\beta}(u) \circ t_{\beta\gamma}(u)<br />
\end{eqnarray*}<br />

これを、構造群 T のファイバー F への作用の形で表現すると、次のようになる。

  1. e \in TT の単位元とすると ef = f, \ \forall f \in F
  2. \forall t \in T, \; \forall f, \; f^\prime \in F について f^\prime = tf なら f = (t^{-1})f^\prime
  3. \forall t, \; t^\prime \in T, \; \forall f \in F, \ t(t^\prime)f = (tt^\prime)f

構造群 T がファイバー F に左から作用するとは、このコサイクル性のことである。

ファイバーバンドルは、「ファイバー束」とも呼ばれる。また、本稿では敢えて採用していない記法だが、ファイバーバンドルの構造群は、通常、記号 G で表わされる。そして、ファイバーバンドルは、構造群を有することを強調して「G バンドル」・「G 束」とも呼ばれることも多い。これは、構造群 (structure group) が 「ゲージ群 (gauge group)」とも呼ばれるためである。

底空間 B の 自明化開集合 U と、自明化写像

\varphi : \pi^{-1}(U) \stackrel{\sim}{\to} U \times F

を考える。ここで、ファイバ F 内の1点 f \in F を取って、写像

\sigma : U \to \pi^{-1}(U) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{u \mapsto \varphi^{-1}(u, f)\}

を作ると、それは U 上の切断になっている。


主バンドル

主ファイバーバンドル (主バンドル) とは、ファイバーバンドルであって、構造群 T はリー群 (Lie group) であり、ファイバー F は、構造群と位相空間としては一致していて、構造群はファイバーに右からも作用する (作用される側が、作用する群と同一である場合、「右からの作用」を「右移動」と言うこともある。この場合は、「左からの作用」は「左移動」になる) ものの、ファイバー自体は、内的群構造が捨象されているものである。これを E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} と書いたり、或いは、主バンドルであることを明示するために E\{B, \; \pi, \; F, \; T\}_{PB} と書くことにする。

「右から作用する」あるいは「右移動」の内容を式で表わすと、底空間 B の自明化アトラス \{U_\alpha, \; \varphi_\alpha, \; \alpha \in A\} であって、各 U_\alpha において

\forall u \in U_\alpha, \ \forall t,\; t^\prime \in T, \ \varphi^{-1}(u, \; t)t^\prime = \varphi^{-1}(u, \; tt^\prime)

が成り立つものが存在すると云うことである。これは、簡単には (ut)t^\prime = u(tt^\prime) と書ける。容易に分かるように、この式は、u \in B に限る必要なく、f \in F であっても ((ft)t^\prime = f(ft^\prime))、x \in E であっても成り立つ ((xt)t^\prime = x(tt^\prime))。

主バンドル E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} にあっては、ファイバーと構造群とを同一視した記法も可能である。その場合、標準ファイバーは T、個別ファイバーは T_x などと記されることになる。特に、自明化開集合 U 上の自明化写像は、\varphi : \pi^{-1}(U) \stackrel{\sim}{\to} U \times T と書ける。そして、この自明化写像を使って、U 上の切断

\sigma : U \to \pi^{-1}(U) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{u \mapsto \varphi^{-1}(u, e)\}

(但し、e は、ファイバーとしての T の単位元) が構成できる。

逆に、主バンドル E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} にあっては、底空間 B の開集合 U 上に切断

\sigma : U \to E, \; \pi \circ \sigma = id_U

(但し、id_U は、U 上の恒等写像) があるなら、写像

\varphi : \pi^{-1}(U) \to U \times T

\varphi^{-1} (u, \; t) := \sigma(u)t

で定義することで、U 上の自明化写像を構成できる。

主バンドル E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} にあっては、大域的な自明化写像が存在することと、積バンドル B \times F \; (\equiv B \times T) に同型であることとは、等価である。ただし、主バンドルでの大域的な自明化写像は、存在するとは限らない。つまり、主バンドル E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} は、積バンドル B \times F \; (\equiv B \times T) に同型とは限らない。


主バンドルの例

リー群 tilde{T} を、その閉部分群 (リー部分群になる) T で割った等質空間 \tilde{T}/T を作ると、自然な射影 \pi : \tilde{T} \to \tilde{T}/T が得られ、T は、等質空間 \tilde{T}/T に左からも右からも自然に作用する。この時、\tilde{T}\{\tilde{T}/T, \; \pi, \; T, \; T\} は主バンドルとなる。

多様体に限らない弧状連結の位相空間 B に対する、所謂「正規被覆空間」("regular covering space") C と、射影 p : C \to X は、主バンドルをなし、その構造群は \pi_1(X)/p_\ast(\pi_1(C)) である。(ここで、\pi_1 は空間の基本群を表わす。)


ベクトルバンドル

ベクトルバンドルとは、ファイバーバンドルであって、標準ファイバーは r次元実ベクトル空間 V であり、構造群が一般線型群 GL(V) \cong GL(r, \; \mathbb{R}) であるようなものである。これを E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} (E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(r, \; \mathbb{R}) \})、或いは、ベクトルバンドルであることを明示するために E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} と書くことにする。

ベクトルバンドルには、底空間の各点 u \in B に対して、個別ファイバー V_u \equiv \pi^{-1}(u) の原点を対応させる大域的な切断が存在する。これを「ゼロ切断」と呼ぶ。

ベクトルバンドルとして代表的なものには、多様体 M があった時の、その接ベクトル空間 T_x(M) 全体が作るものと、余接ベクトル空間 T^\ast_x(M) 全体が作るものとがある。それぞれを「接ベクトルバンドル」・「余接ベクトルバンドル」とよび、T(M)
, T^\ast(M) などと記す。接ベクトルバンドルの「接続」(後述) は「アフィン接続」(affine connection)と呼ばれる。

特に、主バンドル E\{B, \; \pi, \; F, \; T\} がある時、全空間 E 及び底空間 B の夫々を底空間とする接ベクトルバンドル T(E) 及び T(B) 、余接ベクトルバンドル T^\ast(E) 及び T^\ast(B) が存在する。


フレームバンドル

ベクトルバンドル E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} がある時、底空間の各点 x \in B 上のファイバー E_x の順序付けられた基底の全体を L_x(B) とする (各基底は、r = \mathrm{dim}(V) として線型同型 l : \mathbb{R}^r \to E_x と等価である)。こうした L_x(B) 全体の集合

L(B) = \underset{x \in B}{\bigcup} L_x(B)

B 上の主バンドルになる (構造群は GL(r, \; \mathbb{R}))。

これをフレームバンドル又は枠バンドルと言う。特に、ベクトルバンドルが、ある多様体 M の接ベクトルバンドル T(M) から構成したフレームバンドルは「接フレームバンドル」(接枠バンドル) と呼び、F(M) とか GL(M) などと記す。接フレームバンドルの「接続」(後述) のことも、接ベクトルバンドルの場合と同様に「アフィン接続」と呼ばれる。

ベクトルバンドルと、それから構成されたフレームバンドルは「同伴」関係にある (「同伴」に就いては後述)。


内積を有するベクトルバンドル

ベクトルバンドル E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(r, \; \mathbb{R}) \} の各個別ファイバー V_u に (C^\infty級の) 正定値対称双線型形式

g_x : V_x \otimes V_x \to \mathbb{R}

が与えられている時、ベクトルバンドル E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(r, \; \mathbb{R}) \} は「内積を有する」と云い、各点 x \in Mg_x を対応させる切断を g などで表わして (つまり g \in \Gamma(B, \, V^\ast \otimes V^\ast))、そのベクトルバンドルの「内積」と呼ぶ。


計量・擬リーマン多様体・リーマン多様体

多様体 M からは、接ベクトルバンドル

T(M)\{M, \; \pi, \; T_x(M), \; GL(r, \, \mathbb{R})\}

(ただし、r は、M の次元)及び、余接ベクトルバンドル

T^\ast(M)\{M, \; \pi, \; T^\ast_x(M), \; GL(r, \, \mathbb{R})\}

とが構成されるが、そこに非退化の2次対称反変テンソル場

g \in \Gamma(M, \, T^\ast(M) \otimes T^\ast(M))

が存在する時、そのテンソル場を「計量テンソル」或いは単に「計量」と呼ぶ。

計量を有する多様体を「擬リーマン多様体」と呼び (M, \, g) で表わす。(後述の計量の表し方を先回りして使うなら、擬リーマン多様体を ((M, \ g_{\alpha\beta})) で表わすことも可能である)。

計量テンソルは、接ベクトルバンドル T(M) 2個のテンソル積から実数体 \mathbb{R} への非退化対称双線型写像

\qquad g : T(M) \otimes T(M) \to \mathbb{R}

或いは、個別ファイバー上で表現するなら

g_x : T_x(M) \otimes T_x(M) \to \mathbb{R}

として捉えることもできる。この双線型写像や、それに付随する2次形式も「計量」と呼ぶことがある。

さらに、局所自明化座標で考えるなら、計量テンソルは2個の添え字を使って、正方行列 \{(g_{\alpha\beta})_x\}_{x \in M} と表わすこともできる。この場合、計量テンソルの対称性は (g_{\alpha\beta})_x = (g_{\beta\alpha})_x, \ \forall x \in M と云うことであり、非退化であることは \mathrm{det}(g_{\alpha\beta})_x \ne 0, \ \forall x \in M で表わせる。

擬リーマン多様体の計量を表わす双線型形式が内積である時 (つまり、正定値 \mathrm{det}(g_{\alpha\beta})_x > 0, \ \forall x \in M である時) は、特に「リーマン計量」と呼ばれ、その擬リーマン多様体は「リーマン多様体」と呼ばれる。


計量とキリングベクトル場

擬リーマン多様体 (M, \, g) 上のベクトル場 X

\mathscr{L}_Xg = 0

を満たす時、そのベクトル場を「キリングベクトル場 (Killing vector field)」と呼ぶ。

直感的には、キリングベクトル場とは、その方向に移動しても計量 g が変化しないようなベクトル場のことである。


その他のファイバーバンドル (球面バンドルと、単位接バンドル)

主バンドルには、ファイバーが n-球面 (S^n) 、構造群が O(n+1) となるものも存在する。これを「n-球面バンドル」(或いは、単に「球面バンドル」) と呼ぶ。接ベクトル空間にバナッハノルム (Banach norm) が存在す多様体にあっては、接ベクトル空間内の単位球をファイバーとする主バンドルが構成できる。これを「単位接バンドル」と呼ぶ。


層の説明は簡単に済ませる

層 (sheaf) に関係する説明はなるべく簡単に済ます。厳密な議論をするには条件を成るべく一般的にして (つまり圏論の枠組内で) しなければならず、基本的に C^\infty級の多様体のみを扱っている本稿に馴染まないからである。


圏 (小規模圏・大規模圏・局所小規模圏・米田の補題・アーベル圏)

(category) についての定義は省略する。 「小規模圏」(あるいは「小さな圏」、「小圏」) とは、対象の全体と射の全体とが共に集合となるような圏のことである。小規模圏ではない圏を「大規模圏」(あるいは「大きな圏」) と呼ぶが、そのうち特に、任意の2つの対象間の射全体が集合になる場合は、「局所小規模圏」(あるいは「局所的に小さい圏」) と呼ぶ ("Glossary of category theory - Wikipedia, the free encyclopedia" を参照)。

局所小規模圏では米田の補題 (Yoneda lemma) が成立する。

アーベル圏」(Abelian category) の定義も省略する。

アーベル圏は、零対象 (\mathbf{0} と記すことにする)、核/余核、像/余像、単射・全射などの概念、従って完全系列を、ひいてはコホモロジーを論じうるので重要である。また、アーベル圏では、スネーク・レンマ (snake lemma)、ファイヴ・レンマ (five lemma)、ナイン・レンマ (nine lemma, "3 \times 3 lemma" とも言う) が成り立つ。

可換群の全体、有限生成可換群の全体、有限可換群の全体はアーベル圏をなす。

或る環上の左加群 (left module) の全体も、右加群 (right module) の全体も共にアーベル圏をなす。特に、或る体の上のベクトル空間の全体は、アーベル圏をなす。

或る可換ネーター環上の有限生成加群全体は、アーベル圏をなす。特に、或る体の上の有限次元ベクトル空間全体はアーベル圏をなす。

単位元を有する環付き空間 (後述) 上の加群の圏は、アーベル圏をなす。

アーベル圏に関する決定的な結果を述べておくと、Mitchell の埋め込み定理 によって任意の小規模アーベル圏に対して、或る環上の (左/右) 加群 (modules) のなす圏 (当然アーベル圏) が存在して、当該アーベル圏から当該加群圏への「忠実/faithful」・「充満//full」・「完全/exact」な関手が存在する。つまり小規模アーベル圏は、或る環上の加群のなす圏の充満部分圏と同一視できる。


前層

位相空間 X の開集合全体が作る半順序集合 (partially ordered set) の圏 (category) \mathcal{O}(X) から圏 \mathcal{C} への反変関手 (contravariant functer) F を「前層」\mathcal{F} と呼ぶ。

前層の値域となる圏は、通常は、具象圏/concrete category、つまり集合のなす圏への「忠実/faithful」な忘却関手 (forgetful functor) が存在するような圏である。以下の議論で、前層の値域はこの具象圏に限定される。

この時、X の開集合 U に対する関手 F の値 F(U) を、開集合 U 上の \mathcal{F} の切断と呼び、\mathcal{F}(U)\Gamma(U, \; \mathcal{F}) で表わすことがある。さらに、前層そのものを \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda などのように記すことにする。

また \mathcal{O}(X) の包含写像 i_V{}^U : U \hookrightarrow V, \ U \subseteq V, \ U, V \in \mathcal{O}(X) の反変関手 F による像 F(i_V{}^U) が制限写像 \rho_V{}^U である。従って、次の性質を有する。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\rho_U{}^U = id_U, \ \forall U \in \mathcal{O}(X) \\<br />
&&\rho_W{}^U = \rho_W{}^V \circ \rho_V{}^U, \ \forall W \subseteq U \subseteq V, \ (U, V, W \in \mathcal{O}(X)) <br />
\end{eqnarray*}<br />


前層の例

多様体 M の開集合 U \in \mathcal{O}(M) 上の実数値 (C^\infty級) 関数全体の集合を \mathcal{A}(U) と書くと、\mathcal{A} := \{\mathcal{A}(U_\lambda), \ U_\lambda \in \mathcal{O}(M)\} (これを \{\mathcal{A}(U_\lambda)\}_\lambda と書くことにする) はM 上で、単位元1を有する可換環の前層をなす。

多様体 M の開集合 U \in \mathcal{O}(M) から別の多様体 N への微分可能写像全体の集合を \mathcal{N}(U) とすると \{\mathcal{N}(U_\lambda), \ U_\lambda \in \mathcal{O}(M)\} (これを \{\mathcal{N}(U_\lambda)\}_\lambda と書くことにする) はM 上の前層をなす。

2つの多様体 MN とで、全射 p : M \to N がある時、N の開集合 V \in \mathcal{O}(N) 上の切断全体の集合 \Gamma(V, \; M) とすると \{\Gamma(V_\lambda, \; M), \; V_\lambda \in \mathcal{O}(N)\} (これを \{\Gamma(V_\lambda, \; M)\}_\lambda と書くことにする) は前層をなす。


前層の茎及び芽の定義

位相空間 X の開集合全体は、半順序集合 (partially ordered set) の圏 (category) \mathcal{O}(X) を構成するが、位相空間 X の任意の1点 x \in X の開近傍全体の集合も半順序集合をなす。これを \mathcal{O}_x(X) と記すことにする。

x \in X の開近傍が作る半順序集合 \{U_{(x, \; \lambda)}\}_{\lambda \in \Lambda} の順序の向きを

U_{(x, \; \lambda)} \le U_{(x, \; \mu)} \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} U_{(x, \; \lambda)} \supseteq U_{(x, \; \mu)}

で定めるなら、この半順序集合は右に有向となる。

ここで、X 上に前層 \mathcal{F} を考えて、点 x \in X の近傍 U_x 上の \mathcal{F} の切断 \mathcal{F}(U_x) \ (= \Gamma(U_x, \; \mathcal{F})) を取った時、この右に有向な半順序に就いての \mathcal{F}(U_x) の帰納極限 (前層の値域が集合の圏ならば、帰納極限は存在する)

\mathcal{F}_x := \varinjlim_{U_x \in \mathcal{O}_x(X)} \mathcal{F}(U_x)

を前層 \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambdax \in X 上の「茎 (stalk)」と呼び \mathcal{F}_x と記す。この時、元 f \in \mathcal{F}(U) に対応する、茎 \mathcal{F}_x の元を、元 f の点 x における「芽 (germ)」と呼び、f_x で表わす。


帰納極限と射影極限の用語上の注意

帰納極限の双対的な概念を射影極限と言う。

集合の圏は、帰納極限・射影極限に就いて閉ぢているが、それ以外でも、群の圏、可換群の圏、或る環上の加群の圏、位相空間の圏、位相群の圏は、帰納極限・射影極限に就いて閉ぢている。このように圏が極限操作に就いて閉ぢていることを「完備」であると言う。

帰納極限は、「帰納的極限」、「順極限」、「直極限」と呼ばれることもあり、射影極限は「射影的極限」、「逆極限」と呼ばれることもあるが、圏論の語法に準ずるなら、「帰納極限」は「余極限」、「射影極限」は「極限」と呼ばれるべきものである。


層の定義

X の任意の開集合 U と、その任意の開被覆 \{U_\lambda\}_\lambda に対して、前層 \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda において、次の系列が完全である時、その前層を「層 (sheaf)」と呼ぶ。

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
\mathcal{F}(V) \ar[rr]^-{\prod_\alpha\rho_\alpha} && \prod_\alpha\mathcal{F}(V_\alpha) \ar@<0.5ex>[rr]^-{\prod_{\alpha\beta}\rho^\alpha_{\alpha\beta}} \ar@<-0.5ex>[rr]_-{\prod_{\alpha\beta}\rho^\beta_{\alpha\beta}} && \prod_{\alpha\beta}\mathcal{F}(V_\alpha \cap V_\beta)<br />
}<br />

言い換えると、\rho^\alpha_{\alpha\beta}(f_\alpha ) = \rho^\beta_{\alpha\beta}(f_\beta ) を満たすような

(\ldots , f_\alpha , \ldots , f_\beta , \ldots ) \in \prod_\alpha\mathcal{F}(U_\alpha )

が存在する時は、f_\alpha = \rho_\alpha (f) となる f \in \mathcal{F}(U) が必ずただ1つ存在すると云うことである。


前層の層化

前層 \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda がある時、その茎全体の集合

\tilde{\mathcal{F}} := \bigcup_{x \in X} \mathcal{F}_x

に、その部分集合であって、次のような条件を満たす芽 f_x の集合を開集合の基とすることで、位相を与えることができる。

\forall U \in \mathcal{O}(X), \ \tilde{U} := \{f_x | \; f \in \mathcal{F}(U), \; x \in U\}

この位相を与えた時、\tilde{\mathcal{F}} は層となる。この操作を、前層 \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda の「層化」と呼ぶ。得られる層を「前層の芽の層」或いは、本稿では「前層 \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda に同伴する層」と呼ぶ。

前層 \mathcal{F} を層化する位相とは、茎全体の集合 \tilde{\mathcal{F}} に対し、その底空間 X の任意の開集合 U \in \mathcal{O}(X) に就いて、その上での \tilde{\mathcal{F}} の「切断」が

\tilde{s} := x \mapsto s(x), \ \forall x \in U, s \in \mathcal{F}(U)

で構成できるが、こうした「切断」の構成を、底空間 X の全ての開集合 U \in \mathcal{O}(X) と、そこでの前層の値 \mathcal{F}(U) の要素 s に対して行なって得られる全ての \tilde{s} が連続となるような、一番粗い位相のことである。

更に言い換えると、茎全体の集合 \tilde{\mathcal{F}} を層化する位相の開集合 W とは、底空間 X の任意の開集合 U \in \mathcal{O}(X) と、そこでの前層 \mathcal{F} の値 \mathcal{F}(U) の任意の元 s \in \mathcal{F}(U) が引き起こす \tilde{\mathcal{F}} の切断 \tilde{s} に対して、底空間 X の部分集合 \{x | \; x \in U, \tilde{s}(x) \in W\} が、X の開集合になっているようなもののことである。

\mathcal{F} は、それを前層 \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{F})\}_\lambda と捉えて、それを層化してえられる芽の層は、元の層に一致する。

\mathcal{F} にあっては、底空間 X の各点 x \in X の上の芽 f_x を、その点 x に対応させる射影 p : f_x \mapsto x により、層 \mathcal{F} と、底空間 X とが局所同相になる。この性質が層の定義として用いられることがある (2つの位相空間 FX との間に連続な全射 p : F \to X があって、p により FX とが局所同相になる時、\{F, \; X, \; p\} を「層」と呼ぶ)。


アーベル圏と前層/層

小規模圏からアーベル圏への共変関手の全体も、反変関手の全体も、やはりアーベル圏となる。特に、或る位相空間上にあって、アーベル圏に値を持つ前層全体がなす圏は、アーベル圏になる。更に限定して、或る位相空間上にあって、可換群を値に持つ前層 (簡単に、「可換群の前層」と呼ぶ) 全体はアーベル圏をなす。

また、或る位相空間上にあって、可換群に値を持つ層 (簡単に、「可換群の層」) 全体はアーベル圏をなす。


圏での入射的対象・射影的対象

或る圏 \mathcal{C} の対象 I が、その圏 \mathcal{C} 内の全ての単射 \mathbf{0} \to A \stackrel{\alpha}{\to} A^\prime と、全ての射 \iota : A \to I に対し、射 \iota^\prime : A^\prime \to I が存在して、\iota = \iota^\prime \circ \alpha となる時、対象 I を「入射的 (inductive)」であると言う (「単射的」であると言うこともある)。

これは、射

\mathrm{Hom}_\mathcal{C}(A^\prime, \; I) \to \mathrm{Hom}_\mathcal{C}(A, \; I) \ \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \ \{\iota^\prime \mapsto \iota^\prime \circ \alpha\}

が全射であると云うことである。このことは反変関手 \mathrm{Hom}_\mathcal{C}(-, \; I) が単射を全射に移すと云うことであるが、アーベル圏に限定するなら完全系列

\mathrm{Hom}_\mathcal{C}(A^\prime, \; I) \to \mathrm{Hom}_\mathcal{C}(A, \; I) \to \mathbf{0}

が成立する訣だから \mathrm{Hom}_\mathcal{C}(-, \; I) は完全関手になる。

「入射的対象 (inductive object)」 の双対的な概念を「射影的対象 (projective object)」 と呼ぶ。

或る環上の加群のなす圏での入射的対象を「入射的加群 (inductive module)」(又は「入射加群」) と呼ぶ。その双対概念は「射影的加群 (projective module)」又は「射影加群」である。


入射対象を十分豊富に持つ圏

或る圏が、その任意の対象 X に対して、入射対象 I が存在して、X から I への単射が存在する場合、その圏を入射対象を「十分豊富に持つ (to have enough injectives) 」 (「十分豊富に有する」) と言う。

或る環上の加群がなす圏は、入射対象を十分豊富に有する。

或る位相空間上の可換群の層は、入射対象を十分豊富に有する。

入射対象を充分豊富に持つアーベル圏では、所謂「入射分解」が可能になる。つまり、任意の対象 \mathcal{F} に対して、完全系列

\mathbf{0} \to \mathcal{F} \to \mathcal{I}^0 \to \mathcal{I}^1 \to \mathcal{I}^2 \to \cdots

(ただし \mathcal{I}^q, \ q = 0, \; 1, \; 2, \; \cdots は入射対象) が存在する。


可換群の層の圏における入射層・脆弱層・柔軟層・非輪状層・細質層

或る位相空間上の可換群の層の圏における入射対象を「入射的層」又は「入射層」と呼ぶ。入射層は、「脆弱 (flabby)」(底空間内の開集合上の切断が、大域切断に延長できる層) で、「柔軟 (soft)」(底空間内の閉集合上の切断が、大域切断に延長できる層) で、「非輪状 (acyclic)」(「非輪状層」とは、「高次層係数コホモロジーが消える層のこと」で、層係数コホモロジーの概念が必要だが、ここでは拘らずに使うことにする) である。

脆弱層は、柔軟かつ非輪状である。

ハウスドルフ・パラコンパクトな底空間上では、柔軟層は非輪状である。

ハウスドルフ・パラコンパクトな底空間上の層が「1の分割」を許す時、その層を「細質層 (fine sheaf)」と呼ぶ。細質層は、柔軟であり、従って非輪状である


層係数コホモロジー

位相空間 X 内の部分集合の空でない集合 \Phi で、次の3条件を満たすものを考える

  1. A \in \Phi なら AX 内の閉集合である。
  2. A \in \Phi があり、また X の閉集合 B がであって、B \subset A であるなら、B \in \Phi である。
  3. A \in \Phi かつ B \in \Phi であるなら、A \cup B \in \Phi である。

位相空間 X 上の可換群層 \mathcal{F} の大域切断 s \in \Gamma(X, \; \mathcal{F}) であって、その台が \Phi に含まれるものの全体を \Gamma_\Phi(\mathcal{F}) で表わす (特に、\PhiX の閉部分集合全体であるときは、\Phi を省略して \Gamma(\mathcal{F}) と記す)。

この \Gamma_\Phi は、位相空間 X 上の可換群層がなす圏 \mathcal{C}^X から可換群のなす圏 \mathbf{Ab} への左完全共変関手である。従って、\Gamma_\Phi の右導来関手

R^q\Gamma_\Phi : \mathcal{C}^X \to \mathbf{Ab}, \ (q = 0, \; 1, \; 2, \; \cdots)

が定義可能である。この時

H^q{}_\Phi(X, \; \mathcal{F}) := R^q\Gamma_\Phi(\mathcal{F})

と書いて、これを台の族 \Phi を有し、「層 \mathcal{F} を係数とする q次コホモロジー群」(簡単に、「層\mathcal{F} 係数 q次コホモロジー群」)と呼ぶ。


層の入射分解とコホモロジー群

位相空間 X 上の可換群層がなす圏 \mathcal{C}^X の元 (つまり X 上の可換群層) \mathcal{F} \in \mathcal{C}^X に対し、やはり \mathcal{C}^X の元であって、非輪状の層 \mathcal{L}^q, \ (q = 0, \; 1, \; 2, \; \cdots) があって、完全系列

\mathbf{0} \to \mathcal{F} \to \mathcal{L}^0 \to \mathcal{L}^1 \to \mathcal{L}^2 \to \cdots

が成立する時、これから誘導される鎖複体

\Gamma_\Phi(\mathcal{L}^0) \stackrel{d^0}{\to} \Gamma_\Phi(\mathcal{L}^1) \stackrel{d^1}{\to} \Gamma_\Phi(\mathcal{L}^2) \stackrel{d^2}{\to} \cdots

q次コホモロジー群が H^q{}_\Phi(X, \; \mathcal{F}) に一致する。つまり

H^q{}_\Phi(X, \; \mathcal{F}) = \mathrm{Ker} \; d^q / \mathrm{Im} \; d^{q-1}, \ (q = 0, \; 1, \; 2, \; \cdots)

ただし、d^{-1} は零射とする。

位相空間 X 上の可換群層がなす圏 \mathcal{C}^X は、入射対象を豊富に有するので、任意の可換群層 \mathcal{F} \in \mathcal{C}^X には、所謂「入射分解」

\mathbf{0} \to \mathcal{F} \to \mathcal{L}^0 \to \mathcal{L}^1 \to \mathcal{L}^2 \to \cdots

が存在する (ここで \mathcal{L}^q \ (q = 0, \; 1, \; 2, \; \cdots) は入射対象であり、従って非輪状である)。


可換群の前層と層とにおける完全系列

可換群の前層の完全系列

\mathbf{0} \to \{\mathcal{E}(U_\lambda)\}_\lambda \to \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda \to \{\mathcal{G}(U_\lambda)\}_\lambda \to \mathbf{0}

つまり

\mathbf{0} \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{E})\}_\lambda \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{F})\}_\lambda \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{G})\}_\lambda \to \mathbf{0}

がある時には、その芽の層に就いて、可換群の層の完全系列

\mathbf{0} \to \tilde{\mathcal{E}} \to \tilde{\mathcal{F}} \to \tilde{\mathcal{G}} \to \mathbf{0}

が成立する。

逆に、可換群の層の完全系列

\mathbf{0} \to \mathcal{E} \to \mathcal{F} \to \mathcal{G} \to \mathbf{0}

がある時には、可換群の前層の完全列

\mathbf{0} \to \{\mathcal{E}(U_\lambda)\}_\lambda \to \{\mathcal{F}(U_\lambda)\}_\lambda \to \{\mathcal{G}(U_\lambda)\}_\lambda

つまり

\mathbf{0} \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{E})\}_\lambda \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{F})\}_\lambda \to \{\Gamma(U_\lambda, \; \mathcal{G})\}_\lambda

が得られる。


層の短完全列と層係数コホモロジー

位相空間 X 上の可換群の層の完全系列

\mathbf{0} \to \mathcal{E} \to \mathcal{F} \to \mathcal{G} \to \mathbf{0}

がある時、次の層係数コホモロジー群の完全列が成立する。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& H^0{}_\Phi(X, \mathcal{E}) \to H^0{}_\Phi(X, \mathcal{F}) \to H^0{}_\Phi(X, \mathcal{G}) \\<br />
&\to& H^1{}_\Phi(X, \mathcal{E}) \to H^1{}_\Phi(X, \mathcal{F}) \to H^1{}_\Phi(X, \mathcal{G}) \\<br />
&\to& H^2{}_\Phi(X, \mathcal{E}) \to H^2{}_\Phi(X, \mathcal{F}) \to H^2{}_\Phi(X, \mathcal{G}) \to \; \cdots<br />
\end{eqnarray*}<br />

ここで、0次コホモロジーは、台が \Phi の元であるような大域切断全体の集合に一致すること (H^0{}_\Phi(X, \mathcal{E}) = \Gamma_\Phi(\mathcal{E}), H^0{}_\Phi(X, \mathcal{F}) = \Gamma_\Phi(\mathcal{F}) など) に注意。


Čech のコホモロジー群

層係数のコホモロジー群としては、上記の如く大域切断関手の右導来関手として定義するもののほかに、「Čech のコホモロジー群」と呼ばれるものもある。この両者は、0次及び 1次では、常に一致する。また、底空間 X がパラコンパクトなら、全ての次数で一致する。


環付き空間と、その上の加群層

位相空間 X 上に、単位元を有する (可換) 環の層 \mathcal{O} があり、X の如何なる点 x \in X でも、層の茎 \mathcal{O}_x\{0\} とならない時、X\mathcal{O} との組 (X, \; \mathcal{O}) を「環付き空間」と呼び、\mathcal{O} をその「構造層」呼ぶ。

環付き空間 (X, \; \mathcal{O}) がある時、位相空間 X 上の層 \mathcal{F} で、X の任意の開集合 U を取ると、\mathcal{F}(U)\mathcal{O}(U) 加群であり、二つの層の制限写像が、環の加群への作用と両立する時、層 \mathcal{F}\mathcal{O} 加群と呼ぶ。この時、X の任意の点 x \in X\mathcal{F} の茎 \mathcal{F}_x\mathcal{O}_x 加群となる。

<br />
\begin{CD}<br />
\mathcal{F}(U) \times \mathcal{O}(U) @>{\times}>> \mathcal{O}(U) \\<br />
@VV{\rho^U_W \times \rho^U_W}V @VV{\rho^U_W}V \\<br />
\mathcal{F}(W) \times \mathcal{O}(W) @>{\times}>> \mathcal{O}(U) \\ <br />
@VV{\lim\limits_\to \times \lim\limits_\to}V @VV{\lim\limits_\to}V \\<br />
\mathcal{F}_x \times \mathcal{O}_x @>{\times}>> \mathcal{O}_x<br />
\end{CD}<br />


ここで、環付き空間の概念を使って、「関数の引き戻し」と接ベクトルの関係に就いて再説しておこう。一般に、微分多様体 M と、その上での実数値微分可能関数層 Omathcal は環付き空間を形成するが、それを (M, \; \mathcal{O}_x) で表わすことにし、x \in M 上の層 Omathcal の茎を\mathcal{O}_{M \! , \; x} で表わすことにすると、微分可能多様体 M から M^\prime への微分可能写像 (「関数の引き戻し」を論ずるだけなら、微分同相写像でなくてもよい)

<br />
\begin{CD}<br />
M @.{\stackrel{\varphi}{\to}} M^\prime \\<br />
x @.{\mapsto} \varphi(x) \\<br />
\end{CD}<br />

が、引き起こす層の茎間の写像 \varphi^\ast\varphi(x) \in M^\prime 上での「関数の引き戻し」になる。この \varphi^\ast と、x \in M\varphi(x) \in M^\prime それぞれにおける接ベクトル X_x, X^\prime_{x^\rpime} とは、次の可換図式を満たす。

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
   \mathcal{O}_{M \! , \; x} \ar@{->}[r]^{X_x}  & \mathbb{R} \\<br />
   \mathcal{O}_{M^\prime \!, \; \varphi(x)} \ar@{->}[u]^{\varphi^\ast} \ar@{->}[ur]_{X^\prime_{\varphi(x)}} & \\<br />
}<br />
\end{xy}<br />


主バンドルの構造と1次コホモロジー

リー群は一般に可換ではないので、本稿の文脈には馴染まないが、一応注意しておくと、微分可能多様体 S と、リー群 T がある時、S 上の局所写像で T に値をとるものの芽の層を \mathcal{T} とすると、S を底空間とし、T を構造群とする主バンドルの、バンドル同型類は、1次コホモロジー H^1(S, \; \mathcal{T}) により決定される。このように、リー群が可換ではない場合でも、1次コホモロジーを考えることができるが、一般に群とはならない。ただし、このコホモロジー集合で、1次コホモロジー群の単位元に相当する要素を考えると、それに対応する主バンドルの構造は積バンドルとなる。


ベクトルバンドルの局所切断の前層とその層化

ここでは、或る (C^\infty級) 多様体 B 上の局所 (C^\infty級) 微分可能関数がなす前層を \{\mathcal{A}(U_\lambda)\}_\lambda と記し、これに同伴する層を \mathcal{A} と記す。\mathcal{A} は単位元 \mathbf{1} を有する環の層であり、\{0\} に縮退することはないから、(B, \; \mathcal{A}) は環付き空間である。

B 上のベクトルバンドル E\{B, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} がある時、ここでは、それを簡単に E(B) と記すことにし、B の開集合 U \in \mathcal{O}(B) 上の (C^\infty級) 切断 \mathcal{E}(U) := \Gamma(U, \; E) を考えると、\{\mathcal{E}(U_\lambda)\}_\lambdaB 上の前層となるが、それは当然 \{\mathcal{A}(U_\lambda)\}_\lambda加群になっている。従って、\{\mathcal{E}(U_\lambda)\}_\lambda に同伴する層 \mathcal{E} は、\mathcal{A}加群である。

\mathcal{A} は柔軟層であり、\mathcal{E} は細質層である。

\mathcal{E} 係数の0次コホモロジー群は、ベクトルバンドル E(B) の大域切断全体がなす群である。つまり、

H^0(B, \; \mathcal{E}) = \Gamma(B, \; \mathcal{E}) \cong \Gamma(B, \; E(B))

が成り立つ。


ベクトルバンドルの分解

或る (C^\infty級) 多様体 B 上のベクトル・バンドル V(B) があった時、B 上のベクトル・バンドルが作る圏内では、関手 \mathrm{Hom}(V, \; -)\mathrm{Hom}(-, \; V) とは共に完全であるから、B 上のベクトル・バンドルの短完全列

<br />
\mathbf{0} \to E(B) \stackrel{\epsilon}{\to} F(B) \stackrel{\gamma}{\to} G(B) \to \mathbf{0}<br />

に対して

<br />
\mathbf{0} &\to& Hom(V(B), \; E(B)) \\<br />
&\to& Hom(V(B), \; F(B)) \\<br />
&\to& Hom(V(B), \; G(B)) \to \mathbf{0}<br />

<br />
\mathbf{0} &\to& Hom(G(B), \; V(B)) \\<br />
&\to& Hom(F(B), \; V(B)) \\<br />
&\to& Hom(E(B), \; V(B)) \to \mathbf{0}<br />

も、ともに短完全列になる。

したがって、それぞれの局所切断の芽の層を作ると、2つの短完全列

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& \mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; E(B)) \\<br />
&\to& \mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; F(B)) \\<br />
&\to& \mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; G(B)) \to \mathbf{0}<br />
\end{eqnarray*}<br />

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& \mathcal{H}\mathit{om}(G(B), \; V(B)) \\<br />
&\to& \mathcal{H}\mathit{om}(F(B), \; V(B)) \\<br />
&\to& \mathcal{H}\mathit{om}(E(B), \; V(B)) \to \mathbf{0}<br />
\end{eqnarray*}<br />

が出来る。そして、そのコホモロジー群の完全列は、

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; E(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; F(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; G(B))) \\<br />
&\to& H^1(B, \; \mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; E(B))) \to \cdots<br />
\end{eqnarray*}<br />

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& \Gamma(B, \; Hom(G(B), \; V(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(F(B), \; V(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(E(B), \; V(B))) \\<br />
&\to& H^1(B, \; \mathcal{H}\mathit{om}(G(B), \; V(B))) \to \cdots<br />
\end{eqnarray*}<br />

となるが、(C^\infty級) 多様体上にあっては、ベクトルバンドル間の準同型 (Hom(V(B), \; E(B))Hom(E(B), \; V(B))) の局所切断の芽の層 (\mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; E(B))\mathcal{H}\mathit{om}(G(B),) は細質層であるので、

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&H^q(B, \; \mathcal{H}\mathit{om}(V(B), \; E(B))) = 0, \ q \ge 1 \\<br />
&&H^q(B, \; \mathcal{H}\mathit{om}(G(B), \; V(B))) = 0, \ q \ge 1<br />
\end{eqnarray*}<br />

が成り立ち、従って短完全列

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\mathbf{0} &\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; E(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; F(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(V(B), \; G(B))) \to \mathbf{0}<br />
\\<br />
\mathbf{0} &\to& \Gamma(B, \; Hom(G(B), \; V(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(F(B), \; V(B))) \\<br />
&\to& \Gamma(B, \; Hom(E(B), \; V(B))) \to \mathbf{0}<br />
\end{eqnarray*}<br />

が成立する。これはつまり、任意の準同型 \varphi : V(B) \to G(B) に対し、必ず或る準同型 \phi : V(B) \to F(B) が存在して \varphi = \gamma \circ \phi となると云うことであり、また、任意の準同型 \varphi : E(B) \to V(B) に対し、必ず或る準同型 \phi : F(B) \to V(B) が存在して、\varphi = \phi \circ \epsilon となると云うことである。

特に、V(B) = G(B) または V(B) = E(B) の場合を考えると、ベクトルバンドルの短完全列

<br />
\mathbf{0} \to E(B) \stackrel{\epsilon}{\to} F(B) \stackrel{\gamma}{\to} G(B) \to \mathbf{0}<br />

必ず分解する、つまり、或る準同型 \beta : G(B) \to F(B) が存在して、\gamma \circ \beta = id_{G(B)} となり、また、或る準同型 \omega : F(B) \to E(B) が存在して \omega \circ \epsilon = id_{E(B)} となる。そして、関係 \epsilon \circ \omega + \beta \circ \gamma = id_{F(B)} が成り立っている。


約束事

以下、叙述を単純にするために、ファイバーバンドルの全空間及び底空間は、弧状連結 (path-connected)、従って、連結であると仮定する。そして、 ハウスドルフ・パラコンパクトであるとも仮定する。こうした条件の一部は外せる筈だとか、或いは、さらに可算基の存在や局所コンパクト性を仮定すべきだと云った議論は一切するつもりはない。「泥縄式」の「泥縄式」たる由縁である。要するに、以下の文章にあっては、ファイバーバンドルその他の対象は「説明に都合の良い性質を持っている」ことになっている、と、理解していただきたい。

以下の議論は、基本的に主バンドルとベクトルバンドルに限定される。また、既述の通り、バンドルの全空間・底空間・ファイバーは(勿論「C^\infty級実微分可能」)多様体であり、射影や構造群の元による「移動」も C^\infty級実微分可能であるとされている。


主バンドルにおける右移動と基本接ベクトル場

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の構造群 T の元 t による右移動を R_t と書き、また M の元 x を使って x \mapsto xt とも書く。右移動は、各ファイバー F 上において、不動点のない推移的な写像を引き起こす。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} において、構造群 T のリー代数 \mathfrak{T}、つまり、多様体としての構造群の単位元における接ベクトル空間 (\mathfrak{T} \equiv T_e(T)) の各元 \mathfrak{a} \in \mathfrak{T} が生成する1パラメータ局所変換群 \{\mathbf{exp}\,t\mathfrak{a}, \ t \in (a_x, \; b_x) \subseteq \mathbb{R} \} (ただし -\infty \le a_x < 0 かつ 0 < b_x \le \infty ) を M の元 x に右から作用させて得られる軌道 \{ x\mathbf{exp}\,t\mathfrak{a} \}t = 0 における (つまり、点 x) における、接ベクトルを \mathfrak{a}^\ast{}_x \in T_x(M) とする。\mathfrak{a}^\ast{}_x が作る接ベクトル場 \mathfrak{a}^\ast\mathfrak{a} \in \mathfrak{T} が生成する「基本接ベクトル場」と呼ぶ。


主バンドルと同伴バンドル、そして許容写像

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の構造群 T が、単位元以外に全体を固定する元が無いような (つまり、「効果的な」) 左変換群として作用する位相空間 G が存在する場合、左変換を明示的に表わす時には記号 \eta を使うことにして、この組み合わせを \{T, \ G, \ \eta\} と記す。左変換 \{T, \ G, \ \eta\} を備える主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} には、「同伴バンドル」と呼ばれるファイバーバンドル P\{E, \,S, \, \pi^\prime, \, G, \, T\} が一意に定まり、次の性質を有する。

  1. 積多様体 M \times G から E への全射 \chi : M \times G \to E が存在する。
  2. \chi (xt, \; y) = \chi (x, \; \eta (t, \; y)), \quad \forall x \in M, \; \forall t \in T, \; \forall y \in G
  3. x, \; x^\prime \in M, \ y,\; y^\prime \in G に対して \chi (x, \; y) = \chi (x^\prime, \; y^\prime) が成り立つなら、x^\prime = xt, \ y = \eta (t, \; y^\prime) となる t \in T が存在する。

(以下、関数 \chi\eta も1パラメータ変換群の作用と同様に、積として書き表し、混乱が生じる怖れがない限り、関数をあからさまに書くことはしないでおく。)

こうした同伴バンドルは M \times_T G と記され、写像 \chi は主写像、G は標準ファイバーと呼ばれる。

実は、同伴バンドルは、積多様体 M \times G を等値関係 (x, \ y) \sim (xt, \ t^{-1}y) で割った等化空間として構成できる。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の射影 \pi : M \to S に対して、同伴バンドルの射影 \pi^\prime : M \times_T G \to S\pi^\prime (xy) = \pi (x), \ \forall x \in M, \; \ \forall y \in G と置くことで定まる。

また、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} と、その同伴バンドル M \times_T G との、S の任意の点 u \in S の上での個別ファイバーを F_u, G_u と書くと、\forall p \in F_u に対して、微分同相写像 \chi_p : G \to G_u \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{y \mapsto py\} が存在する。

この \chi_p : G \to G_u を、点 p における許容写像と言うが、これを簡単に p : G \to G_u で表わすことがある。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の構造群 T が、 G に変換群として作用すると云うことは、T から、位相空間 (あるいは、適宜「位相群」など) としての G の自己準同型群 \mathrm{End}(G) への表現 \rho : T \to \mathrm{End}(G) が与えられていると云うことである。このことを明示化するために、同伴バンドルを M \times_{\rho(T)} G と記することもある。更に、\times_\rho\times_{\mathrm{ad}} のように、表現を示す関数だけを \times に添えて書くこともある。


射影 \pi は、M の各点 x における接ベクトル空間 T_x(M) から S 上の点 \pi (x) における接ベクトル空間 T_{\pi (x)}(S) への線型写像を引き起こすが、これも同じ記号 \pi を使って表わす。また、右移動 R_t は、M の各点 x における接ベクトル空間 T_x(M) から M の点 xt における接ベクトル空間 T_{xt}(M) への線型写像を引き起こすが、これも同じ記号を使って R_t で表わしたり、あるいは単純に、接ベクトル場に t を右側から掛けて表わす (「左移動」についても同様であるが、勿論、その場合 t 等は左側から掛ける)。


主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} に対し、標準ファイバーに M の構造群 T そのものを取り、「左変換群」としは 各 a \in T に対し T における「左移動」 (L_a : t \mapsto at \; (\forall t \in T)) を対応させる表現 (やはり記号 L_a を使って表わすことにする) L_a : T \to End(T) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{a \mapsto L_a\} を取って、同伴バンドル M \times_{L_a(T)} T を構成すると、それは M 自身と看做せる。つまり M \times_{L_a(T)} T \cong M となる。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} があって、構造群 T からベクトル空間 V の自己同型群への線型表現 \rho : T \to GL(V) が与えられているなら、同伴バンドル M \times_{\rho(T)} V はベクトルバンドルになる。V の双対ベクトル空間 V^\ast と、\rho の双対写像 \rho^\ast (\equiv {}^t\rho^{-1}) : T \to GL(V^\ast) から得られる同伴バンドル M \times_{\rho^\ast(G)} V^\ast も得られるが、これは M \times_{\rho(G)} V の双対ベクトルバンドルと呼ばれる。ベクトル空間 V の代わりにテンソル空間を使っても、同様な構成が可能である。


主バンドルの接ベクトル空間における垂直ベクトルと水平ベクトル、そして垂直ベクトル空間

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の接ベクトル空間 T_x(M) の全体 T(M) は、全空間 M 上のベクトルバンドルである。

線型写像 \pi : T_x(M) \to T_{\pi(x)}(S) の核を V_x(M) と書くと、それは当然 T_x(M) の部分ベクトル空間になっているが、これを垂直ベクトル空間 V_x(M) と呼び、その元を垂直ベクトルと呼ぶ。この垂直ベクトル空間 V_x(M) は、x を含むファイバー F_{\pi(x)} の接ベクトル空間 T_x(F_{\pi(x)}) になっている。

垂直ベクトル空間 V_x(M) の全体は M 上のベクトルバンドルになっている。これを M の垂直ベクトルバンドル V(M) と呼ぶ。

写像

\lambda : M \times \mathfrak{T} \stackrel{\sim}{\to} V(M) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{(x, \; \mathfrak{a}) \mapsto x\mathfrak{a}^\ast \equiv \mathfrak{a}^\ast{}_x\}

は同型写像であるが、この同型を一点 x \in M 上で考えると同型

\lambda_x : \mathfrak{T} \stackrel{\sim}{\to}  V_x(M) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{\mathfrak{a} \mapsto \mathfrak{a}^\ast{}_x\}

になる (簡単に見て取れると思うが、実は、垂直ベクトルバンドルは、主バンドルに限らず、一般のファイバーバンドルに対しても構成できる。しかし、勿論、垂直ベクトルバンドルが、全空間と構造群のリー代数との積バンドルと同型であると云う結果は、主バンドルであることが前提になっている)。

従って、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} に対して、接ベクトルバンドル間の射影 \pi : T_x(M) \to T_{\pi(x)}(S) と、群 T のリー代数 \mathfrak{T} \ (\equiv T_e(T)) との間には、完全系列

\mathbf{0} \to \mathfrak{T} \stackrel{\lambda_x}{\to} T_x(M) \stackrel{\pi}{\to} T_{\pi(x)}(S) \to \mathbf{0}

が成り立つ。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の垂直バンドル V(M) は、M 上の右移動によって不変である (つまり V_x(M) は右移動 R_t \; (t \in T) により V_{xt}(M) に移る)。そして

R_t \circ \lambda_x = \lambda_{xt} \circ \mathrm{ad}(t^{-1}), \quad \forall t \in T, \; \forall x \in M

が成り立つ。ただし、\mathrm{ad} : T \to GL(\mathfrak{T}) は、所謂、リー群 T の「随伴表現」\mathrm{ad}(t) : \mathfrak{a} \mapsto t\mathfrak{a}t^{-1} \ (t \in T, \; \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}) である(当然 (x\mathfrak{a}^\ast)t = (xt)(t^{-1}\mathfrak{a}^\ast t) が成り立つ)。これを可換図式で表わすなら、次のようになる。

<br />
\begin{CD}<br />
\mathfrak{T} @>\lambda_x>> V_x(M) @.\hookrightarrow T_x(M) \\<br />
@VV{ad(t^{-1})}V @VV R_t V @VV R_t V\\<br />
\mathfrak{T} @>\lambda_{xt}>> V_{xt}(M) @.\hookrightarrow T_{xt}(M) \\<br />
\end{CD}<br />


主バンドルの接ベクトルバンドル・商垂直ベクトルバンドル・基本列

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の接ベクトルバンドル T(M) を、等値関係 X \sim Xt \ (t \in T) で割った等化空間 T(M)/TS 上のベクトルバンドルになる。T(M)/T の元は、M の或る個別ファイバー F_u 上における右移動で不変な M 上の接ベクトル場でもある。これを、M の商接ベクトルバンドルと呼ぶ。特に、M の垂直ベクトルバンドル V(M) \cong M \times \mathfrak{T} を上記の等価関係 (この場合は、x\mathfrak{a} \sim x \mathfrak{a}t \ (x \in M, \; \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}, \ t \in T) と表わせる) で割った等化空間 V(M)/T は、リー群 T の随伴表現 \mathrm{ad} : T \to GL(\mathfrak{T}) による M の 同伴バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} となるが、これも S 上のベクトルバンドルとなっており、これを M の商垂直ベクトルバンドルと呼ぶ。この結果、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} に対して S 上のベクトルバンドルの完全系列

\mathbf{0} \to M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} \stackrel{\lambda}{\to} T(M)/T \stackrel{\pi}{\to} T(S) \to \mathbf{0}

が成立する。これを、主バンドル M の基本列と呼ぶ。


主バンドルの接続

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の基本列

\mathbf{0} \to M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} \stackrel{\lambda}{\to} T(M)/T \stackrel{\pi}{\to} T(S) \to \mathbf{0}

に対して、「分解」、つまり \gamma : T(S) \to T(M)/T, \ \pi \circ \gamma = \mathbf{1} となる \gamma を指定するか、或いは、同値であるが \omega : T(M)/T \to M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T}, \ \omega \circ \lambda = \mathbf{1}) となる \omega を指定することを M 上の接続を与えると云う (次の図式を参照)。

\mathbf{0} \to M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} {\stackrel{\lambda}{\to} \atop \underset{\omega}{\gets}} T(M)/T {\stackrel{\pi}{\to} \atop \underset{\gamma}{\gets}}T(S) \to \mathbf{0}

\gamma\omega との間には \gamma \circ \pi + \lambda \circ \omega = \mathbf{1} の関係がある (左から右方向と同様、右から左方向に就いても、完全系列となっている)。

言い換えるなら、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上に接続を与えるとは、商接ベクトルバンドル T(M)/T の直和分解

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&T(M)/T \cong (M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T}) \oplus T(S) \\<br />
&&\hspace{20mm}M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} \cong \mathrm{Im}\lambda = \mathrm{Ker}\pi \\<br />
&&\hspace{20mm}T(S) \cong \mathrm{Im}\gamma = \mathrm{Ker}\omega<br />
\end{eqnarray*}<br />

を指定することである。

主バンドルの接続は、上記の如きベクトルバンドルの分解を指定することなので、層係数コホモロジーを援用して説明したように、(C^\infty級の多様体を底空間とする本稿の議論内にあっては) 必ず存在する。


主バンドルにおける擬テンソル形式 (反変形式)・水平形式

V を有限次元ベクトル空間とし、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の V に値を持つ k-形式 \theta : T^k(M) \to V が、リー群 T の表現 \rho : T \to GL(V) に対し、条件

R_t{}^\ast(\theta) = \theta \circ R_t = \rho(t^{-1}) \circ \theta, \quad \forall t \in T

を満たす時、\theta(\rho, \; V)型の反変形式、又は、(\rho, \; V)型の擬テンソル形式と呼ぶ。これは、

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
\theta(X_1t, X_2t, \cdots, X_kt) &=& \rho(t^{-1})\theta(X_1, X_2, \cdots, X_k) \\<br />
& &\forall x \in M, \; \forall X_1, X_2, \cdots, X_k \in T_x(M), \; \forall t \in T<br />
\end{eqnarray*}<br />

が成り立っていると云うことである。更に、(\rho, \; V)型の反変形式 ((\rho, \; V)型の擬テンソル形式) \theta が、リー群 T のリー代数 \mathfrak{T} の任意の元 \mathfrak{a} が定める M 上の基本接ベクトル場 \mathfrak{a}^\ast に対して

i_{\mathfrak{a^\ast}} \theta = 0 \qquad i

を満たす時 (ここで、i は、内積作用素)、これを (\rho, \; V) 型のテンソル形式と呼ぶ。

なお、一般に微分多様体 M 上での値域 Vk-形式 \theta : T^k(M) \to V は、T(M)k重外積冪空間 \wedge^k T(M) から V への線形写像 \theta : \wedge^k T(M) \to V と同一視でき、さらに、\forall x \in M, \; \forall u \in \wedge^k T_x(M), \ u \mapsto (x, \; \theta(u)) とすることで、ベクトルバンドル間の線型写像 \theta : \wedge^k T(M) \to M \times V とも同一視できる。これらの写像は、全て \theta を使って表わす (次の可換図式参照)。

<br />
\begin{CD}<br />
T^k(M) @>\theta>> V \\<br />
@V R_t VV @VV \rho(t^{-1}) V\\<br />
T^k(M) @>>\theta> V \\<br />
\\<br />
\wedge^kT(M) @>\theta>> V \\<br />
@V R_t VV @VV \rho(t^{-1}) V\\<br />
\wedge^kT(M) @>>\theta> V \\<br />
\\<br />
\wedge^kT(M) @>\theta>> M \times V \\<br />
@V R_t VV @VV \rho(t^{-1}) V\\<br />
\wedge^kT(M) @>>\theta> M \times V \\<br />
\end{CD}

また、同様の記法で M 上の k-形式 \theta が、 \exists \; 1 \le i \le k, \ \pi(X_i) = 0 なら (つまり、いづれかの X_i が垂直ベクトルであるなら)、 \theta(X_1, X_2, \cdots, X_k) = 0 を満たす時、\theta を水平形式と呼ぶ。

\mathfrak{a}^\ast \ (\mathfrak{a} \in \mathfrak{T})M の各点 xV_x(M) を生成するから、M 上の k-形式 \theta がテンソル形式であるとは、擬テンソル形式であり、かつ、水平形式であると云うことである。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の商接ベクトルバンドルを T(M)/T とすると、M 上の (\rho, \; V)型の反変k-形式 (擬テンソルk-形式) \theta : \wedge^k T(M) \to M \times V と、S 上のベクトルバンドルである T(M)/Tk重外積冪空間 \wedge^k (T(M)/T) から M の同伴主バンドル M \times_{\rho (T)} V への線形写像 \bar{\theta} とが、次の可換図式により一対一に対応する。ただし、ここで \sigma\chi は自然な射影、\rho はリー群の表現 \rho : T \to GL(V) である。これにより、両者は同一視することが出来る。

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
& \wedge^k T(M) \ar[r]^\theta \ar[ldd]^>>>>>>>>\sigma |!{[dl];[d]}\hole<br />
& M \times V \ar[ldd]^>>>>>>>>\chi \\<br />
\wedge^k T(M) \ar[ur]^{R_t} \ar[r]^<<<<<\theta \ar[d]_\sigma<br />
& M \times V \ar[ur]^{R_t} \ar[d]^\chi \\<br />
\wedge^k(T(M)/T) \ar[r]^{\bar\theta} & M \times_{\rho(T)} V<br />
}<br />
\end{xy}<br />

この \bar{\theta} も、単に \theta と書くことにする。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上での有限次元ベクトル空間 V に値を持つ k-形式 \theta : \wedge^k T(M) \to V が水平形式であることとは、元 u \in \wedge^k T(M) について \pi u = 0 なら \theta(u) = 0 を満たすことである。


主バンドルの接続形式

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上に接続

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&T(M)/T \cong (M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T}) \oplus T(S) \\<br />
&&\hspace{20mm}M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} \cong \mathrm{Im}\lambda = \mathrm{Ker}\pi \\<br />
&&\hspace{20mm}T(S) \cong \mathrm{Im}\gamma = \mathrm{Ker}\omega<br />
\end{eqnarray*}<br />

が与えられている時、商垂直バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} は、M の同伴バンドル であるから、接続 \omega : T(M)/T \to M \times_{\mathrm{ad}(T)}  \mathfrak{T} は、M 上の反変1次形式 \omega \circ q: T(M) \to \mathfrak{T} と等価である (ここで q : T(M) \to T(M)/T は等化空間への射影)。これを接続形式と呼び、しばしば同じ記号 \omega で表わされる。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の反変1次形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} が接続形式であることとは次の2つの条件を満たすと云うことである。

  1. R_t{}^\ast\omega = \omega \circ R_t = \mathrm{ad}(t^{-1})\omega, \quad \forall t \in T
  2. \omega(\mathfrak{a}^\ast) = \omega(x\mathfrak{a}) = \mathfrak{a}, \quad x \in M, \ \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}

ただし、\mathfrak{a}^\ast\mathfrak{a} \in \mathfrak{T} に対応する基本接ベクトル場 x\mathfrak{a} \; (\equiv \mathfrak{a}^\ast{}_x) である。第2条件は \omega \circ \lambda = \mathbf{1}_{\mathfrak{T}} と云うことである。第1条件の方は、可換図式で表わすと次のようになる。

<br />
\begin{xy}<br />
\xymatrix{<br />
\mathfrak{T} \ar@<0.5ex>[r]^-{\lambda_x} \ar[d]_{\mathrm{ad}(t^{-1})} & V_x(M) \ar@<0.5ex>[l]^-{\omega_x} \ar@{^{(}-_{>}}[r] \ar[d]^{R_t} & T_x(M)  \ar[d]^{R_t} \\<br />
\mathfrak{T} \ar@<0.5ex>[r]^-{\lambda_{xt}} & V_{xt}(M) \ar@<0.5ex>[l]^-{\omega_{xt}} \ar@{^{(}-_{>}}[r] & T_{xt}(M)<br />
}<br />
\end{xy}<br />

逆に、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の反変1次形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} が、上記の2条件を満たすなら、それを接続形式とするような接続が定まる。つまり、「接続」と「接続形式」とは等価な概念である。ただし、主バンドルには無数の接続を入れることが可能である。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上の接続形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} を単に「接続」と言うこともある。

任意の x \in M において、その点での垂直ベクトル空間 V_x(M) 内にあっては、接続形式 \omega は許容写像 \lambda_x : \mathfrak{T} \stackrel{\sim}{\to} V_x(M) の逆写像になっている。接ベクトル X \in T(P)\omega(X) = 0 を満たす時、X を、その接続の水平ベクトルと呼ぶ。点 x \in M における水平ベクトル全体の集合 H_x(M)T_x(M) の部分ベクトル空間となるが、これを、その接続の水平ベクトル空間と呼ぶ。水平ベクトル空間 H_x(M) 全体の集合 H(M)M 上のベクトルバンドルとなり、その x \in M でのファイバーは H_x(M) である。これを、水平ベクトルバンドルと呼ぶ。

垂直ベクトル空間は、主バンドルが与えられれば決定するが、水平ベクトル空間が如何なるものかは、接続に依存する。垂直ベクトル空間は、積分可能であるが、水平ベクトル空間は、一般には積分可能ではない。


主バンドルの接ベクトル空間での垂直射影・水平射影

水平ベクトル X \in H(M) に対して、元 t \in T による右移動をした Xt もまた水平ベクトルである。したがって水平ベクトルファイバー間の同型 R_t : H_x(M) \cong H_{xt}(M) が成り立つ。つまり接続形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} による直和分解 T(M) = V(M) \oplus H(M) は、右移動 R_t により不変である。この分解の射影

v : T(M) \to V(M) \hookrightarrow T(M), \quad h : T(M) \to H(M) \hookrightarrow T(M)

は、T(M) 内の自己線型写像になっているが、それぞれ接続の垂直射影、水平射影と呼ぶ。垂直射影、水平射影には次の性質がある。

  1. h \circ h = h, \quad h \circ R_t = R_t \circ h, \quad \forall t \in T, \quad \mathrm{Ker} \; h = V(M)
  2. v \circ v = v, \quad v \circ R_t = R_t \circ v, \quad \forall t \in T, \quad \mathrm{Im} \; v = V(M)
  3. h \circ v = 0, \quad v \circ h = 0, \quad h + v = \mathbf{1}
  4. \omega \circ h = 0, \quad\omega \circ v = \omega


主バンドルでの共変微分

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} 上に接続形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} が指定されている時、ベクトル空間 V に値を持つ M 上の k-形式 \theta : T^k(M) \to V に対して D\theta = d\theta \circ h と置けば、M 上の (k+1)-形式 D\theta : T^{k + 1}(M) \to V が定まる (ここで d は微分形式の「外微分」)。これを微分形式 \theta の「共変微分」と呼ぶ。


リー群上の Maurer-Cartan の微分形式

リー群 T がある時、そのリー代数を \mathfrak{T} とし、T の接ベクトルバンドルを T(T) とすると、\mathfrak{T} \equiv T_e(T) (e は、T の単位元) となるが、次の完全系列が成立する。

\mathbf{0} \to \mathfrak{T} \equiv T_e(T) \hookrightarrow T(T) \stackrel{p}{\to} T \to \mathbf{0}

そして、この完全系列は分解する。

ここで注意しておくと、リー群 T 上の接ベクトル場 X が、左不変であるなら、それは T の単位元 e での接ベクトル X_e で決まる。つまり、X_e_\in_\mathfrak{T} であり、そして X = \{sX_e \; | \; s \in T\} となる。

リー群 T 上で定義され、T のリー代数 \mathfrak{T} に値を取る微分形式

\theta : T(T) \to \mathfrak{T} \quad \{\theta_s(X) = s^{-1}X, \ \forall s \in T, \; \forall X \in T_s(T)\}

を Maurer-Cartan の微分形式 と呼ぶ。これを纏めると、次の通り:

\mathbf{0} \to \mathfrak{T} {\stackrel{}{\hookrightarrow} \atop \underset{\theta}{\gets}} T(T) {\stackrel{p}{\to} \atop \underset{\sigma_0}{\gets}} T \to \mathbf{0}

ただし、ここで \sigma_0 : T \to T(T) はゼロ切断。

Maurer-Cartan の微分形式 \theta にあっても、t \in T に対して、

R_t{}^\ast\theta = \theta \circ R_t = \mathrm{ad}(t^{-1})\theta

が成り立つが、更に、L_t{}^\ast\theta = \theta \circ L_t = \theta となっている。つまり、Maurer-Cartan の微分形式は、リー群 T 上の左不変な1次微分形式である。逆に、リー群 T 上の左不変な1次微分形式は、Maurer-Cartan の微分形式である。

また、\mathfrak{T} \equiv T_e(T)T 上の左不変な接ベクトル場の空間と見なせば、Maurer-Cartan の微分形式 \theta は、 X \in \mathfrak{T} に対応する左不変接ベクトル場 X^\ast に対して

theta(X^\ast) = X

を満たす微分形式としても定義できる。


リー群の構造方程式

Maurer-Cartan の微分形式 \theta は次の式を満たす。

	d\theta = -\frac{1}{2}[\theta, \; \theta] \qquad (d\theta + \frac{1}{2}[\theta, \; \theta] = 0)

つまり、

d\theta(X, \; Y) = -\frac{1}{2} [\theta, \; \theta](X, Y) = -\frac{1}{2}[\theta(X), \; \theta(Y)]

これを リー群の構造方程式 (structure equation) と呼ぶ。

なお、外積を使ってリー群の構造方程式を書くなら

d\theta = -\theta \wedge \theta \qquad (d\theta + \theta \wedge \theta = 0)

となる。


主バンドルの接続形式と Maurer-Cartan の微分形式

上述のように、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の接続

\mathbf{0} \to M \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} {\stackrel{\lambda}{\to} \atop \underset{\omega}{\gets}} T(M)/T {\stackrel{\pi}{\to} \atop \underset{\gamma}{\gets}}T(S) \to \mathbf{0}

が指定されている時、接ベクトルバンドル間の射影 \pi : T_x(M) \to T_{\pi(x)}(S) と、群 T のリー代数 \mathfrak{T} \ (\equiv T_e(T)) との間には 完全系列

\mathbf{0} \to \mathfrak{T} \stackrel{\lambda_x}{\to} T_x(M) \stackrel{\pi}{\to} T_{\pi(x)}(S) \to \mathbf{0}

が成り立つ。

ここで、接続形式 \omega (厳密には q : T(M) \to T(M)/T として \omega \circ q だが) を、任意の x \in M おける垂直ベクトル空間 V_x(M) に制限して考えると、\omega_x \; (:= \omega_x \circ q) は許容写像 \lambda_x : \mathfrak{T} \stackrel{\sim}{\to} V_x(M) の逆写像になっている。垂直ベクトル空間が基本接ベクトル場で張られているわけだから、 Maurer-Cartan の微分形式とは、主バンドルの接続形式から、個別ファイバーの個別性を捨象して、標準ファイバー (つまり、位相空間としてのリー群) からの微分形式と見たものと捉えることができる。

逆に言うなら、主バンドルの接続形式とは、Maurer-Cartan の微分形式に個別ファイバーの個別性を付与し、更に各個別ファイバー上の各点における「水平方向」を指定するようにしたものと言える。


共変微分の別の定式化 (ベクトルバンドルの場合)

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} に就いては「共変微分」に別の定式化がある。S 上の微分可能関数全体を A^0(S) で表わし、MS 上の切断を \Gamma(M) と表わし、ファイバーのテンソル積 T^\ast(S) \otimes MS 上の切断を \Gamma(T^\ast(S) \otimes M) と表わした時、これらは \mathbb{R} 上のベクトル空間でもあるし、A^0(S) 上の加群でもあるが、特に \mathbb{R} 線型写像

\nabla : \Gamma(M) \to \Gamma(T^\ast(S) \otimes M)

が、ライプニッツの公式 (Leibniz's law)

\forall f \in A^0(S), \; \forall \xi \in \Gamma(M), \ \nabla(f\xi) = df \otimes \xi + f \cdot \nabla\xi

を満たす時、\nabla を共変微分 (共変微分作用素) と呼び、\nabla\xi\xi の共変微分と呼ぶ。\Gamma(T^\ast(S) \otimes M) の元は、M 上に値を持つ1次形式とも呼ばれる。接ベクトル X \in T_x(S) に対して \nabla\xi(X)M_x の元であるが、これを \nabla_X\xi と書いて、\xiX 方向の共変微分と呼ぶ。

ベクトルバンドルに k個の共変微分 \nabla_i \ (i=1, \;\ldots, \; k) が存在する場合、線型結合 \sum_{i=1}^kt_i\nabla_i \ (t_1 + \cdots + t_k = 1) は、やはり、そのベクトルバンドルにおける共変微分になる。こうした共変微分のそれぞれに対応して接続が存在することに注意。

相対論などに伴うテンソル解析などで、「共変微分」を見知った人間にとっては、こちらのベクトルバンドルに対する「共変微分」の定義の方が馴染めるかもしれない。ライプニッツの公式の第1項は、座標による通常の偏微分に該当し、第2項は、共変的な補正項に該当するのが、即座に見て取れるからだ。局所座標系の基底 \{e_i\} に共変微分を適用すれば \nabla_{e_i}e_j から接続係数 (つまり、クリストッフェル記号/Christoffel symbol) の対応物が得られる筈だと云うことも容易に得心されるだろう。


ベクトルバンドルの直和・テンソル積・双対バンドルと共変微分

底空間が同一の2つのベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}M^\prime(S, \; \pi^\prime, \; V^\prime, \; GL(V^\prime)) とがあって、それぞれに共変微分 \nabla\nabla^\prime が与えられている時、MM^\prime との直和に、次のような共変微分 \nabla \oplus \nabla^\prime を自然に定義することができる。

(\nabla \oplus \nabla^\prime)(\xi \oplus \xi^\prime) = \nabla\xi \oplus \nabla^\prime\xi^\prime, \quad \forall \xi \in \Gamma(M), \; \forall \xi^\prime \in \Gamma(M^\prime)

また、この時には、テンソル積 M \otimes M^\prime に対して、共変微分 \nabla \otimes I_{M^\prime} + I_M \otimes \nabla^\prime が定まる (ここで、I_M 及び I_{M^\prime} は、それぞれ M 及び M^\prime での恒等写像)。

(\nabla \otimes I_{M^\prime} + I_{M} \otimes \nabla^\prime) = \nabla\xi \otimes \xi^\prime + \xi \otimes \nabla^\prime \otimes \xi^\prime

さらに、M^\astM の双対ベクトルバンドルとすると、双対を定めるベクトル空間の内積 \langle \, , \, \rangle を使って、M^\ast での共変微分 (同じ記号 \nabla で表わす) が、次の式で定義される。

d\langle\xi^\ast \, ,\, \xi\rangle = \langle\nabla\xi^\ast \, ,\, \xi\rangle + \langle\xi^\ast \, ,\, \nabla\xi\rangle

さて、ベクトルバンドル M の自己準同型 \mathrm{End}(M) \equiv \mathrm{Hom}(M, \; M) は、テンソル積 M^\ast\otimes M と同一視できるから、M 上の共変微分 \nabla から \mathrm{End}(M) 上の共変微分 (これを、やはり \nabla を使って表わすことにして) が、次の式で得られる。

M^\ast\otimes M \qquad \nabla(\varphi \cdot \xi) = \nabla\varphi \cdot \xi + \varphi \cdot \nabla\xi, \quad \forall \varphi \in \Gamma(M^\ast), \; \forall \xi \in \Gamma(M)


ベクトルバンドルの共変微分から接続形式へ

上記のように、ベクトルバンドルでは、接続 (接続形式) を前提にせずに共変微分が定義することもできる。この場合、共変微分から接続形式を以下のようにして導き出すことができる。つまり、「共変微分」は「接続」(つまり「接続形式」) と等価である (「共変微分」自体のことを「接続」と呼ぶこともある)。

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} において、自明化マップ (U_\alpha, \; \varphi_\alpha) を取ると、(r = \mathrm{dim}(V) として) 各 \varphi : \pi^{-1}(U_\alpha) \cong U_\alpha \times \mathbb{R}^r だから、U_\alpha 上では一次独立な切断 e_1, e_2, \;\ldots, e_r (局所標構場 local frame filed) が存在する。

「標構」とか「標構場」とか、イメージ喚起力が弱いので、好きな用語ではないのだが、今は、そうしたことを論じる場ではないので、通用の表現として使っておく。

従って M の任意の切断 \xiU_\alpha 上では \xi = \xi^\mu e_\mu と一意的に書ける。また、各 e_\lambda の共変微分は \nabla e_\lambda \in \Gamma(T^\ast(S) \otimes M) だから、 U_\alpha 上で定義された実1次形式 \omega_\lambda{}^\mu を係数とする e_1, e_2, \;\ldots, e_r の一次結合

\nabla e_\lambda = \omega_\lambda{}^\mu e_\mu

と書き表せる。

この \omega_\lambda{}^\mu を使って、一般の切断 \xi = \xi^\mu e_\mu の共変微分を書き表すと、それは、U_\alpha 上では

\nabla \xi = (d \xi^\mu + \omega_\lambda{}^\mu\xi^\lambda) e_\mu

となる。この \omega_\lambda{}^\mu (行列表示) は U_\alpha 上で定義され、構造群 GL(V) のリー代数 M(r, \; \mathbb{R}) に値を取る1次形式であるので、M(r, \; \mathbb{R}) 値1次形式自体としては、同じ添え字を使って、\omega_\alpha\omega_\beta と書くと (後者は、U_\beta 上で定義された1次形式) 、若干の計算の後 U_\alpha 上では

\omega_\beta = \phi_{\alpha\beta}{}^{-1}\omega_\alpha\phi_{\alpha\beta} + \phi_{\alpha\beta}{}^{-1}d\phi_{\alpha\beta}

が成り立つことが確認できる。

逆に、各 U_\alpha 上で定義された M(r, \; \mathbb{R}) 値1次形式 \omega_\alpha が存在して、局所標構場 e_1{}^{(\alpha)}, e_2{}^{(\alpha)}, \;\ldots ,\; e_r{}^{(\alpha)} による、その行列表示が (r \times r) の行列 \omega_\lambda{}^{\mu \; (\alpha)} であり、そして、U_\alpha 上で、関係式

\omega_\beta = \phi_{\alpha\beta}{}^{-1}\omega_\alpha\phi_{\alpha\beta} + \phi_{\alpha\beta}{}^{-1}d\phi_{\alpha\beta}

を満たすなら、線型写像

\nabla^{(\alpha)} : \Gamma(E) \mid_{U_\alpha} \to \Gamma(T^\ast(S) \otimes M) \mid_{U_\alpha}

\nabla^{(\alpha)} \xi^\mu e_\mu{}^{(\alpha)} = (d \xi^\mu + \omega_\lambda{}^{\mu \; (\alpha)} \xi^\lambda) e_\mu{}^{(\alpha)}

で定義できる。こうした「局所的な共変微分」\nabla^{(\alpha)}, \nabla^{(\beta)}, \;\ldotsU_\alpha 上では \nabla^{(\alpha)} = \nabla^{(\beta)} であるので「貼り合わす」ことができ、その結果得られる \nabla は (大域的な) 共変微分になっている。

つまり、ベクトルバンドルにあっては、共変微分 \nabla と、上記の性質を有する1次形式 \omega とは等価である。 この \omega がベクトルバンドルの接続を規定し、したがってベクトルバンドルにおける「接続形式」と呼ばれる。


ベクトルバンドルの共変外微分と曲率形式

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} の共変微分は、SM に値をとる微分可能関数 (つまり、M の切断) を、SM に値をとる1次形式に対応させる線型写像であった。これを、次のようにp-形式に (p+1)-形式を対応させる線型写像に拡張することができる。

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} がある時、S 上の 実 p-形式全体を A^p(S)M に値を持つ S 上の p-形式全体を A^p(M) と書くことにする。つまり:

A^p(S) \equiv \Gamma(\wedge^pT^\ast(S)), \quad A^p(M)\equiv \Gamma(\wedge^pT^\ast(S)\otimes M)

と書くことにする。この場合、A^p(M) の任意の元は \xi \cdot \theta \quad (\xi \in A^0(M) = \Gamma(M), \; \theta \in A^p(S)) の形の項の和として表わせることに注意されたい。

ここで M に共変微分 \nabla : \Gamma(M) \to \Gamma(T^\ast(S) \otimes M) が指定されているとして、この時、線型写像 D : A^p(M) \to A^{p+1}(M)

D(\xi \cdot \theta) = \nabla\xi \; \wedge \theta + \xi \cdot d\theta, \ \forall \xi \in A^0(M) \equiv \Gamma(M), \; \forall \theta \in A^p(S)

で定義して、これを「共変外微分」と呼ぶ。共変外微分 D は次の式を満たす。

D\xi = \nabla\xi, \ \forall \xi \in A^0(M) \equiv \Gamma(M)

D(\varphi \wedge \theta) = D\varphi \wedge \theta + (-1)^p\varphi \wedge d\theta, \; \forall \varphi \in A^p(M), \; \forall \theta \in A^q(S)

さらに D^2 に就いて、次の式も成り立つ。

D^2(\xi \cdot \theta) = D^2\xi \wedge \theta, \ \xi \in A^0(M), \; \forall \theta \in A^q(S))

この D^2 は、定義域を A^0(M) に限定して D^2 : A^0 \to A^2(M) と云う線型写像として考えると、(D^2\xi)_x, \ x \in M, \;\xi \in A^0(M)\xi_x の値だけで定まる。従って、D^2D^2{}_x : M_x \to \wedge^2 T^\ast(S) \otimes M_x と云う線型写像とみなせる。これは D^2A^2(\mathrm{End}(M)) の元ということであり、つまりは、\mathrm{End}(M) \equiv M \otimes M^\ast に値を持つ2次形式と云うことである。これを接続 \nabla の曲率 (curvature) R と云う。

これを、M の局所標構場 \{e_1, e_2, \;\ldots\; e_r\} を使って、この曲率 R を表わすと次の関係を有する2次形式 \Omega が得られると云うことである。

Re_\lambda = \Omega_\lambda{}^\mu e_\mu

それには、この局所標構場で表わした接続形式を U_\alpha 上で定義された1次形式 \omega_\lambda{}^\mu として、\Omega を次のようにすればよい。

\Omega = d\omega + \omega \wedge \omega

この式をベクトルバンドルの接続 \nabla の構造方程式 (structure equation) と呼び、\Omega を、ベクトルバンドルの接続 \nabla の曲率形式 (curvature form) と呼ぶ。

次の関係がある。

Ricci の恒等式 R(X, \; Y)\xi = \frac{1}{2}(\nabla_X\nabla_Y - \nabla_Y\nabla_X - \nabla_{[X, \; Y]})\xi (本稿における外積の定義では、係数 \frac{1}{2} が付くが、付かない「流儀」も存在する。上記の「外積代数 (Grassmann 代数) の外積に就いての注意」の項を参照。)

Bianchi の恒等式 DR = 0

Bianchi の恒等式の別形 d\Omega = \Omega \wedge \omega - \omega \wedge \Omega


ベクトルバンドルの内積を保つ共変微分

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} が内積 g を有する時、ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} の共変微分 \nabla が、条件 \nabla g = 0 を満たすなら、「\nablag を保つ」と言ったり、「g は、\nabla に関して平行である」などと言う。


キリングベクトル場と共変微分

擬リーマン多様体 ((M, \ g_{\alpha\beta})) のキリングベクトル場 X の別の定式化としては、アフィン接続の共変微分 \nabla を使って、任意のベクトル場 YZ に対し

g(\nabla_{Y} X, Z) + g(Y, \nabla_{Z} X) = 0

を満たすものと云うものもある。

局所自明化座標を用いたキリングベクトル場の定式化もあって、それは

\nabla_{\mu} X_{\nu} + \nabla_{\nu} X_{\mu} = 0

と云うものである。


主バンドルの曲率形式

主バンドルの接続形式 \omega の共変微分を \Omega = D\omega とすると、M 上の2次形式 \Omega : T^2(M) \to \mathfrak{T} が定まるが、これを接続の「曲率形式」と呼ぶ。次の式 (カルタンの構造方程式) が成り立つ。

\Omega = d\omega + \omega \wedge \omega \quad (= d\omega + \frac{1}{2} [\omega, \; \omega])

次の式も成り立っている。

  1. \Omega \circ R_t = \mathrm{ad}(t^{-1})\Omega, \quad \forall t \in T
  2. D。\Omega = 0


水平持ち上げと Einstein synchronization

S 上の接ベクトル場 X に対して、M 上の接ベクトル場 X^\ast"" で、次の2条件を条件を満たすもの一意に存在するが、それを X の「水平持ち上げ」と呼ぶ。

  1. \pi(X^\ast)
  2. X^\ast_x \in H_x

「(水平)持ち上げ」は S 上の区分的に滑らかな曲線 C : [a, \; b] \to S ([a, \; b] は実数直線内の閉区間) に関する形としても、定義できる。この場合、曲線 C の「持ち上げ」とは、M 内の曲線 _\ast : [a, \; b] \to M であって \pi(C_\ast(t)) = C(t), \ \forall t \in [a, \; b] を満たすもののことである。特に、曲線 C_\ast の速度ベクトル \dot{C}_\ast が水平である時には、この持ち上げを「水平持ち上げ」と呼ぶ。

ファイバー F_a 上の1点 x を取ると、C の水平持ち上げ C_\ast であって、かつ C_\ast(a) = x を満たす M の曲線 C_{\ast(x)} が一意に定まる。これを x から出発する C の水平持ち上げと呼ぶ。

ファイバー F_{C(a)} 上の各点 x に対し、x から出発する C の水平持ち上げ C_{\ast(x)} の終点は、当然ファイバー F_{C(b)} 上の点になるから、この C_{\ast(x)} の始点に終点を対応させると、それはファイバー F_{C(a)} から ファイバー F_{C(b)} への写像となる。この写像は、曲線 C に沿っての「平行移動」と呼ばれる。C_{\ast(xt)} = C_{\ast(x)}t \  (\forall t \in T) だから平行移動は右移動と可換である。別の言い方をすると、写像「平行移動」は T の元と可換である。

Einstein synchronization (convention) の本質は、この水平持ち上げである。別の言い方をするなら、時空多様体から時間を捨象した「空間」内の曲線に沿った移動に対応して、時空多様体内を、「空間」に落ちる影が当該曲線上に有るようにする一方、各点で時間軸 (正確には、時間性 キリングベクトル) に対し「直交」する方向に進んでいくことで (別の言い方をするなら、各接ベクトル空間内の水平ベクトル空間内方向に進んでいくことで)、少なくとも局所的な同時性を担保しようというのが Einstein synchronization である。

ただし、アインシュタインが水平持ち上げに採用した接続は、無数にある中でも最も直感的に手近な接続形式

\omega = \frac{k_\mu d x^\mu }{k_\nu k^\nu} (ここで (k^\mu) は、時空多様体における時間性キリングベクトル場。(k_\mu) は、その共変化余接ベクトル場)

に対応するものだった。もっとも、E. Minguzzi は、この接続の発見の優先権が H. Poincaré にあるとして「ポアンカレ接続」と呼んでおる ("Simultaneity and generalized connections in general relativity")。


ホロノミー (holonomy)

S 上の曲線 C : [a, \; b] \to S が閉曲線である時、つまり C(a) = C(b) である時、C に沿った水平移動によって、ファイバー F_{C(a)} 上の点は、ファイバー F_{C(a)} 自身の上に移るが、その際、ファイバー上の元の点に戻るとは限らない。つまり、当然 _{C(a)} = F_{C(b)} 且つ C_{\ast(x)}(a)= x にはなるが、一般には C_{\ast(x)}(b)= x とは限らない。本質的には 同じことだが、S 上の2点 s1s2 との結ぶ曲線に沿った平行移動によってファイバー F_{s1} 上の一点が移る F_{s2} 上の点は、S 上の経路曲線が替わると変化しうる。

このことをホロノミー (holonomy) という。


時空多様体で言えば、Einstein synchronization により局所的な同時性を確保して行っても、「曲がった時空」では、大域的には (つまり、空間上閉曲線を廻って、「空間」内の「同一点」に戻ってきた時に) 「同時性」は破れており、その固有時は、ホロノミーによって、廻ってきた閉曲線に依存する。これがサニャック効果の本質である。


ベクトルバンドルにおける共変微分の集合

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\}_{VB} がある時、そこに共変微分

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\nabla : \Gamma(M) \to \Gamma(T^\ast(S) \otimes M), \\<br />
&&\forall f \in A^0(S), \; \forall \xi \in \Gamma(M), \ \nabla(f\xi) = df \otimes \xi + f \cdot \nabla\xi \ (Leibniz formula)<br />
\end{eqnarray*}<br />

は無数に導入可能であり、その全体 \mathcal{C}(M) はアフィン空間をなす。

実際、1つの共変微分 \nabla_0 \in \mathcal{C}(M) を固定してから、任意の \nabla \in \mathcal{C}(M) を取って

\alpha = \nabla - \nabla_0 : \Gamma(M) \to \Gamma(T^\ast(S) \otimes M)

を考えると、\alpha は、次の式

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&\alpha(\xi_1 + \xi_2) = \alpha(\xi_1) + \alpha(\xi_2), \ \forall \xi_1, \, \xi_2 \in A^0(M) \\<br />
&&\alpha(f\xi) = f \cdot \alpha(\xi), \ \forall f \in A^0(S), \; \forall \xi \in A^0(M)<br />
\end{eqnarray*}<br />

を満たすのだが、この式から、\alpha\sigma \in \Gamma(M) での値 \alpha(\sigma) \in \Gamma(T^\ast(S) \otimes M) は、u \in S での \sigma の値 \sigma(u) にのみ依存することが導かれるので、\alpha は、\Gamma(\mathrm{Hom}(M, \; T^\ast(S) \otimes M)) \cong \Gamma(T^\ast(S) \otimes \mathrm{End}(M)) の元とみなせる。これから、\alpha\mathrm{End}(M) に値を取る1次形式である (\alpha \in A^1(\mathrm{End}(M))) ことが分かる。

逆に ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} がある時、その共変微分 \nabla_0 を1つ取るなら、任意の \alpha \in A^1(\mathrm{End}(M)) に対して \nabla_0 + \alpha も ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} の共変微分になる。


ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} が内積 g を有する時、g を保つ共変微分 (或いは「g が平行となるような共変微分」と言ってもよいが) の全体 \mathcal{C}(M, \; g)\mathcal{C}(M) の部分アフィン空間になる。


主バンドルにおける接続形式の集合

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} で、リー群 T のリー代数 \mathfrak{T} と記す時、1次形式 \omega : T(M) \to \mathfrak{T} が接続形式である必要十分条件は (\mathfrak{a}^\ast\mathfrak{a} \in \mathfrak{T} に対応する基本接ベクトル場 x\mathfrak{a} \; (\equiv \mathfrak{a}^\ast{}_x) であるとして)

  1. R_t{}^\ast\omega = \omega \circ R_t = \mathrm{ad}(t^{-1})\omega, \quad \forall t \in T
  2. \omega(\mathfrak{a}^\ast) = \omega(x\mathfrak{a}) = \mathfrak{a}, \quad x \in M, \ \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}

であった。

ここで、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の接続形式の全体を \mathcal{C}(M) と書くと、ベクトルバンドルの場合と同様、主バンドルにあっても \mathcal{C}(M) もアフィン空間になっている。ここで、或る接続形式 \omega_0 \in \mathcal{C}(M) を固定して、任意の \omega \in \mathcal{C}(M) に対して、\alpha = \omega - \omega_0 を考えると、\alpha : T(M) \to \mathfrak{T} は1次形式であって、次の2条件を満たす。

  1. R_t{}^\ast\alpha = \mathrm{ad}(t^{-1})\alpha, \ \forall t \in T
  2. \alpha(\mathfrak{a}^\ast) = 0, \ \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}

逆に、1次形式 \alpha : T(M) \to \mathfrak{T} が、上記の2条件を満たすなら \omega_0 + \alpha は接続形式になる。

こうした \alpha 全体は、SM \times_{\mathrm{ad}(T)} \mathfrak{T} に値を取る1次形式の全体が作るベクトル空間 A^1(M \times_{ad(T)} \mathfrak{T}) と同一視できる。


ベクトルバンドルでのゲージ変換

ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} の自己同型写像 \varphi : M \to M が、各個別ファイバー V_u において、ベクトル空間としての自己同型写像を引き起こす時、M のゲージ変換 (gauge transformation) と呼ぶ。M のゲージ変換の全体は群を形成するので、ゲージ変換群 (gauge transformation group) と呼び、記号 \mathcal{G}(M) などで表わす。


ベクトルバンドルでのゲージ変換と、フレームバンドル

ここで、ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} のフレームバンドル F(M)\{S, \; \pi, L_u(B), \; GL(r, \mathbb{R})\} (ただし r = \mathrm{dim}(V)) を考える。このフレームバンドル F(M)\{S, \; \pi, L_u(B), \; GL(r, \mathbb{R})\} は主バンドルであり、ベクトルバンドル M\{S, \; \pi, \; V, \; GL(V)\} に同伴する。

フレームバンドルの元 l \in F(M) は、各 u \in S 上における線型同型写像 l_u : \mathbb{R}^r \to V_u の集合からなるから、M における任意のゲージ変換 \varphi \in \mathcal{G}(M) に就いて、\varphi \circ lF(M) の元になる。従って、同じ記号 \varphi を使って、フレームバンドル F(M) の自己同型写像

\varphi : F(M) \to F(M) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{l \mapsto \varphi \circ l\}

で定義すれば、

\varphi(l \cdot a) = \varphi \circ (l \cdot a ) = \varphi \circ (l \circ a) = (\varphi \circ l) \circ a = \varphi(l) \cdot a

となり、\varphi の作用が、GL(r, \; \mathbb{R})) の作用と可換であることが分かる。

逆に、フレームバンドル F(M)\{S, \; \pi, L_u(B), \; GL(r, \mathbb{R})\} の自己同型写像 \varphi が、条件

\varphi(l \cdot a) = \varphi(l) \cdot a, \ \forall l \in F(M), \; \forall a \in GL(r, \mathbb{R})

を満たすなら、\pi(l) = u となる u \in F(M) を取り、同型写像 \varphi(l) \circ l^{-1} を考えると、これは l の取り方によらないから (\varphi(la) \circ (la)^{-1} = \varphi(l) \circ l^{-1})、\varphi は、各個別ファイバー V_u において、ベクトル空間としての自己同型写像を引き起こすベクトルバンドル M の自己同型写像を引き起こす。この写像も \varphi と表わすと、これは M におけるゲージ変換である (\varphi \in \mathcal{G}(M))。


主バンドルでのゲージ変換

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} において、その自己同型写像 \varphi : M \to M が条件

\varphi(xt) = \varphi(x)t, \ \forall x \in M, \; \forall t \in T

を満たす時、それを主バンドル M におけるゲージ変換と呼ぶ。主バンドルにおけるゲージ変換の全体は群を形成するので、それをゲージ変換群と呼び、記号 \mathcal{G}(M) 或いは、単に \mathcal{G} などで表わす (主バンドルの構造群のことを「ゲージ群」と呼ぶことがあるが、これは勿論「ゲージ変換群」とは異なる)。

ここで、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の構造群 T を取って、その元 t \in TT の自己同型 \mathrm{ad}(t) : a \mapsto t^{-1}at, \; \forall a \in T を対応させる随伴表現 \mathrm{ad} : T \to GL(T) \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{t \mapsto \mathrm{ad}(t)\} でもって、標準ファイバーを T とする M の同伴バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} T を作る。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} において x \in M を取ると、T から F_{\pi(x)} への同相写像 t \mapsto xt が存在する。この写像を、記号 x を使って表わし、その逆写像を x^{-1} : F_{\pi(x)} \to T と記す。

そうすると、x \in Ma \in T に就いて、合成写像

\varphi_{(x, \; a)} : F_{\pi(x)} \to F_{\pi(x)} \stackrel{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} \{z \mapsto x \circ L_a \circ x^{-1}(z)\}

が考えられて、これは F_{\pi(x)} の自己同型になっている。この合成写像を、簡単に

\varphi_{(x, \; a)} : z \in F_{\pi(x)} \mapsto x \cdot a \cdot x^{-1} \cdot z \in F_{\pi(x)}

と記すことにする。

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の同伴バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} T の元を取って、それを代表元 (x, \; a), \ x \in M, \; a \in T で表わす時、写像

\varphi_{(x, \; a)} : z \mapsto x \cdot a \cdot x^{-1} \cdot z

を考えると、この写像は代表元の取り方によらない ((xb) \cdot (b^{-1}ab) \cdot (xb)^{-1} \cdot z = x \cdot a \cdot x^{-1} \cdot z)。従って、この写像を u =\pi(x, \; a) \in S を使って、\varphi_u と記す。

つまり、同伴バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} T の切断 \sigma を取ると、\sigma(u) \quad (u \in S) は、底空間 S の任意の点 u の上の主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} の個別ファイバー F_u の自己同型 \varphi_u を定める。これが、主バンドルのゲージ変換になっていること (\varphi_u(xt) = \varphi_u(x)t, \ \forall x \in M, \; t \in T であること) は、簡単に確かめられる。このゲージ変換を \varphi_\sigma と記す。

逆に、主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} のゲージ変換 \varphi : M \to M を取ると、

\sigma_{\varphi} : u \in S \mapsto [\varphi(u), u^{-1}\varphi(u)]

が、同伴バンドル M \times_{\mathrm{ad}(T)} T の切断を定めることも簡単に確かめられる。

従って、\mathcal{G}(M) \cong \Gamma(M \times_{ad(T)} T) であるので、これを無限次元リー群と捉えて、そのリー代数を考えると、それは A^0(M \times_{\mathrm{ad}} \mathfrak{T}) = \Gamma(M \times_{\mathrm{ad}} \mathfrak{T}) である。そして \mathrm{exp} : \mathfrak{T} \; \stackrel{\sim}{\to} \; TS の各点で考えて \mathrm{exp} : A^0(M \times_{\mathrm{ad}} \mathfrak{T}) \; \stackrel{\sim}{\to} \; \mathcal{G}(M) が得られる。


主バンドルの接続形式空間に作用するゲージ変換

主バンドル M\{S, \; \pi, \; F, \; T\} がある時には、上述のように接続形式全体が作るアフィン空間 \mathcal{C}(M) と、ゲージ変換群 \mathcal{G}(M) が構成できる。任意の接続形式 \omega \in \mathcal{C}(M) に対し、ゲージ変換 \varphi \in \mathcal{G}(M) を取って、\varphi^\ast \omega を考えると、この \varphi^\ast \omega も接続形式になっている。つまり、次の条件を満たす。

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&R_t{}^\ast(\varphi^\ast \omega) = \mathrm{ad}(t^{-1})(\varphi^\ast \omega), \ \forall t \in T \\<br />
&&\varphi^\ast \omega(\mathfrak{a}^\ast) = \mathfrak{a}, \ \forall \mathfrak{a} \in \mathfrak{T}<br />
\end{eqnarray*}<br />

この結果、ゲージ変換 \varphi の引き戻し \varphi^\ast\omega \mapsto \varphi^\ast \omega により \mathcal{C}(M) に対し自然に作用することが分かる。

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2008年9月 1日 (月)

「先生」・「先生」・「先生」の聲

[nouse: 英文版ウィキペディア "Born coordinates" 導入部、第1節-第3節翻訳草稿] (2008年8月2日[土]) を書いていて、サニャック効果 (Sagnac effect) とは時空多様体を「空間」上のファイバーバンドル (fiber bundle) と捉えた時のホロノミー (holonomy) なのだと気付いたのだったが、少なくとも日本の「知的状況」では (と云う書き方もオゾマシイほど初歩的なことなんだが、まぁとにかく)、一般的に認識されていないようなので、微分幾何学の初歩の復習も兼ねて、ファイバーバンドルの理論をホロノミーの所ぐらいまで纏め始めたのだったが、これが例によって難渋している。

書きはじめる前の予定では、8月中旬には (ハッキリ書くと「8月11日」) 脱稿・ ポストだったのが、今日は既に8月末日である。

しかも昨日当たりから、当初は全く書くつもりのなかった「層 (sheaf/faisceau)」のことを、、極めて簡単ながらも (取り敢えず「層係数のコホモロジー」ぐらいに就いては) 触れる必要があることに気が付いた。しかし、幾ら「簡潔」と云っても、「1」のことを書こうとしたら、少なくとも「20」とか「30」ぐらいのことは調べたり考えたりする必要がある。そして、それだけ苦労しても、しばしば手ひどい過ちをするのが、私のような愚かな人間には通例なので、手を抜くわけにはいかないのだ。まだ、しばらく泥沼状態が続きそうである。

なんだかガッカリしてしまった。

そう云うわけで、今日は作業に手が着かず、バックレてしまって、カテゴリー「『日本語で一番大切なもの』」のなかの記事の内部リンクを補足したり、大意を書きたしたりし始めたのだったが、「紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも (天武天皇 [万葉集1]21)」の大意を書こうとして、とたんに行き詰まってしまった。

「恋ひめやも」が反語であることはともかく、「憎くあらば」は何なのだろう。

勿論、贈歌は言わずと知れた「あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖ふる (額田王 [万葉集1]20)」なんだが、この贈返二歌、微妙に照応していない。

恋愛の上でのことだから、「ズラシ」は基本的な作法でありうるのだが、だとしたら、背景に「事件」があったことを想像してしまう。

素直に受けとるならば、二人の間に、「女」の側からすれば、「男」から嫌われたかもしれないと考えたとしても不思議でない「事件」があったことになる。

さらに厳密に言うならば、これは「男」の発想内での「事件」なのだ。つまり、男の発想では「『女』の側からすれば、『男』から嫌われたかもしれないと考えたとしても不思議でない『事件』があった」。

「男」は、「女」の「不安」を劇的に解消するために、「野守」が監視している「標野」で、「女」に対して「袖を振る」と云う愛情表現をすると云う無謀なことをワザとする (cocu は、クニの支配者である)。

「女」は、「男」の行為に呆れたのか、感激したのか、そのどちらかであるかは、実は恋愛の相のもとでは、あまり意味がないので、重要なのは、「男」の関係修復を願うサインを受け入れたことを示すための優位の姿勢で、「男」をたしためたと云うのが、「[万葉集1]20」だ。「野守が見ていないとでも言うのですか?」

これに対する「男」の返歌は、「女」の贈歌に直接答えていない。自分は「女」を嫌っていないと云う、当面の最重要メッセージを伝えることに終始している。「美しい女性よ。あなたに腹を立てているのだとしてら、人妻であるあなたを何とかして手に入れたいなどと思うでしょうか?」

勿論、「事件」を、単純に、「女」が「人妻」になったと云う事実であると捉えることは可能なのだが、実は、それ以外の何かがあったような気もするのだ。しかし、そうなると、結局「憎くあらば」をどう解釈するかと云う問題に戻ってしまう。

思案投げ首していたら、窓の外から、この雨続きで肌寒い一週間ばかり聞こえていなかったクマゼミの鳴き声が「シャン・シャン・シャン」と聞こえてきた。物理/数学も不可、万葉も不可である私を「先生・先生・先生」と嗤わっているようだ。

     大窪詩佛
古松林裏聽蟬鳴
先生先生先生聲
聲聲似把先生笑
莫笑先生老遠行
三十年來舊遊地
白首重來幾先生


富士川英郎 (「江戸後期の詩人たち (1973年)」) によれば、常陸国多賀郡大久保に生まれ、江戸神田お玉ヶ池に詩佛堂を営んだ詩人が紀州に旅をしたときのこの詩 (題はないらしい) の「蟬」は「おそらく熊蟬だろう」と云うことだ。おそらく、彼の耳に、このセミの鳴き声は耳新しかったのだろう。そう言えば、やはり関東に生まれ、いまもその住人である私にとっても、「シャン・シャン・シャン」は、幼年時代聞かなかったような気がする。

詩を詩佛に倣おうとは思わないが、それでも、ここはやはり蝉どもに対して、「嗤ふなかれ小生の老いて遠行することを」と言っておきたい。


駄文を弄しているうちに、日付が変わってしまった。もともと、原稿が書きあぐねたすさびに書き始めた文章だから、それも当然か。「莫笑」。

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2006年11月 9日 (木)

米国特許6286022(有限体の基底変換)の要約・発明の背景・独立クレームの翻訳(再編集版)

本稿は、 [nouse] において、[ゑびすや] が2005年6月26日(日)、2005年7月5日(火)、2005年7月11日(月)にそれぞれ公表した「米国特許6286022(有限体の基底変換)要約」、「米国特許6286022(有限体の基底変換)発明の背景」、「米国特許6286022(有限体の基底変換)独立クレーム」をまとめて一本にし、英文と和訳文とがパラグラフ毎に並記されるよう再編集したものである。また、この機会に翻訳の補正を行なった(元になった3つの記事に就いても対応する補正をしてある)。

本件は、楕円曲線暗号等で用いられる有限体の基底変換計算の効率化に関する米国特許 No.6,286,022 (Kaliski, Jr. et al. September 4, 2001)の「要約」、「発明の背景」及び「独立クレーム」原文及び和訳文である。


Efficient finite field basis conversion involving a dual basis
有限体での双対基底に関わる効率的基底変換


Abstract
要約

The invention provides apparatus and methods for use in basis conversion involving a dual basis, such as a dual of a polynomial basis or dual of a normal basis. The invention in an illustrative embodiment includes basis generators for generating elements of a dual of a polynomial or a normal basis of a finite field GF(q.sup.m), where q is a prime number or power of a prime number and m is an integer greater than or equal to 2. The basis generators can be used in "import" basis conversion, such as converting a representation in an external basis to a representation in an internal dual of a polynomial basis or dual of a normal basis, as part of a generate-accumulate algorithm, or in "export" basis conversion, such as converting a representation in an internal dual of a polynomial basis or dual of a normal basis to a representation in an external basis, as part of a generate-evaluate algorithm. The invention also includes basis shifters which generate a shifted version of a representation in an internal polynomial or normal basis. The basis shifters may be used in import basis conversion as part of a shift-insert algorithm, or in export basis conversion as part of a shift-extract algorithm. The basis shifters may also be used to provide alternative shift-based basis generators. The basis conversion techniques of the invention significantly increase the storage and computational efficiency of dual basis operations in cryptographic systems and other applications.
本発明は、多項式基底の双対基底又は正規基底の双対基底などの双対基底に関わる基底変換のための装置及び方法を提供する。本発明を説明するのに都合の良い実施例としては、有限体 GF(qm) -- ただし、q は素数又は素数の冪乗、m は 2 以上の整数とする -- の多項式基底又は正規基底の双対基底要素を生成する基底生成器を用いるものが挙げられる。この基底生成器は、生成・蓄積アルゴリズム (generate-accumulate algorithm) の一環として、外部基底による表現を、多項式基底の内部双対又は正規基底の内部双対による表現に変換すると云ったような「内部化」基底変換や、あるいは、生成・評価アルゴリズム (generate-evaluate algorithm) の一環として、多項式基底の内部双対又は正規基底の内部双対による表現を、外部基底による表現に変換すると云ったような「外部化」基底変換において使用することができる。本発明は、また、内部多項式基底又は内部正規基底による表現をシフトしたものを発生する基底シフタを用いる。この基底シフタは、シフト・挿入アルゴリズム (shift-insert algorithm) の一環としての内部化基底変換や、シフト・取り出しアルゴリズム (shift-extract algorithm) の一環としての外部化基底変換において利用することができる。この基底シフタは、シフト型基底生成器の代替物を得るのに利用することもできる。本発明の基底変換技法は、暗号方式その他の応用において双対基底操作の記憶及び計算効率を大幅に改善する。


FIELD OF THE INVENTION
発明の分野

The present invention relates generally to techniques for converting signals of a finite field having one basis to signals of a finite field having another basis, and more particularly to finite field basis conversion techniques which involve a dual basis.
本発明は、概括的には、或る基底を有する有限体の信号を、他の基底を有する有限体の信号に変換する技法に関し、特に、双対基底に関する有限体基底変換技法に関する。



BACKGROUND OF THE INVENTION
発明の背景

As described in U.S. application Ser. No. 08/851,045, filed in the name of inventors Burton S. Kaliski Jr. and Yiqun Lisa Yin on May 5, 1997 and entitled "Methods and Apparatus for Efficient Finite Field Basis Conversion," and which is incorporated by reference herein, conversion between different choices of basis for a finite field is an important problem in today's computer systems, particularly for cryptographic operations. While it is possible to convert between two choices of basis by matrix multiplication, the matrix may be too large for some applications, hence the motivation for more storage-efficient techniques.
Burton S. Kaliski Jr. 及び Yiqun Lisa Yin によって発明されたとして、1997年5月5日に出願された米国特許出願番号 08/851,045 "Methods and Apparatus for Efficient Finite Field Basis Conversion" (「効率的な有限体基底変換方法及び装置」) -- ここで参照することで、その内容が本明細書に編入されたものとする -- に記載されている如く、別々に選定された有限体基底間の変換は、現代のコンピュータ・システム、特に暗号演算のためのコンピュータ・システムにとり、重要な課題である。行列の乗算によるなら、選定された2つの基底間の変換は可能だとは言え、応用によっては行列は大規模になりすぎることがあるため、記憶効率が優れた技法が望まれていた。


Elements of a finite field can be represented in a variety of ways, depending on the choice of basis for the representation. Let GF(q.sup.m) be the finite field, and let GF(q) be the ground field over which it is defined, where q is a prime or a prime power. The characteristic of the field is p where q=p.sup.r for some r.gtoreq.1. For even-characteristic fields, p=2. The degree of the field is m; its order is q.sup.m. A basis for the finite field is a set of m elements .omega..sub.0, . . . , .omega..sub.m-1 .epsilon.GF(q.sup.m) such that every element of the finite field can be represented uniquely as a linear combination of basis elements:
##EQU1##
where B[0], . . . , B[m-1] .epsilon. E GF(q) are the coefficients.
有限体の要素は、選定される表現基底に応じて、様々に表現される。GF(qm) をそうした有限体、GF(q) をその基礎体とし(ただし、q は、素数又は素数の冪乗である)、体の標数を p とすると、q=pr かつ r≧1 なる r が存在する。標数が偶数の体では、p=2 となる。体の次数は m であり、位数は、qm である。有限体の基底とは、m 個の要素 ω0, . . . , ωm-1 ∈ GF(qm) からなる集合であって、有限体の全ての要素が、B[0], . . . , B[m-1] ∈ GF(q) を係数とする基底要素の線型結合

  ε =∑i=0m-1B[i]ωi

として一意に表わせるようなもののことである。

訳注
::現在の cocolog は、数式の表現能力が貧弱で、上記も、総和記号が旨く表わせなかった。その意とするところは、B[i]ωi の i=0 から i=m-1 までの総和である。mimeTeX と云う CGI を使うと、html 文書においても TeX もどきの数式表現ができるらしいが、cocolog ではサポートされていないようだ。ちなみに「はてなダイアリー」では使えるとのこと。また、どのような実装によっているかは不明だが、Wikipedia でも、TeX による数式表示が可能である。
::本来の米国特許公報では、上記の ##EQU1## 相当部分に有限体の任意の要素が、基底の線型結合で表わされることを示す式が書かれている。


Two common types of basis are a polynomial basis and a normal basis. In a polynomial basis, the basis elements are successive powers of an element .gamma., called the generator:
.omega..sub.i =.gamma..sup.i.
基底として良く知られているのは、多項式基底と正規基底の2種類である。多項式基底では、基底の要素は、生成元と呼ばれる或る要素 γ の逐次冪乗

   ωii

からなる。


A polynomial .function. of degree m, called the minimal polynomial of .gamma., relates the successive powers:
.gamma..sup.m +.function..sub.m-1.gamma..sup.m-1 +.function..sub.m-2.gamma..sup.m-2 + . . . +.function..sub.1.gamma.+.function..sub.0 =0.
前記の一連の冪乗を以下のように関連付ける γ の最小多項式と呼ばれる次数 m の多項式 f がある:

   γm + fm-1γm-1 + fm-2γm-2 + . . . +f1γ1 + f0 = 0


In a normal basis, the basis elements are successive exponentiations of an element .gamma., again called the generator:
.omega..sub.i =.gamma..sup.q.sup..sup.i .
正規基底では、基底の要素は、やはり生成元と呼ばれる要素 γ の逐次指数乗

   ωiqi

からなる。


Another common type of basis is a dual basis. Let .omega..sub.0, . . . , .omega..sub.m-1 be a basis and let h be a nonzero linear function from GF(q.sup.m) to GF(q), i.e., a function such that for all .epsilon., .phi.,
h(.epsilon.+.phi.)=h(.epsilon.)+h(.phi.).
基底として、これらの他に良く知られているものとしては、双対基底がある。これを説明するために、まず ω0, . . . , ωm-1 を或る基底とし、h を、GF(qm) から GF(q) への零写像でない線型関数であるとする。つまり、すべての ε 及び φ に対して、

   h(ε+φ)=h(ε)+h(φ)

が成り立つものとする。


The dual basis of the basis .omega..sub.0, . . . , .omega..sub.m-1 with respect to h is the basis .xi..sub.0, . . . , .xi..sub.m-1 such that for all i,j,
##EQU2##
基底 ω0, . . . , ωm-1 の h に関する双対基底とは、全ての i, j に対して

   h(ωiξj) = 1 (i=j の時); 0 (i=j でない時)

を満たすような ξ0, . . . , ξm-1 のことである。

訳注
::本来の米国特許公報では、上記の ##EQU2## 相当部分に ωi と ξi との h に関する双対性を示す式が書かれている。そして、その式では、場合分けを、大きな左ブレースを用いて表わしているが、現在の cocolog では、それが不可能なようなので、上記のように「= 1 (i=j の時); 0 (i=j でない時)」とした。この問題も、cocolog が mimeTeX (又は、TeX そのもの)をサポートすれば、解決されるはず。


The dual basis is uniquely defined, and duality is syrnnetric: the dual basis with respect to h of the basis .xi..sub.0, . . . , .xi..sub.-1 is the basis .omega..sub.0, . . . , .omega..sub.m-1. A dual basis can be defined for a polynomial basis, a normal basis, or any other choice of basis, and with respect to a variety of functions (including, as an example, the function that evaluates to a particular coefficient of the representation of the field element in some basis).
双対基底は一意に定まる。また、双対性は対称的である。つまり、h に関する ξ0, . . . , ξm-1 の双対基底は、ω0, . . . , ωm-1 である。双対基底は、多項式基底にも、正規基底にも、その他の如何なる基底に対しても、そして、(例えば、体要素の或る基底における表現の特定の係数を評価する関数と云ったような)様々な関数に関して、定めることができる。


訳注
::上記 ".xi..sub.-1" は --.xi..sub.m-1-- と読み替えてある。


The basis conversion or change-of-basis problem is to compute the representation of an element of a finite field in one basis, given its representation in another basis. The problem has two forms, which distinguish between the internal basis in which finite field operations are performed, and the external basis to and from which one is converting:
基底変換、つまり基底の変更とは、有限体の或る要素の或る基底に対する表現を、他の基底に対する表現から計算することである。有限体の演算が行なわれる内部基底と、変換先・変換元の外部基底とを区別すると、この課題は、2通りの形式で表わされる:


Import problem. Given an internal basis and an external basis for a finite field GF(q.sup.m) and the representation B of a field element in the external basis (the "external representation"), determine the corresponding representation A of the same field element in the internal basis (the "internal representation").
内部化: 有限体 GF(qm) の内部基底及び外部基底が与えられ、更に或る体要素の外部基底による表現 B (「外部表現」)が与えられた際に、前記要素の内部基底による対応表現 A (「内部表現」)を決定すること。


Export problem. Given an internal basis and an external basis for a finite field GF(q.sup.m) and the internal representation A of a field element, determine the corresponding external representation B of the same field element.
外部化: 有限体 GF(qm) の内部基底及び外部基底が与えられ、更に或る要素の内部表現 A が与えられた際に、前記体要素の対応外部表現 B を決定すること。


A conventional solution to both problems is to apply a change-of-basis matrix relating the two a bases. However, as the matrix is potentially quite large, and as the operations involved are not necessarily implementable with operations in either basis, the matrix-based conversion process may be inefficient in many important applications.
二つの課題に対する従来の解決策は、双方の基底に関する基底変換行列を適用することであった。しかし、この行列は非常に大規模になることがあり、また、必要となる演算が、基底のどちら側でも演算として実行に適するとは限らないため、行列に基づく変換方法は、多くの重要な応用において効率的でないことがあった。


Another approach to conversion is to compute with a dual basis. Consider the problem of converting to the basis .omega..sub.0, . . . , .omega..sub.m-1, and let .xi..sub.0, . . . , .xi..sub.m-1 be its dual basis with respect to some linear function h. Then by the definition of the dual basis and the linearity of h, it follows that for all i,
B[]=h(.epsilon..xi..sub.i).
変換を行う他の手法としては、双対基底でもって計算すると云うものがあった。基底 ω0, . . . , ωm-1 への変換を行う場合、或る線型関数 h に関するその双対基底を ξ0, . . . , ξm-1 とするなら、双対基底の定義及び h の線型性により、全ての i に対して、次の式が成り立つ。

   B[i]=h(εξi)

訳注
::上記の式の左辺で "B[]" を --B[i]-- と読み替えてある。


One can therefore convert by multiplying by elements of the dual basis and evaluating the function h, another straightforward and effective solution, which is efficient provided that the elements of the dual basis .xi..sub.0, . . . , .xi..sub.m-1 can be generated efficiently and that the function h can be computed efficiently. But this approach is again limited by a number of difficulties. First, the approach requires the elements of the dual basis, which must either be stored in the form of m.sup.2 coefficients, or computed. Second, it requires the computation of the function h, which may or may not be efficient. More practical choices of h have been suggested, such as a particular coefficient of the representation in some basis. See, for example, S. T. J. Fenn, M. Benaissa, and D. Taylor, "Finite Field Inversion Over the Dual Basis," IEEE Transactions on VLSI, 4(1):134-137, March 1996, which is incorporated by reference herein. But even with a more practical h, there still remains the problem of determining the dual basis efficiently. Moreover, the Fenn et al. method is efficient only when m is very small, and no general efficient conversion algorithm is given.
つまり、双対基底の要素を乗算し、関数 h を評価すると変換が行なえる訣だから、直接的で有効な解決策であり、双対基底要素 ξ0, . . . , ξm-1 が効率的に生成され、関数 h が効率的に計算できるなら、効率も良いものとなる。しかし、この手法にも、幾つかの制限がある。第1に、この手法では、双対基底の要素を m2 個の係数の形式で記憶しておくか、計算するかする必要がある。第2に、関数 h の計算が必要だが、これは効率的なことも非効率的なこともありうる。ある基底における表現の特定の係数と云うような、ヨリ実際的な h の選定も提案されている。例えば、S. T. J. Fenn, M. Benaissa 及び D. Taylor による "Finite Field Inversion Over the Dual Basis「双対基底上の有限体逆元決定」" (IEEE Transactions on VLSI, 4(1):134-137, 1996年3月) を見られたい(ここで参照することで、その内容が本明細書に編入されたものとする)。しかし、ヨリ実際的な関数 h によっても、双対基底を効率的に決定すると云う課題が残っている。更に「Fenn 他」の方法は、m が非常に小さい時にのみ効率的に過ぎず、包括的かつ効率的な変換アルゴリズムは知られていなかった。


A number of other references describe finite field basis conversion operations involving dual basis. For example, U.S. Pat. No. 4,994,995, issued Feb. 19, 1991 to R. W. Anderson, R. L. Gee, T. L. Nguyen, and M. A. Hassner, entitled "Bit-Serial Division Method and Apparatus," describes hardware for a converter which converts an element in GF(2.sup.m) in a polynomial basis representation to a scalar multiple of its dual basis representation, where the scalar is an element of the field. The scalar is chosen so that the scalar multiple of the dual has many of the same elements as the polynomial basis. The hardware consists of AND gates, XOR gates, and a table for computing the trace function. Again, no general conversion algorithm is suggested. I. S. Hsu, T. K. Truong, L. J. Deutsch, and I. S. Reed, "A Comparison of VLSI Architecture of Finite Field Multipliers using Dual, Normal, or Standard Bases," IEEE Transactions on Computers, 37(6):735-739, June 1988, discloses conventional techniques for converting between polynomial and dual bases. D. R. Stinson, "On Bit-Serial Multiplication and Dual Bases in GF(2.sup.m)," IEEE Transactions on Information Theory, 37(6):1733-1737, November 1991, describes change-of-basis matrices between polynomial and dual bases. Given it polynomial basis such that the change-of-basis matrix M from the dual basis to some scalar (c.epsilon. GF(2.sup.m)) times the polynomial basis has as few "1" entries as possible, efficient bit-serial multiplication is possible. Given the minimal polynomial of .alpha., a generator of the polynomial basis, the Stinson reference gives simple formulae computing a scalar c and the weight of the matrix M. Although the above-cited references disclose numerous conventional techniques for converting between a polynomial basis and its dual basis, these techniques are generally inefficient in terms of memory, and may also be inefficient in terms of computation time.
双対基底を用いる有限体基底変換演算に就いて記載する文献は、ほかにも幾つかある。例えば、R. W. Anderson, R. L. Gee, T. L. Nguyen 及び M. A. Hassner による米国特許 4,994,995 "Bit-Serial Division Method and Apparatus「ビットシリアル除算方法及び装置」"(1991年2月19日)には、GF(2m) の要素の、多項式基底による表現を、その双対基底表現のスカラー倍(ただし、このスカラーは体の要素)に変換する変換器が記載されている。このスカラーは、双対をこのスカラー倍したものが、多項式基底と同一の要素を多く含むよう選定されている。この変換器は、AND ゲート群、XOR ゲート群、及びトレース関数を計算するための表からなる。やはり包括的ではない変換アルゴリズムであるが、I. S. Hsu, T. K. Truong, L. J. Deutsch 及び I. S. Reed による"A Comparison of VLSI Architecture of Finite Field Multipliers using Dual, Normal, or Standard Bases 「双対、正規又は標準基底を用いる有限体乗算器の VLSI アーキテクチャの比較」"(IEEE Transactions on Computers, 37(6):735-739, 1988年6月)では、多項式基底と双対基底との間を変換する従来技術が開示されている。D. R. Stinson による "On Bit-Serial Multiplication and Dual Bases in GF(2m)「GF(2m) におけるビットシリアル乗法と双対基底に就いて」" (IEEE Transactions on Information Theory, 37(6):1733-1737, 1991年11月)には、多項式基底と双対基底との間の基底変換行列に就いて記載されている。双対基底から多項式基底のスカラー(c ∈ GF(2m))倍への基底変換行列 M ができる限り少ない "1" 要素を有するような多項式基底に就いては、効率的なビットシリアル乗算が可能である。Stinson は、多項式基底の生成元 α の最小多項式が分っている場合に、スカラー c 及び行列 M の重みを計算する単純な公式を示している。上記の文献は、多項式基底とその双対基底との間を変換する様々な従来技術を開示しているが、こうした技術は、メモリーの観点からは概して非効率的であり、また計算時間の観点からも非効率的でありうる。


The above-cited U.S. application Ser. No. 08/851,045 introduced the "shift-extract" technique of basis conversion, and also provided several storage-efficient and computation-efficient algorithms based on that technique for converting to and from a polynomial or normal basis. The conversion algorithms described therein overcome many of the problems associated with the previously-described conventional approaches. However, a need remains for further improvements in finite field basis conversion, particularly with regard to techniques involving dual basis.
上記の米国特許出願番号 08/851,045 では、基底変換での「シフト・取り出し」技法が導入されて、その技法に基づく多項式基底又は正規基底への、又は多項式基底又は正規基底からの変換を行うことで記憶に就いても計算に就いても効率的なアルゴリズムが幾つか示されている。そこに記載されている変換アルゴリズムは、前記の従来手法に伴う問題点の多くを解消するものである。しかし、特に双対基底を用いる技法に関しては、有限体基底変換に対する一層の改善が必要であった。


It is therefore an object of the present invention to provide efficient finite field basis conversion techniques involving dual basis which do not require an excessively large amount of storage or an excessively large number of operations, and which take advantage of the built-in efficiency of finite field operations in one basis, rather than implementing new operations such as matrix multiplications.
従って、本発明の目的は、行列乗算のような演算を別途実装せずに、一つの基底における有限体演算の本来的な効率性を活用するることで、過度に大容量の記憶や過度に多数の演算を必要としない、双対基底を用いる有限体基底変換技術を提供することにある。


独立クレーム

1. An apparatus for determining elements in a dual of a normal basis for a finite field, the apparatus comprising:
an exponentiator which is operative to raise one of an input value and an output of a multiplier to a power; and
the multiplier which is operative to multiply one of the input value and an output of the exponentiator by a function of a generator of the dual basis, wherein the multiplier and exponentiator are configured to operate such that one of the multiplier and exponentiator generates an output value corresponding to a shifted version of the input value in the dual of the normal basis.
1. 有限体の正規基底の双対基底により要素を決定する装置であって、
入力値又は乗算器の出力の一方を冪乗するよう動作する指数冪乗器からなり、
前記乗算器は、前記入力値又は前記指数冪乗器出力の一方に、双対基底生成元の関数を乗算し、前記乗算器と前記指数冪乗器とは、前記乗算器又は前記指数冪乗器の一方が、前記正規基底の双対基底に関して入力値をシフトしたものに対応する出力値を生成するよう構成されてなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底による要素決定装置。


16. An apparatus for determining elements of a dual of a normal basis for a finite field, the apparatus comprising:
an exponentiator which raises an input value to a power, wherein the output of the exponentiator is applied to its input such that the exponentiator repeats the raising to a power operation a designated number of times; and
a multiplier which is operative to multiply an output of the exponentiator, generated after the designated number of repetitions, by a scaling factor which is a function of a (q-1).sup.st root of S, where S is a generator of the normal basis and q is a prime or a power of a prime, such that an output of the multiplier corresponds to an element of the dual of the normal basis.
16. 有限体の正規基底の双対基底の要素を決定する装置であって、
入力値を冪乗し、冪乗演算が指定回数繰り返されるよう自身の出力が自身の入力に印加される指数冪乗器と、
前記指定回数の繰り返し後に生成された前記指数冪乗器の出力に、q を素数又は素数の冪乗として、前記正規基底の生成元 S の (q-1) 乗根の関数である調整倍率を乗算して、出力が前記正規基底の双対基底の或る要素に対応するようにしてなる乗算器とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底の要素決定装置。


19. An apparatus for determining elements of a dual of a normal basis for a finite field, the apparatus comprising:
an exponentiator which raises an input value to a power, wherein the output of the exponentiator is applied to its input such that the exponentiator repeats the raising to a power operation a designated number of times; and
a multiplier which is operative to multiply an output of the exponentiator, generated after the designated number of repetitions, by one of an initial value and a previously-generated output of the multiplier, such that a current output of the multiplier corresponds to an element of the dual of the normal basis.
19. 有限体の正規基底の双対基底の要素を決定する装置であって、
入力値を冪乗し、冪乗演算が指定回数繰り返されるよう自身の出力が自身の入力に印加される指数冪乗器と、
前記指定回数の繰り返し後に生成された前記指数冪乗器の出力に、初期値又は自身の以前の出力の一方を乗算して、現在の出力が前記正規基底の双対基底の或る要素に対応するようにしてなる乗算器とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底の要素決定装置。


25. A method for determining elements in a dual of a normal basis for a finite field, the method comprising:
exponentiating one of a signal corresponding to an input value and a signal corresponding to an output of a multiplier in an exponentiator; and
multiplying one of a signal corresponding to the input value and a signal corresponding to an output of the exponentiator by a function of a generator of the dual basis in the multiplier, wherein the multiplier and exponentiator are configured to operate such that one of the multiplier and exponentiator generates an output value corresponding to a shifted version of the input value in the dual of the normal basis.
25. 有限体の正規基底の双対基底により要素を決定する方法であって、
指数冪乗器内において、入力値に対応する信号又は乗算器の出力に対応する信号の一方を指数冪乗する段階と、
前記乗算器内において、前記入力値に対応する信号又は前記指数冪乗器出力に対応する信号の一方に、双対基底生成元の関数を乗算するが、ここで前記乗算器及び前記指数冪乗器は、前記乗算器又は前記指数冪乗器の一方が、前記正規基底の双対基底に関して入力値をシフトしたものに対応する出力値を生成するよう構成されてなる段階とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底による要素決定方法。


26. A method for determining elements of a dual of a normal basis for a finite field, the method comprising:
raising a signal corresponding to an input value to a power in an exponentiator, wherein the output of the exponentiator is applied to its input such that the exponentiator repeats the raising to a power operation a designated number of times; and
multiplying an output of the exponentiator, generated after the designated number of repetitions, in a multiplier by a scaling factor which is a function of a (q-1).sup.st root of S, where S is a generator of the normal basis and q is a prime or a power of a prime, such that an output of the multiplier corresponds to an element of the dual of the normal basis.
26. 有限体の正規基底の双対基底の要素を決定する方法であって、
指数冪乗器内において、入力値に対応する信号を冪乗する際、前記指数冪乗器が冪乗演算を指定回数繰り返すよう、前記指数冪乗器出力を前記指数冪乗器入力に印加する段階と、
乗算器内において、前記指定回数の繰り返し後に生成された前記指数冪乗器の出力に、q を素数又は素数の冪乗として、前記正規基底の生成元 S の (q-1) 乗根の関数である調整倍率を乗算して、前記乗算器出力が前記正規基底の双対基底の或る要素に対応するようにする段階とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底の要素決定方法。


27. A method for determining elements of a dual of a normal basis for a finite field, the method comprising:
raising a signal corresponding to an input value to a power in an exponentiator, wherein the output of the exponentiator is applied to its input such that the exponentiator repeats the raising to a power operation a designated number of times; and
multiplying an output of the exponentiator, generated after the designated number of repetitions, in a multiplier by one of an initial value and a previously-generated output of the multiplier, such that a current output of the multiplier corresponds to an element of the dual of the normal basis.
27. 有限体の正規基底の双対基底の要素を決定する方法であって、
指数冪乗器内において、入力値に対応する信号を冪乗する際、前記指数冪乗器が冪乗演算を指定回数繰り返すよう、前記指数冪乗器出力を前記指数冪乗器入力に印加する段階と、
乗算器内において、前記指定回数の繰り返し後に生成された前記指数冪乗器の出力に、初期値又は前記乗算器の以前の出力の一方を乗算して、前記乗算器の現在の出力が前記正規基底の双対基底の或る要素に対応するようにする段階とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底の要素決定方法。


28. A method for determining elements in a dual of a normal basis for a finite field, the method comprising:
(a) multiplying a signal corresponding to an input value by a first function;
(b) raising a signal corresponding to a value resulting from step (a) to a power; and
(c) multiplying a signal corresponding to a value resulting from step (b) by a second function thereby generating an output value corresponding to a shifted version of the input value in the dual of the normal basis, wherein one of the first function and the second function is a function of a generator of the dual of the normal basis.
28. 有限体の正規基底の双対基底により要素を決定する方法であって、
(a) 入力値に対応する信号に、第1の関数を乗算する段階と、
(b) (a) 段階の結果の値に対応する信号を冪乗する段階と、
(c) (b) 段階の結果の値に対応する信号に、第2の関数を乗算して、前記正規基底の双対基底に関して入力値をシフトしたものに対応する出力値を生成するが、ここで前記第1の関数又は前記第2の関数の一方が、前記正規基底の双対基底の生成元の関数であるようにしてなる段階とからなることを特徴とする有限体の正規基底の双対基底による要素の決定方法。

参考
1. "Efficient Finite Field Basis Conversion Techniques (Submission to IEEE P1363a)" Burt Kaliski, Moses Liskov and Yiqun Lisa Yin (RSA Laboratories)

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2006年3月10日 (金)

[「複合變列」につまづく] 補足(あるいは、ガリレオ 「新科学対話」訳文に就いて)