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今更ながら「ファインディング・ニモ」

以前、頭の中をかすめただけの思い付きを書き始めたのだが、「芯」になるものが探し出せず、話がまとまらなかった。しかし、ほかの「ネタ」で話を組み立てるのも気疎いので、そのまま発表する。

"Finding Nemo" (邦題「ファインディング・ニモ」) と云う「ディズニー映画 (製作会社:ピクサー・アニメーション・スタジオ )」があって、私は未見である。ただ、このアニメ映画の日本公開時 (2003年12月)、私の居宅には TV 受像機がまだあって、そこで流れされたキャンペーンの情報の切れ端は、私の記憶の中に残っている。

もっとも、私が承知しているのは、「人間にさらわれた『クマノミの男の子』(名前は『二モ (Nemo)』) を、お父さんクマノミ (名前は「マーリン (Marlin)」) が探しに行く」と云う、極めて概括的なことでしかない。

内容を知らない映画について、いきなり半畳を入れるようで申し訣ないが、この記事を書くに当たって、ザッと調べて集めた情報に従うなら、この映画の設定は、動物学的・生態学的には無理があるような気がする。

クマノミは、所謂「雄性先熟性」、つまり、全ての個体はオスとして誕生する。では、メスはいないのかと言うと、そんなことはなくて、メスも存在する。メスは、オスが性転換したものである。

卵から孵化したクマノミは、途中、捕食されたりして大部分が死滅するとは言え、とにかく、イソギンチャク (例外もあるらしい) に、到達することで、幼生期を離脱する。前後してイソギンチャクに到着したクマノミは、シバシバ10匹足らずの個体からなるグループを作る。、

クマノミのグループは、最大で最強の個体である一匹のメス (つまり、「お母さんクマノミ」) と、2番目に大きい個体であり、「お母さんクマノミ」と共に繁殖に関わるオス (「お父さんクマノミ」)、そして、その他のオス (基本的には別の「父母」と云うか「母父」の間で形成された卵から孵化したのち浮遊してたどり着いた、最大でも数匹の「男の子(繁殖には関係しない)」) から構成されている。つまり、こうした「男の子」たちは、いわば「里子」であるが、むしろ「冷や飯喰い」と読んだ方が良いかも知れない。

「お母さん」が最強者としてグループ内を支配するが、「お父さん」と「冷や飯喰い」たちの間にも、序列があって、上位のものは下位のもの (特に直下のもの) を攻撃する。攻撃に耐えかねて、新参者が逃げだすこともある。この行動には、「冷や飯食い」が更に成長して、性的に成熟するのを防ぐ役割がある可能性がある (「お母さん」と「お父さん」との間では、攻撃はホボ抑制されているらしい)。

本稿のこうした記述は全て、泥縄の受け売りである。生態学や行動学的な記載は、新たな観測報告が追加されていくと重要な変更がありうると云う原則的な難点があるが、それ以前に、私が誤解していることも十分ありうる。だが、そうしたことは気にしないで、読みかじったものを未消化のまま吐き出していくことにする。

ただし、卵の段階では、親、特に「お父さん」は、卵塊を清潔にし、その数百から千数百ある卵が、捕食されないよう護ったり、また、酸素不足にならないよう、孵化までの1週間前後休みなくエラであおいで新鮮な海水を卵塊に供給し続けたり、死んでしまった卵があれば腐敗が他の卵に移らないように、死卵を除去 (食べちゃう) したりなど、献身的な世話をすると云う事実を付け加えておこう。

「お母さん」が欠けると (この映画では、「お母さん」の「コーラル (Coral)」がそうなる)、残ったグループのうち最大のオス である「お父さん」がメスへと性転換する。つまり、類型的には「お母さん」がいなくなると、「お父さん」が「お母さん」になる。そして、新しい「お母さん」は、その他のオスの中の一匹 -- 多分序列にして以前第3位だった「男の子」-- とツガイを組む。

それから、「ファインディング・ニモ/Finding Nemo」に登場するクマノミは、ディズニーの公式見解による「カクレクマノミ (Amphiprion ocellaris)」(つまり、「オケラリス種のクマノミ」) ではなく「ペルクラ種のクマノミ/Amphiprion percula」と云うことがシバシバ指摘されているようだ。

関連画像:

  1. ペルクラ種 Amphiprion percula のクマノミの画像
  2. オケラリス種 Amphiprion ocellaris (カクレクマノミ) の画像
  3. マーリン (ニモの父親) の画像

しかし、こうした諸諸のことはあまりこだわっても仕方がないような気もする。「お父さん」が「お父さん」のままなのが分からないことにしろ、オケラリス種にしろ、ペルクラ種にしろ、そうしたことが「問題」になるなら、クマノミに、人間みたいな歯が生えてるとか、白目があるとは思えないから、「問題」にするなら、そちらの方を先に「問題」にしろよ、と、思ったりする (「魚が、人間のように言語コミュニケーションを行う」ことは兎も角)。。。

。。。とは言うものの、本稿での「クマノミ」の説明は、ペルクラ種を基準にしている。

なお、余談になるが、日本語版のウィキペディアの記事「クマノミ亜科」では、英語風に「オセラリス種」としてあるが、学名では、一つの表記に一つの読み方を固定すべきである一方、学名はラテン語を基礎にすると云う原則があるのだから、ここはラテン語風に「オケラリス種」とすべき。日本は、ギリシア・ローマ文化の本流にはないのだから、むしろ、こうした点は厳格でないと、些細な誤りで重大な失敗を引き起こしかねない。

しかし、まぁ、道聴塗説はこれくらいにしておこう (私が書くものは、全て「道聴塗説」と云う指摘が聞こえてきそうだが、この際不問にしておく)。

で、本題だが、かって、「ファインディング・ニモ/Finding Nemo」と云うタイトルを聞いた時思ったのが、「この『ニモ/Nemo』は、ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万マイル』に登場する『ネモ船長』からとったのだろうか?」と云う疑問だった。

自分でツッコんでおくと、「海底二万マイル」の原題はフランス語で "Vingt mille lieues sous les mers" だから、「マイル」は可笑しい。しかし、"lieue" は「3海里=5556m」だから、『海底2万海里』も可笑しい。フランス語の lieue に対応する英語は league --厳密な言い方では "nautical league"-- だから、『海底二万リーグ』で、そうした翻訳名もあった筈だが、ここでは、私が子供のころ覚えて馴染んだとおりにしておく(草稿が出来上がってから、気が付いて調べたら、実は、ここらの背景事情は、日本語版ウィキペディアの記事「海底二万里」で説明されていて、それを引用すれば、それで済んだ話だった。。。今回は、こんな話ばかりだ)。

こだわるなら、"sous les mers" を「海底」とするのだって可笑しいのだ。ここは、「潜水」とか「潜航」とすべきところだろう。「潜航二万リーグ」とか、これはこれで、タイトルとして成立すると思うのだが、どうやら、そうしたタイトルでは翻訳されたことはないようだ (検索でヒットしない)。

で、この疑問には日本語版のウィキペディアの記事「ファインディング・ニモ」の「概要」に

主人公ニモ(Nemo)の名は、ジュール・ベルヌの小説『海底二万里』に登場する主人公ネモ船長(Captain Nemo)から採られている。
と書いてあって、あっさり解決している。

ただし、勿論、それだけでは話は終わらないので、その時私は、「もし、『だとしたら』、面白いネーミングだな」と思ったからだ。何故なら、ネモ船長の "Nemo" は、pseudonym であり、ラテン語 nemo に従って「誰でもない」と云う意味が隠されているからだ (日本語版ウィキペディアの記事「ネモ船長」を参照されたい)。つまり "nemo" は、英語で言えば "no one" や "no body" にあたるので、"finding Nemo" は "finding no one" や "finding nobody" つまり、「誰も探さない」と云う意味になるのだ。

そして (草稿完成どころか) 書きながら調べいて分かったが、"finding Nemo" を "finding no one" や "finding nobody" に変換するのは、簡単な思い付きだと云うことだ。実際、"finding no one" や "finding nobody" で、検索すると、それらしい記事がヒットする (意気阻喪したので、私は、内容をチェックしなかった)。

これを知った時点で、書き続ける意欲が著しく減退したのだが、もう少し書いておくと、"Nemo" は文学史的には、古典ギリシアのホメロス「オデュッセイア/ΟΔΥΣΣΕΙΑ」に遡ることができる。「オデュッセイア」の主人公オデュッセウス (Ὀδυσσεύς) がキュクロープス (Κύκλωψ) に対して名乗った Οὖτις がそれである。この "Οὖτις" も「誰でもない」を意味する。

しかし、他方、「オデュッセウス」は「大航海者」の象徴だから、"finding Nemo" は「大航海者を探して」と云う意味をも持ちうる。だから、"finding Nemo" と云う物語には、「大航海者を探して」と云う隠れた意味があるのではないか、と、妄想したのだったが、どうやらハズレのようだ。

「ファインディング・ニモ」は、「父親」が「失われた息子」を探しに旅に出ると云う話 (そのために「母親」が死んでいることが前提になっている) だから、「航海者」であるのは「父親」であると云う訣だ。「旅」は、宜しくドリー(Dory)と云う「案内者」を得て、叙事詩的としてなら、「地獄巡り」の様相を呈するのが順当なのだろうか、そうでもないようだ。

結局、本稿には「思い付き」と呼ぶに値することが、全くない、と云う結果に終わってしまった。

関連情報へのリンク

  1. Orange clownfish - Wikipedia
  2. Orange Clownfish - Amphiprion percula - Details - Encyclopedia of Life
  3. Outis - Wikipedia

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taxi の語源。「タクシー」に付いているから「タクシーメーター」と呼ぶではなく、「タクシーメーター」が付いているから「タクシー」と呼ぶのだと云う話。

以前から、taxi と云う英単語を見るたびに「変わった綴りだな」と云う思いが頭をよぎっていた。ただ、一瞬して忘れてしまう。

タクシーなど、年に一度、8月に、父の墓のある北関東の山奥に最寄駅から向かう時に利用するだけである。存命だった父に連れられて訪れた昔は、曲がりなりにもバスが、地元民でない人間にも利用するに足る頻度で通っていたのだが、現在では申し訳程度に運行されているだけだ。もっとも、当時は、道路が十分整備されていなくて、幅員に余裕がなく、道路の片方に迫った斜面から伸びた木の枝をこすりぬけながら走るバスが、道路逆側で誘う崖に転がり落ちるのではないかと、子供心にヒヤヒヤしたものだった。

話がズレた。兎に角、私は滅多にタクシーに乗車しない。だからと言っては悪かろうが、事実として "TAXI" への興味が持続しないので、そのまま、「気になる」が膨らむことはなかった。

しかし、先日、外出中にやはり、TAXI と書いた表示を見た拍子に、英語 "taxi" の語源が、古典ギリシャ語 (この「古典ギリシャ語」は「新約ギリシャ語」をカヴァーする、非常に大まかな意味で言っている。本稿のレヴェルでは、「プラトンの頃」と「新約時代のコイネー」の、更には、現代ギリシャ語との区別をしても仕方がないので、以後、単に「ギリシャ語」と呼ぶことにする) の ΤΑΧΥΣ (形容詞「速い」) ではないかと、思い付いたのだ。

勿論、ギリシャ語の Χ を英語に翻字すると、通常 Ch になる (ギリシャ語 Χ を翻字すると通常 Ch になるのは英語に限らないだろうが、ロシア語では通常 Х になるから、話を一般化するのは控えておく) ことは、私のような無知な人間でも承知している。確かに、「キリスト」 (ギリシャ語だと Χριστός) が英語では "Christ" になるのだ。とは言え、キリスト生誕を祝うミサは、"Christmas" だけでなく "Xmas" と表記されることもあるから、"ΤΑΧΥΣ" を語源とする交通機関が "taxi" と名付けられることもあるうると云うのが、私の思い付きの根拠だった。

ちなみに、キリストは、ロシア語では Христос。これをカタカナ化するなら「ハリストス」になる。東京神田の聖橋そばにある所謂「ニコライ堂」は「日本ハリストス正教会」の首座主教座教会である (ただし、ややこしい話だが、「日本ハリストス正教会」の対応ロシア語 Японская православная церковь には Христос 又は、その屈折形は含まれていない)。

さすがに忘れずに帰宅してから調べたのだが、これはハズレだった。

taxi は、もともと、taxicab, 更には taximeter cab の省略形らしい。運行距離に応じた課金高を表示する taximeter を搭載した cab (これ自体も、本来は、一頭立ての二輪馬車を意味する cabriolet の省略形) だという。

そして、以下の文章の要になる情報を示しておくと、「タクシー」に搭載されている料金計だから「タクシーメーター」と呼ばれるようになったのではなく、「タクシーメーター」を搭載した「少人数の乗客を随時運搬して、タクシーメーターに従った料金を請求する車両」を「タクシー」と呼ぶのだと云うことである。

以下の情報は英文ウィキペディアの記事 "Taxicab" 及び "Taximeter" と、ウェブページ "Early Sports and Pop Culture History Blog: Taximeter, Taximeter, Uber Alles - a History of the Taxicab" その他の資料の内容を取捨選択したものである。従って、詳しくは、そして恐らく正確には、原文を確認されたい。

まず、周辺的情報を纏めておくと、ゴットリープ・ヴィルヘルム・ダイムラー (Gottlieb Wilhelm Daimler, 1834年3月17日 - 1900年3月6日) が、彼の盟友ヴィルヘルム・マイバッハ (Wilhelm Maybach, 1846年2月9日 - 1929年12月29日) と共にガソリンエンジン駆動の四輪車 (Daimler Motorkutsche) を発明したのは、1886年である。これは、4輪馬車に、ガソリンエンジンを取り付けたものだった。二人は、1890年に株式会社ダイムラー自動車会社 (Daimler-Motoren-Gesellschaft.略称は DMG) を設立し、1892年に史上最初のガソリンエンジン車 Daimler Motor-Straßenwagen を販売し始める。

DMG は1894年以降、ベルトドライヴ式の "Daimler Riemenwagen" (「ダイムラー・ベルトドライヴ車」ぐらいの意味) を製造・販売していたが、1986年6月、シュトゥットガルト (Stuttgart) の荷馬車業者 Friedrich Greiner (フリードリッヒ・グライナー) が、これに「タクシーメーター」(恐らく、当時、そう云う呼び方で指定されたのではないだろうが) を付け加えたものを注文してきた。これに応じて、DMG が製作したのが "Daimler Riemenwagen Typ Victoria" (「ダイムラー・ベルトドライヴ車」タイプ・ヴィクトリア) である。これは、翌1897年5月に納入された。そして、グライナーの会社は、史上最初のガソリン車によるタクシー会社となった。
参照:The world’s first motorized taxi cab – built by Daimler-Motoren-Gesellschaft - Daimler Global Media Site

この "Typ Victoria" は "Daimler Victoria" と呼ばれることもある。しかし、同時期に、当時 DMG と競合会社であった Benz & Cie. も "Benz Victoria" ("Benz Patent-Motorwagen Victoria" とも呼ばれる) を製造販売しており紛らわしい。

しかし、こうしたことども以前から「タクシーメーター」は存在した。しかも、それを搭載したのは馬車ばかりではなかった。「タクシーメーター」付の「電気自動車」さえ存在したのだ (両者は、結局、ガソリンエンジン型のものに駆逐される)。

「電気自動車」に就いては英文版ウィキペディアの記事 "Electric vehicle" 及び "History of the electric vehicle" を参照されたい。

また、所謂「輪タク」型のものも存在した。1896年の米国ニューヨークの新聞 New-York tribune (ニューヨーク・トリビューン) の記事には、ドイツのベルリンでの「3輪自転車キャブ」が登場したとの報告がある。それは、ドイツでは通常の「辻馬車」に装備されている "taximeter" が付いていて、前輪が1つに後輪が2つで、後輪の上方に乗客が後ろ向きに乗るようなものであったらしい。
参照:New-York tribune. (New York [N.Y.]) 1866-1924, November 15, 1896, Image 31 « Chronicling America « Library of Congress

さて本題に戻ると、「タクシーメーター」の原形を発明したのは、ドイツ (プロシア) の音楽教授ヴィルヘルム・フリードリッヒ・ネドラー (Wilhelm Friedrich Nedler) だった。彼は、乗客が馬車その他の車両を利用した距離・時間に応じた料金を表示する装置の特許を英米仏独で取得している。彼は、この装置を Taxanome と名付けた。

Taxanom の内、Taxa は「料金」を意味する中世ラテン語の taxa 及び/又は ドイツ語の Taxe (ラテン語 taxa からの転訛) に由来し、nome は「規則・法律」を意味する νομος (nomos) に由来すると思われる (nome の方は、ギリシャ語から直接と云うより、楽曲のテンポを測定するメトロノーム metronome がヒントになった可能性がある)。ネドラーは、株式会社 Taxanom-Aktien-Gesellschaft (タクサノム株式会社) を 1884年にハンブルクで設立した ("Early Sports and Pop Culture History Blog: Taximeter, Taximeter, Uber Alles - a History of the Taxicab" では "Professor Nedler, wound up in Hamburg with his taxanom in the mid-1880s:" となっていて、この言葉通りなら「事業を清算した」になるが、文脈からして、その逆である)。

中世ラテン語 taxa は、ラテン語の動詞 taxo (非難する。値踏みをする。計算する。) から来ている。「税金」を意味する英語 tax も、ラテン語 taxo に由来するから、taxi と tax は同語源という訣だ。

ネドラーのほかに、ハンブルクのクロノメーター (船舶用精密時計) の製造業者フェルディナンド・デンカー (Ferdinand Dencker. ドイツ語版ウィキペディアに "Ferdinand Dencker" と云う項目があるが、これと同一人物だろう) は、Taxanome の改良を行い、例えば、乗客人数や料金体系の変動に応じて、料金表示の変更が容易に行えるようにした。彼も、Taxanome に就いての特許を取得している。

Taxanome の市場規模は大きくなっていき、競合他社も増加して、競争も激しくなっていったが、品質的に優れていたのは、ネドラーの会社と デンカーの会社の2つだった。しかしながら、ネドラーとデンカーとは、1890年7月に Taxameter Fabrik Westendarp & Pieper (タクサメータ製造所ヴェステンダープ・ウント・ピーパ) と云う会社に、特許を譲渡している。

その詳細は不明である。なお、ここで Taxameter と云う言葉が使われていることに注意。Taxameter から Taximeter への転訛は容易に起こりそうな気がする (特に、ドイツ語 --にしろ、他の特定言語にしろ-- になじみのない場合は、「聞き取った単語相当の音の塊」に期待される意味からの情報補足が欠ける可能性があり、Taxameter を Taximeter と受け取り違えることもありうるだろう)。

現在使われているタクシーメーターの基本形を作ったのは、Taxameter Fabrik Westendarp & Pieper の技術者だった Friedrich Wilhelm Gustav Bruhn (フリードリッヒ・ヴィルヘルム・グスタフ・ブルーン。1853年11月11日 - 1927年) である。彼の行った代表的な改良は、料金メーター (Taxameter) に「空車」を示すパネルや小旗を取り付けて、それを倒し隠すと課金が始まり、同時に乗客がいることが分かるようにしたことである。

1897年、ブルーンは独立して、やはりハンブルクに、Internationaler Taxameter, G.m.b.H. (インタナツィオナーラ・タクサメータ株式会社) を設立した。事業は好調で、1906年には、ブルーンは、古巣の会社 Taxameter Fabrik Westendarp & Pieper を買収している。Taxameter Fabrik Westendarp & Pieper 買収後、ブルーンは、その製品に自分の名前を被せるようにした。例えば、"Taxameter" は "Original Taxameter Bruhn" として販売された。タクシーメーターの「発明者」がブルーンであるとされることがあるのはこのためかもしれない。

しかし、ブルーンが独立した 1897年は、ダイムラー社が、タクシーメーター (恐らく、取引上、当時はまだ Taxameter と呼ばれていたろうが) を搭載したガソリンエンジン車 Typ Victoria を出荷した年である (Daimler Victoria に搭載された Taxameter が Bruhn のものかどうかは確認できなかった)。

ただし、馬車からガソリン車への切り替えにしろ、Taxameter 付きガソリン車の一般化にしろ、すぐに起こったのではない。1906年、イギリス・ロンドンでの特別委員会に証人として出席したブルーンは、ベルリンに 7500台ある cab のうちガソリン車は 300台 に過ぎないと証言している。

それでも、どうやら、この 1906年から1907年あたりが、潮の変わり目だったらしい (「特別委員会」でブルーンが証言したこと自体が、そのことを暗示しているとも言える)。

米国ワシントンD.C.の新聞ナショナル・トリビューン (National tribune) 1907年5月23日号第2頁には、ロンドンでは taximeter を搭載した taxicab と云う自動車が評判で、数多くあり、馬車型の cab を駆逐しつつあると報じている (米国における例だが、既に、"taxicab" そして "taximeter" と云う単語が使われていることに注意)。
参照:The National tribune. (Washington, D.C.) 1877-1917, May 23, 1907, Page 2, Image 2 « Chronicling America « Library of Congress

また、米国ニューヨーク州の新聞ニューヨーク・トリビューン (New-York tribune) 1907年10月1日号第5頁では、New York Taxicab Company が、開業に合わせて、フランスから輸入した taxicab 25台のパレードを、前日、ニューヨーク市5番街で行ったと報じている。
参照:New-York tribune. (New York [N.Y.]) 1866-1924, October 01, 1907, Page 5, Image 5 « Chronicling America « Library of Congress

New York Taxicab Company が購入した自動車は、フランスの A Darracq et Cie 社製のものだった。また、タクシーメーターは、やはりフランスの Société Générale des Compteurs Voitures 社のものだった。

New York Taxicab Company は最終的には A Darracq et Cie から600台の taxicab を輸入したらしい。

この後、数年にして、ガソリン車のタクシーの普及は進み、その製造も一般化する。

Société Générale des Compteurs de Voitures の株券 (1904年) では、taxamètre と表記されていることを注意しておく。

結局、上記のように、既に 1896年には、taximeter と云う言葉が使用されており、taxameter から taximeter への変化は、かなり早かったらしいと云うことしか分からなかった。

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私家版 [周期表記憶法]

自分用に、周期表を記憶するための語呂合わせを作ってみた。所謂「定番」(「水兵リーベ・・・」など) と一括して記録しておく。なお、以下において、特定の地名・組織名その他の名称と一致又は類似する音の並びがあっても、他意はないので悪しからず。

本題に入る前に、「語呂合わせ」の前提として、周期表を掲げておく。

IA IIA IIIB IVB VB VIB VIIB VIII IB IIB IIIA IVA VA VIA VIIA 0
1 1
H
水素
2
He
ヘリウム
2 3
Li
リチウム
4
Be
ベリリウム
5
B
ホウ素
6
C
炭素
7
N
窒素
8
O
酸素
9
F
フッ素
10
Ne
ネオン
3 11
Na
ナトリウム
12
Mg
マグネシウム
13
Al
アルミニウム
14
Si
ケイ素
15
P
リン
16
S
硫黄
17
Cl
塩素
18
Ar
アルゴン
4 19
K
カリウム
20
Ca
カルシウム
21
Sc
スカンジウム
22
Ti
チタン
23
V
バナジウム
24
Cr
クロム
25
Mn
マンガン
26
Fe
27
Co
コバルト
28
Ni
ニッケル
29
Cu
30
Zn
亜鉛
31
Ga
ガリウム
32
Ge
ゲルマニウム
33
As
ヒ素
34
Se
セレン
35
Br
臭素
36
Kr
クリプトン
5 37
Rb
ルビジウム
38
Sr
ストロンチウム
39
Y
イットリウム
40
Zr
ジルコニウム
41
Nb
ニオブ
42
Mo
モリブデン
43
Tc
テクネチウム
44
Ru
ルテニウム
45
Rh
ロジウム
46
Pd
パラジウム
47
Ag
48
Cd
カドミウム
49
In
インジウム
50
Sn
スズ
51
Sb
アンチモン
52
Te
テルル
53
I
ヨウ素
54
Xe
キセノン
6 55
Cs
セシウム
56
Ba
バリウム
L
ランタノイド
72
Hf
ハフニウム
73
Ta
タンタル
74
W
タングステン
75
Re
レニウム
76
Os
オスミウム
77
Ir
イリジウム
78
Pt
白金
79
Au
80
Hg
水銀
81
Tl
タリウム
82
Pb
83
Bi
ビスマス
84
Po
ポロニウム
85
At
アスタチン
86
Rn
ラドン
7 87
Fr
フランシウム
88
Ra
ラジウム
A
アクチノイド
104
Rf
ラザホージウム
105
Db
ドブニウム
106
Sg
シーボーギウム
107
Bh
ボーリウム
108
Hs
ハッシウム
109
Mt
マイトネリウム
110
Ds
ダームスタチウム
111
Rg
レントゲニウム
112
Cn
コペルニシウム
113
Uut
ウンウントリウム
114
Uuq
ウンウンクアジウム
115
Uup
ウンウンペンチウム
116
Uuh
ウンウンヘキシウム
117
Uus
ウンウンセプチウム
118
Uuo
ウンウンオクチウム
L
ランタノイド
57
La
ランタン
58
Ce
セリウム
59
Pr
プラセオジム
60
Nd
ネオジム
61
Pm
プロメチウム
62
Sm
サマリウム
63
Eu
ユウロピウム
64
Gd
ガドリニウム
65
Tb
テルビウム
66
Dy
ジスプロジウム
67
Ho
ホルミウム
68
Er
エルビウム
69
Tm
ツリウム
70
Yb
イッテルビウム
71
Lu
ルテチウム
A
アクチノイド
89
Ac
アクチニウム
90
Th
トリウム
91
Pa
プロトアクチニウム
92
U
ウラン
93
Np
ネプツニウム
94
Pu
プルトニウム
95
Am
アメリシウム
96
Cm
キュリウム
97
Bk
バークリウム
98
Cf
カリホルニウム
99
Es
アインスタニウム
100
Fm
フェルミウム
101
Md
メンデレビウム
102
No
ノーベリウム
103
Lr
ローレンシウム

まず、横方向の並びの語呂合わせ。勿論、「水兵リーベ・・・」で始まっている。

第1巡-第3巡. (H)(He)(Li)(Be)(B,C)(N,O)(F,Ne)(Na)曲がる(Mg,Al)シップ(Si,P)(S)(Cl,Ar)入り。

  1. H: 水素 (hydrogen), He:ヘリウム。
  2. Li:リチウム, Be:ベリリウム, B:ホウ素 (boron), C:炭素 (carbon), N:窒素 (nitrogen), O:酸素 (oxygen), F:フッ素 (fluorine), Ne:ネオン
  3. Na: ナトリウム, Mg: マグネシウム, Al:アルミニウム, Si:ケイ素 (silicon), P:リン (phosphorus), S:硫黄 (sulfur), Cl:塩素 (chlorine), Ar:アルゴン

第4巡. (K)カァ(Ca)好かん(Sc)(Ti)(V)(Cr)マン(Mn)ジュウ、(Fe)(Co)(Ni)どう(Cu)? かん、くえん(Zn)! ガリ(Ga)っとしたのは。。。(Ge)!! (As,Se)臭い(Br)(Kr)

  1. K:カリウム, Ca:カルシウム, Sc:スカンジウム, Ti:チタン, V:バナジウム, Cr:クロム, Mn:マンガン, Fe:鉄 (ラテン語 ferrum), Co:コバルト, Ni:ニッケル, Cu:銅 (後期ラテン語 cuprum), Zn:亜鉛 (zinc), Ga:ガリウム, Ge:ゲルマニウム, As:ヒ素 (arsenic), Se:セレン, Br:臭素 (bromine), Kr:クリプトン

第5巡. 5丁目にあるビ(Rb)ストロ(Sr)「青い鳥(Y)」の青(Zr)臭う(Nb)盛り(Mo)、喰いてくねぇ(Tc)、帰るって(Ru)老人(Rh)、すきっ(Pd)(Ag)座の(Cd)イン(In)して、スズ(Sn)ラン(Sb)通りで遣ってる(Te)(I)食屋の季節(Xe)料理を食べた。

  1. Rb:ルビジウム, Sr:ストロンチウム, Y:イットリウム, Zr:ジルコニウム, Nb:ニオブ, Mo:モリブデン, Tc:テクネチウム, Ru:ルテニウム, Rh:ロジウム, Pd:パラジウム, Ag:銀 (ラテン語 argentum), Cd:カドミウム, In:インジウム, Sn:スズ (ラテン語 stannum), Sb:アンチモン (ラテン語 stibium), Te:テルル, I:ヨウ素 (iodine), Xe:キセノン

第6巡. せし(Cs)めた(Ba)かりのラー(L)メン、ハーフ(Hf)タン(Ta)タン(W)(Re)麺。お酢(Os)入れ(Ir)ても、はっきり(Pt,Au)(Hg)足り(Tl)(Pb)ビー(Bi)ルはサッポロ(Po)あと(At)コーラドン(Rn)ドン持ってきて。

  1. Cs:セシウム, Ba:バリウム, L:ランタノイド, Hf:ハフニウム, Ta:タンタル, W:タングステン (ドイツ語 Wolfram), Re:レニウム, Os:オスミウム, Ir:イリジウム, Pt:白金 (platinum), Au:金 (ラテン語 aurum), Hg:水銀 (近世ラテン語 hydrargyrum 但し古典時代に hydrargyrus と云う語形での使用例がある), Tl:タリウム, Pb:鉛 (ラテン語 plumbum), Bi:ビスマス, Po:ポロニウム, At:アスタチン, Rn:ラドン

第7巡. フランス(Fr)ラジ(Ra)コン、空き地(A)で飛ばす。ラフ(Rf)越え、ドブ(Db)すぐ(Sg)ボッ(Bh)チャン。ハッ(Hs)とした、参った(Mt)ダーッと取りに行ったが、ダだった、こし遅かっ(Da)。取れん(Rg)かった。腹ペコペ(Cn)コ。

  1. Fr:フランシウム, Ra:ラジウム, A:アクチノイド, Rf:ラザホージウム, Db:ドブニウム, Sg:シーボーギウム, Bh:ボーリウム, Hs:ハッシウム, Mt:マイトネリウム, Ds:ダームスタチウム, Rg:レントゲニウム, Cn:コペルニシウム

ランタノイド. (La)(Ce)プラッ(Pr)ネオ(Nd)プロメテウス(Pr)(Sm)登場。(Eu)(Gd)に遣ってる(Tb)。食事済(Dy)ませて、(Ho)エール(Er)釣り(Tm)行って(Yb)るって(Lu)

  • La:ランタン, Ce:セリウム, Pr:プラセオジム, Nd:ネオジム, Pm:プロメチウム, Sm:サマリウム, Eu:ユウロピウム, Gd:ガドリニウム, Tb:テルビウム, Dy:ジスプロシウム, Ho:ホルミウム, Er:エルビウム, Tm:ツリウム, Yb:イッテルビウム, Lu:ルテチウム

アクチノイド. (Ac)(Th)プロ(Pa)恨ん(U)(Np)。タップリ(Pu)儲かる(Am)(Cm)(Ba)かり(Cf)か、真似たアイ(Es)ドル増える(Fm)。なめん(Md)(No)やめ(Lr)

  • Ac:アクチニウム, Th:トリウム, Pa:プロトアクチニウム, U:ウラン, Np:ネプツニウム, Pu:プルトニウム, Am:アメリシウム, Cm:キュリウム, Bk:バークリウム, Cf:カリホルニウム, Es:アインスタイニウム, Fm:フェルミウム, Md:メンデレビウム, No:ノーベリウム, Lr:ローレンシウム

縦方向の語呂合わせは以下の通り。

第IA族. エッチ(H)リッチ(Li)(Na)カー(K)ちゃん、ルビー(Rb)せし(Cs)めてフランス(Fr)へ。

    H: 水素 (hydrogen), Li:リチウム, Na: ナトリウム, K:カリウム, Rb:ルビジウム, Cs:セシウム, Fr:フランシウム

第IIA族. ベリ(Be)ッと破ったマグ(Mg)カル(Ca)タ、洗って干すと(Sr)(Ba)(Ra)バラに。

    Be:ベリリウム, Mg: マグネシウム, Ca:カルシウム, Sr:ストロンチウム, Ba:バリウム, Ra:ラジウム

第IIIB族. スカ(Sc)(Y)ラーク(L,A)は3B階。

    Sc:スカンジウム, Y:イットリウム, L:ランタノイド, A:アクチノイド

第IVB族. 外人の(Ti)が混じっ(Zr)てるハーフ(Hf)のブラザホー(Rf)

    Ti:チタン, Zr:ジルコニウム, Hf:ハフニウム, Rf:ラザホージウム

第VB族. 鼻血(V)が出るほど匂う(Nb)(Ta)ドブ(Db)

    V:バナジウム, Nb:ニオブ, Ta:タンタル, Db:ドブニウム

第VIB族. (Cr)(Mo)天狗(W)死亡(Sg)

    Cr:クロム, Mo:モリブデン, W:タングステン, Sg:シーボーギウム

第VIIB族. (Mn)画家、テク無(Tc)(Re)載無(Bh)

    Mn:マンガン, Tc:テクネチウム, Re:レニウム, Bh:ボーリウム

第VII族-I. (Fe)を売るって(Ru)おっさ(Os)ハッス(Hs)ル。

    Fe:鉄, Ru:ルテニウム, Os:オスミウム, Hs:ハッシウム

第VIII族-II. 小林(Co)老人(Rh)炒り(Ir)卵うまい(Mt)

    Co:コバルト, Rh:ロジウム, Ir:イリジウム, Mt:マイトネリウム

第VIII族-III. (Ni)本のパラダ(Pd)イス、白金(Pt)のマダムスタチ(Ds)

    Ni:ニッケル, Pd:パラジウム, Pt:白金, Ds:ダームスタチウム

第IB族. (Cu)(Ag)(Au)れんと拳(Rg)骨よ。

    Cu:銅, Ag:銀, Au:金, Rg:レントゲニウム

第IIB族. 君に逢えな(Zn)い街(Cd)(Hg)コッペ(Cn)パン食べる。

    Zn:亜鉛, Cd:カドミウム, Hg:水銀, Cn:コペルニシウム

第IIIA族. 放送(B)ある(Al)(Ga)(In)たり(Tl)来ず。

    B:ホウ素, Al:アルミニウム, Ga:ガリウム, In:インジウム, Tl:タリウム

第IVA族. (C)(Si)ゲイ(Ge)すん(Sn)(Pb)

    C:炭素, Si:ケイ素, Ge:ゲルマニウム, Sn:スズ, Pb:鉛

第VA族. (N)(P)秘書(As)アンチ(Sb)(Bi)ジネス。

    N:窒素, P:リン, As:ヒ素, Sb:アンチモン, Bi:ビスマス

第VIA族. (O)代続く凄いおお(S)金持ちのセレ(Se)ブがやってる(Te)スポーツはポロ(Po)

    O:酸素, S:硫黄, Se:セレン, Te:テルル, Po:ポロニウム

第VIIA族. (F)漬け(Cl)っぱ臭い(Br)(I)アスタ(At)喰お。

    F:フッ素, Cl:塩素, Br:臭素, I:ヨウ素, At:アスタチン

第O族 (He)ネー(Ne)ちゃん、ある(Ar)クルッ(Kr)と回って奇声(Xe)あげたらドン(Rn)と打たれた。

    He:ヘリウム, Ne:ネオン, Ar:アルゴン, Kr:クリプトン, Xe:キセノン, Rn:ラドン

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メモ:理科年表 [物理/化学部 旋光物質] における用語の誤りに就いて

平成24年度版 (第85冊) [理科年表] (丸善出版 東京 2011年) のノンブルで言うなら [物102(464)] にある表 [旋光物質] は、次のようになっている。

物  質   条 件 [α]D20/(°)
果糖 c = 10 -104 (溶解後 6m), -90 (溶解後 33m)
果糖 p = 2 -- 31 -91.9 - 0.11p (平衡に達した後)
ショ糖 c = 0 -- 65 +66.462 + 0.00870c - 0.000235c2
転化糖 p = 9 -- 68 -19.447 - 0.06068p + 0.000221p2
ブドウ糖(右旋) c = 9.1 +105.2 (溶解後 5.5m), +52.5 (溶解後 6h)
ブドウ糖(右旋) p = 1 -- 18 +52.50 + 0.0188p + 0.000517p2 (平衡に達した後)
ブドウ糖(左旋) p = 4 -94.4(溶解後 7m), -51.4(溶解後 7h)
酒石酸 p = 4.7 -- 18 +14.83 - 0.149p
酒石酸 p = 18 -- 36 +14.849 - 0.144p
酒石酸カリウム p = 9 -- 55 +27.62 + 0.1064p - 0.00108p2
ロシェル塩 -------- +29.73 - 0.0078c

問題は、[ブドウ糖] に関する3行、特に3行目だ。これは、[旋光物質] としての「ブドウ糖」に [右旋型] と [左旋型] との2種類あることが前提となっている記載だろう。実際、比旋光度 [α]D20/(°) も、それに対応した値になっている。「右旋性」の物質の比旋光度は正であり、「左旋性」の物質の比旋光度は負であるからだ。

しかし、[ブドウ糖] とは D-glucose つまり、「右旋型 のグルコース」だけを意味し、「左旋型のグルコース」は「ブドウ糖」とは呼ばないのだ。つまり、「ブドウ糖」と書かれているなら、それは、その文脈が [旋光] に関していようがいまいが [右旋型] の化合物なのだ。

「右旋型」は [d-] とか [(+)-] と云う記号を使って表わされることが多い。これに対し、その対比形である「左旋型」は [l-] とか [(-)-] と云う記号を使って表わされることが多い。ここで d は dextrorotatory (右旋性の) により、l は levorotary (左旋性の) によっている。しかし、IUPAC (International Union of Pure and Applied Chemistry/国際純正・応用化学連合) は右旋性・左旋性を表わすのに [d-]・[l-] を用いないように強く勧めているので、以下では、基本的には d /l 対比ではなく(+)/(-) 対比を用いることにする。

例えば、[東京化学同人] 発行の [化学大辞典] で、[ブドウ糖] の項 (p.2019) は [D-グルコース] (p.647) へのクロスリファレンスを与えている (辞書中 [D-グルコース] の項目の位置は [グルコース] に従っている)。

ちなみに [果糖] (p.453) は [D-フルクトース] (p.2048) をクロスリファレンスしているのだが、[D-グルコース] 及び [D-フルクトース] から関連箇所を引用すると:

D-グルコース [D-glucose]
1700年代の末ごろ, ハチ蜜から単離され, ギリシャ語の glykys (sweet) にちなみ命名され, 右旋性を示すのでデキストロース (dextrose), ブドウ汁に含まれるのでブドウ糖 (grape sugar) ともいわれる.

L-グルコースは天然から産出せず, L-アラビノースから合成され, 融点 146~147℃, [α]22D -53°(水, 終末値).
-- [化学大辞典] (東京化学同人 1989年) p.647,648

D-フルクトース [D-fructose]
1800年代の末, ハチ蜜から始めて結晶化され, 果汁に広く含まれるので, ラテン語の fructus (fruit) にちなみ命名された. 大きな左旋性を示すので, 右旋性の D-グルコースをデキストロースというのに対比し, レブロースともいわれる.
-- [化学大辞典] (東京化学同人 東京 1989年) p.2048

ここで、ラテン語に就いて補足しておくと、dextrose の元になったラテン語は「右側へ/右側の」を意味する dexter, 「レブロース (levulose)」の元になったラテン語は「左側へ/左側の」を意味する laevus である。

glykys のギリシャ語原綴は γλυκυς である。

なお、比旋光度をあらわす記号 [α]22D で、測定光と測定時温度の上付き・下付きが、[理科年表] における [α]D20/(°) と逆になっているが気にしないでおく。

ついでに [岩波理化学辞典第5版] からも引用しておこう:

グルコース
アルドヘキソースの1つ. D-グルコースはブドウ糖 (grape suger) またはデキストロースともいい, 代表的なアルドースである. 単糖のうちD-フルクトースとともに最も分布が広く, 遊離状態では甘い果実中に多量に存在し, また血液, 脳脊髄液, リンパ液中にも少量含まれ, 糖尿病患者の尿中には多量に存在する.

L-グルコースはコウマ(黄麻)やある種のキク科植物の葉の加水分解物中に存在すると報告されているが, L-アラビノースから炭素数を増やしてゆく反応で得られる.
-- [岩波理化学辞典第5版] (岩波書店 東京 1998年) p.384

フルクトース
ケトヘキソースの一種. D-フルクトースは果糖 (fruit suger), 左旋糖 (levulose, レブロース) ともいう.
-- [岩波理化学辞典第5版] (岩波書店 東京 1998年) p.1205

[東京化学同人] の [生化学辞典第2版] (1990年。私の手持ちは、この版しかない。現在は第4版である) からも引用しようと思ったがやめておく。引用すべき内容が、特に [D-グルコース] では、[岩波理化学辞典第5版] とほぼ同一だからだ (どちら辞典にたいしても、それを咎め立てているわけではない。為念)。

(炭水化物・糖類の構成単位である) 単糖や (タンパク質・ペプチドの構成単位である) アミノ酸 (それらの誘導体も含む) の鏡像異性体を持つ場合 (殆どの場合持っている訣だが、それはそれはして)、1対存在する鏡像異性体を対比的に区別するため、分子の立体構造の特定の一部分の相違点に着目した D/L 対比と、旋光性の相違 (鏡像異性体は必ず一対で存在し、その一方が右旋性なら他方は必ず左旋性になり、逆に左旋性でないなら右旋性になる) に着目した (+)/(-) 対比に就いて説明することは控えておくが (有機化学の教科書を適宜読んで下さい)、様ざまなところで注意されているように、この2種類の区分は、歴史的な経緯から紛らわしい記号 D/Ld /l が用いられることがあるとは言え、現在の我々の立場からするなら、独立した区分法であることは改めて強調しておくべきだろう。

実際、グルコースにもフルクトースにも D 異性体と L 異性体が存在するが、上述のようにグルコースの D 体は右旋型 ((+)型) であるのに対し、フルクトースのD 体は左旋型 ((-) 型) である。

そして、D-グルコース、つまり「ブドウ糖」と、D-フルクトース、つまり「果糖」は、それ自体、又は、化合物の構成要素として、自然界に広く、そして多量に存在するのに対し (大雑把に言うなら、D-グルコース1分子と D-フルクトース1分子とがグリコシド結合したものがショ糖1分子である)、それぞれの L 異性体は、天然に存在しないか、するにしても僅かでしかない (希少糖)。

生体内の代謝で主要な役割を果たすのは、D-グルコースである。例えば、生化学での解糖系の議論や、食品工業にあっては L-グルコースは無視可能なので、D-グルコースを単に「グルコース」と呼ぶことは普通である。従って、その文脈では「グルコース」は「ブドウ糖」と同義になる。

しかし、これはあくまでも「文脈から明らかであるので」と云う条件のもとでの「D-グルコース」の省略形としての「グルコース」であって、全ての場合に通用する訣ではない。

憶測だが [理科年表] の表 [旋光物質] の作成担当者は、[グルコース] と[ブドウ糖] が同一であると思いこんでいたのだろう。だから「ブドウ糖(左旋)」とあるのは、「左旋体のグルコース」、つまり「L-グルコース」の積もりだったのだろう。しかし、「L-グルコース」は、左旋体の「グルコース」であっても、それを「左旋体のブドウ糖」と呼ぶことはできない。上記のように「ブドウ糖」は「右旋体のグルコース」限定の呼称であるからだ。

この表のように、右旋体と左旋体を区別する場合には、「グルコース」と「ブドウ糖」の混同は、致命的な誤りと言える。。。と言うか、むしろ不思議なのは、[理科年表] のような国民的リファレンスブックにあって、このような初歩的な誤りが、校正者・校閲者・そして恐らくは、読者からも見過ごされていることだ。まぁ、私自身、最近調べものをしている際 ([デキストロース当量] に就いて補足的な記事を書こうとしたのだが、結局纏まらないままでいる) に見るまで気がつかなかったのだから、偉そうなことは言えないのだけれども。

「(右旋)」と「(左旋)」の注意書が必要なのはむしろ [酒石酸] の方だろう。酒石酸は右旋型 (L体) も左旋型 (D体) もともに「酒石酸」と呼ばれているからだ (もっとも、表 [旋光物質] では右旋型酒石酸しか示されていない)。さらに、酒石酸は、分子内の内部補償により鏡像対称性をもったメソ体 (mesoisomer) も、D体とL体の等量混合物であるラセミ体 (racemic modification. 記号 (±)- 又は dl- が付されることが多い) も存在する。ラセミ体の酒石酸は「ブドウ酸 (racemic acid)」とも呼ばれ、「ラセミ体」の名は、これに拠っている。

蛇足的な注意をしておくと、表 [旋光物質] では比旋光度 [α]D20/(°) が統一的に与えられているから、この記事において所謂「コットン効果 (旋光異常分散)」([円偏光二色性 - Wikipedia] 参照) の影響の可能性について考慮する必要は全くない。

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「焼けた土」の「イタリア語訳」とイタリア語 "cottura" の意味

先程 (2012/02/06 09:25:36)、キーフレーズ [焼けた土 イタリア語訳] でこのサイトを訪問された方がいらしたようだ。

大きなお世話ながら、そして若干憶測になってしまうのだが、おそらくは、イタリア語 "terra cotta" 又は "terracotta" と云う単語をお探しだったのだろうと拝察する。

これは、「地球・大地・世界」の他に「土」を意味するイタリア語女性名詞 "la terra" に、「煮る・焼く・乾燥する」を意味するイタリア語動詞 "cuocere" の過去分詞 "cotto" が形容詞的に用いられて、女性単数形 "cotta" として後ろから "terra" を修飾している言葉である。

基本的には「素焼きの土器」を意味しており、「テラコッタ」と云う形で日本語化もしている (「タナグラ・テラコッタ」と云う言葉が「授業」で出てきたことを覚えている方も多いだろう)。

因みに、イタリア語動詞 "cuocere" は「煮る・焼く・揚げる・料理する」を意味するラテン語 "coquere" (辞書の見出しとしては "coquo" の方が探しやすいかもしれない) の派生形であり、同語源のイタリア語には「料理・料理法」を意味する女性名詞 "la cottura" がある。シバシバ、このサイトに [cottura イタリア語 意味] と云った類いのキーフレーズで訪問される方がいるので、合わせて書いておく。

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「東日本大震災」の文脈内での「避難所」・「避難者」・「避難者数」の英訳

いささか「時務」に亘る話柄なので、本ブログの趣意に悖るが、かなり頻繁に関連するアクセスがあるので、簡単に書いておく。

シバシバ日本人が書く英文において「避難」の英訳として用いられる "evacuation" は、その中心にあるのは「無人化」と云う概念であり、現在日本社会に馴染みやすい用語を使うなら「退避指示」又は「退避勧告」又は「立ち入り制限 (命令)」(本来「命令」と云う言葉を付けるべきなのだろうが、日本の行政は「命令」と云う言葉を使いたがらないようだ) が最も妥当することになるだろう。

今回の「東日本大震災」で実行されたかどうか寡聞にして知らないが、災害時の "evacuation" には、所謂「ペット」や家畜の "evacuation" もあり得る。この場合は「無人化」と云う用語は馴染まない訣だが、発想は「無『人』化」と同じである。なお、アメリカ合衆国ルイジアナ州農業・森林監理局 --Louisiana Department of Agriculture and Forestry-- のウェブページ "Animal Evacuation Information" を参照の事。

だから、福島の原子力発電所からの放射性物質噴出に伴う立ち入り制限区域のことを英文メディアは "evacuation zone" (Nature News Blog: High radiation levels outside Fukushima evacuation zone) とか "evacuation area" (Pro Nuclear Democrats: Fukushima I Nuclear Power Plant: The Facts So Far) と表現した訣だ (おそらく "evacuation zone" の方が英語としてこなれていると思う)。

従って、JIS の [標準案内図記号] の「広域避難場所」に "Safety evacuation area" と云う「英語」が付されているのは問題がある。英語のネイチブ・スピーカーが、本来とは逆の意味に取ってしまう可能性があるからだ。

では「避難所」はどう英訳すべきか?

[災害(地震)対策文書中の用語「避難所/避難場所」の英訳としての "evacuation area" に就いて] (2006年1月19日[木]) において、私は "refuge" を第一候補として挙げておいた。やや補足して "refuge zone" 又は "regional refuge" ぐらいにすると、「災害用語」らしくなると、後知恵ながら思いついたが、その時は、だからといって、補足修正しようと迄は考えなかった。

が、「東日本大震災及び広域的放射能汚染事件」後の現在は、事情が改まっている。 "refuge" では ("refuge zone" 又は "regional refuge" であっても) 一般的過ぎて、「発生するかもしれない災害を見越しての案内のための」と云う文脈には載りえても、「天災・人災を含めて具体的な災害の被害者のための」と云う文脈にはそぐわないからである。

かといって、別段私がしゃしゃり出てアレコレ述べたてるほどのことではないことであるだろうと、思っていた。少し調べれば解決が付くことだからだ。だから、[避難所 英語] と云うたぐいのキーフレーズで、このサイトを訪問される方が頻頻とあっても、無視してきた。しかし、本ブログへのそうしたアクセスが一向に治まりそうもないのだな。で、まぁ、こんなことを書いている訣だ。

そこで、まず「避難所」より「避難者」をどう訳すかが問題になる。新たの文脈では「避難所」とは現実に「避難者」が生活している場だからだ。

「避難者」は "refugee" (単数) と訳されることがある。しかし "refugee" が「亡命者」又は「政治難民」が中心語義であることが示すように、その含意には「迫害回避のための本来的帰属地からの自発的離脱」が基本にある ("refuge" 中の "fuge" は、「逃亡者」を意味する英語の "fugitive" や「逃亡」を意味し、音楽用語としては「遁走曲」と訳されることもあるイタリア語の "fuga" と同じく、「逃げる」を意味するラテン語の動詞 "fugere" が語源になっている)。

東日本大震災に起因して現在、所謂「避難所暮らしを余儀なくされている」人々は、むしろ "evacuee" (単数) と英訳されるべきなのだ (日本発のものを含めて、英文メディアでは普通に使われている)。特に、東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質噴出に起因する (何だか厭らしい言い方だが)「健康被害」を避けると云う名目の下で、"evacuation zone" から排除された人々はまさに "evacuees" (複数) と謂って良いだろう (ちなみに、1941年の日本軍による真珠湾攻撃の後、合衆国政府により収容所での生活を強制された日系米国人も "evacuees" と呼ばれる)。

そこで、この文脈における「避難所」は、どう訳すべきかと云うと、その規模や様態により、一様ではないような気がする。基本的に "evacuees" が入る訣だが "evacuees shelter", "evacuees center", "evacuees camp" (やや微妙だが"evacuees housing" もありうる) などと考えられる (細かいことを言うなら "evacuees" の後にアポストロフィを入れて "evacuees'" とすべきなのかもしれない)。

最後に「避難者数」はどうかと言うと "the evacuee population" ぐらいだろうが、勿論 "the number of evacuees" でも大丈夫だろう。

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メモ:2011年6月8日 (水曜) 朝日新聞朝刊 [天声人語] 中の「ゲーテの言葉」

日付が変わってしまったので、昨日の話になるが、先程、1日遅れでたまたま手にした「2011年6月8日 (水曜) 朝日新聞朝刊 (東京本社13版)」を流し読みした所、[天声人語] がこう始まっていた (現時点では、同内容の物がウェブ上の [asahi.com(朝日新聞社):天声人語 2011年6月8日(水)] で見ることができる)。

〈行き先を知らずして、遠くまで行けるものではない〉。ゲーテの言葉である。目的地が定まらないと足取りが重くなる。そんな意味だろう。逆に、確かな目標があれば急坂や回り道をしのぎ、転んでも起き上がり、大きな事を成せる
--2011年6月8日 (水曜) 朝日新聞朝刊 (東京本社13版) 第1面 [天声人語]

これを読んだ時の、私の感想は「ヤッチマッタナー」(© クールポコ) と云うものだった。箸にも棒にも掛からない詰まらないことを「したり顔」(最近は「ドヤ顔」と謂うらしいが) で書いてある。大体、「行き先を知らずして、遠くまで行けるものではない」では警句にならない。「当たり前」にさえなっていない。当たり前の日本語を使いたいなら、せめて「行き先を決めない限り、遠くまで行くことはできない」ぐらいにしろよ、と言いたい。

浩瀚なゲーテの著作の中の何処かで、そんなことも書かれているかもる知れないが、そして私はまことに無教養で無知蒙昧ではあるが、私の知っているゲーテは、「行き先を知らずして、遠くまで行けるものではない」とは言ってはいない。少なくとも、私が子どもの時に読んだ小辞典 (福音館書店刊であったか、昭文社刊であったかだと思う) の巻末についていた名言集では、そんなことを言っていなかった。うろ覚えだか、こんな感じだったのだ。

人は何処に行くか分からない時ほど遠く迄行くことはない。

(子どもだった私にも、これが「目的地が明確でないと、とんでもないところに彷徨っていくことになる」か、或いは「目的地に縛られない時こそが、もっとも遠くまで進むことができる」ぐらいの意味だと云うことが感じられた。)

取り敢えず、手持ちのバートレットの引用句辞典 ("Bartlett's Familiar Quotations" 16th ed.) で調べた所、英訳が採録されていた。

One never goes so far as when one doesn't know where one is going.
Letter to Karl Fiedrich Zelter [December 3, 1812]
--"Bartlett's Familiar Quotations" (16th ed. 1992) p.350

そして、滑稽と謂えるが、天声人語の英訳版 (asahi.com(朝日新聞社):VOX POPULI: Japan must see the big picture on energy policy - English) では、この "One never goes so far as when one doesn't know where one is going." が「ゲーテの言葉」として、そのまま使われているのだ。

"One never goes so far as when one doesn't know where one is going." The quote is attributed to the German writer Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832). I think the idea is that when our destination is uncertain our steps become heavy. Conversely, as long as we have a clear goal, we can climb steep slopes, take all sorts of detours, get up when we fall down, and ultimately succeed in what we set out to do.
--asahi.com(朝日新聞社):VOX POPULI: Japan must see the big picture on energy policy - English

問題の [天声人語] 記事日本語版を書いた人物と、英語版を書いた人物が同一であるとは限らないが、それでも、当然の考え方をするなら、日本語版を英語版に「翻訳」したのだろう。だとすると、英語版の作成者は「行き先を知らずして、遠くまで行けるものではない」と "One never goes so far as when one doesn't know where one is going." とでは、意味が殆ど真逆であると云う高校生レベルの英語力があれば気が付くだろうことを見過ごした訣だ (下記に見られるように、"never goes so far as" はドイツ語の "geht nie weiter, als" の訳、特に、"as" は、ドイツ語 "als" の対応英語なのだが、ここは "never goes further than" と訳した方が、英語初学者には親切かもしれない)。

もし、英文ヘの翻訳者が日本語版作成者と別人であって、気が付いたけれども、日本語版作成者に指摘するのを「遠慮した」のであったとしたら、それはそれで組織として悲惨な事態だ。関節が外れたような政党や社会 (ホボ「会社」に等しい) の騒ぎを他人事のように喋喋している場合ではない。De te fabula narratur...

ちなみに、ドイツ語原文は次のようなものであるらしい:

man geht nie weiter, als wenn man nicht weiß, wohin man geht.
--Goethe, Johann Wolfgang, Briefe, 1812 - Zeno.org
--Johann Wolfgang von Goethe: Maximen und Reflektionen - Allgemeines, Ethisches, Literarisches - X.
--Man geht nie weiter, als wenn man nicht mehr ... - Johann Wolfgang von Goethe | Aphorismen-Archiv

なお、オリバー・クロムウェル(Oliver Cromwell, 1599年4月25日--1658年9月3日)が "A man never goes so far as when he doesn't know where he is going." と云う言葉を残したと云う話がネットで見られるが、出典は未確認。

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メモ:"Modus Ponens" その他

以下は、現在作成中の「例の tex ファイル」に脚註として組み込んだもの (最終稿に残るかどうか不明) に、若干の補足を付け加えたものである。

現代の数理論理学に生き残っている古典論理学の推論規則に "Modus Ponens" と云うものがある。「『AならばBである』が成り立っている時に、更に『Aである』が成り立っているなら『Bである』が成り立つ」と云うものだ。

三段論法ならぬ 1.5段論法ぐらいの基本的推論規則だが、この "Modus Ponens" ("MP" と約されることもある) は、ラテン語の "modus ponendo ponens" に拠っている。

そのうち、男性名詞 (単数主格形) "modus" は「尺度」の意味から「基準」・「規則」・「方法」・「様式」を意味するようになった言葉で、ここでは「方法」又は「様式」の意味だろう。英語の "mode" の語源。

"ponendo" は、「脇に置く」から「設置する」・「断言する」・「提言する」・「肯定する」を意味するようになった動詞 "pono" (能動相直説法現在単数形。不定形は "ponere"。英語 "position, positive" の語源) の Gerundium (大雑把に言えば「動名詞」) の単数奪格。奪格は、この場合「手段」を含意して「肯定することにより」ぐらいの色彩を帯びさせる。"ponens" は同じく動詞 "pono" の能動現在分詞で、"modus" を形容詞的に修飾して「肯定する方法」と云う意味を形作る。当然男性単数主格形。

全体の意味としては「(Aを) 肯定することにより (Bを) 肯定する方法」になる。

この外に、ラテン語で表わされる推論規則としては、"MT" と約されることがある "Modus Tollens" (詳しくは "modus tollendo tollens") もそうで、「『AならばBである』が成り立っている時に、更に『Bではない』が成り立っているなら『Aではない』が成り立つ」と云うないようである。

ここで "tollend" は、「持ち上げる」から、「受容する」・「載せる」の他に「取り消す」・「否定する」を意味する動詞 "tollo" (能動相直説法現在単数形。不定形は "tollere") のGerundiumの単数奪格で「否定することにより」ぐらいになる。 "tollens" は動詞 "tollo" の能動現在分詞 (男性単数主格形) で、やはり "modus" を形容詞的に修飾して「否定する方法」と云う意味になる

全体としては「(Bを) 否定することにより (Aを) 否定する方法」である。

ちなみに日本語版ウィキペディアの [モーダストレンス] の項で、「モーダストレンス(英: Modus ponendo tollens, MT)は・・・」としているは誤り。"Modus ponendo tollens" と "modus tollendo tollens" は別のものである。

では "Modus ponendo tollens" はどのようなものかと謂うと、「『Aであり、且つBである』ことがあり得ない時、更に『Aである』が成り立っているなら『Bではない』が成り立つ」と云う内容である。つまり「(Aを) 肯定することにより (Bを) 否定する方法」 である。

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イタリア語の「はくちょう座」

先程 (2010/10/15 21:05)、キーフレーズ [はくちょう座 イタリア語] でこのサイトを訪問された方がいらしたらしいことに気が付いてヤヤ慌てた。

[イタリア語で「夏の大三角」] (2009年7月18日[土]) で、『「はくちょう座/Cygnus」の主星デネブ』と書いたが、或いは、Cygnus がイタリア語で「はくちょう座」を意味する言葉だとミスリードする可能性があることに気がついたからだ。

しかし、"Cygnus" は学名であって、本来はラテン語である。

ちなみに本日 (2010年10月15日[金]) 現在の日本語版ウィキペディアの「はくちょう座」の項で、[はくちょう座] の学名を "Cygni" としているが、これは "Cygnus" の属格 (まぁ、大雑把に言えば「所有格」) である。従って、はくちょう座主星デネブの学術名としての "alpha Cygni" (alpha 自体はギリシャ語由来な訣でややこしいが...) などに使われることはあっても、はくちょう座単独を表わすには "Cygnus" とすべきである。

で、本題に戻って、「はくちょう座」をイタリア語で何と云うかと言うと、"Cigno" である (男性名詞。固有名詞なので語頭が大文字になる)。

ついでに書いておくと、イタリア語で「こと座」は "Lira" (女性名詞), 「わし座」は "Aquila" (女性名詞) である。

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「ラテン語ミサ」中の「回心の祈り」

昨日夜 (2010/06/13 22:55:30)、キーフレーズ [回心の祈り ラテン語 全文] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。

恐らく、ラテン語ミサ中の "Confiteor" の下りのテキストをお探しなのではなかろうかと思える。

それならば、このサイトの [フランス語で「主の平和」] で引用した、所謂 [「トリエント・ミサ」におけるものの羅仏対訳版 "Ordinaire de la Messe selon le Rite de Saint Pie V: latin-francais" を見るなら、ある程度の事は知れるのではないかと思われる。

もっとも、この「対訳」は、スクリーン上ページが整序していないので、本当の「対訳」になっておらず、使いづらいかもしれない

そう思って、少しネット上を行き来していたら [Per Mariam Ad Deum. マリア様を通して神様へ/告白の祈りいろいろ] と云うウェブページを見つけて、参考になったので、ここに書いておく。

そこで引用されている「ローマ式 (Romanum) のコンフィテオル (主司式司祭に対する場合の)」を、「孫引き」すると

Confiteor Deo omnipotenti, beatae Mariae semper Virgini, beato Michaeli Archangelo, beato Joanni Baptista, sanctis Apostolis Petro et Paulo, omnibus Sanctis, et tibi, pater, quia peccavi nimis cogitatione, verbo et opere: mea culpa, mea culpa, mea maxima culpa. Ideo precor beatam Mariam semper Virginem, beatum Michaelem Archangelum, beatum Joannem Baptistam, sanctos Apostolos Petrum et Paulum, omnes Sanctos, et te, pater, orare pro me ad Dominum Deum nostrum.
--Per Mariam Ad Deum. マリア様を通して神様へ/告白の祈りいろいろ

ただし、上記ウェブページでは、この後に、"Misereatur vestri omnipotens Deus, et, dimissis peccatis vestris, perducat vos ad vitam aternam." と云う引用もあるが、これは [司祭が告白した罪への神の許しを願う] 信徒側の応唱。その後に司祭側の "Amen." が付く。また、上記ウェブページでは引用されていないようだが、この後に司祭と信徒とが「告白」と「神の許しの祈願」との立場を交換する。

私のような不信心な者には、"Deo" と "pater" が言い分けられているのが興味深かった。

現在では、[第2バチカン公会議] (1962年--1965年) に応じ1969年に発布された新しい典礼様式によるミサ ("Novus Ordo Missae" 或いは「パウロ六世のミサ」) の採用が進んでいて (勿論「守旧派」もいる。ただしトリエント・ミサが廃止されている訣ではなく、その存続がカトリック協会によって認められいる)、この場合は現地語でミサが唱えられるが許されている。そして実際に [現地語ミサ] の採用が広まっているらしいが、それでもラテン語版が正式とされている訣で、そこでも勿論「回心の祈り/告白の祈り」は存在する。

今回調べていて、一番興味深かったのが、所謂「新ミサ」においては司祭の「回心の祈り/告白の祈り」が削除されて、信徒団のものだけになっていたことだった (これに対しては「守旧派」の激しい反発があるらしい)。

Confiteor Deo omnipotens et vobis, fratres, quia peccavi nimis cogitatione, verbo, opere et omissione: mea culpa, mea culpa, mea maxima culpa. Ideo precor beatam Mariam semper Virginem, omnes Angelos et Sanctos, et vos, fratres, orare pro me ad Dominum Deum nostrum.
--Mass of the 1970 Missal (Ordo Missae) Liturgy of the Word

随分簡単になっている。これに対し司祭が次のように答える。

Misereatur nostri omnipotens Deus et, dimissis peccatis nostris, perducat nos ad vitam aeternam.
--Mass of the 1970 Missal (Ordo Missae) Liturgy of the Word

この部分は、殆ど変わっていないが、末尾近くで "vos" が "nos" に変わっているのは重要だろう。つまり「司祭」は「信徒団」の一人と云う格付けである訣だ。

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