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「岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)」所収のエピソード・アネクドート

本ブルグの記事「[メモ:2011年6月8日 (水曜) 朝日新聞朝刊 [天声人語] 中の「ゲーテの言葉」] (2011年6月10日[金])の訂正 (2017年2月28日[火])」で引用した 「岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)」を読み返すと、頭のアチラコチラに引っかかっていた言葉の切れ端の出どころだったことに気が付いた。

これを入手したのは、高校の卒業式も済んだ3月27日で、進学する大学も自宅から通える所だったから、引っ越しなどで忙殺されることもなく、隣にあった書店でタマタマ見かけたものを、そのまま購入して、その日のうちに読了したものだったらしいことが、購入日と読了日の鉛筆書き込みで知れる。

購入日は兎も角、読了日も記入してあるのは、恐らく、買ったその日に読み終わったのが自分としては珍しい体験だったからではないか。

読んで感激したと云う記憶はないのだが (とは言え、半世紀前の話だから、忘れているだけかもしれない。由来、私は物覚えが悪い)、それでも、この本で知ったエピソードやアネクドートは、しっかり内在化していたようだ。もっとも、少し歪んでいたりする。

例えば、クレマンソー (ジョルジュ・クレマンソー/Georges Benjamin Clemenceau. 1841年9月28日-1929年11月24日) が、ポアンカレ (レイモン・ポアンカレ)/Raymond Poincaré. 1860年8月20日–1934年10月15日。「ポアンカレ予想」のポアンカレは [アンリ・ポアンカレ]。レイモンの従兄) と、ブリアン (アリスティード・ブリアン/Aristide Briand. 1862年3月28日-1932年3月7日) とを対比した評言を、クレマンソーとポアンカレとの対比と思い込んでいた。

実際は、次のようなものなのだ。

クレマンソーが、ポアンカレとブリアンを比較して、「ポアンカレはなんでも知っているが、なにひとつわからない……ブリアンはなんにも知らないが、なんでもわかる」といった有名な言葉はまことに見事なエスプリというべきであろう。この言葉は両者の比較論を越えて、一般的な人間論になっている。
--岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第107頁。

原文は、次のようなものだったらしい。

"Poincaré sait tout et ne comprend rien, Briand ne sait rien et comprend tout"
--ARISTIDE BRIAND (1862-1932) – Liberté par le travail

河盛さんは、続いてこう書いていて、これも私は自分で「花束を持って」と云う一句を勝手に付け加えて覚えていた。

また彼には「恋愛の最も美しい瞬間は、階段を上がっていくときである」というような洒落た言葉もある。
--岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第107頁。

これの原文は

"Le meilleur moment de l'amour, c'est quand on monte l'escalier."
--Georges Clemenceau | Le meilleur moment de l'amour, c'est quand on ... - 1001 citations

この後で紹介されているロイド・ジョージ (デビッド・ロイド・ジョージ/David Lloyd George, 1st Earl Lloyd George of Dwyfor. 1863年1月17日-1945年3月26日 ) の逸話は、チャーチルのものだと覚え間違えていた。恥づかしい。と、書いたところでネットで調べたところ、逸話の主人公は、いろいろなヴァリエーションがあって、その中には、と云うか、一番有名なのがチャーチルらしい (“If I Were Your Wife I'd Put Poison in Your Tea!” “If I Were Your Husband I'd Drink It” – Quote Investigator)。もう、私には何が何だか分からん。

ロイド・ジョージが首相のとき、議会である婦人議員に嚙みつかれ、「もしわたしがあなたの奥さんだったら、あなたの飲む紅茶のなかに毒を入れたい」と毒づかれたのに対して、彼が静かに、「もしわたしがあなたの御主人だったら、悦んでその紅茶を飲むでしょう」と答えた言葉などは、典型的なイギリス的ユーモアと称すべきであろう。
--岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第108頁。

ちなみに、イギリスで、不平等ながらも婦人参政権が導入されたのは、第1次世界大戦中1918年のロイド=ジョージ挙国一致内閣の時である。

大戦中の1918年2月に選挙法改正を行った。これにより選挙権の財産資格・居住資格が廃され、普通選挙が確立した。さらに30歳以上の婦人にも選挙権が認められた。婦人に選挙権が認められたのはこの改正の時が初めてであり、有権者数は一気に3倍となった。
この改正の背景には長引く戦争と総力戦体制によって、中産階級と労働者階級の格差、および熟練労働者と非熟練労働者の格差が縮まったこと、女性労働者の軍需産業への進出が進んだことがある。当時、選挙権は戦争協力と不可分に結びついており、従軍しない女性には選挙権は認められるべきではないというのが一般的な考え方だった。自由党においてさえも、ロイド・ジョージ以外の政治家は婦人選挙権に慎重な者が多かった。今回女性に選挙権を認めたのは、今度の大戦における女性の銃後の功績が世間一般に認められた形であった。
--デビッド・ロイド・ジョージ - Wikipedia

あともう少し引用しておこう

シャンフォール (セバスチャン=ロシ・二コラ・ド・シャンフォールSébastien-Roch Nicolas de Chamfort. 1741年4月6日-1794年4月13日) の著作「省察・箴言・逸話」からの引用

「ルイ十五世がまだ若かった頃、廷臣たちのレースの袖口を引き裂く悪い癖があった。モールパ氏はそれを矯め直すことを引き受けて、ある日、目の覚めるような美しいレースをつけて王の前に現われた。王は早速近よって片方のレースを引き裂いた。モールパ氏は少しも慌てず、こんどは自分の手で、もう一方のレースを引き裂き、《私にはさっぱり面白くありませんが》とあっさりいった。虚を突かれた王は真っ赤になり、それ以後はレースを引き裂くことをぴったりと止められたそうである。」
--岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第110-111頁。

Il s'agissait de corriger Louis xv jeune encore, de l'habitude de déchirer les dentelles de ses Courtisans. M. de Maurepas s'en chargea. Il parut devant le Roi avec les plus belles dentelles du monde. Le Roi s'approche, & lui en déchire une. M. de Maurepas froidement, déchire celle de l'autre main, & dit simplement : Cela ne m'a fait nul plaisir. Le Roi surpris devint rouge, & depuis ce tems ne déchira plus de dentelles.
--Page:Chamfort - Maximes, Pensées, Caractères et Anecdotes, 1796, éd. Ginguené.djvu/254 - Wikisource
引用原文末尾から6語目の "tems" は --temps-- の誤りだろう。

シャンフォール自身の逸話 (出典不明)。

あるとき、村の医者が鉄砲を肩にして猟に出かけるのに道であった彼は、「病人だけではもの足りませんか」と言った。
--岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第111頁。

イギリス人がエスプリの効いたことを言うこともある例として、バーナード・ショウ (ジョージ・バーナード・ショー/George Bernard Shaw. 1856年7月26日-1950年11月2日) の逸話を紹介しておく (ネットを探してみたが、これの原文は見つからなかった)。

ある人がバーナード・ショウに、「金曜日に結婚をすると不幸になるというが本当ですか」と聞いた。「勿論です。どうして金曜日だけが例外になるのでしょうか」とショウは答えた。 --岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第131頁。

アネクドートとしては、次のものが脳裏に残っていた (それなりに覚えていたのはオチの所だけだったが)。

エルネスト・ミニョン著『ドゴール将軍の言葉』という本のなかに次のような話が出ている。フルシチョフとの問答である。
フルシチョフ(頭ごなしに)「原子爆弾が五発あれば僕はフランスを全滅させてみせるよ」
将軍(ふんといった顔で)「それから?」
フルシチョフ(すごんでみせて)「それからだって……こんどは、三十発で原爆でアメリカを全滅させる」
将軍(涼しい顔で)「するとアメリカでも同じ数の原爆を使ってロシアを全滅させるね……」
フルシチョフ(得意になって)「それだよ、僕がいいたかったのは。アメリカの政策は必ず戦争をひき起こす。そして、戦争になれば、われわれはおたがいに破滅だ」
将軍(そしらぬ顔で)「そうだ。そして君の中国の友人たちだけが生き残るね」 --岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第102-103頁。

この『ドゴール将軍の言葉』は "Les mots du Général de Gaulle.: Ernest MIGNON (Amazon.com: Books)" のことだろうが、詳細は不明。私としては、ドゴール将軍の『(ふんといった顔で)「それから?」』の原文が "Et Alors?" だったか確かめたいところだが、できなかった。

ちなみに、この "Les mots du Général de Gaulle" には、将軍の

"Comment voulez-vous gouverner un pays qui a deux cent quarante-six variétés de fromage?"
--Charles de Gaulle - Wikiquote
一体どうしたら、246種類のチーズがある国の舵取りをしようなどと思えるのだ。

と云う言葉が紹介されているよし。これは何処かで聞いたことがあるような気がする。

最後に、アメリカ合衆国の有名な Cartoonist であるジェームズ・サーバー (James Thurber. 1894年12月8日-1961年11月2日) の小品 "The Rabbits Who Caused All the Trouble" を紹介しておこう。

まず、原文が参照できるリンクを貼っておく。

  1. James Thurber: Writings & Drawings (including The Secret Life of Walter ... - James Thurber - Google ブックス
  2. Storyteller: The Classic that Heralded America's Storytelling Revival - Ramon Royal Ross - Google ブックス

勿論 「岩波新書 青版730 [エスプリとユーモア] (著者: 河盛好藏。1969年)。第91-92頁」には、訳文が示されているのだが、思うところあって、私なりのしたかで大意を示すことにする。

ウサギの奴らが諸悪の根源

とても小さな子供でさえ知っているくらいの頃のこと、オオカミたちの群れの近くでウサギの一族が暮らしていた。オオカミが言ってきたことには、ウサギたちの暮らしぶりが気に入らないと云う。(オオカミは、自分たちの生き方の正しさを熱狂的に信じていた。何故なら、それ以外の生き方などあり得ないからだった。)

ある夜、地震が起こって、何匹かのオオカミが死んだので、ウサギのせいにされた。なぜなら、周知のように、ウサギは後脚で地面を蹴って地震を引き起こすからである。別の夜には落雷があって一匹のオオカミが死んだ。これもウサギのせいにされた。なぜなら、周知のように、レタスを食べるものはカミナリを呼ぶからである。オオカミたちは、ウサギたちが行いを改めないのであれば、ウサギたちを改革するぞと迫った。そこで、ウサギたちは、無人島に逃げ出すことにした。しかし、オオカミとウサギ以外の [他の動物たち] は (彼らは、オオカミやウサギたちから遠く離れたところに住んでいた) ウサギたちを非難して言った。「君らは、勇気をもって、今いるところに留まらねばならない。この世は、逃亡者のためにできてはいないのだ。もしオオカミたちが君らを攻撃するなら、私たちが君たちを救援するだろうことは、ほぼ確実と言ってよい。」

そこで、ウサギたちはオオカミたちの近くで暮らし続けたが、ある日大洪水が起こって、大勢のオオカミが死んだ。これは、ウサギのせいだった。なぜなら、周知のように、ニンジンを齧り長い耳を持つ者は洪水を引き起こすのだから。オオカミたちは、ウサギたちそのものの為を思って、ウサギたちを急襲し、ウサギたちそのものの保護のために、ウサギたちを暗い穴倉に閉ぢ込めた。

ウサギたちの噂が聞こえなくなって数週間経った頃、[他の動物たち] は、ウサギたちの身に何が起こったのか知りたいと言ってきた。オオカミたちは、ウサギは食べられてしまっており、そうである以上、事態は純粋に内部問題に属すると回答した。しかし、[他の動物たち] は、ウサギの滅亡に就いての根拠が示されねば、団結してオオカミに対決する可能性もありうると警告した。そこで、オオカミたちは「根拠」を示した。「彼らは逃亡しようとしていたのだ。しかしながら、君たちも知っているように、この世は、逃亡者のためにできていないのだ。」

教訓: グズグズしないで一番近くの無人島に逃げ込め。

原文をご覧になっていただければ分かるが、この作品は "Within the memory of the youngest child" と云う一句で始まっている。これは河盛さんが訳されているような「思い出せないほど遠い昔」(第91頁) ではなく、むしろ「とても小さな子供でさえ知っているくらいの頃」つまり、この作品が書かれた当時の「現在」のことである。

"The Rabbits Who Caused All the Trouble" は1939年8月26日に雑誌 "The New Yorker" に発表された。イギリスとフランスがドイツに対して宣戦を布告して、所謂「第二次世界大戦」が始まる一週間ほど前のことである。

以下のことは「学校で教わる」はずのことで、多くの人にとって取っては、余談にさえなるまいが、Kristallnacht (クリスタル・ナハト) は前年 (1938年11月9日夜) に発生しており、この二つの出来事の間に、独ソ不可侵条約 (1939年8月23日) と、ドイツ軍のポーランド侵攻 (1939年9月1日) が挟まっている (ポーランドは、やはり侵攻してきたソ連とドイツとの2か国が主体となって分割占領され、消滅する。この結果ドイツとソ連とが国境を接することになる)。ちなみに、わが日本がドイツ及びイタリアと防共協定を結んだのは、これらより以前、1937年11月6日だった、更に、1940年9月27日に至って、日独伊三国同盟が締結される。これを受けるようにして、1941年6月22日にドイツ軍の独ソ国境全面におけるロシア奇襲と、1941年12月7日 (ハワイ時間) における日本軍の真珠湾奇襲が行われる。

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ある行列式計算の紹介

高木貞治著 [代数学講義 改訂新版] (1965年。共立出版。東京) の第230頁には、つぎのような等式が示されている ([問題3] の [解] 中の、言わば補題部分)。

\[
 \begin{vmatrix}
 \frac{1}{t_{1}-x_{1}} &\frac{1}{t_{1}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{1}-x_{n}} \\
\\
 \frac{1}{t_{2}-x_{1}} &\frac{1}{t_{2}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{2}-x_{n}} \\
\\
  \cdot & \cdot & \cdots & \cdot \\
\\
 \frac{1}{t_{n}-x_{1}} &\frac{1}{t_{n}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{n}-x_{n}} \\
 \end{vmatrix}
= \frac{(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})}{\prod\limits_{p,q}(t_{p}-x_{q})}
\]

その証明も簡にして要を得ている。曰く

行列式に 
\[
 \prod{(t_{p}-x_{q})}
\] を掛けて分母を払えば

\[
 P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n}){\times}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n}){\times}C
\]
を得る。 $C$ は定数である。
\[
 t_{1}=x_{1},t_{2}=x_{2},\cdots,t_{n}=x_{n}
\]
とおけば
\[
 f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\]
から
\[ C=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}
\]
を得る。ただし、
\[
 f(t)=(t-x_{1})(t-x_{2}){\cdots}(t-x_{n})
\]

(引用終わり)

ここで $P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})$ は、所謂「差積」(「基本交代式」)

\begin{align*}
 (t_{1}-t_{2})(t_{1}-t_{3}){\cdots}(t_{1}-t_{n})\\
 (t_{2}-t_{3}){\cdots}(t_{2}-t_{n})\\
 {\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}\quad&\\
 (t_{n-1}-t_{n})&
\end{align*}
である (参照: [代数学講義 改訂新版] 第146頁)。

また、


\[
 f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\]
に就いては、第147頁に説明がされている。それを、現在の文脈に合わせ、そして簡略化して示すなら
\begin{align*}
 &f(t)=(t-x_{1})(t-x_{2}){\cdots}(t-x_{n})\\
\\
 &f^{\prime}(x_{1})=(x_{1}-x_{2})(x_{1}-x_{3}){\cdots}(x_{1}-x_{n})\\
 &f^{\prime}(x_{2})=(x_{2}-x_{1})(x_{2}-x_{3}){\cdots}(x_{2}-x_{n})\\
 &\quad\cdots\cdot\cdots\cdot\cdots\cdot\cdots\cdot\\
 &f^{\prime}(x_{n})=(x_{n}-x_{1})(x_{n}-x_{2}){\cdots}(x_{n}-x_{n-1})\\
\\
 &f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\end{align*}

ちなみに、$P^{2}$ は多項式 $f(t)$ の判別式になっている。更に

\[
 g(t)=(t-t_{1})(t-t_{2}){\cdots}(t-t_{n})
\]
と置くなら
${\displaystyle}\prod\limits_{p,q}(t_{p}-x_{q})$
は、$g$$f$ との終結式である。

本稿は、この等式を紹介するためだけのものだが、最後に、私が、この等式のことを思い出すきっかけになった方の行列式を書いておく。などと云ういのは大げさで、それは単に、 $x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n}$ の符号を逆転して $-x_{1},-x_{2},{\cdots}-x_{n}$ にしたものに過ぎない。

そこで、まず $P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})$ は、どうなるかと云うと、勿論

\begin{align*}
 (x_{1}-x_{2})(x_{1}-x_{3}){\cdots}(x_{1}-x_{n})\\
 (x_{2}-x_{3}){\cdots}(x_{2}-x_{n})\\
 {\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}\quad&\\
 (x_{n-1}-x_{n})&
\end{align*}
だから、当然
\[
 P(-x_{1},-x_{2},{\cdots}-x_{n}) = (-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})
\]
であり
\[
 \begin{vmatrix}
 \frac{1}{t_{1}+x_{1}} &\frac{1}{t_{1}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{1}+x_{n}} \\
\\
 \frac{1}{t_{2}+x_{1}} &\frac{1}{t_{2}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{2}+x_{n}} \\
\\
  \cdot & \cdot & \cdots & \cdot \\
\\
 \frac{1}{t_{n}+x_{1}} &\frac{1}{t_{n}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{n}+x_{n}} \\
 \end{vmatrix}
= \frac{P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})}{\prod\limits_{p,q}(t_{p}+x_{q})}
\]
が言える。

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本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) 補足

本記事内容の要約:

$a>b>0, \alpha\geq{0}$ の時、$r,s$

\begin{align*}
 r := \frac{-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \quad s := \frac{-a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}
\end{align*}
と定めると、次の等式が成り立つ ( $s<-1<r<0$ に注意)。
\begin{align*}
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\alpha{x})}}{a+b\cos{x}}\,dx\\
 &\qquad = \frac{\pi\cos{(\alpha\pi)}{(-r)^{\alpha}}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} + \frac{\sin{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
\end{align*}

上記等式の右辺第2項のカッコ内の式は、次の変形が可能である。

\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\\
 & = (-r)^{\alpha}\Bigg\{\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh(\alpha{t})\cosh(t/2)}{\sinh(t/2)}dt\\
 & \qquad + \big((-r)^{\alpha}-(-r)^{-\alpha}\big)\left(\int_{0}^{1}\frac{rt^{\alpha}}{1+rt}dt - \frac{1}{2\alpha}\right)\Bigg\}%\\
\end{align*}

特に、$\alpha$ が、非負整数 $n$ である時は

\begin{align*}
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(nx)}}{a+b\cos{x}}\,dx = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\frac{-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\right)^{\!\!n}
\end{align*}
である。

$a>b>0, \alpha\geq{0}$ の時、$p,q$

\begin{align*}
 p := \frac{a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \quad  q := \frac{a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}
\end{align*}
と定めると、次の等式が成り立つ ( $0<p<1<q$ に注意)。
\begin{align*}
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\alpha{x})}}{a-b\cos{x}}\,dx =\\
 &\qquad \frac{\pi{p^{\alpha}}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} + \frac{\sin{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)\\
\end{align*}

$\alpha>0$ の時、 $F$ を、Gauss の超幾何函数として

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\\
 &\qquad = -\frac{p^{\alpha}}{\alpha}\Big(F(1,-\alpha,-\alpha+1,-1) + F(1,\alpha,\alpha+1,-1) - 1\Big)\\
 &\qquad\quad + \frac{1}{\alpha}\Big(F(1,-\alpha,-\alpha+1,-p) + F(1,\alpha,\alpha+1,-p) - 1\Big)\\
 &= 2\alpha\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}(p^{\alpha}-p^{n})}{n^{2}-\alpha^{2}} + \frac{p^{\alpha}-1}{\alpha}
\end{align*}

特に、$\alpha$ が、非負整数 $n$ である時は

\begin{align*}
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(nx)}}{a-b\cos{x}}\,dx = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\frac{a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\right)^{\!\!n}
\end{align*}
である。

[要約終わり]

[記事作成の経緯]

本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) での積分計算を精密化・一般化する。

なお、結果の要旨は、「本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) 補足。[一般式] Executive Summary」(2018年10月31日[水]) に示してある。

さて、上記記事で指摘したように、理科年表 (2018年版) に示された公式は、 $\alpha$ に就いて誤植がある。

更に、「本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) への注意」(2018年9月30日[日]) で、件の公式は $\alpha$ が [正整数] でないと成り立たないことを指摘した。しかし、この「注意」には瑕疵があって、$\alpha=0$ の場合も、「公式」は成立する。だから、実は「$\alpha$ は非負整数でないと成り立たない」とすべきだった。

その意味を込めて、本記事では、$\alpha$ が、非負整数に限らない、非負実数である場合に就いて検討する。

[主な記号の定義及び関係式]

まず、用いられる主な記号の定義及び関係式を示しておく。

\begin{align*}
 & a>b>0,\quad \alpha\geq{0}\\
 &I_{\alpha} := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx\qquad J_{\alpha} := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a-b\cos{x}}\,dx\\
 \\
 &z = e^{ix}, dx=\frac{dz}{iz}\\
 &I_{\alpha} = \inverse{i}\int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}\frac{z^{\alpha}dz}{bz^{2} + 2az + b}\\
 &J_{\alpha} = -\inverse{i}\int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}\frac{z^{\alpha}dz}{bz^{2} - 2az + b}
\end{align*}

「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁]、そして、「岩波数学公式 I」[第247頁] で取り上げられているのは、上記の式 $I_{\alpha}$ の形の積分である (「理科年表」では、 $\cos{\alpha{x}}$$\cos{ax}$ としてしまっているが、ここでは訂正した形のものを示してある) 。その結果として

\[
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\right)^{\!\alpha}
\]
が与えられているが、この等式は、$\alpha$ が「正整数」でなければ成り立たないと云うのが [9月30日] の記事だった (実は $\alpha=0$ でも成り立っている)。

本稿では、これを実際に、$\alpha$ が非負実数である場合を計算しようとするものである。ただし、議論の展開後、式の変異例の中では $\alpha=0$ の場合を排除する必要が出てくるので、その時は、その旨注意して $\alpha>0$ と云う限定のもとで話を進めよう。

さて、記号の定義及び関係式の続ける。

\begin{align*}
 &\{r,s\} := \{z | bz^{2} + 2az + b = 0 \} \quad (s<r)\\
 &\qquad r = \frac{-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \quad s = \frac{-a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b};\\
 &s<-1<r<0, \qquad rs = (b/b) =1, \qquad r-s = \frac{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\\ 
 &\frac{r^{\alpha}}{b(r-s)} = \frac{\big((\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a)/b\big)^{\alpha}}{b(2\sqrt{a^{2}-b^{2}}/b)} = \inverse{{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}\\
 &I_{n} := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{n{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx \qquad (n \in \natl)
\end{align*}

$a,b,r,s$ は次の関係式を満たす。

\begin{align*}
 &(\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b})^{2} = 2(a+\sqrt{a^{2}-b^{2}}) = -2bs\\
 &(\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b})^{2} = 2(a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}) = -2br\\
 &\sqrt{-s} = \inverse{\sqrt{2b}}(\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b})\\
 &\sqrt{-r} = \inverse{\sqrt{2b}}(\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b})\\
 &\sqrt{-r} + \sqrt{-s} = \sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}\\
 &\sqrt{-s} - \sqrt{-r} = \sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}\\
\end{align*}

$J_{\alpha}$ に関連しては、次の記号・関係式を用いる。

\begin{align*}
 &\{p,q\} := \{z | bz^{2} - 2az + b = 0 \} \quad (s<r)\\
 &p = \frac{a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \qquad q = \frac{a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\\
 &0<p<1<q, \qquad pq = 1, \qquad p-q = -\frac{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\\ 
 &J_{n} := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{n{x}}}{a-b\cos{x}}\,dx \qquad (n \in \natl)
\end{align*}

つまり、 $p,q \quad (p<q)$$bz^{2} - 2az + b = 0$ の根である。そして $p,q$ は正の実数であって $p=-r, q=-s$ を満たす。

当然

\begin{align*}
 &(\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b})^{2} = 2(a+\sqrt{a^{2}-b^{2}}) = 2bq\\
 &(\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b})^{2} = 2(a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}) = 2bp\\
 &\sqrt{q} = \inverse{\sqrt{2b}}(\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b})\\
 &\sqrt{p} = \inverse{\sqrt{2b}}(\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b})\\
 &\sqrt{p} + \sqrt{q} = \sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}\\
 &\sqrt{q} - \sqrt{p} = \sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}\\
\end{align*}

ここで、注意すべきは、$r$ が負の実数であるために、$\alpha$ が整数でない時には、

\[
 \frac{r^{\alpha}}{b(r-s)} = \inverse{{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}\\
\]
が、実数にならないことである。具体的には
\[
 \frac{e^{\alpha\pi{i}}}{{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{\alpha}\\
\]
になる。これに対し、積分 $I_{\alpha}$ は、$\alpha$ が整数であるのとないのとに関わらず、実数にしかなりえない。

実は、この矛盾の解明が、$\alpha$ が非整数の時の表式を求めようと思った、第一の動機である。

ここて、後の計算のために 次の条件を満たす2つの実数 $\delta$ 及び $\varepsilon$ を導入する。

\[
  0< \delta < -r, \quad \delta <1+r, \quad 0< \varepsilon < -r-\delta
\]

[ $I_{\alpha}$ の計算]

さて

\[
 f(z,\alpha):= \inverse{i}\cdot\frac{z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b} = \inverse{bi}\cdot\frac{z^{\alpha}}{(z-r)(z-s)} \qquad (z \in \cfd, \alpha \in \rfd, \alpha\geq{0})
\]
を考えると、$f(z,\alpha)$ は、$\alpha$ が (非負)整数でない限り、複素平面上、$z$ が原点を周回することに応じた多価性を有する。

これに従って、以下の議論では、$z$ の偏角の範囲を $-\pi\leq\arg{z}\leq\pi$ に制限し、更に、負実数半直線を、偏角 $\pi$ を有するものと、偏角 $-\pi$ を有するものとの 2 本が、別々に存在するものと考えて、その総体を定義域とする。すると、$f(z,\alpha)$ は、この定義域では $z$ に就いての一価函数となる。

この定義域に於いて、次の8つ部分 $A_{o},B_{uo},H_{u},B_{ui},A_{i},B_{li},H_{l},B_{lo}$ からなる経路 $C$ を考える。

1. $A_{o}$ : 外円。原点を中心とする単位円。ただし、偏角が $-\pi$ の点 ( $z=e^{-i\pi}$ ) から出発して、偏角 $\pi$ の点 ( $z=e^{i\pi}$ ) に至るもの (反時計回り)。

2. $B_{uo}$ : 上外橋。偏角 $\pi$ の半直線上、原点からの距離 $1$ の点 ( $z=e^{i\pi}$ ) から出発して、原点からの距離 $-r+\delta$ の点 ( $z=(-r+\delta)e^{i\pi}$ ) に至る線分。

3. $H_{u}$ : 上半円。偏角 $\pi$ の半直線上、原点からの距離 $-r$ の点 ( $z=-re^{i\pi}$ ) を中心とし、半径を $\delta$ とする、上半平面内の半円 (向きは時計回り)。

4. $B_{ui}$ : 上内橋。偏角 $\pi$ の半直線上、原点からの距離 $-r-\delta$ の点 ( $z=(-r-\delta)e^{i\pi}$ ) から出発して、原点からの距離 $\varepsilon$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{i\pi}}$ ) に至る線分。$B_{uo}$$B_{ui}$ との、経路の向きを込めた合併を $B_{u}$ で表わすことにする。

5. $A_{i}$ : 内円。原点を中心とする半径 $\varepsilon$ の円。ただし、偏角が $\pi$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{i\pi}}$) から出発して、偏角 $-\pi$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{-i\pi}}$ ) に至るもの (時計回り)。

6. $B_{li}$ : 下内橋。偏角 $-\pi$ の半直線上、原点からの距離 $\varepsilon$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{-i\pi}}$) から出発して、原点からの距離 $-r-\delta$ の点 ( $z=(-r-\delta)e^{-i\pi}$ ) に至る線分。

7. $H_{l}$ : 下半円。偏角 $-\pi$ の半直線上、原点からの距離 $-r$ の点 ( $z=-re^{-i\pi}$ ) を中心とし、半径を $\delta$ とする、下半平面内の半円 (向きは時計回り)。$H_{u}$$H_{l}$ との、経路の向き (時計回り) を込めた合併を $H_{s}$ で表すことにする。

8. $B_{lo}$ : 下外橋。偏角 $-\pi$ の半直線上、原点からの距離 $-r+\delta$ の点 ( $z=(-r+\delta)e^{-i\pi}$ ) から出発して、原点からの距離 $1$ の点 ( $z=e^{-i\pi}$ ) に至る線分。$B_{li}$$B_{lo}$ との、経路の向きを込めた合併を $B_{l}$ で表わすことにする。

さて、

\[
 f(z,\alpha) = \inverse{b(r-s)i}\Big(\frac{z^{\alpha}}{z-r} - \frac{z^{\alpha}}{z-s}\Big)
\]
に注意すると、個々に固定した $\alpha$ に対して、$z$ ( $-\pi\leq\arg{z}\leq\pi$ ) の函数 $f(z,\alpha)$ は、$z=r$ 及び$z=s$ に、それぞれ 1位の極を有する他は、上記定義域上で正則である。特に、経路 $C$ 上及びその内部では正則である (極 $z=r,\ z=s$ の位置は排除されている。)。

従って、

\begin{align*}
 &\int_{C}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad = \int_{A_{o}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{B_{uo}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{H_{u}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{B_{ui}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\qquad + \int_{A_{i}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{B_{li}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{H_{l}}\!f(z,\alpha)\,dz
 + \int_{B_{uo}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad = 0
\end{align*}

そして

\begin{align*}
 &\int_{A_{o}}\!f(z,\alpha)\,dz = \inverse{i}\int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}\frac{z^{\alpha}\,dz}{bz^{2} + 2az + b} = I_{\alpha}\\
 &\int_{B_{uo}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad= \inverse{b(r-s)i}\int_{1}^{-r+\delta}\Big(\frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-\big((-r){e^{\pi{i}}}\big)} - \frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-\big((-s){e^{\pi{i}}}\big)}\Big)e^{\pi{i}}d\rho\\
 &\quad= \frac{e^{\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\int_{1}^{-r+\delta}\Big(\frac{\rho^{\alpha}}{\rho+r} - \frac{\rho^{\alpha}}{\rho+s}\Big)d\rho\\
%
 &\int_{H_{u}}\!f(z,\alpha)\,dz = \frac{-\pi{i}}{b(r-s)i}(-re^{\pi{i}})^{\alpha} = \frac{{-\pi}e^{\alpha\pi{i}}}{b(r-s)}(-r)^{\alpha}\\
%
 &\int_{B_{ui}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad= \inverse{b(r-s)i}\int_{-r-\delta}^{\varepsilon}\Big(\frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-\big((-r){e^{\pi{i}}}\big)} - \frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-\big((-s){e^{\pi{i}}}\big)}\Big)e^{\pi{i}}d\rho\\
 &\quad = \frac{e^{\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\int_{-r-\delta}^{\varepsilon}\Big(\frac{\rho^{\alpha}}{\rho+r} - \frac{\rho^{\alpha}}{\rho+s}\Big)d\rho
%
\\
\\
%
 &\int_{A_{i}}\!f(z,\alpha)\,dz = \inverse{b}\int_{\pi}^{-\pi}\!\frac{\varepsilon^{(\alpha+1)}e^{(\alpha+1)i\theta}}{({\varepsilon}e^{i\theta}-r)({\varepsilon}e^{i\theta}-s)}\,d\theta\\
 &\int_{B_{li}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad = \inverse{b(r-s)i}\int_{\varepsilon}^{-r-\delta}\Big(\frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-\big((-r){e^{-\pi{i}}}\big)} - \frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-\big((-s){e^{-\pi{i}}}\big)}\Big)e^{-\pi{i}}d\rho\\
 &\quad = \frac{e^{-\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\int_{\varepsilon}^{-r-\delta}\Big(\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
%
 &\int_{H_{l}}\!f(z,\alpha)\,dz = \frac{-\pi{i}}{b(r-s)i}(-re^{-\pi{i}})^{\alpha} = \frac{{-\pi}e^{-\alpha\pi{i}}}{b(r-s)}(-r)^{\alpha}\\
%
 &\int_{B_{lo}}\!f(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad= \inverse{b(r-s)i}\int_{-r+\delta}^{1}\Big(\frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-\big((-r){e^{-\pi{i}}}\big)} - \frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-\big((-s){e^{-\pi{i}}}\big)}\Big)e^{-\pi{i}}d\rho\\
 &\quad= \frac{e^{-\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\int_{-r+\delta}^{1}\Big(\frac{\rho^{\alpha}}{\rho+r} - \frac{\rho^{\alpha}}{\rho+s}\Big)d\rho\\
\end{align*}

従って

\begin{align*}
 &\lim_{\delta, \varepsilon \rightarrow 0}\Big(\int_{B_{u}}\!f(z,\alpha)\,dz\Big) = \frac{e^{\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{1}^{0}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{1}^{0}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
 &\lim_{\delta, \varepsilon \rightarrow 0}\Big(\int_{B_{l}}\!f(z,\alpha)\,dz\Big) = \frac{e^{-\alpha\pi{i}}}{b(r-s)i}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
 &\lim_{\delta \rightarrow 0}\Big(\int_{H_{s}}\!f(z,\alpha)\,dz\Big) = \frac{{-\pi}(e^{\alpha\pi{i}}+e^{-\alpha\pi{i}})}{b(r-s)}(-r)^{\alpha}
\end{align*}

また $\varepsilon \rightarrow 0$ として $-r>2\varepsilon$ となってから以降は

\[
 \abs{{\varepsilon}e^{i\theta}-s} > \abs{{\varepsilon}e^{i\theta}-r} \geq -r-\varepsilon > -r-(-\frac{r}{2}) = -\frac{r}{2}
\]
だから
\[
 \Big|\frac{\varepsilon^{(\alpha+1)}e^{(\alpha+1)i\theta}}{({\varepsilon}e^{i\theta}-r)({\varepsilon}e^{i\theta}-s)}\Big| < \frac{4\varepsilon^{(\alpha+1)}}{r^{2}}
 \]
従って
\[
 0 \leq \lim_{\varepsilon\rightarrow 0}\Big|\int_{A_{i}}\!f(z,\alpha)\,dz\Big| < \lim_{\varepsilon\rightarrow 0}\int_{A_{i}}\!\frac{4\varepsilon^{(\alpha+1)}}{br^{2}}\,d\theta = \lim_{\varepsilon\rightarrow 0}\frac{8\pi{\varepsilon^{(\alpha+1)}}}{br^{2}} = 0
\]

だから、結局

\begin{align*}
&I_{\alpha} = \int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}f(z,\alpha)\,dz \\
&\qquad =\frac{2{\pi}\cos{\alpha\pi}}{b(r-s)}(-r)^{\alpha} + \frac{2\sin{(\alpha\pi)}}{b(r-s)}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
&\qquad =\frac{\pi\cos{\alpha\pi}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{\alpha} + \frac{\sin{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)
\end{align*}

[ $I_{n}$ ]

特に、$\alpha$ が非負整数 $\alpha=n$ であるなら

\begin{align*}
 I_{n} &= \int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}f(z,n)\,dz\\
 &= \frac{(-1)^{n}\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{n}\\
 &= \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{n}
\end{align*}

[理科年表] の公式において、非負整数であるべき $\alpha$ の偶奇に応じた符号の反転は $\cos(\alpha\pi)$ に起因したものであることか分かる。

[ $I_{1/2}$ ]

では $\alpha$ が非整数、例えば $\alpha=\inverse{2}$ の時はどうなるかというと、

\begin{align*}
 \int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}f(z,1/2)\,dz &= \frac{1}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\sqrt{\rho}}{\rho+r}d\rho - \int_{0}^{1}\frac{\sqrt{\rho}}{\rho+s}d\rho\Big)
\end{align*}

$\rho = t^{2}\quad (t\geq{0})$ と変数変換すると (この変数変換で、主値は変化しない)、

\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+r}\,d\rho - \int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+s}\,d\rho = \mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{t}{t^{2}+r}(2t\,dt) - \int_{0}^{1}\!\frac{t}{t^{2}+s}(2t\,dt)\\
&\quad= 2\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{t^{2}}{t^{2}+r}\,dt - \int_{0}^{1}\!\frac{t^{2}}{t^{2}+s}\,dt\Big)\\
&\quad= -2\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{r}{t^{2}+r}\,dt - \int_{0}^{1}\!\frac{s}{t^{2}+s}x\,dt\Big)\\
&\quad= -2\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{r}{t^{2}-(\sqrt{-r})^{2}}\,dt - \int_{0}^{1}\!\frac{s}{t^{2}-(\sqrt{-s})^{2}}\,dt\Big)\\
&\quad= 2(-r)\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t^{2}-(\sqrt{-r})^{2}} - 2(-s)\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t^{2}-(\sqrt{-s})^{2}}\\
\end{align*}

ここで

\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t^{2}-(\sqrt{-r})^{2}} = \frac{1}{2\sqrt{-r}}\Big\{\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\Big(\frac{1}{t-\sqrt{-r}}-\frac{1}{t+\sqrt{-r}}\Big)\,dt\Big\}\\
 &\quad  = \frac{1}{2\sqrt{-r}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t-\sqrt{-r}}-\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t+\sqrt{-r}}\Big)\\
 &\quad = \frac{1}{2\sqrt{-r}}\Big(\Big[\log(t-\sqrt{-r})\Big]_{2\sqrt{-r}}^{1} - \Big[\log(t+\sqrt{-r})\Big]_{0}^{1}\Big)\\
 &\quad = \frac{1}{2\sqrt{-r}}\log\frac{1-\sqrt{-r}}{1+\sqrt{-r}}\\
\end{align*}

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{t^{2}-(\sqrt{-s})^{2}} = -\frac{1}{2\sqrt{-s}}\int_{0}^{1}\!\Big(\frac{1}{\sqrt{-s}+t}+\frac{1}{\sqrt{-s}-t}\Big)\,dt\\
 &\quad = -\frac{1}{2\sqrt{-s}}\Big[\log\frac{\sqrt{-s}+t}{\sqrt{-s}-t}\Big]_{0}^{1}\\
 &\quad = -\frac{1}{2\sqrt{-s}}\log\frac{\sqrt{-s}+1}{\sqrt{-s}-1}
\end{align*}

まとめると

\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+r}\,d\rho - \int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+s}\,d\rho\\
&\quad = \sqrt{-r}\log\frac{1-\sqrt{-r}}{1+\sqrt{-r}} + \sqrt{-s}\log\frac{\sqrt{-s}+1}{\sqrt{-s}-1}\\
&\quad = \frac{\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b}}{\sqrt{2b}}\log\frac{1-\sqrt{-r}}{1+\sqrt{-r}}\\
&\qquad\qquad + \frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b}}{\sqrt{2b}}\log\frac{\sqrt{-s}+1}{\sqrt{-s}-1}\\
&\quad = \inverse{\sqrt{2b}}\Bigg(\sqrt{a+b}\log\frac{(1-\sqrt{-r})(\sqrt{-s}+1)}{(1+\sqrt{-r})(\sqrt{-s}-1)}\\
&\qquad\qquad -\sqrt{a-b}\log\frac{(1-\sqrt{-r})(\sqrt{-s}-1)}{(1+\sqrt{-r})(\sqrt{-s}+1)}\Bigg)
\end{align*}

しかるに

\begin{align*}
 &\frac{(1-\sqrt{-r})(\sqrt{-s}+1)}{(1+\sqrt{-r})(\sqrt{-s}-1)} = \frac{1+(\sqrt{-s}-\sqrt{-r})-\sqrt{rs}}{-1+(\sqrt{-s}-\sqrt{-r})+\sqrt{rs}} = 1
\\
\\
 &\frac{(1-\sqrt{-r})(\sqrt{-s}-1)}{(1+\sqrt{-r})(\sqrt{-s}+1)} = \frac{-1+(\sqrt{-r}+\sqrt{-s})-\sqrt{rs}}{1+(\sqrt{-r}+\sqrt{-s})+\sqrt{rs}}\\
 & \quad = \frac{-2+\sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}}{2+\sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}} = \frac{\sqrt{a+b} - \sqrt{2b}}{\sqrt{a+b} + \sqrt{2b}}
\end{align*}
だから
\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+r}\,d\rho - \int_{0}^{1}\!\frac{\sqrt{\rho}}{{\rho}+s}\,d\rho\\
 & \quad = \sqrt{\frac{a-b}{2b}}\log\frac{\sqrt{a+b} + \sqrt{2b}}{\sqrt{a+b} - \sqrt{2b}}\\
\end{align*}

最終的には

\begin{align*}
 \int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}f(z,1/2)\,dz &= \frac{1}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\sqrt{\rho}}{\rho+r}d\rho - \int_{0}^{1}\frac{\sqrt{\rho}}{\rho+s}d\rho\Big)\\
 & \quad = \frac{1}{\sqrt{2b(a+b)}}\log\frac{\sqrt{a+b} + \sqrt{2b}}{\sqrt{a+b} - \sqrt{2b}}\\
\end{align*}

検算をしてみよう。実は $\alpha=1/2$ の時、問題の積分は、三角函数の有理関数を有理化する周知の解法により、バカバカしいほど簡単に計算できる

\[
 I_{1/2} = \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\frac{x}{2}})}{a+b\cos(x)}\,dx = \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\frac{x}{2}})}{a+b\big(1-2\sin^{2}(\frac{x}{2})\big)}\,dx
\]
だから $t=\sin(x/2)$ と変数変換すると
\begin{align*}
 I_{1/2} &= 2\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{a+b(1-2t^{2})}\\
 &\quad=\inverse{b}\int_{0}^{1}\!\frac{dt}{\frac{a+b}{2b}-t^{2}}\\
 &\quad=\inverse{b}\cdot\inverse{2\sqrt{\frac{a+b}{2b}}}\Bigg[\log\frac{\sqrt{\frac{a+b}{2b}}+t}{\sqrt{\frac{a+b}{2b}}-t}\Bigg]_{0}^{1}\\
 &\quad=\inverse{\sqrt{2b(a+b)}}\log{\frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{2b}}{\sqrt{a+b}-\sqrt{2b}}}
\end{align*}

ここで $I_{\alpha}$ の被積分関数において、分子の $\cos$ の係数を負に変えた場合はどうなるか興味が湧いてくる。そこで

\begin{align*}
  &J_{\alpha} := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a-b\cos{x}}\,dx  \qquad (a>b>0,\quad \alpha\geq{0})\\
 & \qquad = -\inverse{i}\int_{\substack{|z|=1\\-\pi\leq\arg{z}\leq\pi}}\frac{z^{\alpha}dz}{bz^{2} - 2az + b} \quad (z = e^{ix}, dx=\frac{dz}{iz})
\end{align*}
として、以下、これに就いて検討してみよう。

これを念頭に置いて

\begin{align*}
 g(z,\alpha) &:= -\inverse{i}\cdot\frac{z^{\alpha}}{bz^{2} - 2az + b}\\
 &= -\inverse{i}\cdot\frac{1}{b(p-q)}\Big(\frac{z^{\alpha}}{z-p}-\frac{z^{\alpha}}{z-q}\Big)
\end{align*}
を導入する。更に、次の4つの部分 $A_{o},B_{u}^{\prime},A_{i}.B_{l}^{\prime}$ からなる 経路 $C^{\prime}$ を、次のように定める。

1. $A_{o}$ : 外円。原点を中心とする単位円。ただし、偏角が $-\pi$ の点 ( $z=e^{-i\pi}$ ) から出発して、偏角 $\pi$ の点 ( $z=e^{i\pi}$ ) に至るもの (反時計回り)。

2. $B_{u}^{\prime}$ : 上橋。偏角 $\pi$ の半直線上、原点からの距離 $1$ の点 ( $z=e^{i\pi}$ ) から出発して、原点からの距離 $\varepsilon$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{i\pi}}$ ) に至る線分。

3. $A_{i}$ : 内円。原点を中心とする半径 $\varepsilon$ の円。ただし、偏角が $\pi$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{i\pi}}$) から出発して、偏角$-\pi$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{-i\pi}}$) に至るもの (時計回り)。

4. $B_{l}^{\prime}$ : 下橋。偏角 $-\pi$ の半直線上、原点からの距離 $\varepsilon$ の点 ( $z=\varepsilon{e^{-i\pi}}$) から出発して、原点からの距離 $1$ の点 ( $z=e^{-i\pi}$ ) に至る線分。

今回は、 $C^{\prime}$ 内部に、1位の極 $z=p$ を含むから

\[
 \int_{C^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz = \frac{-2\pi}{b(p-q)}p^{\alpha}
\]
であることを踏まえたうえで、 $g(z,\alpha)$ に、$f(z,\alpha)$ に行ったのと並行する議論を適用するなら
\begin{align*}
 &\int_{A_{o}}\!g(z,\alpha)\,dz = J_{\alpha}\\
%
 &\int_{B_{u}^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad= -\inverse{b(p-q)i}\int_{1}^{\varepsilon}\Big(\frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-p} - \frac{(\rho{e^{\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{\pi{i}}}-q}\Big)e^{\pi{i}}d\rho\\
 &\quad= -\frac{e^{\alpha\pi{i}}}{b(p-q)i}\int_{1}^{\varepsilon}\Big(\frac{\rho^{\alpha}}{\rho+p} - \frac{\rho^{\alpha}}{\rho+q}\Big)d\rho\\
\\
\\
 &\int_{A_{i}}\!g(z,\alpha)\,dz = -\inverse{b}\int_{\pi}^{-\pi}\!\frac{\varepsilon^{(\alpha+1)}e^{(\alpha+1)i\theta}}{({\varepsilon}e^{i\theta}-p)({\varepsilon}e^{i\theta}-q)}\,d\theta\\
%
 &\int_{B_{l}^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz\\
 &\quad= -\inverse{b(p-q)i}\int_{\varepsilon}^{1}\Big(\frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-p} - \frac{(\rho{e^{-\pi{i}}})^{\alpha}}{\rho{e^{-\pi{i}}}-q}\Big)e^{-\pi{i}}d\rho\\
 &\quad= -\frac{e^{-\alpha\pi{i}}}{b(p-q)i}\int_{\varepsilon}^{1}\Big(\frac{\rho^{\alpha}}{\rho+p} - \frac{\rho^{\alpha}}{\rho+q}\Big)d\rho\\
\end{align*}

従って

\begin{align*}
 &\lim_{\varepsilon \rightarrow 0}\Big(\int_{B_{u}^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz\Big) = -\frac{e^{\alpha\pi{i}}}{b(p-q)i}\Big(\int_{1}^{0}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{1}^{0}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)\\
 &\lim_{\varepsilon \rightarrow 0}\Big(\int_{B_{l}^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz\Big) = -\frac{e^{-\alpha\pi{i}}}{b(p-q)i}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)\\
 &\lim_{\varepsilon\rightarrow 0}\Big|\int_{A_{i}}\!f(z,\alpha)\,dz\Big|= 0
\
\end{align*} /></div>

だから

<div style=\begin{align*}
 J_{\alpha} &= \int_{C^{\prime}}\!g(z,\alpha)\,dz - \frac{e^{\alpha\pi{i}}-e^{-\alpha\pi{i}}}{b(p-q)i}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)\\
 &= \frac{-2\pi}{b(p-q)}p^{\alpha} - \frac{2\sin(\alpha\pi)}{b(p-q)}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)\\
 &= \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{\alpha} + \frac{\sin(\alpha\pi)}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\int_{0}^{1}\Big(\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)
\end{align*}

[ $J_{n}$ ]

特に、$\alpha$ が正整数 $\alpha=n$ であるなら

\begin{align*}
 J_{n} &= \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{n}
\end{align*}

$I_{n}$ と異なり、$n$ の偶奇による符号の反転はないことに注意。

[ $J_{1/2}$ ]

この場合も $\alpha=\inverse{2}$ の時はどうなるか調べてみよう。

\begin{align*}
 J_{1/2} = 
\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{1/2} + \frac{1}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{1/2}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{1/2}d\rho}{\rho+q}\Big)
\end{align*}

だが、左辺第1項は

\begin{align*}
 &\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\Big)^{1/2} = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\cdot\frac{\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b}}{\sqrt{2b}}\\
 &\qquad = \frac{\pi}{\sqrt{2b}}\Big(\frac{1}{\sqrt{a-b}}-\frac{1}{\sqrt{a+b}}\Big)
\end{align*}
であり、第2項のカッコ内は
\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{1/2}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{1/2}d\rho}{\rho+q} = 2\int_{0}^{1}\frac{t^{2}dt}{t^{2}+p} - 2\int_{0}^{1}\frac{t^{2}dt}{t^{2}+q}\\
 & \qquad = -2p\int_{0}^{1}\frac{dt}{t^{2}+p} + 2q\int_{0}^{1}\frac{dt}{t^{2}+q}\\
 & \qquad = -2\sqrt{p}\arctan(1/\sqrt{p}) + 2\sqrt{q}\arctan(1/\sqrt{q})\\
 & \qquad = -\sqrt{\frac{2}{b}}(\sqrt{a+b}-\sqrt{a-b})\arctan(\sqrt{q})\\
 & \qquad\qquad + \sqrt{\frac{2}{b}}(\sqrt{a+b}+\sqrt{a-b})\arctan(\sqrt{p})\\
 & \qquad = \sqrt{\frac{2}{b}}\sqrt{a+b}\big(\arctan(\sqrt{p})-\arctan(\sqrt{q})\big)\\
 & \qquad\qquad + \sqrt{\frac{2}{b}}\sqrt{a-b}\big(\arctan(\sqrt{p})+\arctan(\sqrt{q})\big)\\
 & \qquad = \sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}\left(\arctan\left(\frac{\sqrt{p}-\sqrt{q}}{1+\sqrt{p}\sqrt{q}}\right)\right)\\
 & \qquad\qquad + \sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}\Big(\frac{\pi}{2}\Big)\\
 & \qquad = \pi\sqrt{\frac{a-b}{2b}} - \sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}\left(\arctan\sqrt{\frac{a-b}{2b}}\right)\\
\end{align*}

従って、

\begin{align*}
 J_{1/2} &= 
\frac{\pi}{\sqrt{2b}}\Big(\frac{1}{\sqrt{a-b}}-\frac{1}{\sqrt{a+b}}\Big)\\
 &+ \frac{1}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\pi\sqrt{\frac{a-b}{2b}} - \sqrt{\frac{2(a+b)}{b}}\left(\arctan\sqrt{\frac{a-b}{2b}}\right)\right)\\
 &= \sqrt{\frac{2}{b(a-b)}}\left(\frac{\pi}{2}-\arctan\sqrt{\frac{a-b}{2b}}\right)\\
 &= \sqrt{\frac{2}{b(a-b)}}\arctan\left(\sqrt{\frac{2b}{a-b}}\right)
\end{align*}

なお、上記の式の変形では、公式

\begin{align*}
 &\arctan x + \arctan \frac{1}{x} = \frac{\pi}{2} \quad (x\geq{0})\\
 &\arctan x \pm \arctan y = \arctan \frac{x\pm{y}}{1\mp{xy}}% \quad (|\arctan x + \arctan y|\leq{\frac{\pi}{2}})
\end{align*}
を用いている。

こちらの方も、「検算」しておく。 $I_{1/2}$ におけるのと同じく、変数変換 $t=\sin(x/2)$ を行えば、やはり簡単に結果を求めることができる。

\begin{align*}
 J_{1/2} &= \int_{0}^{\pi}\frac{\cos(\frac{x}{2})}{a-b\cos(x)}\,dx = \int_{0}^{\pi}\frac{\cos(\frac{x}{2})}{a-b\big(1-2\sin^{2}(\frac{x}{2})\big)}\,dx\\
 &= 2\int_{0}^{1}\frac{dt}{a-b+2bt^{2}}\\
 &= \frac{1}{b}\int_{0}^{1}\frac{dt}{\frac{a-b}{2b}+t^{2}}\\
 &= \frac{1}{b}\cdot\frac{1}{\sqrt{\frac{a-b}{2b}}}\arctan\left(\frac{1}{\sqrt{\frac{a-b}{2b}}}\right)\\
 &= \sqrt{\frac{2}{b(a-b)}}\arctan\left(\sqrt{\frac{2b}{a-b}}\right)
\end{align*}

こうして、両方の計算値が一致していることが確かめられた。

[ $J_{\alpha}$ の表式への補足]

$J_{\alpha}$ に就いて $\alpha$ が、一般の正値実数 ( $\alpha>0$ ) の時の議論を、もう少し進めておこう (話を単純にするために $\alpha$$0$ にはならないとしておく)。

まず $0<p<1<q$ を念頭に置いて、変数変換 $\rho=pe^{-t}$ 及び $\rho=qe^{-t}$ により

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\\
 &= \int_{\infty}^{\log{p}}\frac{p^{\alpha}e^{-\alpha{t}}}{pe^{-t}+p}(-pe^{-t}dt) - \int_{\infty}^{\log{q}}\frac{q^{\alpha}e^{-\alpha{t}}}{qe^{-t}+q}(-qe^{-t}dt)\\
 &= p^{\alpha}\int_{\log{p}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt - q^{\alpha}\int_{\log{q}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt\\
 &= p^{\alpha}\int_{\log{p}}^{0}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt + p^{\alpha}\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt - q^{\alpha}\int_{\log{q}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt\\
 &= p^{\alpha}\int_{0}^{-\log{p}}\frac{e^{(\alpha+1)t}}{1+e^{t}}dt + p^{\alpha}\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt - q^{\alpha}\int_{\log{q}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt\\
 &= q^{-\alpha}\int_{0}^{\log{q}}\frac{e^{\alpha{t}}}{1+e^{-t}}dt + p^{\alpha}\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt - q^{\alpha}\int_{\log{q}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}}{1+e^{-t}}dt\\
%
 &= q^{-\alpha}\int_{0}^{\log{q}}e^{\alpha{t}}\left(\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}e^{-nt}\right)dt\\
 &\qquad + p^{\alpha}\int_{0}^{\infty}e^{-(\alpha+1){t}}\left(\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}e^{-nt}\right)dt\\
 &\qquad - q^{\alpha}\int_{\log{q}}^{\infty}e^{-(\alpha+1){t}}\left(\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}e^{-nt}\right)dt\\
%
 &= q^{-\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\int_{0}^{\log{q}}e^{(\alpha-n)t}dt\\
 &\qquad + p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\int_{0}^{\infty}e^{-(n+\alpha+1){t}}dt\\
 &\qquad - q^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\int_{\log{q}}^{\infty}e^{-(n+\alpha+1){t}}dt\\
%
 &= q^{-\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\left(\frac{q^{\alpha-n}-1}{\alpha-n}\right)
 - p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\left(\frac{-1}{n+\alpha+1}\right)\\
 &\qquad + q^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\left(\frac{-q^{-(n+\alpha+1)}}{n+\alpha+1}\right)\\
 &= \sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}\left(\frac{q^{-n}-q^{-\alpha}}{\alpha-n}\right)
 + p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha+1} + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-(n+1)}}{n+\alpha+1}
\end{align*}

ところが

\begin{align*}
 &\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha+1} = -\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n+1}}{n+\alpha+1}\\
 &= -\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha} + \frac{1}{\alpha}\\
 &;\\
 &\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-(n+1)}}{n+\alpha+1} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{n+\alpha} - \frac{1}{\alpha}\\
\end{align*}

だから、結局

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\\
 &= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{\alpha-n} - q^{-\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{\alpha-n}\\
 &\qquad + p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha+1} + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-(n+1)}}{n+\alpha+1}\\
 &= -q^{-\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{\alpha-n}
 + p^{\alpha}\left(-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha} + \frac{1}{\alpha}\right)\\
 &\qquad  + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{\alpha-n} 
+ \left(\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{n+\alpha} - \frac{1}{\alpha}\right)\\
 &= -q^{-\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{\alpha-n}
 - p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha}\\
 &\qquad  + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{\alpha-n} + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-q)^{-n}}{n+\alpha}  + \frac{p^{\alpha}-1}{\alpha}\\
 &= -p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{\alpha-n}
 - p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha}\\
 &\qquad  + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-p)^{n}}{\alpha-n} + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-p)^{n}}{n+\alpha}  + \frac{p^{\alpha}-1}{\alpha}
\end{align*}
が得られる。

そして、これら4つの級数は全て、定数係数を除けば、(Gauss の) 超幾何級数になっている

\begin{align*}
 &p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n-\alpha} = -\frac{p^{\alpha}}{\alpha}F(1,-\alpha,-\alpha+1,-1)\\
 &-p^{\alpha}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n+\alpha} = -\frac{p^{\alpha}}{\alpha}F(1,\alpha,\alpha+1,-1) = -p^{\alpha}\int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha-1}dt}{1+t}\\
 &-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-p)^{n}}{n-\alpha} = \frac{1}{\alpha}F(1,-\alpha,-\alpha+1,-p)\\
 &\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-p)^{n}}{n+\alpha} = \frac{1}{\alpha}F(1,\alpha,\alpha+1,-p) = \int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha-1}dt}{1+pt}
\end{align*}

従って

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\\
 &\qquad = -\frac{p^{\alpha}}{\alpha}\Big(F(1,-\alpha,-\alpha+1,-1) + F(1,\alpha,\alpha+1,-1) - 1\Big)\\
 &\qquad\quad + \frac{1}{\alpha}\Big(F(1,-\alpha,-\alpha+1,-p) + F(1,\alpha,\alpha+1,-p) - 1\Big)
\end{align*}

次の変形も可能である。

\begin{align*}
 &\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\\
 &= -\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}(p^{n}-p^{\alpha})}{n-\alpha}
 + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}(p^{n}-p^{\alpha})}{n+\alpha} + \frac{p^{\alpha}-1}{\alpha}\\
 &= 2\alpha\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}(p^{\alpha}-p^{n})}{n^{2}-\alpha^{2}} + \frac{p^{\alpha}-1}{\alpha}
\end{align*}

[beta 函数]

なお、上記の式の変形中に現れる積分

\[
 \int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha-1}dt}{1+t}
\]
は、所謂 beta 函数 (Beta 函数ではない) である。beta 函数 $\beta(z)$ は、ディ・ガンマ関数
\[
 \psi(z) := \frac{d}{dz}{\log\Gamma(z)} = \frac{\Gamma^{\prime}(z)}{\Gamma(Z)}
\]
を用いて
\[
 \beta(z) := \frac{1}{2}\left(\psi\Big(\frac{z+1}{2}\Big) - \psi\Big(\frac{z}{2}\Big)\right) = \psi(z) - \psi\Big(\frac{z}{2}\Big) - \log{2}
\]
で表されるが
\[
 \int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha-1}dt}{1+t} = \beta(\alpha)
\]
が成り立っている。

[ $I_{\alpha}$ の表式への補足]

$I_{\alpha}$ の表式に現れる

\[
 \mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}
\]
に就いても、同様の処理をすると $s<-1<r<0$ に注意して
\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\\
 &\quad = \mathrm{vp\!}\int_{\infty}^{\log(-r)}\frac{(-re^{-t})^{\alpha}(re^{-t})dt}{-re^{-t}+r}\\
 & \qquad\qquad - \int_{\infty}^{\log(-s)}\frac{(-se^{-t})^{\alpha}(se^{-t})dt}{-se^{-t}+s}\\
 &\quad = (-r)^{\alpha}\mathrm{vp\!}\int_{\infty}^{\log(-r)}\frac{e^{-\alpha{t}}dt}{-1+e^{t}} - (-s)^{\alpha}\int_{\infty}^{\log(-s)}\frac{e^{-\alpha{t}}dt}{-1+e^{t}}\\
 &\quad = -(-r)^{\alpha}\mathrm{vp\!}\int_{\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} + (-s)^{\alpha}\int_{\log(-s)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\quad = -(-r)^{\alpha}\mathrm{vp\!}\int_{\log(-r)}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} - (-r)^{\alpha}\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\qquad\qquad + (-s)^{\alpha}\int_{\log(-s)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\quad = -(-r)^{\alpha}\lim_{u\rightarrow 1+0}\left\{\int_{\log(-r)}^{-\log{u}}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}
+ \int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\right\}\\
 &\qquad\qquad  - (-r)^{\alpha}\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} + (-s)^{\alpha}\int_{\log(-s)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
\end{align*}

しかるに、上記最終辺の中カッコ内の式は

\begin{align*}
 &\int_{\log(-r)}^{-\log{u}}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}+ \int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\qquad = -\int_{-\log(-r)}^{\log{u}}\frac{e^{(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{t}}+ \int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\qquad = -\int_{-\log(-r)}^{\log{u}}\frac{e^{(\alpha+(1/2)){t}}dt}{e^{(-t/2)}-e^{(t/2)}}+ \int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+(1/2)){t}}dt}{e^{(t/2)}-e^{-(t/2)}}\\
 &\qquad= -\int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{(\alpha+(1/2)){t}}dt}{e^{(t/2)}-e^{-(t/2)}}+ \int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{e^{-(\alpha+(1/2)){t}}dt}{e^{(t/2)}-e^{-(t/2)}}\\
 &\qquad = -\int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{\sinh\big(\alpha+(1/2){t}\big)}{\sinh(t/2)}dt
\end{align*}

第2項と第3項は

\begin{align*}
 &-(-r)^{\alpha}\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} + (-s)^{\alpha}\int_{\log(-s)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\qquad =-(-r)^{\alpha}\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} + (-s)^{\alpha}\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 &\qquad =-\big((-r)^{\alpha} - (-s)^{\alpha}\big)\int_{-\log(-r)}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}
\end{align*}
だから
\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\\
 &\quad = (-r)^{\alpha}\lim_{u\rightarrow 1+0}\int_{\log{u}}^{-\log(-r)}\frac{\sinh\big(\alpha+(1/2)\big){t})}{\sinh(t/2)}dt\\
 &\qquad\qquad - \big((-r)^{\alpha}-(-s)^{\alpha}\big)\int_{-\log{(-r)}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
 & = (-r)^{\alpha}\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh\big(\alpha+(1/2)\big){t})}{\sinh(t/2)}dt\\
 &\qquad\qquad - \big((-r)^{\alpha}-(-r)^{-\alpha}\big)\int_{-\log{(-r)}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}}\\
\end{align*}

ところで

\begin{align*}
 &(-r)^{\alpha}\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh(\big(\alpha+(1/2)\big){t})}{\sinh(t/2)}dt\\
 &= (-r)^{\alpha}\int_{0}^{-\log(-r)}\Big(\frac{\sinh(\alpha{t})\cosh(t/2)}{\sinh(t/2)} + \cosh(\alpha{t})\Big)dt\\
 &= (-r)^{\alpha}\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh(\alpha{t})\cosh(t/2)}{\sinh(t/2)}dt\ + \frac{(-r)^{\alpha}}{2\alpha}\big((-r)^{-\alpha}-(-r)^{\alpha}\big)
\end{align*}

そして

\begin{align*}
 &\int_{-\log{(-r)}}^{\infty}\frac{e^{-(\alpha+1){t}}dt}{1-e^{-t}} = \sum_{n=0}^{\infty}\int_{-\log{(-r)}}^{\infty}e^{-(\alpha+n+1)t}dt\\
 &\qquad = \sum_{n=0}^{\infty}\Big[-\frac{e^{-(\alpha+n+1)t}}{\alpha+n+1}\Big]_{-\log{(-r)}}^{\infty}\\
 &\qquad = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-r)^{(\alpha+n+1)}}{\alpha+n+1}\\
 &\qquad = (-r)^{(\alpha+1)}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-r)^{n}}{\alpha+n+1}\\
 &\qquad = (-r)^{(\alpha+1)}\int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha}}{1+rt}dt\\
\end{align*}

結局

\begin{align*}
 &\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\\
 & = (-r)^{\alpha}\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh(\alpha{t})\cosh(t/2)}{\sinh(t/2)}dt\\
 &\qquad - (-r)^{(\alpha+1)}\big((-r)^{\alpha}-(-r)^{-\alpha}\big)\int_{0}^{1}\frac{t^{\alpha}}{1+rt}dt + \frac{(-r)^{\alpha}}{2\alpha}\big((-r)^{-\alpha}-(-r)^{\alpha}\big)\\
 & = (-r)^{\alpha}\Bigg\{\int_{0}^{-\log(-r)}\frac{\sinh(\alpha{t})\cosh(t/2)}{\sinh(t/2)}dt\\
 & \qquad + \big((-r)^{\alpha}-(-r)^{-\alpha}\big)\left(\int_{0}^{1}\frac{rt^{\alpha}}{1+rt}dt - \frac{1}{2\alpha}\right)\Bigg\}
\end{align*}

これで $I_{1/2}$ を計算してみる。

\begin{align*}
 I_{1/2} &= \frac{(-r)^{1/2}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Bigg\{\int_{0}^{-\log(-r)}\cosh(t/2)dt\\
 &\qquad + \big((-r)^{1/2}-(-r)^{-1/2}\big)\left(\int_{0}^{1}\frac{rt^{1/2}}{1+rt}dt - 1\right)\Bigg\}
\end{align*}
だが、まず
\[
 (-r)^{(1/2)}-(-r)^{-(1/2)} = \sqrt{-r}-\sqrt{-s} = -\sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}
\]
及び
\begin{align*}
 \int_{0}^{-\log(-r)}\cosh(t/2)dt &= \Big[2\sinh(t/2)\Big]_{0}^{-\log(-r)}\\
 &= (-r)^{-(1/2)}-(-r)^{(1/2)}\\
 &= \sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}
\end{align*}
に注意すると
\begin{align*}
 I_{1/2} &= \frac{(-r)^{1/2}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Bigg\{\sqrt{\frac{2(a-b)}{b}} - \sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}\left(\int_{0}^{1}\frac{rt^{1/2}}{1+rt}dt - 1\right)\Bigg\}\\
 &= \frac{(-r)^{1/2}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\sqrt{\frac{2(a-b)}{b}}\left\{-\int_{0}^{1}\frac{rt^{1/2}}{1+rt}dt + 2\right\}\\
 &= \sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\left\{-\int_{0}^{1}\frac{rt^{1/2}}{1+rt}dt + 2\right\}
\end{align*}

結局

\begin{align*}
I_{1/2} 
 &= -\sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\left(\int_{0}^{1}\frac{2ru^{2}}{1+ru^{2}}du - 2\right)\\
 &= -\sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\left(\int_{0}^{1}(2 - \frac{2}{1+ru^{2}})du - 2\right)\\
 &= 2\sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\int_{0}^{1}\frac{1}{1+ru^{2}}du\\
 &= \frac{2}{(-r)}\sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\int_{0}^{1}\frac{1}{(-\frac{1}{r})-u^{2}}du\\
 &= \frac{2}{(-r)}\sqrt{\frac{2(-r)}{b(a+b)}}\Bigg[\frac{1}{2\sqrt{-\frac{1}{r}}}\log\frac{\sqrt{-\frac{1}{r}}+u}{\sqrt{-\frac{1}{r}}-u}\Bigg]_{0}^{1}\\
 &= \sqrt{\frac{2}{b(a+b)}}\log\frac{\sqrt{-\frac{1}{r}}+1}{\sqrt{-\frac{1}{r}}-1}\\
\end{align*}

ところが

\[
 \log\frac{\sqrt{-\frac{1}{r}}+1}{\sqrt{-\frac{1}{r}}-1} = \log\frac{1+\sqrt{-r}}{1-\sqrt{-r}} = \frac{1}{2}\log\frac{(1+\sqrt{-r})^{2}}{(1-\sqrt{-r})^{2}}
\]
であって、更に
\[
 \frac{1+\sqrt{-r}}{1-\sqrt{-r}} = \frac{1+\sqrt{-(1/s)}}{1-\sqrt{-(1/s)}} = \frac{\sqrt{-s}+1}{\sqrt{-s}-1}
\]
だから、結局
\begin{align*}
 &\frac{(1+\sqrt{-r})^{2}}{(1-\sqrt{-r})^{2}} = \frac{(1+\sqrt{-r})(\sqrt{-s}+1)}{(1-\sqrt{-r})(\sqrt{-s}-1)}\\
 &\qquad = \frac{2+(\sqrt{-r}+\sqrt{-s})}{-2+(\sqrt{-r}+\sqrt{-s})}\\
 &\qquad = \frac{2+\sqrt{2(a+b)/b}}{-2+\sqrt{2(a+b)/b}}\\
 &\qquad = \frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{2b}}{\sqrt{a+b}-\sqrt{2b}}
\end{align*}

つまり

\[
 \log\frac{\sqrt{-\frac{1}{r}}+1}{\sqrt{-\frac{1}{r}}-1} = \frac{1}{2}\log\frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{2b}}{\sqrt{a+b}-\sqrt{2b}}
\]

まとめると

\begin{align*}
 I_{1/2} &= \sqrt{\frac{2}{b(a+b)}}\cdot\frac{1}{2}\log\frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{2b}}{\sqrt{a+b}-\sqrt{2b}}\\
 &= \sqrt{\frac{1}{2b(a+b)}}\log\frac{\sqrt{a+b}+\sqrt{2b}}{\sqrt{a+b}-\sqrt{2b}}
\end{align*}

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本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) 補足。[一般式] Executive Summary

$a>b>0, \alpha\geq{0}$ の時、$r,s,p,q$

\begin{align*}
 & r := \frac{-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \quad s := \frac{-a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b};\\
 & p := \frac{a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}, \quad  q := \frac{a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}
\end{align*}
と定めると、次の等式が成り立つ ( $s<-1<r<0<p<1<q$ に注意)。

\begin{align*}
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\alpha{x})}}{a+b\cos{x}}\,dx =\\
 &\qquad \frac{\pi{p^{\alpha}}\cos{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} + \frac{\sin{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\mathrm{vp\!}\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+r} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+s}\Big)\\
\\
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(\alpha{x})}}{a-b\cos{x}}\,dx =\\
 &\qquad \frac{\pi{p^{\alpha}}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} + \frac{\sin{(\alpha\pi)}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+p} - \int_{0}^{1}\frac{\rho^{\alpha}d\rho}{\rho+q}\Big)
\end{align*}

特に、$\alpha$ が、非負整数 $n$ である時は

\begin{align*}
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(nx)}}{a+b\cos{x}}\,dx = \frac{\pi{r^{n}}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\frac{-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\right)^{\!\!n}\\
 &\int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{(nx)}}{a-b\cos{x}}\,dx = \frac{\pi{p^{n}}}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}} = \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\left(\frac{a - \sqrt{a^{2}-b^{2}}}{b}\right)^{\!\!n}
\end{align*}

である。

参考: 本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金])

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本ブログ記事「2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植」(2018年8月31日[金]) への注意

本ブログ記事2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植: nouse (2018年8月31日[金]) において、$\alpha$ は非負整数でなければならないことを言及し忘れていた。

当該 [理科年表] でも、また同じ公式が示されている [岩波数学公式 I] 第247頁でも、同様の注意が必要てある。

これは留数を用いた積分計算に於いて、被積分関数が原点の周りで多価性を発現しないようにするための限定である。

また、結果として得られた公式の右辺のカッコ内は負の実数であるから、$\alpha$ が整数でないと、右辺は実数でなくなる。これは、左辺が実数であることに反することを指摘しておいても良いだろう。

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2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植

2018年 (平成30年) 版 [理科年表] (ISBN-13: 978-4-621-30217-0) 附録「数学公式」中 [附17 (1097)] 頁、下から5つ目の等式には誤植がある。

つまり


\[
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{ax}}{a+b\cos{x}}\,dx =\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha} \qquad (a>b>0,\quad \alpha>0)
\]

の左辺の被積分函数の分子の函数 $\cos$ の変数中の係数 $a$ は誤りである。

この $a$$\alpha$ に置き換えて


\[
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx =\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha} \qquad (a>b>0,\quad \alpha>0)
\]

とすべきだろう。

元の形が誤っているのは一目瞭然である。右辺は $\alpha$ に依存して値が変化するが、その変数 $\alpha$ が左辺に現れないからだ。

勿論、これだけの根拠では、誤っているのが左辺ではなく、右辺 (又は、左右両方) である可能性を排除できないが、表式右のカッコ内に $\alpha$ の範囲に就いての限定がある以上、表式中に$\alpha$ が含まれることは所与の要件として認めざるを得ない。このことの結果として、蓋然性の低くなる場合を排除するなら、左辺のみが誤っていると、まず想定すべきだろう。

そうすると、「正解」の候補として、とりあえず考えられるのが、左辺中に2つある $a$ のどちらかを $\alpha$ で置き換えることだが (両方を置き換えると、左辺中に $a$ が存在しなくなる)、右辺の形式をみると、一番期待できるのが、分子の $a$ のみ1つを $\alpha$ で置き換えることである。

だから、当面の課題は、それが正しく右辺の形式の式を導き出すかと云うことになる。

この[訂正形] が正しいのは次のように確かめられる。まず


\[
 I := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

とすると、その被積分函数は $x$ に就いての偶関数だから、当然

\[
 2I = \int_{-\pi}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

となる。

ここで、更に奇関数

\[
 \frac{i\sin{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}
\]

を取って $-\pi$ から $\pi$ まで積分すると、積分値は勿論 $0$ になるから、次の等式が成り立つ。


\[
 2I = \int_{-\pi}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}+i\sin{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

そして、

\begin{align*}
 &\cos{\alpha{x}} +i\sin{\alpha{x}} = e^{i\alpha{x}}\\
 &a+b\cos{x} = a + \frac{b}{2}(e^{ix}+e^{-ix}) = \inverse{2e^{ix}}(be^{2ix} + 2ae^{ix} +b)
\end{align*}

だから、変数変換 $z = e^{ix}$ を行うと ( $dx={dz}/{(iz)}$ に注意)

\[
 2I = \inverse{i}\int_{|z|=1}\frac{2z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}\,dz
\]

つまり

\[
 I = \inverse{i}\int_{|z|=1}\frac{z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}\,dz
\]

である。

これから、積分値 $I$ は被積分函数

\[
 \frac{z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}
\]

の極のうち、複素平面単位円に含まれるものの留数の総和、の $2\pi$ 倍であることが分かる。

しかるに2次方程式 $bz^{2} + 2az + b = 0$ の2つの根を考えて、それを $r,s$ とすると、a>b>0$ だったから、判別式は $4a^{2}-4b^{2}>0$ となり、$r,s$ は異なる実数であることが分かる。

ここで、一般性を失うことなく $r>s$ と仮定することができるが、更に $\displaystyle rs = (b/b) =1$ だから、$r,s$ の絶対値は、一方のみが $1$ より小さく、他方は $1$ より大きい。

実際、2つの根の表式

\[
 \inverse{b}(-a \pm\sqrt{a^{2}-b^{2}})
\]

を念頭において、それぞれの値が、如何なる範囲に含まれるか調べてみると次のようになる。
\begin{align*}
 &a+b>a-b>0\\
 &a^{2}>a^{2}-b^{2}>(a-b)^{2}>0\\
 &a>\sqrt{a^{2}-b^{2}}>a-b>0>b-a>-\sqrt{a^{2}-b^{2}}\\
 &0>-a+\sqrt{a^{2}-b^{2}}>-b>-a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}\\
 &0>r = \inverse{b}(-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}})>-1>s = \inverse{b}(-a - \sqrt{a^{2}-b^{2}})
\end{align*}

これより複素平面単位円に含まれる極は

\[
 z = r = \inverse{b}(-a +\sqrt{a^{2}-b^{2}})
\]

のみであることが分かる。

結局、求める留数は

\begin{align*}
 \frac{r^{\alpha}}{b(r-s)} &= \frac{((\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a)/b)^{\alpha}}{b(2\sqrt{a^{2}-b^{2}}/b)}\\
                           &= \inverse{{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}
\end{align*}

これの $2\pi$ 倍は

\[
 \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}
\]

で、求めるものが得られた。

2018年 (平成30年) 版 [理科年表] は、現時点 (2018年8月31日) での最新版だが、旧版では、本件がどうであったかは、未確認。

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メモ: 童謡 "I know an old lady who swallowed a fly" に就いて

英語の童謡に "I know an old lady who swallowed a fly" と云う歌い出しで始まるものがある。a real Mother Goose と呼べるほど起源が古いものではないらしい。

日本にも既に紹介されており、ネット上でも記事が散見されるが、日本語版ウィキペディアでは、現在少なくとも独立した項目が立てられていない。対して、英文版 Wikipedia では "There Was an Old Lady Who Swallowed a Fly" (Wikipedia 12 March 2018, at 20:55) が存在する。 Nursery Rhymes のご多分に漏れず、変異形が存在するが、Wikipedia に採録されているのは次のものである。

There was an old lady who swallowed a fly;
I don't know why she swallowed a fly - perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a bird;
How absurd to swallow a bird!
She swallowed the bird to catch the spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a cat;
Imagine that! She swallowed a cat!
She swallowed the cat to catch the bird,
She swallowed the bird to catch the spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady that swallowed a dog;
What a hog, to swallow a dog!
She swallowed the dog to catch the cat,
She swallowed the cat to catch the bird,
She swallowed the bird to catch the spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a goat;
She just opened her throat and swallowed a goat!
She swallowed the goat to catch the dog,
She swallowed the dog to catch the cat,
She swallowed the cat to catch the bird,
She swallowed the bird to catch the spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a cow;
I don't know how she swallowed a cow!
She swallowed the cow to catch the goat,
She swallowed the goat to catch the dog,
She swallowed the dog to catch the cat,
She swallowed the cat to catch the bird,
She swallowed the bird to catch the spider;
That wriggled and jiggled and tickled inside her!
She swallowed the spider to catch the fly;
I don't know why she swallowed a fly - Perhaps she'll die!

There was an old lady who swallowed a horse;
...She's dead, of course!

--There Was an Old Lady Who Swallowed a Fly (Wikipedia 12 March 2018, at 20:55)

why/fly/die, spider/inside her, absurd/bird, that/cat/catch, hog/dog, throat/goat, how/cow, が韻を踏んでいる。
「翻訳」には、到底なりえないが、原文の雰囲気を伝える程度のものを示しておく。

婆さんハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんクモを呑み込んだ。
モゾモゾウロウロココチョコチョ腹の中
ハエ獲るクモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんトリを呑み込んだ。
馬鹿げたことだが呑み込んだ。
モゾモゾウロウロコチョコチョの
クモ獲るトリを呑み込んだ。
ハエ獲るクモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんネコを呑み込んだ
ネコだよ。ネコを呑み込んだ。
トリ獲るネコを呑み込んだ。
モゾモゾウロウロコチョコチョの
クモ獲るトリを呑み込んだ。
ハエ獲るモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんイヌを呑み込んだ。
イヌだよ。イヌを呑み込んだ。
ネコ獲るイヌを呑み込んだ。
トリ獲るネコを呑み込んだ。
モゾモゾウロウロコチョコチョの
クモ獲るトリを呑み込んだ。
ハエ獲るクモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんヤギを呑み込んだ。
口をアングリ、ヤギ呑んだ。
イヌ獲るヤギを呑み込んだ。
ネコ獲るイヌを呑み込んだ。
トリ獲るネコを呑み込んだ。
モゾモゾウロウロコチョコチョの
クモ獲るトリを呑み込んだ。
ハエ獲るクモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんウシを呑み込んだ。
どうやったんだか分からない。
ヤギを獲るウシを呑み込んだ。
イヌを獲るヤギを呑み込んだ。
ネコ獲るイヌを呑み込んだ。
トリ獲るネコを呑み込んだ。
モゾモゾウロウロコチョコチョの
クモ獲るトリを呑み込んだ。
ハエ獲るクモを呑み込んだ。
最初にハエを呑み込んだ。
どうしてだかは分からない。
婆さん多分死ぬんだろう。

婆さんウマを呑み込んだ。
もちろん婆さん死んじゃった。

この童謡を知ったのは、多分2年ほど前のことだ。その切っ掛けが、今となっては記憶が曖昧なのだが、思い出そうとして立ち上がってくる頭の中の情景から判断するに、英文のコラムか何かを流し読みしていた際に、「 悪手を弥縫するために、更に酷い悪手を採る」例えとして、この童謡のなかの一句が使われていて、その出典として行き当たったのだと云う気がする。

それ以来、何かの時に、この童謡に就いて、このブログに記事を書いてみようと思ったまま放置してしまっていたものを、今取り出して書き始めているのだが、時間の経過による違和感が私自身にある。まとまりが悪くなりそうだが、このまま、進めることにする。

この童謡に、近代的な意味での「作者」がいた可能性は否定できないし、更に、その上で「作意」が存在した可能性があって、それが「 悪手を弥縫するために、更に酷い悪手を採る」ことへの風刺だったこともありうるだろう。

しかし、この童謡を聞いていてワクワクする感じは、童謡の結末で死んでしまうとは言え、次から次へと大きくなっているものを片端から呑み込んでいく「婆さん」のバケモノ性である。Wikipedia でも、この点を

The humour of the song stems from the absurdity that the woman is able to inexplicably and impossibly swallow animals of preposterous sizes without dying, suggesting that she is both superhuman and immortal;
この童謡の可笑しみは、老婆が、非常識な大きさの動物を、説明不能かつ実現ができる筈がない仕方で、死にもせずに呑み込めること (これは、彼女が超人間的かつ不死なる存在であることを示唆する) に基づいている。

--There Was an Old Lady Who Swallowed a Fly (Wikipedia 12 March 2018, at 20:55)
と的確に指摘している。つまり、この「婆さん」は変装した神 (より正確には地母神) なのだ。

しかし、Wikipedea で、上記引用部分のセミコロンに続いて

however, the addition of a horse is finally enough to kill her. Her inability to survive after swallowing the horse is an event that abruptly and unexpectedly applies real-world logic to the song, directly contradicting her formerly established logic-defying animal-swallowing capability.
しかし、最後にウマが登場して彼女は死ぬことになる。彼女が、ウマを呑み込んだ後生きていけないのは、それ迄彼女のものであった反論理的な動物を呑み込む能力に真っ向から矛盾する現実世界の論理が、突然予見不可能な形で、この童謡に適用されるからである。

--There Was an Old Lady Who Swallowed a Fly (Wikipedia 12 March 2018, at 20:55)
とあるのは、いただけない。

「最後に死ぬ」のも彼女に内在する論理の帰結だからだ。「死ぬのは最後に決まっている」と云う反論は、この場合当たっていない。死んだことで物語が終わるのでなく、死ぬことが、物語の重要なピースなのだ。何故なら、それは、原初的には永遠に循環する死と再生の物語、または、その変異形 (「母の死」ではなく「母から娘への代替わり」) の断片だからだ。

ギリシア神話では、主神が男性であるため、男性神間の代替わりの話になっているが、クロノスからゼウスへの「政権交代」では、クロノスはゼウス以前に生まれた自分の子供たちを次々に呑み込んでいる (対応するローマ神話をゴヤが絵画化しているのは良く知られている。「我が子を食らうサトゥルヌス」)。しかし、末子のゼウスは、母にしてクロノスの妻であるレアに救われる。レアは、夫のクロノスに、赤子だと偽って、[大きな石] を呑み込ませる (「呑み込む」は、「受精」と「埋葬」双方の隠喩になっている)。その後、クロノスはゼウスに討たれて、追放される。

そして、クロノスの敗北とゼウスへの代替わりは、クロノスが、その父ウラノス (と母ガイア) により予言されていたことだった。語られた神話上では、予言の成就を阻止するために、クロノスは我が子たちを次々と呑み込んでいったとされている (そして、「阻止」に失敗する) が、これを目的論的にパラフレーズするならば、クロノスは、次世代の神々を、その主神の誕生まで留保するために自らの体内にとどめ、最後に [大きな石] を呑み込んで、それを次世代の主神ゼウスに metamorphosis させてから (これは、クロノスがゼウスとして転生することでもある)、それらオリュンポス諸神を産み出すのだ。つまり、神々たちの倒木更新がおきていると言える。

ここで連想されるのはグリム童話の「狼と七匹の子山羊」だ。そこでは、オオカミは、末っ子以外の6匹の子ヤギを呑み込むが、結局は、帰ってきた母親ヤギにより、呑み込まれた子ヤギたちと入れ替わりに腹の中に石を詰め込まれて、その重みで泉に落ちて死んでしまう。

この童話では、[6匹の子ヤギ/石] と云う二項対立と、[オオカミ/母親] と云う二項対立が存在して、オオカミと母親との間、子ヤギたちと石との間には緩い等価性が存在する (オオカミは [母親のフリ] をして子ヤギたちを騙す。石は子ヤギの代わりに、オオカミの体内 --むしろ、胎内-- に入れられる)。そして、[オオカミ/母親] は子ヤギたちの母であり、石を体内に蓄える存在として地母神に連なっている。

ここで、石の埋め込みと、子ヤギたちの再生の生起時間が、クロノス-ゼウス説話とは異なり、ほぼ同時であることには留意しておく (恐らく、表見的な相違点)。

ただし、これら2つの説話の平行性は既知。参考:「グリム童話 KHM5 オオカミと七匹の子ヤギ

さらに飛躍するなら、「あかづきん」では、オオカミは、[あかづきん] を呑み込む前に、その祖母を呑み込むことにも注意すべきだろう。オオカミは、[あかづきん] を呑み込むためには、その前に、[おばあさん] を呑み込んで、彼女と一体化する必要があったのだ。これは、[あかづきん] を呑み込むのが、[オオカミ-老婆] 複合体であることを意味する。そして、ここでも、オオカミは、たまたま通りかかった狩人 (Deus ex machina) により [あかづきん] 及び祖母の代わりに、腹の中に石を詰め込まれて、それがもとで死んでしまう。

ただし、「赤ずきん - Wikipedia」によるなら、「赤ずきんとおばあさんが狼のお腹から生きたまま救出されるというエピソードを追加したのは彼ら --引用者註:グリム-- 兄弟である」。

"I know an old lady who swallowed a fly" に帰るなら、この歌は、ピート・シーガー (Pete Seeger) や ピーター・ポール&マリー(Peter, Paul and Mary)などにより、カヴァーされている。詳しくは、上記 "Wikipedia の記事"における "Representative renditions" の項や、"References" の項を参照のこと。引用した2例に就いては、リンクを貼っておく。

  1. Pete Seeger. "Birds, Beasts, Bugs and Fishes (Little and Big) - Smithsonian Folkways"
  2. Peter, Paul and Mary. Peter, Paul and Mary - I Know an Old Lady Who Swallowed a Fly - YouTube

以下、参考になるかもしれないサイト。

  1. 08 I Know an Old Lady Who Swallowed a Fly) - YouTube
  2. I Know An Old Woman Who Swallowed A Fly - YouTube
  3. Burl Ives - I Know An Old Lady - YouTube
  4. There Was An Old Lady Who Swallowed A Fly Nursery Rhyme - YouTube
  5. BBC - School Radio - Nursery songs and rhymes - Nursery rhymes and songs: I know an old lady who swallowed a fly
  6. There Was An Old Woman
  7. I Know An Old Lady Lyrics
  8. Words for Life - There was an old lady
  9. Since 9-11 America’s Insane Foreign Policy — Continued Under Obama — Has Killed a Million and Created ISIS | Global Research - Centre for Research on Globalization
  10. There Was a Fed Chairman Who Swallowed a Fly | Euro Pacific Capital

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PHP研究所 [ABC予想入門] の誤植と微妙箇所

以前 (出版当時) に卒読した [ABC予想入門] (発行:株式会社PHP研究所/2013年4月1日。著者:黒川信重・小川信也) の誤植を纏めておく。瑕疵は後半 (第4章以降) に集中しており、表式上のケアレスミスばかりである。

内容は、「ABC予想」や関連する話題 (ファルマー予想・リーマン予想・ラマヌジャン予想・佐藤テイト予想・スピロ予想・カタラン予想。そして、「予想」の「整数版」と「多項式版」) に亘っており、充分面白かった。

[ABC予想入門] 正誤表
第4章第1節 p.124 第4行
a\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right) = bc\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right) a\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right) = b\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right)
備考:右辺の因子 $c$ は不要。
第4章第1節 p.125 第1行-第2行
\begin{align*}
 \frac{a}{b} &= \frac{\displaystyle\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}}{\displaystyle\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}}\\
&= \frac{\displaystyle\rad{abc}\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right)}{\displaystyle\rad{abc}\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right)}
\end{align*} \begin{align*}
 \frac{a}{b} &= \frac{\displaystyle\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}}{\displaystyle\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}}\\
&= \frac{\displaystyle\rad{abc}\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right)}{\displaystyle\rad{abc}\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right)}
\end{align*}
備考:中辺と右辺とで、分子・分母を交換する。左辺だけの分子・分母を交換しても正しい等式になるが、後続の議論が、本式で、中辺と右辺を補正した形のものに準じた表式になっているので、こちらの方が、全体としての訂正箇所が少なくなる。
第4章第1節 p.126 第8行
a\Bigm|\rad{abc}\!\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right) a\Bigm|\rad{abc}\!\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right)
備考:p.125 第2行での変更に合わせる。
第4章第1節 p.127 第1行
b\Bigm|\left(\frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}\right) b\Bigm|\rad{abc}\!\left(\frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}\right)
備考:p.125 第2行での変更に合わせ
\[
 \frac{b^{\prime}}{b}-\frac{c^{\prime}}{c}
\]

\[
 \frac{c^{\prime}}{c}-\frac{a^{\prime}}{a}
\]
に変更する。
さらに $\rad{abc}$ を補足する必要がある。
第5章第4節 p.179 第8行
\wp(z)^{2}=y^{2} \wp^{\prime}(z)^{2}=y^{2}
備考:ここでの ワイエルシュトラス (Weierstraß) の $\wp$ 函数 (ペー函数) は微分されていなければならない (p.174 での記述を参照)。
第5章第4節 p.186 第6行
\wp(z_{3}) \neq \wp(z_{2}) \wp(z_{3}) \neq \wp(z_{1})
備考:この式は $f(z_{3})=\wp(z_{3})-\wp(z_{1})\neq{0}$ から導かれたものである。
第6章第3節 p.207 第6行
c_{n+1}=a^{2}_{n} c_{n+1}=c^{2}_{n}
備考:p.209第7行には正しい式が示されている。
第6章第3節 p.208 第10行-第12行
\begin{align*}
 &a_{n}=3^{2n}\cos^{2}(2^{n-1}\theta)\\
 &b_{n}=3^{2n}\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\\
 &c_{n}=3^{2n}\\
\end{align*} \begin{align*}
 &a_{n}=3^{2^{n}}\cos^{2}(2^{n-1}\theta)\\
 &b_{n}=3^{2^{n}}\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\\
 &c_{n}=3^{2^{n}}\\
\end{align*}
備考:右辺の $3$ の指数は $2n$ ではなくて、$2^{n}$ にする必要がある。高校数学レベルの計算だが、確認しておこう (p.207 の $a_{n},b_{n},c_{n}$ の漸化式を参照されてたい)。
$n=1$ の時は
\begin{align*}
 &a_{1}=3^{2}\cos^{2}(\theta)=9*\left(\sqrt{\frac{8}{9}}\right)^{2}=8\\
 &b_{1}=3^{2}\sin^{2}(\theta)=9*\left(\sqrt{\frac{1}{9}}\right)^{2}=1\\
 &c_{1}=3^{2}=9
\end{align*}

$n\geq{2}$ では
\begin{align*}
&(a_{n}-b_{n})^{2}=\left(3^{2^{n}}\cos^{2}(2^{n-1}\theta)-3^{2^{n}}\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\right)^{2}\\
&\qquad=\left(3^{2^{n}}\right)^{2}*\left(\cos^{2}(2^{n-1}\theta)-\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\right)^{2}\\
&\qquad=\left(3^{2*(2^{n})}\right)*\left(\cos(2*(2^{n-1}\theta))\right)^{2}\\
&\qquad=3^{2^{(n+1)}}\cos^{2}(2^{n}\theta)\\
&4a_{n}b_{n}=4\left(3^{2^{n}}\cos^{2}(2^{n-1}\theta)\right)\left(3^{2^{n}}\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\right)\\
&\qquad=\left(3^{2^{n}}\right)^{2}*\left(4\sin^{2}(2^{n-1}\theta)\cos^{2}(2^{n-1}\theta)\right)\\
&\qquad=\left(3^{2*(2^{n})}\right)*\left(2\sin(2^{n-1}\theta)\cos(2^{n-1}\theta)\right)^{2}\\
&\qquad=3^{2^{(n+1)}}\sin^{2}(2*2^{n-1}\theta)\\
&\qquad=3^{2^{(n+1)}}\sin^{2}(2^{n}\theta)\\
&c^{2}_{n}=\left(3^{2^{n}}\right)^{2} =3^{2*(2^{n})} = 3^{2^{(n+1)}}
\end{align*}
第6章第3節 p.209 第3行
S_{0}(a_{n+1},b_{n+1},c_{n+1})=\frac{(a_{n+1},b_{n+1},c_{n+1})^{\frac{1}{3}}}{\rad{a_{n+1},b_{n+1},c_{n+1}}} S_{0}(a_{n+1},b_{n+1},c_{n+1})=\frac{(a_{n+1}b_{n+1}c_{n+1})^{\frac{1}{3}}}{\rad{a_{n+1}b_{n+1}c_{n+1}}}
備考:p.206 における $S_{\varepsilon}(a,b,c)$$\varepsilon=0$ を当てはめた式に従う。

最後に、誤りとは言えないが、読んでいてビミョーな気分になった所を書いておこう。

「スピロ予想」に関連して、その条件 $\varepsilon>0$ を外して $\varepsilon=0$ とした時には「予想」が成立しなくなることを説明しているなかで、第6章第3節 p.209 第11行の「$a_{n},b_{n},c_{n}$ の中には必ず偶数がある・・・」と云う箇所がある。たしかに、これは、論理的には誤りではない。だが、この $c_{n}$ は蛇足である。何故なら、$c_{n}$ は必ず奇数 ($\displaystyle 3^{2^{n}}$) になるからだ。更に言うなら、

$n=1$ の時は $a_{1}$ が偶数 (定義により $8$) で、$b_{1}$ が奇数 (定義により $1$)。
$n\geq{2}$ では、$a_{n}$ は常に奇数で、$b_{n}$ は常に偶数になる。
全体としては、$a_{n}$ 又は $b_{n}$ のどちらかが必ず偶数になる (他方は必ず奇数)。これは $a_{n}+b_{n}=c_{n}$ と云う関係式が満たされていて、さらに $c_{n}$ が奇数なのだから当然である。

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メモ:岩波全書[数学公式 III] p.48 におけるヤコビのテータ関数の虚変換公式の誤り

本稿の草稿段階で、用語「Jacobi の虚変換」と「Jacobi の虚数変換」のどちらがヨリ広く通用しているのだろうと、google 検索してみたら、ウィキペディアに「ヤコビの虚数変換式」と云う項目が立てられていて、そこで、本稿の主題である [数学公式III] の誤りのことが指摘されていることに気が付いた (以前にも、テータ関数に就いてネットで調べたことがあるのは、下記にある通りだが、その時は見落としたらしい)。従って、本稿を書く意味はホボ無くなっている。しかし、新たに記事のネタを考えるのもメンドーなので、今までに書いた草稿を少しくドレッシングして投稿することにする。

更に、いきなり話を混線させるようなことをして申し訣ないが、[数学公式III] での誤りとは別に、ウィキペディア「ヤコビの虚数変換式」の第2の式 (つまり $\vartheta_{1}$ に就いての式) の右辺冒頭のマイナス符号は不要である。ウィキペディア [テータ関数] の小節 [恒等式] では正しく示されているので、それを参照されたい。

岩波書店発行 [数学公式III] (1960年。著者: 森口 繁一, 一松 信, 宇田川 銈久。新装版が 1987年に発行されている) は、もっぱら [特殊関数] に関わる。この記事は、新装版に基づいている (1960年版も所持しているのだが、現在手元に見当たらない)。

その [第II篇楕円関数第2章](pp.46-51) は 「楕円テータ関数」を扱うが、p.48 に示されている「Jacobi の虚変換」の恒等式は次の通りである。

Jacobis_imaginary_transformation_false

しかし、この内、第2の式は誤っており、第1の式を含め、全体として、次のようにすべきである。

Jacobis_imaginary_transformation_true

「Jacobi の虚数変換式」([数学公式III] では「Jacobi の虚変換」) と云う通り名があるくらいの公式で、誤植レベルを超えた瑕疵があるのは、やや面妖ではある。更に、この恒等式は、モジュラー形式に至る「数学の大道」にあることに思いを致すなら、この間違いの [面妖さ] は倍増する。

まぁ、それでも、これを「編集ミス」レベルと言ってしまったら、「編集ミスレベル」になる。人間、間違える時は間違えるものなのだ。「編集者」は「編集ミス」をする性である。「犯人」探しをしても、仕方がない。

ただ、それはそれとして、この件については、「重要参考人」の如きものが、存在する。

それは、[数学公式] の少し前に発行された、所謂「テラカン」、つまり寺澤寛一著 [自然科學者のための数學概論 (增訂版) ](岩波書店1954年。[增訂版] と云うことは、[オリジナル版] も存在する訣だが、そして、たしか以前所持していた記憶があるが、引っ越しの際に廃棄してしまった筈であり、両者間の比較は諦めることにする) である。その pp.544-546 には「Jacobi の虚數變換」が解説されていて、特に p.546 には、虚数変換式が、次のように示されている。

Jacobis_imaginary_transformation_TERAKAN

「テラカン」では、[岩波数学公式III] に対し、変数 $v$ の代わりに $z$ が使われ、コンマの代わりに「縦棒」が使われ、そして、テータ関数の添え字では、[岩波数学公式] では、$\nu$ のみが使われているのに比して、jk とが使われいる点を除けば、両者が同一であることがわかる ($\sqrt{i}=e^{{\pi}i/4}$ 及び $i\sqrt{i}=e^{3{\pi}i/4})$ に注意)。

そして重要なのは、「テラカン」においては、上記の式に続いて

ここに $j=0$ なら $k=2$, $j=2$ なら $k=0$, $j=3$ なら $k=3$ である.
と補足されていることである。

ここから先は、妄想にしかなりえないが、公式集の原稿作成時、「テラカン」もしくは同等の内容を有する「種本」から、上記のテータ関数の虚数変換式を、(公式集の内部の文脈に合わせて適宜、変数・定数・添え字の記法を書き換えて) 引き写した時に、元はあった添え字に就いての注意書きを転記し忘れたのなら、例えばゲラ刷りの段階では、左辺と右辺の添え字の相違が意味不明になる。その相違を hypercorrection して統一してしまうと、丁度、[岩波数学公式集III] における式が誕生するのだ。

こうしたことが実際に起こったかどうかは分からない。

非当事者には想像しがたい失策であっても、当人の表層的現実意識では「ウッカリしていた」と表現するしかないこともありうる。原因の調査自体に特段の意味があるのでない限り、whodunit ばりの詮索に拘るより、次の段階に進んだ方がよい。この話は、「そうかもしれない」と云う、それまでのことである。

結局、読み手としては Caveat lector の二語を肝に銘ずるしかない。

この件と関係するのかどうか、不明だが、以前、この記事の起稿を意識していない段階でテータ関数に就いての情報を求めてネット内を彷徨していた際、立川裕二 (たちかわ ゆうじ: 。東京大学理学系研究科物理学科准教授、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構科学研究員 --その長さに感動せざるを得ない。海堂尊の小説の中の登場人物を思い出してしまった。その海堂尊自身が「独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センターAi情報研究推進室室長」なんだそうだが--。立川さんの専門分野は素粒子物理学、特に超弦理論における場の理論や数理物理) と云う方の駒場での授業の講義録のなかに『「岩波公式集」。これは僕が学生のとき(の少しまえ) ぐらいまでは日本の(理論) 物理屋の必携書だったが』と前振りした後で、

有名な噂として、岩波公式集のテータ関数の恒等式が間違っていたせいで、日本の弦理論研究者が一年ほど混乱して研究が遅れた、という話がある。
--Yuji Tachikawa [線形代数の復習 離散および連続フーリエ変換 ]
と云う逸話を紹介されているのことを知った。

私の感想は述べないでおこう。

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今更ながら「ファインディング・ニモ」

以前、頭の中をかすめただけの思い付きを書き始めたのだが、「芯」になるものが探し出せず、話がまとまらなかった。しかし、ほかの「ネタ」で話を組み立てるのも気疎いので、そのまま発表する。

"Finding Nemo" (邦題「ファインディング・ニモ」) と云う「ディズニー映画 (製作会社:ピクサー・アニメーション・スタジオ )」があって、私は未見である。ただ、このアニメ映画の日本公開時 (2003年12月)、私の居宅には TV 受像機がまだあって、そこで流れされたキャンペーンの情報の切れ端は、私の記憶の中に残っている。

もっとも、私が承知しているのは、「人間にさらわれた『クマノミの男の子』(名前は『二モ (Nemo)』) を、お父さんクマノミ (名前は「マーリン (Marlin)」) が探しに行く」と云う、極めて概括的なことでしかない。

内容を知らない映画について、いきなり半畳を入れるようで申し訣ないが、この記事を書くに当たって、ザッと調べて集めた情報に従うなら、この映画の設定は、動物学的・生態学的には無理があるような気がする。

クマノミは、所謂「雄性先熟性」、つまり、全ての個体はオスとして誕生する。では、メスはいないのかと言うと、そんなことはなくて、メスも存在する。メスは、オスが性転換したものである。

卵から孵化したクマノミは、途中、捕食されたりして大部分が死滅するとは言え、とにかく、イソギンチャク (例外もあるらしい) に、到達することで、幼生期を離脱する。前後してイソギンチャクに到着したクマノミは、シバシバ10匹足らずの個体からなるグループを作る。、

クマノミのグループは、最大で最強の個体である一匹のメス (つまり、「お母さんクマノミ」) と、2番目に大きい個体であり、「お母さんクマノミ」と共に繁殖に関わるオス (「お父さんクマノミ」)、そして、その他のオス (基本的には別の「父母」と云うか「母父」の間で形成された卵から孵化したのち浮遊してたどり着いた、最大でも数匹の「男の子(繁殖には関係しない)」) から構成されている。つまり、こうした「男の子」たちは、いわば「里子」であるが、むしろ「冷や飯喰い」と読んだ方が良いかも知れない。

「お母さん」が最強者としてグループ内を支配するが、「お父さん」と「冷や飯喰い」たちの間にも、序列があって、上位のものは下位のもの (特に直下のもの) を攻撃する。攻撃に耐えかねて、新参者が逃げだすこともある。この行動には、「冷や飯食い」が更に成長して、性的に成熟するのを防ぐ役割がある可能性がある (「お母さん」と「お父さん」との間では、攻撃はホボ抑制されているらしい)。

本稿のこうした記述は全て、泥縄の受け売りである。生態学や行動学的な記載は、新たな観測報告が追加されていくと重要な変更がありうると云う原則的な難点があるが、それ以前に、私が誤解していることも十分ありうる。だが、そうしたことは気にしないで、読みかじったものを未消化のまま吐き出していくことにする。

ただし、卵の段階では、親、特に「お父さん」は、卵塊を清潔にし、その数百から千数百ある卵が、捕食されないよう護ったり、また、酸素不足にならないよう、孵化までの1週間前後休みなくエラであおいで新鮮な海水を卵塊に供給し続けたり、死んでしまった卵があれば腐敗が他の卵に移らないように、死卵を除去 (食べちゃう) したりなど、献身的な世話をすると云う事実を付け加えておこう。

「お母さん」が欠けると (この映画では、「お母さん」の「コーラル (Coral)」がそうなる)、残ったグループのうち最大のオス である「お父さん」がメスへと性転換する。つまり、類型的には「お母さん」がいなくなると、「お父さん」が「お母さん」になる。そして、新しい「お母さん」は、その他のオスの中の一匹 -- 多分序列にして以前第3位だった「男の子」-- とツガイを組む。

それから、「ファインディング・ニモ/Finding Nemo」に登場するクマノミは、ディズニーの公式見解による「カクレクマノミ (Amphiprion ocellaris)」(つまり、「オケラリス種のクマノミ」) ではなく「ペルクラ種のクマノミ/Amphiprion percula」と云うことがシバシバ指摘されているようだ。

関連画像:

  1. ペルクラ種 Amphiprion percula のクマノミの画像
  2. オケラリス種 Amphiprion ocellaris (カクレクマノミ) の画像
  3. マーリン (ニモの父親) の画像

しかし、こうした諸諸のことはあまりこだわっても仕方がないような気もする。「お父さん」が「お父さん」のままなのが分からないことにしろ、オケラリス種にしろ、ペルクラ種にしろ、そうしたことが「問題」になるなら、クマノミに、人間みたいな歯が生えてるとか、白目があるとは思えないから、「問題」にするなら、そちらの方を先に「問題」にしろよ、と、思ったりする (「魚が、人間のように言語コミュニケーションを行う」ことは兎も角)。。。

。。。とは言うものの、本稿での「クマノミ」の説明は、ペルクラ種を基準にしている。

なお、余談になるが、日本語版のウィキペディアの記事「クマノミ亜科」では、英語風に「オセラリス種」としてあるが、学名では、一つの表記に一つの読み方を固定すべきである一方、学名はラテン語を基礎にすると云う原則があるのだから、ここはラテン語風に「オケラリス種」とすべき。日本は、ギリシア・ローマ文化の本流にはないのだから、むしろ、こうした点は厳格でないと、些細な誤りで重大な失敗を引き起こしかねない。

しかし、まぁ、道聴塗説はこれくらいにしておこう (私が書くものは、全て「道聴塗説」と云う指摘が聞こえてきそうだが、この際不問にしておく)。

で、本題だが、かって、「ファインディング・ニモ/Finding Nemo」と云うタイトルを聞いた時思ったのが、「この『ニモ/Nemo』は、ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万マイル』に登場する『ネモ船長』からとったのだろうか?」と云う疑問だった。

自分でツッコんでおくと、「海底二万マイル」の原題はフランス語で "Vingt mille lieues sous les mers" だから、「マイル」は可笑しい。しかし、"lieue" は「3海里=5556m」だから、『海底2万海里』も可笑しい。フランス語の lieue に対応する英語は league --厳密な言い方では "nautical league"-- だから、『海底二万リーグ』で、そうした翻訳名もあった筈だが、ここでは、私が子供のころ覚えて馴染んだとおりにしておく(草稿が出来上がってから、気が付いて調べたら、実は、ここらの背景事情は、日本語版ウィキペディアの記事「海底二万里」で説明されていて、それを引用すれば、それで済んだ話だった。。。今回は、こんな話ばかりだ)。

こだわるなら、"sous les mers" を「海底」とするのだって可笑しいのだ。ここは、「潜水」とか「潜航」とすべきところだろう。「潜航二万リーグ」とか、これはこれで、タイトルとして成立すると思うのだが、どうやら、そうしたタイトルでは翻訳されたことはないようだ (検索でヒットしない)。

で、この疑問には日本語版のウィキペディアの記事「ファインディング・ニモ」の「概要」に

主人公ニモ(Nemo)の名は、ジュール・ベルヌの小説『海底二万里』に登場する主人公ネモ船長(Captain Nemo)から採られている。
と書いてあって、あっさり解決している。

ただし、勿論、それだけでは話は終わらないので、その時私は、「もし、『だとしたら』、面白いネーミングだな」と思ったからだ。何故なら、ネモ船長の "Nemo" は、pseudonym であり、ラテン語 nemo に従って「誰でもない」と云う意味が隠されているからだ (日本語版ウィキペディアの記事「ネモ船長」を参照されたい)。つまり "nemo" は、英語で言えば "no one" や "no body" にあたるので、"finding Nemo" は "finding no one" や "finding nobody" つまり、「誰も探さない」と云う意味になるのだ。

そして (草稿完成どころか) 書きながら調べいて分かったが、"finding Nemo" を "finding no one" や "finding nobody" に変換するのは、簡単な思い付きだと云うことだ。実際、"finding no one" や "finding nobody" で、検索すると、それらしい記事がヒットする (意気阻喪したので、私は、内容をチェックしなかった)。

これを知った時点で、書き続ける意欲が著しく減退したのだが、もう少し書いておくと、"Nemo" は文学史的には、古典ギリシアのホメロス「オデュッセイア/ΟΔΥΣΣΕΙΑ」に遡ることができる。「オデュッセイア」の主人公オデュッセウス (Ὀδυσσεύς) がキュクロープス (Κύκλωψ) に対して名乗った Οὖτις がそれである。この "Οὖτις" も「誰でもない」を意味する。

しかし、他方、「オデュッセウス」は「大航海者」の象徴だから、"finding Nemo" は「大航海者を探して」と云う意味をも持ちうる。だから、"finding Nemo" と云う物語には、「大航海者を探して」と云う隠れた意味があるのではないか、と、妄想したのだったが、どうやらハズレのようだ。

「ファインディング・ニモ」は、「父親」が「失われた息子」を探しに旅に出ると云う話 (そのために「母親」が死んでいることが前提になっている) だから、「航海者」であるのは「父親」であると云う訣だ。「旅」は、宜しくドリー(Dory)と云う「案内者」を得て、叙事詩的としてなら、「地獄巡り」の様相を呈するのが順当なのだろうか、そうでもないようだ。

結局、本稿には「思い付き」と呼ぶに値することが、全くない、と云う結果に終わってしまった。

関連情報へのリンク

  1. Orange clownfish - Wikipedia
  2. Orange Clownfish - Amphiprion percula - Details - Encyclopedia of Life
  3. Outis - Wikipedia

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