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2009年8月14日 (金)

メモ:岩波書店 [ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上]第1章第7節「エントロピー」中の或る訳語に付いて。ついでに第3版で1パラグラフ講読

昔買ったままでホッタラカシにしていた本を引っ張り出してきて読むと云うことを最近続けいてる。内容は、このブログと同様、極めて雑多なのだが、基本的には、手軽に読める本を選んでいる。ところが、何を読んでいても、極単純である筈のことに引っ掛かりたり、つまらないことでも一応確認したくなったりして、スグに行き詰まって止まってしまうのだ。

「読むのに抵抗を感じなかった書物は、読むに値しなかった書物だ」とは言っても、「頓挫」だからねぇ。自分のリテラシのなさを嘆くばかりだ (話がトッ散らかりそうだが、付け加えておくと、「読むのに抵抗を感じさせない」ことが、重要な要素になる文章作品もある。例えば、理念としての「エンターテインメント文学」がそれだ。その他、記録、報告、取扱い説明書、法規なども、表現自体に限れば、同様だろう。これらは、どれも基本的には [読者/利用者] に考え込ませたり、文意の判断に迷わせたりしてはならない。もっとも、私は、エンターテインメント文学を読んでいてさえ、素直に読み進めないことが大半であって、「読者失格」と言える)。

先日も、[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年)を読み始めたのだが、どうも読みづらい。しかし、それは翻訳文には有りがちの「読みづらさ」(これは「読むに値する」かどうかには余り関係ない)と思えたのが半分、また [ランダウ・リフシッツ理論物理学教程] の他の巻 ([力学] と [場の古典論]) を、かって少しばかり読んだ際に出だしが取っ付きにくかった記憶があるので、[統計物理学] の場合も、それと同様なのだろうと思えたのが半分あったので、我慢して読み進めていった。だが、第1章第7節の、次の一文まで読んだ時に、強い違和感を感じて、頭の上に大きな疑問符が沸いて出てくるのが自分でもわかった。

そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.13-14

その疑問符は、続きを読んですぐ破裂しまった。前後矛盾しているのだ。

恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.15-18

つまり、「考えている系」が、前の文では「恒温槽」の外、後の文では「恒温槽」の内にあることになっている。

それまでの流れから判断すると、前の方が可訝しいと思えたが、それはあくまでも印象であって、「ある程度確実なことは、原文を見てからでないと何とも言えない」と云うのが、その時の私の感想だった。だが、生憎、ロシア語原書は手元になかったのだ。

しかし、その後、ロシア語サイト www.eknigu.org で [ランダウ・リフシッツ統計物理学] のロシア語原書の djvu コピーを見つけた。"Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е" というものだ (前記のサイトは、文書へのアクセスと云うかダウンロードと云うか、が、素直にできないようなのであるし、また著作権上の問題が無しとしないので、文書への直接リンクは張らない)。

でも ИЗДАНИЕ 3-е... って「第3版」だね (ちなみに、"ЧАСТЬ 1"/「第1部」とあるが、「第2部」は「理論物理学教程」に第9巻として収められている)。

困った...。第2版の訳文の翻訳品質を、原書第3版に基づいて喋喋するのは、疝気筋と云うものだろう。

だが、何も書けないと云う訣のものでもあるまいと思い返して書くことにした。以下の話はその程度のものだと思って、読み流されたい。

で、まぁ、怪しそうな「そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしていると考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)」の対応原文を第3版から探してみると:

Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).--p.41 ll.29-32
そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。

つまり、「相互作用をしている」とは書かれていない。

鍵となるのは действительности と云う単語である。これは、「現実」「実際」を意味する女性名詞 действительность の前置格形で、連語 "в действительности" として「実際には」「現実には」の意味となるが、この仮想の構成を叙述している文脈では、「実は...だった(と仮想する)」といった表現に訳すのが適当なところだ。

第2版の原文がどのようなものであったのか、調べが着いていないが、この文を含むパラグラフの第2版の訳文と第3版の原文を比べると、原文段階でも第2版と第3版との間には、全体として変化が無かったろうと思われる。恐らく、第3版の "в действительности" に相当する部分に、第2版原文では「相互作用」を意味する文言が使われていたか、或いは、第2版の翻訳者が、何らかの理由で "в действительности" に「相互作用をしている」と云う誤った訳語を当ててしまっただろう。

「相互作用」と云うと взаимодействие (中性名詞) ぐらいの言葉になりそうで、この単語から「相互の」を含意する接頭辞 взаимо- とった中性名詞 действие には勿論「作用」と云う意味がある訣だが、この単語は確かに действительности の前半に字面が重なっている。あるいは、ここら辺が、ロシア語原書段階か、和訳段階か、不明ではあるけれども、間違いの原因であったかもしれない。

ここで、自分の迂闊さを告白せねばならないが、上のようなことで、ジタバタと調べものをしたり、考え込んでいたりしている間、暫く、第3版の日本語訳が出版されている可能性に思い至らなかった。そして、それは実際に出版されていたのだ。勿論、「暫く」した後には気が付いたので、機会を見つけて、少少遠方の図書館に行き、問題の箇所を確認してみると:
そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年 ISBN-10: 4000057200 ISBN-13: 978-4000057202) 第1章第7節 p.33 ll.17-18

直っているね。一件落着。

上記の説明では、文脈の大きな流れが見えづらいかもしれないので、それをもう少し明らかにするために、問題の文を含むパラグラフの、岩波訳第2版訳文と第3版訳文とを並記しておく。

エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である. 完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである. そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布関数をつかって統計的重み \Delta\Gamma を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.10-26

エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である. 完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる. そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値 E_0 にちょうど一致しているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率 \Delta\Gamma を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率 \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年) 第1章第7節 p.33 l.14- p.34 l.5

ちなみにロシア語原文は以下の通り:

Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство. Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как E_0), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы. Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате). Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии E_0. Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес \Delta\Gamma, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем. Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы. Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов \Delta\Gamma_a этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
--Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е (НАУКА. МОСКВА 1976) p.41 l.24 (l.11 from the bottom) - p.42 l.13

以下、附録として、問題のパラグラフの読解を試みる。その構成は、原書第3版のセンテンス毎に、岩波第2版、岩波第3版、及び拙訳を並記し、その後に単語等を意味を列挙すると云う形式をとることにする。

Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство.
[岩波第2版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である.
[岩波第3版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である.
[ゑ訳]エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。

  1. для:前置詞。生格支配。目的を表わす「...のために」。
  2. ясного:形容詞 ясный の中性生格形。「明解な」
  3. понимания:中性名詞 пониманияе の単数生格形。「理解」
  4. способа:男性名詞 способ の単数生格形。「方法」「やり方」。このセンテンスの鍵となる言葉なので、それなりの訴求力のある言葉を使って訳したほうが良い。「仕組み」と訳しておく。
  5. определения:中性名詞 определение の単数生格形。「確定」「定義」
  6. энтропии:女性名詞 энтропия の単数生格形。「エントロピー」
  7. важно:無人称述語。важно + 不定詞で「...は重要である」を意味する。
  8. иметь в виду:「考慮に入れる」ぐらいの意味らしいが、ここでは вид (男性名詞) が「見ること」「視野」の意味であることを踏まえて「見て取る」と訳したい。
  9. следующее:形容詞 следующий の中性対格形。「次の」
  10. обстоятельство:中性名詞 обстоятельство の単数対格形。「事情」「事実」

Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как E_0), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы.
[岩波第2版]完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである.
[岩波第3版]完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを E_0 であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる.
[ゑ訳]完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号 E_0 で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。

  1. энтропию:女性名詞 энтропия 「エントロピー」の単数対格形。
  2. замкнутой:形容詞 замкнутоый の女性生格形。「閉鎖的な」「孤立的な」
  3. системы:女性名詞 система の単数生格形。「体系」「システム」の意だが、この文脈では、単に「系」の語が当てられる。
  4. полную:形容詞 полный の女性対格形。「余すところのない」「完全な」
  5. энергию :女性名詞 энергия の単数対格形。「エネルギー」
  6. которой :関係代名詞 который 女性生格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
  7. обозначим :完了体動詞 обозначить 「記号・マークで表示する」の勧誘形 (語末の те は省略されている)。不活動体名詞対格支配。
  8. как :私の手持ちの辞書では確認できなかっが、「これを А と云う記号で表わすことにしよう」と云う意味で "обозначим его как А" などと書き表すのは普通に行なわれるらしい。
  9. находящейся :不完了体動詞 находиться 「(事物が)ある」の能動形現在女性生格形。
  10. в:前置詞。対格支配なら「...の中へ」、前置格支配なら「...の中に」「...の中で」
  11. полном:形容詞 полный の中性前置格形。
  12. статистическом:形容詞 статистический の中性前置格形。「統計(学)の」
  13. равновесии:中性名詞 равновесие の単数前置格。「平衡」
  14. можно:無人称述語。можно + 動詞不定形で「...できる」を意味する。一般的な可能を意味する場合には、主語は示されず、文は無人称文になる。
  15. определить:完了体動詞不定形。「確定する」「決定する」。確かに「定義する」と云う語義もあるが、「エントロピー定義」の仕組みを解明しようとする、この文脈にあっては「定義する」と云う訳語は、逆にそぐわないように思われる。
  16. и:接続詞。付加・強調を表わす言葉を導く。
  17. непосредственно:副詞。「直接的に」
  18. не:否定小詞
  19. прибегая:不完了体動詞 прибегать の副動詞形。прибегать к + 与格は伴って「(ある手段に)訴える」を意味する。
  20. разделению:中性名詞 разделение の単数与格形。「分割」
  21. на:前置詞。対格支配で「等価交換」を表わす。例文:менять крупные деньги на мелочь 「大金をくずす」
  22. подсистемы:女性名詞 подсистема の複数対格形。辞書では「下部組織」「サブシステム」と云う訳語が与えられているが、今の文脈では「部分系」

Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).
[岩波第2版]そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
[岩波第3版]そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
[ゑ訳]そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は「恒温槽」と呼ばれる)。

  1. этого:近称指示代名詞 этот の中性生格形。"Для этого" で「そうするために」の意味になる。
  2. представим:完了体動詞 представить 「提出する」の勧誘形。"представить себе" で「想像する」を意味する。完了体動詞の勧誘形は、個別的動作を勧誘する。
  3. что:接続詞。従属文を導く。
  4. рассматриваемая:不完了体動詞 рассматривать 「検討する」の被動形女性主格形。ただし、訳文中では、後続の文と揃えるために「検討」ではなく「考察」を使っている。
  5. система:これは、単に「系」と訳すよりも、何を指しているのかを明確にするために「閉鎖系」と訳した方がよかろう。
  6. является:不完了体動詞 являться の三人称単数現在形。造格を伴って「...である」を意味する。
  7. в действительности:「実際には」「現実には」。действительность は「現実」「実際」を意味する女性名詞。「作用」「影響」を意味する中性名詞 лействие とは別語。ちなみに тельность は「物質性」を意味する女性名詞。
  8. лишь:限定小詞。「...だけ」「...のみ」
  9. малой:形容詞 малый の女性造格形。「小さい」
  10. частью:女性名詞 часть の単数造格形。「(全体の)一部分」
  11. некоторой:不定代名詞 некоторый の女性生格形。「ある」
  12. воображаемой:形容詞 воображаемый の女性生格形。「仮想的な」。системы (生格形) に掛かっている。
  13. очень:副詞。「非常に」
  14. большой:形容詞 большой の女性生格形。「大きい」
  15. которой:関係代名詞 который の女性前置格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
  16. этой:近称指示代名詞 этот の女性前置格形。
  17. связи:女性名詞 связь の前置格。「関係」
  18. говорят:不完了体動詞 говорить 「語る」 の三人称複数現在。不定人称文になっている。"о + 名詞生格形 говорят как о + 名詞生格形" と云う表現は「『1番目の名詞』は、『2番目の名詞』と呼ばれる」ぐらいの意味らしい。"о которой говорят как о + 名詞生格形" といった形でも良く使われるようだ。
  19. как:接続詞。「...と同様に」「...として」
  20. термостате:男性名詞 термостат の単数前置格。手持ちの辞書では「自動温度調節器」・「サーモスタット」と云う訳語しか与えられていないが、ここはやはり「恒温槽」と訳すしかあるまい。

Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии E_0.
[岩波第2版]恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値 E_0 にちょうど等しいようになっているものとする.
[岩波第3版]恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値 E_0 にちょうど一致しているものとする.
[ゑ訳]恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値 E_0 と丁度一致するようになっているものとする。

  1. предполагается:不完了体動詞 предполагать 「前提とする」「条件とする」の被動態 (受動態) 相当の動詞。三人称単数現在。訳としては「...(よう)になっているものとする」ぐらいだろう。
  2. находящимся:不完了体動詞 находиться の能動形現在男性造格形。「(人・事物がある状態に)ある」
  3. полном:形容詞 полный の中性前置格形。「完全な」「最大限に達した」
  4. равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
  5. причем:(причём) 接続詞。「その上」「しかも」
  6. таком: 指示代名詞 такой の中性前置格形。в 以下を受けている。"причем таком" で чтобы 以下を導く。
  7. чтобы:接続詞。未だ存在しない事態の実現への希望・必要・要求を表わす補語的従属文を導く (従属文中の動詞は過去形になる)。「...するような」「...するように」
  8. средняя:形容詞 средний の女性主格形。「平均的な」
  9. нашей:所有代名詞 наш の女性生格形。「(筆者・話者から読者・聞き手に向かって)いま私たちの問題[話題]になっている」「この」。訳文中では「我々が...考察している」としてある。
  10. являющейся:不完了体動詞 являться 「...である」(造格支配) の能動形現在女性生格形。日本語の流れとしては、「...と見なして」と訳した方が、文章がなだらかになるだろう。
  11. теперь:副詞 「今」
  12. незамкнутой:形容詞 незамкнутый 「開放した」女性造格形。
  13. подсистемой:女性名詞 подсистема の単数造格形。
  14. термостата:男性名詞 термостат の単数生格形。
  15. как раз:「丁度」
  16. совпадала:不完了体動詞 совпадать の過去女性形。с + 造格を伴って「一致する」の意味。
  17. истинным:形容詞 истинный の女性造格形。辞書では「真の」ぐらいの訳語が与えられている。しかし問題となっている部分系が、恒温槽中の他の部分系との相互作用によりエネルギーが揺らぐと云うのは仮想上の話なので、その「平均エネルギー」も作業概念である。したがって、それが問題となっている部分系の "истинным значением энергии" と一致すると云うことを日本語として言いたい時には「エネルギーの真の値」と云うより、問題となっている部分系 (本来は閉鎖系である) の「本来のエネルギー値」ぐらいに訳しておいたほうがよいだろう。
  18. значением:中性名詞 значение の単数造格形。「値」
  19. энергии:女性名詞 энергия の単数生格形。

Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес \Delta\Gamma, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем.
[岩波第2版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, その分布関数をつかって統計的重み \Delta\Gamma を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる.
[岩波第3版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率 \Delta\Gamma を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる.
[ゑ訳]このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み \Delta\Gamma を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。

  1. тогда:副詞。「その場合は」「このようにすると」
  2. формально:副詞。「正式に」「公式に」「形式的に」。仮想上の議論をしているのだから「形式的に」と云う含意。
  3. приписать:完了体動詞の不定形。+ 対格 + 与格で「(...を...に)帰する」を意味する。
  4. функцию:女性名詞 функция の単数対格。「関数」
  5. распределения:中性名詞 распределение の単数生格形。「分配」
  6. того:定代名詞 тот の中性生格形。"тот же, что и" で「同一の」の意味になる。ただし "тот же" だけでも「同一の」を意味する。
  7. вида:男性名詞 вид の単数生格形。「外観」「状態」
  8. всякой:定代名詞 всякий の女性生格形。「各々」
  9. определить:完了体動詞不定形。「決定する」。
  10. ее:(её) 人称代名詞 она の生格。
  11. с помощью:前置詞相当の語句。生格を伴って「...を用いて」の意。
  12. статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
  13. вес:男性名詞対格形。「重み」
  14. а:接続詞。「付加」「対比」「対照」「対立」を表わすが、ここでは「付加」だろう。
  15. ним:人称代名詞 он, она の造格。они の与格。
  16. нэпосредственно:副詞「直接的に」
  17. формулам:女性名詞 формула の複数与格形。「式」「公式」
  18. которыми:関係代名詞 который の複数造格形。定語的従属文を導く。
  19. пользовались:不完了体動詞 пользоватсь の過去複数形。+ 造格で「(自分の必要のために)利用する」の意味となる。

Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы.
[岩波第2版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[岩波第3版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[ゑ訳]我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。

  1. ясно:副詞。「明確に」
  2. наличие:中性名詞主格形。「存在」
  3. вообще:副詞。「一般に」。ただし、連語 вообще не は「全然...でない」の意。
  4. сказывается:不完了体動詞 сказываться の三人称単数現在。на + 前置格を伴って「影響を及ぼす」の意。
  5. статистических:形容詞 статистический の複数前置格形。
  6. свойствах:中性名詞 свойство の複数前置格形。「特性」
  7. отдельных:形容詞 отдельный の複数生格形。「個々の」
  8. малых:形容詞 малый の複数生格形。「小さい」
  9. частей:女性名詞 часть の複数生格形。「一部分」
  10. которые:関係代名詞 который の複数主格形。
  11. без:生格支配の前置詞。"и без того" は、辞書では「それでなくてさえ」の訳が当てられているが、ここでは「恒温槽の存在が無かったとしても」と云うことだろう。
  12. замкнуты:形容詞 замкнутоый の短語尾複数形。「閉鎖的な」「孤立的な」
  13. находятся:不完了体動詞 находиться の三人称複数現在形。「(人・事物がある状態に)ある」
  14. равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
  15. остальными:形容詞 остальной の複数造格形。「残りの」
  16. частями:女性名詞 часть の複数造格形。

Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов \Delta\Gamma_a этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
[岩波第2版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
[岩波第3版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率 \Delta\Gamma_a を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
[ゑ訳]それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み \Delta\Gamma_a が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。

  1. поэтому:副詞。「それ故」
  2. наличие:中性名詞主格形。「存在」
  3. не:否定小詞
  4. изменит:不完了体動詞 изменять 三人称単数現在形。生格を支配して「変える」の意。
  5. статистических:形容詞 статистический の複数生格形。
  6. весов:男性名詞 вес の複数生格形。「重量」「重み」
  7. этих:近称指示代名詞 этот の複数生格形。
  8. частей:女性名詞 часть「一部分」の複数生格形。
  9. определенный:完了体動詞 определить「定義する」の被動形過去男性主格形。
  10. только что:「たったいま」ぐらいの意味。つまり、部分系に分割しないで「統計的重み」を直接的に定義する仕方を指している。この文意からして、日本語表現としては「上記の/上記に」ぐらいに訳した方が良い。
  11. указанным:形容詞 указанный の男性造格形。「指定された」
  12. способом:男性名詞 способ の単数造格形。「方法」
  13. статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
  14. будет:不完了体動詞 быть の三人称単数未来形。[быть の未来形 + 不完了体動詞不定形]は、その不完了体動詞の未来形を作る。
  15. совпадать:不完了体動詞不定形。с + 造格で、「...と同時に起こる」「...と合致する」の意味となる。
  16. прежним:形容詞 прежний の造格形。「以前の」
  17. определением:中性名詞 определениие の単数造格形。「定義」
  18. виде:男性名詞 вид の単数前置格。「外観」「状態」
  19. произведения:中性名詞 произведение の単数生格形。「産物」「積」

ここで、私の訳を一つにまとめておこう:

エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号 E_0 で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値 E_0 と丁度一致するようになっているものとする。このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み \Delta\Gamma を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み \Delta\Gamma_a が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。

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2009年5月15日 (金)

「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」の英訳

本日未明 (2009/05/15 03:43:19)、キーフレーズ [をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを english] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。リモートホスト名から推測するにアメリカ合衆国東部の大学からのアクセスらしい。恐らくは「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」の英訳をお探しなのだと思われる。

後追いで検索してみた所、 (別のオプションや設定では別の結果が出ているかもしれないが) このサイト以外はヒットしなかったのは意外だった。そして残念なことに、このサイトには「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」に関連する情報はなかったのだ。

勿論、これは新古今和歌集第一巻に収めされた後鳥羽上皇御製の

見わたせば山もとかすむ水無瀬川夕べは秋となにおもひけむ
--[新古今和歌集1]36

の詞書だから、新古今和歌集の英訳本 (あることはあるらしい。"The shin kokinshu; the 13th-century anthology edited by Imperial edict. by Heihachiro Honda - Alibris" を参照)には、それが訳出されている可能性が高いが、生憎私は未見で確認することができない。

ただ、次のような感じになるのではないかと思う:

When some vassals were composing Japanese verses in reply to a Chinese poem, the ex-Emperor versed a spring landscape of a province with a river running through:

ついでに、所謂「新古今三夕 (さんせき)」も引用しておこう。

題しらず
さびしさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮
--[新古今和歌集4]361 寂蓮法師

心なき身にもあはれは知られけりしぎたつ澤の秋の夕暮
--[新古今和歌集4]362 西行法師

西行法師すすめて百首歌よませ侍りけるに
見わせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ
--[新古今和歌集4]363 藤原定家

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2009年5月10日 (日)

メモ:ファインマンとワインバーグのディラック記念講演 "Elementary Particles and the Laws of Physics: The 1986 Dirac Memorial Lectures"

ケンブリッジ大学出版局 (Cambridge University Press) から "Elementary Particles and the Laws of Physics: The 1986 Dirac Memorial Lectures" (Richard Phillips Feynman and Steven Weinberg, Cambridge University Press, 1987, ISBN-10: 0521340004, ISBN-13: 978-0521340007) と云う本が出版されている。

1984年10月Paul Adrien Maurice Dirac が亡くなると、かって彼がルーカス教授職 (Lucasian Professor of Mathematics) として教鞭を執っていたケンブリッジ大学 (University of Cambridge) は、彼の業績を讃えて、毎年記念講演を開催することにした。その第1回の講演者として招待されたのがリチャード・P・ファインマンスティーヴン・ワインバーグである。この本は、その講演に基づいている。

私が、購入したのは随分前 (1995年5月20日) に日本橋丸善でだったが、ハードカヴァ四六判(ぐらい)110ページほどのもので、「瀟洒な一冊」とでも言いたくなる。ジャケットも、臙脂色と言うべきか蘇芳色と呼ぶべきか、或いは単にワインレッドで良いのか知らないが、華やかながら落ちついていて結構おシャレだ。

勿論、私は「ジャケ買い」をした訣でない。第一、ジャケットフロントにはディラックのポートレートが印刷されていて、これが「ある意味恐い」。 恐ろしく聡明そうな、それでいて我々とは全く別の世界が見えているような目をしているのだ。彼は「詩を書く」と云うことが理解できなかったらしいが、なにか詩人のような印象を受ける。それどころか「幻視者」と云う言葉がツイ出てしまう (うん? 実は「ジャケ買い」してたかな?)。

ついでに書いておくと、ジャケットの折り返しにはファインマンとワインバーグのポートレートも掲げられているが、ファインマンは映画俳優のような、そしてワインバーグは実業家のような顔をしている(ワインバーグのことはさておき、ファインマンが「芸達者」だったことは良く知られている)。

買ってはみたものの、そのうち読もうとだけ思って、部屋のそこらへんに転がしておいてそれっきりだったのだが、最近、このブログでは物理学 (と言うか、量子力学) の話題が幾つか続き、それに関係する勉強もしたので、ついでに卒読してみた。

で、この記事を書き始めたのだが、第一稿作成がかなり進んだ段階で (正確には、"Dirac's scissors demonstration" 用の図を、自らの絵心の無さにウンザリしながら、inkscape で「描いたものの、出来が悪いので直そうとして手を入れたら、返ってひどくなり、諦めて最初から作りなおす」を繰り返していた途中に) "Elementary Particles and the Laws of Physics" に日本語訳 (「素粒子と物理法則―窮極の物理法則を求めて (ちくま学芸文庫)」) が存在することに気付いた。迂闊な話で、申しわけないが、後ればせながら「ちくま学芸文庫版」を購入してきた (と言うか、それしか知らないのだが、培風館から出ていたものの文庫化だそうな)。

とは言え、読んだばかりの英語版に不満は無かったので、日本語版の方は読む気が起こらなかった。購入直後に、図面を少し眺めただけで、原稿作成の泥沼に再び飛び込んでしまったのである。ただ、この記事の内容が既に周知化している可能性があるので (「独創的なこと」にこだわる趣味はないから、周知化していても、それだけなら一向に構わないのだが、周知化していると云う事実に無知なのは、さすがに恥づかしい)、第一稿完成後、その点をチェックするため、この記事で扱っている箇所と対応する部分だけザッと読んでみた。結局、訳本に就いてしたのは、それだけである。従って、この記事では、ちくま学芸文庫版の翻訳品質を論ずるつもりはない。ただし、行き掛かり上、以下に論じた箇所の、ちくま学芸文庫版での対応箇所のページ・行番号だけは、追加記入していくつもりである。
--第一稿完成後、推敲前の付加記入。

まず全体の印象を述べておくなら、ファインマンの講演 "The Reason for Antiparticles" (「反粒子の存在理由」と謂ったところか) の方が、ワインバーグの講演 "Towards the final laws of physics" (「物理学の最終法則へ向かって」) よりも断然面白かった。(ちくま学芸文庫版では、それぞれ「反粒子はなぜ存在するのだろうか」と「究極の物理法則を求めて」になっている。)

これは、題材にもよっている。ファインマンが、特殊相対論と量子力学の結合が、必然的に反粒子の存在を要請すると云う、陽電子の存在を予言したディラックの記念講演としては、これ以上ないほど適切な素材を扱い、そして、一応出来上がった理論の総括として、ミンコフスキー空間を舞台にして見晴らしの良い議論ができたのに対し、ワインバーグは、一般相対論と量子力学の最終的統合をめざす一つの試みとして誕生した直後であった超弦理論 (superstring theory) の紹介を行なっているからだ (ワインバーグは講演の中で "string theory" と呼んでいる。当時、「弦理論」の欠陥を克服するものとして超双対性を取り入れた「超弦理論」が提唱され始めた頃だった筈だが、現在では「超弦理論」と呼ばずに、ステップバックして「弦理論」とだけにすることも多いようだ。「膜 (Membrane)」の登場で、「超双対性」は当たり前になったと云うことか。以下、この記事では、基本的には「弦理論」と呼ぶことにする)。 その極めて高度な数学的道具立てもあって、ワインバーグは、「弦理論」の内容の紹介というより、その存在の紹介をすることから余り進んでいない。

実際、当時は、脚註の中で指摘されているように "There are about a half-dozen string theories,..." 「半ダースほどの弦理論が存在する」(p.104 ちくま学芸文庫版 p.116) 状況だった。その解決策として エドワード・ウィッテン が、5つの「超弦理論」を纏める「M理論」(M-theory) を提唱したのは1995年のことである。

そして、多分に謙遜もあるだろうが、ワインバーグは、このように述べている。

The inventors of this theory, and those like myself who are not one of the inventors of the theory but are desperately trying to catch up with it, are now working to try and learn how to solve these theories so that we can find out what these theories say at ordinary energies and see whether they agree with the standard model.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.105 ll.14-20
参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.117の4-9行
この理論の発明者達や、私自身を含めて、発明者でなくても死に物狂いでこの理論の発展に追い付こうとしている者たちは、現在、こうした理論が通常のエネルギー領域において如何なる結果を与えるかを見出だし、それが標準モデル理論と合致するかどうかを検証しようとして、理論の解明に努力しているところです。

しかし、"The Reason for Antiparticles" の方が面白いのは、単に題材の差だけが理由ではない。やはりファインマンは、講演においても素晴らしく「芸達者」なのだ。彼は、どうしたら、聴衆の興味を引きつけるような核心を速やかに提示し、その興味を持続させ、そして発見の喜びを与えることできるかを知っていた。

多人数を相手に授業する講壇型の教育者は、「芸人」としての資質を持たねばならないのだが、ファインマンは、確かにスタンダップ・コメディアンの資質を持っていたようだ。私は、この講演録を読んでいて、「ここでシッカリ笑いを取っただろうな」と思った箇所が二・三 (或いはもっと?) あった。

しかも伝えるべきことはしっかりと伝えている。何を伝えねばならないかを明確に意識しているからだ。それは、"The Reason for Antiparticles" の中で、その内容をファインマン自身が的確に要約しているからもうかがえる。

Summary
We've gone a long distance in great detail, but the basic ideas are the things to remember. Here's how it went. If we insist that paticles can only have positive energies, then you cannot avoid propagation outside the light cone. If we look at such propagation from a different frame, the paticle is traveling backwards in time: it is an antipaticle. One man's virtual paticle is another man's virtual antipaticle. Then, looking at the idea that the total probability of something happening must be one, we saw that the extra diagrams arising because of the existence of antiparticles and pair production implied Bose statistics for spinless paticles. When we tried the same idea on fermions, we saw that exchanging particles gave us a minus sign: they obey Fermi statistics. The general rule was that a double time reversal is the same as 360°rotation. This gave us the connection between spin and staticstics and the Pauli exclusion principle for spin \frac{1}{2}. That contains everthing, and the rest was just elaboration.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.54 l.3 from the bottom - p.55 l.8
参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.68下から7行目 - p.70の6行目
要約
多くのことを非常に詳しく検討してきましたが、基本的なアイディアは覚えておいて頂きたい。それは、このようなものでした。粒子が正のエネルギーだけを持ちうるとするなら、我々は、光錐の外側に粒子が伝搬することを認めざるをえません。こうした伝搬では、粒子が、時間軸を逆方向に進むように見えるような別の座標系が存在します。これが反粒子です。ある観測者にとって粒子に見えても、別の観測者にとっては反粒子に見えることがあるのです。ここで、何かが起こると云うことの全確率は1にならねばならないと云う考え方を受け入れる限り、反粒子および対創成の存在のため余分に増える図形が存在すると云うことは、スピン・ゼロの粒子がボーズ統計に従うことを意味します。同じ考え方をフェルミ粒子に適用してみると、粒子の交換が、符号逆転を導き出すことが分ります。つまり、フェルミ粒子は、フェルミ統計に従う訣です。時間軸の逆転を2度することは、360度の回転と同じことだと云うのは一般的規則ですが、これにより、スピンと統計とが結び付き、またスピン \frac{1}{2} に対するパウリの排他原理が得られます。以上のことだけが、この講演の核心であり、それ以外のことは「細かいところの仕上げ」に過ぎなかったのです。

付言するなら、ここでファインマンは、自分が、話題を、スピン・ゼロとスピン \frac{1}{2} の場合に限っていることを明示的に認めている。ここらへんに、私などはファインマンの科学者としてのセンスの良さ、あるいは bon sens を感じてしまう。

これに対しワインバーグも "Towards the final laws of physics" の中で、「ジョーク」を試みてはいるのだが、これが「本人はジョークのつもり」程度のものでしかない。「前置き」も長すぎるし。。。まぁ、そうでもしないと、「尺が稼げない」ところがあったのかも知れないが、「面白くて為になる」講演ができない言い訣みたいになってしまっている。

しかし、ワインバーグも可哀想で、講演の準備中に主催者側から「量子力学の初歩を勉強中の学部学生に分かるレベルで」と云う注文を承けていたらしいのだ (p.67 ll.4-6 ちくま学芸文庫版 p.80の9-11行)。当時 (あるいは現在もかも知れないが)、形成途上にある理論を「解かりやすく」説明させようなどと云うのは無茶な話だ。だから、そんなことは無視してしまって、最初から「何だか分からないけど、或いは、何だか分からないから、面白いこと」を話せば良かったのだが、ワインバーグは結構それに囚われたのかもしれない。読んでいて、私は、多分、ワインバーグは「マジメ」人間なのだろうと思ったのだった。

余談だが、ファインマンは、大学の学部新入生に説明できないような話題は、十分に解明できたとはいえないと考えていたらしい。そういった意味では、「解明途上」の弦理論など、ワインバーグであろうとなかろうと (例えばファインマンでも。もっとも彼は「弦理論」に反発していたらしいが)、その audience に「理解」させようとしても無理なので、ワインバーグは「理解」にこだわる必要はなかったのだが、やはり性格なのかもしれない。ちなみに、ディラック御大の方は、講義をしても、学生が理解できたかどうかについて興味が無かったらしいから、人さまざまだ。

以下、"Elementary Particles and the Laws of Physics" を読んでいる途中に気付いたコマゴマとしたことを纏めておく。

取り敢えずは正誤表を作っておこう。

"Elementary Particles and the Laws of Physics" 正誤表
Richard P. Feynman "The Reason for Antiparticles"
p.7, Fig.1(b)
Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.7 Fig.1(b) Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.7 Fig.1(b) corrected

備考: p.5 ll.3-4 (ちくま学芸文庫版 p.16下から7-6行) に "Now suppose that there are two disturbances, one at time t_1 and another at a later time t_2,..."「ここで、2つの擾乱が、一方はある時刻 t_1 に、他方は、それよりも遅い時刻 t_2 に起こったとしよう・・・」とあるから (\mathbf{x}_1, t_1) = x_1(\mathbf{x}_2, t_2) = x_2 とを交換する必要がある。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.18 図1

p.18, l.1

\begin{eqnarray*}
1 = |5a + 5b + \cdots|^2 + \\
\qquad |5c + \cdots|^2 + \cdots
\end{eqnarray*}
1 = |5a + 5b + \cdots|^2 + |5c|^2 + \cdots

備考: 引用した式は、原文では1行に書かれている。省略のリーダー (・・・) が1組多すぎるのは一目で分かる。そこで、式と第5図 (p.17 ちくま学芸文庫版 p.28) を対照してみると、真空-真空過程である第5a図と第5b図は確率振幅を足し合わせてから絶対値の平方を取らねばならないから、元のままでよいが、第5c図に対応する対創成は運動量の違いに応じて全て区別のつく過程だから、確率振幅の絶対値平方を足し合わせねばない。つまり、2番目のリーダーは不要である。

これを踏まえるなら、式は更に

1 = |5a + \sum\limits_{p, q}5b|^2 + \sum\limits_{p, q}|5c|^2

と書き直した方が良いと思われる。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.29 下から3行目

p.19 Fig.7(d)
Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.19 Fig.7(d) Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.19 Fig.7(d) corrected

備考: 他の図形に揃えて、頂点を表わす白抜きの丸を付けるべき。 そのついでに、created with Inkscape \sum\limits_{p, q} ? の位置を動かした方が良いだろう (created with Inkscape \sum\limits_{p, q} ? の位置に就いては、Fig.7(f) に対しても、同じことが言える)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.30 図7(d)

p.34 l.2
(17) (16)

備考: 引用した式番号が間違っている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.47 下から6行目

p.34 l.2 from the bottom
(7) (9)

備考: 引用した式番号が間違っている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.48の7行目 (訂正済み)

p.39 Fig.11
Fig.11(a)
(E_a, \mathbf{Q}_a), a (E_a, \mathbf{Q}_a), \mathbf{a}
Fig.11(b)
(E_a, \mathbf{Q}_a), -a^\ast (E_a, \mathbf{Q}_a), -\mathbf{a}^\ast

備考: 光子の偏光 (polarization) は、本文に従ってボールド体で表記すべき。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.52 図11 (訂正済み)

p.52 l.5 from the bottom
But notice that if the charge q were not quantized, at a multiple of \hbar/2\mu, But notice that if the charge q were not quantized at a multiple of \hbar/2\mu,

備考: 単純なパンクチュエーションミス ("quantized" と "at" との間のカンマが余計)。ちなみに、この講演では、冒頭 (第4ページ下から7行め) で \hbar = 1 として計算を初めてから、それを踏襲してきていたが、この式が含まれる "MAGNETIC MONOPOLES, SPIN AND FERMI STATISTICS" のセクションでは、記号 \hbar が復活している。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.66 下から9-8行 (原文の余分なカンマは無視されている)

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.64 l.9
whey when

備考: 単純なタイプミス。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.77 下から7行目 ("when" として訳してある)

p.87 l.2
[\mbox{mass}]^{-\beta_1} [\mbox{mass}]^{\beta_1}

備考: 式 (4) が成立するためには、\beta_1 の前のマイナス符号は取らねばならない。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.98 下から3行目

p.87 l.3
[\mbox{mass}]^{-\beta_2} [\mbox{mass}]^{\beta_2}

備考: 式 (4) が成立するためには、\beta_2 の前のマイナス符号は取らねばならない。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.98 下から3行目

その他に気付いたことを書いておく。

"Elementary Particles and the Laws of Physics" メモ
Richard P. Feynman "The Reason for Antiparticles"
p.1 l.2 from the bottom

第1ページの末尾3行には

Dirac with his relativistic equation for the electron was the first to, as he put it, wed quantum mechanics and relativity together.

と云う箇所がある。この "as he put it" は、「彼 (Dirac) の言い方に従えば」ぐらいの意味と捉えるのが一番自然なのだが、実際、Dirac がこうした言い方をしたかどうかは、確認できなかった。それはそれとして、この挿入文は、"wed" (結びつける) の使い方が独特だとファインマンが感じたことを表わしているが、私には、それほど変わった言い回しとは思えない。或いは、ディラックとしては珍しいと云うことなのかもしれない。

そう言えば、ディラックと云う人は、どうやら "girl shy" だったらしい。ガモフに、ご婦人の顔を今までで一番間近で見たのはどのくらいの距離であったか、尋ねられた際に、両手を2フィートほど拡げて、「このくらいの近さだったね」と答えたり、ディラックが結婚した後、その事実を知らなかった友人が、たまたまディラックの家に立ち寄った際、自分の妻を「こちらは、えーっと、ウィグナー (ユージン・ウィグナー/Eugene Wigner)の妹さんです」と紹介した (正確には "This is Wigner's sister, who is now my wife" と言ったらしい) と云う逸話があるのだ。

これに対しては、ファインマンは、「麗しい女性が音楽にのせて踊りながら着衣を一枚ずつ脱いでいく芸能 (だと思う。実態は良く知らない)」の大ファンで、そうした「小屋」に入り浸っていたと云う。そうしたファインマンからすれば、「結びつける」と云う意味で "wed" を使うのは、ディラックらしくないと、思えた可能性はある。

しかし、こうしたことは全て憶測に過ぎない。

或いは、この "wed quantum mechanics and relativity together" は、ディラックとファインマンとの会話の中で出てきたのかもしれない。実際、"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.2 (ちくま学芸文庫版 p.12) には、正に二人が何やら話し合っているらしい姿のスナップショット写真が掲載されている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.14の3-4行

p.16, l.9

第16ページ第9行-第10行 に

We get the correct answer, but for the wrong reason.

とあるが、私なら "get" は --got-- とする。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.27の6-7行

p22., l.11-8 from the bottom

第22ページ下から11行目-8行目に

The fact that the amplitude is to be added when two identical particles going A, B to A^\prime, B^\prime arrive A to B^\prime and B to A^\prime instead of A to A^\prime and B to B^\prime, seems very natural,...
A及び BからA^\prime及びB^\primeへと進む2つの同等な粒子が、AからA^\primeへと行き、BからB^\primeへと行く代わりに、AからB^\primeへと行き、BからA^\primeへと行く場合の振幅も加え合わされるべきであると云うことは、極めて自然に見えます。

とある (この "when" には「譲歩」つまり、「...であっても」と云うニュアンスがある)。

これは文法的・語法的に言って首を傾げたくなる文章だが、言いたいことは良くわかる。それに、「正しい」文章にしようとすると、廻りくどくなって返って分かりづらくなる可能性が無しとしない。ただ、この "arrive" の使い方は如何なもんだろうとは、やはり思うのだ。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 ll.8-12

p.22, l.4 from the bottom - p.23 l.2

第22ページ下から4行目から第23ページ2行目の文章

Again, if particles arise from the quantization of a classical field (such as the electromagnetic field, or the vibration field of a crystal) the correspondence principle requires Bose particles if intensity correlations are to be correct, such as in the Hanbury Brown Twiss Effect.

とある。

冒頭の "Again" は「(上述の議論を) 再度適用すると」の含意。訳すとしたら「同様にして」。また、第2語の "if" (1番目の "if") には、譲歩のニュアンスがある。日本語にすると「...の場合でも」ぐらいになる。

"the correspondence principle" の "the" は、指示的な意味合いが強いので、訳すとしたら「この」ぐらいになるだろう。ただ "correspondence" が意外と訳しづらい。"correspondence" と云うと、通常「対応」と訳される。実際、量子力学で "correspondence principle" と言うと、ボーアの対応原理 "Bohr's correspondence principle" を指すのが普通だろう。

しかし、この場合はそうではない。(先回りして言ってしまうならボース統計に従う)同一種粒子の体系に起こる過程の確率振幅計算にあっては、粒子を入れ換えた各事象の確率振幅を加算しなければならないと云う「原理」を指している。これが、量子化される以前の古典的な場が変わっても、量子化後の粒子がボソンであるなら、やはり「対応する」(と言うか、「同じ」と言ってしまっても良いような気がするがするが)「原理」が成立すると言うことなのだ。従って、"correspondence" は敢えて訳す必要はないと思う

更に、2番目の "if" 以下は、"be + 不定詞句" と相俟って、目的を表わす副詞節になっている。従って、全体は次のような意味なる (「ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果 (Hanbury Brown Twiss Effect)」に就いては次項参照):

同様にして、(電磁場とか、結晶の振動場とかの) 古典的場の量子化に由来する粒子の場合でも、ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果に見られるような強度相関を正しく成立させようとするなら、この原理によって、そうした粒子はボース粒子でなければならないのです。

ここで「電磁場」が、例として挙げられているのはヤヤ不審。また、この議論では、暗黙のうちに、話題が正の強度相関に限定されている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 下から9-4行

p.23, l.2

第23ページ2行目には such as in the Hanbury Brown Twiss Effect (ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果) とあるが、このHanbury Brown Twiss Effect (HBT) に就いては、英文版ウィキペディアの該当項目、及び "Hanbury-Brown and Twiss-type experiments in electronic devices" (Stefan Oberholzer, Institut für Physik, Universität Basel, 6. December2005) を参照。

光子の場合で言い表すと、熱的光源から発せられる光の強度を1対の検出器で測定した場合に得られる、1対の強度測定値の揺らぎの間には、(光子はボソンであるため) 正の相関があると云う現象のことである (R. Hanbury Brown and R. Q. Twiss, "Correlation between photons in two coherent beams of light", Nature 177/1956, pp.27-29)。

この効果は、Robert Hanbury BrownRichard Q. Twiss とが、恒星 (具体的にはシリウス主星) の角直径を測定するために開発した「強度干渉計」の原理として採用された (A test of a new type of stellar interferometer on Sirius)。

ただし、このへんのことには若干の経緯がある。もともと、「強度干渉計」は電波星 (はくちょう座A及びカシオペヤ座A) の角直径を測定するために開発されたもので、その動作原理は古典的電磁気学 (マクスウェル方程式) に基づいていた。Hanbury Brown と Twiss とは、同種の装置を光の場合に建造して、それでシリウス主星の角直径 0.0063秒が測定されたと発表した。

ちなみに、最近の測定値は、約 0.0059秒乃至約 0.0060秒。これについては、英文版ウィキペディア "Sirius" の項、及び、そこで引用されている Kervella et al. "The interferometric diameter and internal structure of Sirius A" Astronomy and Astrophysics 407: 681–688 を参照。日本語版/英語版ウィキペディアの「角直径/angular diameter に記載されているシリウス主星の角直径「約 0.007秒」は疑問

つまり、恒星由来の光の場合にも強度のゆらぎ間に正の相関が存在すると主張した訣である。

発光源が、シリウス主星であろうと、水銀灯であろうと、光が、量子 (光子) になっていることに変わりはないが、光の量子としての側面があからさまになる局面が存在する。その象徴的な例が、恒星が我々の肉眼で視認できると云うこと自体が示すように、発光源が恒星である場合である。当然、HBT は量子力学で解釈されねばならない。しかし、恒星に由来する光子群を1対の検出器で測定してえられる (当然、波動関数の位相情報が失われた) 強度の揺らぎの間に相関があると云うことは、一見量子力学の基本に反するように見えたので、発表当初、HBT は物理的な実在性が疑われたのだった。結局、実は HBT は光がボソンであることの本質的な結果 (電子等のフェルミオンの場合にも同様なことが起こるが、相関 は負 --逆相関 /反相関-- になる) であることが解明された ("The Question of Correlation between Photons in Coherent Light Rays" E. M. PURCELL. Nature 178, 1449 - 1450 [1956])。このことが礎の一つなって、研究が進み、その後大きな発展を遂げて「量子光学」(quantum optics) が成立したのである。

    次の記事も参照:
  1. Obituary: Robert Hanbury Brown (1916-2002) : Article : Nature
  2. "THE PHYSICS OF HANBURY BROWN–TWISS INTENSITY INTERFEROMETRY: FROM STARS TO NUCLEAR COLLISIONS" Gordon Baym. "ACTA PHYSICA POLONICA B" Vol. 29 No 7 (1998)
  3. "HBT Interferometry: Historical Perspective" Sandra S. Padula

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 下から7行目

p.29, l.3-5

第29ページ第3行-第5行に

Dirac had a very nice demonstration of this fact-that rotation one time around can be distinguished from doing nothing at all.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.29 ll.3-5
ディラックは、1回転することと全く何もしないこととは区別できるのだと云うこの事実を実証する大変巧い方法を知っていました。

とあって、それに脚註して

For this demonstration due to Dirac, his famous scissors demonstration, see R. Penrose and W. Rindler (1984). Spinors and Space-time, Vol.1 p,43. Cambridge University Press.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.29 footnote

と書かれていて、最初に読んだ時、一瞬文意が取れず戸惑ったが、"this demonstration due to Dirac" と "his famous scissors demonstration" とが同格であることに気付けば、「ギリギリセーフ」の文章ではではあるのだ (「ディラックによる、この有名な「鋏の実演」に就いては、R・ペンローズ及びW・リンドラー共著 1984年発行『スピノルと時空』第1巻第43ページ参照」ぐらいか)。

それはさておき、この Dirac の "scissors demonstration" の内容は、概ね次のようなものであるらしい (ディラック自身のオリジナルがどのようなものか調べが付かなかった。以下は、上記 Penrose 及び Rindler の著作を参考にして、私なりの表現をしたものである)。

鋏と紐と長い2本の棒を用意し、紐を、鋏の持ち手の2つの穴と、2本の棒とに次の図のように絡ませてから (棒が「長い」とは、要するに、棒から紐を外す操作を禁じる限定。数学的には「無限長」とすべきか)、鋏を刃部分を中心軸にして720度 (4\pi) 回転させる (下図参照)。この後、鋏を、その中心軸に対して逆回転させないでも、紐を「ネジネジ」を解くことができるのだが、どうしたらよいかと云うのが、ディラック "scissors problem/scissors demonstration" と云うことのようだ (ただし、最初の回転が360度では、元に戻すことは不可能と云うのも重要な点)。

Derac's scossors Problem

私は、パズルが苦手で (と言うか、そもそも得意なものは何もないのだが)、こう云う時はサッサと回答を探すことにしている。有り難いことに、"Spinors and Space-time" Vol.1 には、次のように書いてあった (以下の引用で「chair/椅子」とあるのは、問題がもともとの形が、紐を椅子の背もたれの支柱に巻きつけるものとして表現されていたためである)。

The fact that this problem can be solved for 4\pi but not for 2\pi is a consequence of the above properties of SO(3). The solution is made trivially easy if the four strands of string (whose main purpose is to confuse the issue) are regarded as glued (in an arbitrary manner) to an open belt issuing from the chair: a twist of 4\pi of the belt is undone by looping the belt once over its free end. This solution also yields another way of continuously deforming a 4\pi rotation into no rotation. If we regard the scissors as free to slide along the belt, then each position of the belt during the untwisting manoeuvre gives a closed path in the configuration space of the scissors. The first takes it through a rotation of 4\pi, the last through no rotation at all.
--R. Penrose and W. Rindler "Spinors and Space-time" Cambridge University Press (1984) Vol.1. p.43 l.3 from the bottom - p.44 l.8 (Google ブック検索 による)
この問題が、4\pi の場合には解けるが、2\pi の場合には解けないという事実は、SO(3) の上記の性質の結果である。この問題の答えは、4本になっている紐 (その主たる目的は、問題の核心を隠しくらますことにある) を、(適宜の仕方で良いから) 固め合わせて椅子からぶら下がっているベルトとして扱うならば、おのづから明らかになる: ベルトが 4\pi 捻ってあるなら、そのベルトを、椅子に繋がっていない方の端を1回廻り込む輪を描くように動かせば良いのである。この答えは、4\pi の回転を無回転へと連続的に変形する方法の別解にもなっている。実際、鋏がベルトに繋がっていない状態で紐に沿って移動すると見なすなら、ほどけていく過程中におけるベルトの「姿勢」の夫々は、鋏の配位空間内で閉径路を形成するが、その最初の「姿勢」は、4\pi の回転に対応し、最後の「姿勢」は無回転に対応するのである。

つまり、次の図に示すようにして、ネジネジの廻りを、ネジネジの方向とは逆に一周するよう鋏を動かせ、と、言っているのだろう。ただし、その際気をつけねばならないことは:

  1. 周回中、鋏自身は、その中心軸に対しては回転しないようにすること。
  2. 鋏の全体が、ネジネジの廻りを回るように、鋏に付いている紐をうまく捌くこと。

である。

Dirac's demonstration of his scissors problem

また、この "Dirac had a very nice demonstration" で始まる1段落は、編集者によると思われる "This was taken verbatim from Feynman's lecture." (この文章は、ファインマン講演の言葉どおり) と云う脚註も付けられている。これは p.30 の連続写真との対応に臨場感を出すため実況録音風にしたためとも考えられるが、その一方で、「編集者」がこの部分の内容及び/又は表現に留保する意向の現れである可能性もある。

    参考になるかもしれないウェブサイト
  1. "Orientation entanglement - Wikipedia, the free encyclopedia" 「紐と鋏」ではなく、「コーヒーカップとベルト」を使った説明。この問題の数学的な本質が、リー群としての3次特殊直交群 (3次元回転群) SO(3) が単連結でなく、そのスピノル群 (スピン群)、つまり単連結な二重被覆群として、2次特殊ユニタリ群 SU(2) を有することにあることが説明されている。
  2. "Air on the Dirac Strings" CG アニメと「フィリピン・ワイン・ダンス」の実写を収めたmpg 動画 (40MB) へのリンクがある。
  3. "Dirac belt trick" アプレットを使った説明。ベルトの根元とベルト動きとの前後関係が分かりづらい。
  4. "Spinor - Wikipedia, the free encyclopedia" 英文版ウィキペディアの「スピノル」の項。
  5. "Tangloids - Wikipedia, the free encyclopedia" スピノルの計算をモデル化した、つまり、Dirac's scissors demonstration と同じ原理の数理玩具
  6. "The Dirac String Trick - First Hand" Dirac's scissors demonstration の関連情報が纏められている。

次の書籍にも、説明があるようだ。そのGoogle ブック検索とアマゾンへのリンクを貼っておく (Google ブック検索でヒットする著作とアマゾンに掲載されている著作は版数が異なることがあり得るので注意されたい):

  1. Louis H. Kauffman "Knots and physics"
  2. George K Francis "A Topological Picturebook"

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.41 下から4-2行及び p.42 脚註
なお、この脚註には、「訳注」として "Spinors and Space-time" Vol.1 からの転載と思われる "scissors demonstration" の図と、それに就いての説明の要約が付記されている。

p.29 ll.7 from the bottom - the bottom.

第29ページ下から7行からページ末までを最初に読んだ時、とまどった。基本的には未来のことにかかわる "keep track of" の後に現在完了形の名詞節 "whether you've made a rotation or not" が従っていたからだ。「回転したのが1回かどうかを追跡監視する」と云う簡単なことを言っているのだと気づくまでにしばらく時間が掛かった。それほど、私は頭が鈍いのだ。こんなことに引っ掛かる者は多くはあるまい。特に、講演の実際の audience には (彼らの多くがネーチヴ・スピーカであっただろうことを考慮しなくても)、ファインマンのイントネーションや身振り・表情も相俟って問題なく理解できただろう。

一応、訳を付けておく。

So two rotations are equivalent to doing nothing, but one rotation can be different, so you have to keep track of whether you've made a rotation or not, and the rest of this talk is a nerve racking attempt to try to keep track of whether you've made a rotation or not.
つまり、2回転は何もしないのと等価ですが、1回転は異なることがあるのです。そこで、回転したのが1回かどうか常に気を付けていなければなりません。これからの話は、回転したのが1回かどうか注意しつづけるようにすると云う精神的にシンドイ作業になります。

なお、Google ブック検索ではこのページを閲覧することができる (Elementary particles and the laws of ... - Google ブック検索)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.42 下から行目-p.44の3行目

p.51, ll. 3-9

第51ページ3-9行目には

Now there's a famous theorem that states that when you move an electric charge q through a magnetic field then the phase changes by \mbox{exp}(iq\int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x}), where \int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x} is the line integral of the vector potential \mathbf{A} along the path that the electric charge follows. (That's meant to intimidate you!)
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.51 ll.3-9

とある。

この "famous theorem" とは、アハラノフ・ボーム効果のことである ([nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] 参照)。従って、最後の一文 "That's meant to intimidate you!" は、アハラノフ・ボーム効果がアハラノフとボームによる予言後も、かなり長い間、その信憑性が疑われ続けたことを踏まえているのだろう。

これは私の推測と言うか、憶測だが、ファインマンは、アハラノフ・ボーム効果に就いて説明したのに、「フツーの物理学者、或いは、物理学部学生」なら起こすのが不思議でない「拒絶反応」を聴衆が示さないので、一寸したイタヅラ心を起こしたのだろう。「君らをドン引きさせるつもりだったのだけれどな」と付け足した感じなのだ。その裏には、ファインマンが、アハラノフとボームの予言に当初から拒絶反応を起こすことなく認めたと云う自負があるはずだ。付言するなら、この第1回ディラック記念講演が行なわれた1986年は、奇しくも、日立製作所中央研究所における外村彰 (とのむら あきら) の研究グループが、アハラノフ・ボーム効果の実在を、最終的に実証した年だった。

さて、磁場内で電荷 q を動かすと、電荷の径路に沿ったベクトルポテンシャル \mathbf{A} の線積分を \int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x} として、電荷の位相が \mbox{exp}(iq\int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x}) 変化すると云う有名な定理があります。。君らをドン引きさせるつもりだったのだけれどな。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.64 下から2行目-p.65の3行目

p.57 l.9 from the bottom

第57ページ下から9行めに記載されている "David Finkelstein" は、英文版ウィキペディアに項目のある "David Finkelstein" と思われる。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.72の10-11行

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.84 ll.2-12

量子電磁力学 (Quantum Electrodynamics/QED) による、電子の異常磁気モーメントの計算に就いて、第84ページ2行目から12行目に次のように書かれている:

This has been calculated many times, first, I believe, by Schwinger, and most recently and comprehensively by Kinoshita in 1981. The result of Kinoshita's calculation, together with the current experimental value, are given below in (2)

Magnetic moment of the electron:

Kinoshita's calculation:
1.00115965246 ± 0.00000000020

Best experimental value:
1.00115965221 ± 0.00000000003 (2)

--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.84 ll.2-12

この計算は何度も行なわれていますが、最初は、確かシュインガーによって行なわれ、最近では、最も包括的な仕方で木下により1981年に行なわれました。木下の計算結果と、現在の実験値を以下の (2) に示しておきます。

電子の磁気モーメント:

木下の計算値:
1.00115965246 ± 0.00000000020

最良の実験値:
1.00115965221 ± 0.00000000003 (2)

この "Schwinger" は、勿論、朝永振一郎やファインマンと同時にノーベル物理学賞 --Nobel laureates in Physics-- (1965年) を受賞した Julian Schwinger のことだが、ここで言及されているのは彼の 1948年における論文 "On Quantum-Electrodynamics and the Magnetic Moment of the Electron" (Phys. Rev. 73, 416 - 417 [1948]) を指しているのだろう。

この "Kinoshita" は「木下東一郎」のこと。

本稿に就いては、以下で、やや補足説明する。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.96の1-7行
p.97の脚註では、木下のその後の計算の結果が紹介されており、木下と仁尾の論文 "Improved α4 Term of the Electron Anomalous Magnetic Moment" (Phys.Rev. D73 (2006) 013003 arXiv:hep-ph/0507249) が引用されている (「訳注」内で、"Niho" とあるのは --Nio-- の誤り)。

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.100 Fig.4

第100ページの図4には、下のような感じの図が示されて

Interaction of two closed strings

次のようなキャプションが付けられている:

Fig.4 A string intersection involving the emission and reabsorption of a massless spin-two particle.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.100 Fig. 4
図4 質量ゼロ・スピン2の粒子の放出と再吸収とに関るストリングの交差

私は「弦理論/ひも理論」には全く無知だが、このキャプションには首を傾げてしまった。この図のように時間が左から右に流れているなら、この図は、粒子の「放出と再吸収」ではなく「吸収と再放出」に対応するような気がする。と言うか、むしろ、2つの閉ストリング (代表的には、質量ゼロ・スピン2の粒子である重力子/graviton) の相互作用を表わす worldsheet とでも説明した方が良いのではないか。(ファインマン図と同様、相互作用の高次の成分に対応する worldsheet も存在する訣だが、ここではそちらの方には立ち入らない)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.111 図4

Schwinger と木下東一郎の業績に付いて補足する。

しかし、まずは時間を巻き戻して、前期量子論から説明すると、そこでは、原子核の周りを電子が廻ると云う描像のもとで、電子の配置が量子化されて、当初の議論の段階では、電子の運動エネルギーに対応する主量子数と、電子の軌道運動の角運動量に対応する方位量子数及び磁気量子数とが導き出された (主量子数 n は自然数。方位量子数 ln 未満の非負整数、磁気量子数は、-l から +l までの整数)。ここで、方位量子数は、軌道角運動量全体の大きさ L に対応するのに対し (L = \sqrt{l(l+1)})、磁気量子数 m_\psi は、短絡的に表現するなら、原子が磁場内に置かれた際の、電子の軌道角運動量の磁場方向成分 (描像的には、磁場方向を中心軸とする電子の回転運動の角運動量) であって、磁場内を運動する荷電粒子としての電子の磁気モーメントを \frac{e\hbar}{2m_e}\cdot m_\psi と云う式で規定する値であった (ここで e は電気素量、m_e は電子の静止質量。なお、この式は SI 単位系による --具体的な値は、9.274 \times 10^{-24} J\cdot T^{-1}--。 ちなみに、cgs単位系では、分母に真空中の光速度 c が入る)。この \frac{e\hbar}{2m_e}ボーア磁子と呼ばれ、\mu_B などと記される。

前期量子論における、こうした「原子核の周囲を廻る電子の軌道」と云う描像は、その後確立されたコペンハーゲン教理では排斥されたが、勿論歴史的には十分意味がある。

さて、アルカリ金属原子の光学スペクトル線の予期せぬ二重項 (異常ゼーマン効果) に対する解釈を契機としてヴォルフガング・パウリが、電子に、当時知れられていなかった自由度が存在することを予想し、そしてそれに関連して、後年彼の名を冠せられて呼ばれるようになった排他原理を提唱 (1925年) したことが、電子の磁気モーメントに2種類の変異をもたらす内的自由度としてのスピンの概念に結実した訣だが、そのスピンは角運動量としての実在を持っていた。そして、スピンがゼロであると言う場合を含めると、スピンは、電子以外でもあっても、全ての素粒子が備える本質的な量子条件であることが分かっていく。(所謂、「シュテルン-ゲルラッハの実験」は、当初、スピンとの関係が認識されていなかった。)

電子のスピンと、その磁気モーメントを解明したのはディラックだった。彼は、電子に付いてのシュレディンガーの波動方程式を特殊相対論を満たすよう変形するなら、自然に電子が \frac{1}{2}\hbar (又は -\frac{1}{2}\hbar)) のスピン角運動量と、それに対応する磁気モーメント -\mu_B (又は \mu_B) を有することを示したのだ (岩波書店[ディラック 量子力學 原書第4版]第357ページ9-11行を参照)。ここで、注意すべきなのは、スピン各運動による磁気モーメントは、軌道角運動量から類推される量 (-\frac{1}{2}\mu_B/\frac{1}{2}\mu_B) の2倍になっていることである。

量子化された角運動量 P\hbar と、それに対応する磁気モーメント \mu があるとき、\mu\mu_B\cdot P の何倍かを表わす係数を g 因子 と呼んで、g で表わすことが多いが (つまり \mu = g\cdot\mu_B\cdot P. ただし、電子スピンの場合は、右辺にマイナス記号が付けられる)、ディラックは電子のスピン角運動量については g = 2 であると結論したのである。そして、これは実験と一致するように見えた。これに就いては、岩波書店[ディラック 量子力學 原書第4版]第356ページ2-3行に「この磁氣能率は...實驗と一致している」(This magnetic moment is ... in agreement with experiment.) ) とあることから、当時の認識の一端を伺える。

しかし、詳しい実験の結果、電子の g 因子は 2 から僅かにズレいてることが判明した (P. Kusch 及び H. M. Foley "Precision Measurement of the Ratio of the Atomic `g Values' in the 2P3/2 and 2P1/2 States of Gallium" Phys. Rev. 72, 1256 [1947] では \frac{(g-2)}{2} = 0.00115。 なお、P. Kusch 及び H. M. Foley "The Magnetic Moment of the Electron" Phys. Rev. 74, 250 - 263 [1948] も参照。そこでは \frac{(g-2)}{2} = 0.00119 とされた)。

1-loop Feynman diagram of magnetic moment of electron

このズレが、電子が光子を放出した後、それを吸収することよる効果だと見抜いたシュインガーは、"On Quantum-Electrodynamics and the Magnetic Moment of the Electron" (Phys. Rev. 73, 416 - 417 [1948]) で、ハミルトニアンに付加項を加えて、その補正値 \frac{(g-2)}{2} を、cgs 単位系で表わすと \frac{e^2}{2\pi \hbar c} となると導き、その値 0.001162 と算出して、実験結果を説明することに成功する (計算の際に現れる発散は「繰り込まれた」)。ディラックが産んだ量子電磁力学の卵を、シュインガーが孵した、と謂ったところか (量子電磁力学の成立には、ファインマンや朝永振一郎の功績があったことも忘れてはならないのは勿論だが...)。

なお、この補正値 \frac{e^2}{2\pi \hbar c} は、cgs単位系で表わした微細構造定数 (fine-structure constant) \alpha = \frac{e^2}{\hbar c} (SI では \alpha = \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0\hbar c}) を使って書き直すと \frac{\alpha}{2\pi} となる訣だが、シュインガーの墓碑 (マサチューセッツ州マウント・オーバーン墓地/Mount Auburn Cemetery) には、この記号が刻まれいてると云う。

Simplified Feynman Diagram for magnetic moment of electron

しかし、シュインガーの議論は、磁場ポテンシャルの影響を所与とした上での最も単純な摂動を計算したに留まるものだった。つまり、ファインマンの観点で言うなら、シュインガーの補正は、単ループのファインマン図 (右上図) 1個の寄与分を求めたに過ぎない。もっとも、異常磁気モーメントの値なので、運動量の大きさの変化 |p-p^\prime| 及び電子の運動方向の変化がゼロになる極限値を求めれば良く、従ってファインマン図を簡略化することができる(右図)。

式が共変的であることが解かり易いシュインガーのアプローチではあったが、具体的な計算には不向きで、これ以上のことは、実質上不可能だった (ここら辺のところは、ハイゼンベルク表示とシュレディンガー表示の関係と同じである)。

しかし、この摂動は、実際には、次のような微細構造定数の級数として表わされる。つまり、ヨリ高次の項が存在する。


\frac{g-2}{2} = 0.5\times\frac{\alpha}{\pi} - (0.328478...\times\frac{\alpha}{\pi}^2) + (1.181241...\times\frac{\alpha}{\pi}^3) - (1.9144...\times\frac{\alpha}{\pi}^4) + \cdotsa

そして、\alpha の1次の項の計算には1つのファインマン図で間に合うが、2次の項では7つ、3次の項では72個、4次の項では891個、5次の項では12672個と、必要なファインマン図の数は急上昇していき、それに伴った数値計算も、それ以上速さで膨大になっていく。「人力」の計算では、せいぜい2次の項までが限界だった。これに対し、木下はコンピュータを駆使して、3次及び4次の項の摂動計算を行なった。

例えば、木下は、1972年に、P. Cvitanovic と共同で、"Sixth-Order Radiative Corrections to the Electron Magnetic Moment" と云う論文を "Physical Review Letters" Nov. 27, 1972 に発表している (タイトル中の "Sixth-Order" は \alpha の次数としては3次に対応する)。

1981年時点の木下の結果に就いては、"Calculation of the Eighth order anomalous magnetic moment of the electron" (T. Kinoshita and W.B. Lindquist. Submitted to the Second International Conference on Precision Measurement and Fundamental Constants, National Bureau of Standards, Gaithersburg, MD, 8-12 June, 1981) が参考になる。ワインバーグが引用している Kinoshita's calculation は、おそらく、この結果だろう。それは、実験値と小数点以下9桁までが一致するという驚くべきものだ。

しかし、木下は、さらに計算を進めて、2005年には理化学研究所の仁尾真紀子との共同論文 "Improved α4 Term of the Electron Anomalous Magnetic Moment" (Jul 2005. Phys. Rev. D73:013003, 2006. e-Print: hep-ph/0507249) を、翌2006年には、仁尾の他に、 ハーバード大学の研究者 (G. Gabrielse, D. Hanneke, B. Odom) も加えて "New Determination of the Fine Structure Constant from the Electron g Value and QED" (Phys. Rev. Lett. 97, 030802 (2006) [4 pages]) を発表する。この成果は、アメリカ物理学協会 (American Institute of Physics/AIP) の2006年度 "The Physics Story of the Year of 2006" に選ばれたのだった。

ただし、「2007年8月22日付けの理化学研究所プレスリリース: 電子の磁石の強さを1兆分の1の精度まで計算」によれば、理研・名古屋大学・米国コーネル大学の共同開発チーム (仁尾 真紀子その他) は、木下が開発した摂動計算の手法をコンピュータによる完全自動化することに成功し、木下・仁尾が2005年に発表した4次の項の計算を追試した所、そのプログラム20万行中の6行に誤りがあり、計算値を訂正する必要があることが分かったという。

なお、最近の木下の姿が、2008年4月9日[木曜]朝日新聞夕刊(東京本社3版)第1面掲載の「素粒子の狩人」第4回に報じられている。

    次の文書も参考にされたい:
  1. M. Nio (RIKEN) "Automated Calculation Scheme for αn Contributions of QED to Lepton g-2: Diagrams without Lepton Loops" Feb. 7, 2006 KEK大型シミュレーション研究ワークショップ「超高速計算機が切り開く計算物理学の展望」
  2. M. Nio (RIKEN) 「レプトンg-2のQED高次補正」December 1-2, 2008 「計算科学による素粒子・原子核・宇宙の融合」筑波大学
  3. G. Gabrielse, D. Hanneke, T. Kinoshita, M. Nio, and B. Odom. "New Determination of the Fine Structure Constant from the Electron g Value and QED" Phys. Rev. Lett. 97, 030802 (2006) [4 pages]
  4. T. Aoyama, M. Hayakawa, T. Kinoshita, M. Nio "Revised value of the eighth-order QED contribution to the anomalous magnetic moment of the electron" arXiv:[hep-ph]0712.2607v2

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2009年3月21日 (土)

メモ: 岩波書店 [ディラック 量子力學 原書第4版] の誤植及び微妙訳

私が ディラック (Paul Adrien Maurice Dirac) の名前を初めて聞いたのは、たしか中学生だったか小学生の時だったと思う。物理学の啓蒙書ででも聞きかじったのだろう (ガモフのトムキンス物--「不思議の国のトムキンス」とか--など読み散らしていたのだ)。物理学的内容など分かる訣もなく (これは確かに小学生の時だが、友達に「E = mc^2 って知ってる?」と聞かれてヘドモドした記憶がある)、「天才物理学者」達の逸話に無闇と興奮していただけだった。

その中でも、ディラックの逸話は印象的だった。例えば、ある婦人 (今、ネットで調べてみたら、ロシアの実験物理学者ピョートル・カピッツァ --Пётр Леонидович Капица-- の2度目の夫人 Анна Алексеевна らしい。ウェブページ "Paul Dirac" 参照) が、編み物をしているのを見て、数学 (位相幾何) 的に言って、その編み方とは別の編み方が可能だと気付き、それをそのご婦人に説明した所、彼女に、それは昔から良く知られていて「裏編み」と呼ばれていると言われてしまった。。。(つまり、彼女は「表編み」をしていた訣です。)

大学に入ってから、教養学部の、物理や化学の参考書として「ディラック」に再び出会う訣だが、読んでみると、何とも咀嚼しづらかった。これは、勿論私が「劣等生」だったと云うこともあるだろう。何しろ、化学の、分子軌道か何かの授業中に、講師が「 "self consitent theory" は通常『自己無道着理論』と呼ばれるが、『自己満足の理論』とも呼ばれる」と云うジョークを飛ばしたのだが、化学の授業で覚えたは、そのことだけだったりするのだ。

しかし、咀嚼しづらかった別の理由の一つは、当時既に、内容が微妙に陳腐化していたせいもあったろうが (なにしろ「量子力学」ではなくて「量子力學」だからね。ただ、ディラックの名誉のために付言するなら、「量子力學」の内容あるいは表現が陳腐化したのは、ディラック自身の偉業の結果だった。彼の量子電磁気学 (Quantum Electrodynamics/QED) は、現在爆発的成長を遂げた場の量子論の鏑矢となったし、超関数論成立の主要動機の一つは、当初数学的に厳密な根拠が与えられていなかったディラックのデルタ関数の合理化だった)、やはり、大きかったのは、量子力学そのものの「分かりにくさ」(と、当然、私の頭の悪さ) だったろう。

量子論の認識論的な「異常性」はさておき (いや、実は「さておき」ではない筈なのだが、ここでは兎に角「さておき」)、何と言うか「結果オーライ」的な「論理」の進展に私は付いて行けなかったのだ。

「こんなことをしてどうして間違えないでいられるのだろう」と立ちすくむ凡人の呟きを余所に、天才は量子の世界を疾走する。

そう云う訣で、「量子力學」に挫折したのだが、それがずっと心に残っていて (まぁ、「虎馬」と云うヤツだな)、時々思い出す度に「そのうち、また挑戦してみよう」と云う呪文で、記憶の亡霊を封印してきたのだ。

しかし、最近アハラノフ・ボーム効果に就いて少し勉強した ([nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] 参照) ついでに、意を決して「量子力學」も強引に通読してみた (ただし「附録 近似的な解き方」は、読んでいない。また、「譯者の註」も必要に応じて参考しただけである)。

読後感は、「名著であることには異存はないのだけれども、やはり既に『歴史的文書』になっている」と云うものだった。

その際若干の誤植に気が付いた。そこで、以下、[ディラック 量子力學 原書第4版] (朝永振一郎・玉木英彦・木庭二郎・大塚益比古・伊藤大介共訳。岩波書店 1968年4月。ISBN-10: 4000061232 ISBN-13: 978-4000061230) の誤植に就いて纏めておく。利用したのは、私の手元にある第5刷 (1971年12月) である。ただし、単純に活字が欠落していることが明白であると思われるもの (「刷り」によって異なるだろうから、例になるかどうか分からないが、手元のものから挙げておくと p.160 の (29) 式で、指数関数の肩にかかっている式中の y が欠けていたり、p.235 の4行目の1つ目の \alpha に付くプライムは2つでなければならないのが1つになっていたりする) は、無視した。また、適宜、みすず書房刊のリプリント版原書 ("The Principles of Quantum Mechanics. 4th ed." ) を援用する。

併せて、「誤訳」と言えないまでも、翻訳として微妙な部分も纏めておいた。

一つ釈明しておくと、「誤植」・「微妙訳」の指摘と言っても、別に、原書全体と訳本を逐一対照させて検討した訣ではない。あくまでも、作業の基本は、訳本を読んでいて意味の通じないところと、そして、それに対して、私の一存で妥当と思われるような変更を並記しただけのことである。と云う訣で、見落とし・見損ないは当然あり得る。ただし、勿論、指摘した部分に就いて、原書の対応箇所に当たり「裏を取る」ぐらいのルーチンワークはしてある。その結果に就いては「備考」に記した。

岩波書店 [ディラック 量子力學 原書第4版] 正誤表
Chap.V-§31 p.165 l.14
\bra{a(q)\partialdiff{b(q)}{q_r}}\bra \bracket{{a(q)\partialdiff{b(q)}{q_r}}}
備考: 式 (41) の左辺の2番目のブラはケットにすべき。原書 p.123 l.19 from the bottom では正しく表記されている。
Chap.VI-§35 p.191 l.8 from the bottom
無限の回轉 無限小の回轉
備考: 原書 p.143, l.5 from the bottom では "infinitesimal ones". また訳文2行前では "infinitesimal rotations" の対応箇所が「無限小の回転」と訳されている。
Chap.VI-§41 p.222 l.4
\mathcal{H}_z + \hbar\sigma_z m_z + \hbar\sigma_z
備考: 原書 p.166 l.7 では正しく表記されている。
Chap.VII-§45 p.236 l.8 from the bottom
(3) (31)
備考: 式番号の間違い
Chap.VIII-§52 p.271 l.12
\absolutevalue{\bracketo{k}{V}{P^\prime\omega\chi d^\prime}} \absolutevalue{\bracketo{k}{V}{P^\prime\omega\chi\alpha^\prime}}
備考: 式(51) の最終辺の被積分関数中で \alphad と取り違えている。原書 p.203 l.10 では正しく表記されている。
Chap.VIII-§53 p.275 l.5 from the bottom
吸収の係數 (59) と, 放出の係數 (56) を 吸収の係數 (59) と放出の係數 (56) との積を
備考: 原書 p.206 ll.10-9 from the bottom では "the absorption coefficient (59) multiplied by the emission coefficient (56)" と、積を作ることが明示されている。
Chap.X-§60 p.311 l.5
\delta b_{x_r} \delta_{bx_{r}}
備考: 式 (27) 右辺中 \delta の後の b は、下付きの添字。原書 p.230 the bottom line では正しく表記されている。
Chap.X-§62 p.319 欄外
§61 §62
備考: 節番号の間違い。
Chap.XI-§69 p.352 l.3 from the bottom
-c\alpha_1 c\alpha_1
備考: マイナス記号は余計。原書 p.263 l.17 from the bottom では正しく表記されている。
Chap.XI-§69 p.353 l.5
\hbar/2mc^2 h/2mc^2
備考: \hbarh の誤り。原書 p.263 l.10 from the bottom では正しく表記されている。訳書の前2行の2か所で h であることにも注意。
Chap.XI-§73 p.364 l.4
\frac{H^\prime}{mc^2} = \left(1 + \frac{\alpha^2}{s_2}\right)^{-\frac{1}{2}} \frac{H^\prime}{mc^2} = \left(1 + \frac{\alpha^2}{s^2}\right)^{-\frac{1}{2}}
備考: s にかかる添字 2 は、下付きではなく上付き。原書 p.272 l.5 では正しく表記されている。
Chap.XI-§73 p.364 ll.5-4 from the bottom
この場合には, c_s の係數に a を掛け {c^\prime}_s の係數に a_2 を掛けて加え合わせると, この場合には, c_s の係數に a_1 を掛け {c^\prime}_s の係數に a を掛けて加え合わせると,
備考: 原書 p.272 では the first coefficient (c_s) と the second coefficient ({c^\prime}_s) に就いて "In this case we get, multiplying the first coefficient by a_1 and the second by a and adding," (ll.10-9 from the bottom) と正しく表記されている。
Chap.XII-§76 p.382 l.6 from the bottom
-(8\pi)^{-1}\mathcal{A}_r\mathcal{A}^{ss}_rd^3\mathbf{x} -(8\pi)^{-1}\int\mathcal{A}_r\mathcal{A}^{ss}_rd^3\mathbf{x}
備考: 式左辺で積分記号が抜けている。原書 p.287 l.4 では正しく表記されている。ちなみに、原書では \mathbf{x} はボールド体ではなくナミ字。他にも同様な箇所がある。少なくともこの本の範囲内では、趣味とか習慣の問題 (ともに大変重要な要素だが) であって、どちらが正しいと云うわけあいのものでもあるまい。
Chap.XII-§76 p.383 l.3
H_{FL}\!\! =\! (8\pi)^{-1}\!\!\int\!\{(U\!-\!A_0)^r(U\!+\!A_0)^r\! + (V^{rr}\!\!-\!B_0)(V^{ss}\!\!+\!B_0)\}d^3\mathbf{x}
備考: この式には、番号 (49) を付けねばならない。原書 p.287 l.12 では正しく表記されている。ちなみに、原書では \mathbf{x} はボールド体ではなくナミ字。
Chap.XII-§77 p.388 ll.13-14
光子の各状態あたり半エネルギー量子よりなる無限大の數項 光子の各状態あたり半エネルギー量子づつが寄与してなる無限大の項
備考: 原書 p.291 ll.2-1 from the bottom の "an infinite numerical term, consisting of a half-quantum of energy for each photon state." を参照。訳書のままだと、「項」が複数あるように見える。しかし、「無限大の數の項」とすると、日本語としてこなれない。ここは "numerical" を敢えて訳す必要はないだろう。
Chap.XII-§78 p.389 l.4 from the bottom
第2量子化によって, \psi は §65 の \bar{\eta} のように 第2量子化によって, \psi 等は §65 の \bar{\eta} 等のように
備考: この文章の内容には \psi, \bar{\psi}, \eta, \bar{\eta} と複数種類の関数が関わるので、そのことを明示的に示すよう「等」を付け加える必要がある。原書 p.293 ll.3-4 でも "The second quantization makes the \psi's into operators like the \bar{\eta}'s of §65," と複数形になっている。
Chap.XII-§78 p.395 ll.13-21
下記参照
Chap.XII-§79 p.399 ll.11-12
\begin{eqnarray*}&&[\kappa(\mathbf{x},x^\ast_0),\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x^\ast_0)] = [\kappa(\mathbf{x},x_0)+\epsilon v_r x_r[\kappa_{\mathbf{x}},H],\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x_0)+\epsilon v_s x^\prime_s[\lambda_{\mathbf{x}^\prime},H]] \\&&\quad =[\kappa(\mathbf{x},x_0),\ \lambda(\mathbf{x}^\prime,x_0)] + \epsilon v_s x^\prime_s[\kappa_{\mathbf{x}}, [\lambda_{\mathbf{x}^\prime},H]] + \epsilon v_r x_r[[\kappa_{\mathbf{x}},H], \lambda_{\mathbf{x}^\prime}]end{eqnarray*}
備考: 式 (103) の前半部分 (この引用ではスペースが少ないため折り畳んであるが、訳書ではもともとは2行に書かれいてる)。実は、数式としては誤っていない。また、原書 (p.301 ll.2-4) とも一致する。それでも式の全体の流れの統一の観点から言ったら、添え字の s は、4箇所全て r に直した方が良いだろう。実際、反交換子関係に就いての対応する式 (104) では r で統一されている。
Chap.XII-§79 p.400 ll.6-7
我々は方方で \epsilon のべきまで式を計算し, \epsilon^2 は無視してきた. 上記 \epsilon の冪式として計算した箇所においては、\epsilon^2 の項は無視された。
備考: 原書 p.301 ll.8-7 from the bottom では "At several places we worked out expressions in powers of \epsilon and neglected \epsilon^2." ここで "several" は敢えて訳す必要はあるまい。訳すにしても、「方方」などとしてはいけない。
Chap.XII-§80 p.401 l.9 from the bottom
\psi_{a{\mathbf{x}}},\ j_{0{\mathbf{x}}}] [\psi_{a{\mathbf{x}}},\ j_{0{\mathbf{x}^\prime}}]
備考: 式 (109) の左辺。原書 (p.302 the bottom line) でも同じなのだが、1つ前の式を見れば分かるように、荷電密度の添字 \mathbf{x} にはプライムを付けて \mathbf{x}^\prime にする必要がある。
Chap.XII-§81 p.406 l.7
\zeta^\ast_{\mathbf{bp}+\mathbf{k}\hbar} \zeta^\ast_{b\mathbf{p}+\mathbf{k}\hbar}
備考: 式 (120) での被積分関数中の \zeta^\ast の添え字でボールド体の \mathbf{b} は、ナミ字の b にする必要がある。原書 (p.306 l.4 from the bottom) では正しく表記されている。

[量子力學] の翻訳は、「意味を取る」と云う観点からだけ見るなら、概ね出来の良いものだ。ただ、(僅かな比較だけから判断してもうしわけないが) 訳者たちには、原文の「雰囲気」とか「ニュアンス」とかを伝えると云う努力はしなかったようだ。[量子力學]の訳文からは、訳者たちが行なったのは、原文を、単文に分解して、それぞれを直訳した後、英文を参照にしつつも、結局は和文の文脈の中で、適宜、論理的・物理的整合性に従って、訳文の文章を再構成していったと云う印象を受ける。そして、実を言うと、それで良かったので、ディラックの文章そのものが文飾に凝ったと云った類いのものではない。勿論、如何なる文章もその文化・歴史的背景を背負っているから、作者の意図に関わらず「雰囲気/ニュアンス」は発生する。しかし、ザッと見た限りでは、ディラックの文章には、「雰囲気/ニュアンス」が重要な意味を担うと云ったことはありそうもない。実際、彼自身は逸話の多い人で、そういった意味では、文学的対象になりうるのだが、その一方で、彼は文学的営為とは無縁であったらしいことが、その逸話自体から伺える (彼は、詩を書いていると云うオッペンハイマー (J. Robert Oppenheimer) に向かってこう言っている, "I do not see how a man can work on the frontiers of physics and write a poetry at the same time." 「物理学の最前線で活動する一方で、同時に詩を書けるなんて、僕には訣が分らない」)。

だから [量子力學] を「名訳」と呼ぶのは「贔屓の引き倒し」になりかねないにしても、「誤訳」らしい「誤訳」がほぼない (らしい) ことだけでも、十分優れていると言って良い。これは、訳者たちが、内容をしっかり理解していて、英文として日本語にしづらいところは、穏当な「意訳」をすることができたからだ。私が [量子力學] を読んでいて、「こう云う日本語になる英文ってあるのだろうか?」と感じて、原文を当たった所、確かに (少なくとも翻訳の非専門家にとっては) ヤヤ訳しづらいところだったと云うことが数度あった。と言うか、ある意味、[量子力學]全体が「穏当な意訳」からなっているとも言えるかもしれない。

しかし、残念ながら第 XII 章の翻訳品質は、若干落ちる。何か、翻訳に不慣れな人が訳した趣きがあるのだ。それは、自分の英文理解に自信がなく、「手探り」のまま訳しているとでも形容したら良いのかもしれない。。

例えば、XII-§78/p.394 ll.14-19 (原書 p.296 the bottom line - p.297 l.5) の反交換関係が満たすべき性質の箇条書きで "it" を「それ」と訳してしまっているため、日本語としてこなれていないが、ここは、すべて「反交換関係」を使うところだろう。

あるいはまた、XII-§76/p.380 ll.11 and 16 (原書 p.285 ll.14 and 20) で、原文の「波長が零でない波」は、「波数が零でない波」の思い違いだろうと云う正しい指摘を訳者は「譯者の註」(p.465) でしているにも関わらず、訳文では「波長」を温存しているのは、訳者が自分の物理学理解に自信がないためではなく、英語理解に自信がないことのあらわれと見てよい (もっとも「譯者の註」での説明は、大袈裟のような気がするが)。

そうした「不慣れな訳文」の中で、私が一番違和感を覚えたのは XII-§78/p.395 ll.13-21 (原書 p.297 l.8 from the bottom - p.298 l.2) だ。原文と対応させてみると、間違っているのではないのだが、もっと「普通の日本語」に訳せるだろうと云う気になる。これは、ヤヤ長いので、上記の表には纏めず、以下に、その概要を示すことにした。

まず、原文を示す:

Thus (l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)
should be invariant with K_{ab}(x, x^\prime) given by (85), and its invariance would be sufficient to ensure the invariance of the anticommutation relations. We get for (87)

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\Sigma\!\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3p. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

This is Lorentz invariant because the differential element p^{-1}_0d^3\mathbf{p} is Lorentz invariant.
--P.A.M. Dirac "The Principles of Quantum Mechanics" 4th ed. Oxford University Prerss (1958) pp.297-298 (XII-§78)

これに対する [量子力學] の訳文は:

從って (85) で與えられる K_{ab}(x, x^\prime) について

(l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)

が不變でなければならない。そして、これが不變であることが、反交換關係の不變性を保証するのに十分である. (87) として,

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p}. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

が得られる. 微分要素 p^{-1}_0d^3\mathbf{p} がローレンツ不變であるから、この式はローレンツ不變である。
--P.A.M. ディラック [ディラック 量子力學 第4版] 東京 岩波書店 (1968) 朝永振一郎・玉木英彦・木庭二郎・大塚益比古・伊藤大介共訳 p.395 ll.13-21 (第XII章第78節)

こまかい翻訳技量の難点をイチイチあげつらっても仕方がないので、私なりの訳文を示すだけにしておく:

と云う訣で (85) で表わされる K_{ab}(x, x^\prime)

(l^\mu\alpha_\mu + S\alpha_m)_{ab}K_{ba}(x, x^\prime) (87)

とは、不変量であるか否かが一致することなる。従って、反交換関係の不変性を証明するには (87) の不変性を証明しさえすれば良い。そこで (87) を計算すると

<br />
\begin{eqnarray*}<br />
&&h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}(l^\mu\alpha_\mu\! +\! S\alpha_m)_{ab}(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)_{ba}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma\frac{1}{2}\{(l_0\! -\! l_s\alpha_s\! +\! S\alpha_m)(p_0\! +\! \alpha_rp_r\! +\! \alpha_mm)\}_{aa}e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p} \\<br />
&&\quad = h^{-3}\!\!\int\!\Sigma{2}(l_0p_0\! -\! l_rp_r\! +\! Sm)e^{-i(x-x^\prime)\cdot p/\hbar}p^{-1}_0d^3\mathbf{p}. \qquad \qquad \qquad (88)<br />
\end{eqnarray*}<br />

が得られるが、微分要素 p^{-1}_0d^3\mathbf{p} はローレンツ不変であるから、この式もローレンツ不変である。


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2009年3月 8日 (日)

1926年のシュレディンガー論文 "Quantisierung als Eigenwertproblem" (固有値問題としての量子化) に就いて: ファインマンの言及箇所探し

[nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] (2009年3月1日[日]) で引用したリチャード・ファインマン (Richard Feynman) の物理学教科書 "The Feynman Lectures on Physics" の一節の冒頭に "The theory we have described was known from the beginning of quantum mechanics in 1926. The fact that the vector potential appears in the wave equation of quantum mechanics (called the Schrödinger equation) was obvious from the day it was written." 「上記に説明した理論は、量子力学の創成当初である1926年以来分っていたのだ。量子力学の波動方程式 (シュレディンガー方程式) が書き表されたその日から、そこには、明白な事実としてにベクトルポテンシャルが現れていた。」 とあるが、この「1926年 」とは、勿論、Erwin Schrödinger (エルヴィン・シュレディンガー) が、量子力学史上重要な "Quantisierung als Eigenwertproblem" (固有値問題としての量子化) 4部作を発表した年である (「重要な」などと書いたが、私はろくに読んだことはない):

  1. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Erste Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 361-376
  2. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Zweite Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 489-527
  3. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Dritte Mitteilung: Störungstheorie, mit Anwendung auf den Starkeffekt der Balmerlinien)" Annalen der Physik, (4), 80, (1926), 437-490
  4. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Vierte Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 81, (1926), 109-139

因みに、シュレディンガーは、第2論文と第3論文との間に、これもまた「重要な」"Über das Verhältnis der Heisenberg-Born-Jordanschen Quantenmechanik zu der meinen" (Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 734-756) (ハイゼンベルクボルンヨルダンの量子力学の私の量子力学に対する関係に就いて) を発表している。

で、ファインマンが言及している、1926年に書かれたベクトル・ポテンシャルを含む波動方程式のことなのだが、やはり「固有値問題としての量子化」4部作中に含まれていると考えるべきだろう。そして、ザッと眺めたところ、ハミルトニアンから波動方程式を導いて、更に、それをクーロン・ポテンシャルでの2体問題 (ケプラー問題) に適用しているらしい第1論文や、作用関数やホイヘンスの原理から波動方程式を論じて、更に、ケプラー問題以外の例として、磁場の非存在下 (第514ページ) での1次元調和振動子等の簡単な系の量子化を扱っているらしい第2論文中には現れるとは思えない。

これに対して摂動論を扱っている第3論文には、期待が持てそうだと、所々を覗いてみたのだが、結局、スカラーポテンシャルについて、次の記述が見つかっただけだった:

Indem wir der Wellengleichung des Keplerproblems, Gleichung (5), S. 362, Bd. 79 dieser Annalen, eine potentielle Energie +eFz hinzufügen, wie es der Einwirkung eines elektrischen Felds in der positiven z-Richtung von des Stärke F auf ein negatives Elektron vom Ladungsbetrag e entspricht, erhalten wir folgende Wellengleichung für den Starkeffekt des Wasserstoffatoms

(32) \Delta\psi + \frac{8\pi^2m}{h^2}\left(E + \frac{e^2}{r} - eFz\right)\psi = 0

welche die Grundlage des restlichen Teiles dieser Abhandlung bildet.
--"Quantisierung als Eigenwertproblem (Dritte Mitteilung)" II. 3 ("Annalen der Physik" Vierte Folge, Band 80, S. 457)

本紀要第79巻第362ページの式 (5) として示されたケプラー問題の波動方程式に、強さ Fz 軸正方向に向かう電場による、電荷 e の負である電子への作用に相当するポテンシャル・エネルギー +eFz を付け加えることで、以後の議論の基礎となる水素原子のスタルク効果に対する次の波動方程式が得られる

(32) \Delta\psi + \frac{8\pi^2m}{h^2}\left(E + \frac{e^2}{r} - eFz\right)\psi = 0

--「固有値問題としての量子化 第3部」第2章/第3節 (「物理学紀要」第80巻第4号第457ページ)

    訳註:
  1. シュレディンガーが "ein negatives Elektron vom Ladungsbetrag e" と云う持って回った言い方をしているので「電荷 e の負である電子」と訳してあるが (言うまでもないが、この論文時点で、陽電子は発見は勿論、少なくとも一般的には、予想もされていない。従って、シュレディンガーは、「陽電子」との区別のために "negative" と云う限定を入れたのではない)、「負電荷 -e の電子」と云うことだろう。

しかし、ファインマンはハッキリ「ベクトル・ポテンシャル」と書いているから、彼が言及しているのは第4論文の次のような箇所だったのだろう (第4論文も摂動を扱っている。ただし、第3論文は時間に依存しない系が主題であるのに対し、第4論文は時間に依存する系が主題である)。

Die Hamiltonsche partielle Differentialgleichung für das Lorentzsche Eelektron läßt sich leicht in folgende Gestalt setzen

(34) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Bigl(\frac{1}{c}\partialdiff{W}{t} + \frac{e}{c}V\Bigr) &- \Bigl(\partialdiff{W}{x} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_x\Bigr) - \Bigl(\partialdiff{W}{y} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_y\Bigr)  \\<br />
 &- \Bigl(\partialdiff{W}{z} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_z\Bigr) - m^2c^2 = 0 <br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

Hier sind e, m, c Ladung, Masse des Elektrons und Lichtgeschwindigkeit; V, \mathfrak{A} sind die elektromagnetischen Potentiale das äußeren elektromagnetischen Feldes am Elektronenort. W ist die Wirkungsfunktion.

Aus der klassischen (relativistischen) Gleichung (34) suche ich nun die Wellengleichung für das Elektron abzuleiten durch folgendes rein formale Verfahren, welches, wie man leicht überlegt, auf die Gleichungen (4'') führen würde, wenn es auf die Hamiltonsche Gleichung eines in beliebigem Kraftfeld bewegten Massenpunktes der gewöhnlichen (nichtrelativischen) Mechanik angewendet wird. -- Ich ersetze in (34) nachdem Ausquadrieren die Größen

(35) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
&\hspace{10mm} \partialdiff{W}{t}, \quad \partialdiff{W}{x}, \quad \partialdiff{W}{y}, \quad \partialdiff{W}{z}, \quad \\<br />
&\mathrm{bezw. \ durch \ die} \ \mathit{Operatoren} \\<br />
&\pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{t}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{x}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{y}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{z} \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

Den so erhaltenen linearen Doppeloperator, ausgeübt an einer Wellenfunktion \psi setze ich gleich Null:

(36) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Delta\psi - \frac{1}{c^2}\partialdiffsecond{\psi}{t} \mp \frac{4\pi ie}{hc}\Bigr( \frac{V}{c}\partialdiff{\psi}{t} + \mathfrak{A}\,\grad{\psi} \Bigl) \\<br />
\hspace{10mm} + \frac{4\pi^2e^2}{h^2c^2} \Bigr( V^2 - \mathfrak{A}^2 - \frac{m^2c^4}{e^2} \Bigl)\psi = 0 \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

(Die Zeichen \Delta und \mathrm{grad} haben hier die elementare dreidimensionaleuklidische Bedeutung.) Das Gleichungspaar (36) wäre die vermutete relativistisch-magnetische Verallgemeinerung von (4'') für den Fall eines einzigen Elektrons und zwar wäre es ebenfalls in dem Sinne zu verstehen, daß die komplexe Wellenfunktion entweder der einen oder der anderen Gleichung zu genügen hat.
--"Quantisierung als Eigenwertproblem (Vierte Mitteilung)" ("Annalen der Physik" Vierte Folge, Band 81, SS. 133-134)

ローレンツ電子に就いてのハミルトン偏微分方程式は、容易に次の形式に表わすことができる:

(34) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Bigl(\frac{1}{c}\partialdiff{W}{t} + \frac{e}{c}V\Bigr) &- \Bigl(\partialdiff{W}{x} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_x\Bigr) - \Bigl(\partialdiff{W}{y} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_y\Bigr)  \\<br />
 &- \Bigl(\partialdiff{W}{z} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_z\Bigr) - m^2c^2 = 0 <br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

ここで e, m, c は、電子の電荷・質量と光速度であり、V, \mathfrak{A} は、電子の位置における、外部電磁場の電磁ポテンシャルであり、W は、作用関数である。

古典論的な (相対論的な) 方程式 (34) から、以下の純形式的な手続き (容易に分かるように、これを、任意の力場における通常の非相対論力学的な運動質点のハミルトン方程式に適用するなら方程式 (4') が得られる) により、電子の波動方程式を導き出してみよう。つまり (34) において、平方展開に、各項

(35) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
&\hspace{10mm} \partialdiff{W}{t}, \quad \partialdiff{W}{x}, \quad \partialdiff{W}{y}, \quad \partialdiff{W}{z}, \quad \\<br />
&\mbox{それぞれを、次の{\bf 作用素}} \\<br />
&\pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{t}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{x}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{y}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{z} \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

に置換するのだ。こうして得られた線型2階作用素を、波動関数 \psi に適用したものをゼロに等しいとすると、次のようになる:

(36) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Delta\psi - \frac{1}{c^2}\partialdiffsecond{\psi}{t} \mp \frac{4\pi ie}{hc}\Bigr( \frac{V}{c}\partialdiff{\psi}{t} + \mathfrak{A}\,\grad{\psi} \Bigl) \\<br />
\hspace{10mm} + \frac{4\pi^2e^2}{h^2c^2} \Bigr( V^2 - \mathfrak{A}^2 - \frac{m^2c^4}{e^2} \Bigl)\psi = 0 \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

(ここで、記号 \Delta 及び \mathrm{grad} は、初等的な3次元ユークリッド空間に対するものである)。対をなす方程式 (36) は、単一電子の場合に対する方程式 (4'') を相対論的磁場への一般化と措定して良いだろうが、このことの意味はつまり、複素波動関数は、上記方程式のどちらか一方を満足しなければならないと解釈されるべきだと云うことである。

--「固有値問題としての量子化 第部」第6節 (「物理学紀要」第81巻第4号第133-134ページ)

    訳註:
  1. やや余談に属するが、上記独文の翻訳には、主に小学館の [独和大辞典第2版 (コンパクト版)] を参考にしたが、そこには "Quantisierung" (量子化) と云う見出しが見られず、少々落胆した。まぁ、恐らくは、"Quantisierung" は、ブリティッシュ英語の動詞 "quantise" のドイツ語したものの更に派生名詞形と思われるから、と言うか、あるいは "quantisation" から直接造語したのかもしれないが、いずれにしろドイツ語にとっては「外来語」である可能性が大きいので、「ドイツ語」の辞典に収録するのに抵抗があるかもしれないことを認めるに吝かではない。しかし、逆に、だからこそ、利用者に一定の予備知識がないと、語義を推測しようがないことにも留意してほしかった。辞書への収録は、言葉の重要性との兼ね合いがあるのは、勿論だが、私に言わせれば "Quantisierung" は十分重要な単語である。
  2. "Ausquadrieren" も採録されていない。実は、この語義に就いては、私も若干不審なところがある。一応字面に合わせて「平方展開」と訳しておいたが、一般に「(式の) 展開」を意味する可能性が捨て切れない。
  3. 訳文中の式 (34) に就いて: 最近の Winshell は日本語に対応しているので、tex ファイル中に日本語が入っていても無事に dvi を作成出力する。しかし、そうした dvi ファイルを dvipng.exe で png 画像に変換しようとすると拒絶されてしまう。上記訳文中、式 (34) で使用した png ファイルは、モニター画面上に表示させた dvi 画像をキャプチャして png 形式で保存し、GIMP を使って、所要部分の切り取り、縮小、背景透明化を行なったものである。
  4. 一応、式の (4') がどのようなものか、下に紹介しておく:
    (4') \Bigr( \Delta - \frac{8\pi^2}{h^2}V + \frac{8\pi^2}{h^2}E \Big
l) \Bigr( \Delta - \frac{8\pi^2}{h^2}V - \frac{8\pi^2}{h^2}E \Bigl) \psi = 0

なお、私は未見だが (存在自体は承知していた)、以前共立出版から「シュレーディンガー選集」が出されたことがあって、その第1巻が [波動力学論文集] だった(1974年)。上記で引用した論文も、少なくとも一部は、当然収録されているだろう。

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2009年2月17日 (火)

ニール・アシュビー「GPS における相対論」第1章及び第2章訳文 (草稿)

このサイトに、かなりの頻度で、[GPS 相対論] や、これに類するキーフレーズでの訪問される方々がいらっしゃる。たしかに、このサイトでは、[nouse: 飛行機に原子時計を載せて・・・] (2004年9月9日[木]) や [nouse: [飛行機に原子時計を載せて・・・] 補足: 相対論の話を少しばかり] (2007年4月17日[火]) などで GPS (Global Positioning System) に触れてはいるのだが、詳しいものではない。

もし詳細な議論をお望みなら、上記2記事で引用している "Relativity in the Global Positioning System" (Neil Ashby) を参照なさることをお薦めする。私が、ネットをザッと調べた範囲では、GPS への相対論の適用に就いてこれが一番包括的な記述であるように思われる (もっとも、私自身は、この文献の数か所を走り読みしただけで、内容を把握しているとは到底言えない。それでも、「一番包括的」などと言うのは、GPS に就いて詳しく説明した文書がネット上では、それほど少ないからである)。

そこで、紹介かたがた、以下に、"Relativity in the Global Positioning System" の第1章と第2章 (及び「要約」) の翻訳を試みることにした。この文書の「肝」は、第3章以降ではないかとも思われるが、今のところそこまでは手が回らないので、勘弁していただくことにする。それに、第2章ではサニャック効果について一応はまともな議論 (つまり、簡略化されているとは言え、一般相対論に従った解説) がされていて、これもネット上ではなかなか見られないものなので、それなりの価値があると言えるだろう。

なお、私が翻訳の底本とした "Relativity in the Global Positioning System" は a Creative Commons Attribution-Noncommercial-No Derivative Works 2.0 Germany License によって公開されている。

原文では、図や参考文献その他へのリンクのための anchor タグが数多く挿入されているが、この訳文中では機能しないため、それらは全て削ってある(第1図については、原文ではリンクされている先の大判のグラフを --そのままでは幅が広すぎて、このブログ画面には収まらないので、やや縮小して-- 訳文中に示すようにした) 。従って、参考文献番号や View Equation は「お飾り」にしかなっていないが、底本画面との見かけの対照性を維持するために残してある。


Relativity in the Global Positioning System

Neil Ashby
Dept. of Physics, University of Colorado
Boulder, CO 80309–0390
U.S.A.

'External link'http://www.colorado.edu/physics/Web/directory/faculty/ashby_n.html

This article has been revised on 21 June 2007 (see changes in detail).

Abstract

The Global Positioning System (GPS) uses accurate, stable atomic clocks in satellites and on the ground to provide world-wide position and time determination. These clocks have gravitational and motional frequency shifts which are so large that, without carefully accounting for numerous relativistic effects, the system would not work. This paper discusses the conceptual basis, founded on special and general relativity, for navigation using GPS. Relativistic principles and effects which must be considered include the constancy of the speed of light, the equivalence principle, the Sagnac effect, time dilation, gravitational frequency shifts, and relativity of synchronization. Experimental tests of relativity obtained with a GPS receiver aboard the TOPEX/POSEIDON satellite will be discussed. Recently frequency jumps arising from satellite orbit adjustments have been identified as relativistic effects. These will be explained and some interesting applications of GPS will be discussed.

グローバル・ポジショニング・システムにおける相対論

ニール・アシュビー
アメリカ合衆国コロラド州 80309–0390 ボウルダー市
コロラド大学物理学科

'External link'http://www.colorado.edu/physics/Web/directory/faculty/ashby_n.html

この文書は2007年6月21日に改訂されている。(「変更点の詳細」を参照されたい)

要約
グローバル・ポジショニング・システム (Global Positioning System/GPS) は、高精度で安定した原子時計 (衛星に搭載されたもの及び地上局に設置されたものの双方) を用いて、全世界で位置及び時刻の決定が出来るようにするためのシステムである。こうした原子時計には、重力及び運動が及ぼす影響による周波数シフトが発生するが、それは、様ざまな相対論的な影響を慎重に考慮しないならば、システムが機能しなくなる程に大きなものである。本文書では、GPS を用いた航行案内の概念的基礎を、特殊及び一般相対論に基づいて議論する。考慮すべき相対論における原理及び効果としては、光速度の不変性、等価原理、サニャック効果、時間遅延 (time dilation)、重力による周波数シフト及び、同時性が相対的であることが挙げられる。TOPEX/POSEIDON 衛星搭載の GPS 受信器による相対論の検証に就いても論じられる。最近発生した、衛星軌道調整に伴う周波数跳躍は、相対論的な効果であったことが解明された。こうしたことの説明が与えられ、また GPS の興味深い応用の幾つかが論ぜられる。

"Relativity in the Global Positioning System"
Neil Ashby
http://www.livingreviews.org/lrr-2003-1
Creative Commons License
This work is licensed under a
Creative Commons Attribution-
Noncommercial-No Derivative Works 2.0
Germany License
.
Problems/comments to livrev@aei.mpg.de

訳註


  1. http://www.colorado.edu/physics/Web/directory/faculty/ashby_n.html に就いては、このサイトで内容を紹介済みである。[nouse: Neil Ashby に就いて: 相対論の実用] (2007年4月26日[木]) を参照されたい。

  2. "changes in detail"/「変更点の詳細」へは、底本 (Relativity in the Global Positioning System) 内部からでないとでないと辿りつけないようだ。


1 Introduction

The Global Positioning System (GPS) can be described in terms of three principal “segments”: a Space Segment, a Control Segment, and a User Segment. The Space Segment consists essentially of 24 satellites carrying atomic clocks. (Spare satellites and spare clocks in satellites exist.) There are four satellites in each of six orbital planes inclined at &#x2218; 55 with respect to earth’s equatorial plane, distributed so that from any point on the earth, four or more satellites are almost always above the local horizon. Tied to the clocks are timing signals that are transmitted from each satellite. These can be thought of as sequences of events in spacetime, characterized by positions and times of transmission. Associated with these events are messages specifying the transmission events’ spacetime coordinates; below I will discuss the system of reference in which these coordinates are given. Additional information contained in the messages includes an almanac for the entire satellite constellation, information about satellite vehicle health, and information from which Universal Coordinated Time as maintained by the U.S. Naval Observatory – UTC(USNO) – can be determined.

1 序論

グローバル・ポジショニング・システム (GPS) は、大きく「宇宙」・「管制」・「利用者」の3つの部分に分けて説明することができる。宇宙部分は、本質的には、原子時計を搭載した24基の衛星からなる (予備の衛星、及び衛星内には予備の原子時計が存在する)。これら24基の衛星は、地球の赤道面に対し &#x2218; 55 傾斜した6枚の軌道平面上の各々にある4基の衛星からなっており、地球上のどの地点からも、そこでの地平線/水平線上空に、ほぼ常時4基以上の衛星が存在するように分布されている。原子時計には、各衛星から送信される時刻信号が割り当てられている。こうした信号送信は、送信位置及び送信時刻により特徴づけられる時空内での一連の事象として考えることができる。これらの事象に伴って、送信と云う事象の時空座標を特定するメッセージが送られる。こうした座標を規定する基準座標系に就いては、後述する。メッセージには、付加的な情報として、衛星系全体の航行暦 (almanac) と、衛星体の作動状態情報と、及び米国海軍天文台 (U.S. Naval Observatory/USNO) 管理担当分の協定世界時 (Universal Coordinated Time/UTC)、つまり UTC(USNO) を導き出すことが可能な情報とが含まれている。


The Control Segment is comprised of a number of ground-based monitoring stations, which continually gather information from the satellites. These data are sent to a Master Control Station in Colorado Springs, CO, which analyzes the constellation and projects the satellite ephemerides and clock behaviour forward for the next few hours. This information is then uploaded into the satellites for retransmission to users.
管制部分は、GPS 衛星からの情報を継続的に収集する幾つかの地上監視局からなる。そうしたデータは、コロラド州コロラド・スプリングズの主管制局に送られ、そこで衛星系の解析及び、以後数時間分の衛星軌道位置及び時刻推移の計画が策定される。この情報は、衛星へとアップロードされて、利用者へ配信される。


The User Segment consists of all users who, by receiving signals transmitted from the satellites, are able to determine their position, velocity, and the time on their local clocks.
利用者部分は、信号から発信された信号を受信して、自身の位置・速度及び地域計時での時刻を決定することが可能な全ての利用者からなる。

The GPS is a navigation and timing system that is operated by the United States Department of Defense (DoD), and therefore has a number of aspects to it that are classified. Several organizations monitor GPS signals independently and provide services from which satellite ephemerides and clock behavior can be obtained. Accuracies in the neighborhood of 5–10 cm are not unusual. Carrier phase measurements of the transmitted signals are commonly done to better than a millimeter.
GPS は、米国防衛総省 (United States Department of Defense/DoD) により運営されている航行案内及び計時システムであるため、機密扱いになっている局面が幾つか存在する。幾つかの機関が、個別に、GPS 信号を監視して、衛星軌道位置及び時刻推移が分かるようにするサービスを提供している。5–10 cm 程度の精度も稀なことではない。発信信号の搬送波位相測定も広く行なわれており、サブミリメートルの精度が得られる。


GPS signals are received on earth at two carrier frequencies, L1 (154 &#x00D7; 10.23 MHz) and L2 (120 &#x00D7; 10.23 MHz). The L1 carrier is modulated by two types of pseudorandom noise codes, one at 1.023 MHz – called the Coarse/Acquisition or C/A-code – and an encrypted one at 10.23 MHz called the P-code. P-code receivers have access to both L1 and L2 frequencies and can correct for ionospheric delays, whereas civilian users only have access to the C/A-code. There are thus two levels of positioning service available in real time, the Precise Positioning Service utilizing P-code, and the Standard Positioning Service using only C/A-code. The DoD has the capability of dithering the transmitted signal frequencies and other signal characteristics, so that C/A-code users would be limited in positioning accuracy to about &#x00B1;100 meters. This is termed Selective Availability, or SA. SA was turned off by order of President Clinton in May 2000.
地上で受信される GPS 信号の搬送波周波数は、L1 (154 &#x00D7; 10.23 MHz) と L2 (120 &#x00D7; 10.23 MHz) の2つがある。L1 搬送波は、2種類の擬似乱数雑音コードで変調されている。そのうちの1つは、1.023 MHz で変調されているもので、粗精度/捕捉コード (Coarse/Acquisition) 又は C/A コードと呼ばれる。他方は、10.23 MHz で変調され暗号化されているもので、P-コードと呼ばれている。P コード受信器は、L1 と L2 の双方の周波数を利用可能であって、電離層遅延の補正が可能であるのに対し、民間の利用者は C/A-コードのみの利用が可能である。従って、実時間で利用可能な位置決定サービスには、P-コードを用いる高精度位置決定サービスと、C/A-コードのみを利用する標準的位置決定サービスとの2つのレベルが存在することになる。国防総省は、送信信号の周波数その他の信号特性にディザリングを掛けることで、C/A-コード利用者の位置決定精度が、&#x00B1;100 メートル程度に限定されるようにすることが出来る。これは、選択的利用可能性 (Selective Availability/SA) と名付けられている。選択的利用可能性は、2000年5月にクリントン大統領の命令により停止された。





Figure 1
Figure 1: Typical Allan deviations of Cesium clocks and quartz oscillators, plotted as a function of averaging time &#x03C4;.
第1図: 平均化時間 &#x03C4; の関数として示されたセシウム原子時計及び水晶発振器における典型的なアラン偏差 (Allan deviation)。


The technological basis for GPS lies in extremely accurate, stable atomic clocks. Figure 1View Image gives a plot of the Allan deviation for a high-performance Cesium clock, as a function of sample time &#x03C4;. If an ensemble of clocks is initially synchronized, then when compared to each other after a time &#x03C4;, the Allan deviation provides a measure of the rms fractional frequency deviation among the clocks due to intrinsic noise processes in the clocks. Frequency offsets and frequency drifts are additional systematic effects which must be accounted for separately. Also on Figure 1View Image is an Allan deviation plot for a Quartz oscillator such as is typically found in a GPS receiver. Quartz oscillators usually have better short-term stability performance characteristics than Cesium clocks, but after 100 seconds or so, Cesium has far better performance. In actual clocks there is a wide range of variation around the nominal values plotted in Figure 1View Image.
GPS の技術的な基礎となっているのは、極めて正確で安定した原子時計である。図 1View Image には、サンプル時間の関数として高性能セシウム時計のアラン偏差が表示されてる。幾つかの時計を、初めに同期化してから、時間&#x03C4; の経過につれて互いを比較すると、アラン偏差は、時計に固有な雑音過程による、時計同士間の二乗平均平方根 (rms) 周波数偏差比 (fractional frequency deviation) を表わす。周波数オフセット及び周波数ドリフトも、別途考慮する必要のある構造的効果である。図 1View Image には、GPS 受信器に典型的に見られるような水晶発振器のアラン偏差も表示してある。水晶発振器は、通常、短期の安定特性では、セシウム時計よりも優れいてるが、100秒程度を越えると、セシウム時計の方が断然優れた性能を示す。実際の時計の変動域は、図 1View Image に示された公称値を含む幅広いものである。


The plot for Cesium, however, characterizes the best orbiting clocks in the GPS system. What this means is that after initializing a Cesium clock, and leaving it alone for a day, it should be correct to within about 5 parts in 1014, or 4 nanoseconds. Relativistic effects are huge compared to this.
しかしながら、このセシウム時計に就いてのグラフは、GPS システムにおいて軌道上にある時計として最良の様態を特徴づけるものなのである。これはつまり、セシウム時計は、初期化された後、1日放置されるなら、1014 分の 5 程度、言い換えると、4 ナノ秒ぐらいまでの補正が必要になると云うことである。相対論的な効果は、これと比較して非常に大きいのである。


The purpose of this article is to explain how relativistic effects are accounted for in the GPS. Although clock velocities are small and gravitational fields are weak near the earth, they give rise to significant relativistic effects. These effects include first- and second-order Doppler frequency shifts of clocks due to their relative motion, gravitational frequency shifts, and the Sagnac effect due to earth’s rotation. If such effects are not accounted for properly, unacceptably large errors in GPS navigation and time transfer will result. In the GPS one can find many examples of the application of fundamental relativity principles. These are worth careful study. Also, experimental tests of relativity can be performed with GPS, although generally speaking these are not at a level of precision any better than previously existing tests.
この文書の目的は、GPS において相対論的な効果が如何に考慮されているかを説明することにある。時計は低速度であり、地球近辺での重力場は弱いとは言え、そられは、重大な相対論的効果を引き起こす。そうした効果としては、時計の相対的運動による1次ドップラー周波数シフトと2次ドップラー周波数シフト、重力による周波数シフト、地球の自転によるサニャック効果が挙げられる。こうした効果を正当に考慮しないならば、認容しえないほど大きい誤差が、GPS による航行案内と時刻比較に発生することになる。GPS には、基本的な相対論的原理の応用例が数多く見られる。そうしたものは、注意深い研究に値する。また、GPS を用いて、相対論の検証実験を行なうことも可能である。もっとも、概して言えば、そうした検証実験は、既存の実験と比較して、精度が高いとは少しも言えないのだが。


The principles of position determination and time transfer in the GPS can be very simply stated. Let there be four synchronized atomic clocks that transmit sharply defined pulses from the positions rj at times tj, with j = 1,2,3,4 an index labelling the different transmission events. Suppose that these four signals are received at position r at one and the same instant t. Then, from the principle of the constancy of the speed of light,

c2&amp;#x0028;t &amp;#x2212; tj&amp;#x0029;2 = &amp;#x007C;r &amp;#x2212; rj&amp;#x007C;2, j = 1,2,3,4. &amp;#x0028;1 &amp;#x0029;

where the defined value of c is exactly 299792458 m s&#x2212;1. These four equations can be solved for the unknown space-time coordinates &#x007B;r,t&#x007D; of the reception event. Hence, the principle of the constancy of c finds application as the fundamental concept on which the GPS is based. Timing errors of one ns will lead to positioning errors of the order of 30 cm. Also, obviously, it is necessary to specify carefully the reference frame in which the transmitter clocks are synchronized, so that Eq. (1View Equation) is valid.
GPS における位置決定及び時刻比較原理は、非常に簡単に述べることができる。今、4台の同期した原子時計が、時刻 tj に、位置 rj から (ここで、添え字 j = 1,2,3,4 は、異なる送信事象を表わす)、エッジが急峻な (sharply defined) パルスを発信したものとしよう。これら 4つの信号は、位置 r において同一時刻 t に受信されたものとすると、光速度不変の原理より、

c2&amp;#x0028;t &amp;#x2212; tj&amp;#x0029;2 = &amp;#x007C;r &amp;#x2212; rj&amp;#x007C;2, j = 1,2,3,4. &amp;#x0028;1 &amp;#x0029;

が成り立つ。ただし、ここで c の定義値は、正確に 299792458 m s&#x2212;1 に等しい。こられ4つの方程式は、受信事象の未知の時空座標 &#x007B;r,t&#x007D; に就いて解くことが可能である。こうして、c 一定の原理は、GPS の基礎をなす基本概念としての応用を有している。時刻誤差が 1 ナノ秒あったとすると、位置の決定が 30 cm 程度ズレることになる。また、明らかなことだが、式 (1View Equation) が有効なものになるよう、送信側の時計を同期化するための基準座標系は慎重に指定されねばならない。


The timing pulses in question can be thought of as places in the transmitted wave trains where there is a particular phase reversal of the circularly polarized electromagnetic signals. At such places the electromagnetic field tensor passes through zero and therefore provides relatively moving observers with sequences of events that they can agree on, at least in principle.
ここで謂うところの時刻パルスとは、送信された波動の列の中で、円偏光電磁信号での特定の位相反転が起きている箇所のことと見なせる。そうした箇所では、電磁場テンソルがゼロ値を通過するため、少なくとも原理上は、相対的な運動を行なっている観測者に対し、一致可能な事象系列を提供することになる。

"Relativity in the Global Positioning System"
Neil Ashby
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訳註


  1. 恒星日 を 86164.091 秒として、その 1014 分の 5 を求めると 4.31 ナノ秒ほどになる。


2 Reference Frames and the Sagnac Effect
Almost all users of GPS are at fixed locations on the rotating earth, or else are moving very slowly over earth’s surface. This led to an early design decision to broadcast the satellite ephemerides in a model earth-centered, earth-fixed, reference frame (ECEF frame), in which the model earth rotates about a fixed axis with a defined rotation rate, &#x03C9;E = 7.2921151467 &#x00D7; 10 &#x2212;5 rad s&#x2212; 1. This reference frame is designated by the symbol WGS-84 (G873) [19, 3]. For discussions of relativity, the particular choice of ECEF frame is immaterial. Also, the fact the the earth truly rotates about a slightly different axis with a variable rotation rate has little consequence for relativity and I shall not go into this here. I shall simply regard the ECEF frame of GPS as closely related to, or determined by, the International Terrestrial Reference Frame established by the International Bureau of Weights and Measures (BIPM) in Paris.

2 基準座標系とサニャック効果

殆ど全ての GPS 利用者は、自転する地球上で固定した位置にいるか、又は、地表を非常にゆっくりとした速度で移動している。このため当初決定された設計では、地球中心地球固定基準座標系 (earth-centered, earth-fixed, reference frame/ECEF frame) モデル内での衛星軌道位置を送信することとなった。この地球モデルは、一定角速度 &#x03C9;E = 7.2921151467 &#x00D7; 10 &#x2212;5 rad s&#x2212; 1 で、固定した軸を中心にして自転している。この基準座標系には、記号 WGS-84 (G873) [19, 3] が付与されている。相対論に就いて議論する場合は、ECEF 基準座標系の具体的な選択は問題とならない。また、地球は、実際には、僅かに異なる軸を中心にし、回転速度が変動すると云う事実も、相対論上の議論には殆ど影響しないので、本文書では、この点を論じないおく。本文書では、GPS の ECEF 基準座標系とは、パリ国際度量衡局 (International Bureau of Weights and Measures/BIPM) が規定した国際地球基準座標系 (International Terrestrial Reference Frame/ITRF) と密接に関係する、もしくは、国際地球基準座標系によって決定されるものであると云うことだけにしておく。


It should be emphasized that the transmitted navigation messages provide the user only with a function from which the satellite position can be calculated in the ECEF as a function of the transmission time. Usually, the satellite transmission times tj are unequal, so the coordinate system in which the satellite positions are specified changes orientation from one measurement to the next. Therefore, to implement Eqs. (1View Equation), the receiver must generally perform a different rotation for each measurement made, into some common inertial frame, so that Eqs. (1View Equation) apply. After solving the propagation delay equations, a final rotation must usually be performed into the ECEF to determine the receiver’s position. This can become exceedingly complicated and confusing. A technical note [10] discusses these issues in considerable detail.
送信された航行案内メッセージから、利用者は、送信時刻の関数の形で、ECEF 慣性基準座標系内での衛星位置の計算値を導き出す関数が得られるだけであることは強調しておかねばならない。通常、複数の衛星からの送信時刻 tj は一致しないため、衛星の位置が指定される座標系は、計測の度に、方向が変わっている。従って、式 (1View Equation) を具体化するには、利用者は、一般には、測定の度に一定の共通な慣性座標系に対して異なる回転を与えて、式 (1View Equation) が適応するようにしなければならない。伝搬遅延方程式を解いた後には、通常 ECEF に最終的な回転を与えて、受信器の位置を決定する。これは、極めて複雑で混乱を招くものになりうる。技術上の注意点 [10] では、こうした問題点が相当に詳しく論じられている。


Although the ECEF frame is of primary interest for navigation, many physical processes (such as electromagnetic wave propagation) are simpler to describe in an inertial reference frame. Certainly, inertial reference frames are needed to express Eqs. (1View Equation), whereas it would lead to serious error to assert Eqs. (1View Equation) in the ECEF frame. A “Conventional Inertial Frame” is frequently discussed, whose origin coincides with earth’s center of mass, which is in free fall with the earth in the gravitational fields of other solar system bodies, and whose z-axis coincides with the angular momentum axis of earth at the epoch J2000.0. Such a local inertial frame may be related by a transformation of coordinates to the so-called International Celestial Reference Frame (ICRF), an inertial frame defined by the coordinates of about 500 stellar radio sources. The center of this reference frame is the barycenter of the solar system.
ECEF 基準座標系は、航行案内においては第一義的な重要性を持つとは言え、(電磁波伝搬など) 多くの物理過程は、慣性基準座標系で叙述した方が単純になる。実際、式 (1View Equation) を表現するには慣性基準座標系が必要であるのに対し、ECEF 基準座標系内において式 (1View Equation) を主張するなら、重大な誤りを犯すことになる。「慣用慣性座標系 (Conventional Inertial Frame)」に就いて言及されることがしばしばあるが、これは、原点が地球の重心に一致し、太陽系の他の天体の作る重力場の中で地球と共に自由落下しており、その z-軸が、元期 (epoch) J2000.0 における地球の角運動量の軸と一致するような慣性座標系のことである。こうした局所慣性座標系は、座標変換により、約 500 個の電波天体の座標によって定義される慣性基準座標系である所謂「国際天文基準座標系 (International Celestial Reference Frame/ICRF)」と関連付けられることができる。この基準座標系の中心は、太陽系の重心である。


In the ECEF frame used in the GPS, the unit of time is the SI second as realized by the clock ensemble of the U.S. Naval Observatory, and the unit of length is the SI meter. This is important in the GPS because it means that local observations using GPS are insensitive to effects on the scales of length and time measurements due to other solar system bodies, that are time-dependent.
GPS で用いられている ECEF 基準座標系では、時間の単位は、米国海軍天文台の時計群が実現している「SI 秒」であり、長さの単位は 「SI メートル」である。このことは、GPS を用いた局所的な観測が、時間依存的である太陽系の他の天体の長さ・時間測定尺度への効果の影響を受けないことを意味し、GPS にとり重要である。


Let us therefore consider the simplest instance of a transformation from an inertial frame, in which the space-time is Minkowskian, to a rotating frame of reference. Thus, ignoring gravitational potentials for the moment, the metric in an inertial frame in cylindrical coordinates is

2 2 2 2 2 2 &amp;#x2212; ds = &amp;#x2212; &amp;#x0028;c dt&amp;#x0029; + dr + r d&amp;#x03C6; + dz , &amp;#x0028;2 &amp;#x0029;

and the transformation to a coordinate system &#x007B;t&#x2032;,r&#x2032;,&#x03C6;&#x2032;,z &#x2032;&#x007D; rotating at the uniform angular rate &#x03C9;E is

&amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; t = t, r = r, &amp;#x03C6; = &amp;#x03C6; + &amp;#x03C9;Et , z = z. &amp;#x0028;3 &amp;#x0029;

This results in the following well-known metric (Langevin metric) in the rotating frame:

&amp;#x0028; &amp;#x03C9;2 r&amp;#x2032;2 &amp;#x0029; &amp;#x2212; ds2 = &amp;#x2212; 1 &amp;#x2212; --E2-- &amp;#x0028;cdt&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 + 2&amp;#x03C9;Er &amp;#x2032;2d &amp;#x03C6;&amp;#x2032;dt&amp;#x2032; + &amp;#x0028;d&amp;#x03C3;&amp;#x2032;&amp;#x0029;2, &amp;#x0028;4 &amp;#x0029; c

where the abbreviated expression &#x0028;d &#x03C3;&#x2032;&#x0029;2 = &#x0028;dr&#x2032;&#x0029;2 + &#x0028;r&#x2032;d&#x03C6;&#x2032;&#x0029;2 + &#x0028;dz &#x2032;&#x0029;2 for the square of the coordinate distance has been used.
そこで、慣性基準座標系からの変換の一番簡単な例、つまり、ミンコフスキー時空から回転基準座標系への変換を考えよう。従って、差し当たりは重力ポテンシャルは無視して、慣性基準座標系の計量を円筒座標系で表わすと

2 2 2 2 2 2 &amp;#x2212; ds = &amp;#x2212; &amp;#x0028;c dt&amp;#x0029; + dr + r d&amp;#x03C6; + dz , &amp;#x0028;2 &amp;#x0029;

となるが、ここで一様な角速度 &#x03C9;E で回転する座標系 &#x007B;t&#x2032;,r&#x2032;,&#x03C6;&#x2032;,z &#x2032;&#x007D; への変換

&amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x2032; t = t, r = r, &amp;#x03C6; = &amp;#x03C6; + &amp;#x03C9;Et , z = z. &amp;#x0028;3 &amp;#x0029;

を行なうなら、その結果は、回転基準座標系での周知の計量 (ランジェヴァン計量/Langevin metric)

&amp;#x0028; &amp;#x03C9;2 r&amp;#x2032;2 &amp;#x0029; &amp;#x2212; ds2 = &amp;#x2212; 1 &amp;#x2212; --E2-- &amp;#x0028;cdt&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 + 2&amp;#x03C9;Er &amp;#x2032;2d &amp;#x03C6;&amp;#x2032;dt&amp;#x2032; + &amp;#x0028;d&amp;#x03C3;&amp;#x2032;&amp;#x0029;2, &amp;#x0028;4 &amp;#x0029; c

を導く。ただし、ここでは座標距離の平方に対する簡約化した記法 &#x0028;d &#x03C3;&#x2032;&#x0029;2 = &#x0028;dr&#x2032;&#x0029;2 + &#x0028;r&#x2032;d&#x03C6;&#x2032;&#x0029;2 + &#x0028;dz &#x2032;&#x0029;2 が用いられいてる。


The time transformation t = t&#x2032; in Eqs. (3View Equation) is deceivingly simple. It means that in the rotating frame the time variable t&#x2032; is really determined in the underlying inertial frame. It is an example of coordinate time. A similar concept is used in the GPS.
式 (3View Equation) における単純な時間変換 t = t&#x2032; は曲者である。その意味するところは、回転基準座標系においては時間変数 t&#x2032; が、実際には、前提となる慣性基準座標系により決定されると云うことである。それは座標時間の例となっている。同様な概念が GPS でも用いられている。


Now consider a process in which observers in the rotating frame attempt to use Einstein synchronization (that is, the principle of the constancy of the speed of light) to establish a network of synchronized clocks. Light travels along a null worldline, so we may set ds2 = 0 in Eq. (4View Equation). Also, it is sufficient for this discussion to keep only terms of first order in the small parameter &#x2032; &#x03C9;Er &#x2215;c. Then

&amp;#x2032;2 &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x0028;cdt&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 &amp;#x2212; 2-&amp;#x03C9;Er-d&amp;#x03C6;-&amp;#x0028;cdt-&amp;#x0029; &amp;#x2212; &amp;#x0028;d&amp;#x03C3;&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 = 0, &amp;#x0028;5 &amp;#x0029; c

and solving for &#x0028;cdt&#x2032;&#x0029; yields

&amp;#x03C9;Er &amp;#x2032;2d&amp;#x03C6;&amp;#x2032; cdt&amp;#x2032; = d&amp;#x03C3;&amp;#x2032; + --------. &amp;#x0028;6 &amp;#x0029; c

さて、回転基準座標系内の観測者が "Einstein synchronization" (つまりは、光速度不変の原理) を用いて、一連の同期した時計の体系を構築しようとしたと考えてみよう。光は、ヌル世界線に沿って進行するので、式 (4View Equation) において ds2 = 0 とおいてよい。また、この議論にあっては微小なパラメータ &#x2032; &#x03C9;Er &#x2215;c の1次の項までを考えるだけで充分である。そこで

&amp;#x2032;2 &amp;#x2032; &amp;#x2032; &amp;#x0028;cdt&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 &amp;#x2212; 2-&amp;#x03C9;Er-d&amp;#x03C6;-&amp;#x0028;cdt-&amp;#x0029; &amp;#x2212; &amp;#x0028;d&amp;#x03C3;&amp;#x2032;&amp;#x0029;2 = 0, &amp;#x0028;5 &amp;#x0029; c

が成り立つから、これを &#x0028;cdt&#x2032;&#x0029; について解くと

&amp;#x03C9;Er &amp;#x2032;2d&amp;#x03C6;&amp;#x2032; cdt&amp;#x2032; = d&amp;#x03C3;&amp;#x2032; + --------. &amp;#x0028;6 &amp;#x0029; c

が得られる。


The quantity r&#x2032;2d&#x03C6; &#x2032;&#x2215;2 is just the infinitesimal area dA &#x2032;z in the rotating coordinate system swept out by a vector from the rotation axis to the light pulse, and projected onto a plane parallel to the equatorial plane. Thus, the total time required for light to traverse some path is

&amp;#x222B; &amp;#x222B; &amp;#x2032; &amp;#x222B; dt&amp;#x2032; = d&amp;#x03C3;--+ 2&amp;#x03C9;E- dA &amp;#x2032;. &amp;#x005B;light&amp;#x005D; &amp;#x0028;7 &amp;#x0029; path pathc c2 path z


r&#x2032;2d&#x03C6; &#x2032;&#x2215;2 は、回転座標系内において、回転軸から光パルス迄のベクトルが掃過する無限小領域を赤道面と平行な平面に投影した無限小面積 dA &#x2032;z そのものである。従って、光が、或る径路を通過するのに掛かる総時間は

&amp;#x222B; &amp;#x222B; &amp;#x2032; &amp;#x222B; dt&amp;#x2032; = d&amp;#x03C3;--+ 2&amp;#x03C9;E- dA &amp;#x2032;. &amp;#x005B;light&amp;#x005D; &amp;#x0028;7 &amp;#x0029; path pathc c2 path z

となる。


Observers fixed on the earth, who were unaware of earth rotation, would use just &#x222B; &#x2032; d&#x03C3; &#x2215;c for synchronizing their clock network. Observers at rest in the underlying inertial frame would say that this leads to significant path-dependent inconsistencies, which are proportional to the projected area encompassed by the path. Consider, for example, a synchronization process that follows earth’s equator in the eastwards direction. For earth, 2&#x03C9; &#x2215;c2 = 1.6227 &#x00D7; 10&#x2212;21 s m &#x2212;2 E and the equatorial radius is a1 = 6,378,137 m, so the area is 2 14 2 &#x03C0;a 1 = 1.27802 &#x00D7; 10 m. Thus, the last term in Eq. (7View Equation) is

2 &amp;#x03C9; &amp;#x222B; --2E dA &amp;#x2032;z = 207.4 ns. &amp;#x0028;8 &amp;#x0029; c path

地上に固定している観測者は、地球の自転を意識しないなら、時計の体系を同期化するために、&#x222B; &#x2032; d&#x03C3; &#x2215;c だけを利用することになるだろうが、回転座標系の前提となっている慣性基準座標系内で静止している観測者なら、そうした同期化していくと、径路が囲む領域の投影面積に比例する、径路依存の重大なズレが生じると指摘するであろう。例えば、地上を赤道に沿って東回りに同期化していく場合のことを考えてみよう。地球の諸元によるなら 2&#x03C9; &#x2215;c2 = 1.6227 &#x00D7; 10&#x2212;21 s m &#x2212;2 E であり、赤道半径は a1 = 6,378,137 m だから、赤道が囲む面積は 2 14 2 &#x03C0;a 1 = 1.27802 &#x00D7; 10 m となる。従って、式  (7View Equation) の最後の項は

2 &amp;#x03C9; &amp;#x222B; --2E dA &amp;#x2032;z = 207.4 ns. &amp;#x0028;8 &amp;#x0029; c path

となる。


From the underlying inertial frame, this can be regarded as the additional travel time required by light to catch up to the moving reference point. Simple-minded use of Einstein synchronization in the rotating frame gives only &#x222B; &#x2032; d&#x03C3; &#x2215;c, and thus leads to a significant error. Traversing the equator once eastward, the last clock in the synchronization path would lag the first clock by 207.4 ns. Traversing the equator once westward, the last clock in the synchronization path would lead the first clock by 207.4 ns.
回転座標系の前提となる慣性基準座標系の見地からは、これは、移動する基準点に光が追い付くのに掛かる付加的な時間と見なすことができる。Einstein synchronization を素朴に適用するなら &#x222B; &#x2032; d&#x03C3; &#x2215;c しか得られず、このため、重大な誤差が生じる。赤道上を東回りに同期化を進めた場合、径路を同期化していった最後の時計は、最初の時計より 207.4 ns 遅れるのである。西回りに進めた場合には、径路を同期化していった最後の時計は、最初の時計より 207.4 ns 進む。


In an inertial frame a portable clock can be used to disseminate time. The clock must be moved so slowly that changes in the moving clock’s rate due to time dilation, relative to a reference clock at rest on earth’s surface, are extremely small. On the other hand, observers in a rotating frame who attempt this, find that the proper time elapsed on the portable clock is affected by earth’s rotation rate. Factoring Eq. (4View Equation), the proper time increment d &#x03C4; on the moving clock is given by

&amp;#x230A; &amp;#x0028; &amp;#x2032;&amp;#x0029;2 &amp;#x2032;2 &amp;#x2032; &amp;#x0028; &amp;#x2032;&amp;#x0029;2&amp;#x230B; &amp;#x0028;d&amp;#x03C4;&amp;#x0029;2 = &amp;#x0028;ds&amp;#x2215;c&amp;#x0029;2 = dt&amp;#x2032;2&amp;#x2308;1 &amp;#x2212; &amp;#x03C9;Er-- &amp;#x2212; 2&amp;#x03C9;Er--d&amp;#x03C6;--&amp;#x2212; d&amp;#x03C3;-- &amp;#x2309; . &amp;#x0028;9 &amp;#x0029; c c2dt&amp;#x2032; cdt&amp;#x2032;

慣性基準座標系にあっては、移動式の時計を時間同期のために使うことができる。そうした時計は、移動中、地上に静止している基準時計に対して、移動する側の時計での時間遅延による時間の進み方の変化が極めて小さくなるよう緩やかに移動しなければならない。他方、回転基準座標系内の観測者が、同じことをしようとすると、移動式時計で経過する固有時間が、地球の自転速度に影響されることを見いだすことになる。式 (4View Equation) を積の形に表わすと、移動する時計における固有時間の増分 d &#x03C4;

&amp;#x230A; &amp;#x0028; &amp;#x2032;&amp;#x0029;2 &amp;#x2032;2 &amp;#x2032; &amp;#x0028; &amp;#x2032;&amp;#x0029;2&amp;#x230B; &amp;#x0028;d&amp;#x03C4;&amp;#x0029;2 = &amp;#x0028;ds&amp;#x2215;c&amp;#x0029;2 = dt&amp;#x2032;2&amp;#x2308;1 &amp;#x2212; &amp;#x03C9;Er-- &amp;#x2212; 2&amp;#x03C9;Er--d&amp;#x03C6;--&amp;#x2212; d&amp;#x03C3;-- &amp;#x2309; . &amp;#x0028;9 &amp;#x0029; c c2dt&amp;#x2032; cdt&amp;#x2032;

で表わされる。


For a slowly moving clock, &#x0028;d&#x03C3;&#x2032;&#x2215;cdt&#x2032;&#x0029;2 &#x226A; 1, so the last term in brackets in Eq. (9View Equation) can be neglected. Also, keeping only first order terms in the small quantity &#x03C9;Er &#x2032;&#x2215;c yields

&amp;#x03C9; r&amp;#x2032;2d &amp;#x03C6;&amp;#x2032; d &amp;#x03C4; = dt&amp;#x2032; &amp;#x2212;--E-2---- &amp;#x0028;10 &amp;#x0029; c

which leads to

&amp;#x222B; &amp;#x2032; &amp;#x222B; 2&amp;#x03C9;E-&amp;#x222B; &amp;#x2032; pathdt = pathd&amp;#x03C4; + c2 pathdA z. &amp;#x005B;portable clock&amp;#x005D; &amp;#x0028;11 &amp;#x0029;

緩やかに移動する時計では、&#x0028;d&#x03C3;&#x2032;&#x2215;cdt&#x2032;&#x0029;2 &#x226A; 1 となるから、式 (9View Equation) の角括弧内最後の項は無視することができる。さらに、微小な1次の項 &#x03C9;Er &#x2032;&#x2215;c だけを残すなら、その結果として

&amp;#x03C9; r&amp;#x2032;2d &amp;#x03C6;&amp;#x2032; d &amp;#x03C4; = dt&amp;#x2032; &amp;#x2212;--E-2---- &amp;#x0028;10 &amp;#x0029; c

が得られる。したがって

&amp;#x222B; &amp;#x2032; &amp;#x222B; 2&amp;#x03C9;E-&amp;#x222B; &amp;#x2032; pathdt = pathd&amp;#x03C4; + c2 pathdA z. &amp;#x005B;portable clock&amp;#x005D; &amp;#x0028;11 &amp;#x0029;

である。


This should be compared with Eq. (7View Equation). Path-dependent discrepancies in the rotating frame are thus inescapable whether one uses light or portable clocks to disseminate time, while synchronization in the underlying inertial frame using either process is self-consistent.
これは、式 (7View Equation) に相当するものである。このように、回転基準座標系で発生する径路依存型のズレは、時刻の同期化に光を使っても移動式の時計を使っても免れることはできない。これに対し、回転基準座標系の前提となっている慣性基準座標系では、どちらの方法でも同期化は食い違いを生じない。


Eqs. (7View Equation) and (11View Equation) can be reinterpreted as a means of realizing coordinate time t&#x2032; = t in the rotating frame, if after performing a synchronization process appropriate corrections of the form +&#x222B; &#x2032; 2 2&#x03C9;E pathdA z&#x2215;c are applied. It is remarkable how many different ways this can be viewed. For example, from the inertial frame it appears that the reference clock from which the synchronization process starts is moving, requiring light to traverse a different path than it appears to traverse in the rotating frame. The Sagnac effect can be regarded as arising from the relativity of simultaneity in a Lorentz transformation to a sequence of local inertial frames co-moving with points on the rotating earth. It can also be regarded as the difference between proper times of a slowly moving portable clock and a Master reference clock fixed on earth’s surface.
式 (7View Equation) 及び (11View Equation) は、同期化を行なった後、+&#x222B; &#x2032; 2 2&#x03C9;E pathdA z&#x2215;c と云う適切な補正を行なうならば、回転基準座標系内において、座標時間 t&#x2032; = t が見出だされると解釈しなおすこともできる。これには数多くの見方が可能あることは注目すべきである。例えば、慣性基準座標系から見ると、同期化を開始する基準時計は移動しており、光は、回転基準座標系から見る場合とは異なる径路を進まねばならない。サニャック効果は、ローレンツ変換の同時性が、自転する地球上の諸地点と共に運動する一連の局所慣性基準座標系に対して相対的であることから発生すると解釈できるが、また、サニャック効果は、緩やかに進む移動式時計の固有時間と、地上に固定した主基準時計の固有時間の相違と見なすこともできる。


This was recognized in the early 1980s by the Consultative Committee for the Definition of the Second and the International Radio Consultative Committee who formally adopted procedures incorporating such corrections for the comparison of time standards located far apart on earth’s surface. For the GPS it means that synchronization of the entire system of ground-based and orbiting atomic clocks is performed in the local inertial frame, or ECI coordinate system [6].
このことは、1980年代初頭には、「秒の定義のための諮問委員会 (Consultative Committee for the Definition of the Second)」及び「国際無線通信諮問委員会 (International Radio Consultative Committee)」によって認識され、地表から遠く離れた場所に位置における時刻標準との比較のために、こうした補正を取り入れる手続きが正式に採用された。それは、GPS にとっては、地上局内及び軌道上の全ての原子時計の体系の同期化を、局所慣性基準座標系、つまりは、ECI 座標系内で行なうことを意味する [6]


GPS can be used to compare times on two earth-fixed clocks when a single satellite is in view from both locations. This is the “common-view” method of comparison of Primary standards, whose locations on earth’s surface are usually known very accurately in advance from ground-based surveys. Signals from a single GPS satellite in common view of receivers at the two locations provide enough information to determine the time difference between the two local clocks. The Sagnac effect is very important in making such comparisons, as it can amount to hundreds of nanoseconds, depending on the geometry. In 1984 GPS satellites 3, 4, 6, and 8 were used in simultaneous common view between three pairs of earth timing centers, to accomplish closure in performing an around-the-world Sagnac experiment. The centers were the National Bureau of Standards (NBS) in Boulder, CO, Physikalisch-Technische Bundesanstalt (PTB) in Braunschweig, West Germany, and Tokyo Astronomical Observatory (TAO). The size of the Sagnac correction varied from 240 to 350 ns. Enough data were collected to perform 90 independent circumnavigations. The actual mean value of the residual obtained after adding the three pairs of time differences was 5 ns, which was less than 2 percent of the magnitude of the calculated total Sagnac effect [4].

GPS は、2つの地上に固定された時計から単一の衛星が見える時には、それらの時計間の時刻を比較するのに利用することができる。これが、前もって地上測量により地上位置が非常に正確に分っているのが普通である時間一次標準器間の比較を行なう「衛星仲介遠隔較正法 (common-view method)」である。2か所にある受信器から共通して見える単一の衛星からの信号から、地上の2つの時計間の時間差を決定するのに充分な情報が得られる。サニャック効果は、配置によっては数百ナノ秒に上るので、こうした比較を行なう際に極めて重要である。1984年、3対の地上時間センターから同時に共通して見える GPS 3号機、4号機、6号機、8号機が、地球周回サニャック効果実験に最終的な結論を出すために、用いられた。その地上センターとは、米国コロラド州ボウルダー市の「国立標準局 (National Bureau of Standards/NBS)」、ドイツ国ブラウンシュヴァイク (Braunschweig) の「国立理工学研究所 (Physikalisch-Technische Bundesanstalt/PTB)」と東京の国立天文台 (Tokyo Astronomical Observatory/TAO) である。サニャック効果による補正量は、240 ナノ秒乃至 350 ナノ秒であった。独立した 90 回の周回により充分なデータが収集された。3対の時間差を加えて得られた差し引き残余の実際の平均値は 5 ナノ秒であり、サニャック効果の計算合計値より 2 パーセント未満であった  [4]




"Relativity in the Global Positioning System"
Neil Ashby
http://www.livingreviews.org/lrr-2003-1
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訳註


  1. 1 恒星日 を 86164.091 秒とし、円周率 π を 3.141592654 として、地球自転の角速度を計算すると 2π/86164.091 = 7.292115816 × 10-5 が得られる。

  2. 米国の "National Bureau of Standards/NBS" は 1988 年に、改組されて、"National Institute of Standards and Technology/NIST" となっているが、そのまま訳してある。他方、原文 "West Germany" は、現況に合わせて「ドイツ国」と訳した。

参考文献

[3] Department of Defense World Geodetic System 1984 – Its Definition and Relationships with Local Geodetic Systems, NIMA Technical Report, TR8350.2, (National Imagery and Mapping Agency, Bethesda, U.S.A., 2004). Related online version (cited on 11 June 2007):
External Linkhttp://earth-info.nga.mil/GandG/publications/tr8350.2/tr8350_2.html. 3rd amended edition.

[4] Allan, D.W., Weiss, M., and Ashby, N., “Around-the-World Relativistic Sagnac Experiment”, Science, 228, 69–70, (1985).

[6] Ashby, N., An Earth-Based Coordinate Clock Network, NBS Technical Note, 659; S.D. Catalog # C13:46:659, (U.S. Dept. of Commerce, U.S. Government Printing Office, Washington, U.S.A.,
1975).

[10] Ashby, N., and Weiss, M., Global Positioning System Receivers and Relativity, NIST Technical Note, TN 1385, (National Institute of Standards and Technology, Boulder, U.S.A., 1999).

[19] Malys, S., and Slater, J., “Maintenance and Enhancement of the World Geodetic System 1984”, in Proceedings of the 7th International Technical Meeting of The Satellite Division of The Institute of Navigation (ION GPS-94), September 20–23, 1994, Salt Palace Convention Center - Salt Lake City, UT, 17–24, (Institute of Navigation, Fairfax, U.S.A., 1994).




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Neil Ashby
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  5. nouse: ドイツ語版ウィキペディア "Sagnac-Interferometer" 訳文
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  11. nouse: ホロノミー (holonomy) としてのサニャック効果 (Sagnac effect): 物理篇
  12. nouse: [nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出] の URL (所謂「固定リンク」) に就いて
  13. nouse: 日本語版ウィキペディアの「サニャック効果」に対する誤った解説について。付けたし:欧州宇宙機関の HYPER プロジェクト

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2009年1月 8日 (木)

日本語版ウィキペディアの「サニャック効果」に対する誤った解説について。付けたし:欧州宇宙機関の HYPER プロジェクト

日本語版ウィキペディアの [サニャック効果 (最終更新 2008年12月10日 (水) 12:32)] の冒頭はこう始まっている。



サニャック効果( - こうか、Sagnac effect)は光に関する物理現象の一つで、特殊相対性理論で説明される現象によって、光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である為に、光路の運動によって光路の長さが変わったかのように見える現象である。
--サニャック効果 (最終更新 2008年12月10日 (水) 12:32)

しかし、この文章は物理学上、殆ど意味をなさない。僅かに、意味があるとしたら、相対論に就いての初歩的な勘違いの見本に使えるかもしれないと云ったぐらいだろう。

これが、実質的に一人の著作になるものなのか、あるいは「多くの船頭」がいたのかを確かめるほどの茶人では私はないし、また分かったとしても、他人様の頭の上の蝿を追う趣味はないので、以下は、誰彼の責任を追及するものでは全くないことを断わったうえで、話を続けていく。

この文章中の「光路」が如何なる意味で使われているのかが、まず問題になる。相対論で、時空中を自由な光が進む軌跡は所謂「ゼロ測地線/zero geodesic」(或いは「ヌル測地線/null geodesic」) になる。しかし、「光路の運動」と云う表現が物理的意味を持つには、「光路」がゼロ測地線そのものであることは難しいだろう。勿論、ゼロ測地線とは別のものである可能性もない訳ではないが、しかし「光の速度が...一定」であると言っている以上、ゼロ測地線の「空間」(「時空」の「空」部分) への投影を、時間をパラメータとして表現していると推定するのが最も妥当と言うべきだろう。勿論、これは「時空多様体」に「時間軸」を含む大域的な座標軸が存在している場合の話だが、「サニャック効果」が主題となる文脈では、この条件は満たされていると考えて良いだろう。

つまり、「光路の運動」とは、ゼロ測地線が載っている座標系が、観測者が載っている座標系に対して運動していると云うことを言いたいのだと考えることができる。

これを念頭に置いて、改めて、ウィキペディアの文章を読むと、「特殊相対性理論で説明される現象によって、光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である」となっていて、これだけで、この文章は「アウト」なのだ。

特殊相対論が言っているのは、異なる慣性系が互いに等速直線運動をしているなら (まぁ、一方の慣性系から見て、他方の慣性系が等速直線運動をしているなら、自動的に、その逆がなりたっているのだが...) 、真空中を進む同一の光の速度を、どちらの慣性系の時間と空間距離を以って測っても同一になると云うことだけである。

しかし、特殊相対論では、基本的には、それ以上のことは言えない。

一般の時空多様体は、ミンコフスキー空間 (つまり慣性系) を貼り合わせた構造を持つので、局所的には、慣性系になっている。従って、観測者が載っている局所座標系を取り敢えずは慣性系と見なすことは可能である (そして、それに載っている観測者自身に対しては静止している。以下、こうした座標系を「静止座標系」と呼ぶことにする)。しかし、静止座標系を作るのと同一の手続きで、真空中の光をゼロ測地線として載せいてる別の座標系を、静止座標系に対して等速直線運動をする慣性系にすることは一般には不可能である。そして、大雑把な言い方では、(サニャック効果に沿った例を挙げると) 静止座標系に対して回転運動する座標系に載っているゼロ測地線としての光の速度を静止座標系に乗っている観測者が測ると、一般には (具体的には、例えば、空間中、回転の接線方向に光が進んでいる場合など)、特殊相対論の謂う「真空中の光速 c」にはならない。

ここで「権威」を持ち出して議論の補強ような愚劣なことをする積もりはないが、それでも一般相対論の優れた解説者の言葉を引用しておくのも無駄ではないだろう。

重力場が存在すると、その自然な「光路」が屈曲することから得られる結論を論じて、アインシュタインは、次のように説明する:

In the second place our result shows that, according to the general theory of relativity, the law of the constancy of the velocity of light in vacuo, which constitutes one of the two fundamental assumptions in the special theory of relativity and to which we have already frequently referred, cannot claim any unlimited validity. A curvature of rays of light can only take place when the velocity of propagation of light varies with position. Now we might think that as a consequence of this, the special theory of relativity and with it the whole theory of relativity would be laid in the dust. But in reality this is not the case. We can only conclude that the special theory of relativity cannot claim an unlimited domain of validity ; its results hold only so long as we are able to disregard the influences of gravitational fields on the phenomena (e.g. of light).
--Albert Einstein. "Relativity: The Special and General Theory" (1920) Part II. Section 22. "A Few Inferences from the General Theory of Relativity" - Wikisource

この結論の2つめ重要な点としては、一般相対論に従うなら、特殊相対論の2つの基本的仮定の一方をなし、本書でしばしば言及されてきた真空中の光速度一定の法則が、無制限な妥当性を主張できなくなると云うことである。光線が屈曲すると云うことは、光の伝搬速度が場所によって変化しなければ起こりえない。この結果、特殊相対論と、相対論に関わる全ての理論が一敗地に塗れると云う風に考えることになるのだろうかと云うなら、事実はそうではない。これは、特殊相対論が妥当性を主張できる範囲は無制限ではなく、その結論は、(例えば、光の) 現象への重力場の影響が無視できる限りにおいてのみ成立すると云うだけのことなのであると言える。
--アルベルト・アインシュタイン「相対論:特殊と一般」(1920年)。第2部第22章「一般相対性原理からの幾つかの結論」

ただし、ドイツ語原書 "Über die spezielle und die allgemeine Relativitätstheorie" が出版されたのは 1916 年らしい。

一応補足しておくと、「光速度不変の法則」が成立しなくなるのは、静止座標系から加速度系を観測する場合であって、ゼロ測地線としての「光路」が載っている座標系自身において (つまり、その固有時間で) 光の速度を測るなら、その座標系が静止座標系に対して如何なる運動をしていようとも、所謂「真空中の光速度」になる。これはつまり、ゼロ測地線が座標変換してもゼロ測地線に移ると云うことである。さらに言うなら、このことは、物理法則が座標変換に対して共変的であらねばならないと云う、一般相対論の要請に従っている。つまり、「光速度不変の原理」と行ったものがあるなら、特殊相対論より一般相対論の方に馴染んでいるのだ。

これは、上記引用したアインシュタインの言葉尻とは一見異なるが、「光速度不変の原理が破れる」と云うのは、一般相対論が登場したばかりの当時 (例えば "Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie" の発表は1916年) として、啓蒙書において特殊相対論側から見た言い方をしたまでのことで、一般相対論側から表現すれば、固有時間で計った光速度は常に一定である。

これに対し、GPS により一般相対論が生活の中に入り込んでいる現在にあっては、メートル法自体が、距離の定義を一般相対論による「光速度不変の法則」に基づくようになっている。つまり、現在の国際単位系 (SI -- フランス語 "Le Système International d'unités" の略) では、長さの基本単位 1メートルを、光が真空中を 1/299,792,458 秒間に進む距離として定義されている (1983年) のは (第2.1.1.1項。Le Système international d’unités" 第8版 2006年 p.22 (仏文) p.112 (英文) 参照)、たとえ加速度系中で測定したとしても、「固有時間」の厳密性が精度良く担保される限り、その「固有時間」で測定した光速度は不変であることを踏まえているのだ。これに対応して「国際度量衡委員会 (CIPM -- フランス語 "Comité international des poids et mesures" の略。英語では "International Committee for Weights and Measures)")」の2002年の勧告では、一般相対論を考慮して、実際にメートル単位を構成する場合には、光路の長さを、固有時間の進み方に影響を与える重力ポテンシャルの不均一性が発生しないような短さに留めるよう求めている (国際度量衡局 [BIPM -- フランス語 "Bureau International des Poids et Mesures" の略] "Le Système international d’unités" 第8版 2006年 付録1. p.78 (仏文) 及び p.167 (英文) 参照)。

日本語版ウィキペディアの記載にとって皮肉なことに、「光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である」と云う表現に、幾らかでも物理的な意味を付与しようとするなら、それは、特殊相対論では不可能で、一般相対論によらねばならないのだ。


サニャック効果自体に就いても少し書いておこう (ただし、以下の内容は、このブログで既に書いてあることも多い)。

サニャック効果を論ずる場合は、空間中の光の伝搬速度としての「光の速度」と、時空の構造定数としての「(真空中の)光の速度」とを分けて考える必要がある。サニャック効果の成立にとり、空間中の光の伝搬速度は、本質的な重要性は持たない。

だから、光ファイバー中を、「(真空中の)光の速度」の速度をかなり下まわる伝搬速度で進んでも (勿論、表式中には光ファイバの屈折率が現れるが) 成立する。

また、「光路」がゼロ測地線である必要もない。サニャック効果に関わるのは、空間中の単純な径路である。サニャック効果の「説明」にしばしば使われる円周はゼロ測地線 (の「空間」への投影) ではないから安易に「光速度の不変性」を云々してはならないのだが、その事実とは無関係にサニャック効果は成立する。

それどころか、伝搬するのが光である必要さえない。これは「サニャック効果の普遍性」として知られている。実際問題として、サニャック効果を検出するには、時間差を高精度で測定する必要がある訣だが、光の場合は、光干渉計を用いることで、位相差として現れるサニャック効果の検出が容易になるため、歴史上最初に光に就いて発見されただけである。

しかし現在では、例えば、電子のクーパー対、電子、中性子、原子 (カルシウム、セシウム、ルビジウム) の物質波でのサニャック効果が確認されている。特に、サニャック効果による原子物質波の位相干渉を用いる回転角速度検出は、光を用いる場合より精度が格段に高くなることが期待されるために研究が進められている。

例えば ESA/ESTEC ("European Space Agency"/"European Space Research and Technology Centre" 欧州宇宙機関/欧州宇宙技術センター) で、宇宙空間において、地球の自転による Lense-Thirring effect の測定と、併せて、微細構造定数 の高精度測定を行なうべく推進されている HYPER プロジェクトでは、冷却原子の物質波のサニャック干渉を用いた装置 (Atomic Sagnac Interferometer--ASI--) 2基を観測衛星に搭載することが計画されている ("HYPER: A POTENTIAL ESA FLEXI-MISSION IN THE FUNDAMENTAL PHYSICS DOMAIN")。


サニャック効果は、静止座標系に対して、等速回転運動している座標系内部では大域的な同時性が成立せず (これは、同時性を表わす微分形式が完全積分可能ではないと云うことでありフロベニウスの定理/Frobinius' theorem に関わる)、空間中異なる位置にある2事象の同時性が、その2事象を結ぶ径路に依存することに起因する。この2事象の離間が無限小である場合には、その同時性のズレは線素から容易に求まるが、線素には時空の構造定数としての「(真空中の)光の速度」が入っているから、それに応じてサニャック効果の表式にも「(真空中の)光の速度」(「(真空中の)光の速度」を 1 とした場合は、見かけ上出てこないが、それは別の話だ) が現れる。しかし、これは、例えば光ファイバの中を光がどれだけの速度で伝搬するかとは独立している。一般の2事象の場合の同時性のズレは、無限小離間における同時性のズレを線積分すれば得られるわけだが、これは線積分をどの径路に従って行なうかで変化する。この時、特に、回転軸に対して径路の進む向きが重要となるが、これはサニャック効果を引き起こすコリオリ力ポテンシャルがベクトルポテンシャルであるためである。

こうしたことを踏まえるなら、「光路の長さ」を「光の速度」で割って求めた「時間」からサニャック効果を説明する仕方は、その基礎とする理論が何であったとしても、私は首を傾げざるを得ない。現在のメートル法がそうであるように、「長さ/距離」が「(固有) 時間」から求められるべきものであって、その逆ではないからだ。

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2008年12月30日 (火)

Cymbeline (シンベリン) の一節

本日0時過ぎ (2008/12/30 00:14:00)、キーフレーズ [WAS I AS A TREE WHOSE BOUGHS DID BEND WITH FRUIT 日本語訳] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだが、ここに限らず、はかばかしい結果は得られなかったのではないか。

しかし、「日本語訳」を取り除いて、英語部分を double quotation marks で囲って "WAS I AS A TREE WHOSE BOUGHS DID BEND WITH FRUIT" で検索すれば、シェークスピアの戯曲「シンベリン/Cymbeline」第3幕第3場の一節 (BELARIUS の科白) であることがスグに知れる。

BELARIUS

How you speak!
Did you but know the city's usuries
And felt them knowingly; the art o' the court
As hard to leave as keep; whose top to climb
Is certain falling, or so slippery that
The fear's as bad as falling; the toil o' the war,
A pain that only seems to seek out danger
I' the name of fame and honour; which dies i'
the search,
And hath as oft a slanderous epitaph
As record of fair act; nay, many times,
Doth ill deserve by doing well; what's worse,
Must court'sy at the censure:--O boys, this story
The world may read in me: my body's mark'd
With Roman swords, and my report was once
First with the best of note: Cymbeline loved me,
And when a soldier was the theme, my name
Was not far off: then was I as a tree
Whose boughs did bend with fruit
: but in one night,
A storm or robbery, call it what you will,
Shook down my mellow hangings, nay, my leaves,
And left me bare to weather.
--The Complete Works of William-Shakespeare > Cymbeline - Act 3, Scene 3">

Wikisource 版 (The Tragedy of Cymbeline) もある。

これを見ると、"was I as a tree whose boughs did bend with fruit" の前に、 "then" を付けないと文章として完結しないことが分かる。「当時は」・「かっては」は自分も栄華を誇ったものだったと云う意味合いだから、昔を偲ぶ感情が下敷きなっているので、時間への言及は重要である。そして、強調のためばかりではないだろうが、とにかく "then" が冒頭におかれた結果として "was" が引き摺られて "I" と倒置されたのだ。

"as" の語感は微妙だが、「(当時こそは) そのようなものであった」と云ったところだろうか。


ちなみに、小田島雄志は次のように訳している。

そのころのおれは
枝もたわわに実をつけた木であった
--白水社 u ブックス「シンベリン」ウィリアム・シェイクスピア (小田島雄志 訳) 1983年 東京 白水社 p.103

小田島訳に、ほぼ異論はない。前後の科白の流れを考慮するなら、こう訳した方が良いだろうことを認めつつ、しかし、この文章単独なら、私は「そのころのおれは」ではなくて「そのころはおれも」としたい。

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2008年8月 2日 (土)

英文版ウィキペディア "Born coordinates" 導入部、第1節-第3節翻訳草稿

以下は、英文版ウィキペディア "Born coordinates" (last modified on 7 July 2008, at 15:29) の導入部、第1節 (Langevin observers in the cylindrical chart) 第2節 (Transforming to the Born chart) 及び、第3節 (The Sagnac effect) の翻訳草稿である。訳語・内容とも子細な見当はされていない。ただし、訳出にあたって、原文に若干の訂正をほどこした。対応して、英文版ウィキペディアのテキストにも同じ変更を加えたが、その内容に就いては "Revision as of 16:54, 26 June 2008" 及び "Current revision (15:29, 7 July 2008)" を参照していただきたい (英文版では 19 July 2008, at 18:24 にも編集上の変更が加えられているが、内容に実質的な変化はない)。


[nouse: 英文版ウィキペディア "Rindler coordinates" 翻訳草稿] (2008年6月25日 [水] におけるのと同様、この訳文でも、通常「時間的」・「空間的」と訳されている "timelike", "spacelike" を「時間性」・「空間性」と訳してある (これに対して "spatial hyperslice" などは「空間的超切片」と訳し分けてある)。

また英語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。

以下、一瞥すれば分かることだが、一応注意しておくと、本稿では、真空中の光速度が 1 に正規化してある。


Space-time geometry of Born coordinates.<br />Red lines are world lines (congruence) of points on disc.<br />Interlacing blue and grey stripes show change of <span style=T.
Orange curves ( / \ ) are time-like curves with fixed R.
ボルン座標の時空幾何構造。
赤い線は、円盤上の点の世界線 (線叢)。
交互に並んだ青と灰色の縞は T の変化を示す。
オレンジ色の曲線 ( / \ ) は、固定値の R に対する時間性曲線。" />
Space-time geometry of Born coordinates.
Red lines are world lines (congruence) of points on disc.
Interlacing blue and grey stripes show change of T.
Orange curves ( / \ ) are time-like curves with fixed R.
ボルン座標の時空幾何構造。
赤い線は、円盤上の点の世界線 (線叢)。
交互に並んだ青と灰色の縞は T の変化を示す。 オレンジ色の曲線 ( / \ ) は、固定値の R に対する時間性曲線。

In relativistic physics, the Born coordinate chart is a coordinate chart for (part of) Minkowski spacetime, the flat spacetime of special relativity. It is often used to analyze the physical experience of observers who ride on a rigidly rotating ring or disk. This chart is often attributed to Max Born.
相対論物理において、「ボルン座標表示」(Born coordinate chart) とは、特殊相対論平坦な時空であるミンコフスキー時空 (の一部分) のための座標表示である。ボルン座標表示は、剛体的に回転する円環又は円盤上に載っている観測者の物理的体験を分析するのに多く用いられる。この座標表示は、通常マックス・ボルン (Max Born) が考え出したとされている。


Langevin observers in the cylindrical chart
円筒座標表示でのランジェヴァン型観測者

To motivate the Born chart, we first consider the family of Langevin observers represented in an ordinary cylindrical coordinate chart for Minkowski spacetime. The world lines of these observers form a timelike congruence which is rigid in the sense of having a vanishing expansion tensor. They represent observers who rotate rigidly around an axis of cylindrical symmetry.
ボルン座標表示を引き出す準備として、通常の円筒座標表示で表わされたミンコフスキー時空中における一群のランジェヴァン型観測者 (Langevin observer) を、まず考察する。こうした観測者達の世界線は、膨張テンソル (expansion tensor) が消失すると云う意味で「剛体的」な時間性線叢 (timelike congruence) を形成する。こうした世界線は、円筒対称性の軸の周りを剛体的に回転する観測者を表わす。


From the line element
:<math> ds^2 = -dT^2 + dZ^2 + dR^2 + R^2 \, d\Phi^2, \; \; -\infty < T, \, Z < \infty, \; 0 < R < \infty, \; -\pi < \Phi < \pi </math>
we can immediately read off a frame field representing the local Lorentz frames of stationary (inertial) observers
:<math> \vec{e}_0 = \partial_T, \; \; \vec{e}_1 = \partial_Z, \; \; \vec{e}_2 = \partial_R, \; \; \vec{e}_3 = \frac{1}{R} \, \partial_\Phi </math>
Here, <math>\vec{e}_0</math> is a timelike unit vector field while the others are spacelike unit vector fields; at each event, all four are mutually orthogonal and determine the infinitesimal Lorentz frame of the static observer whose world line passes through that event.
その線素
:<math> ds^2 = -dT^2 + dZ^2 + dR^2 + R^2 \, d\Phi^2, \; \; -\infty < T, \, Z < \infty, \; 0 < R < \infty, \; -\pi < \Phi < \pi </math>
から、即座に、静止 (慣性) 観測者の局所ローレンツ基準系を表わす基準ベクトル場系 (frame field)
:<math> \vec{e}_0 = \partial_T, \; \; \vec{e}_1 = \partial_Z, \; \; \vec{e}_2 = \partial_R, \; \; \vec{e}_3 = \frac{1}{R} \, \partial_\Phi </math>
を読み取ることができる。ここで <math>\vec{e}_0</math> は、時間性単位ベクトル場であり、残りは、空間性 (spacelike) 単位ベクトル場である。個々の事象において、4つの単位ベクトル場は全て相互に直交しており、その事象を通過する世界線を有する静止観測者の無限小ローレンツ基準ベクトル場系を定める。


Simultaneously boosting these frame fields in the <math> \vec{e}_3</math> direction, we obtain the desired frame field describing the physical experience of the Langevin observers, namely
<br />
\begin{eqnarray}<br />
&& \vec{p}_0 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, \partial_T + \frac{\omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \; \frac{1}{R} \partial_\Phi \nonumber \\<br />
&& \vec{p}_1 = \partial_Z, \; \; \vec{p}_2 = \partial_R \nonumber \\<br />
&& \vec{p}_3 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \; \frac{1}{R} \, \partial_\Phi +  \frac{\omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, \partial_T \nonumber <br />
\end{eqnarray}
This frame was apparently first introduced (implicitly) by Paul Langevin in 1935; its first ''explicit'' use appears to have been by T. A. Weber, as recently as 1997! It is defined on the region 0 < R < 1/ \omega; this limitation is fundamental, since near the outer boundary, the velocity of the Langevin observers approaches the speed of light.
こうした基準ベクトル場系を、同時に <math> \vec{e}_3</math> 方向にブースト (boost) すると、ランジェヴァン型観測者の物理体験を叙述するのに適した基準ベクトル場系
<br />
\begin{eqnarray}<br />
&& \vec{p}_0 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, \partial_T + \frac{\omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \; \frac{1}{R} \partial_\Phi \nonumber \\<br />
&& \vec{p}_1 = \partial_Z, \; \; \vec{p}_2 = \partial_R \nonumber \\<br />
&& \vec{p}_3 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \; \frac{1}{R} \, \partial_\Phi +  \frac{\omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, \partial_T \nonumber <br />
\end{eqnarray}
が得られる。この基準系は、1935年、ポール・ランジェヴァン (Paul Langevin) により (内在的な形で) 導入されたのが最初だったらしいが、T. A. ウェーバー (T. A. Weber) によって最初に明示的な形で使用されたのは、なんと1997年になってからだったようである! この基準系は、領域 0 < R < 1/ \omega で定義されているが、この定義域の外周に接近すると、ランジェヴァン型観測者の速度は光速度に近付いていくので、この制限は本質的なものである。

[[訳註: "boost(ing)" は、局所ミンコフスキー空間でに「ローレンツ・ブースト」を行なうことを指すと思われるで「ブースト」と訳しておく。私 (ゑ) の趣味ではないのだが、現時点では良い代替案も思いつかないので、いたしかたがない。]]
[[訳註:唐突に \omega が式中に出てくるが、これは勿論「回転」の角速度。]]


Part of the helical world line of a typical Langevin observer (red curve), depicted in the cylindrical chart, with some future pointing light cones (gold) with the frame vectors assigned by the Langevin frame (black rods).  In this figure, the Z coordinate is inessential and has been suppressed.  The white cylinder shows a locus of constant radius; the dashed green line represents the symmetry axis R=0.  The blue curve is an integral curve of the azimuthal unit vector \vec{p}_3.<br />円筒座標表示で描かれた典型的なランジェヴァン型観測者の螺旋状世界線の一部分 (赤い曲線)。未来錐 (金色) 及びランジェヴァン基準ベクトル場系の基準ベクトル (黒い太線) も共に描かれている。この図では、Z 座標は非本質的なので描かれていない。白色の円筒は、一定半径の軌跡であり、緑色の破線は、対称軸 R=0 を示している。また、青い曲線は、方位単位ベクトル \vec{p}_3 の積分曲線である。 Part of the helical world line of a typical Langevin observer (red curve), depicted in the cylindrical chart, with some future pointing light cones (gold) with the frame vectors assigned by the Langevin frame (black rods). In this figure, the Z coordinate is inessential and has been suppressed. The white cylinder shows a locus of constant radius; the dashed green line represents the symmetry axis R=0. The blue curve is an integral curve of the azimuthal unit vector <math>\vec{p}_3</math>.
円筒座標表示で描かれた典型的なランジェヴァン型観測者の螺旋状世界線の一部分 (赤い曲線)。未来錐 (金色) 及びランジェヴァン基準ベクトル場系の基準ベクトル (黒い太線) も共に描かれている。この図では、Z 座標は非本質的なので描かれていない。白色の円筒は、一定半径の軌跡であり、緑色の破線は、対称軸 R=0 を示している。また、青い曲線は、方位単位ベクトル <math>\vec{p}_3</math> の積分曲線である。

Each integral curve of the timelike unit vector field <math>\vec{p}_0</math> appears in the cylindrical chart as a helix with constant radius (such as the red curve in the figure at right). Suppose we choose one Langevin observer and consider the other observers who ride on a ring of radius R which is rigidly rotating with angular velocity \omega. Then if we take an integral curve (blue helical curve in the figure at right) of the spacelike basis vector <math>\vec{p}_3</math>, we obtain a curve which we might hope can be interpreted as a "line of simultaneity" for the ring-riding observers. But as we see from the figure, ideal clocks carried by these ring-riding observers cannot be synchronized. This is our first hint that it is not as easy as one might expect to define a satisfactory notion of spatial geometry even for a rotating ring, much less a rotating disk !
時間性単位ベクトル場 <math>\vec{p}_0</math> の積分曲線は、いづれも、円筒座標表示において、一定半径の螺旋となる (上図での赤い螺旋)。一人のランジェヴァン型観測者を選んでおき、角速度 \omega で剛体的に回転する半径 R の円環に載っている他の観測者のことを考えてみよう。その場合、空間性基本ベクトル <math>\vec{p}_3</math> の積分曲線 (上図における青い螺旋) は、円環に載っている観測者たちにとり「等時性を表わす線」と解釈してよいと期待したくなる。しかし、図から見て取れるように、こうした円環に載っている観測者たちが、理想的な時計をもっていたとして、そうした時計は時刻を揃えることは不可能である。このことが、回転円環の場合であってすら、「空間幾何」に就いて満足しうる概念を定めるのは、思ったほど簡単には済まないことが伺える最初の例である。 そして「回転円盤」では、事態は一層深刻になる!


This figure shows the world lines of a fiducial Langevin observer (red curve) and his nearest neighbors (dashed navy blue curves).  This figure shows one quarter of one orbit by the fiducial observer about the axis of symmetry (vertical green line).<br />この図には、基準とされたランジェヴァン型観測者の世界線 (赤い線) とその近隣の観測者の世界線 (ネイビーブルーの破線) が示されている。図中には、基準観測者が対称軸 (緑色の垂直線) の周囲を廻る軌跡の4分の1が描かれている。 This figure shows the world lines of a fiducial Langevin observer (red curve) and his nearest neighbors (dashed navy blue curves). This figure shows one quarter of one orbit by the fiducial observer about the axis of symmetry (vertical green line).
この図には、基準とされたランジェヴァン型観測者の世界線 (赤い線) とその近隣の観測者の世界線 (ネイビーブルーの破線) が示されている。図中には、基準観測者が対称軸 (緑色の垂直線) の周囲を廻る軌跡の4分の1が描かれている。

Computing the kinematic decomposition of the Langevin congruence, we find that the acceleration vector is
:<math> \nabla_{\vec{p}_0} \vec{p}_0 = \frac{-\omega^2 \, R}{1- \omega^2 \, R^2} \; \vec{p}_2 </math>
This points radially inward and it depends only on the (constant) radius of each helical world line. The expansion tensor vanishes identically, which means that nearby Langevin observers maintain constant distance from each other. The vorticity vector is
:<math> \vec{\Omega} = \frac{\omega}{1 - \omega^2 \, R^2} \; \vec{p}_1 </math>
which is parallel to the axis of symmetry. This means that the world lines of the nearest neighbors of each Langevin observer are twisting about its own world line, as suggested by the figure at right. This is a kind of local notion of "swirling" or vorticity.
ランジェヴァン型線叢の運動学的分解を計算すると、その加速度ベクトルは
:<math> \nabla_{\vec{p}_0} \vec{p}_0 = \frac{-\omega^2 \, R}{1- \omega^2 \, R^2} \; \vec{p}_2 </math>
となっている。この加速度ベクトルは、半径方向内向きであり、各螺旋状世界線の (一定) 半径にのみ依存する。「膨張テンソル」は、恒等的に消失するが、これは隣り合ったランジェヴァン型観測者間の距離が一定に維持されることを意味する。「渦度テンソル」は
:<math> \vec{\Omega} = \frac{\omega}{1 - \omega^2 \, R^2} \; \vec{p}_1 </math>
となり、対称軸に対して平行である。これは、上図からも伺えるように、各ランジェヴァン型観測者に隣り合ったランジェヴァン型観測者の世界線は、元の世界線を中心にして捻じれて行っていると云うことである。これは、局所的な意味で、一種の「回旋」または「渦動」を行なっていると云うことである。

[[訳註:"Congruence (general relativity) - Wikipedia" を参照して計算すると、以下のようになる。いちいちの説明は煩わしいので、取り敢えずは省略するが、最小限の注意をしておくと、(\underrightarrow{p_0}, \underrightarrow{p_1}, \underrightarrow{p_2}, \underrightarrow{p_3}) は、ベクトル (\vec{p}_0, \vec{p}_1, \vec{p}_2, \vec{p}_3) にそれぞれ対応するコベクトル (covector) の積もりである。

induction of \nabla_{\vec{p_0}}\vec{p_0}

ここで、"Congruence (general relativity) - Wikipedia" での記法に準じて、

X = \vec{p}_0  \quad (= \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, \partial_T + \frac{\omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \; \frac{1}{R} \partial_\Phi)
と置くと:

 calculus on acceleration vector X

となるから

\dot{X}_aX_b &+& X_{a;b} (= h^m{}_ah^n{}_bX_{m;n})

が得られる。

(ちなみに、投影テンソルは
\begin{eqnarray*}<br />
h^\alpha{}_\beta = \bordermatrix{ <br />
        &  T & Z & R & \Phi \cr<br />
   T    &- \frac{\omega^2 R^2}{1 - \omega^2 R^2} & 0 & 0 & \frac{\omega R^2}{1 - \omega^2 R^2}  \cr<br />
   Z    &  0 & 1 & 0 & 0 \cr<br />
   R    &  0 & 0 & 1 & 0 \cr<br />
   \Phi &  \frac{- \omega}{1 - \omega^2 R^2} & 0 & 0 & \frac{1}{1 - \omega^2 R^2}<br />
} <br />
\end{eqnarray*}
なので、こちちを使っても計算できる。)

これを

\begin{eqnarray}<br />
&& \underrightarrow{p_0} = \frac{- 1}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} \, dT + \frac{\omega \, R^2}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} d\Phi \nonumber \\<br />
&& \underrightarrow{p_1} = dZ, \; \; \underrightarrow{p_2} = dR \nonumber \\<br />
&& \underrightarrow{p_3} = \frac{R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} d \Phi +  \frac{- \omega \, R}{\sqrt{1-\omega^2 \, R^2}} dT \nonumber <br />
\end{eqnarray}

を使って書き直すと

\begin{eqnarray*}<br />
\bordermatrix{ <br />
        & \underrightarrow{p_0} & \underrightarrow{p_1} & \underrightarrow{p_3} & \underrightarrow{p_3} \cr<br />
   \underrightarrow{p_0}    & 0 & 0 & 0 & 0 \cr<br />
   \underrightarrow{p_1}    & 0 & 0 & 0 & 0 \cr<br />
   \underrightarrow{p_2}    & 0 & 0 & 0 & \frac{- \omega}{1 - \omega^2 R^2}  \cr<br />
   \underrightarrow{p_3} & 0 & 0 & \frac{\omega}{1 - \omega^2 R^2} & 0<br />
} <br />
\end{eqnarray*}

になる。 これは反対称テンソルだから、対称成分 (膨張テンソル) はなく、そのまま渦度テンソルを表わすが、それを軸性ベクトルに書き直すなら

:<math> \vec{\Omega} = \frac{\omega}{1 - \omega^2 \, R^2} \; \vec{p}_1 </math>

と云う表現が得られる。
]]


In contrast, note that projecting the helices onto any one of the spatial hyperslices <math>T=T_0</math> orthogonal to the world lines of the static observers gives a circle, which is of course a closed curve. Even better, the coordinate basis vector <math>\partial_\Phi</math> is a spacelike Killing vector field whose integral curves are closed spacelike curves (circles, in fact), which moreover degenerate to zero length closed curves on the axis R = 0. This expresses the fact that our spacetime exhibits cylindrical symmetry, and also exhibits a kind of ''global notion'' of the rotation of our Langevin observers.
これと対照的に、こうした螺旋を、静止観測者の世界線と直交する空間的超切片 <math>T=T_0</math> のどれに投影したとしても、それは (当然の事ながら、閉曲線) となる。さらに都合の良いことには、座標基本ベクトル <math>\partial_\Phi</math> は、積分曲線が空間性閉曲線 (実際には円にっており、更には、軸 R = 0 において、長さがゼロの閉曲線に退化する) となる空間性のキリング・ベクトル場である。これは、この時空が「円筒対称性」を有すること、そして、ランジェヴァン型観測者の回転に一種の「大域性」があることを示している。


In the figure, the magenta curve shows how the spatial vectors <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> are spinning about <math>\vec{p}_1</math> (which is suppressed in the figure since the Z coordinate is inessential). That is, the vectors <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> are not Fermi-Walker transported along the world line, so the Langevin frame is ''spinning'' as well as non-inertial. In other words, in our straightforward derivation of the Langevin frame, we kept the frame aligned with the radial coordinate basis vector <math>\partial_R</math>. By introducing a constant rate rotation of the frame carried by each Langevin observer about <math>\vec{p}_1</math>, we could, if we wished "despin" our frame to obtain a gyrostabilized version.
上図に於いて、深紅色の曲線は、空間性ベクトル <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> が (Z 軸は非本質的であるため、図には示されていない) <math>\vec{p}_1</math> の周りを、回転している。つまり、ベクトル <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> は、世界線に沿ったフェルミ・ウオーカー (Fermi-Walker) 移動を行なっておらず、従って、ランジェヴァン型座標は、慣性系でないと云うばかりでなく、回転している訣である。換言すれば、上記のように単純に構成したランジェヴァン座標にあっては、座標系は、半径方向座標の基本ベクトル <math>\partial_R</math> に整列しているのである。だから、この回転を止めたいならば、ランジェヴァン型観測者のそれぞれが抱える座標系に <math>\vec{p}_1</math> を軸とする等速度回転を導入するすことで、方向が安定した座標系を得ることが出来るかもしれないということになる。


Transforming to the Born chart
ボルン座標表示への変換

To obtain the Born chart, we straighten out the helical world lines of the Langevin observers using the simple coordinate transformation
:<math> t = T, \; \; z = Z, \; \; r = R, \; \; \phi = \Phi - \omega \, T</math>
The new line element is
\begin{eqnarray}<br />
ds^2 &=& -\left( 1- \omega^2 \, r^2 \right) \, dt^2 + 2 \, \omega \, r^2 \, dt \, d\phi + dz^2 + dr^2 + r^2 \, d\phi^2 \nonumber \\<br />
& & \hspace{10pt} -\infty < t, \, z < \infty, 0 < r < \frac{1}{\omega}, \; -\pi < \phi < \pi \nonumber<br />
\end{eqnarray}
Notice the "cross-terms" involving <math>dt \, d\phi</math>, which show that the Born chart is not an orthogonal coordinate chart. The Born coordinates are also sometimes referred to as rotating cylindrical coordinates.
「ボルン座標表示」(Born chart) を得るには、単純な座標変換
:<math> t = T, \; \; z = Z, \; \; r = R, \; \; \phi = \Phi - \omega \, T</math>
を用いて、ランジェヴァン型観測者の螺旋状世界線を直線にしてしまえば良い。そうすると、新たな線素は
\begin{eqnarray}<br />
ds^2 &=& -\left( 1- \omega^2 \, r^2 \right) \, dt^2 + 2 \, \omega \, r^2 \, dt \, d\phi + dz^2 + dr^2 + r^2 \, d\phi^2 \nonumber \\<br />
& & \hspace{10pt} -\infty < t, \, z < \infty, 0 < r < \frac{1}{\omega}, \; -\pi < \phi < \pi \nonumber<br />
\end{eqnarray}
となる。ここで「混合項」(cross-terms) <math>dt \, d\phi</math> が出てくるが、これはボルン座標表示が直交座標系ではないと云うことであることに留意されたい。ボルン座標は、「回転円筒座標」とも呼ばれることもある。


In the new chart, the world lines of the Langevin observers appear as vertical straight lines. Indeed, we can easily transform the four vector fields making up the Langevin frame into the new chart. We obtain
<br />
\begin{eqnarray}<br />
\vec{p}_0 &=& \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t \nonumber \\<br />
\vec{p}_1 &=& \partial_z, \; \; \vec{p}_2 = \partial_r \nonumber \\<br />
\vec{p}_3 &=& \frac{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}}{r} \, \partial_\phi + \frac{\omega \, r}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t \nonumber<br />
\end{eqnarray}
These are exactly the same vector fields as before--- they are now simply represented in a different coordinate chart!
ボルン座標表示では、ランジェヴァン型観測者の世界線は、垂直方向の直線になる。実際、ランジェヴァン座標表示を構成する上記4つのベクトル場は、ボルン座標表示に簡単に変換できて、次のようになる。
<br />
\begin{eqnarray}<br />
\vec{p}_0 &=& \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t \nonumber \\<br />
\vec{p}_1 &=& \partial_z, \; \; \vec{p}_2 = \partial_r \nonumber \\<br />
\vec{p}_3 &=& \frac{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}}{r} \, \partial_\phi + \frac{\omega \, r}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t \nonumber<br />
\end{eqnarray}
これらは、ベクトル場としては、以前のものと全く同一である--- そられは、座標表示を変えて書き直したものに過ぎない!

[[訳註:この変換は、次の式に従って、簡単に出来る。
\partial_T = - \omega \, \partial_\phi + \partial_t \qquad \partial_\Phi = \partial_\phi
]]


Needless to say, in the process of unwinding the world lines of the Langevin observers, which appear as helices in the cylindrical chart, we wound up the world lines of the static observers, which now appear as helices in the Born chart! Note too that, like the Langevin frame, the Born chart is only defined on the region 0 < r < 1/ \omega.
言うまでもないことだが、円筒形座標では螺旋に見えるランジェヴァン型観測者の世界線の「巻きを解く」過程では、静止観測者の世界線が「巻かれていく」ので、静止観測者の世界線は、ボルン座標表示では螺旋状に見える! ランジェヴァン座標表示におけるのと同様、ボルン座標も、領域 0 < r < 1/ \omega でのみ定義可能であることにも留意されたい。


If we recompute the ''kinematic decomposition'' of the Langevin observers, that is of the timelike congruence <math> \vec{p}_0 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t</math>, we will of course obtain the same answer that we did before, only expressed in terms of the new chart. Specifically, the acceleration vector is
:<math> \nabla_{\vec{p}_0} \, \vec{p}_0 = \frac{-\omega^2 \,r}{1 - \omega^2 \, r^2} \, \vec{p}_2</math>
the expansion tensor vanishes, and the vorticity vector is
:<math> \vec{\Omega} = \frac{\omega}{1-\omega^2 \, r^2} \; \vec{p}_1</math>
ランジェヴァン型観測者の運動学的分解、つまり、時間性線叢 <math> \vec{p}_0 = \frac{1}{\sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t</math> の運動学的分解を計算しなおすと、新たな座標での変数表示になっているが、勿論、以前と同一の結果が得られる。特に、加速度ベクトルは
:<math> \nabla_{\vec{p}_0} \, \vec{p}_0 = \frac{-\omega^2 \,r}{1 - \omega^2 \, r^2} \, \vec{p}_2</math>
となり、膨張テンソルは消失し、渦度テンソルは
:<math> \vec{\Omega} = \frac{\omega}{1-\omega^2 \, r^2} \; \vec{p}_1</math>
となる。

[[訳註:この計算は、ランジェヴァン座標表示と場合と並行して行なえる。結果として得られる膨張テンソル・渦度テンソルの表記は、当然のことながらランジェヴァン座標表示と場合と同じになる。その計算のあらましは以下の通り:

calculation of vorticity vector in Born Coordinates. no.1

calculation of vorticity vector in Born Coordinates. no.2

\begin{eqnarray*}<br />
h^\alpha{}_\beta = \bordermatrix{ <br />
        &  t & z & r & \phi \cr<br />
   t    &  0 & 0 & 0 & 0  \cr<br />
   z    &  0 & 1 & 0 & 0 \cr<br />
   r    &  0 & 0 & 1 & 0 \cr<br />
   \phi &  0 & 0 & 0 & 1<br />
} <br />
\end{eqnarray*}

calculation of vorticity vector in Born Coordinates. no.3
]]

An attempt to define a notion of space at a time for our Langevin observers, depicted in the Born chart. This attempt is doomed to fail for at least two reasons! This figure depicts the region 0 < r < 1 when \omega = 1/5, with a discontinuity at \phi = \pi. The radial ray from which we have grownthe integral curves to make the surface is at \phi = 0 (on the far side in this image).
ボルン座標表示で描かれたランジェヴァン型観測者にとっての「ある時刻での空間」の概念を定義する試み。この試みは、少なくとも2つの理由で失敗せざるを得ない! この図は、\omega = 1/5 の場合の 0 < r < 1 領域が、\phi = \pi に不連続性が現れるようにして描かれている。曲面を形成するように「伸びていく」積分曲線が出発する半径は \phi = 0 (この図では、奥のほう) にある。


The dual covector field of the timelike unit vector field in any frame field represents infinitesimal spatial hyperslices. However, the Frobenius integrability theorem gives a strong restriction on whether or not these spatial hyperplane elements can be "knit together" to form a family of spatial hypersurfaces which are everywhere orthogonal to the world lines of the congruence. Indeed, it turns out that this is possible, in which case we say the congruence is hypersurface orthogonal, if and only if the vorticity vector vanishes identically. Thus, while the static observers in the cylindrical chart admits a unique family of orthogonal hyperslices <math>T=T_0</math>, ''the Langevin observers admit no such hyperslices''. In particular, the spatial surfaces <math>t=t_0</math> in the Born chart are orthogonal to the static observers, not to the Langevin observers. This is our second (and much more pointed) indication that defining "the spatial geometry of a rotating disk" is not as simple as one might expect.
時間性単位ベクトル場の双対コベクトル場は、いかなる規準ベクトル場系にあっても、空間的無限小超切片をあらわす。しかし、こうした空間的超切片要素が「編みあがって」、線叢をなす世界線と全ての場所で直交するような空間的超切片の族を形成するかどうかに就いては、「フロベニウスの積分可能性定理」(Frobenius integrability theorem) による強い制限が課せられる。実際、線叢が「超曲面直交」と呼ばれるものになるのは、渦度テンソルが恒等的に消失する場合であり、またそうした場合にのみ可能なのである。従って、こうしたことは、円筒座標系における静止観測者にとっては、唯一つ、直交超切片族 <math>T=T_0</math> が当てはまるが、ランジェヴァン型観測者に対しては、そうした超切片族が存在しない。特に、ボルン座標表示における空間的超曲面族 <math>t=t_0</math> は、静止観測者には直交するが、ランジェヴァン型観測者には直交しない。これが、「回転円盤の空間幾何学」を定義することが思ったより単純でない第二の (そして、はるかに本質的な) 問題点である。


To better understand this crucial point, consider integral curves of the third Langevin frame vector
:<math>\vec{p}_3 = \sqrt{1-\omega^2 \, r^2} \, \frac{1}{r} \, \partial_\phi + \frac{\omega \, r}{ \sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t</math>
which pass through the radius <math>\phi=0, \, t=0</math>. (For convenience, we will suppress the inessential coordinate z from our discussion.) These curves lie in the surface
:<math>\phi + \omega \, t - \frac{t}{\omega \, r^2} = 0, \; \; -\pi < \phi < \pi </math>
shown in the figure. We would like to regard this as a space at a time for our Langevin observers. But two things go wrong.
この問題点をヨリ良く理解するために、ランジェヴァン座標表示第3ベクトル
:<math>\vec{p}_3 = \sqrt{1-\omega^2 \, r^2} \, \frac{1}{r} \, \partial_\phi + \frac{\omega \, r}{ \sqrt{1-\omega^2 \, r^2}} \, \partial_t</math>
の積分曲線で、半径 <math>\phi=0, \, t=0</math> を通るものを考える (便宜上、非本質的な座標 z は議論から排除する)。こうした積分曲線は図中に示した曲面
:<math>\phi + \omega \, t - \frac{t}{\omega \, r^2} = 0, \; \; -\pi < \phi < \pi </math>
上にある。これを、ランジェヴァン型観測者にとっての「ある時刻での空間」としたくなるところだが、2つの点で旨くいかない。


First, the Frobenius theorem tells us that <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> are tangent to no spatial hyperslice whatever. Indeed, except on the initial radius, the vectors <math>\vec{p}_2</math> do not lie in our slice. Thus, while we found a spatial hypersurface, it is orthogonal to the world lines of only some our Langevin observers. Because the obstruction from the Frobenius theorem can be understood in terms of the failure of the vector fields <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> to form a Lie algebra, this obstruction is differential, in fact Lie theoretic. That is, it is a kind of ''infinitesimal obstruction'' to the existence of a satisfactory notion of spatial hyperslices for our rotating observers.
第一に、フロベニウスの定理により、<math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math> は、如何なる空間的超切片にも接することはない。実際、最初の半径上以外では、 ベクトル <math>\vec{p}_2</math> は、空間的切片には載ることはない。従って、空間的超曲面は存在しはするが、その超曲面が世界線に直交するランジェヴァン型観測者が何人か存在すると云うのが関の山である。フロベニウスの定理によるこの障害は、ベクトル場 <math>\vec{p}_2</math>, <math>\vec{p}_3</math>リー代数を構成できないと云う観点から理解できるから、この障害は、微分的、実は、リー理論的なものである。これが、回転する観測者にとっての空間的超切片の満足できる概念の存在にとっての、一種の「無限小障害」となっている。


Second, as the figure shows, our attempted hyperslice would lead to a discontinuous notion of "time" due to the "jumps" in the integral curves (shown as a coral colored discontinuity). Alternatively, we could try to use a multivalued time. Neither of these alternatives seems very attractive! This is evidently a global obstruction. It is of course a consequence of our inability to synchronize the clocks of the Langevin observers riding even a single ring---say the rim of a disk--- much less an entire disk.
第二に、図に示されているように、作成してみた超切片では、積分曲線の「段差」に起因する時間の不連続性 (図中、赤黄色で示されている不連続性) と云う観念が得られる。別の方法としては、複数の値を持つ時間を使用することを試みても良いかもしれないが、いづれにしろ「大変魅力的」であるようちは見えない! こちらの方は、「大域的障害」である。勿論、これは、回転する (円盤全体よりは遥かに小さいものである) 単一の円環 ---円盤の縁と言っても良いが--- においてさえ、そこに乗っているランジェヴァン型観測者達の時計の時刻を合わせるのは不可能であると云うことの帰結である。

[[訳註:
時間性単位ベクトル \vec{p}_0\partial_t\frac{1}{\sqrt{1 - \omega^2 r^2}} 倍であると云うことが [nouse: 等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」] (2008年3月24日[月]) で説明した、等角速度回転運動をする旅行者が体験する「時間遅延」に対応する。

これに対し、空間性単位ベクトル \vec{p}_3 は、所謂サニャック効果に関連する。「(\vec{p}_3 の) 積分曲線が載っている曲面」(These curves lie in the surface) と書かれているが、要するに \vec{p}_3 の積分曲線の族が連なって形成している曲面であって、その式
:<math>\phi + \omega \, t - \frac{t}{\omega \, r^2} = 0, \; \; -\pi < \phi < \pi </math>
は、r を固定すれば、ある積分曲線の式になる。この積分曲線の「段差」が「サニャック効果」そのものなのだ。その大きさは、式を t について解いて
t = \frac{\omega r^2}{1 - \omega^2 r^2} \; \phi
から得られるが、積分曲線を時計廻り (+) に辿るか反時計回り (-) に辿るかで、符号が逆転する。つまり、時計廻りでは
- \pi \rightarrow \pi : \ \Delta_t^{+} = - \frac{2 \pi \omega r^2}{1 - \omega^2 r^2} となり、反時計廻りでは
\pi \rightarrow - \pi : \ \Delta_t^{-} = \frac{2 \pi \omega r^2}{1 - \omega^2 r^2} となるから、両方を合わせると、その値は
\Delta_t^{-} - \Delta_t^{+} = \frac{4 \pi \omega r^2}{1 - \omega^2 r^2}
この右辺は、時間軸 (\vec{p}_0 軸) の直交超平面への積分曲線の射影 (円) が囲む面積を S とした時、式の右辺は \frac{4 \omega S}{1 - \omega^2 r^2} と書かれることもある (ここで、S = \pi r^2)。また分母の速度の2次の項は無視されることが多い (なお、本稿では、真空における光速度が 1 に正規化されていることに注意されたい)。

しかし、ここで最も注目すべきなのは、サニャック効果が 空間性単位ベクトル \vec{p}_3 の積分曲線の周回後の段差であると云う事実そのものである。つまり、多様体の用語で言えば、サニャック効果とは多様体のホロノミー (holonomy) なのだ。

私は、本稿をここまで訳してきて、このことに突如として気付いた時、しばしばあることとは言え、やはり自分の頭の悪さにつくづく慨嘆せざるを得なかった。 「どうして、こんなあからさまな事実に、最初から気付かなかったのだろう...」。

このことを了解しさえすれば、サニャック効果が「特殊相対論的」か「一般相対論的」かと云う設問に対して

特殊相対論と一般相対論とは、排除しあうものではないと云う当たり前の事 (「世界地図帳」と「地球儀」の一方が「正しい」とか「優れている」とか言いたてて、他方を発売禁止にするのは馬鹿げている) をわざわざ言いたくはないのだが、以下のことを言う前に、「そうなのだ」と念を押しておいてから話を続けると、「[双子のパラドクス] は、特殊相対論では説明できず、一般相対論で初めて説明できる」と云うコンテキストや、「水星の近日点移動の解明によって一般相対論の正しさが実証された」と云ったコンテキストでは、サニャック効果は優れて「一般相対論的」である。
--[nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出] (2007年9月30日[日])

などと持って回った言い方をする必要はなかったのだ。単に、「サニャック効果は、時空多様体のホロノミーである」とさえ言えばよかったのだから。

厳密にはファイバーバンドル (fiber bundle) 、と言うか、主バンドル (principal bundle) の用語を使うべきなのだが、ここでは話が大袈裟になるので、別の機会に譲るとして (下記引用論文参照)、大雑把な言い方をすると、多様体の接続が平坦でない場合、曲率が 0 にならず、大域的には自明でないホロノミーが発生する訣だが、局所的には、2つの平坦な時空 (ミンコフスキー時空) が、「少しだけ方向をずらして」接続しているとみなせる。その接続を初等的に表現したのが Einstein synchronization だ。だから Einstein synchronization は物理を特殊相対論の枠組内で説明するための便宜 (convention) ではなく、物理を曲がった時空で考えると云う一般相対論への入り口なのだ。

サニャック効果とホロノミーに就いてネットを検索したら、次の論文が見つかった。

E. Minguzzi "Simultaneity and generalized connections in general relativity" (arXiv.org > gr-qc > arXiv:gr-qc/0204063v2)

興味深い内容なので、機会があったら、別途紹介することにしたい。
]]


The Sagnac effect
サニャック効果

Imagine that we have fastened a fiber-optic cable around the circumference of a ring which is rotating with steady angular velocity \omega. We wish to compute the round trip travel time, as measured by a ring-riding observer, for a laser pulse sent clockwise and counterclockwise around the cable. For simplicity, we will ignore the fact that light travels through a fiber optic cable at somewhat less than the speed of light in a vacuum, and will pretend that the world line of our laser pulse is a null curve (but certainly not a null ''geodesic''!).
一定角速度 \omega で回転している円環の周囲をめぐらせて光ファイバを固定しているものとする。ここで、この光ファイバ・ケーブルを時計廻り・反時計廻りに発射されたレーザー・パルスの周回時間を、円環に乗っている観測者が測る値として求めてみたい。議論を単純にするため、光ファイバを通る光の速度が、真空中よりも若干遅くなることは無視し、レーザー・パルスの世界線がゼロ曲線である (ただし、勿論ゼロ測地線ではない!) と見なすことにする。


In the Born line element, let us put <math>ds = dz = dr = 0</math>. This gives
:<math> (1 - \omega^2 \, r_0^2) \, dt^2 = 2 \omega \, r_0^2 \, dt \, d\phi + r_0^2 \, d\phi^2 </math>
or
:<math> dt = \frac{r_0 \, d\phi}{1 \pm \omega \, r_0} </math>
We obtain for the round trip travel time
:<math> \Delta t_+ = \frac{2 \pi r_0}{1 + \omega \, r_0}, \; \; \Delta t_- = \frac{2 \pi r_0}{1 - \omega \, r_0} </math>
Putting <math>\delta = \frac{\Delta t_+  - \Delta t_-}{2 \, \pi \, r}</math>, we find <math> \omega = \frac{-1 + \sqrt{1+\delta^2}}{\delta \, r}</math> so that the ring-riding observers can determine the angular velocity of the ring (as measured by a static observer) from the difference between clockwise and counterclockwise travel times. This is known as the Sagnac effect. It is evidently a ''global effect''.
ボルン線素で、<math>ds = dz = dr = 0</math> とすると、
:<math> (1 - \omega^2 \, r_0^2) \, dt^2 = 2 \omega \, r_0^2 \, dt \, d\phi + r_0^2 \, d\phi^2 </math>
つまり
:<math> dt = \frac{r_0 \, d\phi}{1 \pm \omega \, r_0} </math>
だから、周回時間は
:<math> \Delta t_+ = \frac{2 \pi r_0}{1 + \omega \, r_0}, \; \; \Delta t_- = \frac{2 \pi r_0}{1 - \omega \, r_0} </math>
となる。ここで <math>\delta = \frac{\Delta t_+  - \Delta t_-}{2 \, \pi \, r}</math> と置くと <math> \omega = \frac{-1 + \sqrt{1+\delta^2}}{\delta \, r}</math> となって、円環に乗っている観測者は、時計廻りと反時計廻りとの周回時間の差から、(静止観測者が測定した値としての) 円環の角速度を決定することができる。これはサニャック効果 (Sagnac effect) として知られている。これは明らかに大域的効果である。

[[訳註:
残念ながら、このサニャック効果に就いての説明には不満が有る。この式の導き方には、サニャック効果がホロノミーと云う問題意識が見られないからだ。(実は、前節「ボルン座標表示への変換」においても、ホロノミーを考慮しない的外れな記述が行なわれているように見える。)

結局、この節で行なわれているのは、無限小光路を使った Einstein synchronization の算出とその積分である。そのこと自体は、間違っているわけではないのだが、これでは、サニャック効果が、光以外の伝搬でも成立することが見えてこない。ホロノミーは時空多様体そのものの構造に内在する性質であるから、閉路を通って「元の場所」に辿り着くことを行なえば、光であろうとなかろうと (例えば、物質でも) 発生するのだ。所謂「光」、特にレーザー光の場合は、干渉を用いた簡便で精度の良い効果の検出法が利用可能であると云うだけの話だ。

ただし、実際上、電子・中性子・原子等の物質のサニャック効果も、物質波の干渉として検出される。特に原子を使った冷却原子サニャック干渉計--Cold Atom Sagnac Interferometer (CASI)--は、レーザー光を使用する場合よりも、回転検出性能が劇的に向上することが期待されいる。
]]


Null Geodesics 翻訳省略

Radar distance in the large 翻訳省略

Radar distance in the small 翻訳省略

Summary 翻訳省略


See also
以下も参照

  • Ehrenfest paradox, for a sometimes controversial topic often studied using the Born chart. 「エーレンフェストのパラドクス」: 論争の主題となることがある。ボルン座標を使って検討されることが多い。
  • Fibre optic gyroscope 光ファイバ・ジャイロスコープ
  • Rindler coordinates, for another useful coordinate chart adapted to another important family of accelerated observers in Minkowski spacetime; this article also emphasizes the existence of distinct notions of distance which may be employed by such observers. 「リンドラー座標」。やはり重要である、ミンコフスキー時空における加速運動観測者群に適用されて有用な座標系表示である。この記事も、こうした観測者達にとり利用可能な複数の異なる距離概念の存在を強調している。
  • Sagnac effect サニャック効果


References
参考文献

A few papers of historical interest:
歴史的論文:



  • Born, M. (1909). "Die Theorie des starren Elektrons in der Kinematik des Relativitäts-Prinzipes". Ann. Phys. Lpz. 30: 1.

  • Ehrenfest, P. (1909). "Gleichförmige Rotation starrer Körper und Relativitätstheorie". Phys. Zeitschrift 10: 918.

  • Planck, M. (1910). "Gleichförmige Rotation und Lorentz-Kontraktion". Phys. Zeitschrift 11: 294.

  • Einstein, A. (1911). "Zum Ehrenfesten Paradoxon". Phys. Zeitschrift 12: 509.

  • Sagnac, M. G. (1913). "L'éther lumineux démontré par l'effet du vent relatif d'éther dans un interféromètre en rotation uniforme". C. R. Acad. Sci. Paris 157: 708.

  • Langevin, P. (1935). "Remarques au sujet de la Note de Prunier". C. R. Acad. Sci. Paris 200: 48.


A few classic references:
古典的参考文献:

  • Grøn, Ø. (1975). "Relativistic description of a rotating disk". Amer. J. Phys. 43: 869–876. doi:10.1119/1.9969.
  • Landau, L. D. & Lifschitz, E. M. (1980). The Classical Theory of Fields (4th ed.). London: Butterworth-Heinemann. ISBN 0-7506-2768-9. See Section 84 for the Landau-Lifschitz metric on the quotient of a Lorentzian manifold by a stationary congruence; see the problem at the end of Section 89 for the application to Langevin observers. 「場の古典論 (第4版)」。第84節に見られる静的線叢によるローレンツ多様体の商上でのランダウ・リフシッツ計量を参照されたい。ランジェヴァン観測者への応用に就いて、第89節末の問題を参照されたい。

[[訳註:「場の古典論(第4版)」は勿論、英訳版としての版数。原ロシア語版では第6版に対応する筈。]]
[[訳註:"the quotient of a Lorentzian manifold by a stationary congruence" とは、ローレンツ多様体を、「静的線叢」に属する世界線の中の一本に共通して乗っていると云う同値関係で「割った」商空間。逆に言えば、ローレンツ多様体は、世界線をファイバーとし、商空間を底空間とするファイバーバンドルになっている。]]


Selected recent sources:
最近の参考文献から:

  • Rizzi, G. ; & Ruggiero, M. L. (2004). Relativity in Rotating Frames. Dordrecht: Kluwer. ISBN 1-4020-1805-3. This book contains a valuable historical survey by Øyvind Grøn and some other papers on the Ehrenfest paradox and related controversies and a paper by Lluis Bel discussing the Langevin congruence. Hundreds of additional references may be found in this book. この著作は、エーレンフェスト・パラドクス及びそれに関連する議論に就いての Øyvind Grøn による有意義な歴史的な調査と、その他の幾つかの論文、及び、ルイス・ベル (Lluis Bel) によるランジェヴァン線叢を論じた議論を収める。何百もの参考文献が示されている。
  • Pauri, Massimo; & Vallisneri, Michele (2000). "Märzke-Wheeler coordinates for accelerated observers in special relativity". Found. Phys. Lett. 13: 401–425. doi:10.1023/A:1007861914639. Studies a coordinate chart constructed using radar distance "in the large" from a single Langevin observer. See also the eprint version 単一のランジェヴァン型観測者からの「大規模」レーダー距離を用いて構成された座標表示の研究。eprint 版も参照されたい。


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2008年6月25日 (水)

英文版ウィキペディア "Rindler coordinates" 翻訳草稿

以下は、英文版ウィキペディア "Rindler coordinates" (last modified on 23 June 2008, at 02:34) の翻訳草稿である。訳語・内容とも子細な見当はされていない。ただし、訳出にあたって、原文に若干の校正をほどこした。対応して、英文版ウィキペディアのテキストにも同じ変更を加えたので、"Rindler coordinates - Current revision (08:46, 25 June 2008)" を参照していただければ、校正の内容を確認できる。

この訳文では、通常「時間的」・「空間的」と訳されている "timelike", "spacelike" を「時間性」・「空間性」と訳してある。これは訳者 ([ゑ]) の無知のためではなく --たしかに無知な人間だが-- 意図的なものである (これに対して "spatial hyperslice" などは「空間的超切片」と訳し分けてある)。

また英語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。



Rindler coordinates


In relativistic physics, the Rindler coordinate chart is an important and useful coordinate chart representing part of flat spacetime, also called the Minkowski vacuum. The Rindler chart was introduced by Wolfgang Rindler. The Rindler coordinate system or frame describes a uniformly accelerating frame of reference in Minkowski space. In special relativity, a uniformly accelerating particle undergoes hyperbolic motion. For each such particle a Rindler frame can be chosen in which it is at rest.
相対論物理においては、リンドラー座標表示 (Rindler coordinate chart) は、ミンコフスキー空間 (Minkowski vacuum) とも呼ばれる平坦な時空の一部分を表現するのに有用かつ重要な座標表示 (coordinate chart) である。リンドラー座標表示は、ウォルフガング・リンドラー (Wolfgang Rindler) により導入された。リンドラー座標系は、ミンコフスキー空間内で一様に加速しつつある基準系を記述する。特殊相対論にあっては、一様に加速しつつある粒子は、双曲線運動 (hyperbolic motion) を行なう。こうした粒子の一つ一つに就いて、その粒子が静止しているようなリンドラー座標系を選定することができる。

Relation to Cartesian chart
デカルト座標表示との関係

To obtain the Rindler chart, start with the Cartesian chart
:<math> ds^2 = -dT^2 + dX^2 + dY^2 + dZ^2, \; \; -\infty < T, X, Y, Z < \infty</math>
In the region <math>0 < X < \infty, \; -X < T < X</math>, which is often called the Rindler wedge, define the new chart using the coordinate transformation
:<math> t = \operatorname{arctanh}(T/X), \; x= \sqrt{X^2-T^2}, \; y = Y, \; z = Z</math>
The inverse transformation is
:<math> T = x \, \sinh(t), \; X = x \,  \cosh(t), \; Y = y, \; Z = z</math>
In the Rindler chart, the Minkowski line element becomes
:<math> ds^2 = -x^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2, \; 0 < x < \infty, -\infty < t, y, z < \infty</math>
リンドラー座標表示を構成するには、まずデカルト座標表示
:<math> ds^2 = -dT^2 + dX^2 + dY^2 + dZ^2, \; \; -\infty < T, X, Y, Z < \infty</math>
から始めて、通常「リンドラー・ウェッジ (Rindler wedge)」と呼ばれる領域 <math>0 < X < \infty, \; -X < T < X</math> において、座標変換
:<math> t = \operatorname{arctanh}(T/X), \; x= \sqrt{X^2-T^2}, \; y = Y, \; z = Z</math>
を用いて、新たに別の座標系を定義すればよい。その逆変換は
:<math> T = x \, \sinh(t), \; X = x \,  \cosh(t), \; Y = y, \; Z = z</math>
になる。リンドラー座標表示にあっては、ミンコフスキー線素は次のようになる:
:<math> ds^2 = -x^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2, \; 0 < x < \infty, -\infty < t, y, z < \infty</math>

[[訳註:見ての通り、この稿では、光速度と加速度が共に正規化されて 1 と置かれている。また、後述されていることだが、この定式化では「リンドラー地平 (The Rindler horizon)」は <math>x = 0</math> にある。]]


The Rindler observers
リンドラー型観測者

In the new chart, it is natural to take the coframe field
:<math> d\sigma^0 = -x \, dt, \; \; d\sigma^1 = dx, \; \; d\sigma^2 = dy, \; \; d\sigma^3 = dz</math>
which has the dual frame field
:<math> \vec{e}_0 = \frac{1}{x} \, \partial_t, \; \; \vec{e}_1 = \partial_x, \; \; \vec{e}_2 = \partial_y, \; \; \vec{e}_3 = \partial_z </math>
This defines a local Lorentz frame in the tangent space at each event (in the region covered by our Rindler chart, namely the Rindler wedge). The integral curves of the timelike unit vector field <math>\vec{e}_0</math> give a timelike congruence, consisting of the world lines of a family of observers called the Rindler observers. In the Rindler chart, these world lines appear as the vertical coordinate lines <math>x = x_0, \; y = y_0, z = z_0</math>. Using the coordinate transformation above, we find that these correspond to hyperbolic arcs in the original Cartesian chart.
リンドラー座標表示では、余接基準ベクトル場系 (coframe field) として
:<math> d\sigma^0 = -x \, dt, \; \; d\sigma^1 = dx, \; \; d\sigma^2 = dy, \; \; d\sigma^3 = dz</math>
を採用するのが自然である。そして、その双対的な基準ベクトル場系は
:<math> \vec{e}_0 = \frac{1}{x} \, \partial_t, \; \; \vec{e}_1 = \partial_x, \; \; \vec{e}_2 = \partial_y, \; \; \vec{e}_3 = \partial_z </math>
となる。これによって、(リンドラー座標表示がカバーする領域、つまりリンドラー・ウェッジにおける) 各事象での接ベクトル空間の「局所ローレンツ基準ベクトル場系 (local Lorentz frame)」が定式化される。時間性 (time-like) 単位ベクトル場 <math>\vec{e}_0</math> の積分曲線は、「リンドラー型観測者 (Rindler observers)」と呼ばれる一群の観測者の世界線から構成される「時間性線叢」 (timelike congruence) を形成する。リンドラー座標表示では、こうした世界線は、垂直座標軸方向に延びる線 <math>x = x_0, \; y = y_0, z = z_0</math> として現れる。上記の座標変換を用いると、こうした座標軸は、元々のデカルト座標表示での双曲線に対応していることが分かる。

Some representative Rindler observers (navy blue hyperbolic arcs) depicted using the Cartesian chart.<br />デカルト座標表示を使って描かれた代表的なリンドラー型観測者達 (ネービーブルーの双曲線)
Some representative Rindler observers (navy blue hyperbolic arcs) depicted using the Cartesian chart.
デカルト座標表示を使って描かれた代表的なリンドラー型観測者達 (ネービーブルーの双曲線)

[[訳註:「ネービーブルー」は明瞭には見えないようだが、拡大すると確かに双曲線部分はそうなっている。]]


As with any timelike congruence in any Lorentzian manifold, this congruence has a kinematic decomposition (see Raychaudhuri equation). In this case, the expansion and vorticity of the congruence of Rindler observers vanish. The vanishing of the expansion tensor implies that each of our observers maintains constant distance to his neighbors. The vanishing of the vorticity tensor implies that the world lines of our observers are not twisting about each other; this is a kind of local absence of "swirling".
任意のローレンツ多様体での任意の時間性線叢と同様に、この線叢でも「運動学的分解」(kinematic decomposition) が可能である ("Raychaudhuri equation" を参照) が、この場合では、リンドラー型観測者の線叢の「膨張」と「渦度」は消失する。膨張テンソルの消失 (膨張テンソルが 0 になること) は、「個々のリンドラー型観測者と隣のリンドラー型観測者との距離は一定である」と云うことを意味する。また、渦度テンソルの消失 (渦度テンソルが 0 になること) は、「リンドラー型観測者の世界線は互いに捻じれることはない。これは一種の『旋回』の局所的消失である」ことを意味する。


The acceleration vector of each observer is given by the covariant derivative
<math> \nabla_{\vec{e}_0} \vec{e}_0 = \frac{1}{x} \, \vec{e}_1 </math>
That is, each Rindler observer is accelerating in the <math>\partial_x</math> direction. Individually speaking, each observer is in fact accelerating with constant magnitude in this direction, so their world lines are the Lorentzian analogs of circles, which are the curves of constant path curvature in Euclidean geometry.
各観測者の加速度ベクトルは、共変導ベクトル (covariant derivative)
<math> \nabla_{\vec{e}_0} \vec{e}_0 = \frac{1}{x} \, \vec{e}_1 </math>
によって与えられる。つまり、各リンドラー型観測者は、<math>\partial_x</math> 方向に加速する。個々の観測者に着目すると、各観測者は、実際にこの方向に一定強度で加速するので、その世界線は、ユークリッド幾何学での定曲率曲線である円のローレンツ的な対応物になっている。


[[2008-07-01補足訳註:簡単に計算できるように、ゼロでない接続係数は \Gamma^0 {}_{01} = \Gamma^0 {}_{10} = \frac{1}{x}\Gamma^1 {}_{00} = x の3つだけである。\nabla_{\vec{e}_0} \vec{e}_0 = \frac{1}{x} \, \vec{e}_1 は、このことから直に出てくる。]]


Because the Rindler observers are vorticity-free, they are also hypersurface orthogonal. The orthogonal spatial hyperslices are <math>t=t_0</math>; these appear as horizontal half-planes in the Rindler chart and as half-planes through <math>T = X = 0</math> in the Cartesian chart (see the figure above). Setting <math>dt=0</math> in the line element, we see that these have ordinary Euclidean geometry, <math> d\sigma^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2, \; 0 < x < \infty, \; -\infty < y, z < \infty</math>. Thus, the spatial coordinates in the Rindler chart have a very simple interpretation consistent with the claim that the Rindler observers are mutually stationary. We will return to this rigidity property of the Rindler observers a bit later in this article.
リンドラー型観測者には、渦度がないから、リンドラー型観測者は超表面に直交する。一連の空間的直交超切片は <math>t=t_0</math> で表わされるが、それらはリンドラー座標表示では水平な半平面になり、デカルト座標表示では <math>T = X = 0</math> を通る半平面になる (上図参照)。線素において、<math>dt=0</math> とするなら、<math> d\sigma^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2, \; 0 < x < \infty, \; -\infty < y, z < \infty</math> となり、通常のユークリッド幾何学が得られるから、リンドラー座標系の空間座標は、リンドラー型観測者が互いに静止している条件に合致する形で、非常に単純な解釈が可能となる。リンドラー型観測者間の剛体性に就いては後述する。


A "paradoxical" property
「逆説」的性格


Note that Rindler observers with smaller constant x coordinate are accelerating harder to keep up! This may seem surprising because in Newtonian physics, observers who maintain constant relative distance must share the same acceleration. But in relativistic physics, we see that the trailing endpoint of a rod which is accelerated by some external force (parallel to its symmetry axis) must accelerate a bit harder than the leading endpoint, or else it must ultimately break.
x 座標が定数であるリンドラー型観測者では、その x 座標が小さい方の観測者は加速度を大きくしないと、x 座標が大きい方の観測者に付いていけない! ニュートン物理においては、相対的距離が一定の観測者は、加速度が同一でなければならないことを考えると、これは驚くべきことに見えるかもしれない。しかし、相対論物理では、棒が (棒の対称軸と平行な) 外力を受けて加速される場合、棒の後端は先端より若干量強く加速しなければならない。そうでないと、棒は遂にはちぎれざるをえなくなる。


This phenomenon is the basis of a well known "paradox". However, it is a simple consequence of relativistic kinematics. One way to see this is to observe that the magnitude of the acceleration vector is just the path curvature of the corresponding world line. But the world lines of our Rindler observers are the analogs of a family of concentric circles in the Euclidean plane, so we are simply dealing with the Lorentzian analog of a fact familiar to speed skaters: in a family of concentric circles, inner circles must bend faster (per unit arc length) than the outer ones.
この現象は、良く知られた「逆説」の基礎になっている。しかし、これは相対論的運動学の単純な帰結である。これを理解するには、加速度ベクトルの大きさとは、対応する世界線の曲率半径そのものだと云うことに気付けば良い。ここで、リンドラー型観測者達の世界線は、ユークリッド幾何学での平面における同心円の集まりに対応している訣だから、同心円において内側の円では外側の円よりも (単位長さ当たり) 速く曲がらねばならないと云う、スピードスケーター達にはお馴染みの事実のローレンツ的な対応現象が起こっているに過ぎないのだ。


Minkowski observers
ミンコフスキー型観測者

A representative Minkowski observer (navy blue hyperbolic secant curve) depicted using the Rindler chart.  The Rindler horizon is shown in red.<br />リンドラー座標表示に描かれた代表的ミンコフスキー型観測者 (ネービーブルーの双曲線正割曲線)。リンドラー地平は赤で示されている。
A representative Minkowski observer (navy blue hyperbolic secant curve) depicted using the Rindler chart. The Rindler horizon is shown in red.
リンドラー座標表示に描かれた代表的ミンコフスキー型観測者 (ネービーブルーの双曲線正割曲線)。リンドラー地平は赤で示されている。

It is worthwhile to also introduce an alternative frame, given in the Minkowski chart by the natural choice
:<math>\vec{f}_0 = \partial_T, \; \vec{f}_1 = \partial_X, \; \vec{f}_2 = \partial_Y, \; \vec{f}_3 = \partial_Z </math>
Transforming these vector fields using the coordinate transformation given above, we find that in the Rindler chart (in the Rinder wedge) this frame becomes
:<math>\vec{f}_0 =  \frac{\cosh(t)}{x} \, \partial_t - \sinh(t) \, \partial_x</math>
:<math>\vec{f}_1 = -\frac{\sinh(t)}{x} \, \partial_t + \cosh(t) \, \partial_x</math>
:<math>\vec{f}_2 = \partial_y, \; \vec{f}_3 = \partial_z </math>
Computing the kinematic decomposition of the timelike congruence defined by the timelike unit vector field <math>\vec{f}_0</math>, we find that the expansion and vorticity again vanishes, and in addition the acceleration vector vanishes, <math>\nabla_{\vec{f}_0} \vec{f}_0 = 0</math>. In other words, this is a geodesic congruence; the corresponding observers are in a state of inertial motion. In the original Cartesian chart, these observers, whom we will call Minkowski observers, are at rest.
ミンコフスキー座標表示中において自然な設定
:<math>\vec{f}_0 = \partial_T, \; \vec{f}_1 = \partial_X, \; \vec{f}_2 = \partial_Y, \; \vec{f}_3 = \partial_Z </math>
により別の基準系を導入するのも無駄なことではない。こうしたベクトル場に、上記の座標変換を適用すると、リンドラー座標表示においては (リンドラー・ウェッジ内では) この基準系が
:<math>\vec{f}_0 =  \frac{\cosh(t)}{x} \, \partial_t - \sinh(t) \, \partial_x</math>
:<math>\vec{f}_1 = -\frac{\sinh(t)}{x} \, \partial_t + \cosh(t) \, \partial_x</math>
:<math>\vec{f}_2 = \partial_y, \; \vec{f}_3 = \partial_z </math>
となることが分かる。時間性単位ベクトル場 <math>\vec{f}_0</math> が定める時間性線叢の運動学的分解を計算すると、膨張及び渦度がやはり消失しているばかりでなく、加速度ベクトルも消失していることが分かる (<math>\nabla_{\vec{f}_0} \vec{f}_0 = 0</math>)。換言すれば、それは「測地的線叢」になっており、対応する観測者は慣性運動状態にあることになる。元々のデカルト座標表示では、以下「ミンコフスキー型観測者」と呼ぶことにするこうした観測者は静止している。

[[2008-07-01補足訳註: \nabla_{\vec{f}_0} \vec{f}_0 = 0 の計算は以下の通り:
\begin{eqnarray}<br />
\nabla_{\vec{f}_0} \vec{f}_0 &=& \frac{\cosh (t)}{x} \, \nabla_{\partial_t} \, \vec{f}_0 - \sinh (t) \, \nabla_{\partial_x} \, \vec{f}_0 \nonumber \\<br />
{} &=& \frac{\cosh (t)}{x} \, \nabla_{\partial_t} \, \bigl( \frac{\cosh (t)}{x} \, \partial_t - \sinh (t) \, \partial_x \bigr) \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {}- \sinh (t) \, \nabla_{\partial_x} \, \bigl( \frac{\cosh (t)}{x} \, \partial_t - \sinh (t) \, \partial_x \bigr) \nonumber \\<br />
{} &=& \frac{\cosh (t)}{x} \, \bigl( \frac{\sinh (t)}{x} \, \partial_t + \frac{\cosh (t)}{x} \, \nabla_{\partial_t} \, \partial_t \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \cosh (t) \, \partial_x - \sinh(t) \, \nabla_{\partial_t} \, \partial_x \bigr) \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \sinh (t) \, \bigl( - \frac{\cosh (t)}{x^2} \, \partial_t \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{40pt} {} + \frac{\cosh (t)}{x} \, \nabla_{\partial_x} \, \partial_t - \sinh (t) \nabla_{\partial_x} \, \partial_x \bigr) \nonumber \\<br />
{} &=& \frac{\cosh (t)}{x} \, \bigl( \frac{\sinh (t)}{x} \, \partial_t + \frac{\cosh (t)}{x} \, \Gamma^1 {}_{00} \, \partial_x \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \cosh (t) \, \partial_x - \sinh(t) \, \Gamma^0 {}_{01} \, \partial_t \bigr) \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \sinh (t) \, \bigl( - \frac{\cosh (t)}{x^2} \, \partial_t + \frac{\cosh (t)}{x} \, \Gamma^0 {}_{10} \, \partial_t \bigr) \nonumber \\<br />
{} &=& \frac{\cosh (t)}{x} \, \bigl( \frac{\sinh (t)}{x} \, \partial_t + \frac{\cosh (t)}{x} \cdot x \, \partial_x \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \cosh (t) \, \partial_x - \sinh(t) \cdot \frac{1}{x} \, \partial_t \bigr) \nonumber \\<br />
{} & & \hspace{20pt} {} - \sinh (t) \, \bigl( - \frac{\cosh (t)}{x^2} \, \partial_t + \frac{\cosh (t)}{x} \cdot \frac{1}{x} \, \partial_t \bigr) \nonumber \\<br />
{} &=& 0 \nonumber<br />
\end{eqnarray}<br />
]]


In the Rindler chart, the world lines of the Minkowski observers appear as hyperbolic secant curves asymptotic to the coordinate plane <math>x=0</math>. Specifically, in Rindler coordinates, the world line of the Minkowski observer passing through the event <math>t=t_0, \; x=x_0, \; y=y_0, \; z=z_0</math> is
:<math>t = \operatorname{arctanh}(s/x_0), \; x = \sqrt{x_0^2-s^2}, \; y = y_0, \; z = z_0, \; -x_0 < s < x_0</math>
where <math>s</math> is the proper time of this Minkowski observer. Note that only a small portion of his history is covered by the Rindler chart! This shows explicitly why the Rindler chart is not geodesically complete; timelike geodesics run outside the region covered by the chart in finite proper time. Of course, we already knew that the Rindler chart cannot be geodesically complete, because it covers only a portion of the original Cartesian chart, which is a geodesically complete chart.
リンドラー座標表示では、ミンコフスキー型観測者の世界線は、座標面 <math>x=0</math> に漸近する双曲線正割曲線となる。具体的には、リンドラー座標系では、事象 <math>t=t_0, \; x=x_0, \; y=y_0, \; z=z_0</math> を通るミンコフスキー型観測者の世界線は、 <math>s</math> をミンコフスキー型観測者の固有時として
:<math>t = \operatorname{arctanh}(s/x_0), \; x = \sqrt{x_0^2-s^2}, \; y = y_0, \; z = z_0, \; -x_0 < s < x_0</math>
となる。リンドラー座標表示では、ミンコフスキー型観測者の活動期間のごく一部しかカバーされていないことに注意されたい! このことは、リンドラー座標表示が測地線に関して完全ではないことをあからさまに示している。つまり、座標表示上、有限な固有時内でカバーされる領域の外に時間性測地線が延びているのである。勿論、リンドラー座標表示が測地線に関して完全でありえないのは、リンドラー座標表示が、測地線に関して完全な元々のデカルト座標表示の一部分のみをカバーしているのだから、当然なのであった。



In the case depicted in the figure, <math>x_0 = 1</math> and we have drawn (correctly scaled and boosted) the light cones at <math>s=-\frac{1}{2}, \; 0, \; \frac{1}{2}</math>.
図に示した例では、<math>x_0 = 1</math> とし、<math>s=-\frac{1}{2}, \; 0, \; \frac{1}{2}</math> における光錐を (縮尺は保ったまま強調して) 描いてある。


The Rindler horizon
リンドラー地平


The Rindler coordinate chart has a coordinate singularity at <math>x = 0</math>, where the metric tensor (expressed in the Rindler coordinates) has vanishing determinant. This happens because as <math>x \rightarrow 0</math> the acceleration of the Rindler observers diverges. As we can see from the figure illustrating the Rindler wedge, the locus <math>x = 0</math> in the Rindler chart corresponds to the locus <math>T^2=X^2, \; X > 0</math> in the Cartesian chart, which consists of two null half-planes, each ruled by a null geodesic congruence.
リンドラー座標表示では、<math>x = 0</math> に、(リンドラー座標で表現された) 計量テンソルの行列式がゼロになる「座標特異点」が現れる。これは、<math>x \rightarrow 0</math> となるにつれて、リンドラー型観測者の加速度が発散するためである。リンドラー・ウェッジの図から見て取れるように、リンドラー座標表示での軌跡 <math>x = 0</math> は、デカルト座標表示にあっては、それぞれゼロ測地線叢で編まれた2枚のゼロ半平面 (null half-plane) からなる軌跡 <math>T^2=X^2, \; X > 0</math> に対応する。


For the moment, we simply consider the Rindler horizon as the boundary of the Rindler coordinates. Later we will see that it is in fact analogous in some important respects, to the event horizon of a black hole.
ここしばらくは、リンドラー地平とは、単にこうしたリンドラー座標の限界のことであるとして考えておくことにする。後で、実はリンドラー地平が、幾つかの重要な点でブラックホール事象地平と対応することを見ることになるであろう。


Geodesics
測地線


The geodesic equations in the Rindler chart are easily obtained from the geodesic Lagrangian; they are
:<math> \ddot{t} + \frac{2}{x} \, \dot{x} \, \dot{t} = 0, \; \ddot{x} + x \, \dot{t}^2 = 0, \; \ddot{y} = 0, \; \ddot{z} = 0</math>
Of course, in the original Cartesian chart, the geodesics appear as straight lines, so we could easily obtain them in the Rindler chart using our coordinate transformation. However, it is instructive to obtain and study them independently of the original chart, and we shall do so in this section.
リンドラー座標表示での測地線方程式は、測地線ラグランジアン (geodesic Lagrangian) から簡単に得られて、次のようになる:
:<math> \ddot{t} + \frac{2}{x} \, \dot{x} \, \dot{t} = 0, \; \ddot{x} + x \, \dot{t}^2 = 0, \; \ddot{y} = 0, \; \ddot{z} = 0</math>
勿論、元々のデカルト座標表示では、測地線は直線になるから、上記の座標変換を用いれば簡単に、リンドラー座標表示での測地線方程式は得られる訣ではあるのだけれども、もともとの座標表示とは独立して、測地線方程式を構成・検討することは示唆に富むものであるので、ここでは、実際にそれを行なってみることにする。

Some representative null geodesics (black hyperbolic semicircular arcs) projected into the spatial hyperslice t=0 of the Rindler observers.  The Rindler horizon is shown as a magenta plane.<br />リンドラー型観測者の空間的な超切片 t=0 に投影された、幾つかの代表的ゼロ測地線 (黒の双曲弧状線)。リンドラー地平は、深紅色の平面として表わされている。
Some representative null geodesics (black hyperbolic semicircular arcs) projected into the spatial hyperslice t=0 of the Rindler observers. The Rindler horizon is shown as a magenta plane.
リンドラー型観測者の空間的な超切片 t=0 に投影された、幾つかの代表的ゼロ測地線 (黒の双曲型半円弧)。リンドラー地平は、深紅色の平面として表わされている。


[[訳註:<math>L =\frac{1}{2}(-x^2\dot{t}^2 + \dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2)</math> と置くと、測地線の滞留性からラグランジ方程式 <math>\frac{d}{ds} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot{t}} \right) - \frac{\partial L}{\partial t} = 0</math>, \frac{d}{ds} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}} \right) - \frac{\partial L}{\partial x} = 0, \frac{d}{ds} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot{y}} \right) - \frac{\partial L}{\partial y} = 0, \frac{d}{ds} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot{z}} \right) - \frac{\partial L}{\partial z} = 0 が得られる。上記の測地線方程式は、その直接の結果である。]]


From the first, third, and fourth we immediately obtain the first integrals
:<math> \dot{t} = \frac{E}{x^2}, \; \; \dot{y} = P, \; \; \dot{z} = Q </math>
But from the line element we have <math>\epsilon = -x^2 \, \dot{t}^2 + \dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2</math> where <math>\epsilon=-1, \, 0, \, 1</math> for timelike, null, and spacelike geodesics, respectively. This gives the fourth first integral, namely
:<math> \dot{x}^2 = \left( -\epsilon + \frac{E^2}{x^2} \right) - P^2 - Q^2</math>.
This suffices to give the complete solution of the geodesic equations.
1番目、3番目、4番目の式から、直ちに第1積分
:<math> \dot{t} = \frac{E}{x^2}, \; \; \dot{y} = P, \; \; \dot{z} = Q </math>
が得られる。そして更に、線素より <math>\epsilon = -x^2 \, \dot{t}^2 + \dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2</math> (ただし、時間性測地線、ゼロ測地線、空間性測地線夫々に対して <math>\epsilon=-1, \, 0, \, 1</math> とする) であるから、4番目の第1積分
:<math> \dot{x}^2 = \left( -\epsilon + \frac{E^2}{x^2} \right) - P^2 - Q^2</math>
も得ることができる。これにより、測地線方程式の完全な解が得られる。

In the case of null geodesics, from <math>\frac{E^2}{x^2} - P^2-Q^2</math> with nonzero <math>E</math>, we see that the x coordinate ranges over the interval <math>0 < x < \frac{E}{\sqrt{P^2+Q^2}}</math>.
ゼロ測地線の場合は、<math>E</math> をゼロでない値として <math>\frac{E^2}{x^2} - P^2-Q^2</math> より、x 座標の変動範囲が、区間 <math>0 < x < \frac{E}{\sqrt{P^2+Q^2}}</math> であることが分かる。



The complete seven parameter family giving any null geodesic through any event in the Rindler wedge, is
:<math>\begin{matrix}<br />
 t - t_0 & = &<br />
 \operatorname{arctanh} \left(<br />
 \frac{s \, (P^2+Q^2) - \sqrt{E^2- (P^2+Q^2) \, x_0^2}}{E}<br />
 \right) \\<br />
 & & + ~ \operatorname{arctanh} \left(<br />
 \frac{\sqrt{E^2 - (P^2+Q^2) \, x_0^2}}{E}<br />
 \right)<br />
\end{matrix}</math>
:<math> x = \sqrt{ x_0^2 + 2 \, s \, \sqrt{E^2-(P^2+Q^2) \, x_0^2} - s^2 \, (P^2+Q^2) } </math>
<math> y - y_0 = P \, s; \; \; z - z_0 = Q \, s</math>:
Plotting the tracks of some representative null geodesics through a given event (that is, projecting to the hyperslice <math>t=0</math>), we obtain a picture which looks suspiciously like the family of all semicircles through a point and orthogonal to the Rindler horizon! (See the figure.)
リンドラー・ウェッジ内の任意の事象に就いて、それを通る任意のゼロ測地線を既定する完全なパラメータ族 (パラメータは7つ) は
:<math>\begin{matrix}<br />
 t - t_0 & = &<br />
 \operatorname{arctanh} \left(<br />
 \frac{s \, (P^2+Q^2) - \sqrt{E^2- (P^2+Q^2) \, x_0^2}}{E}<br />
 \right) \\<br />
 & & + ~ \operatorname{arctanh} \left(<br />
 \frac{\sqrt{E^2 - (P^2+Q^2) \, x_0^2}}{E}<br />
 \right)<br />
\end{matrix}</math>
:<math> x = \sqrt{ x_0^2 + 2 \, s \, \sqrt{E^2-(P^2+Q^2) \, x_0^2} - s^2 \, (P^2+Q^2) } </math>
<math> y - y_0 = P \, s; \; \; z - z_0 = Q \, s</math>:
である。所与の事象を通る幾つかの代表的ゼロ測地線を描いてみると (つまり、超切片 <math>t=0</math> に投影してみると) 或る点を通り、リンドラー地平に対して直交する全ての半円弧の集合のように見えるものが得られる! (図参照)

[[訳註:第4の第1積分において x^2 を新たな変数で (例えば <math>\xi = x^2</math> として) 置き換えれば、変数の分離ができて、初等的な積分が可能になるので、それからゼロ測地線の x に対するパラメータ式を求めるのは容易である。更に、こうして得られた x に対するパラメータ式を第一の第1積分に代入して積分すれば t に関するパラメータ式を求めることができる。]]


The Fermat metric
フェルマー計量

The fact that in the Rindler chart, the projections of null geodesics into any spatial hyperslice for the Rindler observers are simply semicircular arcs can be verified directly from the general solution just given, but there is a very simple way to see this. A static spacetime is one in which a vorticity-free timelike Killing vector field can be found. In this case, we have a uniquely defined family of (identical) spatial hyperslices orthogonal to the corresponding static observers (who need not be inertial observers). This allows us to define a new metric on any of these hyperslices which is conformally related to the original metric inherited from the spacetime, but with the property that geodesics in the new metric (note this is a Riemannian metric on a Riemannian three-manifold) are precisely the projections of the null geodesics of spacetime. This new metric is called the Fermat metric, and in a static spacetime endowed with a coordinate chart in which the line element has the form
:<math> ds^2 = g_{00} \, dt^2 + g_{jk} \, dx^j \, dx^k, \; \; 1 \leq j, \; k \leq 3 </math>
the Fermat metric on <math>t = 0</math> is simply
:<math> d\rho^2 = \frac{g_{jk} \, dx^j \, dx^k}{-g_{00}}</math>
(where the metric coeffients are understood to be evaluated at <math>t = 0</math>).
リンドラー座標表示において、リンドラー型観測者に就いての空間的超切片へのゼロ測地線の投影が半円弧になってしまうと云うことは、上記の一般的な解から直接確認できるが、このことを見て取る非常に簡単な方法がある。静的な時空は、無渦度時間性キリング・ベクトル場が存在するような時空であるが、この場合、対応する静的な観測者 (慣性的観測者である必要はない) に直交すると云うことで一意に定まる (同等な) 空間的超切片の族が存在する。これにより、この時空に本来備わった計量に共形的に関連するこうした超切片のどれにおいても新たな計量が、その計量 (これが3次元リーマン多様体におけるリーマン計量であることに注意) での測地線が、実は時空のゼロ測地線の投影になっていると云う特徴を有するようにして、定義可能である。この新たな計量は「フェルマー計量」と呼ばれる。線素が
:<math> ds^2 = g_{00} \, dt^2 + g_{jk} \, dx^j \, dx^k, \; \; 1 \leq j, \; k \leq 3 </math>
の形の座標表示を有する静的時空にあっては、<math>t = 0</math> でのフェルマー計量は単に
:<math> d\rho^2 = \frac{g_{jk} \, dx^j \, dx^k}{-g_{00}}</math>
となる (ただし、計量係数は、<math>t = 0</math> での値とする)。



In the Rindler chart, the timelike translation <math>\partial_t</math> is such a Killing vector field, so this is a static spacetime (not surprisingly, since Minkowski spacetime is of course trivially a static vacuum solution of the Einstein field equation). Therefore, we may immediately write down the Fermat metric for the Rindler observers:
:<math> d\rho^2 = \frac{dx^2 + dy^2 + dz^2}{x^2}, \; \; 0 < x < \infty, \; \; -\infty < y, z < \infty </math>
But this is the well-known line element of hyperbolic three-space H3 in the upper half space chart! This is closely analogous to the well known upper half plane chart for the hyperbolic plane H2, which is familiar to generations of complex analysis students in connection with conformal mapping problems (and much more), and many mathematically minded readers already know that the geodesics of H2 in the upper half plane model are simply semicircles (orthogonal to the circle at infinity represented by the real axis).
リンドラー座標表示の場合には、時間性移動 <math>\partial_t</math> は、こうしたキリング・ベクトル場であるため、それは静的な時空になる (これは、勿論、ミンコフスキー時空が、アインシュタインの場の方程式の自明な静的真空解であるためだから当然のことである)。従って、リンドラー型観測者に対するフェルマー計量は、直ちに書くことができて、
:<math> d\rho^2 = \frac{dx^2 + dy^2 + dz^2}{x^2}, \; \; 0 < x < \infty, \; \; -\infty < y, z < \infty </math>
となる。しかし、これは上半空間座標表示による3次元双曲型空間 H3 の線素として周知である! それは、「等角写像問題」(及び、その他多くの問題) に関連して複素解析を学んだ者にとり従来馴染み深い双曲平面 H2 に対する周知の上半平面座標表示と強い類似性があり、数学の心得のある読者なら、大方は、上半平面モデルにおける H2 の測地線は、単純に (実軸によって表わされる無限遠円周に直交する) 半円弧になることをご存じの筈である。


Symmetries
対称性

Since the Rindler chart is a coordinate chart for Minkowksi spacetime, we expect to find ten linearly independent Killing vector fields. Indeed, in the Cartesian chart we can readily find ten linearly independent Killing vector fields, generating respectively one parameter subgroups of time translation, three spatials, three rotations and three boosts. Together these generate the (proper isochronous) Poincaré group, the symmetry group of Minkowski spacetime.
リンドラー座標表示は、ミンコフスキー時空のためのものであるから、10個の線型独立なキリング・ベクトル場があると考えられる。実際、デカルト座標表示では、簡単に10個の線型独立なキリング・ベクトル場が見つけられて、それぞれ、時間推移、3種類の空間、3種類の回転、3種類の拡大からなる1パラメータ部分群を生成する。これらは、全体で、ミンコフスキー時空の対称群である (固有等時) ポアンカレ群を生成する。


However, it is instructive to write down and solve the Killing vector equations directly. We obtain four familiar looking Killing vector fields
:<math> \partial_t, \; \; \partial_y, \; \; \partial_z, \; \; -z \, \partial_y + y \, \partial_z </math>
(time translation, spatial translations orthogonal to the direction of acceleration, and spatial rotation orthogonal to the direction of acceleration) plus six more:
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{y}{x} \, \partial_t \pm \left( y \, \partial_x - x \, \partial_y \right) \right) </math>
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{z}{x} \, \partial_t \pm \left( z \, \partial_x - x \, \partial_z \right) \right) </math>
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{1}{x} \, \partial_t \pm \partial_x \right) </math>
(where the signs are chosen consistently + or -). We leave it as an exercise to figure out how these are related to the standard generators; here we wish to point out that we must be able to obtain generators equivalent to <math>\partial_T</math> in the Cartesian chart, yet the Rindler wedge is obviously not invariant under this translation. How can this be? The answer is that like anything defined by a system of partial differential equations on a smooth manifold, the Killing equation will in general have locally defined solutions, but these might not exist globally. That is, with suitable restrictions on the group parameter, a Killing flow can always be defined in a suitable local neighborhood, but the flow might not be well-defined globally. This has nothing to do with Lorentzian manifolds per se, since the same issue arises in the study of general smooth manifolds.
それでも、キリング・ベクトル方程式を直接書き下して解くことには意義がある。4つのお馴染みのキリング・ベクトル場
:<math> \partial_t, \; \; \partial_y, \; \; \partial_z, \; \; -z \, \partial_y + y \, \partial_z </math>
(時間推移、加速方向と直交する空間移動、及び加速方向と直交する空間内回転) の他に6つのキリング・ベクトル場
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{y}{x} \, \partial_t \pm \left( y \, \partial_x - x \, \partial_y \right) \right) </math>
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{z}{x} \, \partial_t \pm \left( z \, \partial_x - x \, \partial_z \right) \right) </math>
:<math> \exp(\pm t) \, \left( \frac{1}{x} \, \partial_t \pm \partial_x \right) </math>
(ただし符号は、正か負かで統一が取られる) が存在する。それが標準的生成元とどう関係するかは演習問題としておくが、ここでは、デカルト座標表示における <math>\partial_T</math> と等価な生成元を得ることができる必要があるとはいえ、リンドラー・ウェッジは、この推移では不変とならないことは明らかであることを指摘しておきたい。どうしてそのようなことが起こるのか? その答えは、微分可能多様体上の偏微分微分方程式系で定義されるものならなんであってもそうなのだが、キリング方程式は、一般には局所的に定義された解を有するものの、そうした解は大域的に存在するとは限らないためなのである。つまり、群パラメータに適宜の制限を加えることで、キリング・フローは相応の近傍内でなら常に定義可能であるものの、そのフローは、大域的に矛盾なく定義できないことがあるりうるのである。一般的な微分可能多様体の研究時にも、同じ問題が発生するから、これは、ローレンツ多様体そのものとは無関係である。


[[訳註:
キリング・ベクトル場 (X) の定義には、等価なのものが幾つかあるが ("Killing vector field - Wikipedia, the free encyclopedia" を参照)、そのうちの一つは、計量テンソル g のその方向へのリー微分が消えると云うものである:

\mathcal{L}_X g = 0

これから、計量テンソル係数に陽に含まれない座標 t, y, z 方向の接ベクトル \partial_t, \partial_y, \partial_z はキリング・ベクトル場をなすことが分かる。

また、キリング・ベクトル場の別の定義としては、(局所) 座標を使った

\nabla_\mu X_\nu + \nabla_\nu X_\mu = 0<br />

と云うものもあるが、上記引用中のベクトル場で -z \, \partial_y + y \, \partial_z 以下については、共変化して添字を下げてから、上記の式に当て嵌めると、それらがキリング・ベクトル場をなすことが容易に確認できる。
]]


Notions of distance
距離の概念

One of the many valuable lessons to be learned from a study of the Rindler chart is that there are in fact several distinct (but reasonable) notions of distance which can be used by the Rindler observers.
リンドラー座標表示の研究からは多くの有用な知見が得られるが、その内の一つは、リンドラー型観測者にとって、幾つかの異なる (しかし、それぞれにもっともな) 距離の概念が実際に存在して利用可能であると云うことである。


The first is the one we have tacitly employed above: the induced Riemannian metric on the spatial hyperslices <math>t=t_0</math>. We will call this the ruler distance since it corresponds to this induced Riemannian metric, but its operational meaning might not be immediately apparent.
そのうちの最初のものは、上述の記載中で我々が暗黙のうちに用いたものであって、空間的超切片 <math>t=t_0</math> 上に誘導されたリーマン計量である。リーマン計量から誘導されたものに対応しているから、これを「定規的距離」(ruler distance) と呼ぶことにするが、その操作的な意味は、直ちに明らかになるようなものではない。

[[訳註:わざわざ "it corresponds to" と言っているのが若干不審。]]


Operational meaning of the <span style=radar distance between two Rindler observers (navy blue vertical lines). The Rindler horizon is shown at left (red vertical line). The world line of the radar pulse is also depicted, together with the (properly scaled) light cones at events A, B, C.
2人のリンドラー型観測者 (ネービーブルーの垂直線) 間の「レーダー距離」の操作的な意味。リンドラー地平は、左側に描かれている (赤い垂直線)。レーダーパルスの世界線も、事象 A, B, C での (縮尺の正しい) 光錐と共に描かれている。" />

Operational meaning of the radar distance between two Rindler observers (navy blue vertical lines). The Rindler horizon is shown at left (red vertical line). The world line of the radar pulse is also depicted, together with the (properly scaled) light cones at events A, B, C.
2人のリンドラー型観測者 (ネービーブルーの垂直線) 間の「レーダー距離」の操作的な意味。リンドラー地平は、左側に描かれている (赤い垂直線)。レーダーパルスの世界線も、事象 A, B, C での (縮尺の正しい) 光錐と共に描かれている。

From the standpoint of physical measurement, a more natural notion of distance between two world lines is the radar distance. This is computed by sending a null geodesic from the world line of our observer (event A) to the world line of some small object, whereupon it is reflected (event B) and returns to the observer (event C). The radar distance is then obtained by dividing the round trip travel time, as measured by an ideal clock carried by our observer.
物理学的な測定の見地から言うなら、2本の世界線間の距離としてヨリ自然なのは、「レーダー距離」(radar distance) である。それには、観測者の世界線から或る小さい対象の世界線へとゼロ測地線を発信し (事象A)、そこで反射され (事象B)、観測者に戻ってくる (事象C) までのことから算出される。レーダー距離は、観測者が保持する理想的時計により測定された往復時間を分割することで得られる。

[[訳註:"divide" には "divide ... by ..." と云う形で「除算する」とう意味があるが、ここでは、「除算」とするのはヤヤ微妙。]]


(In Minkowski spacetime, fortunately, we can ignore the possibility of multiple null geodesic paths between two world lines, but in cosmological models and other applications things are not so simple! We should also caution against assuming that this notion of distance between two observers gives a notion which is symmetric under interchanging the observers!)
(幸いなことに、ミンコフスキー時空では、2本の世界線間に多数のゼロ測地線が存在する可能性は無視できるが、宇宙論的なモデルやその他の応用では、物事はそれほど単純ではない! この2観測者間の距離概念に就いても、観測者間の交換に対して対称であると決めかからないよう注意すべきである!)


In particular, let us consider a pair of Rindler observers with coordinates <math>x=x_0, \; y=0, \; z=0</math> and <math>x=x_0 + h, \; y=0, \; z = 0</math> respectively. (Note that the first of these, the trailing observer, is accelerating a bit harder, in order to keep up with the leading observer). Setting <math>dy = dz = 0</math> in the Rindler line element, we readily obtain the equation of null geodesics moving in the direction of acceleration:
:<math> t-t_0 = \log(x/x_0) </math>
Therefore, the radar distance between these two observers is given by
:<math> x_0 \, \log \left(1 + \frac{h}{x_0} \right) = h - \frac{h^2}{2 \, x_0} + O \left( h^3 \right) </math>
This is a bit smaller than the ruler distance, but for nearby observers the discrepancy is negligible.
具体的に、座標がそれぞれ <math>x=x_0, \; y=0, \; z=0</math> 及び <math>x=x_0 + h, \; y=0, \; z = 0</math> である一対のリンドラー型観測者を考えてみよう (一人目の観測者である追尾者の方は、先行者に遅れないために、若干強く加速していることに留意されたい)。 リンドラー線素において <math>dy = dz = 0</math> とすると、簡単に加速方向に運動するゼロ測地線の方程式:
:<math> t-t_0 = \log(x/x_0) </math>
が得られる。従って、これら2人の観測者間のレーダー距離は
:<math> x_0 \, \log \left(1 + \frac{h}{x_0} \right) = h - \frac{h^2}{2 \, x_0} + O \left( h^3 \right) </math>
で与えられる。これは、定規的距離より僅かに短いが、近接している観測者間の場合は、そのズレは無視できる。


A third possible notion of distance is this: our observer measures the angle subtended by a unit disk placed on some object (not a point object!), as it appears from his location. We call this the optical diameter distance. Because of the simple character of null geodesics in Minkowski spacetime, we can readily determine the optical distance between our pair of Rindler observers (aligned with the direction of acceleration). From a sketch it should be plausible that the optical diameter distance scales like <math>h+ \frac{1}{x_0} + O \left( h^3 \right)</math>. Therefore, in the case of a trailing observer estimating distance to a leading observer (the case <math>h>0</math>), the optical distance is a bit larger than the ruler distance, which is a bit larger than the radar distance. The reader should now take a moment to consider the case of a leading observer estimating distance to a trailing observer!
3番目の距離の概念としてにありうるのは、観測者が、その位置から見えるある対象上に置かれた単位円盤 (質点ではない!) によって張られる角度を測定することによるものである。この距離概念は「光学直径距離」と呼ばれる。ミンコフスキー時空において、ゼロ測地線の性格は単純であるから、(加速方向に整列した) 一対のリンドラー型観測者間の光学的距離を決定するのは容易にできる。略算すると、光学直径距離は <math>h+ \frac{1}{x_0} + O \left( h^3 \right)</math> 程度である筈だと考えられる。従って、追尾観測者から先行観測者への距離を測る場合 (<math>h>0</math> の場合)、光学的距離は、レーダー距離より僅かに長い定規的距離より更に僅かに長くなる。先行観測者が追尾観測者迄の距離を測る場合に就いては、読者が考察していただきたい。

[[訳註:"(not a point object!)" は直前の "some object" ではなく "a unit disk" に係っていると解釈して訳してあるが、我ながら微妙なところだと思える。]]
[[訳註:私 (ゑ) には、「光学的直径距離」の 式 <math>h+ \frac{1}{x_0} + O \left( h^3 \right) を導き出すことは出来なかった。原文の意図を理解していないのかもしれないが、私が簡単に計算すると <math>h+ \frac{h^2}{x_0} + O \left( h^3 \right) になってしまった...]]

There are other notions of distance, but the main point is clear: while the values of these various notions will in general disagree for a given pair of Rindler observers, they all agree that every pair of Rindler observers maintains constant distance. The fact that very nearby Rindler observers are mutually stationary follows from the fact, noted above, that the expansion tensor of the Rindler congruence vanishes identically. However, we have shown here that in various senses, this rigidity property holds at larger scales. This is truly a remarkable rigidity property, given the well-known fact that in relativistic physics, no rod can be accelerated rigidly (and no disk can be spun up rigidly) --- at least, not without sustaining inhomogeneous stresses. The easiest way to see this is to observe that in Newtonian physics, if we "kick" a rigid body, all elements of matter in the body will immediately change their state of motion. This is of course incompatible with the relativistic principle that no information having any physical effect can be transmitted faster than the speed of light.
他にも距離の概念が存在するが、その要点は明らかであって、それは、こうした様ざまな概念による値は、所与の対のリンドラー型観測者に対して、概ね一致しないものの、「如何なるリンドラー型観測者の対も、一定の距離を維持する」と云うことでは一致することである。「非常に近接した」リンドラー型観測者同士は互いに静止していると云う事実は、リンドラー線叢の膨張テンソルが恒等的に 0 になると云う前述の事実に由来する。しかし、上記のように、この剛体性は、様ざまな意味で、ヨリ大きい尺度でも成立する。相対論物理にあっては ---少なくとも、不均一な応力を維持しない限り---「剛体的に加速できる棒は存在しない」(そして「剛体的に回転数を上げられる円盤は存在しない」)と云う周知の事実を考えるならば、この剛体性は真に驚くべきものである。このことは、ニュートン物理においては、我々が剛体を「蹴飛ばす」なら、剛体内の全ての物質要素が瞬時にその運動状態を変えることを考えてみると最も簡単に理解できる。これは、勿論、何らかの物理効果を有する情報は、如何なるものであっても光速度を越えては伝搬しえないと云う相対論の原理に矛盾する。


It follows that if a rod is accelerated by some external force applied anywhere along its length, the elements of matter in various different places in the rod cannot all feel the same magnitude of acceleration if the rod is not to extend without bound and ultimately break. In other words, an accelerated rod which does not break must sustain stresses which vary along its length. Furthermore, in any thought experiment with time varying forces, whether we "kick" an object or try to accelerate it gradually, we cannot avoid the problem of avoiding mechanical models which are inconsistent with relativistic kinematics (because distant parts of the body respond too quickly to an applied force).
この結果、棒が、その長手方向の何処ででもよいが、何らかの外力を受けて加速されたとすると、棒が無制限に伸びる (そして遂には破断してしまう) と云うのでないのなら、棒内の様ざまな場所にある物質要素の全てが同一の加速度を受けることをはありえない。換言すれば、加速している棒が破断しないためには、その長手方向で変化する応力を維持する必要がある。更に、物体を「蹴飛ばす」にしろ、物体を徐々に加速するようにしてみるにしろ、時間変動する力に就いての如何なる思考実験においても、(外力に対する物体内の別々の部分の反応が速すぎるために) 相対論的運動学と矛盾する力学モデルを排除すると云う問題が不可避となる。


Returning to the question of the operational significance of the ruler distance, we see that this should be the distance which our observers will obtain should they very slowly pass from hand to hand a small ruler which is repeatedly set end to end. But justifying this interpretation in detail would require some kind of material model.
定規的距離の操作的の意味と云う問題に帰るなら、それは、観測者達が短い定規を非常にゆっくりと手渡ししていって、繰り返し段々に測っていくことで得られる距離とすべきものだと云うことが分かる。しかし、この解釈を細かいところまで正当化するためには、或る種の物質的モデルが必要となろう。


See also
以下も参照

  • Bell's spaceship paradox, for a sometimes controversial subject often studied using Rindler coordinates. 「ベルの宇宙船のパラドクス」: 論争の主題となることがある。リンドラー座標を使って検討されることが多い。
  • Born coordinates, for another important coordinate system adapted to the motion of certain accelerated observers in Minkowski spacetime. 「ボルン座標系」: ミンコフスキー時空において加速される観測者の運動に適用される、リンドラー座標とは別の重要な座標系。
  • Congruence (general relativity)「(一般相対論における) 線叢」
  • Ehrenfest paradox, for a sometimes controversial subject often studied using Born coordinates. 「エーレンフェストのパラドクス」: 論争の主題となることがある。ボルン座標を使って検討されることが多い。
  • Frame fields in general relativity「一般相対論における基準場」
  • General relativity resources「一般相対論資料」
  • Raychaudhuri equation「レイショードゥリ (Raychaudhuri) 方程式」
  • Unruh effect「アンルー (Unruh) 効果」


References
参考文献

    Useful background 有用な背景知識:
  • Boothby, William M. (1986). An Introduction to Differentiable Manifolds and Riemannian Geometry. New York: Academic Press. ISBN 0-12-116052-1.  See Chapter 4 for background concerning vector fields on smooth manifolds. 微分可能多様体のベクトル場に関する背景知識に就いて第4章を参照されたい。
  • Frankel, Theodore (1979). Gravitational Curvature: an Introduction to Einstein's Theory. San Francisco : W. H. Freeman. ISBN 0-7167-1062-5.  See Chapter 8 for a derivation of the Fermat metric. フェルマー計量の微分に就いて第8章を参照されたい。
    Rindler coordinates リンドラー座標:
  • Misner, Charles; Thorne, Kip S. & Wheeler, John Archibald (1973). Gravitation. San Francisco: W. H. Freeman. ISBN 0-7167-0344-0.  See Section 6.6. 第6章第6節を参照されたい。
  • Rindler, Wolfgang (2001). Relativity: Special, General and Cosmological. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-850836-0. 
    Rindler horizon リンドラー地平
  • Jacobson, Ted; and Parenti, Renaud (2003). "Horizon Entropy". Found. Phys. 33: 323-348. doi:10.1023/A:1023785123428.  eprint version
  • Barceló, Carlos; Liberati, Stefano; and Visser, Matt. Analogue Gravity. Living Reviews in Relativity. Retrieved on 6 May 2006.

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2008年6月10日 (火)

[be minded + to 不定詞] に就いて: 我那覇問題仲裁判断翻訳に関連して

[nouse: 我那覇和樹対日本プロフェッショナルフットボールリーグ仲裁判断 (CAS 2008/A/1452) 結論部訳文] (2008年5月30日 [金]) での「訳註」に補足しておく。

[be minded + to 不定詞] は「[to 不定詞] したい」、「[to 不定詞] する意向である」と云う意味であることは、[nouse: 我那覇和樹対日本プロフェッショナルフットボールリーグ仲裁判断 (CAS 2008/A/1452) 結論部訳文] であることは「訳註」で書いた通りだが、その根拠を明示しておかなかったことが気になりだしたためである。

実際、例えば、私が現在事実上常用しているたった一つの英和辞典である「小学館プログレッシブ英和中辞典第3版」(現在「第4版」になっているが、これに就いては未確認)では、形容詞 "minded" の語義 (p.1203) としては「通例複合語」と云うラベルのもとに「1.<人が>...の心[気質]をもった」と「2.<人が>...に興味[関心]をいだいている」と云う語義しか与えられていなかったりしているのである。

勿論、こうした例ばかりではなく、研究社の「新編英和活用大辞典」では "minded" の項 (p.1576) に 「He would help us if he were minded to do so. 彼にその気があるなら私たちを助けてくれるだろうに」と云う文例を掲げている。

しかし、「特殊辞典」でなくても、一般的な英語辞典に目を向けるなら

Concise Oxford Dictionary (1999) 10th ed. p.906
mind
5. (be minded) be inclined to do a particular thing.

Collins COBUILD English Dictionary for Advanced Learners (2001) 3rd ed. p.981
minded
If someone is minded to do something, they want or intend to do it. [FORMAL]
The Home Office said at that time that it was minded to reject his application for political asylum...
If the Americans were so minded then they could take sanctions against them.

Concise Oxford Dictionary (COD) の語釈は "be minded" の形では「ある具体的な何かをするつもりである」と云うことだし、COBUILD の方は「誰かが何かを "(is) minded to do" とは、その何かをすることを欲する又はするつもりであるということである」と云う意味である。ちなみに COBUILD の2つの例文を訳すと「当事内務省は、彼の政治亡命申請を拒否する意向であると表明していた」と「もしアメリカ側にそう云う積もりがあるというのだったとしたら、それに対する制裁を受けることになりもしようが」となる。

なお、COD も COBUILD も手元にあったもので調べたのだが、現在 COD は第11版、COBUILD は第5版の筈。


ではオンライン辞典ではどうか。

"Online Dictionary, Encyclopedia and Thesaurus. Free access." で "minded" を調べると:

minded
adj.
1. Disposed; inclined: I am not minded to answer any of your questions.

この語釈も「...したい」と云うことであるし、また例文を訳すなら「私は、君の質問には一切答える積もりはない」となる。


聖書からも引用できる。

Then Joseph her husband, being a just man, and not willing to make her a public example, was minded to put her away privily.
--Matthew 1:19 (King James Version)

これは、婚約中のマリアが、自分と関りなく妊娠したことを知ったヨセフが密かに彼女を離縁「しようと思った」と言う箇所である。「新共同訳」及び「文語訳」では、それぞれ次のようになっている。

夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにすることを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。
--新共同訳「マタイによる福音書」第1章第19節

夫ヨセフは正しき人にて之を公然(おほやけ)にするを好まず、私(ひそか)に離縁せんと思ふ。
--文語訳「マタイ傅」第1章第19節


まぁ、これくらいでいいだろう。

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2008年5月30日 (金)

我那覇和樹対日本プロフェッショナルフットボールリーグ仲裁判断 (CAS 2008/A/1452) 結論部訳文

以下は 2008年5月27日(スイス・ローザンヌ) に Court of Arbitration for Sport が申立人我那覇和樹と被申立人日本プロフェッショナルフットボールリーグ (Jリーグ) との間の仲裁事件に対して下した仲裁判断 (CAS 2008/A/1452) の結論部分とその和訳文である。

46. As mentioned above, whilst the opinion of the treating doctor carries much weight it is not conclusive of this issue. Nor is it conclusive to say that that opinion has the support of another medical expert such as Dr. Onishi. We note that contrary opinions have been expressed by Dr. Aoki and Dr. Lefor. Had the alleged offense occurred in 2008 Dr. Goto and Mr. Ganaha would be required to seek a retroactive approval of a therapeutic use exemption from a body of independent medical experts who would conduct a medical re-assessment of the treatment.
46. 上述の如く、担当医の意見は大変重要だとは言え、本件にとり決定的なものではない。この意見を大西医師のような別の医療専門家が支持していると云うことも決定的ではない。当仲裁廷は、青木医師やレフォー医師は反対の意見を述べたということも留意しているのである。本事案が2008年に発生したものであったのなら、後藤医師及び我那覇氏は、治療行為に就いて医学的な再査定を行なう独立した医療専門組織から、治療上の使用と云う例外にあたることに遡及的な同意を得る必要があったであろう。

47. Whilst the Panel might be minded to accept that in all the particular circumstances of this case, the intravenous infusion was a legitimate medical treatment for Mr. Ganaha within the meaning of the 2007 WADA Code the Panel notes that at the time the J League had not adapted those provision of the WADA Code which related to sanctions.
47. 本仲裁廷は、本件の個別的な事情全体に鑑みて、2007年反ドーピング機関 (WADA) 規定に照らすなら、この静脈注射は、我那覇氏への正当な医療措置であったと認めらめるものなら認めたいのであるが、本仲裁廷は、当時、 Jリーグは、反ドーピング機関規定の制裁に関する該当条件を採用していなかったことにも留意するのである。

[[訳註:"be minded + to 不定詞" は「[to 不定詞] したい」、「[to 不定詞] する意向である」と云う意味だが (補足参考:[nouse: [be minded + to 不定詞] に就いて: 我那覇問題仲裁判断翻訳に関連して] 2008年6月10日[火])、その前に "might" が付いているので、「(本来ならば) [to 不定詞] したいのだが・・・」と云う含みのある表現になる。この文の場合は、さらに後に続く文により「(本来)認められるものなら認めたいのだが(それができない)」と云う含意になる。「正当な医療措置」であることを認めたくても、その根據になる反ドーピング機関規定の該当条件をJリーグが採用していなかったからである。]]

48. The Anti-Doping Regulations of the J League which were in force at the time of the infusion and which were reproduced as Exhibit 2.2 in the proceedings, provide that the Anti-Doping Special Committee under Article 5.1, "shall be entitled ... to impose sanctions upon players ..." (underlining added by the Panel). Article 5.2 then gives examples of the types of sanctions which are referred to. The Panel has considered the proper construction of the regulation and notes that under the wording of the clause, the Committee is "entitled" to impose a sanction. There is no obligation or requirement to impose a penalty. There is an entitlement to impose a penalty but there is no mandatory obligation that a penalty be imposed for every infraction. In the present case after a careful evaluation of the evidence and the competing submissions of the parties and hearing the witnesses, the Panel has reached the conclusion that there is no need to decide if there has been a violation because the Panel is satisfied that it is not a case where any sanction should be imposed on Mr. Ganaha. His conduct is not deserving of any sanction. The phrase used in the applicable section of WADA Code was unclear and the provision has since been revised. The explanation given by Dr. Aoki at the meeting in January 2007 was not sufficiently clear. The J League had not taken adequate action to specify the detailed conditions, both substantial and procedural, to determine what is legitimate medical treatment. There was, and still is, on the evidence divided medical views on the necessity for an intravenous infusion in the circumstances of this case. Mr. Ganaha had no capacity to evaluate the professional judgment of the treating medical practitioner. Mr. Ganaha had no ability to check the medical recording and reporting by the treating medical practitioner. If the medical recording and reporting had been more complete and not deficient in the respects asserted by Dr. Aoki, Mr. Ganaha may not have been charged with an infraction of the J League Anti-Doping Regulations. The Panel is of the view that Mr. Ganaha's conduct is not deserving of any sanction and the Panel does not need to reach a conclusion on whether Mr. Ganaha an anti-doping violation by using or applying a prohibited method or not. Even if the Panel were to reach a conclusion that Mr. Ganaha had committed an anti-doping violation by using a prohibited method he should not be sanctioned as he bears no fault. After considering the unique facts and circumstances of this case, the Panel has reached the conclusion that Mr. Ganaha acted totally without fault. The Appeal is upheld and the decision with respect to Mr. Ganaha is set aside and relief requested by Appellant is hereby granted.
48. 本件注射時に効力があり、証拠物件2.2として本件記録書類中に収録されているJリーグの反ドーピング規則は、第5条第1項で、反ドーピング専門委員会は「選手に対して制裁を課する権限を有するものとする」(下線は、当仲裁廷による付加) と規定している。次いで第5条第2項では、相当する制裁の種類の例が示されている。当仲裁廷は、「規則」の本来的な構成を検討した結果、この条項の文言によるなら、「委員会」は制裁を課する「権限を有する」ものであることに留意する。制裁金を課する義務又は必要性は記されていない。制裁金を課する権限は存在するわけだが、全ての違反に対し制裁金を課する職務上の義務は存在しない。本件の場合、証拠及び両当事者の係争意見を注意深く検証し、証人への訊問を行なった結果、本件にあっては、我那覇氏には如何なる制裁も課されるべきものではないことを、本仲裁廷が確信する以上、本仲裁廷は違反が存在したのかを判定する必要はないとの結論に達した。我那覇氏の行動は、如何なる制裁にも相当しない。反ドーピング機関 (WADA) 規定の該当部分で用いられていた表現は不明確であったため、条文は改訂されたのだった。2007年1月での会議において青木医師が行なった説明は、十分に明確ではなかった。Jリーグは、正当な医療行為が如何なるものかを決定するための内容上・手続上双方における詳細な条件を規定する適切な行動を取らなかった。当時、そして現在でもなお、本件の状況下において静脈内注射を行なう必要性に対する医学的な見解は、証拠上分かれている。我那覇氏には、医療措置実施者の専門的判断を評価する能力はなかった。我那覇氏には、医療措置実施者による治療記録作成及び報告をチェックすることは不可能であった。もし治療記録及び報告が、より完備したものであって、青木医師が主張した点において不備がなかったなら、我那覇氏は、Jリーグ反ドーピング規則違反に問われることはなかったかもしれない。本仲裁廷の見解では、我那覇氏の行動は如何なる制裁にも値するものではなく、我那覇氏が禁止されている方法を利用又は適用することで反ドーピング規則違反を犯したか否かに就いての結論は、出すに及ばない。たとえ、本仲裁廷が我那覇氏が禁止されている方法を利用して反ドーピング規則違反を犯したと云う結論に至るべきものがあったとしても、我那覇氏には過失はない以上、我那覇氏は制裁を課されてはならない。本案件固有の事実及び状況を検討した結果、本仲裁廷は、我那覇氏の行動には全く瑕疵がないとの結論に達した。本件申し立ての主張は支持され、我那覇氏に関する決定は破棄され、申立人が要求する救済はここに認可される。


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2007年12月21日 (金)

[幽明録 天台二女] に就いて:訳文

半年ほど前 (2007年6月19日[火]) に [nouse: [幽明録 天台二女] に就いて:太平広記[幽明録]逸文[劉晨阮肇入天台]テキスト] では、[幽明録 天台二女] の原文テキストをポストしただけで終わっていたが、[nouse: 元好問「玄都觀桃花」。あるいは、老生、煩悶しながらバーミヤンで麻婆豆腐を食べること:「非関水雨能留客」か「非関小雨能留客」か?] (2006年12月 4日[月]) でも触れたように、この説話は、[リップ・ヴァン・ウィンクル-浦-浦島太郎] 型であって、その視点から、かねがね再論するつもりであった。そこで、今回訳文を作成して、少しだけ話を進めておくことにする。

最初に、テキストに就いて説明しておかねばなるまい。ご存じの方も多いだろうが『幽明録』のオリジナルは早くから散逸している。しかし、その佚文は『太平広記』や『太平御覧』などの他書に引用されて現在に伝わっている。[nouse: [幽明録 天台二女] に就いて:太平広記[幽明録]逸文[劉晨阮肇入天台]テキスト] に示したのものも、その類いである訣で、以下、これに基づいて議論を行なう。印刷による注釈本のたぐいによるチェックはしていない。

岩波文庫の『唐宋伝奇集』の解説にもあるように「唐代の伝奇小説は、北宋初期に編纂された『太平広記』に大部分が収録されて」(岩波文庫『唐宋伝奇集(下)』p.380) いるから、信頼できるテキストの確定ができない状況と云うのは、私としても慚愧に耐えないのだが、諸事情から如何ともしがたいので、以下、其の程度の物だとおもって御覽いただきたい。

いきなり脱線するが、『太平広記』と言えば、石田幹之助が、その著『長安の春』の序文に於いて「顧(おも)うに『太平広記』五百巻、『全唐詩』四万八千首、それを片端から読んで見たところで問題によってはこれだけの材料しか出ないのかと思うとばかばかしくもあり」と、羨むべき自嘲を行っている、まさにその書である。

[nouse: [幽明録 天台二女] に就いて:太平広記[幽明録]逸文[劉晨阮肇入天台]テキスト] 中の4つのテキストのうち、まず基本として4番目の「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」を翻訳を試みる。ちなみに、このテキストは魯迅の校勘になるものらしい(『古小說鉤沈』所収)。

刘阮遇仙

汉明帝1)永平五年2),剡县3)刘晨、阮肇共入天台山4)取谷皮5),迷不得返。经十三日,粮食乏尽,饥馁殆死。遥望山上,有一桃树,大有子实;而绝岩邃涧,永无登路。攀援藤葛6),乃得至上。各啖数枚,而饥止体充。复下山,持杯取水,欲盥漱。见芜菁叶7)从山腹流出,甚鲜新,复一杯流出,有胡麻饭掺8),相谓曰:“此知去人径不远。”便共没水,逆流二三里9),得度山10),出一大溪,溪边有二女子,姿质妙绝,见二人持杯出,便笑曰:“刘阮二郎,捉向所失流杯来11)。”晨肇既不识之,12)缘二女便呼其姓,如似有旧,乃相见忻喜。问:“来何晚邪?13)”因邀14)还家。其家铜瓦屋。南壁及东壁下各有一大床,皆施绛罗帐15),帐角悬铃,金银交错,床头各有十侍婢,敕云:“刘阮二郎,经涉山岨16),向虽得琼实17),犹尚虚弊18),可速作食。”食胡麻饭19)、山羊脯、牛肉,甚甘美。食毕行酒20),有一群女来,各持五三桃子21),笑而言:“贺汝婿来。”酒酣作乐,刘阮欣怖交并22)。至暮,令各就一帐宿,女往就之,言声清婉,令人忘忧。至十日后欲求还去,女云:“君已来是,宿福所牵23),何复欲还邪?”遂停半年。气候草木是春时,百鸟啼鸣,更怀悲思24),求归甚苦。女曰:“罪牵君,当可如何?”遂呼前来女子,有三四十人,集会奏乐,共送刘阮,指示还路。既出,亲旧零落,邑屋改异,无复相识。问讯得七世孙,传闻上世入山,迷不得归。至晋太元八年25),忽复去,不知何所。

漢の明帝の永平五年のことである。剡(シャン)県の劉晨と阮肇はコウゾの樹皮を採るため一緒に天台山に入ったが、迷って戻れなくなった。十三日過ぎると食料も尽き、餓死せんばかりになったが、遠くの山上に一本の桃の樹があり、多くの実がなっているのが見えた。岩は切り立ち谷川は奥深く、登るための道は全く無かったが、葛のツルに縋りながらよじ登っていくことで、上まで辿り着くことができた。幾つか食べると空腹は収まり満足したので、山を下り戻り、椀で水を掬って手や口を濯ごうとしたが、見ると、青々としたカブラの葉が山腹から流れ出てくる。さらに椀も一つ流れ出てきたが、その中には胡麻と飯粒が入っていた。二人は「これは、人のいる所から遠くないと云うことだぞ」と言い合って、ともに水に入り、流れに逆らいながら二・三里ほどいくと、山を越えることができて、大きな渓流に出た。そのほとりには、たとえようもなく容姿の優れた女が二人いて、劉晨と阮肇が椀を持ってやってくるのを見るや、笑って「流してしまったお椀を、劉さんと阮さんのお二人がすぐに持って来てくれたわ」と言った。劉と阮には理由が分からなかったが、旧知の中のように二人の女は姓を呼び、そして逢えたことを大いに喜んだのである。二人の女が、「今晩いらっしゃらない?」と聞いてきたので、劉と阮は、招待に応じて女たちの家に附いて行くのだった。その家の屋根は銅葺きで、南の壁と東の壁の下には各々大きな寝床があって、それぞれの寝床には、角に鈴が付いていて金銀入交じりの縫い取りのある紅絹(もみ)の帳(とばり)が懸けてあった。枕頭には、それぞれ侍女が十人控えていたが、そのものたちに「劉さんと阮さんのお二人は、険しい山中を通って来られたのです。桃の実を食べたばかりですけれど、まだお疲れで身体が弱っておいでです。急いでお食事を作りなさい」と命じた。食事には、胡麻餅、ヤギ肉の干したもの、牛肉が出て、はなはだ美味であった。食事が了わると、酒が出された。各々数個の桃の実を持った女達が現われ、笑いながら言うには「貴女に御婿さんが出来ておめでとう。」酒がすすんで朗らかになり、劉と阮は、喜びと怖れとを交々味わったのである。日が暮れると、劉と阮は、それぞれ寝床に寝かされた。女も床をともにしたのだが、その言葉とその声は清らかで淑やかであり、人をして憂いを忘れしめるものだった。十日が過ぎて、帰ろうとすると、女は「貴方が此処にいらしたのは、前世からの果報が貴方を此処に引き寄せたのです。どうして帰ろうなどとするのですか?」と言うので、半年の間留まった。気候も草木も春となったことを示し、さまざまな鳥が鳴いて、望郷の想いは更に募り、帰りたいと云う気持ちがひどく苛まれるようになった。女は言った。「罪業が貴方を牽いていくのだから如何しようもないわ。」ついに女は以前来た女達を呼ぶと、三・四十人が集まって、音楽を演奏して、一緒に劉と阮とを見送り、帰り方を教えるのであった。帰ってみると、親戚友人は零落しており、町の家々は別のものに替っていて、知人もいなかった。問いたずねて、七代目の子孫が、先祖が山の中に入り、迷って返って来れなかったと云う話を伝え聞いていることを知った。晋の太元八年になって、再び忽然と姿を消したが、どこに行ったかは分からなかった。

1)漢明帝:明帝(めいてい 28年-75年、在位57年-75年)は、後漢(現在は「東漢」とも)の第2代皇帝(孝明帝)。中文版ウィキペディア「汉明帝」も参照のこと。

2)永平:後漢明帝下の元号。58年(戊午)-75年(乙亥)。「永平五年」は62年に相当する。

3)剡县(剡縣):現在の浙江省紹興(地級)市内の嵊州(県級)市に当たる。百度百科「嵊县」も参照のこと。

4)天台山:浙江省台州(地級)市天台県の北部にある山。天台宗の発祥地。台州市は紹興市の東南に接し、また東方が東シナ海に開いている。百度百科「天台山」も参照。

5)谷(穀):カジノキ(Broussonetia papyrifera Vent.)。クワ科の落葉低木樹。「谷皮(穀皮)」は、その樹皮。劉晨、阮肇が何の目的で、「谷皮(穀皮)」を得ようとしたのかは文面からは不明。カジノキやコウゾは、現在製紙原料として用いられるが、製紙法の発明者とされる蔡倫は、まさに後漢時代、永平年間から始まってから第二代明帝・第三代章帝・第四代和帝等へと仕えていった人物で、製紙法の発明は105年(和帝期末)とされている。話が微妙なのは、蔡倫以前の前漢時代から植物繊維由来の「紙」が利用されていることだ。私には判断がつかない。ただし「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注では「它(谷皮)的纤维可以织布,也可以作纸浆。」と言うておる。ちなみにコウゾの学名は Broussonetia kazinoki Sieb. でカジノキと近縁種(シーボルトがコウゾとカジノキを混同したほど)。コウゾはカジノキとヒメコウジ(Broussonetia kazinoki)との雑種と云う説もある(日本語版ウィキペディア)。ちなみに「日本の和紙業界が現在原料として使うコウゾは約8割がタイからの輸入カジノキである(タイの文献側には1930年代にカジノキの白皮を輸出したという記録が残っている)そのタイも現在ではラオスからの輸入に仰ぐようになっている。(メコン圏に自生するカジノキ)」だそうな。取り敢えずの翻訳としては「穀皮」は、「コウゾの樹皮」とするのが、読者を distract しなくてすむから良いかなどと思う。

6)藤葛:「葛」も「葛藤」も「クズ (Pueraria lobata)」を意味する (「フジ」は含まれない) が、では「藤葛」はどうかと云うと、やはり「クズ(葛)」を意味するようだ。では「フジ」は中国語で何と呼ばれているかが問題になるが、これは例えば「紫藤 (Wisteria sinensis)」になるようだ(別名あり)。ただし、日本産の「フジ (Wisteria floribunda)」とは若干異なる。「紫藤」の生態は、私は無知だが、日本産の藤と同様なら、そのツルは木の枝から垂れ下がる筈で、切り立った崖をよじ登るのには向かないような気がする。「葛」は勿論、好適だろう。

7)芜菁(蕪菁):日本語での所謂「蕪(カブ又はカブラ)」のこと。というか、日本語でもカブ・カブラを「蕪菁」と表記することはある。「叶」は「葉」。

8)胡麻饭掺(胡麻飯糝):「胡麻」には、所謂「ゴマ」の他に「アマ(亜麻)」の意味があるらしいが、はたしてどちらか? ただし「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注によれば「芝麻」、つまり「ゴマ」。「掺」は「糁」に読み替えた。「饭糁」は「飯粒」。なお「胡麻饭掺」は「胡麻饭」+「掺」ではなく「胡麻」+「饭掺」と解釈した。

9)二三里:「里」は歴代長さが変わるので、数値は特定できないが、指呼の間ではないだろう。かと言って、「二三里」が、余り長距離であるのは文脈に堪えられない。しかし、そもそも、ここで「二三里」と云う具体的な数値が出てくることの方が興味深い。

10)得度山:「度」は「渡」とと通ずるから、「山を越えることができた」と云うことだろう。「苦労しながら」と云うニュアンスがある。

11)捉向所失流杯来:「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注によれば「刚才」。もしそうだとすると、つまり「今さっき」とか「たった今」と云う意味。

12)晨肇既不识之,缘二女便呼其姓(晨肇既不識之,緣二女便呼其姓):この位置に有る「缘」は意味不明。「之,缘」ではなく「之缘,」と切るなら、「劉と阮には理由が分からなかったが、二人の女は旧知の中のように姓を呼んだ」と、ある程度は意味が通じるので、そのように訳す。

13)来何晚邪?:直訳すると「どの晩に来るのか?」だが、「今晩来ないか?」と云う含みが有る。字面としては晩餐に招待しているとみることができるだろう。

14)邀:「招待」

15)絳羅帳:「絳」は「真紅の」。「羅」は「紗」や「絽」のような織物。一応「紅絹(もみ)の帳(とばり)」と訳しておく。

16)山岨:「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注によれば「山里险峻难行的地方」のことで、「岨」とは「戴土的石山」だそうだ。

17)琼实(瓊實):ようするに、劉・阮が山上で食べた「桃の実」のことだが、単純な美称であるか、あるいは西王母の蟠桃のような、より具体的な内容をもっているものなのか判断がつかない。今のところは「桃の実」と訳しておくしかあるまい。ただ、劉・阮が食べた「桃の実」は、平たく丸い物を数える「枚」で数えられていることに注意。実は、蟠桃も「枚」で数えられることがある。漢の武帝が、西王母に蟠桃を賜わったと云う故事があるが、それは次のようなものである:

漢武故事曰.東郡獻短人.呼東方朔.朔至.短人因指朔謂上曰.西王母種桃.三千歲一為子.此兒不良也.已三過偷之矣.後西王母下.出桃七枚.母因噉二.以五枚與帝.帝留核著前.母問曰.用此何.上曰.此桃美.欲種之.母笑曰.此桃三千年一著子.非下土所植也.
--中央研究院 漢籍電子文獻/選自【古籍三十四種】/藝文類聚/第八十六卷 果部上/桃 - 1467 -

もっとも、[漢武帝內傳] では、以下のようになっているらしい:

又命侍女更索桃果,須臾,以玉盤盛仙桃七顆,大如鴨卵,形圓青色,以呈王母。母以四顆與帝,三顆自食。桃味甘美,口有盈味。帝食輒收其核,王母問帝,帝曰:「欲種之。」母曰:「此桃三千年一生實,中夏地薄,種之不生。」帝乃止。
--詩詞典故:王母桃

18)虚弊:「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注によれば「身体虚弱疲惫」を指す。「身体が疲労衰弱している」(「虚弱」が「衰弱」。「疲」も「惫」も「疲れる」の意。)

19)胡麻飯:「吃在武夷山」(下記引用参照) に記されている「胡麻飯」と同一のものであるならば、それは、極上等なモチ米に水を含ませてから蒸し、石臼に入れて木槌でつき崩し、捏ねて小さい塊にしたものに、上質なゴマ・白糖を混ぜ込んだものである。一応「胡麻餅」と訳しておく。ここで、注意すべきは、多くの武夷山伝説で、神仙が里人を持てなすのに必ず「胡麻飯」を使っていることで、そのために「神仙飯」とも呼ばれると云うことである。「天台二女」において、劉と阮の晩餐の筆頭に「胡麻飯」が挙げられていると云うことは、「天台二女」が神仙であることの伏線になっている。

胡麻飯是武夷山最遠古的傳統小吃,俗稱麻餈稞。以上好的糯米用水浸透後蒸熟,置石臼中用木槌打爛、揉成小團,拌上芝麻、白糖,香甜可口,食後很久都有「飽肚感」。在不少武夷山神話傳說中,神仙都用胡麻飯招待鄉人,被稱為「神仙飯」。吳屯的金餈(以柴灰淋水浸糯米)、金粽,星村、興田的白稞也都和胡麻飯一樣講究糯、甜、滑的風味。 --吃在武夷山

20)行酒:「酒を勧める」

21)五三桃子:「五三」は「三乃至五」ぐらいの概数。「数個の桃の実」と訳しておく。概数を表わすのに、大きい数字を先行させることがあるのである。

22)欣怖交并:「喜びと恐怖を交々味わった」と云うことか?

23)宿福所牵:「天台山文化/民間伝説/劉阮遇仙」の注によれば「前生的福气把你牵引到这儿来的」。「前世からの果報が貴方を此処に引き寄せたのです」

24)悲思:「望郷の想い」だろう。(「鬱鬱多悲思,綿綿思故鄉」三國·魏·曹丕[雜詩])

25)晋太元八年:「太元」は東晋孝武帝 (こうぶてい、362年 - 396年、在位は372年 - 396年) 下の年号。「太元八年」は 383年に相当する。


[nouse: [幽明録 天台二女] に就いて:太平広記[幽明録]逸文[劉晨阮肇入天台]テキスト] 中の4つのテキストのうち、1番目のもの2番目のものは、両方とも依った『太平広記』が「明鈔本」と註してあり (1番目は「出《神仙記》。明鈔本作出《搜神記》」、2番目は「明鈔本《太平廣記》六一」)、微妙に異なるがほぼ同一である。以下に、2番目のテキストを訳出しておく。

太平廣記 卷第六十一 女仙六 [天台二女]
劉晨、阮肇,入天台采藥,遠不得返,經十三日飢。遙望山上有桃樹子熟,遂躋險援葛至其下,?數枚,飢止体充。欲下山,以杯取水,見蕪菁葉流下,甚鮮妍。复有一杯流下,有胡麻飯焉。乃相謂曰:“此近人矣。”遂渡山。出一大溪,溪邊有二女子,色甚美,見二人持杯,便笑曰:“劉、阮二郎捉向杯來。”劉、阮惊。二女遂忻然如舊相識,曰:“來何晚耶?”因邀還家。南東二璧(南東二璧原作雨璧東壁,据明鈔本改。黃本作西璧東璧)各有絳羅帳,帳角懸鈴,上有金銀交錯。各有數侍婢使令。其饌有胡麻飯、山羊脯、牛肉,甚美。食畢行酒。俄有群女持桃子,笑曰:“賀汝婿來。”酒酣作樂。夜后各就一帳宿,婉態殊絕。至十日求還,苦留半年,气候草木,常是春時,百鳥啼鳴,更怀鄉。歸思甚苦。女遂相送,指示還路。鄉邑零落,已十世矣。(出《神仙記》。明鈔本作出《搜神記》。)

佚文:十五 劉晨阮肇入天台
劉晨、阮肇入天台取穀皮,遠不得返。經十三日,飢。遙望山上有桃樹,子實熟。遂躋險援葛至其下,噉數枚,飢止體充。欲下山,以杯取水。見蕪青26)葉流下,其鮮新。復有一杯流下,有胡麻焉。乃相謂曰:「此近人家矣。」遂渡山,出一大溪。溪邊有二女子,色甚美。見二人持杯,便笑曰:「劉、阮二郎捉向杯27)來。」劉、阮驚。二女遂欣然如舊相識曰:「來何晚耶?」因邀還家。南、東二壁各有絳羅帳,帳角懸鈴,上有金銀交錯。各有數侍婢使今28)。其饌有胡麻飯、山羊脯、牛肉,甚美。食畢,行酒。俄有群女持桃子,笑曰:「賀汝婿來。」酒酣作樂。夜後各就一帳宿,婉態殊絕。至十日,求還,苦留半年。氣候草木是春時,百鳥啼鳴,更懷鄉,歸思甚苦。女遂相送,指示歸路。既還,鄉邑零落,已十世矣。(一)(明鈔本《太平廣記》六一)

劉晨と阮肇はコウゾの樹皮を採るため天台山に入ったが、遠出をしすぎて戻れなくなり、十三日過ぎて、飢えてしまった。遠くの山上に桃の樹があり、その実が熟しているのが見えたので、険しい地形を葛のツルに縋りながら登っていくと、樹の下に辿り着けた。幾つか食べると空腹は収まり満足したので、山を降りるつもりで、椀で水を掬ったが、見ると、青々としたカブラの葉が流れ下りてくる。さらに椀が一つ流れ下ってきたが、その中には胡麻が入っていた。二人は「近くに人家があるぞ」と言い合って、山を越えていくと、大きな渓流に出た。そのほとりには非常に美しい顔だち女が二人いて、劉晨と阮肇はが椀を持っているのを見るや、笑って「劉さんと阮さんのお二人が、すぐにお椀を取って来てくれたわ」と言ったので、劉と阮は驚いたのであった。二人の女は、昔からの知り合いでもあるかのように喜びながら、「今晩いらっしゃらない?」と言ったので、招待に応じて女たちの家に附いて行ったのである。南と東の壁には、それぞれ、角に鈴が付いていて、金銀入交じりの縫い取りのある紅絹(もみ)の帳(とばり)が懸けてある。それぞれには、何人かの侍女や召し使いが控えていた。食事には、胡麻餅、ヤギ肉の干したもの、牛肉が出て、はなはだ美味であった。食事が了わると、酒が出された。突如として桃の実を持った女達が現われ、笑いながら言うには「貴女に御婿さんが出来ておめでとう。」酒がすすみ朗らかになり、夜がふけた後、それぞれが帳の内で寝たのである。そのしとやかな様は例えようもなかった。十日が過ぎて、帰りたいといったが、しきりに引き止められて半年の間留まった。気候も草木も春となったことを示し、さまざまな鳥が鳴いて、望郷の想いは更につのり、帰りたいと云う気持ちがひどく苛まれるようになった。ついに女は見送りに来て、帰り方を教えるのであった。返ってみると、故郷の村は寂れていた。十世代も過ぎてしまっていたのである。

26)蕪青:「蕪菁」と読み替える。

27)捉向杯:この文脈では、意味がとりにくいが「すぐにお椀を取って来て」と訳しておく。

28)使今:意味がとりがたい。これは、「太平廣記 卷第六十一 女仙六 [天台二女]」に見られるように、「使令」とすべきだろう。中国語の「指令」は、日本語の「使役(する)」に対応する言葉だが、「使役される人」の意味もある。


3番目のテキスト 「幽明录 南朝宋·刘义庆」は、『古小說鉤沈』版に類似し、独立して論ずるに足らないだろう。ただし、『古小說鉤沈』版では「遂停半年。气候草木是春时,百鸟啼鸣」となっていて、桃源郷にも時間推移があるとするのに対して、「遂住半年,天气常如二三月」と、日常時間がないことを暗示していて、物語としては、こちちの方が釈然とする。

幽明录 南朝宋·刘义庆 (珽案:此条原抄本阙字甚多,今依《太平广记》一百十二卷校补)
 汉明帝永平五年,剡县刘晨(一作晟)、阮肇共入天台山取谷皮,迷不得返。经十余日,粮食乏尽,饥馁殆死。遥望山上有一桃树,大有子实,而绝岩邃涧,了无登路,攀葛乃得至,啖数枚而饥止体充,复下山持杯取水,欲盥漱,见芜菁叶从山眼流出,甚鲜新,复一杯流出,有胡麻糁。相谓曰:“此去人径不远。”度出一大谿,谿边有二女子,姿质妙,绝见二人持杯出,便笑曰:“刘阮二郎捉向所流杯来。”晨、肇既不识之,二女便呼其姓,如与有旧,相见忻喜。问来何晚,即因要还家,家筒瓦屋,南壁及东壁下各有一大床,皆施绛罗帐,角县铃上金银交错,床头各十侍婢,便敕云:“刘、阮二郎经涉山阻,向西得琼实,犹尚虚弊,可速作食。”有胡麻饭、山羊脯甚美,食毕行酒,有群女来,各持三五桃子,笑而言:“贺女婿来”。酒甘作乐,刘阮忻怖交并。至暮,令各就一帐宿,女往就之,言声清婉,令人忘忧。至十日后,欲求还去,女云:“君已来此,乃宿福所招,与仙女交接,流俗何所乐哉。”遂住半年,天气常如二三月。晨、肇求归不已。女仍仙主,女子有三十人集会奏乐,共送刘阮,指示还路。既出,亲旧零落,邑屋全异,无复相识,问得七世孙,传闻上世入山,迷不得归。


この説話の詳細な分析に就いては別の機会に讓ろう。

しかし、簡単に読み取れる程度の特徴は纏めておくことにする。ただし、以下の覚え書きは、私個人のためだけのものである。 用語等、私自身にしか判らないであろう書き方をするが、ここで書いておくのが都合が良いので書いておくまでで、それ以上のものではないので御寛恕ねがいたい。

  • 男性主人公は二人組である。ただし、このことにはほぼ意味がない。女性主人公が二人組であることと釣りあいをとっただけではないか。むしろ、この説話が女性主人公の複数性を保存していることの方が興味深い。

  • 故郷を出発する契機になる事件の発生は存在しない。出発は、植物性有価物 (「コウゾの樹皮」。ヴァリアントによっては「薬草」とするものもあるようだ) の採取を目的とした自己都合的な物である。主人公の故郷からの出発を促す [賢者/守護者] は存在しない。

  • 男性主人公は、当初山中を彷徨する。彷徨の際、「乗り物」は利用されないかのように見えるが、葛のツルの利用が、「乗り物」の利用に相当する可能性がある。その結果、仙樹と思われる樹木の下に辿り着く。但し、この樹木の下には泉などの「水局面」は存在せず、ここでは女性主人公との遭遇も起こらない。その代わり、男性主人公は、この樹木の実を食べる(これには性的な意味があるのかもしれない)。

  • 「仙果」を食べた後、男性主人公は帰郷しようとするが、それを思いとどまる。その契機となるのが、川を流れくだってくる「蕪の葉」と「植物性の食物が入った椀」である。これは [スサノヲ/クシナダヒメ/ヤマタノヲロチ] や桃太郎伝説との類似性を感じさせる。

  • 結局、男性主人公は、水性の経路(川)を通って、しかも川の流れに逆らつて「異郷」に入る。

  • 男性主人公は、「水」のたもとで女性主人公に遭遇する。ただし、男性主人公が女性主人公の登場を待つのではなく、すでに女性主人公が待機している。女性主人公は複数である。

  • 男性主人公は女性主人公と共に、女性主人公の家に「還る」。

  • 女性主人公の家に帰っても、女性主人公の家の「家長」は登場しない。

  • 女性主人公の家に到着後における男性主人公の「正体」への言及はない。ただし、男性主人公と女性主人公との遭遇時点で、類似のことが既に起こっている。

  • 女性主人公の家で男性主人公は歓待される。

  • 男性主人公と女性主人公の「対形成」が行なわれる。

  • 女性主人公の家で時間が経過する。半年間。

  • 男性主人公が望郷の想いで苦悩する。

  • 男性主人公は、帰郷に就いて女性主人公と接触する。この際の女性主人公は神格性を帯びている。

  • 「神格」からの「授与」や「呪物の贈与」は発生しない。

  • 男性主人公の帰郷への送別が行なわれる。

  • 男性主人公は帰郷する。 [命名行為] は行なわれない。

  • 「失敗者との接触」は起こらない。「失敗者」そのものが存在しない。

  • 男性主人公は失踪する。[太祖] にはならない。

さらに、単なる「余談」になるかならないか、微妙な気もするのだが、もう一つ気がついたことを書いておこう。

一読、この説話で興味深いことは男性主人公が二人組であることである。これは、恐らく女性主人公が二人組であることに対応しているのだろうが、すでに述べたように、そのことの議論はここではしない。

ただ、これに関連して単純な連想として、私が思いついたのは宮沢賢治の『注文の多い料理店』だった。『天台二女』では男性主人公が二人組であるのは、女性主人公が二人組であることに照応していること以上の意味はあるとは思えないのだが、『注文の多い料理店』では、男性主人公が二人組であることでしっかりとした喜劇的効果があがっている。

やはり詳しい分析は別の機会に依ることにして、そのときのヒントになるかもしれないことを書き留めておくと:

  1. 冒頭死んでしまう猟犬は「山の神」への供犠と考えることができる。

  2. 「鉄砲」や「弾丸」に就いても同様。 この二つはあからさまに「道具」である。

  3. 物語の最後で帰郷した男性主人公は、あたかも長時間が経過した後の要に容貌が老人化する。

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2007年12月 6日 (木)

メモ:「プログラミング入門 - Rubyを使って」

本の抜書きファイルを作成していると、効率的なデータ整形を行ないたくなる。まぁ、私の場合 sed や grep で殆どの場合間に合うレベルなのだが、それでも、Perl や Ruby の初歩的なレベルぐらいでは使いこなしたい、と、思っている。

実は、Perl なら以前少し勉強したことがあるのだ。しかし、今ではすっかり忘れてしまった。Ruby の方も、読み物などから名前ぐらいは承知しているが、それだけだ。と云う訣で、Ruby の方に食指が動いて、サイト [オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby] からリンクが張ってある [プログラミング入門 - Rubyを使って -, by Chris Pine, 日本語ver. by S. Nishiyama] を読み始めた。そこには、Windows 用のバイナリをダウンロード・インストール方が書いてあったので、その通りに、ダウンロード・インストール (Ruby は、既にシステムにインストールだけはしてある cygwin に入っている筈なんだけれど、私、cygwin のコンソールを使いこなせていないので、今回は利用を遠慮することにした)。

で、チュートリアルの続きを読んでいったのだが、ところどころ、たどたどしい部分があって (特に「第2章 文字列」以降。例えば、第2章冒頭 "You can think of printed letters being strung together on a banner." を「横断幕などに印刷された文字が広げられる(strung)のを思い浮かべると良いでしょう。」とするあたり、どうなのだろう。『横断幕など印刷されている文字は「綴られ」ている ("string" されている) と言いますよね』ぐらいで良いのではないか)、それが気になった。

中には、「これは戴けないな」と云うものさえある。

その内の一つだけに就いて書いておく。「プログラミング入門 - Rubyを使って - 2. 文字列(string)」の終結部はエスケープキャラクタに就いて説明がされているのだが、次のような箇所がある。

注:現在 [プログラミング入門 - Rubyを使って -, by Chris Pine, 日本語ver. by S. Nishiyama] に示されている翻訳の原文が、現在 [Learn to Program] に示されている版とは限らない。それを確認する手段を私はもっていないのだ。ただ、リンクが張られている以上、相応の関連性はあると考えて良いだろうから、版の整合性を考えないでも、その事によって、以下の議論の大筋を留保する必要はないと信じる。

バックスラッシュ記号(訳註:日本語の端末では円記号に見えます。以降、読み替えてください。)は、エスケープキャラクタです。このことを言い換えると、バックスラッシュ記号と他の文字が並んでいたら、それは新しい文字に翻訳されるということです。バックスラッシュがエスケープするのはアポストロフィ記号とバックスラッシュ記号それ自身です。(よく考えると、エスケープ記号はいつもそれ自身でエスケープされなければならないことがわかると思います。) いくつか例を挙げておきましょう。

puts 'You\'re swell!'
puts '文字列の最後のバックスラッシュ:  \\'
puts 'up\\down'
puts 'up\down'
You're swell!
文字列の最後のバックスラッシュ:  \
up\down
up\down

バックスラッシュ記号は'd'をエスケープせず 、バックスラッシュ記号自身をエスケープする ので、最後の2つの文字列は同じものになります。コード上では同じもののようには見えませんが、コンピュータの中では同じものです。
--プログラミング入門 - Rubyを使って - 2. 文字列(string)

これの「原文」(と思われるもの) は、以下の通り:

The backslash is the escape character. In other words, if you have a backslash and another character, they are sometimes translated into a new character. The only things the backslash escapes, though, are the apostrophe and the backslash itself. (If you think about it, escape characters must always escape themselves.) A few examples are in order here, I think:

puts 'You\'re swell!'
puts 'backslash at the end of a string:  \\'
puts 'up\\down'
puts 'up\down'
You're swell!
backslash at the end of a string:  \
up\down
up\down

Since the backslash does not escape a 'd', but does escape itself, those last two strings are identical. They don't look the same in the code, but in your computer they really are the same.
--Learn to Program: 2. Letters

この引用文の最初のセンテンスで "The backslash" と "the escape character" との両方に定冠詞 the が付いているのを訳文でどう表現するかと云うことも議論しようと思えば議論できるのだが、ここでは、そうしたレベルの話はしない。以下、次の単語の訳し方を取り上げることにする。

  1. "if you have a backslash and another character" の "another" の訳し方。

  2. "they are sometimes translated into a new character." の "sometimes" と "new" の訳し方。

1. "if you have a backslash and another character" の "another" の訳し方。

この部分は Nishiyama 訳では「バックスラッシュ記号と他の文字が並んでいたら」となっている。しかし、日本語の「他」には、例えば「他人」と云う言葉が含意するような、「本」とは異なるものである意識が底にあるのに対して、"another" は単に「もう一つの」と云うだけのことを指す場合が多い。例えば「バックスラッシュ記号と他の文字が並んでいたら」(つまり日本語版では「円 (\) 記号と他の文字が並んでいたら」)では、"\\" と云う場合がカヴァーできるか心許ないだろう。しかし、直後の記載からも分かるように "\\" は、\ がエスケープしている重要な場合の一つなのである。だから、この文は「バックスラッシュの後に文字があった場合は」とか、或いはもう少し踏み込んで「ある文字の前にバックスラッシュが付いていたら」ぐらいに訳しておいたほうが良いだろう。

2. "they are sometimes translated into a new character." の "sometimes" と "new" の訳し方。

Nishiyama 訳では、"sometimes" の存在が無視されていて、「それは新しい文字に翻訳されるということです。」と、訳されている。まず、「新しい」と訳されいてる "new" の方だが、この文脈では「新鮮な」とか「新規の」と云う語感よりも、「別の(者/物に更新)」と云う語感に近い ("Rachel has a new boyfriend." --COBUILD English Dictinary for Advanced Learners 3rd ed. "new:3") 。

また "sometimes" は、文の "sometimes" 以外の部分で表現されている事実が「起こる場合がある」と云うことを意味する。これを、Nishiyama 訳は無視しているため、「バックスラッシュ記号と他の文字が並んでいたら、それは新しい文字に翻訳されるということです。」は、直後にある、実際に \ がエスケープするのが「アポストロフィ記号とバックスラッシュ記号それ自身です。」と、文脈が繋がらなくなってしまっている。 更に、原文を読めば分かるように、後の方の文は、"The only things..." とあって、エスケープされるのが、この二つ「だけ」であることが明確に書いてあるが、これも Nishiyama 訳は無視してしまっている。もし、「だけ」を翻訳に入れたら、自家撞着ぶりはヨリ明確になっていたろう。

纏めると、次のようになるだろう:

In other words, if you have a backslash and another character, they are sometimes translated into a new character. The only things the backslash escapes, though, are the apostrophe and the backslash itself.
これは、つまり、バックスラッシュの後に文字があった場合は、それらの2文字は、改めて別に1文字として扱われることがあると云うことです。もっとも、バックスラッシュがエスケープする文字は、アポストロフィとバックスラッシュ自身とだけなのですが。

まぁ、原文の説明も歯痒いところがある。バックスラッシュがアポストロフィから制御コード性を剥奪することを明示的に書いた方が良かったのではないか。


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2007年10月14日 (日)

Elsa Lunghini "T'en va pas" に就いて

先日、"Ten va pas" と云うキー・フレーズで以って、このサイトを訪問された方がいらした。該当するページは、このサイトにはないのだが、「いったい何語だろう (va と pas はフランス語だろうけど、Ten はオランダ語? 英語? それとも固有名詞?)」と思って、つい調べ始めてしまったのが、ことの始まりです。

検索してみると、個個のサイトを訪れるまでもなく、原田知世さんがカヴァーされている楽曲のタイトルだと云うことが知れる。それも、原曲はフランス語らしい。

ここまで分かったら、如何に頭の回転が遅い私でも "(Ne) t'en va pas" のことだと分かる。

「『行かないで』とは、また随分有りがちなタイトルだな」と思いましたね。恋の別れを歌ったものを連想した訣です。

しかし、それでも、もう少し調べてみると、もともとは Elsa と云う女性が歌ったものらしいことまで確認できました。その後、検索しなおたら、原詩も簡単に探し出せたのですが、内容はそれほど「有りがち」ではありませんでした。

父親が、母親以外に「生涯の女性」に作って、家を出ていったちゃったと云うことらしい。ま、それはそれで「有りがち」かもしれませんが...

こんな感じですね:

行かないで
Elsa

行かないで。
私を愛しているなら行かないで。
ママを愛しているなら
ママが「生涯の女性」だと言ってあげて。
パパ行かないで。
パパがいないなら生きていたくない。
夜が明けるまで行かないで。

夜は恐いは。
夜は終わらないの。
こっそりと
私を置いてパパは出てった。
もう三人で映画に行けないじゃない。

夜は恐いは。
夜は終わらないの。
こっそりと
私を置いてパパは出てった。
パパが私のことを少しでも考えてくれたなら...

ここを出ていって一体どこへ行くの?
パパがいなければ生きていけないわ。
「生涯の女性」と一緒になって
馬鹿なことをしてはダメよ、パパ。
愛しているなら行けないはずよ。
真夜中なんかに出ていけないはずよ。

夜は恐いは。
夜は終わらないの。
こっそりと
私を置いてパパは出てった。
私をアメリカに連れて行ってくれるんじゃなかったの?

夜は恐いは。
夜は終わらないの。
こっそりと
私を置いてパパは出てった。
パパ、お願いだから、目を覚まして。

夜に...私を置いて...
パパ、お願いだから、何時か戻ってきて。

夜に...私を置いて...
パパ、お願いだから、目を覚まして。

夜に...私を置いて...
パパ、お願いだから、何時か戻ってきて。
(2x)

夜に...私を置いて...
パパが少しでも考えてくれたなら...
少しでも私のことを考えてくれたなら...

夜に...私を置いて...
私をアメリカに連れて行ってくれるんじゃなかったの?

夜に...私を置いて...
パパは、何時かきっと戻ってくるわ。
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2007年9月12日 (水)

オランダ語版ウィキペディア "Sagnac-effect" 訳文

以下はオランダ版版ウィキペディア中の [サニャック効果] の項 [Sagnac-effect (laatst bewerkt op 7 jul 2007 om 13:22.)] の訳文であるただし、オランダ語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない)。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。


サニャックが使った干渉計

Het Sagnac-effect is de faseverschuiving die optreedt als een systeem van twee tegengesteld roterende golven in zijn geheel een rotatie ondergaat. Het is genoemd naar de Franse natuurkundige Georges Sagnac die het effect voorspelde en aantoonde in 1913. Dit effect wordt onder andere gebruikt om rotatie te meten voor navigatiedoeleinden.
サニャック効果」は、2つの逆向きに周回している波動の組が全体として回転する場合に、発生する位相シフトである。その名称は、この効果を、最初に予測し実証してみせた (1913 年) フランスの物理学者ジョルジュ・サニャック (Georges Sagnac) によっている。この効果は、とりわけ、ナビゲーション・システムにおいて回転検出のために利用されている。

[[訳註:"navigatiedoeleinden" の意味が確認できていない。一応「ナビゲーション・システム」と訳しておく。]]

Geschiedenis
Huygens-Fresnel
De Nederlandse natuurkundige Christiaan Huygens ontdekte al dat licht uit golven bestaat. Isaac Newton beweerde echter dat licht uit deeltjes bestond. Deze theorie werd algemeen aanvaard, tot experimenten van Thomas Young en Augustin-Jean Fresnel begin 19e eeuw Huygens' golftheorie bevestigde.
歴史
ホンヘンスからフレネルへ
オランダの物理学者クリスティアーン・ホイヘンス (Christiaan Huygens) は、光が波動からなることを発見していたが、アイザック・ニュートン (Isaac Newton) は、光が粒子からなると主張した。この理論は、19 世紀初頭にトマス・ヤング (Thomas Young) とオーギュスタン・ジャン・フレネル (Augustin-Jean Fresnel) とによる実験がホイヘンスの波動論を裏付けるまで、広く受け入れられていた。

Aangezien golven een medium nodig hebben om zich te verplaatsen, zoals lucht voor geluid en water voor deining, dacht men dat voor licht dit medium ether zou zijn. Ook de aarde zou zich volgens deze theorie door de ether bewegen.
音には空気、波には水のように、波動は、伝搬するのに媒質を必要とするから、光にとってエーテルがこうした媒質であるはずだと考えられた。しかも、この理論によれば、地球自身がエーテル内を通過している。

Maxwell
In 1865 formuleerde James Clerk Maxwell zijn vier natuurkundige wetten van het elektromagnetisme, de theorie van elektrische en magnetische velden en elektromagnetische straling; de Wetten van Maxwell. In 1888 werden deze bevestigd door experimenten van Heinrich Hertz. Hieruit bleek dat licht een elektromagnetische golf is. Volgens deze wet planten alle elektromagnetische golven in een vacuüm zich voort met de snelheid c.
マクスウェル
1965 年、ジェームズ・クラーク・マクスウェル (James Clerk Maxwell) は、電場・磁場・電磁波の理論である電磁気学に関する4つの物理法則 (マクスウェルの法則) を定式化した。1888 年、これらの法則は、ハインリヒ・ヘルツ (Heinrich Hertz) の実験により裏付けられた。このことから、が電磁波であることが明らかとなった。この法則によれば、全ての電磁波は、真空中において光速度 c で伝搬する。

Michelson-Morley
De beweging van de aarde door de ether zou het mogelijk moeten maken om een verschil in de snelheid van het licht te meten. Aangezien de aarde zich rond de zon beweegt, moet er in ieder geval een relatieve beweging ten opzichte van de ether zijn, tenzij de aarde het middelpunt van het heelal zou zijn, een theorie die al eeuwen achterhaald was. Metingen van de lichtsnelheid waren echter dusdanig onnauwkeurig dat een verschilmeting onmogelijk was.
マイケルソン-モーリー
地球のエーテル内通過に応じて、光の速度の違いが測定されるべき筈であった。地球は太陽の周りを公転しているから、地球が宇宙の中心であるべきものであると云う全く何世紀も時代遅れの理論が成り立っていない限り、いずれにせよ、エーテル存在に関する相対的運動がなければならない。しかし、光の速度の測定が、まことに不正確なものであったため、違いの測定は不可能であった。

Met het beroemde Michelson-Morley-experiment uit 1887 werd dit probleem opgelost door de lichtgolven met zichzelf te vergelijken. Dit werd gedaan met een interferometer waarbij licht met behulp van spiegels verschillende banen dwars op elkaar te laten volgen. Het licht dat zich in dezelfde richting beweegt als de aarde - die zich met plm. 30 km/sec rond de zon beweegt - zou een snelheidsverschil moeten hebben ten opzichte van het licht dat zich daar dwars van beweegt. Dit snelheidsverschil zou in de interferometer een faseverschuiving opleveren die zich zou uiten in een verandering van het interferentiepatroon. Deze verschuiving werd echter niet waargenomen, tot verrassing van velen, waaronder Albert Michelson en Edward Morley zelf.
1887 年以降の有名なマイケルソン・モーリーの実験 (Michelson-Morley-experiment) により、この問題は、光の波動を自分自身と比較させることで解決された。この実験は、鏡の助けを藉りて、光が交差する別別の軌道をとるようにされた干渉計により行なわれた。太陽の周囲を約 30 km/s で移動している地球と同じ方向に進行する光は、交差する方向に進行する光に対して異なる速度を有する筈である。この速度のズレは、干渉計において、干渉縞の変化として現われる位相シフトを引き起こねばならない。しかし、このズレは確認されず、アルバート・マイケルソン (Albert Michelson) 及びエドワード・モーリー (Edward Morley) 自身を含め、多くの人びとを驚かせた。


[[訳註:"waarbij licht met behulp van spiegels verschillende banen dwars op elkaar te laten volgen"
waarbij: (関係副詞)
met behulp van: 「の助けを藉りて」
op elkaar: 「重なって」
verschillend: 「異なった」、「様ざまな」
banen: baan (「軌道」) の複数形。
dwars: 「横切った」
op elkaar: 「重なって」
]]
[[訳註:"plm" は "plus minus" 又は "plusminus" の略語。概数を表わす「約」。オランダ語特有?]]

Sagnac
Nieuwe theorieën moesten dit fenomeen verklaren. George FitzGerald in 1889 en Hendrik Lorentz in 1892 kwamen onafhankelijk van elkaar tot de Lorentz-FitzGerald contractie hypothese, waarop Albert Einstein later zijn speciale relativiteitstheorie baseerde.
サニャック
新しい理論で、この現象を説明する必要があった。1889 年にはジョージ・フィッツジェラルド (George FitzGerald) が、そして、1982 年には、ヘンドリック・ローレンツ (Hendrik Lorentz) が、互いに独立して、ローレンツ-フィッツジェラルド収縮仮説に到達したが、これは、後にアルベルト・アインシュタイン (Albert Einstein) が、彼の特殊相対論の基礎としたものだった。

Een andere theorie was de emissie theorie van Walter Ritz. Volgens deze theorie is de snelheid van het licht relatief ten opzichte van de snelheid van de lichtbron. In 1913 publiceerde Willem de Sitter de bevindingen van zijn observaties van dubbelsterren. Hij had bij geen van de sterren de optica|optische effecten waargenomen die uit de theorie van Ritz volgden.
この他に、ワルテール・リッツ (Walter Ritz) による「放射理論」と云う物もあった。この理論に従えば、光の速度は、光源の速度に対し相対的である。1913 年、ウィレム・ド・ジッター (Willem de Sitter) は、連星に間する観測結果を発表した。どの星にも、リッツの理論に従った光学的効果と認められるものはなかった。

Al tussen 1893 en 1896 had Oliver Lodge het idee en de vergelijkingen van het Sagnac-effect. Hij liet een zware schijf roteren boven zijn interferometer die op zandsteen was geplaatst, zodat eventuele ether drag gedetecteerd kon worden. Ook bij zijn experiment trad geen faseverschuiving op, wat de ether drag theorie tegensprak.
既に 1893 年から 1896 年の間に、オリバー・ロッジ (Oliver Lodge) は、サニャック効果と類似したものを着想していた。彼は、発生するかもしれない「エーテルの引きずり (エーテルドラッグ)」が検出できるように、砂岩上に設置した干渉計の上方で重い円盤を回転させた。この実験でも、位相シフトは起こらず、エーテルドラッグ理論は否定された。

[[訳註:"het idee en de vergelijkingen van het Sagnac-effect" が、どうもピンとこないのだが、一応訳を当てておく。]]

In 1913 voerde Sagnac zijn experiment uit waarbij hij zijn interferometer zelf liet roteren, met 2 Hz. Volgens de emissietheorie zou er geen faseverschuiving optreden, aangezien de lichtbron met dezelfde snelheid ronddraaide als de detector. Dat er toch een faseverschuiving werd waargenomen betekende samen met de bevindingen van De Sitter het einde van de emissietheorie.
1913 年、サニャックは、干渉計自体を 2 Hz で回転させる実験を実施した。光源は、検出器と同一速度で回転している訣だから、放射理論によれば、位相シフトは発生しない筈だった。しかしながら、位相シフトは観測され、このことは、ド・ジッターによる結果と併せて、放射理論の破綻を意味した。

Sagnac had de faseverschuiving juist wel verwacht, op basis van de klassieke natuurkunde. Hij beschouwde zijn resultaten als een bewijs van het bestaan van ether. Speciale relativiteit en algemene relativiteit impliceren echter evenzeer dat het Sagnac effect zal optreden. Met andere woorden, het Sagnac effect is zo fundamenteel dat het een gemeenschappelijk fenomeen is van klassieke mechanica en relativistische mechanica.
サニャックは、古典物理学を根拠にして、位相シフトを正にその通りに予測していた。彼は、この結果を、エーテルの存在の証拠とみなした。それにも関わらず、特殊相対論と一般相対論とのどちらからでも、サニャック効果が起こるべきことが導かれる。換言すれば、サニャック効果は、極めて基本的であるために、一つの同じ現象が、古典力学的でも、相対論的力学的でもあるのだ。

Achteraf bleek dat Franz Harress het effect al in 1911 had waargenomen tijdens onderzoek naar Fresnel drag, maar hij schreef het effect aan iets anders toe. Uit zijn experimenten bleek wel dat het effect niet beïnvloed werd door refractie.
後に明らかになったことだが、既に 1991 年に フランツ・ハレス (Franz Harres) が、フレネルドラッグの研究中に、この効果を観測していた。しかし、彼は、この効果の原因を見損なってしまった。この実験から、この効果が屈折に影響されないことが判明した。

[[訳註:"toe|schrijven" 「(...に)帰する」]]

Michelson
In 1925 had Michelson samen met Henry Gale een interferometer gebouwd bij Clearing, Illinois in de Verenigde Staten om de aardrotatie te meten. De afmetingen waren 2010 bij 1113 voet waarbij gebruik werd gemaakt van waterleiding pijpen met een diameter van 12 inch die waren geëvacueerd tot een vauüm van 12 mm kwikdruk. Het experiment bevestigde de verwachte verschuiving van het interferentiepatroon overeenkomend met de aardrotatie.
マイケルソン
1925 年、マイケルソンは、ヘンリー・ゲール (Henry Gale) とともに、地球の自転を測定するため、米国イリノイ州クリアリング近郊に干渉計を建造した。その大きさは、2010×1113 フィートで、12 mmHg まで減圧した直径 12 インチの送水管が用いられた。この実験は、地球の自転に応じて存在すると予測されていた干渉縞のシフトを確認した。

Laser
Met de uitvinding van de laser in 1960 kreeg de optische Sagnac-interferometrie een nieuwe impuls. Militaire en commerciële toepassingen - zoals het ring laser gyrokompas en later het fibre optic gyrokompas, onder andere voor gebruik in traagheidsnavigatie - zorgden voor een enorme technische vooruitgang.
レーザー
1960 年のレーザー発明は、光学的サニャック干渉測定にとり、新たな刺激となった。軍事上及び商業上の利用--例えば、リング・レーザー・ジャイロスコープ及び、その後の光ファイバジャイロコンパス (特に慣性誘導装置 で利用されるもの)--は、巨大な技術的進展を引き起こした。

Opvallend hierbij is dat Sagnac zelf al toepassingen zag voor het naar hem vernoemde effect voor navigatiedoeleinden. Met behulp van drie interferometers - met een oppervlakte van tientallen vierkante meters - zouden de drie rotatie-assen gemeten kunnen worden, het slingeren, stampen en gieren.
ここで注目すべきなのは、サニャック自身が、彼に因んで名付けられたこの効果をナビゲーション・システムに利用することを、既に予想していたことである。数十平方メートルの面積を有する干渉計3つの助けを藉りれば、横揺れ (ローリング)、縦揺れ (ピッチング)、左右揺れ (ヨーイング) の3つの回転軸での測定が可能となる筈だと云うものだった。

Werking
Het Sagnac-effect treedt op in een roterende Sagnac-interferometer. Voor rekenkundig gemak wordt er in dit voorbeeld vanuit gegaan dat het licht volgens een cirkel loopt. Vanuit een lichtbron komt een lichtstraal met golflengte λ in de ring bij punt P waar het gesplitst wordt in beide richtingen. Als de spoel stationair is, is de af te leggen afstand gelijk voor beide lichtstralen, zodat ze beide tegelijk bij P arriveren en de ring weer verlaten zonder faseverschuiving.
動作
サニャック効果は、回転するサニャック干渉計において発生する。計算を簡単にするために、この例では、光が円に沿って進むものとする。光源から来た波長 λ の光線は、点 P でリングの中に入り、そこで2つの方向に分割される。回動台が静止している場合、双方の光線が進むべき道のりは等しいから、両光線は P に同時に到達して、位相シフト無しにリングから出ていく。

[[訳註:"Er wordt vanuit gegaan dat ..." は、「dat 節の内容を仮定する」の意。"Online Dutch Grammar Tutorial:'Er' as a subject" 参照]]
[[訳註:"spoel" は「回動台」と訳しておく。]]


Een observator die niet meedraait met de interferometer neemt geen frequentieverandering waar, alleen het faseverschil. De lichtstraal die in dezelfde richting draait als de interferometer, rood in dit voorbeeld, moet een langere weg afleggen dan de tegengesteld draaiende lichtstraal, blauw in dit voorbeeld. Voor de duidelijkheid is hier een hoekverandering van 30º gekozen, wat een extreem grote waarde is, aangezien de lichtsnelheid zo groot is.
干渉計とともに回転していない観測者は、周波数の変化を認識せず、ただ位相シフトのみを認識する。干渉計と同一回転方向に進行している光線 (例図では赤で表示) は、逆向きの回転方向に進行している光線 (例図では青で表示) よりも長い道のりを進まねばならない。光の速度は非常に大きいので、解かりやすくするために、ここでは角度変化は、極端に大きな値である 30º に選択された。
[[訳註:"meedraait" (meedraaien) は、当然「ともに回転する」と云う意味だろう。]]


Als de ring bijvoorbeeld in de richting van de klok beweegt, dan zal de lichtstraal die in dezelfde richting beweegt een grotere afstand afleggen dan de lichtstraal die zich in de tegengestelde richting beweegt. Hierdoor hebben ze een faseverschil φs, het Sagnac-effect.
リングが、例えば、時計周り方向に回転している場合、同一方向に進行する光線は、逆方向に進行する光線よりも長い道のりを進まねばならない。このために、両光線では、サニャック効果 φs 分だけ位相シフトが起こる。

Een meedraaiende observator neemt niet alleen een faseverschuiving waar, maar ook een frequentie-verandering. De lichtstraal die in dezelfde richting draait als de interferometer, moet een langere weg afleggen en krijgt een lagere frequentie of roodverschuiving. De tegengesteld draaiende lichtstraal legt een kortere weg af en krijgt een hogere frequentie, of blauwverschuiving. Paars en groen zijn de lichtstralen bij een stilstaande interferometer. ともに回転している観測者は、位相シフトだけではなく、周波数の変化も認識する。干渉計と同一回転方向に進行している光線は、ヨリ長い道のりを進みまねばならず、低い周波数、つまり赤方偏移の周波数を獲得する。逆向きの回転方向に進行している光線は、ヨリ短い道のりを進み、高い周波数、つまり青方偏移の周波数を獲得する。干渉計が静止している場合の光線は、紫と緑とで表示してある。

Faseverschuiving
Het licht dat zich in dezelfde draairichting beweegt als de ring, legt een iets langere weg af dan het licht dat zich in de tegenovergestelde richting beweegt. Het arriveert dus later in P.
位相シフト
リングと同一回転方向に進行する光は、反対回転方向に進む光よりも道のりが若干長いため、P に到達するのが遅れる。

De groene staande golf wordt waargenomen bij een stilstaande ring en door een stationaire observator. Een meedraaiende observator zal twee verschillende frequenties waarnemen zodra de ring roteert. Er treedt een roodverschuiving op bij het licht dat zich in dezelfde richting beweegt als de ring. Het licht dat zich in tegengestelde richting beweegt, ondervindt een blauwverschuiving.
緑色の定常波は、静止しているリングの場合は、静止している観測者により観測される。同一回転方向に進行している観測者は、リングが回転しだすとすぐに、2通りの周波数シフトを観測する筈である。リングと同一回転方向に進行する光の場合、赤方偏移が発生する。逆の回転方向に進行する光は、青方偏移を起こす。


De spoel draait met hoeksnelheid ω. Op het moment dat de lichtstralen weer in P aankomen, hebben ze een hoek afgelegd van respectievelijk:

met c als lichtsnelheid en R als radius
waarbij:

回動台は、角速度 ω で回転している。光線が P に戻ってくる瞬間には、それぞれ、次の角度を経過してきている:

ただし、c は光速度であり、R は半径であって:

であるものとする。

Dit geeft:

この結果、次のようになる:

Aangezien v = ω * R volgt hieruit:

v = ω * R であるから、以下が得られる:

Het verschil in afgelegde afstand is:

従って、経過した道のりの差は:

である。

De verschuiving van de interferentie, de Sagnac-fase, is:

干渉のシフト (サニャック位相) は

となる。

Als ω * R << c is, dan kan als benadering geschreven worden:

ω * R << c であるなら、近似値として以下のように書ける:

De laatste formule geldt ook voor interferometers waarbij het licht een driehoekig of rechthoekig pad volgt, als de oppervlakte van de driehoek of vierkant ingevuld wordt. (The Sagnac Effect)
最後の式は、光が三角形又は矩形の経路を取る干渉計に対しても、三角形又は矩形の面積を代入することで、有効となる ("The Sagnac Effect" 参照)。

[[訳註:原文の説明では、L が経路の長さ、A が経路が囲む面積であることが説明されていないので、それを補って読む必要がある読む必要がある。上記パラグラフは、経路が円形でなくても、その経路長及び経路が囲む面積の値を、それぞれ L 及び A に代入すればサニャック効果の値が得られると云うこと。]]
[[訳註:上記の "(The Sagnac Effect)" の部分は、オリジナルでは、上付き数字による参照になっている。]]

Ring laser
Bij een interferometer wordt het licht van buitenaf in de interferometer gebracht. Bij een ring laser is de lichtbron, een [[laser (licht)|laser]], in de ring opgenomen. De ring is gevuld met een medium, over het algemeen een helium-neon mengsel, zodat deze geheel als trilholte fungeert. Als gevolg van de eigenschappen van een laser moet er een integer aantal golflengtes in de trilholte passen en zal er een staande golf in de ring ontstaan.
リングレーザー
干渉計では、光は外部から干渉計内に導かれる。リングレーザーでは、光源であるレーザーがリング内に組み込まれる。リングには、通常ヘリウム・ネオン混合物が媒質として充填されているため、全体として共振器として働く。レーザーの特性の結果として、共振器が波長の整数倍の長さと一致し、リングには定常波が発生しなければならない。

[[訳註:"over het algemeen":「普通」]]

Voor een stationaire observator zal er niets veranderen aan de staande golf als de ring roteert. In tegenstelling tot bij een interferometer treedt er geen faseverschuiving op; het aantal golflengtes in de ring blijft gelijk. Voor een meedraaiende observator verandert de frequentie. Het licht dat in dezelfde richting beweegt als de ring, legt een kortere weg af, zodat de golflengte kleiner wordt. Er treedt een [[blauwverschuiving]] op. Het licht dat zich in de tegengestelde richting beweegt, legt een langere weg af, zodat de golflengte langer wordt. Er treedt een [[roodverschuiving]] op.
静止している観測者にとっては、リングが回転しても、定常波に変化は起こりえない。逆方向に進行しても、干渉計に至るまで、位相シフトは発生せず、リング内に含まれる波長の数は同じままである。同一回転方向に進行している観測者にとっては、周波数は変化する。リングと同一回転方向に進行する光は、道のりが短くなり、波長が短くなって、青方変位が発生する。逆方向に進行する光は、道のりが長くなるので、波長が長くなって、赤方偏移が発生する。

[[訳註:"In tegenstelling" の意味が取りづらいが、一応訳を当てておく。]]

Als de beide lichtstralen samengevoegd worden, resulteert het verschil in frequentie in een zweving.
2つの光線が統合されるなら、その周波数の違いによる「うなり (ビート)」が起こる。

[[訳註:"zweving" は「うなり」。"zweving - WikiWoordenboek" 参照。]]

Aangezien de afgelegde afstand een integer aantal golflengtes moet zijn, geldt:

waarbij n een integer getal is. Als de afgelegde afstand verandert met ΔL dan verandert de golflengte met:

経過した道のりは、波長の整数倍でなければならないから、次のように記される:

ここで、n は整数。進行した道のりが ΔL だけ変化するなら、波長も以下の分だけ変化する:


[[訳註:この節「リングレーザー」の以下の内容、特に式は、混乱していて、殆ど読むに値しない。]]

De frequentieverandering is:

そこで、周波数の変化は:

となる。

[[訳註:この式は意味不明。記号 v が使われているが、ここで、回転速度 v がでてくる謂われはなく、周波数でなければならない。あるいは、参考にした本に記号 ν (ギリシャ文字「ニュー」) が書いてあったものを読み違えたか? (訳文の方では ν を採用した)。第2辺と第3辺との間は、等号ではないだろう。]]

Aangezien de twee lichtstralen dezelfde frequentieverandering ondergaan, maar in tegengestelde richting, wordt de zwevingsfrequentie:

2本の光線には、方向は逆になるが、同一の周波数偏移が起こるので、「うなり」の周波数は:

となる。

[[訳註:この式も意味不明。記号 v は、やはり ν とすべき。しかも、この式で求められているのは、Δν であるので、わざわざ f 等と云う紛わらしい記号を使っている意味が分からない。そして、「ダメ押し」と言いたいのは、この式の値の値は、この節のような訣の分からない計算をしなくても、前節の最後の式を 2π で割れば簡単に得られると云うことだ。]]

De resonantie conditie is:

共振の条件は次の通り:

[[訳註:この式は、唐突過ぎて、何のために書かれたのか不明。あるいは、Δω/ω ≈ Δν/ν 或いは、Δν/ν ≈ ΔL / L のつもりか?]]

Doordat de de frequentie van licht extreem hoog is, is dit frequentieverschil aanmerkelijk groter dan het verschil in afgelegde afstand. Hierdoor is de schaalfactor veel groter dan die van een Sagnac-interferometer.
光の周波数は極めて高いので、周波数のズレは、進行した道のりのズレに比べて相当大きくなる。このため、拡大率が、サニャック干渉計の場合よりも非常に大きくなる。

[[訳註:このセンテンスも、意味不明。この稿では ω は、光の周波数 (又は、角振動数) ではなく、円盤の角速度である。安定発振 (ロックイン?) の条件を表わした式とするなら、文脈とは無関係だろう。逆に、もし光の振動数 (又は、各振動数) のつもりで使われているとするなら、サニャック効果の一般的な式として、レーザーリングだけでなく、干渉計にも当てはまる。ひとつ前のセンテンスの式が、Δν/ν ≈ ΔL / L のつもりだったら、一応つながるが、ここで問題にすべきなのは、ΔL ではなくて、Δω だろう。]]

Universaliteit van het Sagnac-effect
De universaliteit van het Sagnac-effect blijkt uit het feit dat het niet alleen opgaat voor lichtgolven, het geldt voor alle elektromagnetische golven. Daarnaast is in experimenten aangetoond dat het ook geldt voor Cooper-paren (1965), neutronen (1984), 40Ca atomen (1991), elektronen (1993) en superfluïde vloeistoffen en ionen ([[1997]]).
サニャック効果の普遍性
サニャック効果が、光の波動だけでなく、全ての電磁波に成立すると云う事実から、この効果の普遍性が明らかになっている。それ以外にも、サニャック効果が、クーパー対(1965 年)、中性子(1984 年)、40Ca 原子(1991 年)、電子 (1993 年)、そして超流動体及びイオン(1997 年)にさえ当てはまることが実験により証明された。

De Compton golflengte is:

waarbij h de constante van Planck is en m de rustmassa is van een deeltje. Ingevuld in de eerdere formule van het Sagnac-effect geeft dat:

コンプトン波長は、hプランク定数m を粒子の静止質量とすると:

だから、上記のサニャック効果の式に代入すると、次の式が得られる:

Door het enorme verschil in massa met fotonen is de schaalfactor veel groter dan bij optische interferometers. (ref: Ring-laser tests of fundamental physics and geophysics, G.E. Stedman, 29 Januari 1997)
光子とは質量が大きく異なるため、光干渉計の場合よりも、拡大率が非常に大きくなる (Ring-laser tests of fundamental physics and geophysics, G.E. Stedman, 29 Januari 1997 参照)。

    関連記事 (本サイト内):
  1. nouse: 英語版ウィキペディア "Sagnac effect" 訳文
  2. nouse: ドイツ語版ウィキペディア "Sagnac-Interferometer" 訳文
  3. nouse: フランス語版ウィキペディア "Effet Sagnac" 訳文
  4. nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出

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2007年9月 9日 (日)

フランス語版ウィキペディア "Effet Sagnac" 訳文

以下はフランス語版版ウィキペディア中の [サニャック効果] の項 [Effet Sagnac (Dernière modification de cette page le 31 août 2007 à 09:20.)] の訳文であるただし、フランス語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない)。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。

L'effet Sagnac est un phénomène physique découvert par Georges Sagnac en 1913. C'est une asymétrie de la vitesse relative de signaux lumineux parcourant en sens inverse la circonférence d'un disque en rotation.
「サニャック効果」は、1913年にジョルジュ・サニャック (Georges Sagnac) により発見された物理現象である。それは、回転する円盤の周囲を逆向きに進行する光信号の相対的速度が非対称であると云う現象である。

Introduction et présentation succincte de l'effet Sagnac
On appelle "Effet Sagnac" le décalage temporel de la réception de signaux lumineux "tournant en sens inverse" quand ils sont émis par un émetteur-récepteur fixé sur un disque tournant. En effet, si un émetteur placé sur un disque en rotation envoie deux signaux lumineux contraints de suivre la circonférence du disque, chacun dans un sens, les deux signaux reviennent à l'émetteur après un tour complet mais avec un léger décalage temporel qui dépend de la vitesse de rotation du disque. Ce décalage temporel entre les instants d'arrivée des deux signaux lumineux tournant en sens inverse est très facile à calculer.
サニャック効果の紹介と概要
サニャック効果とは、回転する円盤上に固定された発光・受光器から発射された光信号が戻ってくる時間が、周回の向きが逆だと食い違うと云うものである。実際、回転する円盤上に置かれた発光器が、円盤の外周を、其ぞれ逆向きに辿るようにされた2本の光信号を発射したとすると、その2本の信号が円盤外周を一周して発光器に戻って来る時間には、円盤の回転速度に応じた僅かなズレが生じる。逆方向に周回する2本の光信号の到着時間の差は、非常に簡単に計算できる。

Pour cela, le long de la circonférence d'un disque de rayon R tournant à la vitesse v = ωR (au niveau du rayon R) on fait tourner :


  • un rayon lumineux dans le même sens que le disque (il tourne alors à la vitesse relative c - v par rapport à ce disque et en fait donc le tour en un temps 2πR/(c - v))

  • un rayon lumineux dans le sens opposé à celui du disque (il tourne alors à la vitesse relative c + v par rapport à ce disque et en fait donc le tour en un temps 2πR/(c + v))


つまり、半径 R であって、速度 v = ωR で回転する円盤の外周 (半径 R と同じ高さ) に沿って周回するのは:

  • 円盤と同方向に回転させられる光線 (円盤に対する相対回転速度 c - v であるから、一周にかかる時間は 2πR/(c - v)) と、

  • 円盤と逆方向に回転させられる光線 (円盤に対する相対回転速度 c + v であるから、一周にかかる時間は 2πR/(c + v)) とである。

L'anisotropie de la vitesse relative de la lumière par rapport au disque tournant est mise en évidence par le décalage temporel δT (appelé effet Sagnac) entre les instants d'arrivée des deux signaux lumineux :


  • pour un observateur inertiel

  • pour un observateur tournant situé au rayon R.


回転円盤に対する光の相対速度の方向依存性は、2つの光信号の到着時間にズレ δT があることから (サニャック効果) から明らかとなった。この時間的ズレは:

  • 慣性系の観測者にとっては であり、

  • 半径 R 上で回転する観測者にとっては である。

Dans le cas où le signal lumineux se propage dans un milieu réfringent (par exemple une fibre optique faisant le tour du disque) avec une vitesse c'= c/n (où n>1 désigne l'indice de réfraction), on doit tenir compte du fait que, par rapport au référentiel inertiel R où tourne le disque, la vitesse c1 du signal lumineux tournant dans le sens de rotation du disque et la vitesse c2 du signal lumineux tournant en sens inverse ne valent plus c mais, conformément à la loi de composition relativiste des vitesses et . On a alors :

Une fois le calcul fait, on obtient le même résultat que ci-dessus (l'effet Sagnac ne dépend pas de l'indice de réfraction n).
光信号が、屈折媒質内を、速度 c'= c/n (ここで、n>1 は屈折率) で、伝搬する (例えば、光ファイバが円盤を一周している) 場合、円盤が回転している慣性基準系に関しては、円盤の回転方向と同方向に回転する光信号の速度 c2 と、円盤の回転方向と逆方向に回転する光信号の速度 c1 との値は c ではなくなり、速度の相対論的合成則に従って 及び となることを考慮する必要がある。この場合:

となる。この計算を行なえば、上記と同一の結果が得られる (サニャック効果は、屈折率に依存しない)。

[[訳註:原文の δT の式は、誤り。訳文のように訂正しなければならない。(速度の加算は、c1 及び c2 に織り込まれている。) なお、フランス語原文では、c1 及び c2 の含意が、地の文と式とで喰い違っていたので、これも訳文では補正した。]]

On mesure ce décalage temporel par une expérience d'interférence entre les deux signaux lumineux (en leur point de réception sur le disque tournant). Ce décalage des instants d'arrivée des deux signaux lumineux (tournant en sens inverse le long de la circonférence du disque tournant) provoque en effet un décalage des franges d'interférence mettant ainsi en évidence l'anisotropie de la vitesse relative de la lumière par rapport au disque tournant.
この時間のズレは、2つの光信号間に (回転円盤上の受信点での) 干渉を起こさせれば測定される。(回転円盤の外周に沿って対向する方向で周回した) 2つの光信号の到着時間がズレるため、干渉縞にシフトが生じるが、これは、円盤に対する光の相対的速度が方向により異なることを証明してもいる。

Cet effet fut parfois considéré comme une mise en défaut de la relativité restreinte, en particulier par Sagnac lui-même mais aussi, encore récemment, par Franco Selleri et d'autres dans le courant des [nnées 1990. En effet, ce décalage dans l'arrivée des signaux est constaté avec des signaux lumineux qui ont, dans le repère tournant, la même distance à parcourir (la circonférence du disque). La Relativité Restreinte nous dit que la vitesse de la lumière dans le vide est invariante. Cela semble mettre en évidence un désaccord avec la relativité.
特にサニャック自身がそうであったし、最近では 1990年代にフランコ・セレリ (Franco Selleri) がそうしたように、この効果が特殊相対論の破綻を示すものとみなされることがあった。確かに、信号の到着のズレは、回転する座標系の中では同一距離 (円盤の外周) を伝わる信号の間に起こっている。特殊相対論によれば、真空中での光の速度は不変と云うことになっているから、この効果は、相対論との矛盾を示すように見える。

En réalité, l'effet Sagnac s'explique parfaitement dans le cadre de la Relativité Restreinte. Elle peut conduire à des difficultés et à des paradoxes si on n'a pas bien compris que l'invariance de la vitesse relative de la lumière (et d'une façon plus générale la symétrie des effets relativistes) concerne exclusivement les mouvements relatifs de translation à vitesse constante dans un espace-temps de Minkowski (et n'est valide que localement si on passe en Relativité Générale).
実際には、サニャック効果は特殊相対論の枠組内で完全に説明できる。光の相対的速度の不変性 (そして、より一般的には、相対論的効果の対称性) が、ミンコフスキー時空内での一定速度での相対的並進運動のみに係ること (一般相対論に移行するなら局所的でのみ成立するものであること) を充分に理解していないと、特殊相対論は混乱と矛盾とに迷いこむことがあるのである。

L'analyse plus détaillée de l'effet Sagnac présentée ci-dessous nécessite des outils plus élaborés que ceux utilisés habituellement en Relativité Restreinte. Une lecture superficielle de ce qui suit peut donc laisser croire que l'effet Sagnac est compliqué. En fait il n'en est rien. Une bonne compréhension physique de cet effet est possible avec ce que l'on en a dit ci-dessus donc sans rentrer dans les nombreux détails qui suivent. Cela suffit pour éliminer les erreurs d'interprétation de l'effet Sagnac dues à une mauvaise compréhension intuitive de la relativité ; en particulier l'idée erronée selon laquelle la réciprocité des effets de la Relativité Restreinte (contraction de Lorentz des distances, dilatation temporelle de Lorentz, isotropie de la vitesse de la lumière, relativité de la simultanéité) s'appliquerait globalement à tous les types de mouvements ou encore la confusion fréquente entre symétrie globale vis à vis des actions du groupe de Poincaré (applicable en Relativité Restreinte) et symétrie seulement locale (applicable en Relativité Générale).
以下に示したサニャック効果をより詳細な分析には、特殊相対論で通常利用されているのよりも精巧な道具立てが必要である。以下の記述を表面的にだけ見るのなら、サニャック効果が複雑だと信じられてしまうこともありうる。しかし、そのようなことは全くない。この効果を物理的に正しく理解するのは、上記の説明だけで可能であって、以下の多岐にわたる詳細な説明はなくても良いのである。そのためには、相対性を直感的で粗雑に理解することによるサニャック効果の解釈の誤り、特に、特殊相対論的効果の相互性 (距離のローレンツ収縮、時間のローレンツ遅延、光の速度の等方性、同時性の相対性) を全ての種類の運動に大域的に適用してしまうこと、換言すれば、ポアンカレ群の作用対象である (特殊相対論が適用される) 大域的対称性と (一般相対論が適用される) 局所的であるのみの対称性との間にしばしば見られる混同を解消すれば足りるのである。

Présentation détaillée de l'effet Sagnac
Description du phénomène
L'effet Sagnac consiste à émettre, en même temps et en sens inverse, deux signaux lumineux à l'aide d'un émetteur-récepteur fixé sur un disque tournant, en les contraignant à suivre la périphérie du disque tournant, puis à mesurer le décalage temporel entre les instants de réception de ces deux signaux sur l'émetteur-récepteur. Pour bien comprendre, il est utile de comparer ce cas à celui ou les deux signaux sont envoyés et reçus par un observateur O au repos dans le repère inertiel où tourne le disque.
サニャック効果の詳細
現象の説明
サニャック効果は、回転する円盤状に固定された発光器-受光器により、同時に2つの光信号を逆方向に発信し、回転円盤外周を巡らせて、その2つの信号が発光器-受光器に到達する瞬間の時間的ズレを測定すると現われる。理解を深めるには、このような場合と、円盤が回転している慣性座標系内に静止している観測者 O により2つの信号が発信され・受信されると云う場合とを比較するのが有用である。

[[訳註:"comparer ce cas à celui ou" を "comparer ce cas à celui où" と読み替えた。]]


Un observateur O immobile envoie deux signaux 1 et 2 autour d'un disque de rayon R en rotation à la vitesse angulaire ω. Chaque signal fait le tour du disque.
静止した観測者 O は、角速度 ω で回転している半径 R の円盤の外周を回るように信号 1 及び 2 を送り出す。

Pour cela, on peut utiliser des miroirs, des fibres optiques ou d'autres dispositifs. Voici un dispositif possible (schématisé).
光を周回させるためには、鏡、光ファイバその他の手段を利用すれば良い。ここに手段の一例を示す (概念図)。

Il existe bien d'autres configurations possibles, par exemple employant des fibres optiques, avec des sources en rotation ou pas et des détecteurs interférométriques en rotation ou pas. On peut aussi faire interférer les deux rayons sur l'anneau lui-même de manière à obtenir une onde stationnaire en utilisant deux faisceaux de fréquences légèrement différentes. Cela peut se faire automatiquement en intégrant la cavité laser dans le circuit et en renvoyant les faisceaux dans la cavité après un tour. Ces dispositifs à verrouillage de phase sont les plus précis.
この他にも多くの構成が可能であって、例えば、光ファイバを採用するに際して、これと共に、回転する発光源を用いても用いなくても良いし、回転する干渉検出器を用いても用いなくても良い。また、リング自体において2本の光を干渉させる場合に、僅かに周波数が異なる光束を用いて、定常波を得るようにしても良い。これは、周回構造内にレーザー発振器を一体化し、周回後に発振器へ光束を送り返すことで自動的に行なえる。この「位相拘束 (ロックイン)」手段は、非常に正確である。

Revenons à la disposition circulaire. Nous supposerons dans un premier temps que ce sont deux signaux lumineux se propageant à la vitesse c (comme dans le vide).
円形の配置に戻って論ずることにする。取り敢えずは、2つの光信号が、(真空中と同じに) 速度 c で伝搬するものと仮定しておく。

Évidemment, pour le moment, la rotation du disque n'a pas d'importance. Les deux signaux partis simultanément de O reviennent, après un tour, en O en même temps.
明らかに、今のところは、円盤の回転は重要ではない。同時に O を出発した2つの信号は、一周した後、同時に O に戻ってくる。


Considérons maintenant un observateur O' situé en périphérie du disque et en rotation avec celui-ci. Nous choisissons O' pour qu'il soit en O au moment où les deux signaux sont émis.
さて、円盤の縁にいて一緒に回転している観測者 O' を考える。O' は、2つの信号が発射された瞬間には O と同じ位置にあるように選んでおく。

Comme O' se déplace, lorsque les signaux se rencontrent en O, O' n'est plus au même endroit. O' va à la rencontre du signal 2 qui arrive en O' un peu plus tôt et il fuit le signal 1 qui arrive en O' un peu plus tard.
O' は移動するので、信号が O に戻る時には、O' は、もはやそこにはいない。O' は、信号2を迎えにいくので、信号2とは、やや早く出会い、信号1からは逃げるので、信号1とは、やや遅く出会う。


Voyons ce qui se passe dans le repère de O', c'est-à-dire du point de vue de O'.
以下、O' の座標系で起こることを見ることにする。つまり「O' の視点」で見てみよう。

Dans le repère de O', le disque n'est pas en rotation (O' est immobile dans son propre repère et il est solidaire du disque). Les deux signaux font le tour et se retrouvent en O' après un tour. Mais contrairement au cas de la première figure, comme nous venons de le voir, les deux signaux n'arrivent pas en même temps. Le signal 1 arrive après le signal 2. Pour O', le signal 2 est plus rapide que le signal 1. La vitesse apparente des signaux est anisotrope (différente selon le sens de rotation du signal).
O' の座標系では、円盤は回転していない (O' は、自己の座標系では動いておらず、円盤に対して固定している)。2つの信号は、周回して行って1周した後、O' に戻る。しかし、最初の図の場合とは逆に、以下見るように、2つの信号は同時には到着しない。信号 1 は、信号 2 より遅く到着するのである。O' にとって、信号 2 の方が、信号 1 よりが速いのである。信号の見かけの速度が、方向に依存する (信号の周回方向により異なる)。

L'emploi du terme "apparent" est important car ce qui est mesuré n'est pas directement une vitesse mais les temps de départ et d'arrivée des signaux (ou un déplacement des franges d'interférence dans le cas d'une mesure interférométrique). Nous n'avons pas mesuré la longueur du parcours. Bien sûr, il semble évident que cette longueur soit simplement la longueur du cercle. Mais en relativité restreinte ce n'est pas aussi simple ! Ce qui n'empêche pas de nombreux amateurs de relativité de faire cette confusion facile.
直接測定されたのが速度ではなく、信号の出発時間と到着時間である (あるいは、干渉計による測定の場合には、干渉縞のシフトである) のだから、用語「見かけ」を用いたことには重要性がある。行程の長さは測定されていないのである。勿論、この長さが、単に円周の長さであるのは自明のようにみえる。しかし、特殊相対論では、それほど単純なものではない! 相対論を論じたがる多くのアマチュアが、この混同をしがちであるのが避けられない由縁である。

Voyons maintenant, en physique classique (non relativiste, c'est-à-dire en utilisant les transformations de Galilée), ce que valent ces vitesses apparentes et le décalage de temps d'arrivée des signaux.
取り敢えず、古典物理学的に (非相対論的に、つまり、ガリレオ変換を用いて)、これらの見かけの速度及び信号到着時間のズレの値を見てみよう。

La vitesse angulaire du signal lumineux est simplement c/R. Par conséquent, si on appelle t1 et t2 les temps mis par les signaux 1 et 2 pour rencontrer à nouveau O', nous avons :

Soit

光信号の角速度は、単純に c/R である。従って、信号 1 及び 2 が O' に再び戻ってくる迄にかかる時間を t1 及び t2 とすると、次の式が得られる:

すなわち

となる。

Nous trouvons donc pour le décalage de temps d'arrivée des signaux en O' :

従って、O' における信号の到着時間のズレは、次の式で与えられることが分かる:

Si la vitesse angulaire du disque (ou ce qui revient au même du repère en rotation) est faible par rapport à la vitesse angulaire de la lumière (régime non relativiste), alors

S est la surface du disque.
もし、円盤 (つまり、これは回転する座標系に帰着する) の角速度が、光の角速度に比べ小さいものである (非相対論的領域である) ならば、

となる。ただし、ここで、S は円盤の面積である。

Pour calculer la vitesse apparente des signaux pour O' (dans son repère), il suffit de diviser le temps de parcours par la circonférence. Cela donne les vitesses apparentes des deux signaux :

(O' の座標系における) O' に対する信号の見かけの速さを計算するには、外周長を経路を巡るのにかかる時間で割れば良い。そこで、2つの信号の見かけの速度を考えると:

[[訳註:原文の記述は間違い。"diviser le temps de parcours par la circonférence" (「経路を巡るのにかかる時間を外周長で割れば」)ではなくて、訳文のように「外周長を経路を巡るのにかかる時間で割れば」。ただし、式そのものは、正しく記載されている。]]

Si l'on note V la vitesse tangentielle du disque (ou de O' ou du repère en rotation), on a :

ここで、円盤の接線方向の (つまり O' の、更につまり回転座標系の) 速度 を V と記すと、次の式が得られる:

On trouve que la vitesse, dans le repère de O', des deux signaux est :

V est la vitesse de O' dans R (la vitesse tangentielle au disque).
R 内での O' の速度 (円盤の接線方向速度) を V とすると、O' の座標系では、2つの信号の速度は、

となる。

Ce qui est, sommes toute, bien naturel puisque nous retrouvons l'addition des vitesses de Galilée.
結局のところ、極めて自然なことながら、ガリレオの速度の加法則に立ち戻った訣だ。

Résultats expérimentaux
L'effet a d'abord été constaté et mesuré en analysant les franges d'interférences des signaux lumineux en O'. Depuis, l'utilisation de laser, d'horloges atomiques et d'autres dispositifs, permet d'autres mesures et en particulier la mesure directe du décalage temporel (la différence de temps d'arrivée des signaux en O') calculé ci-dessus.
実験結果
この効果は、まず、O' において光信号の干渉縞を分析することで確認・測定がされた。次いで、レーザー、原子時計、その他の手段を用いることで、更に直接的な測定、特に上記で計算した時間のズレ (O' への信号到着時間の差) を直接測定することが可能になった。

En 1893 Sir Oliver Lodge proposa d'étudier les effets de la rotation de la terre avec un grand interféromètre. Puis, en 1897, il proposa d'utiliser des interféromètres sur un disque en rotation. L'effet fut théoriquement anticipé par Michelson en 1904. En 1913, Sagnac a vérifié ces prédictions en utilisant un interféromètre en rotation rapide. Il avait prédit les résultats ci-dessus dans le cadre de la physique classique. Ce fut aussi le premier résultat expérimental rapporté de ce qui fut nommé l'effet Sagnac.
1893 年、オリバー・ロッジ卿 (Sir Oliver Lodge) は、巨大な干渉計によって地球の自転の効果を研究した。次いで、1897 年、彼は、回転する円盤上に設置された干渉計を用いることを提案した。その効果は、1904 年にマイケルソン (Albert Abraham Michelson) により理論的に予言された。1913 年、サニャックは、高速回転する干渉計を用いて、この予言を確認した。サニャックは、上記の結果を、古典物理学の枠内で予測していた。これが、サニャック効果と名付けられたものに関する最初の実験結果でもあった。

Il faut toutefois noter que cet effet fut détecté par Franz Harres en 1912 dans une expérience de Fizeau, mais il ne fut correctement interprété comme étant l'effet Sagnac qu'en 1914 par Harzer.
この効果は、「フィゾー (Hippolyte Fizeau) の実験」を行なっている際、1912 年に フランツ・ハレス (Franz Harres) により検出されてはいたのだったが、1914 年にハーツァ (Harzer) が指摘するまで、それがサニャック効果であったと云う正しい解釈がされないでいた。

[[訳註:上記の "Franz Harres" は、英語版ウィキペディア中にでてくる "Francis Harress" と同一人物だろう。"Harzer" とは "Paul Harzer" のことらしい。ここでは「ハーツァ」としておく。]]

En 1925, Michelson et Gale mesurèrent la rotation de la terre grâce à un grand interféromètre.
1925 年、マイケルソンとゲイルとは、巨大な干渉計により地球の自転を測定した。

Depuis les années soixante, des mesures de plus en plus précises ont pu être effectuées grâce à l'emploi des laser.
それ以後 60 年にわたり、レーザーを用いることで、ますます正確な測定が可能となっている。

Les gyrolasers Sagnac (des gyroscopes à laser exploitant l'effet Sagnac) sont couramment utilisés pour mesurer avec précision la rotation d'un dispositif (relativement à un repère inertiel).
サニャック・ジャイロレーザー (サニャック効果を利用したジャイロスコープ) は、(慣性系に対する) 装置の回転を正確に測定するのに実用されている。

Universalité de l'effet Sagnac
Les formules précédentes restent bien sûr valables pour un signal à vitesse quelconque (à condition de remplacer c par la vitesse du signal, étant entendu que c'est la vitesse du signal mesurée dans le repère R).
サニャック効果の普遍性
以上の式は、 任意の速度を有する信号に対して成立する (ただし、c を信号の速度に置き換るものとする。勿論、信号の速度は R 座標系で測定されたものである)。

Mais ce que l'on désire mesurer ce n'est pas le décalage entre O et O' (la dernière formule avec les vitesses apparentes traduit simplement l'addition galiléenne des vitesses) mais l'éventuel décalage de deux signaux émis dans un repère en rotation (c'est-à-dire avec la vitesse des signaux mesurée par O', la vitesse "normale", mesurée localement, pas en la regardant faire un tour). C'est-à-dire que l'on désire considérer ce qui se passe réellement dans ce genre de repère, indépendamment de ce que fait O.
しかし、測定したいのは、OO' との間のズレではなく (見かけの速度に就いての最後の式は、単に速度のガリレオ和を示すに過ぎない)、回転座標系内で発射された (つまり、O' により測定された、周回とは関りなく局所的に測定された「正規の」の信号速度を有する) 2つの信号間に発生することがあるズレなのである。これは、つまり、考慮の対象となっているのは、O が何を行なうかとは独立して、この種の座標系内を実際に何が起こるか、と云うことなのである。

[[訳註:"en la regardant" の意味が良く分からない。特に "la" は何を指しているのか? "signaux" では性・数が一致しないのだ。"signal" と考えても、性は一致しない。あるいは、"la" ではなく "le" か?]]


O' envoie des signaux à vitesse connue. Que va-t-il se passer sur un tour?
観測者 O' は既知速度の信号を発信する。一周回する時、何が起こるのか?

Si on emploie autre chose que de la lumière dans le vide, il faut veiller à ce que ce soit O' qui envoie lui-même les signaux afin qu'ils aient localement (en principe) la même vitesse dans R' (comme c'est le cas de la lumière en relativité dont la vitesse est invariante), le repère de O'. Et pour la lumière, un milieu de propagation en rotation si sa vitesse dans ce milieu est inférieure à c (par exemple des fibres optiques fixées au disque, car dans ce cas la vitesse du milieu influence la vitesse du signal, comme dans le cas du son avec l'air, ce que l'on vérifie aisément en mesurant la vitesse du signal sur un aller-retour dans de l'eau en mouvement, c'est la célèbre expérience de Fizeau). 真空中の光以外のものを扱う場合には、O' の座標系である R' 内において (速度が不変である相対論的な光と同様に) 信号が (原則的には) 局所的に同一速度を有するように発信するのは O' 自身であることを忘れてはならない。そして、光に就いては、伝搬媒質中の光の速度が c より小さい場合、回転する伝搬媒質 (例えば、円盤に固定された光ファイバがそうである。この場合には、空気中の音におけるのと同様に、媒体の速度が信号の速度に影響を与える。これは、運動する水中を往復する信号の速度を測定することで容易に確認できる。それをしたのがフィゾー (Fizeau) の有名な実験である)。

[[訳註:このパラグラフ、後半が文章が尻切れトンポになっている。]]

Mais si c'est O' qui envoie le signal, aucun décalage ne peut être prédit par la méthode précédente. Dans O' les deux signaux allant à même vitesse, comme on le voit sur la figure tracée dans le référentiel de O', les deux signaux arriveront en même temps (c'est pour O qu'ils seront décalés). Comme dans la figure ci-dessus, ils parcourent le même cercle à la même vitesse, même si c'est dans des sens différents, et ils doivent arriver en O' en même temps.
しかし、信号を発射するのが O' であるなら、上記の方法では如何なるズレも予測されない。O' にあっては、O' の基準系内を描いた図から分かるように、2つの信号の進行速度は同一であるから、2つの信号の到着時間も同一である (O ではズレることになる)。上に示した図のように、2つの信号は同一の円周を同一速度で通るから、たとえ方向が異なっていたとしても、O' に同時に到着しなければならない。

[[訳註:"et ils doivent arriver en O' en même temps." の "et" は不要だろう。]]

En réalité un décalage est bien constaté ! Et, plus surprenant encore, le décalage (de temps) calculé précédemment est identique quelle que soit la nature du signal et sa vitesse. C'est ce que l'on appelle l'universalité de l'effet Sagnac.
実際には、ズレは明確に確認されている! 更に極めて驚くべきなのは、前もって計算される (時間の) ズレが、信号の性質と速度に関りなく同一だと云うことである。このことは、サニャック効果の普遍性と呼ばれる。

Cet effet est donc difficile à expliquer en physique classique (en fait, avec les transformations de Galilée, c'est même impossible).
従って、この効果を古典物理学で説明するのは困難である (実際、ガリレイ変換では、これは正に不可能である)。

Déjà en 1914 Harzer avait constaté que l'effet subsiste en présence de la réfraction. C'est-à-dire dans un milieu où la lumière va moins vite que c.
既に 1914 年において、ハーツァが、屈折があるような状況下でも (つまり、光が c より遅くなる媒体にあっても)、この効果がやはり発生することを確認している。

L'effet avec des signaux de "matière" fut vérifié plus tard.


  • En 1965, Zimmermann et Mercerau utilisèrent des paires de Cooper.

  • En 1984, Atwood utilisa des neutrons.

  • En 1991, Riehle utilisa des atomes de calcium.

  • Et en 1993, Hasselbach et Nicklaus utilisèrent des électrons.

  • L'effet de la rotation terrestre avec des neutrons fut mesuré par Werner an 1979.


後年、物質波についても、この効果は確認された:

  • 1965年、ジンマーマン (Zimmermann) とメルスロー (Mercerau) とがクーパー対に就いて

  • 1984年、アトウッド (Atwood) が中性子に就いて、

  • 1991年、リーレ (Riehle) がカルシウム原子に就いて、

  • 1993年、ハッセルバッハ (Hasselbach) とニクラウス (Nicklaus) とが電子に就いて、

  • 地球の自転の中性子に対する効果は、ウェーナー (Werner) が1979年に測定している。

Le problème de la lumière
En plus du problème de l'universalité, en relativité restreinte un problème supplémentaire se pose. En effet, en relativité restreinte, la vitesse de la lumière dans le vide est invariante et isotrope. Or les raisonnements qui ont conduit aux vitesses apparentes dans ce qui précède sont qualitativement indépendants de la relativité (un facteur gamma pourrait intervenir, tout au plus). Le raisonnement effectué avec les signaux émit par O et le décalage observé par O' (car il s'est déplacé le temps que les signaux fassent le tour) ne semble pas dépendre de la relativité restreinte.
光の場合の問題点
普遍性の問題に加えて、特殊相対論には別の問題点も指摘されている。実際、特殊相対論においては、真空中の光の速度は不変であり、方向に依存しない。ところが、上記で見かけの速度に就いて行なった議論は、量の観点からは、相対論とは無縁である (せいぜい、因子 γ を挟み込むことができるぐらいである)。O から発せられた信号と O' で観測されるズレ (これは信号が周回する時間のズレである) とに関する議論には、特殊相対論に依存するようには見えない。

Rappelez-vous la figure plus haut et le raisonnement effectué :
最初の図と、それについて行なわれた議論を思い出していただきたい:


Ce décalage est évident, inévitable. L'anisotropie de la vitesse de la lumière (émise par O) semble donc incontournable dans un repère tournant (celui de O'). Ennuyant pour une théorie (la relativité restreinte) qui dit que la vitesse de la lumière est invariante et isotrope ! このズレは明白で不可避である。従って、(O から発せられた) 光の速度の方向依存性は、回転座標系 (O' の座標系) でも回避しえないように見える。光の速度が不変で方向に依存しないなどと云う理論 (特殊相対論) は困りものだ!

Ce fait a plusieurs fois été utilisé pour tenter de réfuter la relativité restreinte, même encore récemment, aussi bien par des amateurs de relativité que par des théoriciens ayant en principe des connaissances plus approfondies de la relativité restreinte.
この事実は、相対論を議論したがるアマチュアだけでなく、原則的には特殊相対論を知悉している理論家により、特殊相対論を否定しようとして、何度となく、そして最近でも、利用されている。

En réalité l'effet Sagnac est compatible avec la relativité restreinte et l'isotropie de la vitesse de la lumière dans tout repère mais que la relativité restreinte prédit en plus l'universalité du phénomène.
実際には、サニャック効果は特殊相対論とも、全ての座標系において光の速度が方向に依存しないこととも両立しており、さらに、特殊相対論からは現象の普遍性も予測される。

[[訳註:この訳文、自信がない。"mais que" 以下のつながりが分からないのだ。]]

La déduction des transformations de Lorentz est valable dans tout repère (y compris accéléré) mais uniquement de manière locale dans un repère accéléré (c'est-à-dire dans un voisinage infinitésimal de l'origine du repère et pendant une durée infinitésimale). La vitesse de la lumière est peut-être invariante et isotrope localement, mais qui dit que sur un tour complet cela reste vrai ? Évidemment vous devez certainement vous demander comment cela est possible, comment une vitesse invariante en tout point peut donner quelque chose de variable sur une distance finie (la moyenne d'une valeur constante est égale à cette valeur). Ou comment la même vitesse locale pourrait conduire à une vitesse globale différente selon le sens de parcours du disque (la circonférence ne dépend pas du sens dans lequel on considère le cercle). Il y a effectivement des choses bien étranges qui se passent et, par exemple, définir le repère en rotation de tout le disque pose de grosses difficultés.
ローレンツ変換からの帰結は、(加速座標系を含む) 全ての座標系 で有効であるが、加速座標系においては、局所的にのみ (つまり、原点の無限小近傍の中と無限小時間の間) 有効なのである。光の速度は、局所的にはおそらく、不変であり、方向依存性はないのであるが、全周にわたってその通りでありつづけると誰が言えるだろう? 明らかに、それが如何にして可能なのか、全ての点で不変な速度が、有限区間上で変化するようなものを (一定値の平均値は、その値に等しいのだから) 如何にして産み出すのかを自問する必要が確かにあるのだ。あるいは、如何にして、局所的に同一の速度が、その円盤周回の方向に応じて大域的には異なる速度を引き起こすのか (外周の長さは、円周をどちらの向きで考えるかに依存しない)。確かに奇妙なことである。その上、例えば、円盤全体の回転に対して座標を定義することは、重大な困難を引き起こす。

Mais ne brûlons pas les étapes, avant d'attaquer le problème correctement, rigoureusement et dans toute sa généralité, présentons une dérivation relativiste "simpliste" ainsi qu'une série de paradoxes liés à l'effet Sagnac.
しかし、拙速は避けよう。そして、問題に対し正確・厳密かつ一般的に取り組む前に、サニャック効果に関する一連のパラドクスと同様な相対論からの「単純過ぎる」帰結を紹介しておこう。

[[訳註: 『「単純過ぎる」』と訳した '"simpliste"' には悪意が感じられる。あまりガラの良い言葉とは思えないが「単細胞的」ぐらいにも訳せるかもしれない。]]

Interprétation simpliste
Nous allons maintenant voir ce que deviennent les formules précédentes dans le régime relativiste.
「単純過ぎる」解釈
まず、相対論的には、これまでの式がどうなるかを見てみよう。

Nous allons raisonner de manière simple, sans vouloir être trop rigoureux. Cela peut sembler dangereux, mais vous seriez étonné du nombre d'amateurs de relativité et même de physiciens professionnels qui se contentent de ce genre de raisonnement ! Avec parfois des résultats désastreux.
厳密過ぎるようにしたくないので、議論を単純化する。危険に見えるかもしれないが、読者は、この種の議論で満足している相対論のアマチュアや専門的物理学者の多さに驚かれるであろう。そして、時として、その結果は悲惨である。

Dans le référentiel R de O, les deux signaux arrivent sur O' avec un décalage Δt mesuré sur l'horloge de O. O', en mouvement, doit observer une dilatation du temps. Toutefois ce n'est pas si simple car O' se déplace entre les deux réceptions des signaux. Et nous savons que le temps dépend aussi de la position. Nous devons utiliser les transformations de Lorentz.
O の 基準系 R 内で、2つの信号が、O の時計で測定して、ズレ Δt でもって O' に到着したとする。運動している O' の観測では時間遅延が生じる。しかし、O' は2つの信号の受信と受信との間に移動するから、事態はそれほど単純ではない。また、時間は位置にも依存することが分っている。ローレンツ変換を使わねばならないのである。


Nous allons supposer que la vitesse de rotation du disque n'est pas trop grande pour pouvoir assimiler la trajectoire de O' (entre l'émission et les réceptions des signaux) à un segment de droite. Ainsi, l'utilisation des transformations de Lorentz semble être justifiée 円盤の回転速度が、O' の (信号の発信から受信までの間の) 軌跡と直線分との同一視が不可能になる程には速くないものであることを仮定する。そうすると、ローレンツ変換の使用が正当化されるであろう。

Les signaux seront reçut par O' (dans le repère R) aux coordonnées :

信号は、(座標系 R 内で) 次の座標を有する O' により受信される:

On peut alors appliquer les transformations de Lorentz :

ここでローレンツ変換

を用いて:

[[訳註:分かり切ったかのように、係数 (因子) γ が出てくるが、感心した書き方ではない。勿論、所謂「ローレンツ係数」、「ローレンツ因子」、「γ 係数」などと呼ばれている、 (1-(v/c)2)-1/2 を指す (ここで、v は座標間の相対速度、c は真空中の光速度) のだが、論理上は記号と記号内容との関係に「当然」はあり得ないから、初歩的で、一般に流布している記号なら別の話、論理の運びが重要な局面では、記号の内容は、記号が最初に登場した時点で明示されるべきである。]]

Soit avec les coordonnées précédentes

前記の座標を代入すると、次の式が得られる

On trouve donc dans le repère R' de O'

従って O' の座標系 R' では、次のようになる

Le résultat trouvé, c'est-à-dire le décalage de temps d'arrivée des deux signaux sur O' dans R', est exactement la valeur approchée que nous avions obtenue précédemment, à un facteur gamma près (alors que pour cette expression approchée nous sommes partis de la valeur classique exacte) ! C'est assez étonnant. Habituellement c'est plutôt l'inverse qui se produit (la formule relativiste redonne la formule classique en supposant gamma proche de un et en négligeant les termes d'ordres supérieurs, proportionnels au carré de la vitesse, comme dans le cas de l'effet Doppler).
得られた結果は、R' における O' への2つの信号の到着時間のズレだが、以前に得た近似値 (この近似値は、まさに古典論的な値から導かれたものであった) に因子 γ が付いているものに正確に一致している! これは、充分に驚くべきことである。通例、起こるのは、むしろ、この逆のことである (ドップラー効果の場合のように、相対論的な式が、γ がほぼ 1 であると仮定して、速度の二乗に比例するような高次の項を無視することで、古典論的な式が得られる)。

Pour calculer la vitesse du signal dans R', il faut connaître la longueur de la circonférence. A priori ce n'est pas trivial, car dans R la contraction des longueurs ne s'applique pas de manière homogène selon le point considéré sur la circonférence (l'orientation de la vitesse varie avec l'angle).
R' 内での信号の速度を計算するには、外周の長さが分かれば良い。R 内では長さの短縮が、外周上の点に対して一様には起こらないから、これは、「ア・プリオリ」には自明ではない (速度の方向は、角度と共に変化する)。


Mais grâce à la symétrie par rotation, nous pouvons faire plus simple. En effet, A cause de cette symétrie, dans R et R', un disque reste un disque. En rotation ou pas. La géométrie reste inchangée (ce raisonnement est en fait totalement incorrect). Par conséquent la contraction doit être homogène. De plus, la circonférence étant forcément toujours tangente à la vitesse, la contraction de Lorentz est indépendante de l'angle (voilà qui est assez contradictoire avec ce qui est dit ci-dessus, mais continuons avec notre approche approximative, de toute façon, une contraction variable, donnant une circonférence bizarre, ne ferait que donner un facteur correctif en plus du facteur gamma, cela ne changerait pas les conclusions). しかし、回転の対称性により、単純化が可能である。実際、この対称性により、R 及び R' 内では、円盤は円盤であり続ける。回転の有無に関らず、幾何学的特徴は変化しない (実は、この議論は全く不正確である)。このため、収縮は一様でなければならない。更に、外周は必然的に常に速度に接し、ローレンツ収縮は、角度に依存しない (これは、以前の議論と充分に矛盾するが、現在の近似的手法を続けていく。いづれにせよ、可変な収縮では、歪んだ外周ができるが、因子 γ 以外の補正因子が得られるだけで、結論には変化はないだろう)。

[[訳註:"A cause de" は "a cause de" とすべき。]]
[[訳註:"En rotation ou pas. La" は "En rotation ou pas, la" とすべき。]]
[[訳註:"ferait" は "faire" の条件法第三人称単数。]]

Si le disque a le périmètre 2πR' dans R' (le disque est immobile dans ce repère, et ne confondez par les repères R et R' avec les rayons du disque dans ces deux repères R et R', il est dommage qu'en français les mots rayon et repère commencent pas la même lettre), alors il aura une longueur plus courte d'un facteur gamma dans R. 2πR = 2πR'/γ. C'est-à-dire que dans R' la longueur parcourue est plus longue.
もし円盤の外周が R' 内において (この座標系では円盤は静止している。座標系 R 及び R' と、この2つの座標系における円盤の半径 R 及び R' とを混同しないようにされたい。これは、「半径 (rayon)」と「座標系 (repère)」とが同じ文字で始まるフランス語の不都合な点である。) 2πR' であるとすると、R 内では因子 γ だけ長さが短くなる。つまり 2πR = 2πR'/γ である。これはつまり、R' 内では、外周長が、長くなると云うことである。

[[訳註:"ne confondez par" は "ne confondez pas" と読み替える。]]
[[訳註:「座標系 R 及び R' と、この2つの座標系における円盤の半径 R 及び R' とを混同しないようにされたい。」私も、読んでいて当初戸惑った。「これは、「半径 (rayon)」と「座標系 (repère)」とが同じ文字で始まるフランス語の不都合な点である。」ハハハ。だったらどっちか記号を変えろよと思う。なお、この翻訳中では、座標系の場合は、ボールド体 (R 等)、半径の場合はイタリック体 (R ) に書き分けてある。]]

Comme la vitesse des signaux est obtenue en divisant cette longueur par le temps de parcours et comme les deux sont augmenté d'un facteur gamma, il y a compensation. Un petit calcul utilisant les transformations de Lorentz pour la position et les coordonnées temporelles ci-dessus montrent que les formules d'addition des vitesses que nous avions trouvées dans le cas classique restent valables :

(où V = ωR est la vitesse au bord du disque, c'est-à-dire la vitesse angulaire fois le rayon, la vitesse angulaire étant le nombre de tours par seconde multiplié par deux pi).
信号の速度は、これらの長さを、周回時間で割れば得られ、そして双方に因子 γ が付いている訣だから、相殺が起こる。位置及び上記の時間座標値に付いてローレンツ変換を使った簡単な計算を行なうと、古典論的に得られた速度の加算式は、やはり成り立つことが示される:

(ここで、V = ωR は、円盤外縁の速度。つまり、半径に角速度を掛けたもの。角速度とは、秒当たり回転数に円周率の2倍を掛けたものである。)

Deux constatations s'imposent :


  • Dans R' la vitesse de la lumière est anisotrope, ce qui est a priori en contradiction avec la relativité restreinte. Toutefois celle-ci ayant été établie dans des repères inertiels et non en rotation, nous pouvons l'admettre dans un premier temps.

  • L'aspect universel de l'effet Sagnac ne s'explique pas car l'effet n'apparaît ici qu'avec une vitesse de la lumière anisotrope dans R' alors qu'avec des signaux quelconques ayant une vitesse bien précise (même inférieure à c) et isotrope dans R' l'effet Sagnac est malgré tout observé en pratique.

    Et cet effet ne peut être dû à une anisotropie non détectée car si la vitesse du signal (inférieure à c) est isotrope dans R et donc anisotrope dans R', faites le calcul, on obtient un écart bien supérieur à celui calculé ci-dessus.




    2つの点が確認される:
  • R' 内で、光の速度は方向に依存する。これは、「ア・プリオリ」に特殊相対論と矛盾する。それでも、特殊相対論は、回転していない慣性系に対し構成されたものだから、取り敢えずは、これを受け入れても良い。

  • サニャック効果の普遍性が、説明できない。なぜなら、この場合、この効果は、R' 内での方向に依存する光の速度に対してのみ発生すると思われるが、R' 内で方向に依存せず、また、極めて明確な速度 (c よりも小さくもある) を有する普通の信号に対しても、サニャック効果は、やはり実際に観測されている。
    そして、この効果は、検知されていない方向依存性に起因することはあり得ない。何故なら、もし (c より小さい) 信号速度が R 内で方向依存性を持たず、従って、R' 内で方向依存的であるならば、計算をしていただくと分かることだが、上記で計算したのより遥かに大きい差が得られるからである。

Il est intéressant de voir aussi que ces raisonnements simples (simplistes) conduisent à divers paradoxes.
こうした単純な (単純過ぎる) 議論が様ざまなパラドクスを導き出すのを見るのも楽しいものだ。

Voir le paradoxe d'Ehrenfest.
Voir le paradoxe de Selleri.
"paradoxe d'Ehrenfest" (エーレンフェストのパラドクス) を参照。
"paradoxe de Selleri" (セレリのパラドクス) を参照。

L'addition des vitesses
Les formules précédentes que nous avons vues donnent en fait l'addition des vitesses avec la lumière. Mais qu'en est-il de l'addition des vitesses en général. Que vaut l'addition des vitesses sur la circonférence du disque ?
速度の加算
上述の式は、実質的には、光の速度の加算に就いてのものだった。しかし、一般的な速度の加算はどうなるのだろう。円盤外周での速度の加算を行なうとどうなるのか?

Soit deux observateurs O' et O" se déplaçant à V' et V''. Un rayon lumineux se déplaçant dans le même sens à pour vitesse respectivement pour O' et O" :

2人の観測者 O'O" とが V'V'' とで移動しているとする。光信号が、O' 及び O" の速度に対し、それぞれ同一方向に進んでいるものとすると:

[[訳註:"à pour" 中の "pour" の意味が分からない。余計とも思える。]]
[[訳註:原文の式中の "(" は "'" に変えなければならない。]]

Soit V''' la vitesse relative de O' et O". Un raisonnement identique à celui utilisé dans la présentation de l'effet Sagnac (en utilisant O" comme "signal" pour O et O') montre que

Donc

C'est-à-dire

V'''O'O" との相対速度とする。サニャック効果に就いての説明で用いたのと同じ議論 (O" を、OO' とに対する「信号」として用いる) をすると、以下のことが示される

従って、

これは、つまり

と云うことである。

L'addition des vitesses est celle de Galilée ! Ce n'est pas étonnant en voyant les formules pour l'addition avec la vitesse de la lumière : la lumière obéit dans le repère en rotation à l'addition des vitesses galiléenne. Nous avions déjà suggéré cela dans la section précédente.
速度の加算がガリレオ式になっている! これは、回転座標系内で光がガリレオ式の速度加算則に従うと云う光の速度の加算式を見るなら驚くべきことではない。このことは、直前の節で既に示唆しておいた通りである。

Si on effectue un passage à la limite, on tombe sur un paradoxe analogue à celui de Selleri : l'addition des vitesses devient galiléenne dans un repère inertiel.
しかし、もし極端に進めてしまうと、「慣性系内で、速度の加算がガリレイ的になる」と云うセレリのパラドクスと類似のパラドクスに陥ってしまう 。

Avec des arcs de cercles qui sont quasiment des segments de droite, et en utilisant un signal allant dans le sens approprié, nous avons même la possibilité d'avoir des signaux allant plus vite que c entre deux points quelconques. Or, nous savons que cela viole la causalité et conduit donc à des inconsistances en relativité restreinte.
殆ど直線分と言えるような円弧で、適宜な方向に進んでいる信号を用いると、任意の2点間に就いて、c より早く進む信号を得ることも可能である。さて、これでは、因果律に反し、従って特殊相対論の内部矛盾を導き出すことになる。

En fait, l'addition des vitesses galiléenne est compatible avec un espace-temps euclidien mais pas avec un espace-temps de Minkowski qui conduit aux transformations de Lorentz. Comme nous l'avons vu dans la déduction rigoureuse des transformations de Lorentz. C'est-à-dire que ces relations sont incompatibles avec les effets relativistes qui sont pourtant clairement observés !
実際、ガリレイ式の速度加算は、ユークリッド時空に整合し、ローレンツ変換に従うミンコフスキー時空には整合しない。ローレンツ変換の厳密な導出において分っていることだ。つまり、こうした関係は、明白に観測可能な相対論的効果と矛盾する!

[[訳註:文意全体には関わりのないことがだ、文章のまとまりが悪い ("Comme ...." はセンテンスになっていない)。恐らく、"Lorentz. Comme" は "Lorentz, comme" とでもすべきなのだろう。]]

De toute évidence il y a un sérieux problème. Nous venons tout simplement de montrer que la formule donnant la vitesse de la lumière dans un repère tournant est incompatible avec l'invariance de c dans un repère inertiel. Alors que nous sommes sensé avoir déduit ces relations de la relativité elle-même obtenue grâce à l'invariance de c. Cela semble (en apparence) nous mener à une inconsistance non seulement de la relativité restreinte mais des données expérimentales elles-mêmes !
明らかに重大な問題がある。回転座標系内での光の速度を与える式は、慣性座標系内での c の不変性と整合しないことが全く簡単に示せるのだ。我我には良識があるからこそ、c の不変性から相対論諸関係を導き出した。これでは、まるで、我我が、(見かけ上) 特殊相対論だけでなく、経験そのものを内部矛盾に陥れさせてているようだ!

Un problème plus compliqué qu'il n'y paraît
En plus des paradoxes soulevés dans les sections précédentes et du problème de l'universalité de l'effet Sagnac, récapitulons quelques remarques qui montrent que le raisonnement simpliste est faux ou, à tout le moins, qu'il doit être sérieusement mis en doute et que l'analyse de l'effet Sagnac en relativité restreinte nécessite un traitement plus rigoureux.
見かけよりも複雑な問題
これまでの節で提起したパラドクス及びサニャック効果の普遍性の問題のほかに、「単純過ぎる」議論が、誤っている、或いは、少なくとも、重大な疑念を抱かざるをえないものであること、及び、特殊相対論によるサニャック効果の分析には、ヨリ厳密な取り扱いが必要であることを、以下要約しておく。

  • Dans l'espace-temps les rayons lumineux ne suivent pas la même trajectoire.
    時空内で、複数の光線は、同一の軌跡を取ることはない。


    Même dans R les trajectoires sont différentes ! Bien que dans R, la situation des deux trajectoires soit totalement symétrique et aucun problème particulier ne se pose.
    たしかに、R 内で も軌跡は異なっている! ただ R 内では、2本の軌跡の状況は、全く対称で、特別何らの問題もないようではある。

    Notons que ce dessin peut être trompeur car en relativité restreinte l'espace-temps est de Minkowski et pas euclidien comme cette figure (c'est inévitable). Il faut donc faire attention.
    しかし、特殊相対論では時空はミンコフスキー的であって、この図のようにユークリッド的ではない (それは不可避である) ので、この図は誤解を引き起こす可能性があることに留意されたい。注意が必要なのである。

  • Dans R', il y a asymétrie de ces trajectoires à cause de la rotation. Cette asymétrie n'existe pas dans R. C'est la très grosse différence entre R et R'.
    R' 内では、回転に起因する軌跡の非対称性が存在する。この非対称性は R には存在しない。これが、RR' との間の大きな相違点である。
  • On ne peut pas considérer la circonférence vue dans le repère R comme la longueur des trajectoires dans R', même en lui appliquant la contraction des longueurs, car on ne peut pas sans précaution séparer l'espace du temps (l'espace en relativité restreinte n'est pas absolu) et l'existence de deux trajectoires asymétriques dans l'espace-temps ne simplifie pas les choses.
    たとえ、長さの短縮を適用したとしても、座標系 R' 内での軌跡の長さとして座標系 R 内で見られる外周を考えることはできない。何故なら、不用意にに空間を時間から分離することはできないし (特殊相対論における空間は絶対的ではない)、時空内での2つの非対称な軌跡の存在が事態を単純化させないのである。

    Dans le dessin, la partie spatiale est l'horizontale (et la longueur des circonférences est indiquée), identique pour les deux trajectoires, mais, répétons le, n'oublions pas que notre figure est faite "sur papier" donc dans un plan obéissant à la géométrie d'Euclide, tandis que l'espace-temps réel est de Minkowski, compliqué ici par la rotation.
    図中で、空間部分は水平線方向で示されており (外周の長さも示されている)、2本の軌跡に対して同一になっている。しかし、(繰り返しになるが) この図が「紙の上」に書かれているものであって、ユークリッド幾何学に従った面上にあるのに、実際の時空はミンコフスキー的であり、更にここでは回転により複雑化していることを忘れないようにしていただきたい。

    Ce problème peut-être relié aux intervalles de type spatial. Cet intervalle n'ayant pas de signification physique (pas de lien causal), la longueur de l'intervalle n'est pas fixée ''a priori''. Lui attribuer une valeur quelconque ou le considérer comme non invariant ne modifie pas la physique. C'est une simple considération mathématique. Ce n'est que des considérations en rapport avec le principe de relativité qui conduisent à la forme de l'intervalle invariant, y compris spatial, que nous connaissons. Si l'on ne tenait compte que des données physiques (l'invariance de la vitesse de la lumière dans le vide), nous aurions plus de liberté et même si les intervalles lumineux et temporels seraient toujours invariants, l'intervalle spatial pourrait être quelconque.
    この問題は、恐らく、空間型の「間隔」に関係している。この「間隔」には物理的な (因果性に関わる) 意味はなく、「間隔」の長さが固定されないのは「ア・プリオリ」に明らかである。それにある値を付与したり、不変量ではないと考えても、事態は変化しない。これは、単純な数学的検討を行なえば分かることである。これは、空間的であるものを含めて、我我が承知する不変「間隔」の形式を導き出す相対性原理に関する考察の結果そのものである。もし物理的事実 (真空中での光の速度の不変性) を考慮に入れないとしたら、我我は一層の自由を手に入れて、たとえ光及び時間の「間隔」が常に不変であっても、空間的な「間隔」は任意にすることができることになる。

    La circonférence est la longueur d'une figure géométrique purement spatiale. Par conséquent, on ne peut pas, sans précaution, considérer que la longueur des trajectoires est numériquement égale à la circonférence. Il pourrait y avoir des difficultés et des surprises et violation involontaire du principe de relativité.
    外周は、純粋に空間的な幾何学図形の長さである。従って、軌跡の長さが数値的に外周に一致すると不用意に考えることはできない。困難や予想外の出来事、意図しない相対性原理への違反が起こる可能性があるのである。

    L'espace n'est pas absolu. On ne peut pas considérer que la physique se déroule sur une "scène de théâtre". La relativité restreinte nous enseigne que tout est relatif et que la physique doit se décrire par les relations entre observateurs et objets. Le choix du repère n'est là que pour donner des valeurs numériques aux variables. On ne peut pas considérer notre dessin avec le cercle comme un cadre absolu qui nous permettrait de mesurer à coup sûr la longueur des trajectoires. Ce n'est pas aussi simple.
    空間は絶対的ではない。物理は、「舞台」の上で繰り広げられているとみなす訣にはいかないのだ。特殊相対論の教えるところは、全ては相対的であり、物理は、観測者と対象との間の関係により叙述されねばならないと云うものだ。座標系の選択は、変数に数値を与えるのに過ぎない。円周が描かれている図を、軌跡の長さを確実に測定することができる絶対的な枠組みと見なすことはできないのだ。それほど単純なものではないのである。

  • Les rayons lumineux ne suivent pas les géodésiques (c'est-à-dire les chemins les plus court).
    光線は測地線 (つまり、最短経路) を辿るのではない。

    Si l'on appelle A et B les points où O' rencontre les deux signaux lumineux. Traçons les géodésiques (les lignes les plus courtes) dans R (une droite) et dans R'.
    O' と2つの光信号とが出会う場所を A 及び B とする。測地線 (最短線) を R 内 (直線になる) と R' 内とに引いてみよう。


    Pourquoi la géodésique ne rejoint-elle pas B dans R' ? Tout simplement parce que les deux évènements spatio-temporels A et B ne peuvent pas être joint par une géodésique lumineuse (la lumière se déplace beaucoup plus vite que O' et les deux ratent leur rencontre) ! Par conséquent A et B sont bien confondu dans R' (puisque O' est immobile dans R') mais la géodésique lumineuse, la ligne droite dans R, est vue comme courbe dans R'. Si l'on n'est pas convaincu, on peut dessiner cette géodésique point par point à partir de celle dans R en tenant compte de la vitesse c et de la vitesse et de la rotation de O', par exemple en utilisant du papier millimétré et une bonne vieille calculette (c'est assez fastidieux).
    どうして、R' 内では測地線が B に辿り着かないのか? これは単純なことで、2つの時空事象 A と B とは、光による測地線では結びつきえないからだ (光は O' より遥かに速く移動するので、両者は出会えないのだ)! 従って、(O'R' 内では静止しているため) A と B とは R' 内で混同されてしまうが、R 内では直線である光測地線が、R' 内では曲がって見える。納得できなのなら、R 内の測地線を元にして、速度 cO' の回転速度を考慮し、例えば、ミリ方眼紙と「古き良き」電卓とを用いて、この測地線を、一点一点描いていただいても良い (ものすごく退屈だが)。

    Les trajectoires lumineuses entre A et B (évènements spatio-temporels) ne sont pas des géodésiques lumineuses et ne sont donc pas les chemins les plus court dans l'espace-temps. C'est logique : on force la lumière à emprunter une trajectoire imposée grâce à des miroirs ou une fibre optique, justement à cause de cela.
    (時空事象) A と B との間の光の軌跡は、光測地線ではあり得ないから、時空内で最短の経路ではない。これは当然である: 鏡や光ファイバの助けを藉りて、正にそうなるように、光に所定の軌跡を辿らせたのだから。

    Étant donné l'asymétrie des trajectoires on ne peut pas supposer, sans le vérifier, que ces deux trajectoires "allongées" ont la même longueur dans l'espace-temps. Quand on voit la géodésique dans R', c'est loin d'être trivial et dire "oui évidemment" est totalement présomptueux.
    軌跡が非対称性であると確定している訣だから、立証することなしに、「拡げ伸ばした」2本の軌跡が時空内で同一の長さを有すると想定する訣にはいかない。R' 内での測地線を論ずる場合、測地線であるか否かは到底自明ではありえず、「勿論明らかだ」と言うのは、それは全くの自惚れである。

    Les géodésiques sont les chemins les plus court, par exemple dans un espace plat (une feuille de papier) elles forment le quadrillage de la feuille. Sur une sphère, ce sont des courbes (les grands cercles ou méridiens et équateur).
    測地線は最短の経路であり、例えば、平面 (一枚の紙) 上では、紙面を碁盤の目を形成する。球面上では、曲線になる (大円、又は、子午線や赤道)。

    Cette courbure de la géodésique montre bien que l'espace soit courbe vu dans R'. Même en physique classique (espace euclidien), l'espace est courbe vu dans un repère accéléré. Mais on n'en parle quasiment jamais car :
    こうした測地線が曲がっていると云うことは、R' 内で見るなら空間が曲がっていることを示す。古典物理学 (ユークリッド空間) であってさえ、加速座標系内で見るなら空間は曲がっている。しかし、このことは滅多に指摘されない。なぜなら:

    [[訳註:"bonne vieille" (女性形。男性形は "bon vieux") いずれも、「懐かしい」とか「古い馴染みの」と言ったニュアンスがある。ここでは、若干皮肉な意味で使われている。]]
    [[訳註:"courbure" は「曲率」とは訳さず、「曲がっていること」と訳しておく。以下では「曲率」と訳すべき場合も出てくる。]]
    • On sait qu'on doit en réalité partir de Minkowski donc on préfère passer directement à des espaces courbes relativistes.
      実際にはミンコフスキー空間から始めなければならないことが分っているので、直接相対論的な曲がった空間に移行する方が好まれる。
    • Si on reste dans la physique classique, galiléenne, on peut se passer de ces subtilités en raisonnant dans R pour la cinématique et en utilisant, dans R', des astuces du type "forces fictives" ou "dérives" (force centrifuge, force de Coriolis responsable du sens de rotation des cyclones et due à la rotation de la Terre). L'espace-temps euclidien autorise des facilités que l'on n'a malheureusement pas avec l'espace-temps de Minkowski.
      古典的・ガリレイ的物理に留まると、R 内では運動学上の議論を行ない、R' 内では「慣性力」つまり「派生的な力」(遠心力、地球の自転に起因し、サイクロンの回転方向を決めるコリオリの力)と云った種類の細工を用いたりと云う繁雑さが避けられる。ユークリッド時空なら、残念ながらミンコフスキー時空にはない気安さが許されるのだ。
      [[訳註:"dérives" は「派生的な力」と訳しておく。「慣性力 (forces fictives)」の言い換えで、省略しても構わないとも思う。]]


  • Précisons tout de même un point important.
    それでも、重要な点をハッキリさせておこう。

    La courbure d'une variété (une ligne, une surface, etc.) est une propriété locale "intrinsèque" (qui lui est propre). Par exemple, vous ne pouvez pas faire disparaître la courbure d'une sphère en l'aplatissant : elle se déchire. Tout le monde connaît les difficultés pour représenter notre bonne vieille planète sur des cartes plates : il y a toujours quelque chose de déformé.
    多様体 (線、面等) の曲率は、「内在的に」(本質的に) 局所的な性質だと云うことだ。例えば、球面の曲率を、球面を潰すことで (それでは、球面が裂けてしまう)、消すことはできない。我らが古き良き惑星を平らな地図上に表現することの難しさは、世界中が知っている。必ず、何かが歪んでしまうのである。

    Il ne faut pas la confondre avec la courbure "extrinsèque" imposée de l'extérieur, par exemple en roulant une feuille de papier en cylindre : cela ne modifie pas la feuille de papier, seulement la manière dont nous la voyons.
    外部から課せられる「外在的」曲率と混同してはならない。これは、例えば、一枚の紙を丸めて筒状にするような場合を指す。これでは、面としての紙を変えたのではなく、単に見え方を変えたに過ぎない。

    Nous ne parlerons pas ici de courbure extrinsèque. Quand on parlera de courbure, nous parlerons toujours de courbure intrinsèque.
    ここでは、外在的な曲率を論じていない。曲率に言及する時は必ず内在的な曲率を指す。

    Le paradoxe d'Ehrenfest a déjà présenté ce type d'espace courbe (espaces sphériques ou hyperboliques) où la géométrie est différente de celle que nous avons apprise à l'école.
    既にエーレンフェストのパラドクスが、測地線が我我が学校で教えているのとは異なる、この種の曲率を有する空間 (球面空間や双曲空間) に関わっていた。

    Or l'espace-temps de Minkowski est plat (les trajectoires les plus courtes sont des droites). Ce n'est pas en changeant d'observateur que l'espace-temps va brusquement acquérir une propriété qu'il n'avait pas. La courbure peut d'ailleurs s'exprimer de manière mathématiquement invariante pour tout observateur.
    さて、ミンコフスキー時空は平坦である (最短の軌跡は直線である)。このことは、観測者が変わっても、時空が以前を持っていなかった性質を突然獲得するようなことはないと云うことである。その上、曲率は、全ての観測者にとり不変な数学的形式で表現できる。

    L'espace-temps dans R' doit donc rester plat. Ce n'est qu'en relativité générale que l'espace-temps est considéré courbe. Et même, on montre par des raisonnements simples qu'en présence de la gravitation l'espace-temps ne peut pas rester plat.
    従って R' 内の時空も平坦でなければならない。これは、時空が曲がっているとみなす一般相対論のみに関わる。ところが、簡単な議論により、重力の存在下では時空は平坦でありえないことが示される。

    Mais ici nous n'envisageons nullement la gravitation. Nous avons un repère inertiel R dans un espace-temps plat de Minkowski et un observateur O' qui suit une trajectoire courbe (un cercle), c'est tout.
    しかし、ここでは、重力のことは全く想定していない。平坦なミンコフスキー時空内の慣性座標系と、曲がった軌跡 (円) を辿る観測者 O' とがあるばかりである。

    Mais avoir un espace-temps plat ne signifie pas que l'espace est plat ! Les géodésiques étant courbes ont doit employer des coordonnées curvilignes (un peu comme les coordonnées polaires). Et si l'on effectue une "coupe" dans l'espace-temps pour considérer une "tranche" d'espace (on considère tous les points simultanés dans un repère donné), rien ne dit que cette tranche sera plate !
    平坦な時空であると云うことが、そこでの空間が平坦であることを意味する訣ではないのだ! 測地線が曲がっているなら、曲線座標 (敢えて言えば極座標のようなもの) を用いねばならない。空間の「切断面」を (所与の座標系内で同時な全ての点を) 考えようとして、時空を「切る」場合、その切断面が平坦であることとは決して言えないのだ。

    C'est vrai en géométrie euclidienne et il est donc difficile d'imaginer qu'il puisse en être autrement. Mais en géométrie de Minkowski on ne peut pas séparer l'espace et le temps de manière arbitraire. Rien ne dit que l'espace sera plat. Le problème étant que ce sont toutes les coordonnées qui sont curvilignes, y compris le temps.
    ユークリッド幾何では成り立ってしまうため、他の有り様がありうるとは想像しにくいのだが、ミンコフスキー幾何学では、時間と空間とを任意の仕方で分離することはできない。空間が平坦であるとは決して言えない。問題なのは、時間座標も含めて、座標が全て曲線座標であることである。

    [[訳註:このパラグラフの後半は、意味が取りづらい。]] [[訳註:"notre bonne vieille planète" 「我らが古き良き惑星」とは、勿論地球のこと。世界地図には、さまざまな図法があるのは周知の通り。]]
    [[訳註:"Les géodésiques étant courbes ont doit employer" 中の "ont" は --on-- と読み替えた。]]
  • Une analogie avec une autre expérience donne un indice sur l'origine de la difficulté.
    他の実験との類比により、この困難な事態の起源への手掛かりが得られる。

    Plaçons O et O' non plus sur un cercle mais sur un segment de droite terminé par des miroirs.
    O 及び O' を、円上ではなく、鏡で区切られた線分上に置くのである。



    Cette expérience est identique à celle de Sagnac sauf que les rayons lumineux font demi-tour sur des miroirs au lieu de faire le tour sur un cercle.
    この実験は、光線が円を一周するのではなく、鏡間の行程を半周する点以外では、サニャックによる実験と同じである。

    Il est évident qu'ici aussi O' va constater un décalage et une vitesse apparente (en utilisant la longueur du segment pour calculer la vitesse) anisotrope.
    この場合でも、O' ではズレが生じ、見かけの速度 (速度の計算には線分の長さが用いられる) が方向に依存するのは明らかである。

    Bien entendu, ici l'origine du phénomène est évidente : la longueur des trajectoires, même pour ce qui est de l'espace seul, est différente aussi bien dans R que dans R', et les miroirs se déplacent par rapport à O'.
    勿論、ここでの現象の原因は明らかである: 軌跡の長さが、空間単独に就いては同じだが、R 内と R' 内とではやはり異なっており、鏡は O' に対しては移動しているためである。

    Se pourrait-il que dans Sagnac on ait un phénomène analogue ? Après tout peu importe la trajectoire choisie pour faire faire demi-tour aux rayons lumineux ou pour leur faire faire le tour. Dans la figure ci-dessus, on pourrait demander à ce que les rayons lumineux fassent un aller-retour avec les deux miroirs, ce qui est équivalent à un tour sur le cercle. Dans ce cas cette figure est simplement la projection sur une droite de l'expérience de Sagnac !
    サニャックにおいては、類似の現象はありうるのだろうか? 結局のところ、軌跡を光線が半周させるよう選択するか、一周させるよう選択するかは、ほとんど重要ではない。上記の図で、円を一周するのと等価になるよう、2枚の鏡を使って光線が往復を行なうようにすることもできるのである。この場合、この図は、サニャックの実験を直線上に投影したものに過ぎなくなる。

    [[訳註:"pour ce qui est de..."「...に就いては」]]

    Rappelons-nous que l'effet Sagnac est indépendant du rayon de courbure et qu'on peut faire tendre l'arc de cercle de O' vers un segment de droite.
    サニャック効果が、曲率半径からは独立しており、O' の弧を直線分に引き伸ばしてよいことを思い出しておこう。

    Dans ce cas, on devrait aussi considérer que pour R' la longueur des trajectoires n'est pas la même.
    この場合、R' については、軌跡の長さが同一にならないことも考慮する必要がある。

    Quel est l'équivalent du déplacement des miroirs par rapport à O' dans le cas de Sagnac ? En fait, les miroirs fixent la géométrie de la trajectoire des rayons lumineux. Dire que les miroirs changent ou que les trajectoires changent ou que la géométrie décrite par ces trajectoires change revient au même. Et le changement de géométrie a une cause physique évidente : l'accélération centripète. Dans le cas de Sagnac cela devrait donc se traduire par un changement dans la géométrie. Avec bien sûr une symétrie par rotation. C'est évidemment un peu plus compliqué à étudier qu'une situation linéaire avec deux miroirs.
    O' に対する鏡の移動は、サニャックの実験の場合において何に相当するのであろうか? 実際、鏡は光線の軌跡の幾何学的配置を固定している。鏡が変化するとか、軌跡が変化するとか、軌跡により描かれる幾何学的形状が変化するとかと言っても、同じことである。そして、幾何学的な変化には、一つの明らかな物理的原因がある。それは、求心性の加速である。サニャックの実験の場合、これが、幾何学的な変化として現われることになる。勿論、回転による対称性もある。2枚の鏡と直線的な状況よりも、考察がやや複雑になるのは当然である。


[[訳註:["rayon de courbure" "曲率半径"] で (実は、それどころか、["rayon de courbure" "曲率"] ででさえ) google 検索しても何もヒットしない... 当たりまえすぎる訣でもあるまいに。ただし、もし可能なら、現在リンク切れの "蒙日" (北京师范大学 赵擎寰) の google キャッシュを参照。]]

Résultats expérimentaux récents
Au lieu de mesurer la vitesse apparente des signaux, on peut tenter de mesurer la vitesse de la lumière localement, directement. Comme on le fait sans rotation.
最近の実験結果
信号の見かけの速度を測定する代わりに、無回転における測定と同様に、光の速度を局所的に直接測定することもできる。

[[訳註:"directement. Comme" は "directement comme" としたほうが良かろう。]]

Des expériences ont en effet été menées afin de déterminer s'il y avait une anisotropie dans un repère en rotation. En voici quelques-unes effectuées de différentes manières (sources et récepteurs en rotation ou immobiles, mesures sur un aller simple ou un aller-retour).
実際には、実験は、回転座標系に方向依存性が存在するかを決定するために行なわれた。以下、異なる様態 (回転する、又は、静止した光源及び受信器。片方向又は往復での測定) での実施例を掲げる。

  • Cialdea utilise deux laser multi-modes montés sur une table en rotation et regarde les variations de leur figure d'interférence lorsque la table est mise en rotation. Il obtient une limite supérieure à l'anisotropie de 0,9 m/s.
    キャルディア (Cialdea) は、回転する台上に据えられた2つの多モードレーザーを用いて、台の回転時での干渉形状の変化を観察した結果、方向依存性の上限が 0.9 m/s であることを得た。
  • Krisher utilise deux masers à hydrogène fixés au sol et séparés par un lien en fibre optique de 21 kilomètres et regarde les variations entre leur phase. Il obtient une limite supérieure à l'anisotropie de 100 m/s.
    クリシャ (Krisher) は、地表に設けられ、21 キロメートルの光ファイバの両端に結ばれた2つの水素メーザーを使って、その位相の変化を観察した結果、方向依存性の上限が 100 m/s であることを得た。
  • Champeney utilise un amortisseur de Moessbauer en rotation et un détecteur fixe pour donner une limite supérieure à l'anisotropie de 3 m/s.
    シャンパニ (Champeney) は、回転するメスバウアー分光器と固定検出器とを用いて、方向依存性の上限が 3 m/s であることを得た。
    [[訳註:"amortisseur de Moessbauer" は、そのまま訳したら「メスバウアー制動装置」ぐらいになるのかもしれないが、ここでは「メスバウアー分光器」とした。]]
  • Turner utilise une source en rotation et un détecteur de Moessbauer fixe pour donner une limite supérieure à l'anisotropie de 10 m/s.
    ターナー (Turner) は、回転する発光源と固定したメスバウアー検出器を用いて、方向依存性の上限が 10 m/s であることを得た。
  • Gagnon, Torr, Kolen, et Chang ont effectué un test de l'anisotropie avec un guide d'onde. Leurs résultats négatifs sont consistants avec la relativité restreinte.
    ガニョン (Gagnon)、トール (Torr)、コウルン (Kolen)、及びチャン (Chang) は、導波器で方向依存性の試験を行なった。その否定的な結果は、特殊相対論に合致するものであった。

Voir aussi
Articles connexes
以下も参照
関連記事

Bibliographie
Ouvrages généraux
文献
一般的著作


  • Jean Hladik, Pierre-Emmanuel Hladik, ''Le calcul tensoriel en physique'', 3ème édition Dunod. ISBN 2100040715, ISBN 2225846537, ISBN 2225841446

  • V. Ougarov, ''Théorie de la Relativité Restreinte'', Deuxième Edition, Editions Mir, Moscou. Traduction française Editions Mir, 1979.

  • Edgard Elbaz, ''Relativité Générale et Gravitation'', Editions Ellipses-Marketing, 1986, ISBN 2729886516 (épuisé)

  • Charles W.Misner, Kip S. Thorne et John Archibald Wheeler, ''Gravitation'', W.H. Freeman and Company, New York. ISBN 0716703440

Articles
論文

  • Sagnac M.G., C.R. Acad. Sci. Paris, 157, 708,1410 (1913)
  • Harres F., Ph.D. Thesis, University of Jena, Germany (1912)
  • Harzer P., Astron. Nachr., 199, 377 (1914)
  • Michelson A.A., Gale H.G., Astrophys. J., 61, 137 (1925)
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  • Vali V. and Shorthill R.W., Appl. Opt., 15, 1099 (1976)
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  • Turner and Hill, Phys. Rev. 134 (1964), B252.
  • Gagnon, Torr, Kolen, and Chang, Phys. Rev. A38 no. 4 (1988), p1767.
  • Anderson R., Bilger H.R. and Stedman G.E., Am. J. Phys., 62, 975 (1994).

Autres sources
その他

  • Bernard LINET,D.E.A. de Physique Théorique - Paris VI, Paris VII, Paris XI, ENS, X, 2003 - 2004, Notes de cours de Relativité Générale.

Liens externes
外部リンク

    関連記事 (本サイト内):
  1. nouse: 英語版ウィキペディア "Sagnac effect" 訳文
  2. nouse: ドイツ語版ウィキペディア "Sagnac-Interferometer" 訳文
  3. nouse: オランダ語版ウィキペディア "Sagnac-effect" 訳文
  4. nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出

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2007年9月 3日 (月)

ドイツ語版ウィキペディア "Sagnac-Interferometer" 訳文

以下はドイツ語版版ウィキペディア中の [サニャック干渉計] の項 [Sagnac-Interferometer (zuletzt am 31. Mai 2007 um 20:11 Uhr geandert)] の訳文であるただし、ドイツ語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない)。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。

Ein Sagnac-Interferometer ist ein Interferometer, das es ermöglicht, Rotationen absolut zu messen.
「サニャック干渉計」は、絶対的な回転運動の測定が可能な干渉計である。

Einführung
Nach der speziellen Relativitätstheorie können [[Geschwindigkeit]]en nur relativ zu einem anderen [[Bezugssystem]] gemessen werden. Bei Drehbewegungen ist dies jedoch anders. Rotationen können absolut gemessen werden.
導入部
特殊相対論によれば、座標系間の相対的な速度のみが測定可能である。しかし、回転運動の場合は異なる。回転は絶対的な測定が可能なのである。

Die älteste Methode zur absoluten Rotationsmessung ist das Foucault'sche Pendel, mit dem es erstmals gelang, die Rotation der Erde ohne Himmelsbeobachtungen zu messen und damit das heliozentrische Weltbild des Kopernikus zu bestätigen. Auch Kreiselkompasse funktionieren nach diesem Prinzip.
回転運動の絶対的測定を行なうため方法としては、古くは、フーコーの振り子があり、これにより初めて、天体観測を用いずに地球の自転を測定し、それによりコペルニクス地動説を立証することに成功した。ジャイロコンパスも、この原理で動作する。


Der Sagnac-Effekt
Ein weiterer Effekt wurde [[1913]] von [[Georges Sagnac]] (1869-1926) entdeckt. Er beobachtete, dass zwischen kohärentem Licht, das im Uhrzeigersinn, und Licht, das im Gegenuhrzeigersinn über Spiegel auf der selben Strecke im Kreis gelenkt wird, eine Phasenverschiebung auftritt, sobald man die gesamte Apparatur dreht. Er deutete diese Beobachtung als Nachweis der Existenz des Lichtäthers. Sie lässt sich jedoch auch im Rahmen der Relativitätstheorie erklären, wie weiter unten gezeigt wird.
サニャック効果
別の効果がジョルジュ・サニャック (Georges Sagnac 1869-1926) により1913年に発見された。サニャックは、鏡を使って、同一の行路を、干渉性のあるの一方が時計周りに進むようにし、他方が反時計回りに進むようにした装置全体を回転させると、即座に位相シフトが発生することを観測したのである。サニャックは、こうした観測事実は、エーテルの存在を証明するものだと考えた。しかし、この観測事実は、以下に示すように、相対論が解明した空間においても成立する。

1925 gelang es Albert Abraham Michelson und Henry G. Gale mit einem Interferometer von 613 m Länge und 339 m Breite nach diesem Prinzip die Rotation der Erde mit einer relativen Genauigkeit von 2% zu messen. Die relative Streifenverschiebung betrug 0,23. Um scharfe Interferenzstreifen zu erhalten, war der komplette Lichtweg auf 17 mbar evakuiert.
1925年、アルバート・アブラハム・マイケルソン (Albert Abraham Michelson) とヘンリー G, ゲイル (Henry G. Gale) は、この原理に従って、長さ 613 m、幅 339 m の干渉計を用い、相対誤差 2% の精度で地球の自転を測定するのに成功した。その縞の位置の相対的シフトは0.23だった。鮮明な干渉縞を得るために、光路全体が 17 mbar 迄減圧された。

Michelson und Gale erkannten bereits selbst korrekt, dass ihr Experiment keine Aussage über die Existenz des Äthers macht. Es lässt sich sowohl mit der Relativitätstheorie als auch mit dem Äther erklären.
マイケルソン及びゲイルは、彼らの実験結果がエーテルの実在を意味するものではないことを、既に自ら正しく認識していた。それは、相対論によってもエーテル理論によっても説明が可能だったのである。

Der Aufbau


Originalskizze von Georges Sagnac
ジョルジュ・サニャックによる元の概略図
Ein kohärentes Lichtbündel einer Quecksilberdampflampe O wird mit einem Strahlteiler j in zwei Teilstrahlen R und T aufgeteilt. Diese werden mit Hilfe von Spiegeln M1 bis M4 in entgegengesetzter Richtung im Kreis geführt und treffen an dem Strahlteiler wieder aufeinander. Das Interferenzmuster wird auf einem Schirm c beobachtet. Befindet sich die Anordnung in Ruhe, sind die Wege beider Strahlen gleich lang und in der Mitte des Schirms sieht man destruktive Interferenz, denn bei der Reflexion entsteht jeweils eine Phasenverschiebung von 90°, was bei dem im Bild gegen den Uhrzeigersinn laufendem Strahl eine Phasenverschiebung von 180° gegenüber dem im Uhrzeigersinn laufenden Strahl ergibt. Wird nun aber der ganze Aufbau um eine Achse senkrecht zur Strahlebene gedreht, ist der optische Weg für beide Teilstrahlen nicht mehr gleich lang, da sich in der Zeit, die das Licht für einen Umlauf benötigt, der Strahlteiler bereits ein Stück weiter gedreht hat. Dadurch sieht man eine Verschiebung der Interferenzstreifen.
構造
水銀灯 O から発せられた干渉性のある光束は、ビームスプリッター j により2本の部分光束 R 及び T に分割される。これらの部分光束は、鏡 M1 から M4 によって、環状をなすようにして逆向きに案内されて、ビームスプリッターの位置で再び出会い、スクリーン c 上に、干渉パターンが観測される。この構成が静止している場合、2本の光束の長さは同じになり、スクリーン中央で相殺的干渉が現われていたら、反射毎に位相が 90 度ズレることで、結像において、反時計回りに進んだ光束が、時計まわりに進んだ光束に対して 180度の位相ズレを有するようになっていると云うことである。しかし、この構造全体を、光路面に対し垂直な或る軸を中心にして回転させると、2本の部分光束の光路の長さが一致しなくなってしまう。これは、光が一周するのにかかる時間の間に、ビームスプリッターが少しだけ更に回転してしまっているからである。このために、干渉縞にシフトが生じる。

Theorie
In jedem Inertialsystem breitet sich Licht mit konstanter Geschwindigkeit c aus. Im Folgenden ist das Inertialsystem das Bezugssystem, und das Interferometer dreht sich. Licht läuft auf einer beliebig geformten geschlossenen Bahn der Länge l um. Es wird entsprechend durch Spiegel abgelenkt. Die Zeit, die das Licht benötigt, um die Strecke dl zurückzulegen, beträgt

理論
全ての慣性系で、光は、一定速度 c で伝播する。以下の記述では、慣性系であるのは座標系であり、干渉計は回転している。光は、長さ l である任意に形成された閉路を巡っている。光は、鏡により、適宜に方向を変えられているのである。光が、道のり dl を進むのに要する時間は、

である。

Während dieser Zeit dreht sich die Apparatur um den Winkel . Das Licht muss also unter der Annahme in Tangentialrichtung ein um

längeres bzw. kürzeres Wegstück zurücklegen. (r ist nicht der Abstand zwischen der Drehachse und dem Streckenstück dl, sondern der Abstand zwischen der Drehachse und der an dl anliegenden Tangente. ist daher die in Tangentialrichtung zeigende Komponente der Rotationsgeschwindigkeit.) Für den kompletten Umlauf ergibt sich also
,
wobei A die vom Strahlengang eingeschlossene Fläche ist. Die Differenz der Strecken, die die beiden umlaufenden Lichtwellen zurücklegen müssen, beträgt 2x. Die relative Streifenverschiebung ist damit

この時間の間に、装置は、角度 だけ回転する。ここで、 と云う仮定が成り立っているなら、光は、接線方向に

だけ長いか或いは短かいかする区間を進むことになる。(ただし 、r は、回転軸と区間 dl との間の距離ではなくて、回転軸と dl に接する接線との間の距離である。従って、 は、回転速度の接線方向成分である)。従って、一周全体では、次の式が得られる

ただし、ここで A は、光線の軌跡に囲まれた面積である。2本の周回光波が進行しなければならない道のりの差は、2x であるから、相対的な干渉縞シフトは、

となる。

Auf diese Art und Weise lassen sich allerdings mit realistischen Werten nur relativ schnelle Rotationen messen. Bei einer Fläche A = 1 m2 (in der Skizze mit S bezeichnet) und einer Wellenlänge λ = 633 nm benötigt man eine Winkelgeschwindigkeit Ω von 227 Umdrehungen pro Minute, um von maximalem Signal zu Auslöschung (Δ = 1/2) zu wechseln.
このような技術は、「比較的早い」程度の速度の測定法としては確実に実用性に堪える。面積 A = 1 m2 (概略図中では S で示されている) で、波長 λ = 633 nm なら、最大信号を消光に変えるには (Δ = 1/2)、毎分 227 回転の角速度 Ω が必要である。

[[訳註:{((1/2)/4)*(633*10-9)*(3*108}/{(2*3.14)*60}=226.79 (rpm)]]

Literatur
文献


  • Georges Sagnac: ''L'ether lumineux demontre par l'effet du vent relatif d'ether dans un interferometre en rotation uniforme'', in: ''Comptes Rendus'' 157 (1913), S. 708-710

  • Georges Sagnac: ''Sur la preuve de la réalité de l'éther lumineux par l'expérience de l'interférographe tournant'', in: ''Comptes Rendus'' 157 (1913), S. 1410-1413

  • Albert Abraham Michelson, Henry G. Gale: ''The Effect of the Earth's Rotation on the Velocity of Light'', in: ''The Astrophysical Journal'' 61 (1925), S. 140-145

Siehe auch:
Faserkreisel, Ringlaser
参照:
"Faserkreisel" 及び "Ringlaser"

    関連記事 (本サイト内):
  1. nouse: 英語版ウィキペディア "Sagnac effect" 訳文
  2. nouse: フランス語版ウィキペディア "Effet Sagnac" 訳文
  3. nouse: オランダ語版ウィキペディア "Sagnac-effect" 訳文
  4. nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出

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2007年9月 1日 (土)

英語版ウィキペディア "Sagnac effect" 訳文

以下は英語版ウィキペディア中の [サニャック効果] の項 [Sagnac effect (last modified 20:57, 27 June 2007)] の訳文である (ただし、英語版でのカテゴリ等、編集上のタグは原則として採用していない)。なお、訳文部分の著作権は、原文と同様 [GNU Free Documentation License] に従う。


Schematic representation of a Sagnac interferometer.
サニャック干渉計の模式図
The Sagnac effect (also called Sagnac Interference), named after French physicist Georges Sagnac, is a phenomenon encountered in interferometry that is elicited by rotation. The Sagnac effect manifests itself in a setup called ring interferometry. A beam of light is split and the two beams are made to follow a trajectory in opposite directions. To act as a ring the trajectory must enclose an area. On return to the point of entry the light is allowed to exit the apparatus in such a way that an interference pattern is obtained. The position of the interference fringes is dependent on the angular velocity of the setup. This arrangement is also called a Sagnac interferometer.
「サニャック効果」(「サニャック干渉」とも云う) は、回転が干渉計に引き起こす現象であって、フランスの物理学者ジョルジュ・サニャック (Georges Sagnac) に因んで命名された。サニャック効果は、リング干渉計と呼ばれる構成で発生する。リング干渉計では、一本の光ビームから分岐されて出来た2本のビームが軌跡を逆方向に進むようにされるが、この軌跡は、「環」として働くべく、或る領域を取り囲むようにされている必要がある。入射点に戻ってきた光は、干渉パターンが得られるような仕方で、装置外に取り出される。干渉縞の位置は、装置の角速度に依存する。このような構成は、サニャック干渉計とも呼ばれる。

Usually several mirrors are used, so that the lightbeams follow a triangular or square trajectory. Fiber optics can also be employed to guide the light. The ring interferometer is located on a platform that can rotate. When the platform is rotating the lines of the interference pattern are displaced as compared to the position of the interference pattern when the platform is not rotating. The amount of displacement is proportional to the angular velocity of the rotating platform. The axis of rotation does not have to be inside the enclosed area.
通常は何枚かの鏡で、光のビームが三角形又は正方形の軌跡を辿るようにされる。光ファイバを使って、光を案内するようにすることもできる。リング干渉計は、回転可能な架台に設置される。架台の回転中は、干渉パターンの線は、架台が回転していない際の干渉パターンの位置から偏移する。偏移量は、回転架台の角速度に比例する。回転軸は、軌跡で囲まれた領域内になくても良い。

When the platform is rotating, the point of entry/exit moves during the transit time of the light. So one beam has covered less distance than the other beam. This creates the shift in the interference pattern. Therefore, the interference pattern obtained at each angular velocity of the platform features a different phase-shift particular to that angular velocity.
架台が回転していると、入射点/出射点は、光が通過している間に移動する。従って、一方のビームの通過距離は、他方のビームの通過距離より短くなる。これが、干渉縞にシフトが起こる原因である。このため、架台の角速度を夫々に変えて得られた干渉パターンは、その角速度毎に異なる特有の位相シフトを示すものとなる。

In the above discussion, the rotation mentioned is rotation with respect to an inertial reference frame. Since this experiment does not involve a relativistic velocity, the same wording is valid both in the context of classical electrodynamics and special relativity.
上述の議論において、使われた用語「回転」は、慣性基準系に対する回転である。この実験は、相対論的速度に関与しないから、古典的電気力学の文脈と、特殊相対論の文脈の双方で、用語の使い方を同じにできる。

The Sagnac effect is the electromagnetic counterpart of the mechanics of rotation. A gimbal mounted gyroscope remains pointing in the same direction after spinning up, and thus can be used as the reference for an inertial guidance system. A Sagnac interferometer measures its own angular velocity with respect to the local inertial frame, hence just as a gyroscope it can provide the reference for an inertial guidance system.
サニャック効果は、回転の力学に対応する、謂わば「回転の電磁気学」に属する。ジャイロスコープが回転しだすと、ジャイロスコープに取り付けられたジンバル (常平架) は、同一方向に向き続けるため、慣性誘導システムにおける基準装置として利用することができる。サニャック干渉計は、局所慣性系に対する自己の角速度を測定するので、ジャイロスコープと全く同様に、慣性誘導システムの基準装置となることができる。

Interferometry with Ring lasers
The type of ring interferometer that was described in the opening section is sometimes called a 'passive ring interferometer'. A passive ring interferometer uses light entering the setup from outside. The interference pattern that is obtained is a fringe pattern, and what is measured is a phase shift.
リング・レーザーでの干渉
上述した種類のリング干渉計は、「受動型リング干渉計」と呼ばれることがある。受動型リング干渉計は、外部から装置に入射してくる光を利用する。その結果得られる干渉パターンは、縞模様であり、測定されるのは位相シフトである。


Schematic representation of a ring laser setup. At the beam sampling location, a fraction of each of the counterpropagating beams exits the laser cavity.
リング・レーザー装置の模式図。ビーム検出位置において、逆方向に進行してきたビームのそれぞれから、一部がレーザー共振器外に出てくる。
It is also possible to construct a ring interferometer that is self-contained, based on a completely different arrangement. The light is generated and sustained by incorporating laser excitation at some point in the ring-shaped path of the light. The ring-shaped laser cavity is enclosed, and the lasing medium must not come in contact with outside air. This setup is called a ''ring laser''.
全く別の構成法で、一体型のリング干渉計を作ることもできる。それは、環状光路の何処かでレーザー励起を組み込むことで、レーザー光の発生と維持とを行なうようにするものである。環状のレーザー共振器が、封止されて、レーザー励起媒質が外気と接触しえないようになっている。この構成は「リング・レーザー」と呼ばれる。

[[訳註:"lasing medium" には、「レイジング媒質」と云う訳語がある。しかし、残念ながら "laser" には「レーザー」と云う訳語が固定的に普及してしまっているので、私としては「レジング」は使いたくない。「レーザー励起媒質」とした由縁である。]]

To understand what happens in a ring laser cavity, it is helpful to discuss the physics of the laser process in a laser setup with continuous generation of light. As the laser excitation is started, the atoms or molecules inside the cavity emit photons, but since the atoms have a thermal velocity, the light inside the laser cavity is at first a range of frequencies, corresponding to the statistical distribution of velocities. The process of stimulated emission makes one frequency quickly outcompete other frequencies, and after that the light is extremely close to monochromatic.
リング・レーザー発振器の動作を理解するには、光の連続発振を行なうレーザー装置におけるレーザー発生の物理を議論するのが有効である。レーザー励起が開始すると、発信器中の原子又は分子は、フォトンを発生するが、原子は熱運動を行なっているので、レーザー発振器内の光の周波数には、当初、原子の熱速度の統計分布に対応する幅があるのだが、励起放射が進むと、或る周波数が他の周波数を急速に圧倒して、その後は、ほぼ、その光による単色光になるのである。


The red and blue dots represent counter-propagating photons, the grey dots represent molecules in the laser cavity.
赤の点及び青の点は、逆方向に進行するフォトンを表わす。灰色の点は、レーザー発振器内の分子を表わす。
When a ring laser is rotating, the laser process generates two frequencies of laser light.
リング・レーザーが回転していると、2つの周波数のレーザー光が発生する。

In every section of the ring laser cavity, the light propagates with the same velocity in either direction. For the sake of simplicity, assume that all emitted photons are emitted in a direction parallel to the ring. (That is in fact a huge simplification, but it does not affect the content of this exposition.) The atoms in the laser cavity, represented as grey dots in the animation, have a thermal velocity, and on average they have a velocity in counter-clockwise direction along the ring. The molecules in the laser cavity can be seen as resonators. A passing photon will stimulate emission of the excited molecule only if the frequency of the passing photon exactly matches the frequency of the photon that the molecule is ready to emit.
リング・レーザー共振器の各区画では、光は、それぞれの方向に同一の速度で進行する。単純化のため、発生したフォトンの全てが、リングと並行するように放射されるとしておこう。(確かに、これは極端な単純化だが、本稿の内容には影響しない。) レーザー発振器内の原子 (アニメ中では灰色の点で表わされている) は熱運動をしているが、平均すると、リングに沿った反時計回りの速度を有する。レーザー発振器内の分子は、共振子とみなせる。通過するフォトンが、励起分子の光放出を促すのは、通過フォトンの周波数が、分子が放出しようとしているフォトンの周波数に正確に一致する場合のみである。

[[訳註:始め "(the) atoms in the laser cavity" と言っていたのに、後では "(the) molecules in the laser cavity" になっているが、そのママ訳しておく。誤解は起こらないだろうし、また、いちいち「原子又は分子」とすると、文章が散らかって可読性が落ちると思う。]]

A photon that is emitted in counter-clockwise direction is on average Doppler-shifted to a higher frequency, a photon that is emitted in clockwise direction is on average Doppler-shifted to a lower frequency. The upwards Doppler-shifted photons are more likely to stimulate emission on interaction with molecules that they "catch up with", the downwards shifted photons are more likely to stimulate emission on interaction with molecules that they meet "head on". Seen in this way, the fact that the ring laser generates two frequencies of laserlight is a direct consequence of the fact that everywhere along the ring the velocity of light is the same in both directions. The constancy of the speed of light acts as a constant background, and the molecules inside the laser cavity have a certain velocity with respect to that background. This constant background is referred to as inertial space.
反時計回りに放射されたフォトンは、平均すると、高い方の周波数にドップラーシフトされており、時計周り方向に放射されたフォトンは、平均すると、低い方の周波数にドップラーシフトされている。高周波数方向にドップラーシフトされたフォトンは、そうしたフォトンが「追いついた」分子と相互作用して光放射を促す傾向があり、低周波数方向にドップラーシフトされたフォトンは、そうしたフォトンが「鉢合わせした」分子と相互作用して光放射を促す傾向がある。このことから、リング・レーザーが2つの周波数のレーザー光を発生するのは、リングの何処においても、2つの方向の光の速度が同一であることの直接的結果であると云うことが分かる。光の速度が一定であると云うことが、定常的な背景として働き、レーザー共振器内の分子が有する速度とは、この背景に対してものなのである。この定まっている背景を、慣性空間と呼ぶ。

The laser light that is generated is sampled by causing a fraction of the light to exit the laser cavity. By bringing the two frequencies of laserlight to interference a beat frequency is obtained; the beat frequency is the difference between the two frequencies. This beat frequency can be thought of as an interference pattern in time. (The more familiar interference fringes of interferometry are a spatial pattern). The period of this beat frequency is linearly proportional to the angular velocity of the ring laser with respect to inertial space.
発生したレーザー光は、その一部がレーザー発振器外に出るような形で取り出される。2つの周波数のレーザー光を干渉させると、そうした2つの周波数の差の周波数である「うなり周波数」 (「ビート周波数」) が得られる。この「うなり周波数」は、時間的な干渉パターンと看做される。(干渉計における干渉縞の方がヨリ知られている訣だが、これは、空間的なパターンである。) この「うなり周波数」の周期は、慣性空間に対するリング・レーザーの角速度に正比例する。

In the case of ring laser interferometry there is no need for calibration. (In a sense one might say that the process is self-calibrating). The beat frequency will be zero if and only if the ring laser setup is non-rotating with respect to inertial space.
リング・レーザー干渉計においては較正は不用である。(自己較正を行なっていると言うこともできるだろう。) 「うなり周波数」は、リング・レーザー装置が慣性空間に対して回転しないない時には、そして回転していない時だけに、ゼロとなる。

Lock-in
Because of the way the laser light is generated, light in laser cavities has a strong tendency to be monochromatic (and usually that is precisely what laser apparatus designers want). This tendency to not split in two frequencies is called 'lock-in'. The ring laser devices incorporated in navigational instruments (to serve as a ring laser gyroscope) are generally too small to go out of lock spontaneously. By "dithering" the gyro through a small angle at a high audio frequency rate, going out of lock is ensured.
拘束
レーザー光の発生の仕方から当然のことだが、レーザー共振器内で、光は単色光となる強い傾向性がある(そして、通常、その単色光は、レーザー装置設計者の望んでいるものと正確に一致する)。この、2つの周波数に分裂しようとしない傾向は、「拘束」と表現される。航行案内機器内に組み込まれてた (リング・レーザー・ジャイロスコープとして働く) リング・レーザー装置は、自発的な拘束抜け出しが起こるには、通常小さすぎる。ジャイロを、可聴高音周波数で僅かの角度「ディザリング」(振動) させることで、拘束からの離脱を確実にしている。

[[訳註:"Lock-in" は拘束と訳した。一般的には、和文脈中でも "Lock-in" そのママで使われたり、「ロックイン」とカタカナ化されているようだ。]]


The red and blue dots represent counter-propagating signals, the grey dots represent stations along the way.
赤の点及び青の点は、逆方向に進行する信号を表わす。灰色の点は、進行路中の基地を表わす。
Synchronisation procedures
The procedures for synchronizing clocks all over the globe must take the rotation of the Earth into account. The signals used for the synchronizing procedure can be in the form of electric pulses conducted in electic wires, they can be lightpulses conducted in fiber optic cables, or they can be radio signals.
同期方法
時計を全世界的に同期するには、地球の回転を考慮に入れなければならない。同期に利用される信号は、電線中を伝わる電気パルスとすることも可能であるが、光ファイバケーブルを伝わる光パルスにすることも、あるいは、無線信号とすることもできる。

If a number of stations, situated on the equator, relay pulses to one another, will the time-keeping still match after the relay has circumnavigated the globe? One condition for handling the relay correctly is that the time it takes the signal to travel from one station to the next is taken into account each time. On a non-rotating planet that ensures fidelity: two time-disseminating relays, going full circle in opposite directions around the globe, will still match when they are compared at the end. However, on a rotating planet, it must also be taken into account that the receiver moves during the transit time of the signal, shortening or lengthening the transit time compared to what it would be in the situation of a non-rotating planet.
赤道上に設けられた幾つかの基地が、パルスをつぎつぎに伝えていく場合、伝えられる信号が地球を一周した後でも、計時が一致したままであるだろうか? 信号を正確に受け渡しする条件の一つは、ある基地から次の基地へ信号が伝搬するのにかかる時間が、毎回考慮に入れられていると云うことがある。回転してない惑星にあっては、それで正確性が担保される。 つまり、時間を知らせる2つの信号は、惑星の周囲を逆方向に一周した後でも、比べてみれば一致するのである。しかし、回転する惑星にあっては、信号の伝達時間の間に受信機が運動し、回転していない惑星の場合と比較して伝達にかかる時間が短くなったり長くなったりすることを考慮しなければならない。

It is recognized that the synchronisation of clocks and ring interferometry are related in a fundamental way. Therefore the necessity to take the rotation of the Earth into account in sychronisation procedures is also called the Sagnac effect.
時計の同期とリング干渉計とは、根本的な意味で関係があることが分かる。従って、同期の実行に地球の回転を考慮する必要性のことも、サニャック効果と呼ばれる。

History of the Sagnac Effect
The first to perform a ring interferometry experiment aimed at observing the correlation of angular velocity and phase-shift was performed by the Frenchman Georges Sagnac in 1913, which is why the effect is named for him. Its purpose was to detect "the effect of the relative motion of the ether". An experiment conducted in 1911 by Francis Harress, aimed at making measurements of Fresnel drag of light propagating through moving glass, was later recognized as actually constituting a Sagnac experiment. Harress had ascribed the "unexpected bias" to something else.
サニャック効果の歴史
角速度と位相シフトとの相関関係を観測する目的でリング干渉計の実験を行なったのは、フランス人のジョルジュ・サニャックで、1913年のことだった。これにより、,この効果には彼の名前が冠せられている。その目的は、「エーテルの相対的運動の効果」を検出すると云うものだった。1911年に、フランシス・ハレス (Francis Harress) が、運動するガラスを通過する光の「フレネル (Fresnel) ドラッグ」を測定する目的で行なった実験が、実際にはサニャックが行なったものと同じ実験になっていたことが、後になって分かったが、ハレスは、「予想外の偏移」の原因を別のものに帰していたのだった。

[[訳註:"Francis Harress" の「読み」が分からない。一応「フランシス・ハレス」としておく。]]

In 1926 a very ambitious ring interferometry experiment was set up by Albert Michelson and Henry Gale. The aim was to find out whether the rotation of the Earth has an effect on the propagation of light in the vicinity of the Earth. The Michelson-Gale experiment was a very large ring interferometer, (a perimeter of 1.9 kilometer), large enough to detect the angular velocity of the Earth. The outcome of the experiment was that the angular velocity of the Earth as measured by astronomy was confirmed to within measuring accuracy. The ring interferometer of the Michelson-Gale experiment was not calibrated by comparison with an outside reference (which was not possible, because the setup was fixed to the Earth). From its design it could be deduced where the central interference fringe ought to be if there would be zero shift. The measured shift was 230 parts in 1000, with an accuracy of 5 parts in 1000. The predicted shift was 237 parts in 1000.
1926年に、アルバート・マイケルソンとヘンリー・ゲールとより、リング干渉計を用いる極めて野心的な実験が行なわれた。その目的は、地球の回転が地球近傍での光の伝播に対し影響を及ぼすかどうかを確認しようとするものであった。マイケルソン-ゲールの実験は、地球の角速度を検出するのに十分なほど非常に大きいリング干渉計 (周囲1.9㎞) を用いるものであった。実験の結果は、天体観測により測定されていた地球の角速度の正しさを、測定精度内で確認するものであった。マイケルソン-ゲールの実験で用いられたリング干渉計は、外部標準との比較による較正はされなかった (装置は地球に対して固定されていたので不可能だったのである) が、その設計から、シフトがゼロならば中央部干渉縞が現われる筈の位置は導かれていた。測定されたシフトは、1000 分の 230 であり、その精度は 1000 分の 5 であった。予想されてたいシフトは、1000 分の 237 であった。

Calculations
The Sagnac effect is not an artifact of the choice of reference frame. It is independent of the choice of reference frame, as is shown by a calculation that invokes the metric tensor for an observer at the axis of rotation of the ring interferometer and rotating with it yielding the same outcome. If one starts with the Minkowski metric and does the coordinate conversions and , the line element of the resultant metric is

where


  • t is proper time for the central observer,

  • r is distance from the center,

  • θ is the angular distance along the ring from the direction the central observer is facing,

  • z is the direction perpendicular to the plane of the ring, and

  • ω is the rate of rotation of the ring and the observer.

計算
サニャック効果は、基準系の選択によって生じる現象ではない。それは、基準系の選択とは独立しており、リング干渉計の回転軸にいて、ともに回転している観測者に関する計量テンソルを計算するなら同一の結果が得られることから分かる。もし、ミンコフスキー (Minkowski) 計量から初めて、これに 及び と云う座標変換を行なうならば、その結果として得られる計量の線素は

となる。ここで

  • t は、中心にいる観測者の固有時。

  • r は、中心からの距離。

  • θ は、中心の観測者の視線方向からの、リングに沿った角距離。

  • z は、リング平面に直交する方向。

  • ω は、リングと観測者の回転速度。

Under this metric, the speed of light tangent to the ring is c ± rω depending on whether the light is moving against or with the rotation of the ring. Note that only the case of ω = 0 is inertial. For ω ≠ 0 this frame of reference is non-inertial, which is why the speed of light at positions distant from the observer (at r = 0) can vary from c.
この計量に従えば、光のリング接線方向の速度は、光の進行方向がリング回転方向と逆向きであるかどうかに応じて c ± rω となる。ω = 0 の場合のみが慣性的であることに注意されたい。ω ≠ 0 である場合には、この基準系は非慣性的であり、このため、観測者 (r = 0) から離れた位置での光の速度は、c とは限らない。

Practical uses of the Sagnac Effect
The Sagnac Effect is employed in current technology. One use is in inertial guidance systems. Ring interferometers are extremely sensitive to rotations, which need to be accounted for if an inertial guidance system is to return correct results.
サニャック効果の応用
サニャック効果は、技術として実用されている。応用例の一つとしては、慣性誘導装置がある。リング干渉計の回転検出は極めて高感度であって、慣性誘導装置が正しい動作をしたとしたら、それはリング干渉計を使っているためとみなさねばならない。

The Global Positioning System needs to take the rotation of the Earth into account in the procedures of using radio signals to synchronize clocks.
グローバル・ポジショニング・システムでは、時計を同期する無線信号の処理に地球の回転を考慮する必要がある。

See also
関連記事

References
参考文献


  • G. Sagnac, Comptes Rendus de l'Academie des Sciences (Paris) 157, pp.708-710,1410-1413 (1913)

  • H. Ives, JOSA 28, pp.296-299 (1938)

External links
外部リンク


    関連記事 (本サイト内):
  1. nouse: ドイツ語版ウィキペディア "Sagnac-Interferometer" 訳文
  2. nouse: フランス語版ウィキペディア "Effet Sagnac" 訳文
  3. nouse: オランダ語版ウィキペディア "Sagnac-effect" 訳文
  4. nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出
  5. nouse: 英文版ウィキペディア "Born coordinates" 導入部、第1節-第3節翻訳草稿

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2007年8月 7日 (火)

"Inkscape tutorial: Tracing" 訳文 (再編集簡約版)

以下は、[nouse: "Inkscape tutorial: Tracing" 訳文] (2007年8月 1日 [水]) から、原英文を除去し、[訳註] も最小限にまで減らした (そのため、明示せずに訳者補綴を本文に織り込んだ部分や、ミセケチを実際に削除したところもある) ものである。


Inkscape 教程:トレース

Inkscape の特徴の一つは、ビットマップ・イメージをトレースして、SVG 描画用の <経路>要素にできることである。この短い文章は、読者がトレース機能を習得するのを助けるべく書かれたものである。

[[訳註:この翻訳文では、"path" は「経路」と訳されているが、"Inkscape for Windows" では「パス」となっている。]]

現在、Inkscape は、ピーター・セリンジャー (Peter Selinger) によるビットマップ・トレース・エンジンである「ポットレース (Potrace)」(potrace.sourceforge.net) を採用している。Inkscape は、将来、別のトレース・プログラムも利用できるようになると思われるが、現在のところは、この優れたツールは、我我の必要を補って余りあるものである。

トレース機能の目的は、元の画像の正確な複製を作り出すことにはないことに留意しておいていただきたい。それは、完成した製品を作り出すためのものでもない。如何なる自動的なトレース・プログラムにも、そのようなことは不可能である。トレース・プログラムから得られるのは、描画の際の資源として利用可能な、一まとまりの曲線なのである。

Potrace は、白黒2値のビットマップを解釈して、一まとまりの曲線を生成する。そうした Potrace のために、現在のところ、Inkscape には、3種類の入力フィルターが備えられていて、生の画像を Potrace が処理可能な形に変換している。

一般に、中間生成ビットマップにおいて、黒ピクセルが多い方が、Potrace は、多くのトレースを行なう。トレース量が増加すると、必要な CPU 時間が増大し、<経路>要素が、非常に大きくなる。まず明るめの中間生成画像で試しにトレースを行なってみた後、出力される経路の割合及び細かさが所要のものとなるまで、少しづつ暗くしていくことをお薦めする。

トレース・プログラムを利用するには、画像をロード又はインポートし、選択してから、項目 経路 > ビットマップをトレース を選択するか、Shift+Alt+B を押せば良い。

[[訳註:原英文で表示されているダイアログの画像は、英語版 Inkscape (恐らく古いヴァージョン) から得られたものであるので、(私が持っている) "Inkscape for Windows" で対応する「タブ」のキャプチャ画像で差し替えた。]]

An example image

見ての通り、3種類のフィルター・オプションが利用可能である:



  • 明度の閾値 [[訳註:"Inkscape for Windows" では、「明るさの境界」が対応すると思われる。]]

このフィルターでは、単にピクセルの赤色・緑色・青色の和 (つまり「階調」) でもって、そのピクセルを黒と認定すべきか、白と認定すべきかの指標とするものである。その閾値は、0.0 (黒) から 1.0 (白) までが設定できる。閾値設定を高くすれば、「白」と認定されるピクセルの数は少なくなり、中間生成画像は暗くなる。

An example image



  • 最適化エッジ検出 [[訳註:"Inkscape for Windows" では、「エッジ検出」が対応すると思われる。]]

このフィルターでは、J. キャニー (J. Canny) が考案したエッジ検出アルゴリズムを、類似コントラストの等傾線を迅速に発見する手段として採用している。これにより得られる中間生成ビットマップは、「明度の閾値」処理により得られる中間生成ビットマップと比べると、元の画像に似ていないが、他の方法では無視されがちな曲線情報が得られる可能性が高い。このフィルターでの閾値設定 (0.0 – 1.0) に従って、コントラスト・エッジに隣接するピクセルを出力中に含めるかどうかと云う調整が明度の閾値に対して行なわれる。この設定をするなら、出力におけるエッジの「濃さ」つまり太さが調整される。

An example image



  • 色の量子化

このフィルターの出力結果の中間生成画像は、上記の2つのフィルターのものとは非常に異なっているものの、実際非常に有用である。明度又はコントラストの等傾線を示す代わりに、このフィルターは、明度やコントラストが等しい場合であっても、色が変化するエッジを探し出す。このフィルターで設定されるのは、もし中間生成ビットマップに色を付けたとしたのなら何種類の色が出力されることになるのかを示す「色数」である。その上で、その色の指数が奇数であるか偶数であるかに応じて黒か白かが決定される。

An example image

3種類のフィルターを全て試してみて、様ざまな入力画像に対し、様ざまな種類の出力が得られることを見られたい。他のフィルターに比べて、あるフィルターが最も良く働くと云う画像が必ずあるであろう。

トレース作成後、出力された経路に対し 経路 > 簡略化 (Ctrl+L) を適用してみて、ノード数を減らすこともお薦めする。それにより、Potrace の出力は、非常に編集しやすいものになりうる。例えば、下図は「老いたるギター弾き」(パブロ・ピカソ 1903/1904年) をトレースしたものの典型例である:

An example image

膨大な数のノードが経路中にあることに注意されたい[[訳註:この訳文中の図面ではノードは表示されない]]。Ctrl+L を打った後の典型的な結果は、以下のようになる:

An example image

表示は、幾らか近似的で粗くなっているが、描画は大幅に単純化されて、編集がしやすくなっている。必要なのは、正確な画像の実現ではなく、描画を行なう際に利用できる一まとまりの曲線だと云うことを心に留意していただきたい。

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"Inkscape tutorial:Shapes" 訳文 (再編集簡約版)

以下は、[nouse: "Inkscape tutorial:Shapes" 訳文] (2007年7月31日 [火]) から、原英文を除去し、[訳註] も最小限にまで減らした (そのため、明示せずに訳者補綴を本文に織り込んだ部分や、ミセケチを実際に削除したところもある) ものである。


Inkscape tutorial:Shapes

本教程では、「矩形」と「楕円」と「星形」と「螺旋」との4種類の造形ツールを扱う。以下、Inkscape の造形機能を実際に見ていただき、それらが、どのような場合に、どのようにして、使いうるものなのかと云う実例を示す。


Inkscape には、4つの多機能造形ツールがあるが、それぞれが固有の種類の図形を担当して作成・編集する。図形は、ドラッグ可能なハンドルと、図形の外観を決定する数値パラメータとを用いて、その図形の種類に特有な方法で修正することができるオブジェクトである。

例えば、星形では、その芒の数、長さ、角度、丸め等を変えることができるが、それでも星形は星形のままである。図形は、単なる経路よりも「自由度に低い」が、ヨリ面白く有用であることが多い。図形は常に経路へと変換可能であるが (Ctrl+Shift+C)、その逆変換は不可能である。

Inkscape の造形ツールは、矩形楕円星形螺旋の4種類である。まず、造形ツールの一般的な働き方を見ることにしよう。次いで、それぞれの種類の図形に就いて詳細に述べることにする。


一般的事項

新規の図形は、対応するツールでキャンバス上を ドラッグ することで作成される。図形が作成されると (そして、選択されている間は)、そこには白抜きの小さい矩形のハンドルが表示されているので、そのまま、こうしたハンドルをドラッグして、作成された図形の編集が可能である。

4種類の図形どれを、4種類の造形ツール又はノード・ツール (F2) のどれで見ても、そのハンドルが表示される。マウスポインタをハンドル上にかさねると、そのハンドルを単純にドラッグしたり、或いは様ざまな修飾キー (Shift, Ctrl, Alt) を押した状態でそのハンドルをドラッグ又はクリックすると何が起こるのかが、ステータスバーに表示される。

また、各造形ツールのパラメータが、(キャンバス上方に横方向に伸びている) ツール制御バーに表示される。通常、そこには数値入力フィールドと、そうした数値をデフォルト値にリセットするボタンが並んでいる。その時点で使われているツールの本来の対象図形が選択されている場合には、ツール制御バー中の数値を編集すると、選択されている図形が変化する。

ツール制御バーでの変化は全て記憶され、そのツールで描画される次のオブジェクトに適用される。例えば、星形の芒数を変えると、その後、新規に描画される星形は、やはりこの芒数になる。更に、単に或る図形を選択しただけでも、そのパラメータがツール制御バーに送られるため、新規に作成される同一種の図形のパラメータは、そのように設定されることになる。

造形ツール利用中は、オブジェクトの選択は、そのオブジェクトを クリック すれば行なえる。Ctrl+クリック (グループ内部でのオブジェクト選択) 及び Alt+クリック (背面にあるオブジェクトの選択) も、セレクタ・ツールにおけるのと同様に行なえる。Esc キーを押すと、選択が解除される。

[[訳註:少なくとも私が使っている "Inkscape for Windows" では、グループ内部のオブジェクトを、造形ツール (どの造形ツールでもかまわない) で クリック しても Ctrl+クリック しても、同じくそのオブジェクトだけが選択される。つまり、Ctrl+クリック に独立した意味はないようだ。この点は、クリック ではグループ全体が選択され、Ctrl+クリック ではポイントされたオブジェクトのみが選択されるセレクタと異なっている。]]


矩形

矩形は、デザイン及びイラストレーションにおいて、最も単純であり、かつ恐らく最も有りがちな図形である。Inkscape では、矩形の作成・編集をできる限り容易且つ便利に行なえるように努められている。

矩形ツールへの切り替えは、F4 を押したり、ツールバーの矩形ツール・ボタンをクリックすると行なわれる。

An example image

矩形描画用ショートカット:

  • Ctrl が押されていると、正方形か、縦横長が整数比 (2:1, 3:1 等) の長方形が描かれる。
  • Shift が押されていると、ドラッグし始めた点を中心として矩形を描画する。

実例を見れば分かるように、選択されている矩形 (描画されたばかりの矩形は必ず選択されている) は、その3つの角に3個のハンドルが表示されている。実際には、ハンドルは4つあるのだが、矩形が丸められていない限り、その内の2個は (右上の角で) 重なっているのである。これらの2個のハンドルは、丸めハンドルであり、他の2個 (左上と右下) はサイズ変更ハンドルである。

まず、丸めハンドルを見てみよう。丸めハンドルの一方を下方へドラッグすると、矩形の4つの角の全てが丸められ、2つ目の丸めハンドル (角にある当初の位置に留まっている) が見えるようになる。角を(真)円形に丸めたいのなら、すべきことはこれだけで良い。もし、角の一方の辺での丸めの方が他方の辺での丸めより強いようにしたいなら、2番目のハンドルを左側に移動させれば良い。

下図では、左の2つの矩形の角に(真)円形丸めが付けられており、残りの2つの矩形の角には、角に楕円丸めが付けられている。

An example image

大抵の場合、作図全体を通じて、矩形の寸法が色色あったとしても、丸めが付けられている角の半径及び形状は一定でなければならない (さまざまな大きさの丸めが付いたボックスからなる図表を考えてみていただきたい)。Inkscape では、これが簡単にできる。セレクタ・ツールに切り替えると、そのツール制御バー右端には4つのトグル・ボタンからなる一画があるが、そのうちの左から2番目は、2個の同心的な丸めが付いた角が示されている。これが、矩形が拡大・縮小された際に丸め付き角を拡大・縮小するかどうかを決めるボタンである。

例えば、下図は、本来の赤い矩形を複製し、「丸め付き角も拡大・縮小」ボタンを押さずに、様ざまな縦横比で、何度か拡大及び縮小して作ったものである。

An example image

全ての矩形で、丸め付き角の寸法及び形状が同一であるため、それらが集まる右上角では、丸めが正確に一致することに注意されたい。全ての青い破線矩形は、元の赤い矩形を、丸めハンドルの再調整を全くしないまま、セレクタにより拡大・縮小して得られたものである。

比較のため、下に、構成は同一であるが、「丸め付き角も拡大・縮小」ボタンを押して作成したものを示す。

An example image

矩形が異なると、その丸め付き角も異なっていることと、右上角で、僅かにズレが生じていることに注意されたい。これと (視覚的に) 同じことが、元の矩形を経路変換し (Ctrl+Shift+C)、経路として拡大・縮小した時にも起こる。

以下は、矩形の丸めハンドルに対するショートカットである:

  • Ctrl を押しながらドラッグすると、他方の半径が同一になる (丸めが真円形になる)。
  • Ctrl+クリック すると、ドラッグしなくても、他方の半径が同一になる。
  • Shift+クリック では、丸めが除去される。

気が付かれているかもしれないが、矩形ツール制御バーには、選択されている矩形の水平方向丸め半径 (Rx) 及び垂直方向丸め半径 (Ry) が表示されており、任意の長さ単位を使って、その値を正確に指定できる。丸めなしボタンは、その名の通り、選択されている矩形 (複数可) から丸めを除去する。

こうした制御手段の重要な利点は、多数の矩形を一度に扱えると云うことである。例えば、レイヤ中の全ての矩形を変更したい場合、Ctrl+A (全て選択) してから、制御バー中の所要のパラメータを設定しさえすればよい。矩形でないオブジェクトが選択されていても、それらは無視され、矩形のみが変化する。

次は、矩形の寸法変更ハンドルである。セレクタでも矩形の寸法変更が可能なのに、そのようなことをする必要が一体あるのかと思われる方がいるかもしれない。

セレクタの問題点は、「水平」及び「垂直」と云う方向の概念が、常に文書のページに対するものであることなのである。これに対し、矩形の寸法変更ハンドルでは、矩形が回転していたり、歪んでいたりしても、その矩形の辺に沿って拡大・縮小が行なわれる。

An example image

寸法変更ハンドルは2個あるので、矩形は如何なる方向にでも、寸法変更が可能である (寸法変更ハンドルは、矩形の辺に沿う方向でさえも動かすことができる)。方向ハンドルを動かしても、丸め半径は維持される。

[[訳註:後の方のセンテンスには、補足が必要だろう。寸法変更ハンドルが、丸めハンドルに接近しすぎると (つまり、どちらかの辺の長さを狭めすぎると)、丸め半径は維持しきれなくなって、減少する。あたかも、丸めハンドルが、寸法変更ハンドルにより押し退かされるようにして、動くのである。]]

以下は、寸法変更ハンドルに対するショートカットである。

  • Ctrl を押したままドラッグすると、寸法変更ハンドルのドラッグ方向が、矩形の辺方向又は対角線方向に仮止めされる。つまり、Ctrl が押されていると、矩形の幅、高さ、縦横比 (この場合も、回転又は歪んでいることがありうる独自の座標系においての話である) のうちの何れかが維持される。

以下に、上に示したのと同じ矩形に加えて、Ctrl を押しながらドラッグするとハンドルが貼りつく方向を破線で示した図である。

An example image

矩形を平行四辺形に潰したり、回転させたりしてから、複製し、寸法変更ハンドルで寸法を変更することで、立体的な構成を容易に形成することができる:

An example image

更に、下図は、丸め及びグラデーション付き塗り潰しをした矩形構成の例である:

An example image


楕円

楕円ツール (F5) では、楕円と円とを作成することができる。また、こうした楕円と円からは、扇形や弧を作ることができる。描画におけるショートカットは、矩形ツールの時と同様:

  • Ctrl が押されていると、円か、整数比 (2:1, 3:1 等) の楕円が描かれる。
  • Shift が押されていると、ドラッグし始めた点を中心として描画する。

楕円のハンドルに就いて説明しよう。

An example image

楕円を選択すると、矩形の場合と同じように、当初は3個のハンドルが見えるが、実際にはハンドルは4個ある。右端に現われるハンドルは、楕円を「開く」ための2個のハンドルが重なっているのである。そうした右端に現われるハンドルをドラッグしてから、その下から現われるの他方のハンドルをドラッグすると、円グラフで見られるような扇形や、あるいは弧が色色作られる。

An example image

扇形 (弧と2本の半径) にするには、楕円の外側をドラッグすれば良い。にするには、楕円の内側をドラッグすれば良い。上図には、左半分に4個の扇形があり、右半分には3個の弧がある。弧は図形として閉ぢていない、つまり、運筆は楕円に沿って進んでいるだけで、弧の両端間の「弦」部分には存在しないことに、注意されたい。このことは、塗り潰しを除去して運筆だけを残すと、良くわかる:

An example image

上図の左側は、狭い扇形があつまって正に扇子のようになっている部分に注意されたい。これは、Ctrl を押すことで、ハンドルを一定角刻みで仮止めすれば簡単に作成できる。以下は、弧/扇形ハンドル用のショートカットである:

  • Ctrl が押された状態でドラッグすると、ハンドルが15度刻みで仮止めされる。
  • Shift+クリック すると、楕円全体が現われる (弧で扇形でもなくなる)。

仮止めで刻まれる角度は、Inkscape の「ユーザー設定」(の刻み値タブ) において変更することが可能である。

[[訳註:この翻訳文では "Inkscape Preferences" は 「Inkscape の『ユーザー設定』」、"Steps" は「刻み値」と訳す。"Inkscape for Windows" では、それぞれ「Inkscape の設定」と「変化の間隔」となっているようだ。]]

楕円に付いている残りの2個のハンドルは、楕円の中心を基準とした寸法変更を行なうためのものである。これらのハンドルに対するショートカットは、矩形の場合と同様である:

  • Ctrl が押さた状態でドラッグすると、真円が描かれる (他方の径の長さが同じになる)。
  • Ctrl+クリック すると、ドラッグしなくても真円になる。

矩形寸法変更ハンドルにおけるのと同様、楕円での寸法変更ハンドルも、楕円の固有座標中で楕円の高さ及び幅の調整を行なっている。このことは、つまり、回転した、又は、歪んだ楕円であっても、その回転又は歪みを維持したままで、その本来の軸に沿って簡単に伸縮させることができると云うことである。

An example image


星形

星形は、Inkscape により作成される図形のなかで、最も複雑で最も刺激的である。もし友達から喝采を浴びたいのなら、星形ツールを使ってみることだ。際限なく愉しくて、本当にクセになる!

星形ツールは、似て非なる、星形と多角形と云う2種類のオブジェクトを形成する。星形は、その位置で、芒の長さと形状を規定する2個のハンドルを有するのに対し、多角形に付いているハンドルは、1個だけであり、それは単に、ドラッグされた際に多角形を回転及び寸法変更するためだけのものである。

An example image

星形ツールの制御バーで、先頭にあるのは、星形を対応する多角形に変えたり、その逆を行なったりするチェックボックスである。次にあるのは、星形又は多角形の頂点数を指定するための数値入力フィールドである。このパラメータは、制御バーにおいてのみ編集が可能である。数値の入力可能範囲は3 (当然だ) から1024までであるが、利用中のコンピュータが非力なものであるなら大きい数値 (例えば200以上とか) は試みない方が良いだろう。

新規の星形又は多角形を描画する際

  • Ctrl を押した状態でドラッグすると、15度刻みの角度で仮止めされる。

星形の方が、遥かに面白みのある図形であるのは自然なことだ (実際上は多角形の方が有用であるケースも多い)。星形の2個のハンドルは、僅かに異なる機能を有する。第1のハンドル (当初は、頂点、つまり星形の凸部をなす角にある) は、星の光芒を長くしたり短くしたりするためのものであって、これを (図形の中心に対して) 回転させると、他方のハンドルも対応して回転する。これは、つまり、このハンドルによっては星の光芒を歪ませることはできないと云うことである。

[[訳註:"rays" は「光芒」と訳しておく。"Inkscape for Windows" では「光線」と訳されいてるようだ。]]

これと対照的に、他方のハンドル (当初は、二つの頂点の間の凹部にある) は、頂点ハンドルに影響を及ぼすことなく、半径方向にも接線方向にも自由に動くことができる。(実際、このハンドルは、中心からの距離を頂点ハンドルより離れた所まで移動することで、その自身が頂点となることが可能である。) このハンドルでは、星形の尖端部を歪ませて、あらゆる種類の、結晶形、曼荼羅形、雪片形、ヤマアラシ形を作り出すことができる:

An example image

こうした装飾の一切ない只の規則的な星形が必要ならば、このハンドルが歪みを形成しないようにすることもできる:

  • Ctrl を押した状態でドラッグすると、星の光芒は厳密に半径方向に伸びる (歪みがなくなる)。
  • Ctrl+クリック すると、ドラッグしなくても歪みがなくなる。

キャンパス上のハンドルをドラッグする操作を補足してものとして、制御バーには、スポーク比入力フィールドがあって、2個のハンドルのそれぞれから中心への距離の比を指定することができ、有用である。

Inkscape が作成する星形には、まだ二つ「仕掛け」がある。幾何学上、多角形は、直線の縁とキチリと曲がる角とからなる生硬な形である。しかし、現実として、通常存在する「多角形」は、様ざまな程度に曲線的であったり、丸みを帯びていたりしているものだ。Inkscape も、そのようにできるのである。ただし、星形又は多角形に丸みを帯びさせるのは、矩形の場合と少し異なっており、そのための専用のハンドルは設けられておらず、

  • ハンドルを、接線方向に Shift+ドラッグ すると星形又は多角形に丸めが付き、
  • ハンドルを Shift+クリック すると、丸めが除去される。

ここで「接線方向」とは、中心への方向とは直交する方向のことである。Shift を押した状態でハンドルを、中心に対し反時計回りに「回転」させると、正の丸めが付き、時計周りに回転させると、負の丸めが付く。(負の丸めが付いている例は、後の図を参照されたい。)

下図は、丸めを付けた矩形 (矩形ツールで作成) と、丸めを付けた4辺多角形 (星形ツールで作成) とを比較したものである:

An example image

見て分かるように、丸めを付けた矩形にはその辺に直線部分があり、円形 (一般的には楕円形) の丸めが付いているのに対し、丸めの付いた多角形又は星形は、直線部分が全くなく、その曲率は、最大値 (角にある) から最小値 (角と角との中間にある) へと滑らかに変化している。Inkscape では、これが、図形の各ノードに共線的ベジエ接線を付加するだけで実現している (このことは、図形を経路に変換してからノード・ツールで見てみると分かる)。

[[訳註:"collinear Bezier tangents" は「共線的ベジエ接線」と訳しておく。]]

制御バー中に表示されていて、調整可能なパラメータである丸めは、こうした接線の長さと、接線に隣接する多角形/星形の辺の長さと比なのである。このパラメータは負の値を取りうるが、これは接線の方向が逆転していると云うことである。値が 約 0.2 乃至 0.4 であると、「通常」の丸めとして期待されるであろう種類のものが得られるが、その他の値では、「美しい」とか、「複雑な」とか、「全く思いもかけない」などのパターンを作り出す傾向がある。丸めの値が大きい星形は、ハンドルの位置を遥かに超えて延びることある。以下に、その例を示すが、それぞれに付いているのは丸めの値である:

An example image

星形で、突端は角立っているが凹部は滑らかにしたいとか、その逆の方が良いとか云う場合でも、その星形からオフセット (Ctrl+J) を作れば簡単にできる:

[[訳註:ショートカット Ctrl+J は、オフセットに対するのものではなくて、動的オフレットに対するものである。 また、下図は、そのキャプションに従う限り、単なるオフセットではなく連携オフセット (ショートカットは Ctrl+Alt+J) で作成されたものである。たしかに、連携オフセットでないと、自然には、このような図柄にはならないだろう。もっとも、既にビットマップ化されているので、このような穿鑿は余り意味を持たないが...]]

An example image

星形のハンドルを Shift+ドラッグ することは、人間が知る最高の娯楽の一つである。しかし、更に優れたものにすることができる。

実在の形状に一層似せるために、Inkscape は、その星形及び多角形をランダム化させる (無作為的に歪める) ことができる。僅かにランダム化することで、星形が規則性から逸脱し、ヨリ人間味があり、そして、しばしば滑稽なものになる。強いランダム化は、度外れて思いもかけない一連の形状を産み出して、ワクワクさせられる。丸められた星形は、ランダム化されても滑らかな丸めが付いている。以下は、そのショートカットである:

  • ハンドルを接線方向に Alt+ドラッグ すると、星形又は多角形はランダム化する。
  • Alt+クリック すると、ランダム化が除去される。

ハンドル位置とランダム化とが一対一に対応するため、星形をランダム化描画したり、そのハンドルをドラッグして編集する際には、図形が「震える」。だから、Alt を押さずにハンドルを動かすと、その図形は同じランダム化レベルで再ランダム化されていくが、Alt を押した状態でドラッグすると、ランダム化対象は同一に維持されるが、ランダム化レベルは調整される。下図は、パラメータが正確に同一であるが、それぞれハンドルを非常に僅かに動かして再ランダム化を行なっている星形である (ランダム化水準は、全て 0.1 である。)

An example image

そして下図は、上に並んだ星形のうちの真中の星形を、ランダム化レベルを -0.2 から 0.2 に変化させてあるものである。

An example image
[[訳註:直上の図中、右から2番目の星形が、一つ前の図の真中の星形に一致することに (なぜなら、「一つ前の図」は「ランダム化レベル 0.1」だから) に注意。 ]]

ランダム化された星形の応用は、読者自身が見いだされるであろうが、(原文)筆者の特別のお気に入りは、丸めの付いたアメーバ状の「染み」と、大きな惑星のゴツゴツした空想的な風景である。

An example image


螺旋

Inkscape の螺旋は、星形のように人の心を奪うと云った所はないものの、多くの用途があり、極めて有用なことがある。螺旋は、星形と同様中心から描画されるが、描画中及び編集中ともに:

  • Ctrl+ドラッグ すると、15度刻みの角度で仮止めされる。

描画された螺旋には、その内端と外端との2個のハンドルがある。両ハンドルとも、ドラッグされるだけで、螺旋を巻いたり解いたりする (つまり、ドラッグし続けると、螺旋の巻き数を変える)。他のショートカットとしては:

外端のハンドルに対して:

  • Shift+ドラッグ すると、中心に対して拡大・縮小/回転が起こる (延伸/減縮は起こらない)。
  • Alt+ドラッグ すると、半径を固定して、延伸/縮減する。

内端のハンドルに対して:

  • 文書 (スクリーン) の縦方向に Alt+ドラッグ すると、巻き締まりが強くなったり/巻き締まりが緩くなったりする。
  • Alt+クリック すると、巻き締まりがリセットされる。
  • Shift+クリック すると、内側のハンドルが中心へと移動する。

螺旋の巻き締まりとは、螺旋の巻き方が一様であるかどうかを表わしている。その値が1に等しい時は、螺旋は一様である。1未満の時 (上方に Alt+ドラッグ) は、螺旋は周辺近くで巻きが締まる。1より大きい時 (下方に Alt+ドラッグ) は、中心方向に巻きが締まる。

An example image

螺旋の巻き数の最大値は1024である。


楕円ツールが楕円ばかりでなく弧 (一定の曲率を有する線) にも有効であったのと丁度同じに、螺旋ツールは、曲率が滑らかに変化する曲線を作成するのに有用である。単純なベジエ曲線と比較して、弧又は螺旋は、その形状に影響を及ぼすことなく曲線に沿ってハンドルをドラッグするなら伸ばしたり縮めたりすることができるので、ヨリ便利であることが多い。また、螺旋は通常塗り潰しをしないで描画されるが、塗り潰しを行なってから運筆を除去することで、面白い効果をえることができる。

An example image

特に興味深いのは、運筆が破線であるような螺旋である。それにより、図形の滑らかな集中と、規則的に等間隔に並んだマーク (点又はダッシュ) とが組み合わさって、美しいモアレ効果が生じる。

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結び

Inkscape の造形ツールは非常に強力である。その仕掛けを学んで、時間が空いた折りに楽しんでいただきたい。そうすることが、デザイン作業において、役に立つことになる。なぜなら、単なる経路の代わりに図形を利用すると、ベクター・アートはヨリ早く作成でき、ヨリ簡単に編集できることが多くなるからである。造形の改良法に就いて何かアイデアをお持ちなら、開発者にご報告下さい。

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2007年8月 6日 (月)

"Inkscape tutorial:Advanced" 訳文 (再編集簡約版)

以下は、[nouse: "Inkscape tutorial:Advanced" 訳文] (2007年7月23日 [月]) から、原英文を除去し、[訳註] も最小限にまで減らした (そのため、明示せずに訳者補綴を本文に織り込んだ部分や、ミセケチを実際に削除したところもある) ものである。

Inkscape 教程:上級

本教程では、コピー/貼り付けと、ノード編集と、手書き描画及びベジエ曲線描画と、経路操作と、ブール演算と、オフセットと、簡略化と、テキスト・ツールとを扱う。

[[訳註:"freehand (drawing)" は「手書き(描画)」と訳しておく。]]
[[訳註:"path" は「経路」と訳す。ちなみに "Inkscape for Windows" では「パス」とされている。]]
[[訳註:"booleans" は「ブール演算」と訳しておいた。]]


貼り付け技法

何らかのオブジェクトを Ctrl+C でコピーしたり Ctrl+X で切り取りしたりした後、通常のコマンドである 貼り付け (Ctrl+V) を使うなら、コピーされていたオブジェクトは、マウス・カーソルの位置に貼り付けられる (ただし、マウス・カーソルがウィンドウ外にある場合には、文書ウィンドウの中央に貼り付けられる)。また、クリップボード内のオブジェクトの方は、コピーが行なわれた元の位置を憶えているから、「元あった位置に貼り付け」(Ctrl+Alt+V) ることもできる。

[[訳註:"Paste in Place" は、上記の如き含意であるので「元あった位置に貼り付け」と訳した。ちなみに "Inkscape for Windows" では「同じ場所に貼り付け」となっていてる。]]

様式の貼り付け (Shift+Ctrl+V) と云う別のコマンドもあるが、これは、クリップボードに残っている(前回の)オブジェクトの様式を、現時点で選択されているオブジェクトに適用すると云うものである。このコマンドでは、「塗り潰し」、「運筆」、「フォント設定」の全「様式」が貼り付けられるが、「形状」、「寸法」、「形状種を特定するパラメータ(星の芒数等)」などは貼り付けられない。

[[訳註:"tips of a star" は「(星の)芒」と訳しておく。 ]]

Inkscape には自前の内部クリップボードがあることに注意されたい:Inkscape は、テキスト・ツールにおけるコピー/貼り付け以外では、システムのクリップボードを利用しないのである。


手書き描画と規則的経路描画

自由な形状を作成する最も簡単な方法は、鉛筆 (手書き) ツール (F6) を用いることである:

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ヨリ規則性のある図形を描きたいのなら、ペン (ベジエ) ツール (Shift+F6) を用いられたい:

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ペン・ツールでは、クリック を行なう度に、曲線ハンドルのない、角が付いたノードが作られるため、一連のクリックが行なわれると、一連の直線分の列が形成される。クリック・アンド・ドラッグ を行なうと、両側にハンドルが付いた直線分の中ほどに滑らかなベジエ・ノードが形成される。ハンドルをドラッグ中に Shift を押すと、他方のハンドルが固定されて 中心となり、ドラッグ中のハンドル一つだけが回転するようになる。例によって、Ctrl が押されると、編集中の線分又はベジエ・ハンドルの方向は15度刻みに制限される。入力キー を押すことで線形成は完了するが、完了以前に Esc の方が押されると、線形成が取り消される。完了していない線の最後の線分だけを取り消すには、Backspace を押せば良い。

手書きツールにおいても、ベジエ・ツールにおいても、現時点で選択されている経路には、両端に小さい正方形の アンカーが表示される。こうしたアンカーにより、新経路を作成することなく、(アンカーの一方から描画を続けることで) 経路を伸ばしたり、(一方のアンカーから他方のアンカー迄描画することで) 経路を閉ぢたりすることができる。

経路編集

造形ツールで形成される図形とは異なり、ペン・ツール及び鉛筆ツールが形成するのは、経路と呼ばれるものである。経路とは、(他の全ての Inkscape オブジェクトと同様) 塗り潰し及び運筆に就いて任意の規定値が可能な一連の直線分及び/又はベジエ曲線のことである。ただし、図形とは異なり、経路では、その (所定のものであるハンドルとは、やや異なり) 任意のノードを自由にドラッグすることでできて、それにより編集が可能である。


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経路を選択した後、ノード・ツールに (F2) 切り替えると経路上に幾つかの灰色の正方形をしたノードが見える筈である。こうしたノードは、セレクタ・ツールにより、オブジェクト選択の場合と全く同様にして、クリックShift+クリック、或いは、「輪ゴム」を ドラッグ することで 選択可能である。選択されたノードはハイライトされ、ノードハンドル (選択された各ノードに直線で結ばれた1個又は2個の小円) が表示されるようになる。

[[訳註:この翻訳文では "node handles" を「ノードハンドル」と訳してあるが、"Inkscape for Windows" では「コントロールハンドル」とされているようだ。]]
[[訳註:上記パラグラフでは、「ノードハンドル」が「選択された各ノード」に直線で結ばれるとされているが、そうとは限らないようだ。選択されていないノードに就いても (特に、選択されたノードに隣接するノードの場合は) ノードハンドルが表示されるのが常のようである。]]

経路は、ノード及びノードハンドルを ドラッグ することで編集される。 例によって Ctrl が押されていると、移動及び回転が制限される。矢印Tab[]<> キーのそれぞれは、その機能が (CtrlShift が押されることにより) 修飾される場合も含めて、やはりセレクタにおけるのと同様な (対象がオブジェクトではなくてノードになる訣だが) 働きをする。選択されたノードは、削除 (Del) することも、複製 (Shift+D) することも可能である。経路は、選択されたノード (複数可) で切断 (Shift+B) することもできれば、同一経路の両端のノードを選択するなら、それを結びつけることもできる (Shift+J)。

ノードは 尖点にすること (Shift+C) ができる。これは、つまり、その両ハンドルが独立して動けるので、相互の角度が任意に決められると云うことである。また、ノードは 平滑点にすること (Shift+S) も可能である。これは、つまり、そのハンドルが常に同一直線上にある (共線的) と云うことである。さらに、ノードは対称的にすること (Shift+Y) もできる。これは、平滑点であって、更に両方のハンドルが同一の長さを有すると云うことである。

また、ノードハンドルは、その上で Ctrl+クリック を行なうことで、退避させることができる。隣り合う2個のノードのハンドルが退避している場合、そのノード間の経路区間は直線分となる。退避しているノード・ハンドルを引き出すには、ノードから Shift+ドラッグ を行なえばよい。


部分経路及び結合

経路オブジェクトは、複数の部分経路からなることがある。部分経路は、互いに繋がりあった一連のノードからなる。(従って、ある経路が複数の部分経路からなる場合には、そのノードの全てが繋がりあっているとは限らない。)

複合経路は、グループとは同じではないので注意されたい。複合経路は、全体としてのみ選択が可能な単一のオブジェクトである。

Inkscape では、複数の経路を複合経路に結合 (Ctrl+K) することもできれば、複合経路を別個の経路に分離 (Shift+Ctrl+K) することもできる。1個のオブジェクトは、一組の塗り潰し・運筆規定値しか持ちえないので、新たに形成される複合経路は、結合されるオブジェクトのうち最初の (Z順位が一番低い) オブジェクトのスタイルを獲得する。

塗り潰しがあって上下重なっている経路を結合すると、通常は、経路が重なっている領域では、塗り潰しは消えてしまう。

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これは、内部に穴のあるオブジェクトを作成する最も簡単な方法である。ヨリ強力な経路に対するコマンドに就いては、後述の「ブール演算」を参照されたい。


経路への変換

全ての図形オブジェクト又はテキスト・オブジェクトは、経路への変換 (Shift+Ctrl+C) が可能である。この操作では、オブジェクトの外見は変化しないが、そのオブジェクト種に固有の全ての規定性がなくなってしまう (例えば、矩形の角を丸めるとか、テキスト編集とかは不可能になる)。その代わり、経路ノードの編集ができるようになる。

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更に、任意のオブジェクトの運筆は、経路 (「輪郭」) に変換可能である。

[[訳註:"Inkscape for Windows" では「運筆を経路へ」コマンドのショートカットキーは Ctrl+Alt+C。]]

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ブール演算

経路メニュー中のこのコマンドによると、ブール演算による複数のオブジェクトの結合が可能になる。

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これらのコマンドのキーボード・ショートカットは、ブール演算に対応する算術的演算 (「合併 (union)」は「加算 (addition)」であり、「差分 (difference)」は「減算 (subtraction)」であり、...など) が連想されるものになっている(例図参照)。差分非共通分 (exclusion) とは、選択されたオブジェクト2個に対してのみに適用可能である。他の演算は、同時に任意個数のオブジェクトに適用しうる。その演算結果は、最も背面にあるオブジェクトのスタイルを継承する。

[[訳註:"Inkscape for Windows" では、"union" は「統合」、"difference" は「差分」、"exclusion" は「排他」になっている。]]

非共通分コマンドの結果は、結合コマンドの結果 (「部分経路及び結合」での例図参照) に似ているが、異なっているのは、非共通分コマンドは、元の経路が交差する位置にノードを補足することにある。分割経路切断との相違点は、分割が前面オブジェクトの経路により、背面オブジェクト全体を区切るのに対し、経路切断では、背面オブジェクトの運筆のみが切断され、塗り潰しが全て除去される点にある (これは、塗り潰しのない運筆を、幾つかの部分に寸断するのに便利である)。

[[訳註:上記の経路切断の例図では、経路がズレているが、これは切断を強調するための図解であって、実際には経路はズレない。]]

収縮及び膨張

[[訳註:"Inset" 及び "outset" は、それぞれ「収縮」及び「膨張」と訳しておく。ちなみに "Inkscape for Windows" では「インセット」及び「アウトセット」。]]

Inkscape では、寸法変更 (scaling) 以外にも、オブジェクトの経路をオフセットさせることで、つまり、経路の各点を、経路に対し直角方向にずらすことで、図形を拡大したり縮小したりすることができる。そうした縮小と拡大に対応するコマンドは、収縮 (Ctrl+() と膨張 (Ctrl+)) と呼ばれる。下には、ある経路 (赤色) を収縮及び膨張させた経路を幾つか示してある。

[[訳註:"offset" の訳も難しい。「オフセット」としておく。"Inkscape for Windows" でも「オフセット」とされている。]]

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収縮コマンド及び膨張コマンドは、(元のオブジェクトが経路でない場合は、それを経路に変換してから) 経路を生成すると云うだけのものである。しかし、オフセット距離を制御する (図形のハンドルと類似する) ドラッグ可能なハンドルが付いたオブジェクトを形成する動的オフセット (Ctrl+J) の方が便利であることが多い。

[[訳註:この翻訳文での "dynamic offset" の訳語は「動的オフセット」。"Inkscape for Windows" では「ダイナミックオフセット」となっている。]]

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[[訳註:この例図はかすれて見づらいが、翻訳原文書 ("Inkscape tutorial: Advanced") の段階でこのようになっている。]]

こうした動的オフセット・オブジェクトは、最初の経路を記憶しているため、何度オフセット距離を変更しても「劣化」することはない。調整を行なう必要がなくなったら何時でも、オフセットされたオブジェクトを経路に戻すことが可能である。

更に便利なのは、動的オフセットに類似するが、編集可能な他の経路と結びついていると云う連携オフセットである。元になる経路一つに対して、連携オフセットは幾つでも作ることが可能である。下には、赤い色の元の経路と、運筆が黒く塗り潰しがない連携オフセットと、塗り潰しが黒く運筆がない連携オフセットとを示してある。

[[訳註:"linked offset" は「連携オフセット」と訳す。これに関連して、この文脈での "connected" は「結びついている」と訳しておく。なお、"Inkscape for Windows" では "linked offset" は「リンクオフセット」とされている。キーボード・ショートカットは Ctrl+Alt+J]]

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簡略化

簡略化コマンド (Ctrl+L) の主な用途は、経路の形状をほぼ維持しつつ、経路のノード数を減らすことにある。鉛筆ツールにより形成された経路は、必要以上にノードが作られていることがあるから、このコマンドは鉛筆ツールにおいて有用となりうる。下の図において、左側の図形は、手書きツールで作成したものであり、右側の図形は、簡略化したその写しである。元の経路は28のノードがあったが、簡略化した方の経路のノード数は17であり (これにつまり、ノードツールによる操作が遥かに容易になると云うことである)、滑らかになっている [[訳註:この翻訳文では、下図に「ノード」は存在しない]]。

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簡略化の程度 (閾値と呼ばれる) は、選択対称の規模に依存する。従って、経路を大きめなオブジェクトと共に選択するならば、経路単体を選択するより、簡略化はヨリ大胆に行なわれる。また、簡略化コマンドは促成化できる。これはつまり、Ctrl+L を何回か続けて (コマンド・コールの間隔が0.5秒以下になる) 早押すると、各コールでの閾値が増大すると云うことである。(簡略化コマンドの間隔を置くようにすると、閾値はデフォルト値に戻る。)促成化を利用することで、個個の事情に正確に応じた程度の簡略化を行なうのは容易である。

手書き運筆を滑らかにするほかに、簡略化コマンドは、様様な創造的効果を引き起こすのに利用できる。生硬で幾何学的な図形を、ある程度簡略化することで、鋭い角を溶かしたり、極めて自然な歪みを持ち込んだりして、流行の感じになることも、ただ滑稽な感じになるだけのこともあるが、元の形状から素晴らしく生気に富んだ一般化を産み出すことがしばしばある。以下に示すのは、簡略化した後、見栄えが遥かに良くなったクリップアートの例である。

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テキスト作成

Inkscape では、複雑な長文テキストを作成することができる。しかしながら、見出し、バナー、ロゴ、図面のラベル及びキャプション等の短文テキスト・オブジェクトを作成するのにも極めて便利である。

テキスト・オブジェクトを作成するには、テキスト・ツールに切り替えて (F8)、文書中のどこかをクリックし、所要のテキストを入力しさえすればよい。フォント・ファミリー、フォント・スタイル、フォント・サイズ、文字揃え (アラインメント) を変更するには、テキスト/フォント・ダイアログ を開いて (Shift+Ctrl+T) 指定すれば良い。このダイアログには、テキスト入力タブをあるので、そこで選択されているテキスト・オブジェクトの編集を行なうことができ、場合によっては、カンヴァス上で直接編集するより便利なこともある (特に、テキスト入力タブは、自動スペル・チェックをサポートしている)。

[[訳註:テキスト/フォント・ダイアログの「テキスト入力タブ」は、上記の説明通り「選択されているテキスト・オブジェクトの編集を行なうことができ」るが、名称から期待できるような新たなテキストの入力 (新規テキスト・オブジェクトの作成) はできないようである。]]

他のツールと同様、テキスト・ツールも、対応するオブジェクト--テキスト・オブジェクト--を選択できる。つまり、テキスト・ツールでクリックすることで、既存のテキスト・オブジェクトのどれでも選択し、そして、その中にカーソルを置くことができる。

テキスト・デザインにおいて最も良く行なわれる操作のうちの一つが、文字間の間隔及び行間の間隔の調整である。いつも通りのことであるが、Inkscape は、これに対してもキーボード・ショートカットを用意している。テキスト編集中に Alt+< キー及び Alt+> キーを押すなら、テキスト・オブジェクトのカーソル行の文字間隔が、行の全長が現時点での拡大・縮小率における1画素分増減するようにして、変化する (セレクタ・ツールにおいて、同じキーが押される際の、画素寸法刻みのオブジェクト拡大・縮小と比較されたい)。テキスト・オブジェクトでのフォント・サイズがデフォルトより大きい場合には、通常、文字間隔をデフォルトより僅かに詰めると好適になりやすい。以下に例を示す:

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上図の文字間隔を詰めた方の例は、見出しとしてやや優れているようだが、未だ完全ではない。文字間隔が一様でないのである。例えば、"a" と "t" との間は離れすぎているのに対し、"t" と "i" との間隔は狭すぎる。こうした (特に大きなフォント・サイズで目立つような) カーニング (kern) が不適切となる度合は、高品位フォントよりも低品位フォントにおける方が大きくなるとは言え、どのテキスト文字列やどのフォントにおいても、カーニング調整を行なうことで改良されるような文字対が見つかるであろう。

Inkscape では、こうした調整が本当に簡単に行なえる。テキスト編集中にカーソルを、気に入らない文字間に置いて Alt+矢印 を押すなら、カーソル以降にある文字が移動する。以下の例は、上記と同じ見出しだが、文字の配列が一様に見えるよう手動で調節したものである。

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Alt+左 又は Alt+右 では、文字が水平方向にずらされるが、Alt+上 又は Alt+下 を使うと文字を垂直方向にずらすことも可能である。

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テキストを経路に変換することも勿論可能であって (Shift+Ctrl+C)、文字を正規の経路オブジェクトとして移動させることもできる。しかし、テキストはテキストのままでおいた方が遥かに都合が良い。なぜなら、その方が、編集が可能であり、カーニングや間隔指定を失うことなく別のフォントにしてみることができ、保存されるファイルにおいて必要となる容量が遥かに少なくて済むからである。「テキストはテキストとして」と云う仕方のただ一つの欠点は、そうした SVG 文書を開くシステムでは、元のフォントがインストールされていなければならないことだけである。

文字間隔と同様に、複数行あるテキスト・オブジェクトでは、行間隔も調整が可能である (Ctrl+Alt+< キー及び Ctrl+Alt+>)。セレクタにおけるのと同様、任意の間隔変更又はカーニングショートカットにおいて Shift が押されるなら、押されていない場合の10倍の効果が得られる。


XML エディタ

Inkscape において究極に強力なツールは、XML エディタである (Shift+Ctrl+X)。それは、現在の状態を常時反映する、文書の XM ツリー全体を表示する。図面の編集を行なうなら、XML ツリーが対応して変化するのを見ることができる。更に、XML エディタでは、全てのテキスト、要素、属性のノードを編集することができ、その結果は、キャンバス上に反映される。このことは、SVG に就いてインタラクティブに学習するため手段として、考えうるうちの最良のものであり、通常の編集ツールでは不可能であると思われるような仕掛けを作ることも可能になる。

[[訳註:上記パラグラフ中の "nodes"/「ノード」は XML データ構造の用語としてのものであって、経路のノードのことではない。]]

結び

この教程は、Inkscape の全機能のうち、ほんの一部を示したに過ぎない。Inkscape を使って愉しい体験していただきたいと思っている。実際に試してみると云うことをためらわず、そして作成したものを共有するようにしていただきたい。一層の情報、最新版の Inkscape, ユーザーや開発者たちによる支援を望まれるなら www.inkscape.org を訪問していただきたい。

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"Inkscape tutorial:Basic" 訳文 (再編集簡約版)

以下は、[nouse: "Inkscape tutorial:Basic" 訳文] (2007年7月18日 [水]) から、原英文を除去し、[訳註] も最小限にまで減らした (そのため、明示せずに訳者補綴を本文に織り込んだ部分や、ミセケチを実際に削除したところもある) ものである。

Inkscape 教程:基本

この教程 (tutorial) は、Inkscape利用法の基礎を解説したものである。本文書は、Inkscape用として正規のものであり、読者はこれを閲覧・編集・複製・保存することができる。
この [教程:基本] では、キャンバスの移動方法と、文書の扱い方と、造形ツールの基本と、選択の仕方と、選択・グループ化・塗り潰し (フィル) 及び運筆 (ストローク) 設定よるオブジェクトの変形と、整列と、Z順位 (z-order) とを扱う。ヨリ高度の事柄に就いては、ヘルプメニューにある他の教程に当たられたい。

[[訳註:"Inkscape for Windows" のメニュー等では "document" は「文書」ではなく「ドキュメント」となっている。]]


キャンバスの横方向/縦方向移動

文書キャンバスを横方向/縦方向移動 (スクロール) させる方法は幾つもある。キーボードでスクロールさせるには、Ctrl+矢印 を使う。マウスの中央ボタンを使ってもキャンバスのドラッグが可能である。縦及び横のスクロールバー (Ctrl+B で表示/表示が切り替わる) を使っても良い。縦方向のスクロールは、マウスの ホイール でも可能であるし、ホイールと Shift を併用すれば横方向スクロールができる。

[[訳註:"arrow" は「矢印」または「矢印キー」と訳し、「カーソルキー」と云う訳語は節約する。]]


拡大・縮小

縮小又は拡大を行なうには、- キー又は + キー (= キーでもよい) を押すのが最も簡単な方法である。拡大する他の方法としては、Ctrl+中央クリックCtrl+右クリック でも良く、縮小する他の方法としては、Shift+中央クリックShift+右クリック でも良い。Ctrl を押したまま、マウスホイールを回転させても、拡大・縮小は可能である。別の方法としては、(文書ウィンドウの右下隅にある) 拡大・縮小率入力フィールドをクリックして、正確な拡大・縮小率を百分率で与えてから入力キーを押しても良い。(ウィンドウ左側のツールバーには) 拡大・縮小ツールがあるので、それでドラッグを行なって 矩形を作ると、それにより囲まれる領域は、ウィンドウ一杯に収まるように拡大表示される (ズームインが起こる)。

[[訳註:訳者の "Inkscape for Windows" では、= キーによる拡大は、インプリメントされていないようだ。]]

Inkscape は、作業過程中、用いられた拡大・縮小レベル履歴を保持する。` キーを押すと、一段階前の拡大・縮小レベルに戻り、Shift+` を押すと一段階後の拡大・縮小レベルに進む。

[[訳註:訳者の "Inkscape for Windows" では、この機能はインプリメントされていないようだ。]])


Inkscape のツール群

左側に縦に伸びたツールバーには、Inkscape の描画・編集ツール群が置かれている。ウィンドウ上部、メニューの直下にあるのは、一般的なコマンドを配したコマンドバーと、各ツール固有の制御を行なうためのツール制御バーである。ウィンドウ下部にはステータスバーがあって、作業に役立つヒント及びメッセージが表示される。

多くの操作がキーボード・ショートカットで実行可能である。ヘルプ > キー/マウスを開くと、完備したリファレンスを見ることができる。


文書の作成及び操作

空の文章を作成するには ファイル > 新規 を使うか、Ctrl+N を押すこと。既存の SVG 文書を開くには、ファイル > 開く (Ctrl+O) を用いられたい。保存するには、ファイル > 保存 (Ctrl+S) を使うか、改めて名前を付けて保存する場合は 名前を付けて保存 (Shift+Ctrl+S) を使われたい。(Inkscape はまだ不安定であるので、こまめに保存することを忘れないように!)

Inkscape は、ファイルに SVG (Scalable Vector Graphics:スケーラブル ベクター グラフィックス) フォーマットを用いている。SVG は、広範なグラフィクス・ソフトウェアによりサポートされているオープン・スタンダードである。SVG ファイルは、XML に基づいており、(Inkscape 以外でも) テキスト・エディターや XML エディター のどれを使っても編集可能である。Inkscape は、SVG 以外にも他の幾つかのフォーマット (EPS や PNG) に就いてインポート及びエクスポートが可能である。

Inkscape は、文書ごとに別々の文書ウィンドウを開く。そうした複数の文書間の行き来は、ウィンドウ・マネージャー (例えば Alt+Tab) を利用すれば可能であるし、また Inkscape のショートカット Ctrl+Tab を使えば開いている文書ウィンドウの全てを循環していく。


図形作成

図形を作成してみよう。まず、ツールバーの矩形作成ツールをクリックされたい (あるいは、F4 を押されたい)。次いで、新規の空文書でクリック・アンド・ドラッグを行なわれたい。

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デフォルトでは、矩形は、(若干透明性のある) 青い色をしており、運筆 (輪郭) は黒である。後で、これを変化させる仕方を説明する。他のツールを使うと、楕円、星形、螺旋を作成することもできる。

[[訳註:上記の例図とパラグラフの内容は整合しない。]]
[[訳註:"stroke" は「運筆」と訳しておく。"Inkscape for Windows" のメニューでは、「ストローク」になっている。]]

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これらのツールは、まとめて造形ツールと呼ばれる。作成された図形の各各には、一つ又は複数の小さい矩形のハンドルが表示される。こうしたハンドルをドラッグしてみて、図形がどのように変化するか確かめられたい。造形ツールの制御パネルによっても、図形を変形させることができるが、その設定は、その時点で選択されている図形 (つまり、ハンドルが表示されている図形) を変形させるだけでなく、新規に作成される図形にもデフォルトとして適用される。

直前の操作を取り消す (アンドゥする) には、Ctrl+Z を押されたい。もう一度思い返して、取り消した操作をやはり行なう (やり直しする) には、Shift+Ctrl+Z を押せば良い。


図形の移動、寸法変更、回転

Inkscape で最も良く用いられるツールはセレクタである。ツールバーの一番上のボタン (矢印が表示されているもの) をクリックするか、F1 又は Space を押されるなら、キャンバス上の任意のオブジェクトを選択できるようになる。

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オブジェクトの周りに、8個の矢印形ハンドルが現われるが、この状態では以下のことが可能になる:

  • オブジェクトをドラッグすると、オブジェクトが移動する。(Ctrl を押しながら、これを行なうと、移動方向が水平と垂直とに限定される。)
  • ハンドルのどれでもドラッグすると、オブジェクトの寸法の変更が起こる。(Ctrl を押しながら、これを行なうと、当初の縦横比が保存される。)

上記の矩形をもう一度クリックすると、ハンドルが変化する。この場合可能なのは:

  • 隅のハンドルをドラッグすると、オブジェクトが回転する。(Ctrl を押しながら、これを行なうと、回転が15度刻みになる。回転の中心にしたい位置に十字マークをドラッグすること。)
  • 隅にないハンドルをドラッグすると、オブジェクトは 斜めに歪む。(Ctrl を押しながら、これを行なうと、15度刻みで傾斜が起こる。)

セレクタを利用している間なら、制御バー (キャンバス上方にある) における数値入力フィールドを使って、選択されているオブジェクトの正確な座標値 (X 及び Y) と寸法値 (W 及び H) を設定することができる。


キー入力を用いた変形

Inkscape が他の大多数のベクター・エディターと異なる特徴の一つは、キーボードによる操作を強化している点である。キーボードから行なえないコマンド又はアクションは殆ど存在せず、オブジェクトの変形もその例外ではない。

キーボード入力によって、オブジェクトを移動することも (矢印 キー)、 寸法を変更することも (< キー及び > キー)、回転させることも ([ キー及び ] キー) 可能である。デフォルトでは、移動及び寸法変更は 2px 刻みであるが、Shift を押しながら行なうと、移動及び寸法変更の変化量は10倍になる。Ctrl+> 及び Ctrl+< では、寸法が元の大きさの、それぞれ200%と50%とになる。デフォルトでの回転は15度刻みであるが、Ctrl を押しながら行なうと、90度刻みになる。

ただし、恐らく最も役に立つのは、Alt と共に変形用キーを用いることで実現される画素サイズ準拠変形 (pixel-size transformations) である。例えば、Alt+矢印 を使うならば、選択したオブジェクトは、現在の拡大/縮小率に応じた1画素分の移動をする (つまり、画面上に表示されている1画素分の移動である。従って、拡大/縮小率とは独立した SVG の長さの単位である画素/ピクセルと混同しないようにされたい)。このことはつまり、拡大をおこなった際には、Alt+矢印 は、画面上の見かけでは同様に1画素分移動したように見えるかもけれども、移動の絶対量は減少していると云うことである。このため、所要の拡大又は縮小を行ないさえすれば、オブジェクトを任意の正確な位置に置くことが可能である。

同様に、Alt+> 及び Alt+< によって、選択したオブジェクトの寸法変更が見かけの1画素単位で行なわれるし、Alt+[ 及び Alt+] を使うならば,、オブジェクトの回転を、その中心から最も離れた点が画面上での1画素分移動するように起こさせることができる。


多重選択

Shift+クリック を使うことで、同時に任意個数のオブジェクトを選択することができる。あるいは、選択したいオブジェクトを囲むように ドラッグ してもよい。これは、輪ゴム選択 (rubberband selection) と呼ばれる。(セレクタは、図形のない部分からドラッグを始める場合に「輪ゴム」を形成するのだが、もし、ドラッグ開始前に Shift が押されているなら、Inkscape は常に「輪ゴム」を形成する)

[[訳註:「輪ゴム選択」(rubberband selection) と云う用語は、読者をミスリードする可能性がある。「ドラッグ」により指定される領域は勿論矩形である。その矩形の輪郭部分を「輪ゴム」と呼んでいるのだ。このパラグラフは、セレクタ支配下の状況でポインタのドラッグを行なうことで形成される矩形内に入った図形は複数あっても同時に選択されることに関する。パラグラフの後半は、ドラッグの開始点が図形内にあった場合、通常ならば、その図形が選択されてしまうため (その後ドラッグしても、選択された図形の移動が起こるだけになり)、多重選択用の矩形が形成が始まらないが、Shift キーを押しながらドラッグを始めるならば、矩形形成が行なえると云うこと。]]

An example image

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多重選択されたうちの個々のオブジェクトには、デフォルトでは破線でできた矩形枠である選択済標示が現われる。こうした標示により、どのオブジェクトが選択されていて、どのオブジェクトが選択されていないかが一目で分かる。例えば、上記の2個の楕円の両方と矩形とを選択した場合、標示がなかったなら楕円が選択されているかどうかを判断するのは困難なものになるであろう。

[[訳註:最後のセンテンスは、多重選択が行なわれた場合、ハンドルは個々の選択されたオブジェクトに付くのではなく、選択された複数のオブジェクト全体を囲むように付くだけであることに関する。従って、多重選択の場合、ハンドルからだけでは、内側にあるオブジェクトが選択されているかどうかは判断できない。]]

選択されているオブジェクトに Shift+クリック を行なうと、その選択を外すことができる。

Esc が押されると、選択されたオブジェクト全ての選択が解除される。Ctrl+A では、現在操作中のレイヤに載っている全てのオブジェクト (レイヤが一枚だけの場合、これは文書中の全オブジェクトを意味する) が選択される。


グループ分け

幾つかのオブジェクトをまとめて、一つのグループとすることができる。グループ化されると、ドラッグや変形の際に単一のオブジェクトであるかのように振る舞う。

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グループを作成するには、1個又は複数個のオブジェクトを選択してから、Ctrl+G を押せばよい。1つにしろ複数あるにしろグループを解除するには、選択してから Ctrl+U を押せば良い。グループ自体のグループ化も、他のオブジェクトと全く同様に、可能である。こうした再帰的グループは、任意の深さまで構成することができる。しかし、Ctrl+U によっては、選択されたグループにおける最上層レベルのグループしか解除することができない。グループの入れ子が深くなっているグループ化を完全に解除するには、Ctrl+U を繰り返し押す必要がある。

ただし、グループ内のあるオブジェクトを編集しようとする場合でもグループ解除をする必要はない。そのオブジェクトを Ctrl+クリック しさえすれば、そのオブジェクトが選択されて、それだけの編集が可能になる。また、幾つかのオブジェクト (グループ内に入っていても、いなくてもよい) に対して Shift+Ctrl+クリック を行なうなら、グループ分けに関わらない多重選択が可能である。


塗り潰し及び運筆

Inkscape の機能の多くが、ダイアログを介して利用可能になっている。あるオブジェクトを一定の色で塗る最も単純な方法は、恐らくオブジェクト・メニューからスウォッチ・ダイアログを開き、オブジェクトを選択し、そのオブジェクトに塗るためのスウォッチを選択する (塗り潰す色を変更する) と云うものであろう。

[[訳註:このパラグラフの説明は実態から離れているかもしれない。"Inkscape for Windows" ではスウォッチ・ダイアログは「表示メニュー」内にある。また、Inkscape には "Object menu" はあっても "Objects menu" なるものは実装されていないようだ。さらに、スウォッチの利用は、スウォッチ・ダイアログ (Ctrl+Shift+W) より、ウィンドウとステータスバーとの間に置かれているユーザー・インターフェイスを使った方が簡単だろう。]]

ヨリ強力であるのは、「塗り潰し/運筆ダイアログ」(Shift+Ctrl+F) である。

[[訳註:この翻訳では "Fill and Stroke dialog" は「塗り潰し/運筆ダイアログ」と訳した。ちなみに "Inkscape for Windows" では「フィル/ストローク」とされている。]]
[[訳註:私が持っている "Inkscape for Windows" (Ver. 0.45) では、Shift+Ctrl+F を押しても、"Fill and Stroke dialog" は起動しない。ただし、メニューからなら開くことができる。]]

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見れば分かるように、このダイアログには「塗り潰し」、「運筆跡 (オブジェクトの輪郭)」、「運筆様式」3つのタブがある。「塗り潰し」では、選択された (単一のにしろ複数にしろ) オブジェクト(内部)を塗り潰しの仕方を編集できる。「塗り潰し」タブの下方にあるボタンにより「塗り潰さない」(×印の付いたボタン)、「平坦に塗り潰す」、「直線方向グラデーション」、「放射方向グラデーション」などの種類を選択できる。

[[訳註:この翻訳文では "Stroke paint" 及び "Stroke style" を、それぞれ「運筆跡(オブジェクトの輪郭)」及び「運筆様式」と訳してある。ちなみに "Inkscape for Windows" では「ストロークの塗り」及び「ストロークのスタイル」になっている。]]
[[訳註:この翻訳文における「平坦に塗り潰す」、「直線方向グラデーション」、「放射方向グラデーション」は、"Inkscape for Windows" では「単一色」、「線形グラデーション」、「放射グラデーション」になっている。]]

その下にあるのが、「RGB」、「CMYK」、「HSL」、「ホイール」と云う固有のタブがそれぞれに付けられた一連の色指定手段である。恐らく、最も簡便であるのは「ホイール式指定」と思われるが、この場合は、三角形を回転させてホイール上ので色相 (hue) を選択し、次いで三角形内でけその色相の明彩度 (shade) を選択する。どの色指定手段にもスライダーが付いていて、選択したオブジェクトのアルファ (不透明度) が設定できる。

オブジェクトが選択されると何時でも、その時点での「塗り潰し」、「運筆跡(オブジェクトの輪郭)」、「運筆様式」の状態を示すよう色指定手段の表示が更新される。(多重選択されたオブジェクトの場合、このダイアログは平均の色を示す。) 自分でオブジェクトを作成して確認していただきたい。

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「運筆跡(オブジェクトの輪郭)」では、オブジェクトの運筆跡 (輪郭) を除去したり、色や透明度を指定することができる。

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最後のタブである「運筆様式」では、運筆における幅その他のパラメータの設定が可能である。

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また、塗り潰し及び/又は運筆においては、色を平坦に塗る以外に、グラデーションを付けることができる。

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色の塗り方を平坦からグラデーションへと切り替えると、それまで平坦に塗られていた色が、不透明から透明に変化するように塗り変えられる。グラデーション・ツールへ切り替えて (Ctrl+F1)、グラデーション・ハンドル - グラデーションの方向と長さを規定する線分で結ばれた制御ハンドル--をドラッグする実習をされたい。グラデーション・ハンドルが選択される (青い色に変わる) と、塗り潰し及び運筆ダイアログは、選択されたオブジェクト全体の色ではなく、そのハンドルが支配する色を指定するようになる。

オブジェクトの色を変更する簡便な方法としては、この他に、「スポイト・ツール」(F7) を使うと云うものがある。このツールで図面上の任意の位置を クリック するだけで、そこの色が、選択されているオブジェクトの塗り潰しに使われる (Shift+クリック すると、運筆の色として使われる)。


複製、整列、配置

オブジェクトへの操作で最も普通にあるものの一つは、複製である (Ctrl+D)。複製されたオブジェクトは、元のオブジェクト上に正確に重なって置かれた状態で選択されているので、マウスや矢印キーを使ってドラッグすることができる。

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上記のような四角形を実際に、幾つか複製してみると、そうした四角形の複製は多かれ少なかれ不規則に並んだのではなかろうか。そのような場合は、整列ダイアログ (Ctrl+Shift+A) が便利である。列の全体を選択 (Shift+クリック するか、「輪ゴム」をドラッグ) してから、整列ダイアログを開いて、「中心を水平軸上に合わせる」ボタンを押し、次いで「オブジェクト間の水平方向間隔を等しくする」ボタンを押すなら (「中心を水平軸上に合わせる」と「オブジェクト間の水平方向間隔を等しくする」はボタンのツールチップに表示される)、オブジェクトがキレイに整列し、等間隔で配置されるようになる。以下に、整列及び配置を適用した例を示す:

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Z順位

Z順位と云う用語は、図面におけるオブジェクトの積み重なりの順位、つまり、どのオブジェクトが上にあって、他のオブジェクトを覆い隠しているかと云うことに関する。オブジェクトメニューにおける2つのコマンド「最前面へ」(Home キー) と「最背面へ」(End キー) とは、選択されているオブジェクトを、その時点でのレイヤZ順位の最前面と最背面へと移動する。他の2つのコマンド、「前面へ」(PgUp) と「背面へ」(PgDn) とは、選択部分を一段階だけ、つまりZ順位中において、非選択オブジェクト1個を越えるようにして移動させる (「Z順位中において」なので、選択部分と重なっているオブジェクトのみが問題となり、選択部分と重なるオブジェクトがない場合には、「前面へ」と「背面へ」は、それぞれ最前面と最背面への移動を引き起こす)。

[[訳註:"z-order" の z は、画面/ウィンドウを x 軸及び y 軸が張っているとみて、それらに直行する z 軸の謂いである。]]

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Tab は、選択を行なうショートカットとして非常に有用である。このショートカットは、なにも選択されていない状態では、最背面のオブジェクトを選択し、選択が行なわれている状態ではZ順位で選択されているオブジェクト (単一でも複数個でもかまわない) の上のオブジェクトを選択する。Shift+Tab の働き方は逆方向であって、最前面のオブジェクトから始まって、順次後ろのほうに下がっていく。作成されるオブジェクトは、積み重なりの一番上に付け加えられるので、何も選択していない状態で、Shift+Tab を押すなら、最後に作成されたオブジェクトが選択されるので都合が良い。


背面にあるオブジェクトの選択と、選択されたオブジェクトのドラッグ

必要なオブジェクトが他のオブジェクトの背面に隠れている場合どうするか? 最前面のオブジェクトが (若干ながらでも) 透明であるなら最背面のオブジェクトを見ることはできるかもしれないものの、クリックをしても選択されるのは最前面のオブジェクトであって、必要なオブジェクトではない。

こうした時のためにあるのが Alt+クリック である。まず、Alt+クリック で、通常のクリックと同じようにして最前面のオブジェクトを選択する。しかし、同じ位置で、もう一度 Alt+クリック すると、最前面の直下にあるオブジェクトが選択される。更に同じことをするなら、更に下のオブジェクトが選択される...。このようにして、Alt+クリック を何回か繰り返すと、最前面から最背面の列を循環して、クリック位置でのZ順位が付けられたオブジェクトの積み重なりを辿ることになる。最背面のオブジェクトに到達すると、次の Alt+クリック では当然最前面のオブジェクトが再び選択されるのである。

これは結構なことだとは言え、表面に現われていないオブジェクトを選択しても、それで何ができるのか? キーを使えば変形ができるし、選択されたオブジェクトのハンドルのドラッグが可能である。しかし、オブジェクト自体をドラッグすると、やはり最前面のオブジェクトが選択しなおされてしまう (これは、クリック・アンド・ドラッグ動作の仕様である--まずカーソル位置 (最前面) でのオブジェクトが選択され、ついで選択されたオブジェクトがドラッグされる)。Inkscape に、その時点で選択されているオブジェクトを、他のオブジェクトを選択させることなく、ドラッグさせるには、Alt+ドラッグ を用いると良い。これにより、何処でマウスをドラッグしても、その時点で選択されているオブジェクトを移動させることができる。


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結び

これで、基本教程を終える。Inkscape には語るべきことが他に多くあるが、ここで説明した技法によるだけでも、単純ながらも有用なグラフィックスを作成することが可能である。より複雑な内容に就いては、ヘルプ > 教程 における「上級」その他の教程を見られたい。

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2007年8月 1日 (水)

"Inkscape tutorial: Tracing" 訳文

以下は、"Inkscape tutorial: Tracing" (Converted from DocBook source by tutorial-html.xsl. Last update: Sat Apr 30 20:06:29 GMT 2005) の訳文である。

この文書は、[nouse: "Inkscape tutorial:Basic" 訳文] (2007年7月18日[水])、[nouse: "Inkscape tutorial:Advanced" 訳文] (2007年7月23日[月])、及び [nouse: "Inkscape tutorial:Shapes" 訳文] (2007年7月31日[火]) で翻訳した、"Inkscape tutorial:Basic" (Converted from DocBook source by tutorial-html.xsl. Last update:Sat Apr 30 20:00:45 GMT 2005), "Inkscape tutorial: Advanced" (Converted from DocBook source by tutorial-html.xsl. Last update: Sat Apr 30 20:02:39 GMT 2005), 及び "Inkscape tutorial: Shapes" (Converted from DocBook source by tutorial-html.xsl. Last update: Sat Apr 30 20:03:55 GMT 2005) と一体をなしており、やはり、翻訳に著作権上の問題は発生しないと信じる。

Inkscape tutorial: Tracing
Inkscape 教程:トレース

One of the features in Inkscape is a tool for tracing a bitmap image into a <path> element for your SVG drawing. These short n