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ある行列式計算の紹介

高木貞治著 [代数学講義 改訂新版] (1965年。共立出版。東京) の第230頁には、つぎのような等式が示されている ([問題3] の [解] 中の、言わば補題部分)。

\[
 \begin{vmatrix}
 \frac{1}{t_{1}-x_{1}} &\frac{1}{t_{1}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{1}-x_{n}} \\
\\
 \frac{1}{t_{2}-x_{1}} &\frac{1}{t_{2}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{2}-x_{n}} \\
\\
  \cdot & \cdot & \cdots & \cdot \\
\\
 \frac{1}{t_{n}-x_{1}} &\frac{1}{t_{n}-x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{n}-x_{n}} \\
 \end{vmatrix}
= \frac{(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})}{\prod\limits_{p,q}(t_{p}-x_{q})}
\]

その証明も簡にして要を得ている。曰く

行列式に 
\[
 \prod{(t_{p}-x_{q})}
\] を掛けて分母を払えば

\[
 P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n}){\times}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n}){\times}C
\]
を得る。 $C$ は定数である。
\[
 t_{1}=x_{1},t_{2}=x_{2},\cdots,t_{n}=x_{n}
\]
とおけば
\[
 f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\]
から
\[ C=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}
\]
を得る。ただし、
\[
 f(t)=(t-x_{1})(t-x_{2}){\cdots}(t-x_{n})
\]

(引用終わり)

ここで $P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})$ は、所謂「差積」(「基本交代式」)

\begin{align*}
 (t_{1}-t_{2})(t_{1}-t_{3}){\cdots}(t_{1}-t_{n})\\
 (t_{2}-t_{3}){\cdots}(t_{2}-t_{n})\\
 {\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}\quad&\\
 (t_{n-1}-t_{n})&
\end{align*}
である (参照: [代数学講義 改訂新版] 第146頁)。

また、


\[
 f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\]
に就いては、第147頁に説明がされている。それを、現在の文脈に合わせ、そして簡略化して示すなら
\begin{align*}
 &f(t)=(t-x_{1})(t-x_{2}){\cdots}(t-x_{n})\\
\\
 &f^{\prime}(x_{1})=(x_{1}-x_{2})(x_{1}-x_{3}){\cdots}(x_{1}-x_{n})\\
 &f^{\prime}(x_{2})=(x_{2}-x_{1})(x_{2}-x_{3}){\cdots}(x_{2}-x_{n})\\
 &\quad\cdots\cdot\cdots\cdot\cdots\cdot\cdots\cdot\\
 &f^{\prime}(x_{n})=(x_{n}-x_{1})(x_{n}-x_{2}){\cdots}(x_{n}-x_{n-1})\\
\\
 &f^{\prime}(x_{1})f^{\prime}(x_{2}){\cdots}f^{\prime}(x_{n})=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})^{2}
\end{align*}

ちなみに、$P^{2}$ は多項式 $f(t)$ の判別式になっている。更に

\[
 g(t)=(t-t_{1})(t-t_{2}){\cdots}(t-t_{n})
\]
と置くなら
${\displaystyle}\prod\limits_{p,q}(t_{p}-x_{q})$
は、$g$$f$ との終結式である。

本稿は、この等式を紹介するためだけのものだが、最後に、私が、この等式のことを思い出すきっかけになった方の行列式を書いておく。などと云ういのは大げさで、それは単に、 $x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n}$ の符号を逆転して $-x_{1},-x_{2},{\cdots}-x_{n}$ にしたものに過ぎない。

そこで、まず $P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})$ は、どうなるかと云うと、勿論

\begin{align*}
 (x_{1}-x_{2})(x_{1}-x_{3}){\cdots}(x_{1}-x_{n})\\
 (x_{2}-x_{3}){\cdots}(x_{2}-x_{n})\\
 {\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}{\cdots}\quad&\\
 (x_{n-1}-x_{n})&
\end{align*}
だから、当然
\[
 P(-x_{1},-x_{2},{\cdots}-x_{n}) = (-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})
\]
であり
\[
 \begin{vmatrix}
 \frac{1}{t_{1}+x_{1}} &\frac{1}{t_{1}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{1}+x_{n}} \\
\\
 \frac{1}{t_{2}+x_{1}} &\frac{1}{t_{2}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{2}+x_{n}} \\
\\
  \cdot & \cdot & \cdots & \cdot \\
\\
 \frac{1}{t_{n}+x_{1}} &\frac{1}{t_{n}+x_{2}} &\dots &\frac{1}{t_{n}+x_{n}} \\
 \end{vmatrix}
= \frac{P(t_{1},t_{2},{\cdots}t_{n})P(x_{1},x_{2},{\cdots}x_{n})}{\prod\limits_{p,q}(t_{p}+x_{q})}
\]
が言える。

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