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2018年 (平成30年) 版 [理科年表] 附録「数学公式」[附17 (1097) 頁] における誤植

2018年 (平成30年) 版 [理科年表] (ISBN-13: 978-4-621-30217-0) 附録「数学公式」中 [附17 (1097)] 頁、下から5つ目の等式には誤植がある。

つまり


\[
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{ax}}{a+b\cos{x}}\,dx =\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha} \qquad (a>b>0,\quad \alpha>0)
\]

の左辺の被積分函数の分子の函数 $\cos$ の変数中の係数 $a$ は誤りである。

この $a$$\alpha$ に置き換えて


\[
 \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx =\frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha} \qquad (a>b>0,\quad \alpha>0)
\]

とすべきだろう。

元の形が誤っているのは一目瞭然である。右辺は $\alpha$ に依存して値が変化するが、その変数 $\alpha$ が左辺に現れないからだ。

勿論、これだけの根拠では、誤っているのが左辺ではなく、右辺 (又は、左右両方) である可能性を排除できないが、表式右のカッコ内に $\alpha$ の範囲に就いての限定がある以上、表式中に$\alpha$ が含まれることは所与の要件として認めざるを得ない。このことの結果として、蓋然性の低くなる場合を排除するなら、左辺のみが誤っていると、まず想定すべきだろう。

そうすると、「正解」の候補として、とりあえず考えられるのが、左辺中に2つある $a$ のどちらかを $\alpha$ で置き換えることだが (両方を置き換えると、左辺中に $a$ が存在しなくなる)、右辺の形式をみると、一番期待できるのが、分子の $a$ のみ1つを $\alpha$ で置き換えることである。

だから、当面の課題は、それが正しく右辺の形式の式を導き出すかと云うことになる。

この[訂正形] が正しいのは次のように確かめられる。まず


\[
 I := \int_{0}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

とすると、その被積分函数は $x$ に就いての偶関数だから、当然

\[
 2I = \int_{-\pi}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

となる。

ここで、更に奇関数

\[
 \frac{i\sin{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}
\]

を取って $-\pi$ から $\pi$ まで積分すると、積分値は勿論 $0$ になるから、次の等式が成り立つ。


\[
 2I = \int_{-\pi}^{\pi}\!\frac{\cos{\alpha{x}}+i\sin{\alpha{x}}}{a+b\cos{x}}\,dx
\]

そして、

\begin{align*}
 &\cos{\alpha{x}} +i\sin{\alpha{x}} = e^{i\alpha{x}}\\
 &a+b\cos{x} = a + \frac{b}{2}(e^{ix}+e^{-ix}) = \inverse{2e^{ix}}(be^{2ix} + 2ae^{ix} +b)
\end{align*}

だから、変数変換 $z = e^{ix}$ を行うと ( $dx={dz}/{(iz)}$ に注意)

\[
 2I = \inverse{i}\int_{|z|=1}\frac{2z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}\,dz
\]

つまり

\[
 I = \inverse{i}\int_{|z|=1}\frac{z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}\,dz
\]

である。

これから、積分値 $I$ は被積分函数

\[
 \frac{z^{\alpha}}{bz^{2} + 2az + b}
\]

の極のうち、複素平面単位円に含まれるものの留数の総和、の $2\pi$ 倍であることが分かる。

しかるに2次方程式 $bz^{2} + 2az + b = 0$ の2つの根を考えて、それを $r,s$ とすると、a>b>0$ だったから、判別式は $4a^{2}-4b^{2}>0$ となり、$r,s$ は異なる実数であることが分かる。

ここで、一般性を失うことなく $r>s$ と仮定することができるが、更に $\displaystyle rs = (b/b) =1$ だから、$r,s$ の絶対値は、一方のみが $1$ より小さく、他方は $1$ より大きい。

実際、2つの根の表式

\[
 \inverse{b}(-a \pm\sqrt{a^{2}-b^{2}})
\]

を念頭において、それぞれの値が、如何なる範囲に含まれるか調べてみると次のようになる。
\begin{align*}
 &a+b>a-b>0\\
 &a^{2}>a^{2}-b^{2}>(a-b)^{2}>0\\
 &a>\sqrt{a^{2}-b^{2}}>a-b>0>b-a>-\sqrt{a^{2}-b^{2}}\\
 &0>-a+\sqrt{a^{2}-b^{2}}>-b>-a-\sqrt{a^{2}-b^{2}}\\
 &0>r = \inverse{b}(-a + \sqrt{a^{2}-b^{2}})>-1>s = \inverse{b}(-a - \sqrt{a^{2}-b^{2}})
\end{align*}

これより複素平面単位円に含まれる極は

\[
 z = r = \inverse{b}(-a +\sqrt{a^{2}-b^{2}})
\]

のみであることが分かる。

結局、求める留数は

\begin{align*}
 \frac{r^{\alpha}}{b(r-s)} &= \frac{((\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a)/b)^{\alpha}}{b(2\sqrt{a^{2}-b^{2}}/b)}\\
                           &= \inverse{{2\sqrt{a^{2}-b^{2}}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}
\end{align*}

これの $2\pi$ 倍は

\[
 \frac{\pi}{\sqrt{a^{2}-b^{2}}}\Big(\frac{\sqrt{a^{2}-b^{2}}-a}{b}\Big)^{\alpha}
\]

で、求めるものが得られた。

2018年 (平成30年) 版 [理科年表] は、現時点 (2018年8月31日) での最新版だが、旧版では、本件がどうであったかは、未確認。

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