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岩波書店「位相解析の基礎」 [延長定理] (pp.59-60) の証明における初歩的ミス

自分の疎漏な知識を補強するために測度論や積分論の基礎に就いて書かれた本を拾い読みすることがある。その時に読む本は大体決まっているのだが、岩波書店の「位相解析の基礎」(1960年。吉田耕作・河田敬義・岩村聯) は、その中に入っていない。

それでも、他の本を読んでいて釈然としないときは、手がかりを求めて手を出すことがある。しかし、「位相解析の基礎」の第1編第4章 20.8 の [延長定理] (pp.59-60) の証明を読んで、少し残念だった。初歩的なミスをしているのだ。

[延長定理] は、集合 $X$ の冪集合 $\mathfrak{P}(X)$ の部分集合の内、一定の条件 (「位相解析の基礎」p.52) を満たすものである「集合体」 (つまり「有限加法族」) $\mathfrak{K}$ 上の Jordan 式測度 $v$ が、$\mathfrak{K}$ から生成される最小の Borel 集合体 $\mathfrak{B}=B(\mathfrak{K})$ 上に延長される必要十分条件として $v$$\mathfrak{K}$ 上での可算加法性

\[
 A,A_{1},A_{2},\cdots \in \mathfrak{K}, A=\displaystyle{\bigcup_{n=1}^{\infty}}A_{n}, A_{i}{\cap}A_{j}=\emptyset\; (i{\neq}j)
\]
ならば
\[
 v(A)=\sum_{n=1}^{\infty}v(A_{n})
\]
であること を主張する。

必要なことは明らかなので、十分であることを示すために「位相解析の基礎」では次の段階を踏む。

(a) $v$ から $\mathfrak{P}(X)$ 全体を定義域とする集合関数 $m^{\ast}$ を、任意の $E{\in}\mathfrak{P}(X)$ に対し


\[
 m^{\ast}(E)=\inf\left\{\sum_{n=1}^{\infty}v(A_{n});{\,} E{\subset}\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n},{\,} A_{n}{\in}\mathfrak{K}{\;} (n=1,2,\cdots)\right\}
\]
とすることで、構成する。そして $m^{\ast}$Carathéodry の外測度であることを示す。

(b) 次に、$\mathfrak{P}(X)$ に要素のうち $m^{\ast}$ 可測な集合全体を $\mathfrak{B}^{\ast}$ とする時、$\mathfrak{K}{\subset}\mathfrak{B}^{\ast}$ であることを示す。Carathéodry の外測度に就いて可測な集合 $\mathfrak{B}^{\ast}$ の全体は、Borel 集合体をなすから (「位相解析の基礎」p.57)、$\mathfrak{K}{\subset}\mathfrak{B}^{\ast}$ と云うことは $\mathfrak{B}=B(\mathfrak{K}){\subset}\mathfrak{B}^{\ast}$ を含意する。

(c) 最後に $m^{\ast}$$\mathfrak{B}^{\ast}$ 上に制限するなら測度となる (「位相解析の基礎」p.57) ので、その測度を $m$ で表すなら、$m$$\mathfrak{K}$ への制限 (これは、つまり $m^{\ast}$$\mathfrak{K}$ への制限と云うこと) が $v$ に一致することを示す。

実は、この最後の (c) 段階の [証明] が、間違っている (勿論、[主張] そのものは正しい)。原文を引用すると次の通り (「位相解析の基礎」p.60)。

(c) $m^{\ast}|\mathfrak{K}=v$ の証明. $A{\in}\mathfrak{K}$ に対して $m^{\ast}(A){\leqq}v(A)$ は明らかであるが、$A{\subset}\displaystyle{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n},{\:}A_{n}{\in}\mathfrak{K}}$であれば、$v$ の可算加法性によって $v(A)=\displaystyle{\sum_{n=1}^{\infty}}v(A_{n}{\cap}A){\leqq}\displaystyle{\sum_{n=1}^{\infty}}v(A_{n})$ である。ゆえに $v(A){\leqq\inf}\{\sum{v(A_{n})}\}=m^{\ast}(A)$ となる。

しかしながら、可算加法性では、可算和を取られる個々の要素の集合は共通部分を持たないこと、つまり

\[
 A_{i}{\cap}A_{j}=\emptyset \quad(i,j=1,2,3,\cdots,{\;}i{\neq}j)
\]
が前提となっている。ところが、この (c) 段階の議論では、これは担保されていない。

勿論、この瑕疵は、初等的なテクニックで回避できる。と云うか、その初等的なテクニックを適用し忘れているので、私はがっかりしたのだ。

烏滸がましいが、その「初等的なテクニック」を書いておく。

\[
 B_{1}=A_{1}{\cap}A,{\quad}B_{n}=(A_{n}-\bigcup_{k=1}^{n-1}A_{k}){\cap}A{\;}(n=2,3,\cdots)
\]
とおくと、当然 $B_{n}{\subset}A_{n}{\cap}A{\,}(n=1,2,3,\cdots)$"" であるが、また、$\mathfrak{K}$ が集合体 (有限加法族) と云う前提から $B_{n}{\in}\mathfrak{K}{\,}(n=1,2,3,\cdots)$ が言える。そして $B_{n}{\,}(n=1,2,3,\cdots)$ の構成法により $n>1$ なら $B_{1}{\cap}B_{n}=\emptyset$ であり $i,j>1,i{\neq}j$ なら、以下の演算で $i<j$ としても一般性を失わないことに注意して
\begin{align*}
 B_{i}{\cap}B_{j} &= \left((A_{i}-\bigcup_{k=1}^{i-1}A_{k}){\cap}A\right){\cap}\left((A_{j}-\bigcup_{k=1}^{j-1}A_{k}){\cap}A\right)\\
                  &=\left((A_{i}-\bigcup_{k=1}^{i-1}A_{k}){\cap}(A_{j}-\bigcup_{k=1}^{j-1}A_{k})\right){\cap}A\\
                  &{\subset} \left(A_{i}{\cap}(A_{j}-\bigcup_{k=1}^{j-1}A_{k})\right){\cap}A\\
                  &{\subset} (A_{i}-\bigcup_{k=1}^{j-1}A_{k}){\cap}A =\emptyset{\cap}A = \emptyset
\end{align*}
そして
\begin{align*}
 \sum_{n=1}^{\infty}B_{n} &= (A_{1}{\cap}A) + \sum_{n=2}^{\infty}\left((A_{n}-\bigcup_{k=1}^{n-1}A_{k}){\cap}A\right)\\
                          &= (\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}){\cap}A = A
\end{align*}

こうして $B_{1},B_{2},\cdots$ は、$v$$\mathfrak{K}$ における可算加法性の前提を満足するから

\[
 v(A) = \sum_{n=1}^{\infty}v(B_{n}) \leqq \sum_{n=1}^{\infty}v(A_{n})
\]
が言える。これから、$v(A){\leqq\inf}\{\sum{v(A_{n})}\}=m^{\ast}(A)$ が導かれるのは原文通りである。

参照: 伊藤清三著「ルベーグ積分」(裳華房。1963年) p.52-53 の定理9.1 (E.Hopf の拡張定理) 及び p.23-24 の定理5.1、特に、その ii)。

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