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Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient) の第2、第3添え字に関する反対称化が満たす恒等式

数式を多く含む文書を作成するのに、気がすすまない状況にあるので、一般相対論的な文脈において、所謂「Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient)」(Cf. "Christoffel symbols - Wikipedia") の3つの添え字の内、反対称性を有する添え字対とは異なる添え字対に就いての反対称化の2倍として定義されるスカラー場に関連する恒等式が「Bianchi の恒等式 (Bianchi identity)」(Cf. Bianchi Identities -- from Wolfram MathWorld)に「似て非なる」ものだったのが面白かったと云う体験の、その「似て非なる」部分だけを書いておく。

多様体は、異なるマッピングによる異なる「アトラス/地図帳」を許容するが、特に、物理的実在としての、一般相対論的な時空多様体は、異なるマッピングにより異なる計量テンソルを伴う場合でも、その間に共変変換が存在するなら、その物理的同一性が担保される。と云うか、話は逆で、そうした複数ありうる「地図帳」が、共変変換で等価に結びついていると云うことが、時空の多様体の物理的アイデンティティの意味だと云うことが、一般相対論的世界の根幹をなす、まさに「世界観」である。

しかし、ある同一の時空多様体のもとで、同一の計量テンソルを伴う地図帳であっても、個々の地図をなす局所基準系ミンコフスキー空間の基底 (所謂「標構」) は一意に決まらない (「地図帳」からとられているので、「標構」は、もとの時空多様体上の「場」をなす -- 「(標構)バンドルでの切断」と云った方が、ヨリ適切だが、ここでは、そうしたことには拘らないことにしよう)。そうした複数ありうる基準系基底 (本稿では、「場の古典論(原書第6版)」に倣って、記号 \vvec{e} を用いて表す) から4組の線形独立なものをとって、さらに、その4組の基底の場が一定の条件を満たす時、それをまさに「4つの組」に意味する「テトラード (tetrad)」(あるいは「テトラッド」) と呼ぶ (「場の古典論(原書第6版)」第98節参照)。

ただし、現在では、"tetrad" と云う用語より "frame field" と云う用語の方が一般的らしい (「枠の場」とも「標構場」とも、さらには「動標構場」とも訳せるが、いずれも語感が悪い。なお、「標構場」と云う用語は実際に使われている)。とは言え、本稿では「場の古典論」に倣って、「テトラード」と呼ぶことにする。

なお、個々のテトラードを構成する4つの基底ベクトルを示すのに、"tetrad" の対応ドイツ語 "Vierbein" の含意、「4本脚」(ドイツ語で「4本の脚」なら、正確には "vier Beine" だろうけれど。。。) を踏まえて、以下、「脚」と呼ぶことにしよう。

4組あるテトラードを識別する添え字を、括弧 (, ) で囲んだラテン文字を、例えば (a),(b),(c),(d) のように用いて、それぞれのテトラードを \vvec{e}_{(a)},\vvec{e}_{(b)},\vvec{e}_{(c)},\vvec{e}_{(d)} と記し、更に、各テトラードの脚となるベクトルの添え字を、括弧で囲わない裸のラテン文字、例えば i,j,k,l で表すことにすると、4組のテトラードの脚となる基底ベクトルを表す記号は \vvec{e}_{(a)}^{i},\vvec{e}_{(b)}^{j},\vvec{e}_{(c)}^{k},\vvec{e}_{(d)}^{l} のような形式となる。

こうした、記号法は、基本的には「場の古典論(原書第6版)」第98節に準拠しているが、そこでは「式を書くとき余りに繁雑になるのを避けるため」(「場の古典論」p.326脚註1) 適宜に行われている括弧の省略を、本稿ではしないでおく。そうすると、テトラードの定義要件を表す関係式は、符号系 (+---) の固定した対称行列 \eta_{(a)(b)} が、場の上の全ての点に対して共通に存在して

\[
  \vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{e}_{(b)i}=\eta_{(a)(b)}
\]
が満たされることと表現される (「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.1))。

勿論、ベクトル場 (1階テンソル場) としてのテトラードの裸の添え字の上げ下げは、計量テンソル g_{ij} 及び、その逆テンソル g^{ij} で行われる (言うまでもなかろうが、「計量テンソル」も正確に言うなら「計量テンソル場」である)。つまり
\[
 \vvec{e}_{(b)i}=g_{ij}\vvec{e}_{(b)}^{j}
\]
である。

また、行列 \eta_{(a)(b)} に対して、括弧で囲われた上付き添え字を有する逆行列 \eta^{(b)(c)} (つまり \eta_{(a)(b)}\eta^{(b)(c)} = \delta_{(a)}^{(c)}) が考えられるのに対応して、括弧で囲われた上付き添え字を有する「テトラードの相反」(「場の古典論(原書第6版)」p.326) が
\[
 \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{(b)}^{i}=\delta_{(b)}^{(a)}
\]
を満たす場として定義される (「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.2))。そして、これから
\[
 \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{(a)}^{k}=\delta_{i}^{k}
\]
が導かれる(「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.3))。さらに
\[
 \vvec{e}_{i}^{(b)} = \eta^{(b)(c)}\vvec{e}_{(c)i}, \qquad \vvec{e}_{(b)i} = \eta_{(b)(c)}\vvec{e}_{i}^{(c)}
\]
も得られる(「場の古典論(原書第6版)」p.326 式(98.4))。

このほか、「場の古典論(原書第6版)」pp.326-327 に示されたテトラードに就いての基本的関係式を書き写しておく。
\begin{align*}
 &g_{ik} = \vvec{e}_{(a)i}\vvec{e}_{k}^{(a)} = \eta_{(a)(b)}\vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{e}_{k}^{(b)} &(98.5)\\
 &ds^{2} = \eta_{(a)(b)}(\vvec{e}_{i}^{(a)}dx^{i})(\vvec{e}_{k}^{(b)}dx^{k}) &(98.6)
\end{align*}
ただし、ds は線素を表す。

また、任意の反変ベクトル \vvec{A}^{i} 及び共変ベクトル \vvec{A}_{i} に対して、個々のテトラードへの「射影」(「場の古典論(原書第6版」) を、例えば、\vvec{e}_{(a)} への「射影」では
\[
 \vvec{A}_{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{A}_{i}, \qquad \vvec{A}^{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{A}^{i} = \eta^{(a)(b)}\vvec{A}_{(b)}
\]
で定義する (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.7))。そして、これから
\[
 \vvec{A}_{i}=\vvec{e}_{i}^{(a)}\vvec{A}_{(a)}, \qquad \vvec{A}^{i}=\vvec{e}_{(a)}^{i}\vvec{A}^{(a)}
\]
が得られる (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.8))。

さらに、スカラー場 \phi$ に対して、各テトラードを基準とする微分 (「場の古典論(原書第6版)」の言い方では「方向に沿う微分」) を、例えば、\vvec{e}_{(a)} を基準とする微分を
\[
 \phi,_{(a)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)}^{i}\pdiff{\phi}{x^{i}}
\]
で定義する (「場の古典論(原書第6版)」p.327)。これは、反変ベクトル場と共変ベクトル場との縮約だから、スカラー場になっていることを指摘しておこう。

「Ricci の回転係数 (Ricci rotation coefficient)」は、例えば、添え字 (a),(b),(c) に対するRicci の回転係数 \gamma_{(a)(b)(c)} が、次のように定義される (「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.9))。
\[
\gamma_{(a)(b)(c)} \coloneqq \vvec{e}_{(a)i;k}\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k}
\]
ここで、添え字中のセミコロン記号 ; は、その後ろの添え字が示す局所座標変数に就いての共変微分を表す。つまり ;kx^{k} に就いての共変微分である。

言うほどのことではないだろうが、この「Ricci の回転係数」も、スカラー場であることに注意。そして、Ricci の回転係数の第2添え字と第3添え字に就いての反対称化 (antisymmetrization) の2倍を、記号 \lambda を使って
\[
 \lambda_{(a)(b)(c)} \coloneqq 2\gamma_{(a)[(b)(c)]}
\]
で表す。あるいは、「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.10) 通りに書くと、次のようになる。
\begin{align*}
  \lambda_{(a)(b)(c)} &= \gamma_{(a)(b)(c)} - \gamma_{(a)(c)(b)}\\
        &= (\vvec{e}_{(a)i;k}-\vvec{e}_{(a)k;i})\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k} = (\vvec{e}_{(a)i,k}-\vvec{e}_{(a)k,i})\vvec{e}_{(b)}^{i}\vvec{e}_{(c)}^{k}
\end{align*}

「場の古典論(原書第6版)」p.327 式(98.11) と式(98.11) では、\gamma\lambda に就いての基本的な関係式が示されている。
\[
 \gamma_{(a)(b)(c)} = \frac{1}{2}(\lambda_{(a)(b)(c)}+\lambda_{(b)(c)(a)}-\lambda_{(c)(a)(b)})
\]

つまり、Ricci の回転係数 \gamma_{(a)(b)(c)} は、3つの添え字の内の1対、つまり、第1番目の添え字と第2番目の添え字に就いて反対称である。\lambda_{(a)(b)(c)} は、Ricci の回転係数の添え字のうち、反対称性を有することを保証されている添え字の対ではない第2番目と第3番目の添え字の対に就いての反対称化の2倍として定義される。

これで、「テトラード」に就いてなじみの無かった方々にも、次の式を見て面食らわないだろうと思う。つまり、Ricci の回転係数の第2添え字と第3添え字に就いての反対称化の、テトラードの脚を基準とする微分に就いて、次の恒等式が成り立つのである。

\[
 3\lambda^{(c)}_{[(a)(b),(c)]} = \lambda^{(c)}_{(a)(b),(c)} + \lambda^{(c)}_{(b)(c),(a)} + \lambda^{(c)}_{(c)(a),(b)} = -\vvec{e}_{(c);i}^{i}\lambda^{(c)}_{(a)(b)}
\]

これを見て分かるように、等式の左辺は Bianchi の恒等式を連想させるが、右辺は、Bianchi の恒等式と異なり 0 になっていない。

私は、この恒等式を、「場の古典論(原書第6版)」p.328 式(98.14) の成立を確認する過程で、気が付いた。と云うことは、この式は、ほぼ確実に既知で、それどころか当該分野では常識化している可能性が高いが、ネットをザット見たところ、それらしい記載は見られなかったので、「『面白い』は、個人の感想です」と、定番 disclaimer を付けた上で発表することにする。

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