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2012年10月の1件の記事

メモ: 都筑卓司 [なっとくする量子力学] 及び [なっとくする統計力学]

たまたま図書館で見かけて都筑卓司の [なっとくする量子力学] (講談社。1994年6月) 及び [なっとくする統計力学] (講談社。1993年11月) を借りてきて通読した。子ども (高校生?) のころ読んだ同じ著者の [マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス 152)]の記憶が懐かしかったからだ。もっとも、今、思いだそうしてみても [マックスウェルの悪魔] の内容はサッパリ思い出せない (新装版が出ているが、これに就いては、私は語るべきものを持っていない)。勿論、[統計力学] に就いての啓蒙書であったのだろうけれども、その後に僅かながらに学んだ物理学の雑多な知識に覆いかぶされてしまっているようだ。要するに、「面白いなぁ」と思ったぐらいの印象しか残っていないのだ。

いきなり脱線してしまって申しわけない。で、その [なっとくする量子力学] と [なっとくする統計力学] なんだが、読後感が「ビミョー」なのだ。形容が難しいのだが、強いて言えば、「物理学者の楽屋話」とでも言いたいことが所どころに書いてあって、他の入門書を読んでいて引っ掛かっる所が、まさに「なっとくする」かたちで書いてある。そして、(最近の入門書では改まっているものを見受けられるが) 初歩的なことを丁寧に書くと、自らの「沽券」に係わるとでも言いたげな発想から自由であるのも好ましい。

しかし、では、他人様(ひとさま)、特に初学者に薦められるかと云うと、到底出来ない。私のような「面白がり」が一種のゲーム感覚で読むと云う、本来の目的からズレている「利用法」ではなく、フツーに物理学の学習の為に読むには、いかんせん、[誤植/校正ミス] が多すぎるのだ。

一般論としては、[誤植/校正ミス] は書籍に付き物なので、基本的にはその価値に影響しない。そして、[誤植/校正ミス] に気付いた時には、必要に応じて、公表し、情報の共有をすればそれで済むだけのことだ。また、私の個人的感想だが、物理学関連の書籍、それも数式が出てくるレベルのものは、[誤植/校正ミス] が他の分野より格段に多い傾向がある。だから、物理学分野では、ある程度の [誤植/校正ミス] には目くじらを立てないようにしている。

しかし、何ごとにも限度がある。

私はザッと通読しただけなのだが、それでも [なっとくする量子力学] では20箇所以上、[なっとくする統計力学] では、60箇所程度の校正ミスが見つかった (あり体に言えば、[なっとくする統計力学] では、著者校を含めて、校正を行なったとは思えない)。私の見落としもあるだろうし、見誤りもあるだろうが、少なくとも 、[なっとくする統計力学] は出版物として失格している。

ただ、言い添えておきたいのは、2冊とも呆れながらも通読できたのは、文章に読ませる底力があったからだ。著者が「物理」を学ぶ楽しさを読者と共有したいと云う思いが伝わってくる。もし [誤植/校正ミス] がなかったら、物理学過程の副読本として優れたものになっていたと思われ、そうした意味で、残念な本なのだ。

「失格」などと書いた以上、幾つか事実を指摘しておく (煩わしいので、全てをあげることはしない。この2つの書籍の場合「情報の共有」の必要性は小さいと思われる。更に、記号の表記上、説明しやすいものだけにしておく)。

まず、「まだマシ」と言える [なっとくする量子力学] では、「量子力学は20世紀の初期30年間に花開いた」とすべきを「量子力学は19世紀の初期30年間に花開いた」とか(p.15)とか、「全体的に」を「全体的もに」(p.77) とか、「磁束密度」を「磁末密度」(p.123) とか、「正式」を「制式」 (p.147,p.177) とか、正弦関数の記号 sin を sim (p.181 の 5.24 式) とか、「相対論」を「相体論」(p.192) とかの一目で見て分かる「可愛いミス」 (その他、例えば「すなわち分解能」を「すなわ分解能」としているような脱字もある。p.198) だけではなく:

  • p.137 で Cr と Mn の量子数が逆 (6←→7)
  • p.177 で、ウィーンの公式及びプランクの公式 (式5.20) の両方で、指数関数の指数に誤ってマイナス符号が付いている。
  • p.178 の式 (5.21) は、変数が ν ではなく λ だから、左辺を U(ν) ではなく、U(λ) にする必要がある。
  • p.179 の式 (5.22) の第1辺で、指数関数の指数のマイナス符号は不要。
  • p.224 の式 (6.41) の左辺のブレース {} 内第3項の分母の sin は2乗でなければならない。(水素原子内のポテンシャルに就いての電子のシュレディンガー方程式。こう云う所で間違えられると本当に落胆する)
  • p.226 の「ラゲール関数」の定義式で括弧内の指数関数の指数 - n は - x としなければならない。
  • p.258 の式 (7.55) の亀甲括弧内の ν(n,m) の後に t を挿入する必要がある。
  • p.260 の式 (7.63) の左辺の縦ベクトルの第1要素 u の下付きサフィックス m は 1m にする必要がある。

[なっとくする統計力学] でも、p.41 の図1.7 でのサイコロの出目3-2が重複しているので、前の方を、出目の位置を逆転して、2-3にする必要があるとか、p.42 で「2のでる確率」を「3のでる確率」とし、また、エントロピーの計算式の2つ目の等号は削除する必要があるとか、p.197 で、ドイツ語 "Zunstandessumme" は "Zustandssumme" の綴り間違いだとか、p.236 の表6.1でコバルトの元素記号 Co の "o" が数字の 0 になっているとか、p.271 で「宇宙船」は「宇宙線」の誤りだとか、p.285 で、2箇所の「フォトン」は「フォノン」にしなければならないとかの、やはり「可愛いミス」もあるのだが (脱字もそれなりにある。例:p.179 て「固体結晶」が「固結晶」になっている。また p.235 で「反強磁性」が「反強性」になっている)、こちらの方は深刻な間違いも多い。例えば、式や図の 引用で番号が間違っているものが幾つかあって、これは見かけよりも重大になりうる。気がついたものを列挙しておくと (「→」がある場合、左側が原文で、右側が訂正したもの):

  • p.53 第2行「図 2.2」→「 図 2.3」
  • p.66 第1行「(2.5) 式から」→「(2.15) 式から」
  • p.95 下から6行目の「図 3.8」→「 図 3.9」
  • p.106 第2行「図 3.13」→「図 3.14」
  • p.295 第1行「(8.28) 式」→「(8.27) 式」
  • p.295 下から12行めの「(8.30) 式」→「(8.29) 式」

ついでに書いておくと、式番号 (3.3) はp.80 と p.81とで重複している。式 (3.14) の計算での引用 (p.91第10行) を考えると、p.80での (3.3) を削除した方が良いだろう。

また、単純な誤記であっても、等閑視できないものがあって(「→」がある場合、やはり、左側が原文で、右側が訂正したもの):

  • p.65 式 (2.17) の最後の 0 → 1
  • p.96 図3.8で「π/4 ステラジアン」→「π/2 ステラジアン」(ちなみに、p.95に言及があって、そこでは「π/2 ステラジアン」と正しく書かれている)
  • p.103 ページ末尾の式中で 0.131 + 10-2 t2 → 0.131 × 10-2 t2 (但し、式そのものが古いデータに拠っているようだ)。
  • p.106 クーロンの法則の式中の2番目の等号は不要。(ため息が出るほど初歩的な書き間違い)
  • p.121 「z 方向の速度成分が w + w + dw」→「z 方向の速度成分が w と w + dw」
  • p.145 式 (4.35) の2番目の等号は不要。

しかし、深刻なのは、式中にひどい書き間違いがあることだ。ある程度数学や統計物理を学んだ経験がなければ、その瑕疵を修復することは困難だろうから。「ひどくないかもしれない」ものもあるのだが、弁別が面倒なので、取り敢えず、「説明しやすいものだけに限る」と云う原則で指摘しておくと:

  • p.56-p.57 指数関数の指数内にある分母の 2a は全て乗数として分子側に移さねばならない。実際、そうでなければ、p.57 の『a が大きいほど (よくひっくり返るほど)、それは「すみやか」である』と云う記述と整合しない。ちなみに、件の微分方程式の解法を「いわゆる変数変化法により」と説明しているが (p.56)、寡聞にして「変数変化法」なるものを私は知らない。知っているのは「定数変化法」と「変数分離法」だけである。そして、ここでの処理は、所謂「変数分離法」である。
  • p.57 指数関数の指数内にある分母の a + b は全て乗数として分子側に移さねばならない。
  • p.71 log p の前にマイナス記号 (-) を挿入する必要がある。
  • p.91 式 (3.14) の第2辺の最後の項の対数関数の変数部分での分数の分子は 1 → x。そして、第2辺の全体に係数 T を追加する必要がある。好ましいのは、冒頭のマイナス記号の後。
  • p.132 式の3行めの積分範囲の上端 α → ∞
  • p.135 式 (4.23) で第2辺の分母にも t を補う必要がある。
  • p.138 左辺が N12 の式。右辺に u を追加する必要がある。最後が適当。
  • p.139 「これを先の衝突回数の式に代入して」の直後の式で、右辺被積分関数内の分母の (2πkT)2 の指数の 2 は 3 に改めねばならない。また、ここでも、右辺に u を追加する必要がある。(a1 + a2)2 の後が適当。
  • p.139 「公式 (2.26-b) を利用して」の直後の式で、右辺の被積分関数内の指数中の分子の式で、μu122μ12u2 と改めねばならない。また、(a1 + a2) の指数を2にする必要がある。
  • p.156 式 (4.56) の第2辺のブレース {} 内の式第2項の (r0/r)6 には係数 2 が必要。
  • p.180 式 (5.6) で左辺第1項係数の分母 8m → 8πm。また、左辺第2項の π には 指数 2 が必要。(「調和振動子のシュレディンガー方程式を間違えるなよ」と、ツッコみたくなる)
  • p.183 式 (5.12) の (hνi/kT) には指数 2 を書き加える必要がある。同様に、式 (5.13) の (hν/kT) にも指数 2 を書き加える必要がある。
  • p.186 式 (5.16) 分数係数の分母中の c には指数 3 が必要。
  • p.191 熱容量 Cv を求める最初の式で被積分関数 (でなくて係数部分でもよいが) h が抜けている。或いは、分子の (hν/kT2) 中の h の指数を2にして (h2ν/kT2) でもよい。
  • p.195 下から3番目の式で、2つの括弧の夫々の内部の式で最初の項の 1 は x にしなければならない。また、2つめ括弧の中の式の第3項 ix5/5! の前はマイナス (-) でなくプラス (+) にする必要がある。
  • p.196 アインシュタインの比熱式の右辺の e の指数の分母分子を逆転する必要がある。つまり T/θEθE/T
  • p.242 式 (6.39) の第2辺の括弧内第2項の分子 c → 1
  • p.264 式 (7.20) の第1行の最後 nklog nk → nk
  • p.271 フェルミ関数の式の分母の最後の項は - 1 ではなく + 1 にしなければならない。
  • p.272 式 (8.1) の分母の指数中の + 1 は指数ではなく指数関数全体に係るように変更する必要がある。
  • p.283 式 (8.17) の右辺最後 (kT/μ) には指数 2 を付け加える必要がある。

その他、注意すべき箇所としては p.158 の第2行の「ところが係数が小さいと」は「ところが係数が大きいと」の書き誤り、そして、p.283 で「第二の積分は ζ 関数とよばれるもので」とあるが、正確には ζ(2) の2倍である (だから π2/3 になる)。

と、長々と書いたが、実は、この2冊の本を通読して、一番興味が引かれたのは物理学的な内容ではなくて、著者のちょっとした思い出話だった。

いささかくどいかもしれないが、似たような例で、将棋の金を4枚振る場合を考えよう。現在のようにゲーム器の発達していない昔 (戦前といったらいいか) には、これを盤上で振って、盤の隅を駒を回し、歩、香、桂……と順次上っていったものだ。2 が一番でやすく、ゼロや 4 はなかなか出なかった。そのためゼロを「夜桜」とよび、4を「お歯黒」などと称して、1度に 20 とか 50 とかすすむことができる……などという特典が与えられていたような記憶がある。
--[なっとくする統計力学] (都筑卓司。講談社。1993年11月) p.44

これは、所謂「まわり将棋」のことだろう。私も、子どものころ、遊んだ覚えがある。ただし、「夜桜」や「お歯黒」と云った「特典」に特典に就いては記憶がない。私は「戦争を知らない子供たち 」の一人だから、戦前のことを云々されると、「そうだったのですか」とでも言うしかない。むしろ、日本語版ウィキペディア [まわり将棋] (最終更新 2012年8月31日 [金] 22:36) で説明されているように、駒が立ったりした場合に特典がついた (もっもと、[ウィキペディア] では「裏向きの(何も文字が書いていない方が上を向いている)金将が4枚揃う」場合のことも書かれている)。

ただし、4枚とも表になることを「お歯黒」と呼ぶのは納得できる。駒の一つ一つを「歯」に見立てているに違いないからだ。現在の殆どのテレヴィや映画では無視しているが (歴史的・社会階層的に変動があるので、極めて大雑把な言い方になるが) 都市における既婚女性 (公家においては女性に限らないと云った話は、ここでしない) は五倍子(フシ)に含まれるタンニンと鉄とを用いて歯を黒く染めていた。東京墨田区で生まれ育った私の母の幼少時代 (おそらく、大正末年から昭和初年) でも、近所にお歯黒をしていた婦人がいたとのことだから、全く遠い過去の話ではないので、戦前の子供たちにとっても「お歯黒」と云う言葉に甚だしい違和感はなかっただろう。

しかし、4枚とも裏になることを「夜桜」と呼ぶのは、何故だろう?

将棋の金将の裏は、[王将/玉将] と並んで、空白になっている。共に「成り金」にはなりえないからだが (飛車・角行が「成って」竜・馬になることは、この文脈では無視してよい)、空白になっていることと「夜桜」とはどう結びつくのか、考えてしまったのだった。

一番単純には、4枚揃った白木の姿が、夜空に浮かぶ桜の花弁を連想させるのかもしれない、といったところだろうが、八重桜は論外として、通常の桜はバラ科の花の通例として5枚だろう。そこで、ネット上で調べもしたが、納得できる結論は出せないままでいる。

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