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2011年11月の2件の記事

メモ:ちくま学芸文庫 [P.A.M. ディラック「一般相対性理論」] 中の誤植及び微妙訳

P.A.M. ディラック「一般相対性理論」(ちくま学芸文庫版) は、拾い読みをしてあっただけなのに気付いて、通読してみた。

百数十ページほどのものだから「通読」は、大袈裟かも知れない。ま、つまりは、最初から順々に読んで行った訣だ。で、「最初から順々に読んで」行くと、これが楽しかった。一般相対論の基本的な式が、次々と鮮やかに導出されていく。

一般相対論の「入門書」としては、微妙かもしれないが、一般相対論の基本的知識を「お浚い」するためには、「絶好」と言えると云うのが、読後感だった。

で、以前、拾い読みした時にも、気が付いたのだが、ちくま学芸文庫版 [一般相対性理論] (P.A.M. ディラック) には、幾つか誤植がある。全て軽微なもので、一読して気が付くから、理解に妨げになるようなことはないだろうが、今回の通読を良い機会としてまとめておく。それから、読んでいて、翻訳が「不馴れ」な感じのところがあって、ところどころで引っ掛かった。これも、気にしなければ気にならないレベルなのだが、ついでだから、そのうちの幾つかを指摘しておくことにする。

1. 第45ページ (第10章) の式


\begin{eqnarray*}
 A_{\mu^{\prime},\,\nu^{\prime}} &=& (A_{\rho}x^{\mu}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}})_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\nu^{\prime}}\\
&=&A_{\rho,\,\sigma}x^{\sigma}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\nu^{\prime}}x^{\rho}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}} + A_{\rho}x^{\rho}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}\nu^{\prime}}
\end{eqnarray*}


\begin{eqnarray*}
 A_{\mu^{\prime},\,\nu^{\prime}} &=& (A_{\rho}x^{\rho}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}})_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\nu^{\prime}}\\
&=&A_{\rho,\,\sigma}x^{\sigma}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\nu^{\prime}}x^{\rho}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}} + A_{\rho}x^{\rho}_{\raise0.5ex\hbox{$,$}\,\mu^{\prime}\nu^{\prime}}
\end{eqnarray*}

とすべき。つまり、式の第2辺の x の上付き記号は \mu ではなく \rho の誤り。

2. 第50ページ (第11章) の2つ目の式の第1行


\[
 A_{\nu:\rho:\sigma} = A_{\nu:\rho\,\raise0.3ex\hbox{$,$}\,\sigma} - \varGamma^{\alpha}_{\nu\sigma}A_{\alpha:\rho} - \varGamma^{\alpha}_{\mu\sigma}A_{\nu:\alpha}
\]


\[
 A_{\nu:\rho:\sigma} = A_{\nu:\rho\,\raise0.3ex\hbox{$,$}\,\sigma} - \varGamma^{\alpha}_{\nu\sigma}A_{\alpha:\rho} - \varGamma^{\alpha}_{\rho\sigma}A_{\nu:\alpha}
\]

とすべき。つまり、右辺の最後の項の \varGamma の下付き記号中の \mu\rho の誤り。

3. 第58ページ (第14章) の下から2行目から最終行にかけての「対称なことは目に見えて明らかであるが」とあるが、「目に見えて」と云う副詞修飾語は「目に見えて改善の跡が見られた」と云うような、「明らかである」ことを表すのに表現に使われる。つまり「目に見えて明らかである」では「明らかに明らかである」と云う重複表現になってしまう。ここは、「対称であるのは一目で分かる」とか、単に「対称であるのは明らかである」とすべきところだっただろう。ちなみに原文は "the other three terms evidently are" (最後に "symmetrical" が省略されている)。

4. 第62ページ (第16章) 第8行の「いうまでもなく m,n のようなローマ字の添字 1,2,3 の値をとる。」とあるが、原文は "Roman suffixes like m and n always take on the values 1,2,3." なのだ。そして、この "always" は「(本書では) 常に」の意味であって、この本の中での添字に就いての規約であることを含意している。「いうまでもなく」と云うのは原文を読み間違えたのだろう。実際、この「一般相対性理論」では、4次元時空座標を表わす添字にギリシャ文字を、3次元空間部分のみを表わす添字にはラテン文字を用いているが、ランダウ・リフシッツの「場の古典論」では逆になっている。「いうまでもなく」ではないのだ。

それから "Roman suffixes" を「ローマ字の添字」としているは、間違いではないのだが、感心しない (せめて「ローマ字」ではなく「ローマ文字」にしてほしかった)。ただ、ディラックの原文 "Roman suffixes" も「ローマン体 (つまり、『斜体』ではなく『立体』) の添字」を意味するとミスリードする可能性があるので、こちらの方も感心しないのだ。私が訳すのだったら「ただし mn のようなラテン文字の添字は、常に、値 1,2,3 を取るものとする」ぐらいになるだろう。

5. 第62ページ (第16章) の下から3行目から2行目の「質点というものは、測地線にそって動くのである. 2次の微小量を省略するから、運動方程式 (8.3) は」と書いてあるが、「質点というものは、測地線にそって動く」とは限らない。揚げ足取りめくので気が引けるが、自由運動していない質点は当然測地線に沿っては運動しないからだ。問題は「質点というものは」と云う限定を排除する表現をうっかり使ってしまったことだろう。しかし、ここでは質点は「自由運動下」と云う限定、つまり、第39ページに書いてあるように「重力以外の如何なる力も受けていない時」と云う限定のもとにあるという文脈で表現しなければならない、「重力以外の如何なる力も受けていない時、質点の世界線は timelike な測地線になる」と云うのが一般相対論の基本的前提だからだ。

そこで原文を参照するなら、それは "The particle will move along a geodesic." であって、"particle" には定冠詞 The が付いており、それを助動詞 "will" が受けていることから、この particle (質点) は、一般的な意味ではなく、現在の文脈の主題である「静的な重力場内で、真空中の光速度と比較して十分ゆっくり移動する質点」を指しており、それがどのように運動するかを叙述するための文であることを意味することが分かる。その内容が「測地線に沿って」と云うことなのだ。

だから、この部分は、その続きを合わせて (原文は "The particle will move along a geodesic. With neglect of second-order quantities, the equation (8.3) gives") 「この質点は測地線に沿って運動する訣だから、2次の微小量を省略するなら、運動方程式 (8.3) から次の式が得られる」ぐらいにした方が良い。

6. 第74ページ (第19章) 第7行-第9行の「いま落下は中心に向かって一直線におこるものとする. そこで v^{2}=v^{3} =0 である. 質点の運動は, 測地線の方程式 (8.3) で決定されるのだ:」は「いま落下は、中心に向かって一直線に起こるものとすると v^{2}=v^{3} =0 となるから、質点の運動は、測地線方程式 (8.3) によって次の式で表わされる:」とした方が良かっただろう。

7.第105ページ (第27章) 下から2行めから第106ページ第1行の「速度は反変ベクトル u^{\mu} の成分の比として記述するほかなく, 計量をもちこまないことには規格化できない」は、文脈に素直に従うなら「速度は反変ベクトル u^{\mu} の成分の比として表わされる訣だから、計量を用いない以上、正規化は不可能になる」とでも訳した方が良かったろう。ちなみに原文は "A velocity is described by the rations of the components of a contravariant vector u^{\mu}, and it cannot be normalized without bringing in the metric."

8.第131ページ (第33章) の (33.8) 式


\[
 \varGamma^{\rho}_{\mu\sigma} = \frac{1}{2}(\mu^{\rho}_{\mu}l_{\sigma} + u^{\rho}_{\sigma}l_{\mu} - u_{\mu\sigma}l^{\rho})
\]


\[
 \varGamma^{\rho}_{\mu\sigma} = \frac{1}{2}(u^{\rho}_{\mu}l_{\sigma} + u^{\rho}_{\sigma}l_{\mu} - u_{\mu\sigma}l^{\rho})
\]

とすべき。つまり右辺括弧内第1項の \muu の誤り。

なおグーグルブックス [General theory of relativity - Paul Adrien Maurice Dirac] でも内容を参照することができる (アクセスの仕方で参照可能な箇所が異なるようだ)。

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一様質量密度球体の内部重力ポテンシャル ([メモ:CERN の所謂「ニュートリノ速度の測定」に就いて。或いは、「いい根性の人々」と「いい面の皮の人々」がいる風景] 補足)

[メモ:CERN の所謂「ニュートリノ速度の測定」に就いて。或いは、「いい根性の人々」と「いい面の皮の人々」がいる風景] (2011年10月25日 [火]) において、次のように私は書いた。

静止している一様密度の球体内部のポテンシャルは、球座標でニュートン・ポテンシャルの積分をすれば、高校生レベルの式の変形 --要するに、余弦公式だが-- を使って求めることが容易に出来る

(今読み返してみると、書き流してあるところがあって、「お恥づかしい代物」だが、今回の記事の主題なので、そのまま引用しておく。)

ところで、良く知られているように [ガウスの定理] や [ポアソン方程式] を用いた議論から、球対称の質量分布が作るニュートン・ポテンシャルが、総体として、ある注目点に与える重力ポテンシャルエネルギーは、その注目点と球中心との間の距離のみに依存し、更に具体的には、球の中心からその距離以内に存在する質量の全てが球の中心に存在する場合に、その注目点に与えるニュートン・ポテンシャルエネルギーに等しい。この事実を用いるなら、「一様(質量)密度の球体内部の(重力)ポテンシャル」の計算は、それこそ暗算レベルで可能である。

ただし、ポアソン方程式の引用には非本質的ながら説明が面倒な「躓きの石」がある。それはポアソン方程式は、通常の「理科系」の人々は、電磁気学のコースの中で出会うのが最初で、ひょっとすると最後かも (或いは、その形式だけを覚えいているだけかも) しれないと推定されることだ。実際、上記の事実と等価な問題が大学初年級の電磁気学で登場するのだが、それは、誘電体に分布する静電気が作る静電場ポテンシャルの計算の形で、「理科系大学生」なら「身に覚えがある」筈である。ただ困ったことに、現在の教育ではマクスウェル方程式が SI 単位系で表現されるため、静電場ポテンシャルに対するポアソン方程式に円周率があらわに出てこないので、現在の文脈との整合性を取ろうとしたら、単位系の話を僅かながらでもしなければならないだろう。これは私にはひどく「メンドー」だったので、そちらの方には話を進めなかった。

しかし、記事中、2パラグラフ前で「地心重力定数」を用いた段階で、「球対称の質量分布が作るニュートン・ポテンシャルが、総体として、ある注目点に与える重力ポテンシャルエネルギーは、その注目点と球中心との間の距離のみに依存し、更に具体的には、球の中心からその距離以内に存在する質量の全てが球の中心に存在する場合に、その注目点に与えるニュートン・ポテンシャルエネルギーに等しい」ことを議論の前提として用いてしまっている。

我ながらマヌケな限りで、申しわけないが、しかし、とんだところに北村ポアソン、こんな剽軽者に出られちぁ、仕方がねぇ。濡れぬ前(さき)こそ露をも厭へ、で、「事実」を当然のこととして、その前提のもとに問題のポテンシャル式を導出しておく。

一様な質量密度 ρ の球体があって、その半径を R とする時、0 ≤ rR に対して、球体の中心から距離 r での引力場は、「事実」により [(-4/3)πGρr3r2 = (-4/3)πGρr である (ただし、G は万有引力定数)。従って、これに対応するニュートン・ポテンシャルは、これを r に就いて積分したものになるから (2/3)πGρr2 (万有引力は r の減少方向に力が発生するので、ポテンシャルに係る符号は +)、その積分定数は r = R の時には、そのポテンシャルの値が、球体全体の作る重力ポテンシャルの球面上の値 (-4/3)πGρR2 と一致することで決定される。従って、求めるポテンシャルは -2πGρ(R2 - (1/3)r2) になる。

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