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2011年10月の1件の記事

メモ:CERN の所謂「ニュートリノ速度の測定」に就いて。或いは、「いい根性の人々」と「いい面の皮の人々」がいる風景

既に旧聞に属するが「ニュートリノが光より速く移動する」ことが分かったので「アインシュタインの特殊相対性理論が覆された」と云った話題がネットの一部で流れて、その余響のようなものは今だに残っている。

2次情報ではあるが、一応まともな所は、雑誌 Nature 電子版の [Particles break light-speed limit : Nature News] (2011年9月21日) あたりだろう。それ以外では「盛り上がり方」は [スラッシュドット・ジャパン] の [CERN、ニュートリノの超光速での移動を計測] (2011年9月26日) 及び [光速超えのニュートリノ、米フェルミ研究所で再検証へ] (2011年9月28日) を見ると、あらましは分かる。

それによると「ニュートリノは光より 0.0025% 速い」(CERN、ニュートリノの超光速での移動を計測) と云う結果が得られたことになっている。0.0025% つまり、真空中の光速度との相対比にして 2.5×10-5 だが、これは「異常に」大きい値であることは、まず注意しておいて良いだろう。19世紀に行なわれた マイケルソン・モーリーの実験 が検出しようとした「光速度の変化」が、ホボこのオーダー (1.0×10-4) だった。嫌味な言い方になるが、今回の CERN の実験結果は「前前世紀臭」がする。なお、後で引用することになると思うので、指摘しておくと、この実験の直接的な結果は、「μニュートリノを約 730km の基線に沿って飛行させた所、同距離を真空中の光速度で飛行したと想定した場合の飛行時間より、約 61ns 短かった」と云うものである。

しかし、私は、「アインシュタインは間違っていた」型の話題が苦手で、更に言うなら、そう云うことを得々として主張する人間と議論するのはもっと苦手だったりする。

第一の男:「アインシュタインは間違っていた。それが分かるオレはアインシュタインが問題にならないくらいの天才だ。神がおれにそう言ってくれたから確実だ。」
第二の男:「デタラメなことを言うな。何時、オレがオマエにそんなことを言った。」

と云う会話の「第一の男」には勿論、「第二の男」にもなりたくないのだな。

だから、この手の話題は放置しておくことにしているし、実際、そうしかけたのだが、話題の出所が CERN ( この略称は、現在の組織の設立準備理事会のフランス語名称 "Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire" に拠る。現在はフランス語名は "l'Organisation européenne pour la recherche nucléaire" 英語名は "European Organization for Nuclear Research" 現在名の和訳は二・三あるようだが [欧州原子核研究機構] と云うウィキペディアの見出し名が順当な所だろう) となると、ほうってもおけまいと云う気になってしまった。CERN の研究者 Timothy John Berners-Lee (ティム・バーナーズ=リー) 及び Robert Cailliau (ロバート・カイリュー) が開発した "World Wide Web" (WWW) があればこそ、現在の「インターネット社会」が成立したのだから (参考:"WorldWideWeb: Proposal for a HyperText Project")。

そう云う訣で、論文 (プレプリント) [[1109.4897] Measurement of the neutrino velocity with the OPERA detector in the CNGS beam] をダウンロードして読み始めた。そして、内容を纏めながら半分ぐらいまで読んで行ったのだが、そこらへんで挫折してしまった。

有り体に言えば、「間違い探し」をしながら読んだ訣だが、自分の無学を棚に上げるなら、私には、この「異常性」の理論物理学的な要因を発見できなかったのだ。結局、実験実行者達の実験結果への信頼性の保証に関らず、「実験手順又は実験仕様の誤りと云った人為的要因ではないか」と云う極めてアリガチな「感想」しか思いつけなかった。そうした中途半端な気持ちで断案を下すなら「大火傷」を負うことになりかねない。「沈黙は金」を実践した方が良い、と云うのが結論だった。

しかし、その後、仄聞する情報では、この実験に就いて、一報以来、今だに基本的な事実の了解が行なわれないままでいるらしかった。

その点は指摘しておいても良いだろうと、思い直して、この原稿を書き始めている。問題の論文に就いて釈然としないままであるので、歯切れの悪い話になると思うが、それは予めご了承願いたい。殆ど雑談であるので、このブログでの数学や物理に就いて記事でシバシバ行っている TeX を用いて作った数式の画像を嵌め込むようなことはせず、html のタグで処理する。つまり、その程度 (私のような頭の悪いものでも、電卓を使えば済む程度。頭のいい人なら暗算で間に合うだろう) の議論しかしない。

まず第一に言わねばならないことは、この実験は、何ら相対論を否定するものではないことだ。それどころか、以下述べるように、相対論が正しくないと、実験自体が無意味になってしまうのだ。

この実験で μニュートリノの「飛行速度」と呼ばれているものは、 μニュートリノの CERN における出発点 (正確には、その上流の中間子の発生箇所) の位置と、OPERA における μニュートリノ検出器の位置とを GPS を用いて、ETRF2000 (European Terrestrial Reference Frame 2000 「欧州地球基準配置系2000」。ヨーロッパをカバーする地球中心地球固定座標系 (Earth-Centered, Earth-Fixed coordinates/ECEF) である「欧州地球基準座標系1989 European Terrestrial Reference System 1989 (ETRS1989)」に実際の観測局の位置を配置したもの) の3次元直交座標 (ユークリッド空間) 内に配置して、その2点間の距離 (基線長) をμニュートリノの「飛行距離」とし、一方、協定世界時による中間子生成用プロトンビーム射出時点 (幅がある。また、複数の機器間で信号遅延が発生する) と μニュートリノの検出時点 (これも幅があるし、複数の機器間での信号遅延が存在する) との差を「飛行時間 /time of flight (TOFν)」として「距離÷時間=速度」を求めていることだ。まるで小学校の算数だが、それは、取り敢えず措いておくことにして、GPS 及び欧州地球基準座標系 (一致していた状態から徐々にズレてきているとは言え、国際地球基準座標系 International Terrestrial Reference System/ITRS に準拠する) にしろ、協定世界時にしろ、相対論 (特殊・一般) を基盤として構築されているシステムなのだ。

つまり、現行の測地系が基づいている国際地球基準座標系は、極めて大雑把に言えば、地球近辺の時空、更に言うなら地表近辺の時空を、相対論的効果のうち一般相対論固有の部分をシステムの土台部分に組み入れてしまって目立たないようにしてしまい、真空中の光 (電磁波) の速度が慣性系の選択に依存しないと云う特殊相対論的効果 (と言うか「原理」だが) だけに着目できるようにすることで GPS 衛星の発信する電磁波を方向に依存しない「物差し」として用いて測位を行えるようにしてある (基本は、「測位」であって「測距」ではない)。

だから、相対論が正しくないと、この実験の言う所の「速度」の数値の如何に関わらず、測定行為成立の前提が存在しないことになるのだ。

その前に、微分概念である「速度」に対して、「(無限小ではない) 飛行距離 ÷ (無限小ではない)飛行時間 = 飛行速度」と云う発想や、SI における定義値である「真空中の光速度」及びそれから「固有時」を使って逆定義されている距離の概念を在り方を無視していること自体がダメダメなのだが、これは不問にしておこう。

よく知られているように、特殊相対論内においては「光速度不変の原理」から「通常物質」(質量が 0 又は正の物質) は、真空中の移動速度が「真空中の光速度」を超えることがないことは簡単に導かれるから、今回の実験結果の解釈を「μニュートリノの真空中での固有時で計った移動速度が、真空中の光速度を超える」とするなら、それは、特殊相対論が破綻したことが導かれるのではなく、むしろ「μニュートリノは通常物質ではない」ことが導かれることになる。

この「μニュートリノは通常物質ではない」が何を意味するかは分からない (実際、今回の実験結果が「誤り」であるなら、何も意味しない)。しかし、例えば「μニュートリノの質量は 0 でも正でもなく、虚数である」と云うことになるのではないか。その場合、「破れた」のは特殊相対論ではなく、「μニュートリノの質量は正である」と云う OPERA プロジェクト本来の目的であり、肯定的に主張されたその結論と云うことになるだろう。それを否定することになりうる結果を発表した、今回の論文の執筆者達は、なかなか「いい根性をしている」と言うべきだ。

余談だが、この論文の執筆者達は、もし、「μニュートリノの質量は正であるが、それでも真空中の光速度を超えた可能性がある」と云う主張であるのなら、自由光子はヌル測地線に沿って運動し、質量正の自由質点は (ニュートリノの反応性は小さいから、ほぼ自由質点とみなしうる) 時間性測地線に沿って運動すると云う一般相対論の基本仮定との整合性をどうとるつもりなのだろう。私に言わせるなら、この2種類の測地線における「速度」の比較には、あまり意味がないように思える。

話を進める前に、注意しておくと、この「協定世界時」の対応英語は "Universal Time, Coordinated" (略称は UTC だが、他にも "Coordinated Universal Time" と云う言い方もあって、この場合は CUT になる) である。つまり「世界時」とは "Universal Time" である。そして、UTC を含む、世界共通の時刻系 (例:グリニッジ標準時) を "world time" と呼ぶことがある。これは、そのまま「世界時」になるが、紛わらしいことに、一般相対論で登場する「世界時間」(定常時空全域に適用可能な時間性パラメータ) と云う用語の対応英語が "world time" なのである。そして、この記事の文脈では「協定世界時」と一般相対論での「世界時間」は関係している。つまり、本来は非慣性系である地球中心地球固定座標系 (ECEF) に基づいているのにあたかも慣性系であるように扱うのだから、それに対応して一般相対論的な用語としての「世界時間 "world time"」が付随することになる。一般相対論的には、「世界時間」は一意的ではあり得ないが、実際上・実験上有用な「世界時間相等のパラメータ」として「協定世界時」を用いることは可能である。この点に留意しながら、以下を読まれたい。

これも余談だが、一般相対論では世界時間で表わした光の速度は、所謂「(固有時間で表わされた) 真空中の光速度」を上まわることも下まわることもあるのは良く知られている。だからこそ、一般相対論的時空、つまり我々の宇宙では、光の赤方偏移や重力レンズ効果が発生するのだ。
くどくも言うように、μニュートリノの世界時で計った速度が「(固有時間で表わされた) 真空中の光速度」を超えても、一般相対論的には別に不思議ではない。問題は、その「差」なのだ。今回の実験結果は異常に大きい。日常生活で気にする人は気にするかもしれない1日に1秒の誤差 (1ヵ月で約30秒) でも相対比 1.2×10-5であることを思えば、相対比 2.5×10-5 と云う「誤差」が如何に大きいか、ある程度想像できるのではないか。

しかし、上記のように本来非慣性系であるものを慣性系に擬製する訣だから、どこかに「ムリ」が出てくる。それが、廻りまわって今回の実験結果を引き起こしたのではないかと考えるのは自然だろう。ところが、実際に見積もってみると、そうした一般相対論的効果、そして、更にはGPS 衛星の飛行線速度によるなどの特殊相対論的な効果は、今回のような「大きな誤差」を引き起こすには小さすぎることが比較的簡単に分かる。

例えば地上約 20200km の軌道にあるGPS 衛星に搭載されている原子時計の時刻情報を地上に向けて発信する際、地上との重力ポテンシャルの差を (特殊相対論的な効果もあるが、一般相対論的な重力ポテンシャル差の効果が卓越する。勿論、正確にはその両者の影響を合算して) 考慮に入れて時間の進みを遅らせてている訣だが、そのオフセットは相対比にして 4×10-10 である。逆に言うと、このオフセットを入れないと、地表での世界時間を基準にする限り、GPS 衛星からの電波は真空中の光速を超えてしまうわけだが、それは相対比 4×10-10 と云うことになる。

更に言うなら、地心重力定数が大雑把には 4.0×1014 m3/s2 (参照:平成23年度理科年表p.77) だから、それを地球半径 6.4×106 m と真空中の光速 3.0×108 m/s の2乗との積で割った 6.9×10-10 ぐらいが、地球の全重力ポテンシャルが引き起こしうる、地球外部の (真空中を通ると想定した時の) 光の速度の相対的変動への寄与の上限といってよい。

では、今回の実験のように地球内部を (但し 「真空中を通る」と想定した上での) 光の速度への、重力ポテンシャルの影響はどうか。この「見積もり」の為には、地球内部での一般相対論的線素が必要になるが、この記事の [ただの雑談] としての性格では、一番単純なモデルとして、一様な密度を有し一様な角速度で回転する球体を取り上げることが許されるだろう。

もしこのモデルで角速度が 0 である場合、つまり静止している一様密度の球体内部のポテンシャルは、球座標でニュートン・ポテンシャルの積分をすれば、高校生レベルの式の変形 --要するに、余弦公式だが-- を使って求めることが容易に出来る (この記事では、極簡単な数式以外は使わないと云う原則に従って、ここでは表記しないが興味がある方は [場の古典論 (原書第6版)] p.332 の脚註を参照されたい)。

で、このようにモデル化した地球内部の重力ポテンシャルの差は、最大で (地心と地表との間) で、地球外部での最大の差 (無限遠点と地表との間) の半分にしか成らないことが一目で分かる。つまり、地球内部を (ただし、「真空中を通る」と想定した上での) 光の速度の変動分の上限は、相対比にして 3.5×10-10 であると云うことだ (地心から距離はCERN と LNGS とでそれ程違わないから、一応取り敢えず地表にあるものとして、三角法で計算すると、基線はせいぜい地下 11km弱以上には深くならないだろうことが分かる。これに CERN や LNGS の施設が地下にあることを考慮に入れても、基線の深度は地下 15kmを超えることはないとして良いだろう。従って、実際の重力ポテンシャルの影響は、これより遥かに小さい)。この実験における、 相対比 2.5×10-5 とは5桁 (実際には、更に大きく) 異なっているのである。

角速度が 0 でない場合へは、変数変換を行うことで簡単にできるが、その形で議論することはしない。出来上がった線素2次形式をみるなら、個々の要因が協動して予想外の大きさの影響を及ぼすとは思えないから、一つ一つの要因の結果が、それほど大きくはなりえないことを確認するだけで、この記事の趣旨に沿った議論が得られるからだ。

つまり、空っぽな空間を回転座標系で表わした時の、「光の速度」への影響を考えることになる訣だが、これはこのブログで何度か取り上げて来たサニャック効果 (この局面では "Einstein Synchronization" と呼んだ方が正確かもしれない) である。GPS 測位では、GPS 受信器側で、サニャック効果の処理をしている筈だが、何からの理由で、その補正が脱落してしまっていた、乃至は、過補正が行なわれて μニュートリノ の「飛行時間」を「実際」より短く算出したと云う可能性も考えられる。

しかし、こうした「サニャック効果/Einstein Synchronization」の「あったかもしれない」寄与も十分大きいとはいえないのだ。このブログの記事 [一般相対論によるサニャック効果の導出] (又は [場の古典論 (原書第6版)] pp.283--284) でのサニャック効果の計算式をみるなら、赤道上を1周した時の値の表式は頭の中で簡単に変形できて、「[1日の秒数] の逆数」を「[真空中の光速度で赤道周囲を移動した時の1秒間の周回数] の2乗」で割ると云う計算をすればよいことが分かる。つまり、1日を大雑把に 86400秒とし、1秒間に光が赤道を 7.5 周すると云う日常常識的な数値を当てはめるなら、(私は電卓を使ったが) 206ns と云う時間が得られる。

ただしこれは、径路が赤道全体に亘る場合である。「サニャック効果/Einstein Synchronization」は、径路自体及び径路の両端と回転軸とを結ぶ線分が作る図形の赤道面への投影図形の面積に比例する。ここで、CERN (46°14'3"N; 6°3'10"E) と LNGS (42°27'36"N; 13°34'12"E) は経度にして約 7.5度離れており、両者の緯度が北緯 45度近辺であることから、係数として (7.5/360=1/50) と (sin2 45° = 1/2) とを掛けて、目の子勘定ではあるが、CERN と LNGS への移動した時の「サニャック効果/Einstein Synchronization」は大体 +2.1ns と見積もられる。

勿論、サニャック効果は GPS 信号にも影響する。その値は地上のCERN 及び LNGS と個々の GPS 衛星の位置関係によるが、極めて大雑把には (ただし多めに見積もって)、地上での移動に対し、[地表と衛星間の距離]/[地軸とCERN/LNGSとの間の距離] 倍、つまり約 4.5倍になるだろう。これは 9.5ns 程度の大きさになる。

この 2.1ns と 9.5ns との両者が、「何らかの原因」で、μニュートリノの見かけの飛行時間を短縮させる原因になったとしても、それはせいぜい 12ns 程度にしかならない。

その他、遠心力ポテンシャルの差の効果や、特殊相対論的な CERN と LNGS の地球自転に伴う線速度の差による効果も有りうるが、それらも無視可能である。

実は、2011年10月10日のスラッシュドット・ジャパン に [光速超えのニュートリノ、原因は時計の同期にあり?] と云う記事も現れた。原論文 [[1109.6160] The OPERA neutrino velocity result and the synchronisation of clocks] をザッと読んでみたが、前半部分はともかく、後半になると従いて行けなくなった。このブログ記事と同様、重力ポテンシャルやサニャック効果について論じているが、地球楕円体の重力ポテンシャル (地球ポテンシャル) から CERN と LNGS との重力ポテンシャル差を計算するのは、それなりに緻密だが、「それによる時間遅延が 4日間集積すれば 30ns程度になる」と云うあたりで、首を傾げてしまう。この 30ns と、その他考えれるモロモロの要素(実際に列挙されているが、その結果となりうる具体的な数値は与えられていない) から [時間差 60ns] (実際の原論文の値は 60.7ns) は説明可能であると云う結論なのだが、取り敢えず「『4日間』てなんなのだ」とツッコみたくなる。4日間で 30ns集積するなら、400日間では 3ms集積するわけで、足掛け3年に亘るこの実験の結果を説明するにはふさわしくないだろう。

「結局分からなかった」と云うのが私の結論である。要するに、この論文に対する正しい反応は「無視するか、ノーコメント」又は「実験の再実施又は再検討を待つ」だろう。このブログ記事のように、「初めから分かり切ったこと」と言われかねない内容をワザワザ文章化するのは、大馬鹿者だ。しかし「いい面の皮」になってしまっている人たちが跡を絶たない以上、大馬鹿者が馬鹿なことを言う必要もでてくると云うものだ。

ただ「お調子者達」ばかりを責める訣にはいかないのではないか。CERN のプレスリリース "OPERA experiment reports anomaly in flight time of neutrinos from CERN to Gran Sasso" を読むと、如何にも、と言うか、如何さま的に、と言うか、「特殊相対論の危機!!」っぽいことが匂わしているからだ。

以前書きかかって、挫折した原稿から、今回の実験設備に関る説明の部分を編入しておく。上記の議論とはホボ無縁だが、周縁知識ぐらいはなるだろう。

その要旨を私なりにまとめると、ジュネーヴ郊外 (スイス・フランスに跨がる) CERN の Super Proton Synchrotron (SPS) で、運動量 40GeV/c (ギガ電子ボルト/真空中の光速度) に迄加速した陽子をキッカー電磁石で、ビームバッチとして取り出して、50ms 間隔で炭素標的 (2m の長さのグラファイト) に当てることで π中間子 (pion) 又は K中間子 (Kaon) を発生させ、その崩壊から得られる μニュートリノを CERN から 約 730km 離れたイタリア中部のグラン・サッソ (Gran Sasso) にある [グラン・サッソ国立研究所 "I Laboratori Nazionali del Gran Sasso (LNGS)"] のニュートリノ検出装置 OPERA ("Oscillation Project with Emulsion-tRacking Apparatus" の略。本来は μニュートリノから τニュートリノへの「ニュートリノ振動」を直接検出して、もし検出できたらニュートリノが正の質量を有することを証明できると云うこと目的で建造されたものである。そして2010年には「ニュートリノ振動」検出の報告がなされている) に向けて発射する。

SPS からの陽子ビームを導出するためのキッカー電磁石ヘのトリガー信号には、GPS 受信器によって得られた協定世界時 UTC のタイムスタンプが付けられる。陽子ビームバッチの継続時間は、10.5μs であり、その波形は SPS の稼働周波数 500kHz に応じた 5 つのバンチからなるが、更に 500kHz 振動に重ね合わされた 200MHz の信号 (周期 5ns) に応じた微細構造を有する (p.6第4図)。

この陽子ビームの波形は、炭素標的の上流にある高速ビーム電流変換検出器 Beam Current Transformer (BCT) detector BFCTI400344 により精密に検出され、それが秒速1ギガサンプル (1GS/s) の波形デジタイザ Wave Form Digitizer (WFD) Acqiris DP110 により読み取られ、上記の UTC タイムスタンプをタグとして付けられて、CNGS データベースに入れられる。この波形データは、OPERA 側でニュートリノ検出が認められたバッチの波形のみを重ね合わせて正規化することで、陽子ビーム波形の確率密度関数 (probability density function/PDF) とする。

陽子ビームが炭素標的に達すると、陽子と炭素原子核との間に [ハドロン核反応] の一種である p+C 反応が起こって、2次粒子として荷電 π中間子又は荷電 K中間子が発生する。荷電中間子は、陽子から2次粒子への変換効率をモニターする為の TBID (Target Beam Instrumentation Downstream) 検出器を通過してから、電磁石 (2段のホーンからなる。第2段ホーンはレフレクタと呼ばれている) により集束させれて、中間子間の相互作用の可能性を下げる為にヘリウムバッグを通される。その後、中間子ビームは 1000m長の真空トンネルを通過するが、π中間子、K中間子とも寿命が十分短いので、真空トンネル通過中に、ほとんどが、荷電 π中間子は荷電 μ中間子及びニュートリノに崩壊し、荷電 K中間子は、何種類かの径路の何れかを通って、荷電 μ中間子及びニュートリノに崩壊する (K中間子の場合は、陽電子や反 μ中間子、反ニュートリノになる崩壊過程も存在する)。こうして得られるニュートリノビームが実験に使われたのである (ニュートリノ以外のハドロンや μ中間子は、ハドロン遮蔽ブロック (Hadron stop) や軌跡の相違を利用してビームから除去される)。ハドロン遮蔽ブロックに後続して、捕捉し切れなかったものの軌跡がニュートリノビーム方向から外れた μ中間子を検出するための検出器がタンデムに2台設けられている。 OPERA に到達したニュートリノビーム (半値全幅:2.8km) は、平均エネルギー 17GeVを有し、ほぼ μニュートリノからなるものであった。反 μニュートリノの混入率は 2.1%、電子ニュートリノ及び反電子ニュートリノは合わせても 1%以下だったと云う (p.5)。

OPERA ニュートリノ検出器は、1対の同一構成のモジュールからなる。各モジュールは、重量約 625トンの標的区画と後続する磁気 μ中間子分光器で構成される。各標的区画は、エマルジョン・フイルム/鉛シート製のパネルとプラスティック製のシンチレーター・プレートが繰り返される積層構造をしている。このシンチレーターとニュートリノとの相互作用による発光が、クラレ製の波長変換 (WaveLength Shifter/WLS) ファイバ Y11 を介して浜松ホトニクス社製 64チャンネル光電子増倍管 H7546 により検出されるのである (p.4)。

勿論、個々のニュートリノの発生時点は特定出来ないから、特定のニュートリノが CERN から OPERA への飛ぶのにかかる時間の正確な測定は不可能である。しかし、各陽子ビーム内の陽子の時間分布は詳細に観測されている。この陽子ビームに対応するニュートリノ・ビームの検出器での発光 UTC 時刻も正確に測定されて、その統計データを得られる。CERN データの時間基準を、CERN から OPERA への真空中の光速度で移動した場合の所要時間ずらすなら、これは OPERA データと相関性がある筈である。

この論文の執筆者の立場では、この実験で基本となるデータは、ニュートリノの「飛行時間」と「飛行距離」とだが、「飛行時間」は GPS をコモンビューモードで用いて、つまり同一の GPS 衛星からの信号で地上の時計の較正を行うことで、地上側の時計の同期を取っている。また、飛行距離、つまり基線長に就いては、あまり詳しくは書かれていないのだが、OPERA に就いてはグラン・サッソに2つの GPS 基準点を設けて、そこから更に測量を行なったらしい (pp.9-10)。

つまり、この基線長から計算される、真空中の光速度に対応する時間間隔が TOFc と記されて、δt = TOFc -TOFν を変化させて、CERN の陽子ビーム強度時間変動データと OPERA のイベント時間分布データを比較した時、最尤 (maximum likelihood) 推定量が δt = 60.7ns になったと云うのが、この論文の結論なのだ (p.3要約。p.7等)。

なお、この論文の p.3で、小柴チームよる超新星 SN 1987A (地球からの距離164000光年) 由来のニュートリノ・バーストが観測結果から、光と 10 MeV レンジのニュートリノとの速度の相対差が 2×10-9 未満と見積もられると、書かれているが、それが、SN 1987A からのニュートリノ・バーストが観測されたのが、可視光による超新星爆発確認の3時間前だったことによる計算 (3/(164000×365.2422×24)= 2.0868...×10-9) であるとするなら、意味がない。両者が地球で観測されたと云うこと自体が、両者の行路が大略一致していたことを示しているとは言え (勿論、経路が相当異なっていた可能性も否定できない)、両者が、SN 1987A を「同時」に出発したかは不明であるからだ。

まぁ、話を振り出しに戻すようなことを言うが、「実は信号遅延の見積もりミスでした」とか「GPS 受信器による UTC 同期がズレていました」、果ては「基線長を計算違いしていまして・・・」と云う大爆笑もののチョンボであることもありうるのでね。あんまり、あれこれ考えても仕方が無いような気がする。

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