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埼玉県越谷市 [慈眼寺] の地口行燈

もう一昨日になってしまったが2011年8月16日の [@nifty:デイリーポータル Z] の 記事 [お寺プロレスに行ってきた] ([大坪ケムタ] ) で、埼玉県越谷市の [慈眼寺] (埼玉県越谷市 大字大泊104番地) で行なわれた「お寺プロレス」が紹介されていた。

その概括的情報に就いては [8月7日はお寺プロレス!|プロレス文藝] から得られるし、また、その内容の詳細は大坪さんの上記記事そのものに依っていただきたいが、実は、私が一番興味深く思ったのは、「プロレス」ではなくて、慈眼寺の「お祭り仕様」の一例として取り上げられていた、大坪さんの言う所の「あちこちに貼られたむだ絵風な何か」であり「なんとなく風流ではあります」と形容されている [地口行燈] (地口行灯) だった。

「地口行燈」に就いては、都筑道夫が [なめくじ長屋捕物さわぎ] 中の一篇「鶴かめ鶴かめ」の中で、次のように叙述している。

 親方がいうと、行燈に地模様を書いていた職人が、立ち上がって、奥の障子をあけた。下駄常とセンセーが入ってみると、八畳の座敷が、行燈で埋まっていた。行燈は上のほうに、地模様だけが書いてある。波を逆さにしたような、というか、雲がたれさがったような模様で、甕だれ霞 (かめだれがすみ) という。それが、赤と紫とで二段、さっと刷毛でなすってあって、もう乾いていた。

畳のあいてあるところには、赤い毛氈が敷いてあって、二十五、六の女がその上で、墨と朱と緑の皿をわきに、行燈を前において、絵を書いている。墨の筆で、いま書きおわったのは、大きな口をあいて、だんごを食っている男の絵だった。顔じゅう口のようで、だんごがひとつ残った串のさきが、頬をつらぬいている。次の余白に、

   だんご食ふ口に串の槍

と、女は書いた。センセーは微笑して、

「ふむ『三国一の富士の山』か。ちと苦しいが、絵は面白いな。ひと筆がきのような略画なのに、ちゃんと動きがある」

--光文社時代小説文庫 [いなずま砂絵] (都筑道夫。pp.14-15)

慈眼寺の地口行燈は (変体仮名を現代風のかなになおして書くなら)、「小鬼ハッテすべってころんだ」(左)と「ほおづきさまいくつ」(右) とで、出典は、ともに古童謡の「お月さま幾つ」であって、岩波文庫の [わらべうた] にも所収されている有名なものだ (「センセー」の顰みに倣えば、どちらも「ちと苦しい」)。ただし、岩波文庫版では「ほおづきさまいくつ」の元になっている「お月さま幾つ」が、「お月さん幾つ」になっているのはともかく、「小鬼ハッテすべってころんだ」の「小鬼ハッテ」の元である「氷張って」が欠けている (註では、江戸時代の学僧 [釈行智] の [童謡集] に「油屋の縁で、氷がはつて」と云う例が見られることが指摘されている)。

ちなみに、「小鬼」の方は、東京都小平市の [Japan 小平グリーンロード 灯りまつり] でも、そっくりの物が飾られている。

[釈行智] の [童謡集] に収めれていることから分かるように [お月さま幾つ] は、少なくとも江戸時代に遡れる童謡で (北原白秋が作者だとクレジットしている記事がネット上で見られるが、白秋は採録・編集しただけだろう) 日本各地でヴァリアントがあるようだ。しかし、ネット上でザッと調べてみたが、「お月さま幾つ」と「氷張って滑って転んで」とを両方含む例が見つからなかった。あるいは、[釈行智] の [童謡集] のものが、そうなのかもしれないし、また、埼玉県越谷市に、そうした例が存在するのかもしれないが、それも確認できなかった。

仕方がないので、取り敢えず、[青空文庫] から北原白秋採録のものを引用すると

お月 (つき) さまいくつ。
十三 (じふさん) 七 (なな) つ。
まだ年 (とし) や若 (わか) いな。
あの子 (こ) を産 (う) んで、
この子 (こ) を産 (う) んで、
だアれに抱 (だ) かしよ。
お万 (まん) に抱 (だ) かしよ。
お万 (まん) は何処 (どこ) へ往 (い) た。
油 (あぶら) 買 (か) ひに茶 (ちや) 買 (か) ひに。
油屋 (あぶらや) の縁 (えん) で、
氷 (こほり) が張 (は) つて、
油 (あぶら) 一升 (しよう) こぼした。
その油 (あぶら) どうした。
太郎 (たろう) どんの犬 (いぬ) と
次郎 (じらう) どんの犬 (いぬ) と、
みんな嘗 (な) めてしまつた。
その犬 (いぬ) どうした。
太鼓 (たいこ) に張 (は) つて、
あつちの方 (はう) でもどんどんどん。
こつちの方 (はう) でもどんどんどん。
(東京)
--北原白秋 [お月さまいくつ]
また[NPO法人日本子守唄協会] では山口県玖珂郡錦町に伝わる [お月さんなんぼ] が見られるが、これは「氷がはって、すべってころんで」を含んでいる。
お月さんなんぼ
玖珂郡錦町

お月さんなんぼ 十三七つ
まだ年ゃ若いの
あんな子を産んで この子を産んで
誰に抱かしょ お万に抱かしょ
お万どこ行った 油買いに茶買いに
油屋の縁で 氷がはって
すべってころんで 油一升こぼして
太郎どんの犬と 次郎どんの犬が
みんな なめてしまった
その犬どうした 太鼓の皮にはって
あっち向いて どんどこどん
こっち向いて どんどこどん
--NPO法人日本子守唄協会 [子守唄 - お月さんなんぼ] - 玖珂郡錦町

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