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メモ:アーサー・C・クラーク (Arthur C Clarke) の「無限」

[ギズモード・ジャパン] のタイムスタンプ 2011.02.25 21:00 の記事に [SF界の巨匠アーサー・C・クラーク氏がこの世の終わりを語った31ワード] と云うものがあった。

米版の [GIZMODO] のタイムスタンプ Feb 14, 2011 8:40 AM の記事 [Arthur C. Clarke’s 31-Word, Universe-Ending Sci-Fi Story] の紹介なのだが、その31語とは次のようなものだ。

And God said: DELETE lines One to Aleph. LOAD. RUN.
And the Universe ceased to exist.

Then he pondered for a few aeons, sighed, and added: ERASE.
It never had existed.
--Arthur C Clarke

私は アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke) の著作を読んだことがない。従って、彼に就いての知識は極めて表層的なものである。だから、以下のことは全く的外れかもしれない。

一読して解るように、このショートショートストーリー (と云う表現が不似合いな程短いが) は、神をコンピュータ・プログラマ (音声だか意思だけで命令を実行できる) に見立てて、宇宙の創成ならぬ、宇宙の消滅を描いている (原題の "siseneG" は、"Genesis" つまり、旧約聖書冒頭の「創世記」--その第1章第1節は「初めに、神は天地を創造された。」である-- の逆綴りになっている) 。

aleph-zero
最小の超限基数 (the first transfinite cardinal)

そこで、少し気になったのは "Aleph" だ。"lines One to Aleph" と云うのは、宇宙を存在させる為のプログラムを指しているのだろう。そして、"Aleph" は、ヘブライ文字「アルファベット」の第一字であり、数学 (集合論) で可算無限基数を表わす ℵ の積もりだと推測できる ([2011-03-05 [土] 08:50: 補足] 数学の記号として正確には「可算無限基数」を表わすには、左に示したような "aleph-zero" を用いねばならない)。つまり「1行目から無限行目まで」といった意味合いだったのだろう。(神にとっては、人間にとっての「無限」と「有限」との区別は意味がないと云うことも意味している。これは後述 "aeon" についても同じことが言える。)

omega-zero
最小の超限順序数 (the first transfinite ordinal)

しかし、ℵ は「基数」(集合の「濃度」と云う言い方をすることもある)、つまり、われわれが日常生活にあって「何個」と数える仕方に対応する概念なのだ。ところが "lines One to ..." の場合、「第1行から第...行まで」と訳すこともあるように、それは、「何番目」と数える仕方に関する。こちらの方に対応する集合論上の概念は、基数とは別に存在して、それは「順序数」と呼ばれるものだ。自然数全体の集合 (整列集合) の順序数は、通常、ギリシア文字オメガの小文字 ω で表わされるから、ここは "lines One to Aleph" ではなく "lines One to omega" 又は、字面をおもんぱかるなら、"lines One to Omega" あるいは、いっそのこと "lines 1 to ω" としたほうが良かったかもしれない ([2011-03-05 [土] 08:50: 補足] 自然数全体に対応する整列順序数は、単に "omega" ではなく、左に示したように "omega-zero" を用いる書き方もある)。

それから "aeon" も要注意だろう。日本では「イオン」と言えば、スーパーマーケットグループの名称だが、欧米文化内では、古代ギリシア語 αἰών (アイオーン) 由来の時間概念で、宗教的な文脈では人間の営みを超越した「永遠にも等しい時間」を意味する。サンスクリットの「カルパ」(劫) に類似する。

あと、訳す場合に要になるのが "had" の扱いだ。アンダーラインで強調が加えられていることからも解るように、この「ストーリー」の皮肉の要だからだ。つまり、神を宇宙を創造したことを後悔して、それがかって存在したことさえも消去してしまったと云う落ちなのだから。

全体的な雰囲気は、こんな感じだろう。

そして、神は言われた:「『第1行から第無限行を消去』をロード」。「実行」。
すると、宇宙は存在を停止した。

その後、神を幾永劫か沈思され、溜め息をつかれ、付け加えられた:「抹消」。
すると、宇宙は存在したことがなくなった。

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