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メモ:岩波文庫 [ゲーデル 不完全性定理] のある一節の微妙訳

岩波文庫 [ゲーデル 不完全性定理] に就いては、前回のポスト ([メモ:岩波文庫 [ゲーデル 不完全性定理] 中の誤植その他] 2010年12月13日 [月]) だけで済ますつもりだったが、結局、そうはいかず、その中で列挙されている46個の関数及び関係 (性質) を表わす記号をまとめ始めた。

もう少し詳しく言うと、こうした「記号」は、中には純然たる数学記号もあるものの、大多数はドイツ語に基づいている為、私のようなドイツ語ネイチヴでないものには訴求力が低く、読んでいて抵抗を感じたのだ。そこで、改めて、各記号がどのようなドイツ語に基づいているかを表にしだしたのだった。

もっとも、これには先例がある。つまり、こうした事情はイングリッシュ・スピーカーでも同様らしく、ドーヴァー版の英訳本 ("On Formally Undecidable Propositions of Principia Mathematica and Related Systems") の pp.33-34 には、既に、記号の由来となったドイツ語とその英訳が示されている。

ようするに、その真似をしようとし始めたわけだ。こうした単純なことでも、いろいろ手間がかかって、我ながら処理能力の低さに情けない思いがしているのだが、それはそれとして、その準備作業中に、岩波文庫 [ゲーデル 不完全性定理] の訳文に微妙なところがあるのに気が付いた。

それは、第22ページ第10行で、こうなっている。

同様に, 各自然数を型と見て, その型の変数を考える。
-- p.22/[不完全性定理] クルト・ゲーデル (訳:林 晋・八杉 満利子) 岩波文庫 2006年9月15日

で、その原文は

usw. für jede natürliche Zahl als Typus.
--S.182/"Über formal unentscheidbare Sätze der Principia Mathematica und verwandter Systeme I" Kurt Gödel "Monatshefte für Mathematik und Physik" 38, 1931, S.173–198

ドイツ語原文の冒頭 "usw" が、小文字で始まっているのは、その前の「第3型の変数の列挙」を引き取っているからで、オックスフォード版「ゲーデル著作集」第1巻のように大文字に変えてしまうのは、ゲーデルの真意の取り違えている (岩波文庫版も、同様の誤りをしている可能性が大きい)。

やや可笑しいのはゲーデル著作集での "usw" の英訳が "And so on" と機械的に訳されているのだが、これは実は、字面だけなら正しい訳なのである。しかし、この文脈では "and so on" と小文字始まりにしないと英語にならないだろう。

つまり、"usw" は「等々。。。(以下同様にする)」と云う語感なのだが、岩波文庫版では「同様に」と云う部分だけに反応して訳してあるので、文意が微妙に歪んでいるのだ。

そして、もう一つ問題なのは (こちらの方が重要)、"als" の意味を「と見て」("als Typus" =>「型と見て」) と安易に考えてしまったことだ。しかし、この "als" は同じ大きさを表わす副詞的な用法なのである。つまり、記号を使って解かりやすく表現するなら、任意の正整数 n に対して、第 n 型の変数を想定することをゲーデルは言っているのだ (この引用部分についている原註17も、このことに関わる。任意の n に対して第 n 型変数記号が可算無限個使えると云う仮定を述べているのだ)。

従って、問題の箇所を訳すなら

等々、以下同様にして、任意の自然数に対して、それに応じた段階の型の変数。

ぐらいになるだろう。

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