昔買ったままでホッタラカシにしていた本を引っ張り出してきて読むと云うことを最近続けいてる。内容は、このブログと同様、極めて雑多なのだが、基本的には、手軽に読める本を選んでいる。ところが、何を読んでいても、極単純である筈のことに引っ掛かりたり、つまらないことでも一応確認したくなったりして、スグに行き詰まって止まってしまうのだ。
「読むのに抵抗を感じなかった書物は、読むに値しなかった書物だ」とは言っても、「頓挫」だからねぇ。自分のリテラシのなさを嘆くばかりだ (話がトッ散らかりそうだが、付け加えておくと、「読むのに抵抗を感じさせない」ことが、重要な要素になる文章作品もある。例えば、理念としての「エンターテインメント文学」がそれだ。その他、記録、報告、取扱い説明書、法規なども、表現自体に限れば、同様だろう。これらは、どれも基本的には [読者/利用者] に考え込ませたり、文意の判断に迷わせたりしてはならない。もっとも、私は、エンターテインメント文学を読んでいてさえ、素直に読み進めないことが大半であって、「読者失格」と言える)。
先日も、[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年)を読み始めたのだが、どうも読みづらい。しかし、それは翻訳文には有りがちの「読みづらさ」(これは「読むに値する」かどうかには余り関係ない)と思えたのが半分、また [ランダウ・リフシッツ理論物理学教程] の他の巻 ([力学] と [場の古典論]) を、かって少しばかり読んだ際に出だしが取っ付きにくかった記憶があるので、[統計物理学] の場合も、それと同様なのだろうと思えたのが半分あったので、我慢して読み進めていった。だが、第1章第7節の、次の一文まで読んだ時に、強い違和感を感じて、頭の上に大きな疑問符が沸いて出てくるのが自分でもわかった。
そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.13-14
その疑問符は、続きを読んですぐ破裂しまった。前後矛盾しているのだ。
恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値
にちょうど等しいようになっているものとする.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.15-18
つまり、「考えている系」が、前の文では「恒温槽」の外、後の文では「恒温槽」の内にあることになっている。
それまでの流れから判断すると、前の方が可訝しいと思えたが、それはあくまでも印象であって、「ある程度確実なことは、原文を見てからでないと何とも言えない」と云うのが、その時の私の感想だった。だが、生憎、ロシア語原書は手元になかったのだ。
しかし、その後、ロシア語サイト www.eknigu.org で [ランダウ・リフシッツ統計物理学] のロシア語原書の djvu コピーを見つけた。"Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е" というものだ (前記のサイトは、文書へのアクセスと云うかダウンロードと云うか、が、素直にできないようなのであるし、また著作権上の問題が無しとしないので、文書への直接リンクは張らない)。
でも ИЗДАНИЕ 3-е... って「第3版」だね (ちなみに、"ЧАСТЬ 1"/「第1部」とあるが、「第2部」は「理論物理学教程」に第9巻として収められている)。
困った...。第2版の訳文の翻訳品質を、原書第3版に基づいて喋喋するのは、疝気筋と云うものだろう。
だが、何も書けないと云う訣のものでもあるまいと思い返して書くことにした。以下の話はその程度のものだと思って、読み流されたい。
で、まぁ、怪しそうな「そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さい部分とだけ相互作用をしていると考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)」の対応原文を第3版から探してみると:
Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).--p.41 ll.29-32
そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。
つまり、「相互作用をしている」とは書かれていない。
鍵となるのは действительности と云う単語である。これは、「現実」「実際」を意味する女性名詞 действительность の前置格形で、連語 "в действительности" として「実際には」「現実には」の意味となるが、この仮想の構成を叙述している文脈では、「実は...だった(と仮想する)」といった表現に訳すのが適当なところだ。
第2版の原文がどのようなものであったのか、調べが着いていないが、この文を含むパラグラフの第2版の訳文と第3版の原文を比べると、原文段階でも第2版と第3版との間には、全体として変化が無かったろうと思われる。恐らく、第3版の "в действительности" に相当する部分に、第2版原文では「相互作用」を意味する文言が使われていたか、或いは、第2版の翻訳者が、何らかの理由で "в действительности" に「相互作用をしている」と云う誤った訳語を当ててしまっただろう。
「相互作用」と云うと взаимодействие (中性名詞) ぐらいの言葉になりそうで、この単語から「相互の」を含意する接頭辞 взаимо- とった中性名詞 действие には勿論「作用」と云う意味がある訣だが、この単語は確かに действительности の前半に字面が重なっている。あるいは、ここら辺が、ロシア語原書段階か、和訳段階か、不明ではあるけれども、間違いの原因であったかもしれない。
ここで、自分の迂闊さを告白せねばならないが、上のようなことで、ジタバタと調べものをしたり、考え込んでいたりしている間、暫く、第3版の日本語訳が出版されている可能性に思い至らなかった。そして、それは実際に出版されていたのだ。勿論、「暫く」した後には気が付いたので、機会を見つけて、少少遠方の図書館に行き、問題の箇所を確認してみると:
そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年 ISBN-10: 4000057200 ISBN-13: 978-4000057202) 第1章第7節 p.33 ll.17-18
直っているね。一件落着。
上記の説明では、文脈の大きな流れが見えづらいかもしれないので、それをもう少し明らかにするために、問題の文を含むパラグラフの、岩波訳第2版訳文と第3版訳文とを並記しておく。
エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である. 完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを
であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである. そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値
にちょうど等しいようになっているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布関数をつかって統計的重み
を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み
を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第2版 上] (岩波書店。東京1966年) 第1章第7節 p.32 ll.10-26
エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である. 完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを
であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる. そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.) 恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値
にちょうど一致しているものとする. そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率
を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる. 恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである. それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率
を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
--[ランダウ・リフシッツ統計物理学第3版 上] (岩波書店。東京1980年) 第1章第7節 p.33 l.14- p.34 l.5
ちなみにロシア語原文は以下の通り:
Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство. Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как
), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы. Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате). Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии
. Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес
, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем. Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы. Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов
этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
--Л. Д ЛАНДАУ и Е. М. ЛИФШИЦ, ТЕОРЕТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА ТОМ V, СТАТИСТИЧЕСКАЯ ФИЗИКА, ЧАСТЬ 1, ИЗДАНИЕ 3-е (НАУКА. МОСКВА 1976) p.41 l.24 (l.11 from the bottom) - p.42 l.13
以下、附録として、問題のパラグラフの読解を試みる。その構成は、原書第3版のセンテンス毎に、岩波第2版、岩波第3版、及び拙訳を並記し、その後に単語等を意味を列挙すると云う形式をとることにする。
Для ясного понимания способа определения энтропии важно иметь в виду следующее обстоятельство.
[岩波第2版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情に注意することが肝要である.
[岩波第3版]エントロピーの定義のしかたを明確に理解するためには, 次の事情を念頭におくことが肝要である.
[ゑ訳]エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。
- для:前置詞。生格支配。目的を表わす「...のために」。
- ясного:形容詞 ясный の中性生格形。「明解な」
- понимания:中性名詞 пониманияе の単数生格形。「理解」
- способа:男性名詞 способ の単数生格形。「方法」「やり方」。このセンテンスの鍵となる言葉なので、それなりの訴求力のある言葉を使って訳したほうが良い。「仕組み」と訳しておく。
- определения:中性名詞 определение の単数生格形。「確定」「定義」
- энтропии:女性名詞 энтропия の単数生格形。「エントロピー」
- важно:無人称述語。важно + 不定詞で「...は重要である」を意味する。
- иметь в виду:「考慮に入れる」ぐらいの意味らしいが、ここでは вид (男性名詞) が「見ること」「視野」の意味であることを踏まえて「見て取る」と訳したい。
- следующее:形容詞 следующий の中性対格形。「次の」
- обстоятельство:中性名詞 обстоятельство の単数対格形。「事情」「事実」
Энтропию замкнутой системы (полную энергию которой обозначим как
), находящейся в полном статистическом равновесии, можно определить и непосредственно, не прибегая к разделению системы на подсистемы.
[岩波第2版]完全な平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを
であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割しなくても, 直接に定義することもできるのである.
[岩波第3版]完全な統計的平衡にある閉じた系 (その全エネルギーを
であらわすことにする) のエントロピーは, 系を部分系に分割するという手段に訴えなくとも, 直接に定義することもできる.
[ゑ訳]完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号
で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。
- энтропию:女性名詞 энтропия 「エントロピー」の単数対格形。
- замкнутой:形容詞 замкнутоый の女性生格形。「閉鎖的な」「孤立的な」
- системы:女性名詞 система の単数生格形。「体系」「システム」の意だが、この文脈では、単に「系」の語が当てられる。
- полную:形容詞 полный の女性対格形。「余すところのない」「完全な」
- энергию
:女性名詞 энергия
の単数対格形。「エネルギー」
- которой
:関係代名詞 который
女性生格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
- обозначим
:完了体動詞 обозначить
「記号・マークで表示する」の勧誘形 (語末の те は省略されている)。不活動体名詞対格支配。
- как
:私の手持ちの辞書では確認できなかっが、「これを А
と云う記号で表わすことにしよう」と云う意味で "обозначим его как А" などと書き表すのは普通に行なわれるらしい。
- находящейся
:不完了体動詞 находиться 「(事物が)ある」の能動形現在女性生格形。
- в:前置詞。対格支配なら「...の中へ」、前置格支配なら「...の中に」「...の中で」
- полном:形容詞 полный の中性前置格形。
- статистическом:形容詞 статистический の中性前置格形。「統計(学)の」
- равновесии:中性名詞 равновесие の単数前置格。「平衡」
- можно:無人称述語。можно + 動詞不定形で「...できる」を意味する。一般的な可能を意味する場合には、主語は示されず、文は無人称文になる。
- определить:完了体動詞不定形。「確定する」「決定する」。確かに「定義する」と云う語義もあるが、「エントロピー定義」の仕組みを解明しようとする、この文脈にあっては「定義する」と云う訳語は、逆にそぐわないように思われる。
- и:接続詞。付加・強調を表わす言葉を導く。
- непосредственно:副詞。「直接的に」
- не:否定小詞
- прибегая:不完了体動詞 прибегать の副動詞形。прибегать к + 与格は伴って「(ある手段に)訴える」を意味する。
- разделению:中性名詞 разделение の単数与格形。「分割」
- на:前置詞。対格支配で「等価交換」を表わす。例文:менять крупные деньги на мелочь 「大金をくずす」
- подсистемы:女性名詞 подсистема の複数対格形。辞書では「下部組織」「サブシステム」と云う訳語が与えられているが、今の文脈では「部分系」
Для этого представим себе, что рассматриваемая система является в действительности лишь малой частью некоторой воображаемой очень большой системы (о которой в этой связи говорят как о термостате).
[岩波第2版]そうするために, 考えている系は, ある仮想的な非常に大きな系の小さな部分とだけ相互作用をしているものと考えよう. (後者の系はこの意味で恒温槽とか熱浴とかいわれる.)
[岩波第3版]そうするために, 考えている系はある仮想的な非常に大きな系のほんの小さな部分にすぎないと考えよう. (この仮想的な系はこの意味で恒温槽といわれる.)
[ゑ訳]そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は「恒温槽」と呼ばれる)。
- этого:近称指示代名詞 этот の中性生格形。"Для этого" で「そうするために」の意味になる。
- представим:完了体動詞 представить 「提出する」の勧誘形。"представить себе" で「想像する」を意味する。完了体動詞の勧誘形は、個別的動作を勧誘する。
- что:接続詞。従属文を導く。
- рассматриваемая:不完了体動詞 рассматривать 「検討する」の被動形女性主格形。ただし、訳文中では、後続の文と揃えるために「検討」ではなく「考察」を使っている。
- система:これは、単に「系」と訳すよりも、何を指しているのかを明確にするために「閉鎖系」と訳した方がよかろう。
- является:不完了体動詞 являться の三人称単数現在形。造格を伴って「...である」を意味する。
- в действительности:「実際には」「現実には」。действительность は「現実」「実際」を意味する女性名詞。「作用」「影響」を意味する中性名詞 лействие とは別語。ちなみに тельность は「物質性」を意味する女性名詞。
- лишь:限定小詞。「...だけ」「...のみ」
- малой:形容詞 малый の女性造格形。「小さい」
- частью:女性名詞 часть の単数造格形。「(全体の)一部分」
- некоторой:不定代名詞 некоторый の女性生格形。「ある」
- воображаемой:形容詞 воображаемый の女性生格形。「仮想的な」。системы (生格形) に掛かっている。
- очень:副詞。「非常に」
- большой:形容詞 большой の女性生格形。「大きい」
- которой:関係代名詞 который の女性前置格形。主文中の名詞・代名詞を先行詞として、それを引用する。
- этой:近称指示代名詞 этот の女性前置格形。
- связи:女性名詞 связь の前置格。「関係」
- говорят:不完了体動詞 говорить 「語る」 の三人称複数現在。不定人称文になっている。"о + 名詞生格形 говорят как о + 名詞生格形" と云う表現は「『1番目の名詞』は、『2番目の名詞』と呼ばれる」ぐらいの意味らしい。"о которой говорят как о + 名詞生格形" といった形でも良く使われるようだ。
- как:接続詞。「...と同様に」「...として」
- термостате:男性名詞 термостат の単数前置格。手持ちの辞書では「自動温度調節器」・「サーモスタット」と云う訳語しか与えられていないが、ここはやはり「恒温槽」と訳すしかあるまい。
Термостат предполагается находящимся в полном равновесии, причем таком, чтобы средняя энергия нашей системы (являющейся теперь незамкнутой подсистемой термостата) как раз совпадала с истинным значением энергии
.
[岩波第2版]恒温槽は完全な平衡にあるものとしよう. その際に, 考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, ほんとうのエネルギー値
にちょうど等しいようになっているものとする.
[岩波第3版]恒温槽は完全な平衡にあるものとする. ただし考えている系 (今のばあいは恒温槽の閉じていない部分系であるが) の平均エネルギーは, エネルギーの真の値
にちょうど一致しているものとする.
[ゑ訳]恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値
と丁度一致するようになっているものとする。
- предполагается:不完了体動詞 предполагать 「前提とする」「条件とする」の被動態 (受動態) 相当の動詞。三人称単数現在。訳としては「...(よう)になっているものとする」ぐらいだろう。
- находящимся:不完了体動詞 находиться の能動形現在男性造格形。「(人・事物がある状態に)ある」
- полном:形容詞 полный の中性前置格形。「完全な」「最大限に達した」
- равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
- причем:(причём) 接続詞。「その上」「しかも」
- таком: 指示代名詞 такой の中性前置格形。в 以下を受けている。"причем таком" で чтобы 以下を導く。
- чтобы:接続詞。未だ存在しない事態の実現への希望・必要・要求を表わす補語的従属文を導く (従属文中の動詞は過去形になる)。「...するような」「...するように」
- средняя:形容詞 средний の女性主格形。「平均的な」
- нашей:所有代名詞 наш の女性生格形。「(筆者・話者から読者・聞き手に向かって)いま私たちの問題[話題]になっている」「この」。訳文中では「我々が...考察している」としてある。
- являющейся:不完了体動詞 являться 「...である」(造格支配) の能動形現在女性生格形。日本語の流れとしては、「...と見なして」と訳した方が、文章がなだらかになるだろう。
- теперь:副詞 「今」
- незамкнутой:形容詞 незамкнутый 「開放した」女性造格形。
- подсистемой:女性名詞 подсистема の単数造格形。
- термостата:男性名詞 термостат の単数生格形。
- как раз:「丁度」
- совпадала:不完了体動詞 совпадать の過去女性形。с + 造格を伴って「一致する」の意味。
- истинным:形容詞 истинный の女性造格形。辞書では「真の」ぐらいの訳語が与えられている。しかし問題となっている部分系が、恒温槽中の他の部分系との相互作用によりエネルギーが揺らぐと云うのは仮想上の話なので、その「平均エネルギー」も作業概念である。したがって、それが問題となっている部分系の "истинным значением энергии" と一致すると云うことを日本語として言いたい時には「エネルギーの真の値」と云うより、問題となっている部分系 (本来は閉鎖系である) の「本来のエネルギー値」ぐらいに訳しておいたほうがよいだろう。
- значением:中性名詞 значение の単数造格形。「値」
- энергии:女性名詞 энергия の単数生格形。
Тогда можно формально приписать нашей системе функцию распределения того же вида, что и для всякой ее подсистемы, и с помощью этого распределения определить ее статистический вес
, а с ним и энтропию, нэпосредственно по тем же формулам (7,3-12), которыми мы пользовались для подсистем.
[岩波第2版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, その分布関数をつかって統計的重み
を, さらにそれからエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) をつかって直接に定義することができる.
[岩波第3版]そうすればわれわれの系に対して, そのすべての部分系に対するのと同じ形の分布関数をあてがい, この分布をつかって統計的重率
を, さらにそれといっしょにエントロピーを, 部分系に対してつかったのと同じ公式 (7.3-12) によって直接に定義することができる.
[ゑ訳]このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み
を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。
- тогда:副詞。「その場合は」「このようにすると」
- формально:副詞。「正式に」「公式に」「形式的に」。仮想上の議論をしているのだから「形式的に」と云う含意。
- приписать:完了体動詞の不定形。+ 対格 + 与格で「(...を...に)帰する」を意味する。
- функцию:女性名詞 функция の単数対格。「関数」
- распределения:中性名詞 распределение の単数生格形。「分配」
- того:定代名詞 тот の中性生格形。"тот же, что и" で「同一の」の意味になる。ただし "тот же" だけでも「同一の」を意味する。
- вида:男性名詞 вид の単数生格形。「外観」「状態」
- всякой:定代名詞 всякий の女性生格形。「各々」
- определить:完了体動詞不定形。「決定する」。
- ее:(её) 人称代名詞 она の生格。
- с помощью:前置詞相当の語句。生格を伴って「...を用いて」の意。
- статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
- вес:男性名詞対格形。「重み」
- а:接続詞。「付加」「対比」「対照」「対立」を表わすが、ここでは「付加」だろう。
- ним:人称代名詞 он, она の造格。они の与格。
- нэпосредственно:副詞「直接的に」
- формулам:女性名詞 формула の複数与格形。「式」「公式」
- которыми:関係代名詞 который の複数造格形。定語的従属文を導く。
- пользовались:不完了体動詞 пользоватсь の過去複数形。+ 造格で「(自分の必要のために)利用する」の意味となる。
Ясно, что наличие термостата вообще не сказывается на статистических свойствах отдельных малых частей (подсистем) нашей системы, которые и без того не замкнуты и находятся в равновесии с остальными частями системы.
[岩波第2版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[岩波第3版]恒温槽の存在の影響が, われわれの系の個々の小部分 (部分系) の統計的性質に全く現れないことは明らかである. 小部分は恒温槽がなくとも閉じてはおらず, 系の残りの部分と平衡にあるのである.
[ゑ訳]我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。
- ясно:副詞。「明確に」
- наличие:中性名詞主格形。「存在」
- вообще:副詞。「一般に」。ただし、連語 вообще не は「全然...でない」の意。
- сказывается:不完了体動詞 сказываться の三人称単数現在。на + 前置格を伴って「影響を及ぼす」の意。
- статистических:形容詞 статистический の複数前置格形。
- свойствах:中性名詞 свойство の複数前置格形。「特性」
- отдельных:形容詞 отдельный の複数生格形。「個々の」
- малых:形容詞 малый の複数生格形。「小さい」
- частей:女性名詞 часть の複数生格形。「一部分」
- которые:関係代名詞 который の複数主格形。
- без:生格支配の前置詞。"и без того" は、辞書では「それでなくてさえ」の訳が当てられているが、ここでは「恒温槽の存在が無かったとしても」と云うことだろう。
- замкнуты:形容詞 замкнутоый の短語尾複数形。「閉鎖的な」「孤立的な」
- находятся:不完了体動詞 находиться の三人称複数現在形。「(人・事物がある状態に)ある」
- равновесии:中性名詞 равновесие の前置格形。「平衡」
- остальными:形容詞 остальной の複数造格形。「残りの」
- частями:女性名詞 часть の複数造格形。
Поэтому наличие термостата не изменит статистических весов
этих частей, и определенный только что указанным способом статистический вес будет совпадать с прежним определением в виде произведения (7,13).
[岩波第2版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重み
を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重みは (7.13) の積の形の以前の定義と一致するであろう.
[岩波第3版]それゆえ, 恒温槽の存在はこれらの部分の統計的重率
を変えることはなく, たったいま示したようなぐあいに定義された統計的重率は (7.13) の積の形の以前の定義と一致することになる.
[ゑ訳]それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み
が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。
- поэтому:副詞。「それ故」
- наличие:中性名詞主格形。「存在」
- не:否定小詞
- изменит:不完了体動詞 изменять 三人称単数現在形。生格を支配して「変える」の意。
- статистических:形容詞 статистический の複数生格形。
- весов:男性名詞 вес の複数生格形。「重量」「重み」
- этих:近称指示代名詞 этот の複数生格形。
- частей:女性名詞 часть「一部分」の複数生格形。
- определенный:完了体動詞 определить「定義する」の被動形過去男性主格形。
- только что:「たったいま」ぐらいの意味。つまり、部分系に分割しないで「統計的重み」を直接的に定義する仕方を指している。この文意からして、日本語表現としては「上記の/上記に」ぐらいに訳した方が良い。
- указанным:形容詞 указанный の男性造格形。「指定された」
- способом:男性名詞 способ の単数造格形。「方法」
- статистический:形容詞 статистический の男性対格形。「統計(学)の」
- будет:不完了体動詞 быть の三人称単数未来形。[быть の未来形 + 不完了体動詞不定形]は、その不完了体動詞の未来形を作る。
- совпадать:不完了体動詞不定形。с + 造格で、「...と同時に起こる」「...と合致する」の意味となる。
- прежним:形容詞 прежний の造格形。「以前の」
- определением:中性名詞 определениие の単数造格形。「定義」
- виде:男性名詞 вид の単数前置格。「外観」「状態」
- произведения:中性名詞 произведение の単数生格形。「産物」「積」
ここで、私の訳を一つにまとめておこう:
エントロピー定義の仕組みを明確に理解するのには、以下に述べる事実を見て取ることが重要である。完全な統計的平衡状態にある閉鎖系 (その全エネルギーを記号
で表わすことにしよう) のエントロピーは、そうした閉鎖系を部分系に分割せずとも、直接確定することが可能なのである。そうするために、或る巨大な系を仮想して、ここで考察されている閉鎖系が、実は、そうした巨大な系の小さい一部分に過ぎなかったのだと想像してみよう (こうした関係にあるような巨大な系は恒温槽と呼ばれる)。恒温槽は、完全な平衡状態にあるものとし、その上、我々が (今、恒温槽の開放部分系と見なして) 考察している系の平均エネルギーは、本来のエネルギー値
と丁度一致するようになっているものとする。このようにすると、我々が考察している系の個々の部分系と同一の形の分配関数を、我々が考察している系にも形式的に適用することが可能になるが、そうすると、この分配を用いることで、部分系に対して用いた式 (7.3-12) と同一の式を直接当て嵌めて、我々が考察している系の統計的重み
を決定し、そして更にそれから、我々が考察している系のエントロピーをも決定することが可能となる。我々が考察している系の個々の小部分 (部分系) は、恒温槽が存在しなかったとしても、閉鎖しておらず、系の残りの部分と平衡しているから、恒温槽の存在が、我々が考察している系の統計的特性に影響を及ぼさないのは明らかである。それ故、恒温槽の存在によって、これら小部分の統計的重み
が変わることはなく、上記に示された方法で定義された統計的重みは、以前の積 (7.13) の形での定義の場合に一致するのである。