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2009年5月の4件の記事

デカルトの正葉線の曲率

Folium of Descartes, or folium cartesii
デカルトの正葉線
Folium of Descartes (folium cartesii)

先日 (2009/05/22 17:22:28)、[デカルトの葉線 曲率] と言うキーフレーズでこのサイトを訪問された方がいらしたらしい。恐らくは、デカルトの葉線 (「デカルトの正葉線」とも言うが、要するに xy 平面上で、式 x^3 + y^3 - 3 a x y = 0 で表わされる曲線のことである。ちなみに、x + y + a = 0 が漸近線になる) の曲率の表示式をお探しだったのだろう。

[デカルトの葉線 曲率] では、デカルトの葉線の曲率表示式は、探しにくいかもしれないが、英語の "Folium of Descartes" や、或いは、ラテン語の "folium cartesii" を使うなら、なにも "curvature" を付けないでも、その検索結果 (Google 検索で "Folium of Descartes" 又は "folium cartesii") から、"Wolfram MathWorld" の "Folium of Descartes" のページに辿りつけて、そこで曲率の表示式を見つけることができる。ただし、その曲率の表示式では、パラメータ (t) が使われている。

「そもそも」と云うほど大げさなことではないが、少し遡って説明を補足するなら、デカルトの葉線は y = f(x) の陽関数で捉えようとすると、原点の近傍 (正確に言うなら、x が正の微小値である範囲内) では1価関数にならない。したがって、パラメータ (t とする) を使って、都合よく x = x(t),\ y = y(t) と表わすことができないかと考えて、葉線の形を見ると、原点を通る直線と葉線との原点以外の交点は、高々1つしかなく、また原点を通る直線の傾きが -1 以外なら、原点以外の交点が必ず1つ存在することが容易に確認できる。従って、 t = y/x をパラメータとするのが適当であると推測できるので、そのようにすると、x^3 + y^3 - 3 a x y = 0 から


\begin{eqnarray*}
x = \frac{3at}{1 + t^3} \\
y = \frac{3at^2}{1 + t^3}
\end{eqnarray*}

が簡単に得られる (ただし、t \ne -1)。従って、求める曲率もまた、このパラメータ t で表わすのが自然な流れとなる訣である。そして、それは "Wolfram MathWorld" の "Folium of Descartes" のページに書いてあるように、


k(t) = \frac{2(1 + t^3)^4}{3a(1 + 4t^2 - 4t^3 -4t^5 + 4t^6 + t^8)^{3/2}}

になる。

この曲率を計算するのは大学初年級の解析学の演習レベル (それどころか、高校生でも、「物好き」なら、この程度のことはするだろう) だから、くだくだしくは書かないが (つまり、書くと「くだくだしく」なる)、一言注意しておくと、平面曲線のパラメータ表記 x = x(t),\ y = y(t) による曲率の計算式


\[
\frac{x^\prime y^{\prime\prime} - y^\prime x^{\prime\prime}}{((x^\prime)^2 + (y^\prime)^2)^{3/2}}
\]

よりも、平面曲線の陰関数表示 F(x, y) = 0 からの曲率の計算式


-\frac{F_{xx}F_y{}^2 - 2F_{xy}F_xF_y + F_{yy}F_x{}^2}{(F_x{}^2 + F_y{}^2)^{3/2}}

を使って、曲率を一旦 x, y, a の式として表わしてから x = x(t),\ y = y(t) を代入した方が計算が若干簡単になる。

しかし、まぁ、こうしただけのことなら何も記事を書く必要はないのだ。放っておいても、自然にこの程度の結果は得られた筈だからだ (因みに、アクセスしてきたのは、数学とは非常に親近性のある技術系の大手メーカー内からである。相応のリソースが備わっていると信じてよいだろう)。

では、何故、今この記事を書いているのかと言うと、"Wolfram MathWorld" の"Folium of Descartes" のページを見たとき、最近 (2009年5月18日) 正式公開された検索エンジン "Wolfram|Alpha" のことを思い出したことから、話が始まる (そして、すぐ終わる)。

実は、"Wolfram|Alpha" の公開直後、一度試しに使ってみて、その「検索」の範囲が科学技術系に限定されているらしいことに気付き、そして反応が遅いことに落胆して、そのまま立ち去っていたのだった。私のように、ネット内を彷徨して知的冒険ならぬ知的遭難を繰り返しているような人間には、不向きな道具に思えたからである。

しかし、「デカルトの葉線の曲率」と云った明確な技術的課題を調べるには適切に思えた。

そこで、"Folium of Descartes" を "Wolfram|Alpha" を調べて見たのだが (私のシステムの場合、スクリプトの実行し続けるとコンピュータが反応しなくなる可能性があるとして、中止を示唆する警告が出るのだが、強いて続行したところ) 確かに、曲率の表示式を含む、幾つかの特徴が表示されたのだった。

しかし、その陰関数表示が x^3 + y^3 = 3xy となっていて、一般的な形式で書かれていなかったのだな。つまり、(やはりパラメータと呼ぶしかないのだが)パラメータの a --この記事の書き方でも、Wolfram|Alpha 内の書き方でも同じ記号 a が使われている-- が抜けいている。勿論、他の部分は a の存在を前提にした書き方をしているから、全体として不統一になってしまっている。

勿論、「検索エンジン」だから、内容のチェックをしていないと言われればそれまでなのだが、しかし、google 式の検索エンジンが、玉石混淆を、そのままブチまけるため、慣れた利用者には「石」の存在に耐性があるのに対し、「単一の答え」を提示する Wolfram|Alpha のスタイルでは、ここら辺で躓いてしまっては、早晩営業が苦しくなるのは目に見えている。

「デカルトの葉線」に就いて、デカルト (René Descartes) とフェルマー (Pierre de Fermat) とのメルセンヌ (Marin Mersenne) を介した応酬 (Cf.「The mathematical career of Pierre de Fermat, 1601-1665 - Google ブック検索」) や、デカルト自身は、「葉線」が第1象限と同じ図形が、第2象限・第3象限・第4象限で繰り返されている (つまり「四つ葉」風になっている) と信じていたらしいと云う話 ("La courbe possède une forme de nœud de ruban. Lors de leur étude, Descartes et Roberval se limitèrent à une boucle, ne considérant que les coordonnées positives (x>0,y>0) car ils pensaient que la boucle se répetait dans chaque quart de repère, à la manière des quatre pétales d'une fleur (d'où son nom de folium = feuille). "--フランス語版ウィキペディア"Folium de Descartes") の真偽などを調べて見たいのだが、今はその餘裕がない。後後の為に、参考になるかもしれないリンクを幾つか纏めて置くだけにする:

  1. Descartes - Œuvres, éd. Adam et Tannery, I.djvu
  2. Œuvres de Fermat - I
  3. persee.fr - Revue d'histoire des sciences, Annee 1998, Volume 51, Numero 51-2-3, pp. 355-362
  4. La géométrie by René Descartes - Project Gutenberg
  5. The mathematical career of Pierre de Fermat, 1601-1665 - Google ブック検索
  6. COMMENT L'HISTOIRE DE LA GEOMETRIE ANALYTIQUE PEUT AIDER LES ...
  7. Richard L. Amoroso Fe, Fi, Fo, Folium: A Discourse on Descartes’ Mathematical Curiosity
  8. Full text of "Oeuvres de Descartes"
  9. File:Folium of Descartes Curvature.svg - Wikimedia Commons

なお、「デカルトの葉線」はフランス語では "Folium de Descartes" だが "nœud de ruban" と呼ばれることもある (ドイツ語では "Kartesisches Blatt")。

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「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」の英訳

本日未明 (2009/05/15 03:43:19)、キーフレーズ [をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを english] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。リモートホスト名から推測するにアメリカ合衆国東部の大学からのアクセスらしい。恐らくは「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」の英訳をお探しなのだと思われる。

後追いで検索してみた所、 (別のオプションや設定では別の結果が出ているかもしれないが) このサイト以外はヒットしなかったのは意外だった。そして残念なことに、このサイトには「をのこども詩を作りて歌に合はせはべりしに、水郷の春望といふことを」に関連する情報はなかったのだ。

勿論、これは新古今和歌集第一巻に収めされた後鳥羽上皇御製の

見わたせば山もとかすむ水無瀬川夕べは秋となにおもひけむ
--[新古今和歌集1]36

の詞書だから、新古今和歌集の英訳本 (あることはあるらしい。"The shin kokinshu; the 13th-century anthology edited by Imperial edict. by Heihachiro Honda - Alibris" を参照)には、それが訳出されている可能性が高いが、生憎私は未見で確認することができない。

ただ、次のような感じになるのではないかと思う:

When some vassals were composing Japanese verses in reply to a Chinese poem, the ex-Emperor versed a spring landscape of a province with a river running through:

ついでに、所謂「新古今三夕 (さんせき)」も引用しておこう。

題しらず
さびしさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮
--[新古今和歌集4]361 寂蓮法師

心なき身にもあはれは知られけりしぎたつ澤の秋の夕暮
--[新古今和歌集4]362 西行法師

西行法師すすめて百首歌よませ侍りけるに
見わせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ
--[新古今和歌集4]363 藤原定家

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メモ:ファインマンとワインバーグのディラック記念講演 "Elementary Particles and the Laws of Physics: The 1986 Dirac Memorial Lectures"

ケンブリッジ大学出版局 (Cambridge University Press) から "Elementary Particles and the Laws of Physics: The 1986 Dirac Memorial Lectures" (Richard Phillips Feynman and Steven Weinberg, Cambridge University Press, 1987, ISBN-10: 0521340004, ISBN-13: 978-0521340007) と云う本が出版されている。

1984年10月Paul Adrien Maurice Dirac が亡くなると、かって彼がルーカス教授職 (Lucasian Professor of Mathematics) として教鞭を執っていたケンブリッジ大学 (University of Cambridge) は、彼の業績を讃えて、毎年記念講演を開催することにした。その第1回の講演者として招待されたのがリチャード・P・ファインマンスティーヴン・ワインバーグである。この本は、その講演に基づいている。

私が、購入したのは随分前 (1995年5月20日) に日本橋丸善でだったが、ハードカヴァ四六判(ぐらい)110ページほどのもので、「瀟洒な一冊」とでも言いたくなる。ジャケットも、臙脂色と言うべきか蘇芳色と呼ぶべきか、或いは単にワインレッドで良いのか知らないが、華やかながら落ちついていて結構おシャレだ。

勿論、私は「ジャケ買い」をした訣でない。第一、ジャケットフロントにはディラックのポートレートが印刷されていて、これが「ある意味恐い」。 恐ろしく聡明そうな、それでいて我々とは全く別の世界が見えているような目をしているのだ。彼は「詩を書く」と云うことが理解できなかったらしいが、なにか詩人のような印象を受ける。それどころか「幻視者」と云う言葉がツイ出てしまう (うん? 実は「ジャケ買い」してたかな?)。

ついでに書いておくと、ジャケットの折り返しにはファインマンとワインバーグのポートレートも掲げられているが、ファインマンは映画俳優のような、そしてワインバーグは実業家のような顔をしている(ワインバーグのことはさておき、ファインマンが「芸達者」だったことは良く知られている)。

買ってはみたものの、そのうち読もうとだけ思って、部屋のそこらへんに転がしておいてそれっきりだったのだが、最近、このブログでは物理学 (と言うか、量子力学) の話題が幾つか続き、それに関係する勉強もしたので、ついでに卒読してみた。

で、この記事を書き始めたのだが、第一稿作成がかなり進んだ段階で (正確には、"Dirac's scissors demonstration" 用の図を、自らの絵心の無さにウンザリしながら、inkscape で「描いたものの、出来が悪いので直そうとして手を入れたら、返ってひどくなり、諦めて最初から作りなおす」を繰り返していた途中に) "Elementary Particles and the Laws of Physics" に日本語訳 (「素粒子と物理法則―窮極の物理法則を求めて (ちくま学芸文庫)」) が存在することに気付いた。迂闊な話で、申しわけないが、後ればせながら「ちくま学芸文庫版」を購入してきた (と言うか、それしか知らないのだが、培風館から出ていたものの文庫化だそうな)。

とは言え、読んだばかりの英語版に不満は無かったので、日本語版の方は読む気が起こらなかった。購入直後に、図面を少し眺めただけで、原稿作成の泥沼に再び飛び込んでしまったのである。ただ、この記事の内容が既に周知化している可能性があるので (「独創的なこと」にこだわる趣味はないから、周知化していても、それだけなら一向に構わないのだが、周知化していると云う事実に無知なのは、さすがに恥づかしい)、第一稿完成後、その点をチェックするため、この記事で扱っている箇所と対応する部分だけザッと読んでみた。結局、訳本に就いてしたのは、それだけである。従って、この記事では、ちくま学芸文庫版の翻訳品質を論ずるつもりはない。ただし、行き掛かり上、以下に論じた箇所の、ちくま学芸文庫版での対応箇所のページ・行番号だけは、追加記入していくつもりである。
--第一稿完成後、推敲前の付加記入。

まず全体の印象を述べておくなら、ファインマンの講演 "The Reason for Antiparticles" (「反粒子の存在理由」と謂ったところか) の方が、ワインバーグの講演 "Towards the final laws of physics" (「物理学の最終法則へ向かって」) よりも断然面白かった。(ちくま学芸文庫版では、それぞれ「反粒子はなぜ存在するのだろうか」と「究極の物理法則を求めて」になっている。)

これは、題材にもよっている。ファインマンが、特殊相対論と量子力学の結合が、必然的に反粒子の存在を要請すると云う、陽電子の存在を予言したディラックの記念講演としては、これ以上ないほど適切な素材を扱い、そして、一応出来上がった理論の総括として、ミンコフスキー空間を舞台にして見晴らしの良い議論ができたのに対し、ワインバーグは、一般相対論と量子力学の最終的統合をめざす一つの試みとして誕生した直後であった超弦理論 (superstring theory) の紹介を行なっているからだ (ワインバーグは講演の中で "string theory" と呼んでいる。当時、「弦理論」の欠陥を克服するものとして超双対性を取り入れた「超弦理論」が提唱され始めた頃だった筈だが、現在では「超弦理論」と呼ばずに、ステップバックして「弦理論」とだけにすることも多いようだ。「膜 (Membrane)」の登場で、「超双対性」は当たり前になったと云うことか。以下、この記事では、基本的には「弦理論」と呼ぶことにする)。 その極めて高度な数学的道具立てもあって、ワインバーグは、「弦理論」の内容の紹介というより、その存在の紹介をすることから余り進んでいない。

実際、当時は、脚註の中で指摘されているように "There are about a half-dozen string theories,..." 「半ダースほどの弦理論が存在する」(p.104 ちくま学芸文庫版 p.116) 状況だった。その解決策として エドワード・ウィッテン が、5つの「超弦理論」を纏める「M理論」(M-theory) を提唱したのは1995年のことである。

そして、多分に謙遜もあるだろうが、ワインバーグは、このように述べている。

The inventors of this theory, and those like myself who are not one of the inventors of the theory but are desperately trying to catch up with it, are now working to try and learn how to solve these theories so that we can find out what these theories say at ordinary energies and see whether they agree with the standard model.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.105 ll.14-20
参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.117の4-9行
この理論の発明者達や、私自身を含めて、発明者でなくても死に物狂いでこの理論の発展に追い付こうとしている者たちは、現在、こうした理論が通常のエネルギー領域において如何なる結果を与えるかを見出だし、それが標準モデル理論と合致するかどうかを検証しようとして、理論の解明に努力しているところです。

しかし、"The Reason for Antiparticles" の方が面白いのは、単に題材の差だけが理由ではない。やはりファインマンは、講演においても素晴らしく「芸達者」なのだ。彼は、どうしたら、聴衆の興味を引きつけるような核心を速やかに提示し、その興味を持続させ、そして発見の喜びを与えることできるかを知っていた。

多人数を相手に授業する講壇型の教育者は、「芸人」としての資質を持たねばならないのだが、ファインマンは、確かにスタンダップ・コメディアンの資質を持っていたようだ。私は、この講演録を読んでいて、「ここでシッカリ笑いを取っただろうな」と思った箇所が二・三 (或いはもっと?) あった。

しかも伝えるべきことはしっかりと伝えている。何を伝えねばならないかを明確に意識しているからだ。それは、"The Reason for Antiparticles" の中で、その内容をファインマン自身が的確に要約しているからもうかがえる。

Summary
We've gone a long distance in great detail, but the basic ideas are the things to remember. Here's how it went. If we insist that paticles can only have positive energies, then you cannot avoid propagation outside the light cone. If we look at such propagation from a different frame, the paticle is traveling backwards in time: it is an antipaticle. One man's virtual paticle is another man's virtual antipaticle. Then, looking at the idea that the total probability of something happening must be one, we saw that the extra diagrams arising because of the existence of antiparticles and pair production implied Bose statistics for spinless paticles. When we tried the same idea on fermions, we saw that exchanging particles gave us a minus sign: they obey Fermi statistics. The general rule was that a double time reversal is the same as 360°rotation. This gave us the connection between spin and staticstics and the Pauli exclusion principle for spin \frac{1}{2}. That contains everthing, and the rest was just elaboration.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.54 l.3 from the bottom - p.55 l.8
参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.68下から7行目 - p.70の6行目
要約
多くのことを非常に詳しく検討してきましたが、基本的なアイディアは覚えておいて頂きたい。それは、このようなものでした。粒子が正のエネルギーだけを持ちうるとするなら、我々は、光錐の外側に粒子が伝搬することを認めざるをえません。こうした伝搬では、粒子が、時間軸を逆方向に進むように見えるような別の座標系が存在します。これが反粒子です。ある観測者にとって粒子に見えても、別の観測者にとっては反粒子に見えることがあるのです。ここで、何かが起こると云うことの全確率は1にならねばならないと云う考え方を受け入れる限り、反粒子および対創成の存在のため余分に増える図形が存在すると云うことは、スピン・ゼロの粒子がボーズ統計に従うことを意味します。同じ考え方をフェルミ粒子に適用してみると、粒子の交換が、符号逆転を導き出すことが分ります。つまり、フェルミ粒子は、フェルミ統計に従う訣です。時間軸の逆転を2度することは、360度の回転と同じことだと云うのは一般的規則ですが、これにより、スピンと統計とが結び付き、またスピン \frac{1}{2} に対するパウリの排他原理が得られます。以上のことだけが、この講演の核心であり、それ以外のことは「細かいところの仕上げ」に過ぎなかったのです。

付言するなら、ここでファインマンは、自分が、話題を、スピン・ゼロとスピン \frac{1}{2} の場合に限っていることを明示的に認めている。ここらへんに、私などはファインマンの科学者としてのセンスの良さ、あるいは bon sens を感じてしまう。

これに対しワインバーグも "Towards the final laws of physics" の中で、「ジョーク」を試みてはいるのだが、これが「本人はジョークのつもり」程度のものでしかない。「前置き」も長すぎるし。。。まぁ、そうでもしないと、「尺が稼げない」ところがあったのかも知れないが、「面白くて為になる」講演ができない言い訣みたいになってしまっている。

しかし、ワインバーグも可哀想で、講演の準備中に主催者側から「量子力学の初歩を勉強中の学部学生に分かるレベルで」と云う注文を承けていたらしいのだ (p.67 ll.4-6 ちくま学芸文庫版 p.80の9-11行)。当時 (あるいは現在もかも知れないが)、形成途上にある理論を「解かりやすく」説明させようなどと云うのは無茶な話だ。だから、そんなことは無視してしまって、最初から「何だか分からないけど、或いは、何だか分からないから、面白いこと」を話せば良かったのだが、ワインバーグは結構それに囚われたのかもしれない。読んでいて、私は、多分、ワインバーグは「マジメ」人間なのだろうと思ったのだった。

余談だが、ファインマンは、大学の学部新入生に説明できないような話題は、十分に解明できたとはいえないと考えていたらしい。そういった意味では、「解明途上」の弦理論など、ワインバーグであろうとなかろうと (例えばファインマンでも。もっとも彼は「弦理論」に反発していたらしいが)、その audience に「理解」させようとしても無理なので、ワインバーグは「理解」にこだわる必要はなかったのだが、やはり性格なのかもしれない。ちなみに、ディラック御大の方は、講義をしても、学生が理解できたかどうかについて興味が無かったらしいから、人さまざまだ。

以下、"Elementary Particles and the Laws of Physics" を読んでいる途中に気付いたコマゴマとしたことを纏めておく。

取り敢えずは正誤表を作っておこう。

"Elementary Particles and the Laws of Physics" 正誤表
Richard P. Feynman "The Reason for tiparticles"
p.7, Fig.1(b)
Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.7 Fig.1(b) Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.7 Fig.1(b) corrected

備考: p.5 ll.3-4 (ちくま学芸文庫版 p.16下から7-6行) に "Now suppose that there are two disturbances, one at time t_1 and another at a later time t_2,..."「ここで、2つの擾乱が、一方はある時刻 t_1 に、他方は、それよりも遅い時刻 t_2 に起こったとしよう・・・」とあるから (\mathbf{x}_1, t_1) = x_1(\mathbf{x}_2, t_2) = x_2 とを交換する必要がある。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.18 図1

p.18, l.1

\begin{eqnarray*}
1 = |5a + 5b + \cdots|^2 + \\
\qquad |5c + \cdots|^2 + \cdots
\end{eqnarray*}
1 = |5a + 5b + \cdots|^2 + |5c|^2 + \cdots

備考: 引用した式は、原文では1行に書かれている。省略のリーダー (・・・) が1組多すぎるのは一目で分かる。そこで、式と第5図 (p.17 ちくま学芸文庫版 p.28) を対照してみると、真空-真空過程である第5a図と第5b図は確率振幅を足し合わせてから絶対値の平方を取らねばならないから、元のままでよいが、第5c図に対応する対創成は運動量の違いに応じて全て区別のつく過程だから、確率振幅の絶対値平方を足し合わせねばない。つまり、2番目のリーダーは不要である。

これを踏まえるなら、式は更に

1 = |5a + \sum\limits_{p, q}5b|^2 + \sum\limits_{p, q}|5c|^2

と書き直した方が良いと思われる。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.29 下から3行目

p.19 Fig.7(d)
Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.19 Fig.7(d) Elementary Particles and the Laws of Physics.  p.19 Fig.7(d) corrected

備考: 他の図形に揃えて、頂点を表わす白抜きの丸を付けるべき。 そのついでに、created with Inkscape \sum\limits_{p, q} ? の位置を動かした方が良いだろう (created with Inkscape \sum\limits_{p, q} ? の位置に就いては、Fig.7(f) に対しても、同じことが言える)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.30 図7(d)

p.34 l.2
(17) (16)

備考: 引用した式番号が間違っている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.47 下から6行目

p.34 l.2 from the bottom
(7) (9)

備考: 引用した式番号が間違っている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.48の7行目 (訂正済み)

p.39 Fig.11
Fig.11(a)
(E_a, \mathbf{Q}_a), a (E_a, \mathbf{Q}_a), \mathbf{a}
Fig.11(b)
(E_a, \mathbf{Q}_a), -a^\ast (E_a, \mathbf{Q}_a), -\mathbf{a}^\ast

備考: 光子の偏光 (polarization) は、本文に従ってボールド体で表記すべき。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.52 図11 (訂正済み)

p.52 l.5 from the bottom
But notice that if the charge q were not quantized, at a multiple of \hbar/2\mu, But notice that if the charge q were not quantized at a multiple of \hbar/2\mu,

備考: 単純なパンクチュエーションミス ("quantized" と "at" との間のカンマが余計)。ちなみに、この講演では、冒頭 (第4ページ下から7行め) で \hbar = 1 として計算を初めてから、それを踏襲してきていたが、この式が含まれる "MAGNETIC MONOPOLES, SPIN AND FERMI STATISTICS" のセクションでは、記号 \hbar が復活している。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.66 下から9-8行 (原文の余分なカンマは無視されている)

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.64 l.9
whey when

備考: 単純なタイプミス。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.77 下から7行目 ("when" として訳してある)

p.87 l.2
[\mbox{mass}]^{-\beta_1} [\mbox{mass}]^{\beta_1}

備考: 式 (4) が成立するためには、\beta_1 の前のマイナス符号は取らねばならない。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.98 下から3行目

p.87 l.3
[\mbox{mass}]^{-\beta_2} [\mbox{mass}]^{\beta_2}

備考: 式 (4) が成立するためには、\beta_2 の前のマイナス符号は取らねばならない。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.98 下から3行目

その他に気付いたことを書いておく。

"Elementary Particles and the Laws of Physics" メモ
Richard P. Feynman "The Reason for Antiparticles"
p.1 l.2 from the bottom

第1ページの末尾3行には

Dirac with his relativistic equation for the electron was the first to, as he put it, wed quantum mechanics and relativity together.

と云う箇所がある。この "as he put it" は、「彼 (Dirac) の言い方に従えば」ぐらいの意味と捉えるのが一番自然なのだが、実際、Dirac がこうした言い方をしたかどうかは、確認できなかった。それはそれとして、この挿入文は、"wed" (結びつける) の使い方が独特だとファインマンが感じたことを表わしているが、私には、それほど変わった言い回しとは思えない。或いは、ディラックとしては珍しいと云うことなのかもしれない。

そう言えば、ディラックと云う人は、どうやら "girl shy" だったらしい。ガモフに、ご婦人の顔を今までで一番間近で見たのはどのくらいの距離であったか、尋ねられた際に、両手を2フィートほど拡げて、「このくらいの近さだったね」と答えたり、ディラックが結婚した後、その事実を知らなかった友人が、たまたまディラックの家に立ち寄った際、自分の妻を「こちらは、えーっと、ウィグナー (ユージン・ウィグナー/Eugene Wigner)の妹さんです」と紹介した (正確には "This is Wigner's sister, who is now my wife" と言ったらしい) と云う逸話があるのだ。

これに対しては、ファインマンは、「麗しい女性が音楽にのせて踊りながら着衣を一枚ずつ脱いでいく芸能 (だと思う。実態は良く知らない)」の大ファンで、そうした「小屋」に入り浸っていたと云う。そうしたファインマンからすれば、「結びつける」と云う意味で "wed" を使うのは、ディラックらしくないと、思えた可能性はある。

しかし、こうしたことは全て憶測に過ぎない。

或いは、この "wed quantum mechanics and relativity together" は、ディラックとファインマンとの会話の中で出てきたのかもしれない。実際、"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.2 (ちくま学芸文庫版 p.12) には、正に二人が何やら話し合っているらしい姿のスナップショット写真が掲載されている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.14の3-4行

p.16, l.9

第16ページ第9行-第10行 に

We get the correct answer, but for the wrong reason.

とあるが、私なら "get" は --got-- とする。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.27の6-7行

p22., l.11-8 from the bottom

第22ページ下から11行目-8行目に

The fact that the amplitude is to be added when two identical particles going A, B to A^\prime, B^\prime arrive A to B^\prime and B to A^\prime instead of A to A^\prime and B to B^\prime, seems very natural,...
A及び BからA^\prime及びB^\primeへと進む2つの同等な粒子が、AからA^\primeへと行き、BからB^\primeへと行く代わりに、AからB^\primeへと行き、BからA^\primeへと行く場合の振幅も加え合わされるべきであると云うことは、極めて自然に見えます。

とある (この "when" には「譲歩」つまり、「...であっても」と云うニュアンスがある)。

これは文法的・語法的に言って首を傾げたくなる文章だが、言いたいことは良くわかる。それに、「正しい」文章にしようとすると、廻りくどくなって返って分かりづらくなる可能性が無しとしない。ただ、この "arrive" の使い方は如何なもんだろうとは、やはり思うのだ。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 ll.8-12

p.22, l.4 from the bottom - p.23 l.2

第22ページ下から4行目から第23ページ2行目の文章

Again, if particles arise from the quantization of a classical field (such as the electromagnetic field, or the vibration field of a crystal) the correspondence principle requires Bose particles if intensity correlations are to be correct, such as in the Hanbury Brown Twiss Effect.

とある。

冒頭の "Again" は「(上述の議論を) 再度適用すると」の含意。訳すとしたら「同様にして」。また、第2語の "if" (1番目の "if") には、譲歩のニュアンスがある。日本語にすると「...の場合でも」ぐらいになる。

"the correspondence principle" の "the" は、指示的な意味合いが強いので、訳すとしたら「この」ぐらいになるだろう。ただ "correspondence" が意外と訳しづらい。"correspondence" と云うと、通常「対応」と訳される。実際、量子力学で "correspondence principle" と言うと、ボーアの対応原理 "Bohr's correspondence principle" を指すのが普通だろう。

しかし、この場合はそうではない。(先回りして言ってしまうならボース統計に従う)同一種粒子の体系に起こる過程の確率振幅計算にあっては、粒子を入れ換えた各事象の確率振幅を加算しなければならないと云う「原理」を指している。これが、量子化される以前の古典的な場が変わっても、量子化後の粒子がボソンであるなら、やはり「対応する」(と言うか、「同じ」と言ってしまっても良いような気がするがするが)「原理」が成立すると言うことなのだ。従って、"correspondence" は敢えて訳す必要はないと思う

更に、2番目の "if" 以下は、"be + 不定詞句" と相俟って、目的を表わす副詞節になっている。従って、全体は次のような意味なる (「ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果 (Hanbury Brown Twiss Effect)」に就いては次項参照):

同様にして、(電磁場とか、結晶の振動場とかの) 古典的場の量子化に由来する粒子の場合でも、ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果に見られるような強度相関を正しく成立させようとするなら、この原理によって、そうした粒子はボース粒子でなければならないのです。

ここで「電磁場」が、例として挙げられているのはヤヤ不審。また、この議論では、暗黙のうちに、話題が正の強度相関に限定されている。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 下から9-4行

p.23, l.2

第23ページ2行目には such as in the Hanbury Brown Twiss Effect (ハンベリ・ブラウン・トゥイス効果) とあるが、このHanbury Brown Twiss Effect (HBT) に就いては、英文版ウィキペディアの該当項目、及び "Hanbury-Brown and Twiss-type experiments in electronic devices" (Stefan Oberholzer, Institut für Physik, Universität Basel, 6. December2005) を参照。

光子の場合で言い表すと、熱的光源から発せられる光の強度を1対の検出器で測定した場合に得られる、1対の強度測定値の揺らぎの間には、(光子はボソンであるため) 正の相関があると云う現象のことである (R. Hanbury Brown and R. Q. Twiss, "Correlation between photons in two coherent beams of light", Nature 177/1956, pp.27-29)。

この効果は、Robert Hanbury BrownRichard Q. Twiss とが、恒星 (具体的にはシリウス主星) の角直径を測定するために開発した「強度干渉計」の原理として採用された (A test of a new type of stellar interferometer on Sirius)。

ただし、このへんのことには若干の経緯がある。もともと、「強度干渉計」は電波星 (はくちょう座A及びカシオペヤ座A) の角直径を測定するために開発されたもので、その動作原理は古典的電磁気学 (マクスウェル方程式) に基づいていた。Hanbury Brown と Twiss とは、同種の装置を光の場合に建造して、それでシリウス主星の角直径 0.0063秒が測定されたと発表した。

ちなみに、最近の測定値は、約 0.0059秒乃至約 0.0060秒。これについては、英文版ウィキペディア "Sirius" の項、及び、そこで引用されている Kervella et al. "The interferometric diameter and internal structure of Sirius A" Astronomy and Astrophysics 407: 681–688 を参照。日本語版/英語版ウィキペディアの「角直径/angular diameter に記載されているシリウス主星の角直径「約 0.007秒」は疑問

つまり、恒星由来の光の場合にも強度のゆらぎ間に正の相関が存在すると主張した訣である。

発光源が、シリウス主星であろうと、水銀灯であろうと、光が、量子 (光子) になっていることに変わりはないが、光の量子としての側面があからさまになる局面が存在する。その象徴的な例が、恒星が我々の肉眼で視認できると云うこと自体が示すように、発光源が恒星である場合である。当然、HBT は量子力学で解釈されねばならない。しかし、恒星に由来する光子群を1対の検出器で測定してえられる (当然、波動関数の位相情報が失われた) 強度の揺らぎの間に相関があると云うことは、一見量子力学の基本に反するように見えたので、発表当初、HBT は物理的な実在性が疑われたのだった。結局、実は HBT は光がボソンであることの本質的な結果 (電子等のフェルミオンの場合にも同様なことが起こるが、相関 は負 --逆相関 /反相関-- になる) であることが解明された ("The Question of Correlation between Photons in Coherent Light Rays" E. M. PURCELL. Nature 178, 1449 - 1450 [1956])。このことが礎の一つなって、研究が進み、その後大きな発展を遂げて「量子光学」(quantum optics) が成立したのである。

    次の記事も参照:
  1. Obituary: Robert Hanbury Brown (1916-2002) : Article : Nature
  2. "THE PHYSICS OF HANBURY BROWN–TWISS INTENSITY INTERFEROMETRY: FROM STARS TO NUCLEAR COLLISIONS" Gordon Baym. "ACTA PHYSICA POLONICA B" Vol. 29 No 7 (1998)
  3. "HBT Interferometry: Historical Perspective" Sandra S. Padula

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.34 下から7行目

p.29, l.3-5

第29ページ第3行-第5行に

Dirac had a very nice demonstration of this fact-that rotation one time around can be distinguished from doing nothing at all.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.29 ll.3-5
ディラックは、1回転することと全く何もしないこととは区別できるのだと云うこの事実を実証する大変巧い方法を知っていました。

とあって、それに脚註して

For this demonstration due to Dirac, his famous scissors demonstration, see R. Penrose and W. Rindler (1984). Spinors and Space-time, Vol.1 p,43. Cambridge University Press.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.29 footnote

と書かれていて、最初に読んだ時、一瞬文意が取れず戸惑ったが、"this demonstration due to Dirac" と "his famous scissors demonstration" とが同格であることに気付けば、「ギリギリセーフ」の文章ではではあるのだ (「ディラックによる、この有名な「鋏の実演」に就いては、R・ペンローズ及びW・リンドラー共著 1984年発行『スピノルと時空』第1巻第43ページ参照」ぐらいか)。

それはさておき、この Dirac の "scissors demonstration" の内容は、概ね次のようなものであるらしい (ディラック自身のオリジナルがどのようなものか調べが付かなかった。以下は、上記 Penrose 及び Rindler の著作を参考にして、私なりの表現をしたものである)。

鋏と紐と長い2本の棒を用意し、紐を、鋏の持ち手の2つの穴と、2本の棒とに次の図のように絡ませてから (棒が「長い」とは、要するに、棒から紐を外す操作を禁じる限定。数学的には「無限長」とすべきか)、鋏を刃部分を中心軸にして720度 (4\pi) 回転させる (下図参照)。この後、鋏を、その中心軸に対して逆回転させないでも、紐を「ネジネジ」を解くことができるのだが、どうしたらよいかと云うのが、ディラック "scissors problem/scissors demonstration" と云うことのようだ (ただし、最初の回転が360度では、元に戻すことは不可能と云うのも重要な点)。

Derac's scossors Problem

私は、パズルが苦手で (と言うか、そもそも得意なものは何もないのだが)、こう云う時はサッサと回答を探すことにしている。有り難いことに、"Spinors and Space-time" Vol.1 には、次のように書いてあった (以下の引用で「chair/椅子」とあるのは、問題がもともとの形が、紐を椅子の背もたれの支柱に巻きつけるものとして表現されていたためである)。

The fact that this problem can be solved for 4\pi but not for 2\pi is a consequence of the above properties of SO(3). The solution is made trivially easy if the four strands of string (whose main purpose is to confuse the issue) are regarded as glued (in an arbitrary manner) to an open belt issuing from the chair: a twist of 4\pi of the belt is undone by looping the belt once over its free end. This solution also yields another way of continuously deforming a 4\pi rotation into no rotation. If we regard the scissors as free to slide along the belt, then each position of the belt during the untwisting manoeuvre gives a closed path in the configuration space of the scissors. The first takes it through a rotation of 4\pi, the last through no rotation at all.
--R. Penrose and W. Rindler "Spinors and Space-time" Cambridge University Press (1984) Vol.1. p.43 l.3 from the bottom - p.44 l.8 (Google ブック検索 による)
この問題が、4\pi の場合には解けるが、2\pi の場合には解けないという事実は、SO(3) の上記の性質の結果である。この問題の答えは、4本になっている紐 (その主たる目的は、問題の核心を隠しくらますことにある) を、(適宜の仕方で良いから) 固め合わせて椅子からぶら下がっているベルトとして扱うならば、おのづから明らかになる: ベルトが 4\pi 捻ってあるなら、そのベルトを、椅子に繋がっていない方の端を1回廻り込む輪を描くように動かせば良いのである。この答えは、4\pi の回転を無回転へと連続的に変形する方法の別解にもなっている。実際、鋏がベルトに繋がっていない状態で紐に沿って移動すると見なすなら、ほどけていく過程中におけるベルトの「姿勢」の夫々は、鋏の配位空間内で閉径路を形成するが、その最初の「姿勢」は、4\pi の回転に対応し、最後の「姿勢」は無回転に対応するのである。

つまり、次の図に示すようにして、ネジネジの廻りを、ネジネジの方向とは逆に一周するよう鋏を動かせ、と、言っているのだろう。ただし、その際気をつけねばならないことは:

  1. 周回中、鋏自身は、その中心軸に対しては回転しないようにすること。
  2. 鋏の全体が、ネジネジの廻りを回るように、鋏に付いている紐をうまく捌くこと。

である。

Dirac's demonstration of his scissors problem

また、この "Dirac had a very nice demonstration" で始まる1段落は、編集者によると思われる "This was taken verbatim from Feynman's lecture." (この文章は、ファインマン講演の言葉どおり) と云う脚註も付けられている。これは p.30 の連続写真との対応に臨場感を出すため実況録音風にしたためとも考えられるが、その一方で、「編集者」がこの部分の内容及び/又は表現に留保する意向の現れである可能性もある。

    参考になるかもしれないウェブサイト
  1. "Orientation entanglement - Wikipedia, the free encyclopedia" 「紐と鋏」ではなく、「コーヒーカップとベルト」を使った説明。この問題の数学的な本質が、リー群としての3次特殊直交群 (3次元回転群) SO(3) が単連結でなく、そのスピノル群 (スピン群)、つまり単連結な二重被覆群として、2次特殊ユニタリ群 SU(2) を有することにあることが説明されている。
  2. "Air on the Dirac Strings" CG アニメと「フィリピン・ワイン・ダンス」の実写を収めたmpg 動画 (40MB) へのリンクがある。
  3. "Dirac belt trick" アプレットを使った説明。ベルトの根元とベルト動きとの前後関係が分かりづらい。
  4. "Spinor - Wikipedia, the free encyclopedia" 英文版ウィキペディアの「スピノル」の項。
  5. "Tangloids - Wikipedia, the free encyclopedia" スピノルの計算をモデル化した、つまり、Dirac's scissors demonstration と同じ原理の数理玩具
  6. "The Dirac String Trick - First Hand" Dirac's scissors demonstration の関連情報が纏められている。

次の書籍にも、説明があるようだ。そのGoogle ブック検索とアマゾンへのリンクを貼っておく (Google ブック検索でヒットする著作とアマゾンに掲載されている著作は版数が異なることがあり得るので注意されたい):

  1. Louis H. Kauffman "Knots and physics"
  2. George K Francis "A Topological Picturebook"

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.41 下から4-2行及び p.42 脚註
なお、この脚註には、「訳注」として "Spinors and Space-time" Vol.1 からの転載と思われる "scissors demonstration" の図と、それに就いての説明の要約が付記されている。

p.29 ll.7 from the bottom - the bottom.

第29ページ下から7行からページ末までを最初に読んだ時、とまどった。基本的には未来のことにかかわる "keep track of" の後に現在完了形の名詞節 "whether you've made a rotation or not" が従っていたからだ。「回転したのが1回かどうかを追跡監視する」と云う簡単なことを言っているのだと気づくまでにしばらく時間が掛かった。それほど、私は頭が鈍いのだ。こんなことに引っ掛かる者は多くはあるまい。特に、講演の実際の audience には (彼らの多くがネーチヴ・スピーカであっただろうことを考慮しなくても)、ファインマンのイントネーションや身振り・表情も相俟って問題なく理解できただろう。

一応、訳を付けておく。

So two rotations are equivalent to doing nothing, but one rotation can be different, so you have to keep track of whether you've made a rotation or not, and the rest of this talk is a nerve racking attempt to try to keep track of whether you've made a rotation or not.
つまり、2回転は何もしないのと等価ですが、1回転は異なることがあるのです。そこで、回転したのが1回かどうか常に気を付けていなければなりません。これからの話は、回転したのが1回かどうか注意しつづけるようにすると云う精神的にシンドイ作業になります。

なお、Google ブック検索ではこのページを閲覧することができる (Elementary particles and the laws of ... - Google ブック検索)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.42 下から行目-p.44の3行目

p.51, ll. 3-9

第51ページ3-9行目には

Now there's a famous theorem that states that when you move an electric charge q through a magnetic field then the phase changes by \mbox{exp}(iq\int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x}), where \int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x} is the line integral of the vector potential \mathbf{A} along the path that the electric charge follows. (That's meant to intimidate you!)
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.51 ll.3-9

とある。

この "famous theorem" とは、アハラノフ・ボーム効果のことである ([nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] 参照)。従って、最後の一文 "That's meant to intimidate you!" は、アハラノフ・ボーム効果がアハラノフとボームによる予言後も、かなり長い間、その信憑性が疑われ続けたことを踏まえているのだろう。

これは私の推測と言うか、憶測だが、ファインマンは、アハラノフ・ボーム効果に就いて説明したのに、「フツーの物理学者、或いは、物理学部学生」なら起こすのが不思議でない「拒絶反応」を聴衆が示さないので、一寸したイタヅラ心を起こしたのだろう。「君らをドン引きさせるつもりだったのだけれどな」と付け足した感じなのだ。その裏には、ファインマンが、アハラノフとボームの予言に当初から拒絶反応を起こすことなく認めたと云う自負があるはずだ。付言するなら、この第1回ディラック記念講演が行なわれた1986年は、奇しくも、日立製作所中央研究所における外村彰 (とのむら あきら) の研究グループが、アハラノフ・ボーム効果の実在を、最終的に実証した年だった。

さて、磁場内で電荷 q を動かすと、電荷の径路に沿ったベクトルポテンシャル \mathbf{A} の線積分を \int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x} として、電荷の位相が \mbox{exp}(iq\int\!\!\mathbf{A}\cdot\mbox{d}\mathbf{x}) 変化すると云う有名な定理があります。。君らをドン引きさせるつもりだったのだけれどな。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.64 下から2行目-p.65の3行目

p.57 l.9 from the bottom

第57ページ下から9行めに記載されている "David Finkelstein" は、英文版ウィキペディアに項目のある "David Finkelstein" と思われる。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.72の10-11行

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.84 ll.2-12

量子電磁力学 (Quantum Electrodynamics/QED) による、電子の異常磁気モーメントの計算に就いて、第84ページ2行目から12行目に次のように書かれている:

This has been calculated many times, first, I believe, by Schwinger, and most recently and comprehensively by Kinoshita in 1981. The result of Kinoshita's calculation, together with the current experimental value, are given below in (2)

Magnetic moment of the electron:

Kinoshita's calculation:
1.00115965246 ± 0.00000000020

Best experimental value:
1.00115965221 ± 0.00000000003 (2)

--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.84 ll.2-12

この計算は何度も行なわれていますが、最初は、確かシュインガーによって行なわれ、最近では、最も包括的な仕方で木下により1981年に行なわれました。木下の計算結果と、現在の実験値を以下の (2) に示しておきます。

電子の磁気モーメント:

木下の計算値:
1.00115965246 ± 0.00000000020

最良の実験値:
1.00115965221 ± 0.00000000003 (2)

この "Schwinger" は、勿論、朝永振一郎やファインマンと同時にノーベル物理学賞 --Nobel laureates in Physics-- (1965年) を受賞した Julian Schwinger のことだが、ここで言及されているのは彼の 1948年における論文 "On Quantum-Electrodynamics and the Magnetic Moment of the Electron" (Phys. Rev. 73, 416 - 417 [1948]) を指しているのだろう。

この "Kinoshita" は「木下東一郎」のこと。

本稿に就いては、以下で、やや補足説明する。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.96の1-7行
p.97の脚註では、木下のその後の計算の結果が紹介されており、木下と仁尾の論文 "Improved α4 Term of the Electron Anomalous Magnetic Moment" (Phys.Rev. D73 (2006) 013003 arXiv:hep-ph/0507249) が引用されている (「訳注」内で、"Niho" とあるのは --Nio-- の誤り)。

Steven Weinberg "Towards the Final Laws of Physics"
p.100 Fig.4

第100ページの図4には、下のような感じの図が示されて

Interaction of two closed strings

次のようなキャプションが付けられている:

Fig.4 A string intersection involving the emission and reabsorption of a massless spin-two particle.
--"Elementary Particles and the Laws of Physics" p.100 Fig. 4
図4 質量ゼロ・スピン2の粒子の放出と再吸収とに関るストリングの交差

私は「弦理論/ひも理論」には全く無知だが、このキャプションには首を傾げてしまった。この図のように時間が左から右に流れているなら、この図は、粒子の「放出と再吸収」ではなく「吸収と再放出」に対応するような気がする。と言うか、むしろ、2つの閉ストリング (代表的には、質量ゼロ・スピン2の粒子である重力子/graviton) の相互作用を表わす worldsheet とでも説明した方が良いのではないか。(ファインマン図と同様、相互作用の高次の成分に対応する worldsheet も存在する訣だが、ここではそちらの方には立ち入らない)。

参考: ちくま学芸文庫「素粒子と物理法則」p.111 図4

Schwinger と木下東一郎の業績に付いて補足する。

しかし、まずは時間を巻き戻して、前期量子論から説明すると、そこでは、原子核の周りを電子が廻ると云う描像のもとで、電子の配置が量子化されて、当初の議論の段階では、電子の運動エネルギーに対応する主量子数と、電子の軌道運動の角運動量に対応する方位量子数及び磁気量子数とが導き出された (主量子数 n は自然数。方位量子数 ln 未満の非負整数、磁気量子数は、-l から +l までの整数)。ここで、方位量子数は、軌道角運動量全体の大きさ L に対応するのに対し (L = \sqrt{l(l+1)})、磁気量子数 m_\psi は、短絡的に表現するなら、原子が磁場内に置かれた際の、電子の軌道角運動量の磁場方向成分 (描像的には、磁場方向を中心軸とする電子の回転運動の角運動量) であって、磁場内を運動する荷電粒子としての電子の磁気モーメントを \frac{e\hbar}{2m_e}\cdot m_\psi と云う式で規定する値であった (ここで e は電気素量、m_e は電子の静止質量。なお、この式は SI 単位系による --具体的な値は、9.274 \times 10^{-24} J\cdot T^{-1}--。 ちなみに、cgs単位系では、分母に真空中の光速度 c が入る)。この \frac{e\hbar}{2m_e}ボーア磁子と呼ばれ、\mu_B などと記される。

前期量子論における、こうした「原子核の周囲を廻る電子の軌道」と云う描像は、その後確立されたコペンハーゲン教理では排斥されたが、勿論歴史的には十分意味がある。

さて、アルカリ金属原子の光学スペクトル線の予期せぬ二重項 (異常ゼーマン効果) に対する解釈を契機としてヴォルフガング・パウリが、電子に、当時知れられていなかった自由度が存在することを予想し、そしてそれに関連して、後年彼の名を冠せられて呼ばれるようになった排他原理を提唱 (1925年) したことが、電子の磁気モーメントに2種類の変異をもたらす内的自由度としてのスピンの概念に結実した訣だが、そのスピンは角運動量としての実在を持っていた。そして、スピンがゼロであると言う場合を含めると、スピンは、電子以外でもあっても、全ての素粒子が備える本質的な量子条件であることが分かっていく。(所謂、「シュテルン-ゲルラッハの実験」は、当初、スピンとの関係が認識されていなかった。)

電子のスピンと、その磁気モーメントを解明したのはディラックだった。彼は、電子に付いてのシュレディンガーの波動方程式を特殊相対論を満たすよう変形するなら、自然に電子が \frac{1}{2}\hbar (又は -\frac{1}{2}\hbar)) のスピン角運動量と、それに対応する磁気モーメント -\mu_B (又は \mu_B) を有することを示したのだ (岩波書店[ディラック 量子力學 原書第4版]第357ページ9-11行を参照)。ここで、注意すべきなのは、スピン各運動による磁気モーメントは、軌道角運動量から類推される量 (-\frac{1}{2}\mu_B/\frac{1}{2}\mu_B) の2倍になっていることである。

量子化された角運動量 P\hbar と、それに対応する磁気モーメント \mu があるとき、\mu\mu_B\cdot P の何倍かを表わす係数を g 因子 と呼んで、g で表わすことが多いが (つまり \mu = g\cdot\mu_B\cdot P. ただし、電子スピンの場合は、右辺にマイナス記号が付けられる)、ディラックは電子のスピン角運動量については g = 2 であると結論したのである。そして、これは実験と一致するように見えた。これに就いては、岩波書店[ディラック 量子力學 原書第4版]第356ページ2-3行に「この磁氣能率は...實驗と一致している」(This magnetic moment is ... in agreement with experiment.) ) とあることから、当時の認識の一端を伺える。

しかし、詳しい実験の結果、電子の g 因子は 2 から僅かにズレいてることが判明した (P. Kusch 及び H. M. Foley "Precision Measurement of the Ratio of the Atomic `g Values' in the 2P3/2 and 2P1/2 States of Gallium" Phys. Rev. 72, 1256 [1947] では \frac{(g-2)}{2} = 0.00115。 なお、P. Kusch 及び H. M. Foley "The Magnetic Moment of the Electron" Phys. Rev. 74, 250 - 263 [1948] も参照。そこでは \frac{(g-2)}{2} = 0.00119 とされた)。

1-loop Feynman diagram of magnetic moment of electron

このズレが、電子が光子を放出した後、それを吸収することよる効果だと見抜いたシュインガーは、"On Quantum-Electrodynamics and the Magnetic Moment of the Electron" (Phys. Rev. 73, 416 - 417 [1948]) で、ハミルトニアンに付加項を加えて、その補正値 \frac{(g-2)}{2} を、cgs 単位系で表わすと \frac{e^2}{2\pi \hbar c} となると導き、その値 0.001162 と算出して、実験結果を説明することに成功する (計算の際に現れる発散は「繰り込まれた」)。ディラックが産んだ量子電磁力学の卵を、シュインガーが孵した、と謂ったところか (量子電磁力学の成立には、ファインマンや朝永振一郎の功績があったことも忘れてはならないのは勿論だが...)。

なお、この補正値 \frac{e^2}{2\pi \hbar c} は、cgs単位系で表わした微細構造定数 (fine-structure constant) \alpha = \frac{e^2}{\hbar c} (SI では \alpha = \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0\hbar c}) を使って書き直すと \frac{\alpha}{2\pi} となる訣だが、シュインガーの墓碑 (マサチューセッツ州マウント・オーバーン墓地/Mount Auburn Cemetery) には、この記号が刻まれいてると云う。

Simplified Feynman Diagram for magnetic moment of electron

しかし、シュインガーの議論は、磁場ポテンシャルの影響を所与とした上での最も単純な摂動を計算したに留まるものだった。つまり、ファインマンの観点で言うなら、シュインガーの補正は、単ループのファインマン図 (右上図) 1個の寄与分を求めたに過ぎない。もっとも、異常磁気モーメントの値なので、運動量の大きさの変化 |p-p^\prime| 及び電子の運動方向の変化がゼロになる極限値を求めれば良く、従ってファインマン図を簡略化することができる(右図)。

式が共変的であることが解かり易いシュインガーのアプローチではあったが、具体的な計算には不向きで、これ以上のことは、実質上不可能だった (ここら辺のところは、ハイゼンベルク表示とシュレディンガー表示の関係と同じである)。

しかし、この摂動は、実際には、次のような微細構造定数の級数として表わされる。つまり、ヨリ高次の項が存在する。


\frac{g-2}{2} = 0.5\times\frac{\alpha}{\pi} - (0.328478...\times\frac{\alpha}{\pi}^2) + (1.181241...\times\frac{\alpha}{\pi}^3) - (1.9144...\times\frac{\alpha}{\pi}^4) + \cdotsa

そして、\alpha の1次の項の計算には1つのファインマン図で間に合うが、2次の項では7つ、3次の項では72個、4次の項では891個、5次の項では12672個と、必要なファインマン図の数は急上昇していき、それに伴った数値計算も、それ以上速さで膨大になっていく。「人力」の計算では、せいぜい2次の項までが限界だった。これに対し、木下はコンピュータを駆使して、3次及び4次の項の摂動計算を行なった。

例えば、木下は、1972年に、P. Cvitanovic と共同で、"Sixth-Order Radiative Corrections to the Electron Magnetic Moment" と云う論文を "Physical Review Letters" Nov. 27, 1972 に発表している (タイトル中の "Sixth-Order" は \alpha の次数としては3次に対応する)。

1981年時点の木下の結果に就いては、"Calculation of the Eighth order anomalous magnetic moment of the electron" (T. Kinoshita and W.B. Lindquist. Submitted to the Second International Conference on Precision Measurement and Fundamental Constants, National Bureau of Standards, Gaithersburg, MD, 8-12 June, 1981) が参考になる。ワインバーグが引用している Kinoshita's calculation は、おそらく、この結果だろう。それは、実験値と小数点以下9桁までが一致するという驚くべきものだ。

しかし、木下は、さらに計算を進めて、2005年には理化学研究所の仁尾真紀子との共同論文 "Improved α4 Term of the Electron Anomalous Magnetic Moment" (Jul 2005. Phys. Rev. D73:013003, 2006. e-Print: hep-ph/0507249) を、翌2006年には、仁尾の他に、 ハーバード大学の研究者 (G. Gabrielse, D. Hanneke, B. Odom) も加えて "New Determination of the Fine Structure Constant from the Electron g Value and QED" (Phys. Rev. Lett. 97, 030802 (2006) [4 pages]) を発表する。この成果は、アメリカ物理学協会 (American Institute of Physics/AIP) の2006年度 "The Physics Story of the Year of 2006" に選ばれたのだった。

ただし、「2007年8月22日付けの理化学研究所プレスリリース: 電子の磁石の強さを1兆分の1の精度まで計算」によれば、理研・名古屋大学・米国コーネル大学の共同開発チーム (仁尾 真紀子その他) は、木下が開発した摂動計算の手法をコンピュータによる完全自動化することに成功し、木下・仁尾が2005年に発表した4次の項の計算を追試した所、そのプログラム20万行中の6行に誤りがあり、計算値を訂正する必要があることが分かったという。

なお、最近の木下の姿が、2008年4月9日[木曜]朝日新聞夕刊(東京本社3版)第1面掲載の「素粒子の狩人」第4回に報じられている。

    次の文書も参考にされたい:
  1. M. Nio (RIKEN) "Automated Calculation Scheme for αn Contributions of QED to Lepton g-2: Diagrams without Lepton Loops" Feb. 7, 2006 KEK大型シミュレーション研究ワークショップ「超高速計算機が切り開く計算物理学の展望」
  2. M. Nio (RIKEN) 「レプトンg-2のQED高次補正」December 1-2, 2008 「計算科学による素粒子・原子核・宇宙の融合」筑波大学
  3. G. Gabrielse, D. Hanneke, T. Kinoshita, M. Nio, and B. Odom. "New Determination of the Fine Structure Constant from the Electron g Value and QED" Phys. Rev. Lett. 97, 030802 (2006) [4 pages]
  4. T. Aoyama, M. Hayakawa, T. Kinoshita, M. Nio "Revised value of the eighth-order QED contribution to the anomalous magnetic moment of the electron" arXiv:[hep-ph]0712.2607v2

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續日本後紀第九巻仁明天皇承和七年五月「庚辰。停五日節 以後太上天皇不豫也」

昨日遅く (2009/05/07 23:33:20)、キーフレーズ [庚辰。停五日節 以後太上天皇不豫也] で、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。

或いは、既に目的の情報を得られているかもしれないが、一応書いておくと、この言葉の出典は續日本後紀卷第九の仁明天皇承和七年五月の条にあると思われる。

    参考になるかもしれないサイト:
  1. 久遠の絆ファンサイト IN 台湾新編 續日本後紀卷第九 仁明天皇
  2. XMLの日本古典への応用の試み続日本後紀
  3. 國學院大學デジタルライブラリー続日本後紀 巻五 Page 015

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