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1926年のシュレディンガー論文 "Quantisierung als Eigenwertproblem" (固有値問題としての量子化) に就いて: ファインマンの言及箇所探し

[nouse: アハラノフ・ボーム効果とその実証実験 (本ブログ「サニャック効果」関連記事の余談として)] (2009年3月1日[日]) で引用したリチャード・ファインマン (Richard Feynman) の物理学教科書 "The Feynman Lectures on Physics" の一節の冒頭に "The theory we have described was known from the beginning of quantum mechanics in 1926. The fact that the vector potential appears in the wave equation of quantum mechanics (called the Schrödinger equation) was obvious from the day it was written." 「上記に説明した理論は、量子力学の創成当初である1926年以来分っていたのだ。量子力学の波動方程式 (シュレディンガー方程式) が書き表されたその日から、そこには、明白な事実としてにベクトルポテンシャルが現れていた。」 とあるが、この「1926年 」とは、勿論、Erwin Schrödinger (エルヴィン・シュレディンガー) が、量子力学史上重要な "Quantisierung als Eigenwertproblem" (固有値問題としての量子化) 4部作を発表した年である (「重要な」などと書いたが、私はろくに読んだことはない):

  1. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Erste Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 361-376
  2. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Zweite Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 489-527
  3. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Dritte Mitteilung: Störungstheorie, mit Anwendung auf den Starkeffekt der Balmerlinien)" Annalen der Physik, (4), 80, (1926), 437-490
  4. "Quantisierung als Eigenwertproblem (Vierte Mitteilung)" Annalen der Physik, (4), 81, (1926), 109-139

因みに、シュレディンガーは、第2論文と第3論文との間に、これもまた「重要な」"Über das Verhältnis der Heisenberg-Born-Jordanschen Quantenmechanik zu der meinen" (Annalen der Physik, (4), 79, (1926), 734-756) (ハイゼンベルクボルンヨルダンの量子力学の私の量子力学に対する関係に就いて) を発表している。

で、ファインマンが言及している、1926年に書かれたベクトル・ポテンシャルを含む波動方程式のことなのだが、やはり「固有値問題としての量子化」4部作中に含まれていると考えるべきだろう。そして、ザッと眺めたところ、ハミルトニアンから波動方程式を導いて、更に、それをクーロン・ポテンシャルでの2体問題 (ケプラー問題) に適用しているらしい第1論文や、作用関数やホイヘンスの原理から波動方程式を論じて、更に、ケプラー問題以外の例として、磁場の非存在下 (第514ページ) での1次元調和振動子等の簡単な系の量子化を扱っているらしい第2論文中には現れるとは思えない。

これに対して摂動論を扱っている第3論文には、期待が持てそうだと、所々を覗いてみたのだが、結局、スカラーポテンシャルについて、次の記述が見つかっただけだった:

Indem wir der Wellengleichung des Keplerproblems, Gleichung (5), S. 362, Bd. 79 dieser Annalen, eine potentielle Energie +eFz hinzufügen, wie es der Einwirkung eines elektrischen Felds in der positiven z-Richtung von des Stärke F auf ein negatives Elektron vom Ladungsbetrag e entspricht, erhalten wir folgende Wellengleichung für den Starkeffekt des Wasserstoffatoms

(32) \Delta\psi + \frac{8\pi^2m}{h^2}\left(E + \frac{e^2}{r} - eFz\right)\psi = 0

welche die Grundlage des restlichen Teiles dieser Abhandlung bildet.
--"Quantisierung als Eigenwertproblem (Dritte Mitteilung)" II. 3 ("Annalen der Physik" Vierte Folge, Band 80, S. 457)

本紀要第79巻第362ページの式 (5) として示されたケプラー問題の波動方程式に、強さ Fz 軸正方向に向かう電場による、電荷 e の負である電子への作用に相当するポテンシャル・エネルギー +eFz を付け加えることで、以後の議論の基礎となる水素原子のスタルク効果に対する次の波動方程式が得られる

(32) \Delta\psi + \frac{8\pi^2m}{h^2}\left(E + \frac{e^2}{r} - eFz\right)\psi = 0

--「固有値問題としての量子化 第3部」第2章/第3節 (「物理学紀要」第80巻第4号第457ページ)

    訳註:
  1. シュレディンガーが "ein negatives Elektron vom Ladungsbetrag e" と云う持って回った言い方をしているので「電荷 e の負である電子」と訳してあるが (言うまでもないが、この論文時点で、陽電子は発見は勿論、少なくとも一般的には、予想もされていない。従って、シュレディンガーは、「陽電子」との区別のために "negative" と云う限定を入れたのではない)、「負電荷 -e の電子」と云うことだろう。

しかし、ファインマンはハッキリ「ベクトル・ポテンシャル」と書いているから、彼が言及しているのは第4論文の次のような箇所だったのだろう (第4論文も摂動を扱っている。ただし、第3論文は時間に依存しない系が主題であるのに対し、第4論文は時間に依存する系が主題である)。

Die Hamiltonsche partielle Differentialgleichung für das Lorentzsche Eelektron läßt sich leicht in folgende Gestalt setzen

(34) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Bigl(\frac{1}{c}\partialdiff{W}{t} + \frac{e}{c}V\Bigr) &- \Bigl(\partialdiff{W}{x} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_x\Bigr) - \Bigl(\partialdiff{W}{y} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_y\Bigr)  \\<br />
 &- \Bigl(\partialdiff{W}{z} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_z\Bigr) - m^2c^2 = 0 <br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

Hier sind e, m, c Ladung, Masse des Elektrons und Lichtgeschwindigkeit; V, \mathfrak{A} sind die elektromagnetischen Potentiale das äußeren elektromagnetischen Feldes am Elektronenort. W ist die Wirkungsfunktion.

Aus der klassischen (relativistischen) Gleichung (34) suche ich nun die Wellengleichung für das Elektron abzuleiten durch folgendes rein formale Verfahren, welches, wie man leicht überlegt, auf die Gleichungen (4'') führen würde, wenn es auf die Hamiltonsche Gleichung eines in beliebigem Kraftfeld bewegten Massenpunktes der gewöhnlichen (nichtrelativischen) Mechanik angewendet wird. -- Ich ersetze in (34) nachdem Ausquadrieren die Größen

(35) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
&\hspace{10mm} \partialdiff{W}{t}, \quad \partialdiff{W}{x}, \quad \partialdiff{W}{y}, \quad \partialdiff{W}{z}, \quad \\<br />
&\mathrm{bezw. \ durch \ die} \ \mathit{Operatoren} \\<br />
&\pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{t}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{x}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{y}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{z} \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

Den so erhaltenen linearen Doppeloperator, ausgeübt an einer Wellenfunktion \psi setze ich gleich Null:

(36) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Delta\psi - \frac{1}{c^2}\partialdiffsecond{\psi}{t} \mp \frac{4\pi ie}{hc}\Bigr( \frac{V}{c}\partialdiff{\psi}{t} + \mathfrak{A}\,\grad{\psi} \Bigl) \\<br />
\hspace{10mm} + \frac{4\pi^2e^2}{h^2c^2} \Bigr( V^2 - \mathfrak{A}^2 - \frac{m^2c^4}{e^2} \Bigl)\psi = 0 \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

(Die Zeichen \Delta und \mathrm{grad} haben hier die elementare dreidimensionaleuklidische Bedeutung.) Das Gleichungspaar (36) wäre die vermutete relativistisch-magnetische Verallgemeinerung von (4'') für den Fall eines einzigen Elektrons und zwar wäre es ebenfalls in dem Sinne zu verstehen, daß die komplexe Wellenfunktion entweder der einen oder der anderen Gleichung zu genügen hat.
--"Quantisierung als Eigenwertproblem (Vierte Mitteilung)" ("Annalen der Physik" Vierte Folge, Band 81, SS. 133-134)

ローレンツ電子に就いてのハミルトン偏微分方程式は、容易に次の形式に表わすことができる:

(34) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Bigl(\frac{1}{c}\partialdiff{W}{t} + \frac{e}{c}V\Bigr) &- \Bigl(\partialdiff{W}{x} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_x\Bigr) - \Bigl(\partialdiff{W}{y} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_y\Bigr)  \\<br />
 &- \Bigl(\partialdiff{W}{z} - \frac{e}{c}\mathfrak{A}_z\Bigr) - m^2c^2 = 0 <br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

ここで e, m, c は、電子の電荷・質量と光速度であり、V, \mathfrak{A} は、電子の位置における、外部電磁場の電磁ポテンシャルであり、W は、作用関数である。

古典論的な (相対論的な) 方程式 (34) から、以下の純形式的な手続き (容易に分かるように、これを、任意の力場における通常の非相対論力学的な運動質点のハミルトン方程式に適用するなら方程式 (4') が得られる) により、電子の波動方程式を導き出してみよう。つまり (34) において、平方展開に、各項

(35) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
&\hspace{10mm} \partialdiff{W}{t}, \quad \partialdiff{W}{x}, \quad \partialdiff{W}{y}, \quad \partialdiff{W}{z}, \quad \\<br />
&\mbox{それぞれを、次の{\bf 作用素}} \\<br />
&\pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{t}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{x}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{y}, \quad \pm \frac{h}{2\pi i}\partialdiff{}{z} \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

に置換するのだ。こうして得られた線型2階作用素を、波動関数 \psi に適用したものをゼロに等しいとすると、次のようになる:

(36) <br />
\begin{equation*}<br />
\left\{<br />
\begin{split}<br />
\Delta\psi - \frac{1}{c^2}\partialdiffsecond{\psi}{t} \mp \frac{4\pi ie}{hc}\Bigr( \frac{V}{c}\partialdiff{\psi}{t} + \mathfrak{A}\,\grad{\psi} \Bigl) \\<br />
\hspace{10mm} + \frac{4\pi^2e^2}{h^2c^2} \Bigr( V^2 - \mathfrak{A}^2 - \frac{m^2c^4}{e^2} \Bigl)\psi = 0 \mbox{.}<br />
\end{split}<br />
\right.<br />
\end{equation*}<br />

(ここで、記号 \Delta 及び \mathrm{grad} は、初等的な3次元ユークリッド空間に対するものである)。対をなす方程式 (36) は、単一電子の場合に対する方程式 (4'') を相対論的磁場への一般化と措定して良いだろうが、このことの意味はつまり、複素波動関数は、上記方程式のどちらか一方を満足しなければならないと解釈されるべきだと云うことである。

--「固有値問題としての量子化 第部」第6節 (「物理学紀要」第81巻第4号第133-134ページ)

    訳註:
  1. やや余談に属するが、上記独文の翻訳には、主に小学館の [独和大辞典第2版 (コンパクト版)] を参考にしたが、そこには "Quantisierung" (量子化) と云う見出しが見られず、少々落胆した。まぁ、恐らくは、"Quantisierung" は、ブリティッシュ英語の動詞 "quantise" のドイツ語したものの更に派生名詞形と思われるから、と言うか、あるいは "quantisation" から直接造語したのかもしれないが、いずれにしろドイツ語にとっては「外来語」である可能性が大きいので、「ドイツ語」の辞典に収録するのに抵抗があるかもしれないことを認めるに吝かではない。しかし、逆に、だからこそ、利用者に一定の予備知識がないと、語義を推測しようがないことにも留意してほしかった。辞書への収録は、言葉の重要性との兼ね合いがあるのは、勿論だが、私に言わせれば "Quantisierung" は十分重要な単語である。
  2. "Ausquadrieren" も採録されていない。実は、この語義に就いては、私も若干不審なところがある。一応字面に合わせて「平方展開」と訳しておいたが、一般に「(式の) 展開」を意味する可能性が捨て切れない。
  3. 訳文中の式 (34) に就いて: 最近の Winshell は日本語に対応しているので、tex ファイル中に日本語が入っていても無事に dvi を作成出力する。しかし、そうした dvi ファイルを dvipng.exe で png 画像に変換しようとすると拒絶されてしまう。上記訳文中、式 (34) で使用した png ファイルは、モニター画面上に表示させた dvi 画像をキャプチャして png 形式で保存し、GIMP を使って、所要部分の切り取り、縮小、背景透明化を行なったものである。
  4. 一応、式の (4') がどのようなものか、下に紹介しておく:
    (4') \Bigr( \Delta - \frac{8\pi^2}{h^2}V + \frac{8\pi^2}{h^2}E \Big
l) \Bigr( \Delta - \frac{8\pi^2}{h^2}V - \frac{8\pi^2}{h^2}E \Bigl) \psi = 0

なお、私は未見だが (存在自体は承知していた)、以前共立出版から「シュレーディンガー選集」が出されたことがあって、その第1巻が [波動力学論文集] だった(1974年)。上記で引用した論文も、少なくとも一部は、当然収録されているだろう。

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