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2009年1月の2件の記事

Ce train va-t-il à la station de Paris? 「この列車は『パリ駅』に行きますか?」

今朝ほど (2009/01/19 09:46:49)、[Ce train va-t-il à la station de Paris ?日本語] と云うキーフレーズで、このサイトを訪問された方がいらしたようだ。

一体、どう云う局面で、こうしたことを調べたくなったのでしょうなぁ。意味は単純で「この列車は『パリ駅』に行きますか?」だが、良く知られているように、フランスの首都パリには、厳密に "la station de Paris"(「パリ駅」) と云う呼称に一致する駅は存在しない (「フランス 国鉄 -- フルールドクール.com」などを参照)。

パリ以外の場所には、「パリ駅」はあるかもしれない。その場合は「パリから来た列車/パリに行く列車」の (多分ターミナル) 駅ぐらいの意味である可能性が大きいが、ここで憶測をしても始まらないだろう。

あと "la station de Paris" が、固有名詞ではなく「パリ (にある、あの) 駅」と云う意味合いで使われる場合もあるだろう。しかし、これも、そうだとは断定できない。

結局、分からない。

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日本語版ウィキペディアの「サニャック効果」に対する誤った解説について。付けたし:欧州宇宙機関の HYPER プロジェクト

日本語版ウィキペディアの [サニャック効果 (最終更新 2008年12月10日 (水) 12:32)] の冒頭はこう始まっている。



サニャック効果( - こうか、Sagnac effect)は光に関する物理現象の一つで、特殊相対性理論で説明される現象によって、光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である為に、光路の運動によって光路の長さが変わったかのように見える現象である。
--サニャック効果 (最終更新 2008年12月10日 (水) 12:32)

しかし、この文章は物理学上、殆ど意味をなさない。僅かに、意味があるとしたら、相対論に就いての初歩的な勘違いの見本に使えるかもしれないと云ったぐらいだろう。

これが、実質的に一人の著作になるものなのか、あるいは「多くの船頭」がいたのかを確かめるほどの茶人では私はないし、また分かったとしても、他人様の頭の上の蝿を追う趣味はないので、以下は、誰彼の責任を追及するものでは全くないことを断わったうえで、話を続けていく。

この文章中の「光路」が如何なる意味で使われているのかが、まず問題になる。相対論で、時空中を自由な光が進む軌跡は所謂「ゼロ測地線/zero geodesic」(或いは「ヌル測地線/null geodesic」) になる。しかし、「光路の運動」と云う表現が物理的意味を持つには、「光路」がゼロ測地線そのものであることは難しいだろう。勿論、ゼロ測地線とは別のものである可能性もない訳ではないが、しかし「光の速度が...一定」であると言っている以上、ゼロ測地線の「空間」(「時空」の「空」部分) への投影を、時間をパラメータとして表現していると推定するのが最も妥当と言うべきだろう。勿論、これは「時空多様体」に「時間軸」を含む大域的な座標軸が存在している場合の話だが、「サニャック効果」が主題となる文脈では、この条件は満たされていると考えて良いだろう。

つまり、「光路の運動」とは、ゼロ測地線が載っている座標系が、観測者が載っている座標系に対して運動していると云うことを言いたいのだと考えることができる。

これを念頭に置いて、改めて、ウィキペディアの文章を読むと、「特殊相対性理論で説明される現象によって、光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である」となっていて、これだけで、この文章は「アウト」なのだ。

特殊相対論が言っているのは、異なる慣性系が互いに等速直線運動をしているなら (まぁ、一方の慣性系から見て、他方の慣性系が等速直線運動をしているなら、自動的に、その逆がなりたっているのだが...) 、真空中を進む同一の光の速度を、どちらの慣性系の時間と空間距離を以って測っても同一になると云うことだけである。

しかし、特殊相対論では、基本的には、それ以上のことは言えない。

一般の時空多様体は、ミンコフスキー空間 (つまり慣性系) を貼り合わせた構造を持つので、局所的には、慣性系になっている。従って、観測者が載っている局所座標系を取り敢えずは慣性系と見なすことは可能である (そして、それに載っている観測者自身に対しては静止している。以下、こうした座標系を「静止座標系」と呼ぶことにする)。しかし、静止座標系を作るのと同一の手続きで、真空中の光をゼロ測地線として載せいてる別の座標系を、静止座標系に対して等速直線運動をする慣性系にすることは一般には不可能である。そして、大雑把な言い方では、(サニャック効果に沿った例を挙げると) 静止座標系に対して回転運動する座標系に載っているゼロ測地線としての光の速度を静止座標系に乗っている観測者が測ると、一般には (具体的には、例えば、空間中、回転の接線方向に光が進んでいる場合など)、特殊相対論の謂う「真空中の光速 c」にはならない。

ここで「権威」を持ち出して議論の補強ような愚劣なことをする積もりはないが、それでも一般相対論の優れた解説者の言葉を引用しておくのも無駄ではないだろう。

重力場が存在すると、その自然な「光路」が屈曲することから得られる結論を論じて、アインシュタインは、次のように説明する:

In the second place our result shows that, according to the general theory of relativity, the law of the constancy of the velocity of light in vacuo, which constitutes one of the two fundamental assumptions in the special theory of relativity and to which we have already frequently referred, cannot claim any unlimited validity. A curvature of rays of light can only take place when the velocity of propagation of light varies with position. Now we might think that as a consequence of this, the special theory of relativity and with it the whole theory of relativity would be laid in the dust. But in reality this is not the case. We can only conclude that the special theory of relativity cannot claim an unlimited domain of validity ; its results hold only so long as we are able to disregard the influences of gravitational fields on the phenomena (e.g. of light).
--Albert Einstein. "Relativity: The Special and General Theory" (1920) Part II. Section 22. "A Few Inferences from the General Theory of Relativity" - Wikisource

この結論の2つめ重要な点としては、一般相対論に従うなら、特殊相対論の2つの基本的仮定の一方をなし、本書でしばしば言及されてきた真空中の光速度一定の法則が、無制限な妥当性を主張できなくなると云うことである。光線が屈曲すると云うことは、光の伝搬速度が場所によって変化しなければ起こりえない。この結果、特殊相対論と、相対論に関わる全ての理論が一敗地に塗れると云う風に考えることになるのだろうかと云うなら、事実はそうではない。これは、特殊相対論が妥当性を主張できる範囲は無制限ではなく、その結論は、(例えば、光の) 現象への重力場の影響が無視できる限りにおいてのみ成立すると云うだけのことなのであると言える。
--アルベルト・アインシュタイン「相対論:特殊と一般」(1920年)。第2部第22章「一般相対性原理からの幾つかの結論」

ただし、ドイツ語原書 "Über die spezielle und die allgemeine Relativitätstheorie" が出版されたのは 1916 年らしい。

一応補足しておくと、「光速度不変の法則」が成立しなくなるのは、静止座標系から加速度系を観測する場合であって、ゼロ測地線としての「光路」が載っている座標系自身において (つまり、その固有時間で) 光の速度を測るなら、その座標系が静止座標系に対して如何なる運動をしていようとも、所謂「真空中の光速度」になる。これはつまり、ゼロ測地線が座標変換してもゼロ測地線に移ると云うことである。さらに言うなら、このことは、物理法則が座標変換に対して共変的であらねばならないと云う、一般相対論の要請に従っている。つまり、「光速度不変の原理」と行ったものがあるなら、特殊相対論より一般相対論の方に馴染んでいるのだ。

これは、上記引用したアインシュタインの言葉尻とは一見異なるが、「光速度不変の原理が破れる」と云うのは、一般相対論が登場したばかりの当時 (例えば "Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie" の発表は1916年) として、啓蒙書において特殊相対論側から見た言い方をしたまでのことで、一般相対論側から表現すれば、固有時間で計った光速度は常に一定である。

これに対し、GPS により一般相対論が生活の中に入り込んでいる現在にあっては、メートル法自体が、距離の定義を一般相対論による「光速度不変の法則」に基づくようになっている。つまり、現在の国際単位系 (SI -- フランス語 "Le Système International d'unités" の略) では、長さの基本単位 1メートルを、光が真空中を 1/299,792,458 秒間に進む距離として定義されている (1983年) のは (第2.1.1.1項。Le Système international d’unités" 第8版 2006年 p.22 (仏文) p.112 (英文) 参照)、たとえ加速度系中で測定したとしても、「固有時間」の厳密性が精度良く担保される限り、その「固有時間」で測定した光速度は不変であることを踏まえているのだ。これに対応して「国際度量衡委員会 (CIPM -- フランス語 "Comité international des poids et mesures" の略。英語では "International Committee for Weights and Measures)")」の2002年の勧告では、一般相対論を考慮して、実際にメートル単位を構成する場合には、光路の長さを、固有時間の進み方に影響を与える重力ポテンシャルの不均一性が発生しないような短さに留めるよう求めている (国際度量衡局 [BIPM -- フランス語 "Bureau International des Poids et Mesures" の略] "Le Système international d’unités" 第8版 2006年 付録1. p.78 (仏文) 及び p.167 (英文) 参照)。

日本語版ウィキペディアの記載にとって皮肉なことに、「光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である」と云う表現に、幾らかでも物理的な意味を付与しようとするなら、それは、特殊相対論では不可能で、一般相対論によらねばならないのだ。


サニャック効果自体に就いても少し書いておこう (ただし、以下の内容は、このブログで既に書いてあることも多い)。

サニャック効果を論ずる場合は、空間中の光の伝搬速度としての「光の速度」と、時空の構造定数としての「(真空中の)光の速度」とを分けて考える必要がある。サニャック効果の成立にとり、空間中の光の伝搬速度は、本質的な重要性は持たない。

だから、光ファイバー中を、「(真空中の)光の速度」の速度をかなり下まわる伝搬速度で進んでも (勿論、表式中には光ファイバの屈折率が現れるが) 成立する。

また、「光路」がゼロ測地線である必要もない。サニャック効果に関わるのは、空間中の単純な径路である。サニャック効果の「説明」にしばしば使われる円周はゼロ測地線 (の「空間」への投影) ではないから安易に「光速度の不変性」を云々してはならないのだが、その事実とは無関係にサニャック効果は成立する。

それどころか、伝搬するのが光である必要さえない。これは「サニャック効果の普遍性」として知られている。実際問題として、サニャック効果を検出するには、時間差を高精度で測定する必要がある訣だが、光の場合は、光干渉計を用いることで、位相差として現れるサニャック効果の検出が容易になるため、歴史上最初に光に就いて発見されただけである。

しかし現在では、例えば、電子のクーパー対、電子、中性子、原子 (カルシウム、セシウム、ルビジウム) の物質波でのサニャック効果が確認されている。特に、サニャック効果による原子物質波の位相干渉を用いる回転角速度検出は、光を用いる場合より精度が格段に高くなることが期待されるために研究が進められている。

例えば ESA/ESTEC ("European Space Agency"/"European Space Research and Technology Centre" 欧州宇宙機関/欧州宇宙技術センター) で、宇宙空間において、地球の自転による Lense-Thirring effect の測定と、併せて、微細構造定数 の高精度測定を行なうべく推進されている HYPER プロジェクトでは、冷却原子の物質波のサニャック干渉を用いた装置 (Atomic Sagnac Interferometer--ASI--) 2基を観測衛星に搭載することが計画されている ("HYPER: A POTENTIAL ESA FLEXI-MISSION IN THE FUNDAMENTAL PHYSICS DOMAIN")。


サニャック効果は、静止座標系に対して、等速回転運動している座標系内部では大域的な同時性が成立せず (これは、同時性を表わす微分形式が完全積分可能ではないと云うことでありフロベニウスの定理/Frobinius' theorem に関わる)、空間中異なる位置にある2事象の同時性が、その2事象を結ぶ径路に依存することに起因する。この2事象の離間が無限小である場合には、その同時性のズレは線素から容易に求まるが、線素には時空の構造定数としての「(真空中の)光の速度」が入っているから、それに応じてサニャック効果の表式にも「(真空中の)光の速度」(「(真空中の)光の速度」を 1 とした場合は、見かけ上出てこないが、それは別の話だ) が現れる。しかし、これは、例えば光ファイバの中を光がどれだけの速度で伝搬するかとは独立している。一般の2事象の場合の同時性のズレは、無限小離間における同時性のズレを線積分すれば得られるわけだが、これは線積分をどの径路に従って行なうかで変化する。この時、特に、回転軸に対して径路の進む向きが重要となるが、これはサニャック効果を引き起こすコリオリ力ポテンシャルがベクトルポテンシャルであるためである。

こうしたことを踏まえるなら、「光路の長さ」を「光の速度」で割って求めた「時間」からサニャック効果を説明する仕方は、その基礎とする理論が何であったとしても、私は首を傾げざるを得ない。現在のメートル法がそうであるように、「長さ/距離」が「(固有) 時間」から求められるべきものであって、その逆ではないからだ。

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