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春されば吾家の里の川門には鮎児さばしる君待ちがてに

作者:不詳(娘等) 出典:[万葉集5]859/863
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.362

「に」を否定と見ると、「待ちきれずに」で、「ずに」に当たる。しかし、格助詞の「に」と混線して「がてに」が「できなくて」になった。「鮎児」の訓は字面通り「あゆこ」。

この歌は、[万葉集5]853/857 から [万葉集5]863/867 までの、松浦川 (現佐賀県「玉島川」) に題をとる一連の作品に属する。その第1首には大伴旅人による序文が付されているが、それは以下の通り:

   松浦川に遊ぶ序
  余、たまさかに松浦の県に往きて逍遥し、いささかに玉島の潭に臨みて遊覧するに、たちまちに魚を釣る娘子らに値(あ)ひぬ。花容双びなく、光儀匹ひなし。柳葉を眉の中に開き、桃花を頬の上に発く。 意気は雲を凌ぎ、風流は世に絶れたり。
  僕、問ひて「誰が郷誰が家の子らぞ、けだし神仙にあらむか」といふ。娘子ら、みな咲み答へて「児等は漁夫の舎の児、草庵の微しき者なり。郷もなく家もなし。何ぞ称り云ふに足らむ。ただ性水に便ひ、また心を山に楽しぶ。あるいは洛浦に臨みて、いたづらに玉魚を羨しぶ、あるいは巫峡に臥して、空しく烟霞を望む。今たまさかに貴客に相遇ひ、感応に勝へず。すなはち欵曲を陳ぶ。今より後に、あに偕老にあらざるべけむ」といふ。下官、対へて「唯々、敬みて芳命を奉はらむ」といふ。 時に日は山の西に落ち、驪馬去なむとす。
  つひに懐抱を申べ、よりて詠歌を贈りて曰はく、
あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と
(大伴旅人 [万葉集5]853/857)

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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