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見渡せば近きものから岩がくりかがよふ玉をとらずは止まじ

作者:読人しらず。笠朝臣金村歌集所収歌。或いは車持朝臣千年の作かとも。 出典:[万葉集6]951/956
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.414

「ずは」の用例。この「ずは」は、「よりも」でも「ずに」でも解釈できない。「光っている玉を取らないではいられない」。

なお、ネット上では「岩」は「いそ」ではなく「いは」と読む例が多い (白文を示しておこう「見渡者 近物可良 石隠 加我欲布珠乎 不取不巳」) が、「岩波古語辞典」では「磯隠れ」(「いそがくれ」下二段動詞連用形) を採用して、この歌を用例としてあげている。語義は「海辺の石のかげに隱れる」。ちなみに、同辞典では「岩隠り」(「いはがくり」四段動詞連用形) には「亡くなる」の語義を与えている。

『日本語で一番大切なもの』では解は与えられていない。一応私なりの解を付けておくと:「見渡したので近くにあることは確かだと分っている。海辺の石のかげに隱れて光り輝いている玉を取らないでおくものか」。

この歌は、やはり「ずは」の用例になっている次の歌と対 (掛け合い?) になっている:
大君の境ひたまふと山守据ゑ守るといふ山に入らずはやまじ (読人しらず。笠朝臣金村歌集所収歌。或いは車持朝臣千年の作かとも。 [万葉集6]952/957)

「ずは」の他の用例:
かくばかり恋ひつつあらずは高山の岩根し枕きて死なましものを (磐姫皇后(磐之媛命, 磐姫, 仁徳天皇妃) [万葉集2]86)
立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひ渡りなむ (上総国郡司妻女等 [万葉集20]4441/4465)
神山の山下とよみ行く水の水脈し絶えずは後もわが妻 (作者不詳 [万葉集12]3014/3028)

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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