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秋の夜は松を払はぬ風だにもかなしきことの音を立てずやは

作者:藤原季通 出典:[千載和歌集5]304
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.86

「やは」は反語。「音を立てないことはない」。「こと」に事と琴の両方をかけてある。

この歌は『和漢朗詠集』に収められた白居易の詩「五弦彈」の一節を踏まえている (ただし、白居易の詩は、「五弦琵琶」を詠っているらしい)。従って、この歌の「払ふ」は「吹き撫でる」、あるいは単に「吹き通る」ぐらいに解釈した方が良い (「吹き払う」では、「松の木を吹き倒す」か、それほどではなくても、「松を葉を全て吹き飛ばす」と云う感じになる)。その際、この歌は『千載和歌集』[秋歌下]所収とは言え、「秋」、「松」、「かなしきこと」、「音」とあるのだから、秋歌に、恋歌の内張りがしてあると考えるべきだろう。
一応、私 ([ゑ]) なりの解を付けておく:「秋の夜には、たとえ松を吹き通って来なかった風であっても、悲しげな琴の音を立てないではいないでしょうか、そして、私に飽きてしまって、待っていてもいらしてくれないあなたを思って、悲しいことだと私が泣かないではいないでしょうか」。

参考 (『和漢朗詠集』卷下 [管弦]「五弦彈」):
第一第二の弦は索索たり 秋の風松を拂て疏韻落つ
第三第四の弦は泠泠たり 夜の鶴子を憶て籠の中に鳴く
第五の弦の聲はもとも掩抑せり 隴水凍り咽んで流るること得ず
--白居易

参考 (「五弦彈」全文):
五弦彈
白居易
五弦彈, 五弦彈,聽者傾耳心寥寥.
趙璧知君入骨愛,五弦一一為君調.
第一第二弦索索,秋風拂松疏韻落.
第三第四弦泠泠,夜鶴憶子籠中鳴.
第五弦聲最掩抑,隴水凍咽流不得.
五弦並奏君試聽,淒淒切切複錚錚.
鐵擊珊瑚一兩曲,冰瀉玉盤千萬聲.
殺聲入耳膚血寒,慘氣中人肌骨酸.
曲終聲盡欲半日,四坐相對愁無言.
座中有一遠方士,唧唧咨咨聲不已.
自歎今朝初得聞,始知孤負平生耳.
唯憂趙璧白髮生,老死人間無此聲.
遠方士,
爾聽五弦信為美,吾聞正始之音不如是.
正始之音其若何?朱弦疏越清廟歌.
一彈一唱再三歎,曲淡節稀聲不多.
融融曳曳召元氣,聽之不覺心平和.
人情重今多賤古,古琴有弦人不撫.
更從趙璧藝成來,二十五弦不如五.

--白居易:五弦彈

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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