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逢はむ日の形見にせよと手弱女の思ひ乱れて縫へる衣そ

作者:狭野弟上娘女 出典:[万葉集15]3753/3775
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.96

「...である」を意味する終助詞「そ」の用例。
恋人が罪で流される時に、女の人が着物を縫って、再び逢える日までの形見として渡した。
[万葉集15]3723/3745-[万葉集15]3785/3807 は中臣朝臣宅守と狭野弟上娘女との間の贈答歌。
参考 (『万葉集』中、この歌の「衣」を詠んでいると思われる歌):
我妹子が形見の衣なかりせば何物もてか命継がまし (中臣朝臣宅守 [万葉集15]3733/3755)
白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに (狭野弟上娘女 [万葉集15]3751/3773)
白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに (狭野弟上娘女 [万葉集15]3778/3899)

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

補足
[万葉集巻十五目録]
中臣朝臣宅守の、蔵部の女嬬狭野茅上娘子を娶りし時、勅して流罪に断じ越前国に配す。ここに夫婦、別れやすく会ひかたきことを相嘆きて、おのもおのも慟む情を陳べて、贈答する歌 [六十三首]

[万葉集15]3723/3745-[万葉集15]3785/3807:
あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし 狭野弟上娘子 [万葉集15]3723/3745
君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも 狭野弟上娘子 [万葉集15]3724/3746
我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3725/3747
このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥明けてをちよりすべなかるべし 狭野弟上娘子 [万葉集15]3726/3748
塵泥の数にもあらぬ我れゆゑに思ひわぶらむ妹がかなしさ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3727/3749
あをによし奈良の大道は行きよけどこの山道は行き悪しかりけり 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3728/3750
愛しと我が思ふ妹を思ひつつ行けばかもとな行き悪しかるらむ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3729/3751
畏みと告らずありしをみ越道の手向けに立ちて妹が名告りつ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3730/3752
思ふゑに逢ふものならばしましくも妹が目離れて我れ居らめやも 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3731/3753
あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜はすがらに音のみし泣かゆ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3732/3754
我妹子が形見の衣なかりせば何物もてか命継がまし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3733/3755
遠き山関も越え来ぬ今さらに逢ふべきよしのなきが寂しさ [一には「さびしさ」といふ] 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3734/3756
思はずもまことあり得むやさ寝る夜の夢にも妹が見えざらなくに 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3735/3757
遠くあれば一日一夜も思はずてあるらむものと思ほしめすな 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3736/3758
人よりは妹ぞも悪しき恋もなくあらましものを思はしめつつ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3737/3759
思ひつつ寝ればかもとなぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3738/3760
かくばかり恋ひむとかねて知らませば妹をば見ずぞあるべくありける 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3739/3761
天地の神なきものにあらばこそ我が思ふ妹に逢はず死にせめ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3740/3762
命をし全くしあらばあり衣のありて後にも逢はざらめやも [一に「ありての後も」といふ] 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3741/3763
逢はむ日をその日と知らず常闇にいづれの日まで我れ恋ひ居らむ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3742/3764
旅といへば言にぞやすきすくなくも妹に恋ひつつすべなけなくに 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3743/3765
我妹子に恋ふるに我れはたまきはる短き命も惜しけくもなし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3744/3766
命あらば逢ふこともあらむ我がゆゑにはだな思ひそ命だに経ば 狭野弟上娘子 [万葉集15]3745/3767
人の植うる田は植ゑまさず今さらに国別れして我れはいかにせむ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3746/3768
我が宿の松の葉見つつ我れ待たむ早帰りませ恋ひ死なぬとに 狭野弟上娘子 [万葉集15]3747/3769
他国は住み悪しとぞ言ふ速けく早帰りませ恋ひ死なぬとに 狭野弟上娘子 [万葉集15]3748/3770
他国に君をいませていつまでか我が恋ひ居らむ時の知らなく 狭野弟上娘子 [万葉集15]3749/3771
天地の底ひのうらに我がごとく君に恋ふらむ人はさねあらじ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3750/3772
白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに 狭野弟上娘子 [万葉集15]3751/3773
春の日のうら悲しきに後れ居て君に恋ひつつうつしけめやも 狭野弟上娘子 [万葉集15]3752/3774
逢はむ日の形見にせよとたわや女の思ひ乱れて縫へる衣ぞ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3753/3775
過所なしに関飛び越ゆるほととぎす多我子尓毛やまず通はむ 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3754/3776 「多我子尓毛」は語義未詳。
愛しと我が思ふ妹を山川を中にへなりて安けくもなし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3755/3777
向ひ居て一日もおちず見しかども厭はぬ妹を月わたるまで 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3756/3778
我が身こそ関山越えてここにあらめ心は妹に寄りにしものを 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3757/3779
さす竹の大宮人は今もかも人なぶりのみ好みたるらむ [一に「今さへや」といふ] 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3758/3780
たちかへり泣けども我れは験なみ思ひわぶれて寝る夜しぞ多き 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3759/3781
さ寝る夜は多くあれども物思はず安く寝る夜はさねなきものを 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3760/3782
世の中の常のことわりかくさまになり来にけらしすゑし種から 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3761/3783
我妹子に逢坂山を越えて来て泣きつつ居れど逢ふよしもなし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3762/3784
旅と言へば言にぞやすきすべもなく苦しき旅も言にまさめやも 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3763/3785
山川を中にへなりて遠くとも心を近く思ほせ我妹 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3764/3786
まそ鏡懸けて偲へとまつり出す形見のものを人に示すな 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3765/3787
愛しと思ひし思はば下紐に結ひつけ持ちてやまず偲はせ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3766/3788
魂は朝夕にたまふれど我が胸痛し恋の繁きに 狭野弟上娘子 [万葉集15]3767/3789
このころは君を思ふとすべもなき恋のみしつつ音のみしぞ泣く 狭野弟上娘子 [万葉集15]3768/3790
ぬばたまの夜見し君を明くる朝逢はずまにして今ぞ悔しき 狭野弟上娘子 [万葉集15]3769/3791
味真野に宿れる君が帰り来む時の迎へをいつとか待たむ 狭野弟上娘子 [万葉集15]3770/3792
宮人の安寐も寝ずて今日今日と待つらむものを見えぬ君かも 狭野弟上娘子 [万葉集15]3771/3793
帰りける人来れりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて 狭野弟上娘子 [万葉集15]3772/3794
君が共行かましものを同じこと後れて居れどよきこともなし 狭野弟上娘子 [万葉集15]3773/3795
我が背子が帰り来まさむ時のため命残さむ忘れたまふな 狭野弟上娘子 [万葉集15]3774/3796
あらたまの年の緒長く逢はざれど異しき心を我が思はなくに 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3775/3797
今日もかも都なりせば見まく欲り西の御馬屋の外に立てらまし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3776/3798
昨日今日君に逢はずてするすべのたどきを知らに音のみしぞ泣く 狭野弟上娘子 [万葉集15]3777/3799
白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに 狭野弟上娘子 [万葉集15]3778/3800
我がやどの花橘はいたづらに散りか過ぐらむ見る人なしに 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3779/3801
恋ひ死なば恋ひも死ねとやほととぎす物思ふ時に来鳴き響める 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3780/3802
旅にして物思ふ時にほととぎすもとなな鳴きそ我が恋まさる 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3781/3803
雨隠り物思ふ時にほととぎす我が住む里に来鳴き響もす 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3782/3804
旅にして妹に恋ふればほととぎす我が住む里にこよ鳴き渡る 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3783/3805
心なき鳥にぞありけるほととぎす物思ふ時に鳴くべきものか 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3784/3806
ほととぎす間しまし置け汝が鳴けば我が思ふ心いたもすべなし 中臣朝臣宅守 [万葉集15]3785/3807

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