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よしさらば後の世とだに頼めおけつらさにたへぬ身ともこそなれ

作者:藤原俊成 出典:[新古今和歌集13]1232
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.172

「こそ」による係結びの例。「もこそ」は、「もぞ」同様、危惧、懸念を表わす。藤原俊成が、藤原定家の母になることになる女性 (美福門院加賀) に贈った歌。

大野晋の解:「よし、それならばせめてあの世で (一緒になろうと) だけでも頼みにさせておいてくれ、そのあなたの態度の辛さに耐えない身になってしまうといけないから」。

うーむ。私 ([ゑ]) の理解は少し違う。「頼めおけ」が命令形であることに注意しなければならない。この言葉は美福門院加賀には向けられえない。藤原俊成にかけられてこそ意味がある「諭し」なのだ。つまり、この歌は、藤原俊成が自分自身に言い聞かせている形だ (勿論、女に聞いてもらいたい「独り言」なのだが)。だから解を付けるなら「よしそう云うことなら、来世だけでも当てにするのだ。この恋の苦しさに堪えられなくなるようだから」になる。つまり、「このままでは恋の苦しさに死んでしまうにちがいない。それでも、来世だけでも当てにしながら死んでいこう」ということだろう。女が冷淡なので、拗ねているのだ。

返歌は「頼めおかんたださばかりを契りにて憂き世の中の夢になしてよ (藤原定家母/美福門院加賀 [新古今和歌集13]1233)」。こちらの方の解は「『来世だけでも当てにするのだ』と思えてしまえるのですね。では、それぐらいのご縁だと云うことで、あなたの恋心を、儚いこの世の夢と云うことにしてください」

この記事は[nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引 (改)] (2008年3月1日[土]) の一部をなすものである。

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