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たれをかも待乳の山のをみなへし秋と契れる人ぞあるらし

作者:小野小町 出典:[新古今和歌集4]336
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.21

助詞「かも」の用例。勅撰集に出てくる「かも」は殆どが疑問で詠嘆は少ない。この歌の「かも」も疑問を表わす。
この「待乳山」は東京浅草にあるものではなくて、大和と紀伊との境にあった峠のこと。

『日本語で一番大切なもの』中に解は与えられていない。たしかに、取り立てて複雑と云うほどの歌ではないのだが、一応私なりに解釈しておく。ただ、その前に注意しておくと、「秋と契れる人ぞあるらし」と推測の形になっているが、この「人」は小野小町と考えて良いだろうことだ。これは「契った人に飽きられてしまった」と云う受け入れがたい現実を推測の形で表わしている訣だ。従って「をみなへし」も小野小町を象徴すると理解すべきだろう。そこで解は「この秋の日に、待乳山で人待ち顔に咲いてる女郎花は誰を待っているのだろう。どうやら秋の日にふさわしい女郎花のように 、秋と契って飽きられて、人待ち顔をしている人がいるような」。

参考 (『万葉集』中の「まつち山」):
  神亀元年甲子の冬の十月に、紀伊の国に幸す時に、従駕の人に贈らむために娘子に誂へられて作る歌一首 [并せて短歌] 笠朝臣金村
大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀伊路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあるらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど たわや女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく
(笠金村 [万葉集4]543/546)

後れ居て恋ひつつあらずは紀伊の国の妹背の山にあらましものを (笠金村 [万葉集4]544/547)
我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀伊の関守い留めてむかも (笠金村 [万葉集4]545/548)

なお、この歌は[源氏物語53]「手習」中で引き歌されている(「『待乳の山の』となむ、見給ふる」岩波文庫『源氏物語(六)』p.259)。

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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