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験なき物を思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし

作者:大伴旅人 出典:[万葉集3]338/341
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.268, p.372

p.268 では、助詞「の」の用例として引用されている。「一杯の」が形状形容詞句。

p.372 では「ずは」の用例として引用されている。「ずは」は「よりは」と訳せと云うのが本居宣長以来の研究。大野晋の解は「なんの役にも立たないことを思うよりは、一杯の濁った酒を飲むべきだ」。

これに対し橋本進吉が「立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひ渡りなむ (上総国郡司妻女等 [万葉集20]4441/4465)」を挙げて異論を唱えたが、その議論を大野晋が「見渡せば近きものから岩がくりかがよふ玉をとらずは止まじ (読人しらず [万葉集6]951/956)」や「神山の山下とよみ行く水の水脈し絶えずは後もわが妻 (作者不詳 [万葉集12]3014/3028)」を例とて、修正している。『日本語で一番大切なもの』p.412-p.416 を参照。

「酒を讃むる歌十三首」([万葉集3]338/341-[万葉集3]350/353) の第1首。

参考 ([万葉集3]338/341-[万葉集3]350/353):
  大宰帥大伴卿、酒を讃むる歌十三首
験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし (大伴旅人 [万葉集3]338/341)
酒の名を聖と負ほせしいにしへの大き聖の言の宣しさ (大伴旅人 [万葉集3]339/342)
いにしへの七の賢しき人たちも欲りせしものは酒にしあるらし (大伴旅人 [万葉集3]340/343)
賢しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし (大伴旅人 [万葉集3]341/344)
言はむすべ為むすべ知らず極まりて貴きものは酒にしあるらし (大伴旅人 [万葉集3]342/345)
なかなかに人とあらずは酒壷になりにてしかも酒に染みなむ (大伴旅人 [万葉集3]343/346)
あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む (大伴旅人 [万葉集3]344/347)
価なき宝といふとも一杯の濁れる酒にあにまさめやも (大伴旅人 [万葉集3]345/348)
夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るにあにしかめやも (大伴旅人 [万葉集3]346/349)
世間の遊びの道に楽しきは酔ひ泣きするにあるべくあるらし (大伴旅人 [万葉集3]347/350)
この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ (大伴旅人 [万葉集3]348/351)
生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな (大伴旅人 [万葉集3]349/352)
黙居りて賢しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほしかずけり (大伴旅人 [万葉集3]350/353)

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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