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うらぶれて離れにし袖をまた纏かば過ぎにし恋い乱れ来むかも

作者:不詳 出典:[万葉集12]2927/2939
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.313

「過ぎにし恋い乱れ来むかも」は、主格の助詞「い」の用例。「忘れてしまった恋心がまた胸の中でわき返って、私の心の中を乱すだろうかしら」。

『日本語で一番大切なもの』には初三句の解が与えられていない。これを「恋する心もしおれて、離れ離れになってしまった恋人の袖をまた枕にするならば」とする説があるようだが、賛成できない。「離れにし袖」は「疎遠になった恋人」の提喩だから、作者の手元にかっての恋人が着ていた衣服の袖が実在するとは考えない方がよい。従って、「袖をまた纏」く、と云うのも、実際の袖を枕にすることではなく、かっての恋人と再び共寝をすることを指すと理解すべきである。

また「うらぶれて」を「離れにし」の修飾語とすると、座りが悪いことにも注意すべきだろう。「うらぶれて」は恋人達の仲が疎遠になった際の形容ではなくて、恋人を失った現在の作者の空虚感を表わしていると見做すべきだ。つまりこの歌は、「うらぶれて」で一旦切れているのだ。

まとめると、次のような大意となるだろう:「空しいな。別れてしまったあの人ともう一度共寝をするならば、あの熱狂的な恋が再び味わえるのだろうか」。

なお、『岩波古語辞典』は、優れた辞典で、この原稿を書く上でも常時披見しているが (言葉の意味に言及している場合は、その殆どで『岩波古語辞典』から引用して又は参考にしている)、動詞「まき」(連用形) の語義に「枕とする」が見当たらないのは意外。

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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