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うれたきや醜ほととぎす

作者:2首該当。大伴家持又は作者不詳 出典:[万葉集8]1507/1511又は[万葉集10]1951/1955
中公文庫版『日本語で一番大切なもの』p.12

間投詞「や」の用例。

[万葉集8]1509/1513
いかといかと ある我がやどに 百枝さし 生ふる橘 玉に貫く 五月を近み あえぬがに 花咲きにけり 朝に日に 出で見るごとに 息の緒に 我が思ふ妹に まそ鏡 清き月夜に ただ一目 見するまでには 散りこすな ゆめと言ひつつ ここだくも 我が守るものを うれたきや 醜ほととぎす 暁の うら悲しきに 追へど追へど なほし来鳴きて いたづらに 地に散らせば すべをなみ 攀ぢて手折りつ 見ませ我妹子 (大伴家持 [万葉集8]1507/1511)
詞書は「大伴家持、橘の花に攀ぢて、坂上大嬢に贈る歌一首并せて短歌」。
反歌は2首あって:
望ぐたち清き月夜に我妹子に見せむと思ひしやどの橘 (大伴家持 [万葉集8]1508/1512)
妹が見て後も鳴かなむほととぎす花橘を地に散らしつ (大伴家持 [万葉集8]1509/1513)
ホトトギスは家持愛好の鳥だが、妻に見せようとした橘の花を散らされて、さすがに怒っている。

[万葉集10]1951/1955
うれたきや醜ほととぎす今こそば声の嗄るがに来鳴きとよめめ (作者不詳 [万葉集10]1951/1955)
「こそば」は「こそ」+「は」で、「は」が濁音化したもの。「今日こそは」なら現代でも言う。「がに」は「...するほどに」の意。

どちらの歌にしても、「うれたきや醜ほととぎす」とは言っても、その底にホトトギスに対する「泥み」があって、それがままならないことするので悪態を吐いていると云うところがある。

参考 (ホトトギスは花を散らすものという共通認識が万葉人にはあったらしい):
我がやどの花橘をほととぎす来鳴き響めて本に散らしつ (大伴村上[万葉集8]1493/1497)
ほととぎす鳴く声聞くや卯の花の咲き散る岡に葛引く娘女 (作者不詳 [万葉集10]1942/1946)
藤波の散らまく惜しみほととぎす今城の岡を鳴きて越ゆなり (作者不詳 [万葉集10]1944/1948)
ほととぎす花橘の枝に居て鳴き響もせば花は散りつつ (作者不詳 [万葉集10]1950/1953)
ほととぎす来居も鳴かぬか我がやどの花橘の地に落ちむ見む (作者不詳 [万葉集10]1954/1958)
卯の花の散らまく惜しみほととぎす野に出で山に入り来鳴き響もす (作者不詳 [万葉集10]1957/1961)
ほととぎす来鳴き響もす橘の花散る庭を見む人や誰れ (作者不詳 [万葉集10]1968/1972)
橘の花散る里に通ひなば山ほととぎす響もさむかも (作者不詳 [万葉集10]1978/1982)
うぐひすの 卵の中に ほととぎす ひとり生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺ゆ 飛び翔り 来鳴き響もし 橘の 花を居散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄はせむ 遠くな行きそ 我がやどの 花橘に 棲みわたれ鳥 (高橋虫麻呂歌集 [万葉集9]1755/1759]) 万葉人はホトトギスの托卵に気付いていた。
桃の花 紅色に にほひたる 面輪のうちに 青柳の 細き眉根を 笑み曲がり 朝影見つつ 娘子らが 手に取り持てる まそ鏡 二上山に 木の暗の 茂き谷辺を 呼び響め 朝飛び渡り 夕月夜 かそけき野辺に はろはろに 鳴くほととぎす 立ち潜くと 羽触れに散らす 藤波の 花なつかしみ 引き攀ぢて 袖に扱入れつ 染まば染むとも (大伴家持 [万葉集19]4192/4216)
ほととぎす鳴く羽触れにも散りにけり盛り過ぐらし藤波の花 [一云 散りぬべみ袖に扱入れつ藤波の花] (大伴家持 [万葉集19]4193/4217)
ここにして そがひに見ゆる 我が背子が 垣内の谷に 明けされば 榛のさ枝に 夕されば 藤の繁みに はろはろに 鳴くほととぎす 我がやどの 植木橘 花に散る 時をまだしみ 来鳴かなく そこは恨みず しかれども 谷片付きて 家居れる 君が聞きつつ 告げなくも憂し (大伴家持 [19]4207/4231)

本記事は、極めて長文である [nouse: 大野晋・丸谷才一『日本語で一番大切なもの』引用文索引] (2008年3月1日[土]) から同一引用文に係る項目を分離独立させたもので、内容に実質的な変化はない。

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