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Rindler 計量と「双子のパラドクス」

[nouse: 一般相対論によるサニャック効果の導出] (2007年9月30日 [日]) で、英文版ウィキペディアの "Twin paradox" 中の "Accelerated rocket calculation" の部分を『「御託」を並べている』と書いてしまったので、補足しておく。

なお、私が問題にした "Twin paradox" は "last modified 09:14, 16 September 2007" だが、現在は "last modified 00:53, 3 October 2007" になっている。しかし、"Accelerated rocket calculation" のセクションには変化はないので (今のところ行なわれているのは英国式の綴りを米国式の綴りに変更しただけ)、以下の議論には影響しない。

とは言え、話は単純で、「双子のパラドクス」(と云うか、一般相対論の見地からは「オーソドクス」なんだが) における固有時間は、適宜 Rindler 計量を使って計算しなければならないと云うだけのことなのだ。

Rindler 計量 (Rindler 時空) の定式化は、文献によりバラツキがあるようだが、例えば、"Introduction to General Relativity" によれば、次のように導入されている (もっとも、Rindler の名前には触れられておらず、単に "uniformly accelerated frame" とだけ呼ばれているが)。

それによるなら、ミンコフスキー空間中の一様加速度系に就いて、ミンコフスキー座標を (一様) 加速度系座標に変換する式は

cT &=& \frac{c^2}{a} \sinh\frac{at}{c} + z\sinh\frac{at}{c},\qquad X = x,\qquad Y = y,\\<br />
Z &=& \frac{c^2}{a}(\cosh\frac{at}{c} - 1) + z\cosh\frac{at}{c}

であり、加速度系の計量線素は

c^2 d\tau^2 &=& (c^2 + 2az + \frac{a^2 z^2}{c^2}) dt^2 - (dx^2 + dy^2 + dz^2)

である("Introduction to General Relativity" p.143 参照)。ただし、ここで、(\begin{array}{cccc} cT & X & Y & Z \end{array}) はミンコフスキー座標、(\begin{array}{cccc} ct & x & y & z \end{array}) は加速度系座標、a は加速度、c は真空中の光速度である。また、加速度系はミンコフスキー座標の Z 軸正方向に加速されているとされている。また (\begin{array}{cc} ct & z \end{array}) = (\begin{array}{cc} 0 & 0\end{array}) の時 (\begin{array}{cc} cT & Z\end{array}) = (\begin{array}{cc} 0 & 0\end{array}) となることに注意。

この形の Rindler 時空の定式化は、以下の議論に都合が良いので、これを採用する (他の定式化に就いては、例えば "Rindler coordinates - Wikipedia, the free encyclopedia" を参照--20080626補足:草稿ながら、訳文「nouse: 英文版ウィキペディア "Rindler coordinates" 翻訳草稿」を作成した。)。

さて、ミンコフスキー座標の空間原点から、Z 軸正方向に沿って出発し、「長い旅」を経て、出発点に戻ってくる「旅行者」を考える。所謂「双子のパラドクス」の典型例では、この旅行者は出発直後に急速に加速して (「急速に加速」:この「加速」の他に「減速」もあるが、どちらにしろ、その期間は十分短くて、往復にかかる全時間の中では無視可能であるとされる)、真空中の光速度の数割程度の速度 (所謂「亜光速」) に達してからは、等速度で長期間 (長い方が「劇的」になるが、長すぎて「双子」と云う属性が無意味にならない程度)「巡航」する。その後、やはり急速に減速して反転し、Z 軸負方向に、往路と同じ等速度で復路を辿り、出発点近くで減速して、出発点で停止する。この間、旅行の出発点であるミンコフスキー座標の空間原点に留まり続けた「残留者」固有時間の経過量は、「旅行者」の固有時間経過量より長くなる。

これは、「残留者」が載っている(ミンコフスキー)座標系が慣性系であるのに対し、「旅行者」は「旅行」中に加速度系に載ることがあり、対称性 (「特殊相対性」とでも言うべきか) が、そこで破れるためである。この点を無視すると、両者の固有時間経過量の違いが理解できず、パラドクスに陥る。


以下、「旅行者」と「残留者」との固有時間の経過を、適宜 Rindler 計量を用いて計算する ("Rindler" は、「ミンコフスキー」に合わせて、以下基本的には「リンドラー」と表記しておく)。

ここで、簡単のため、「旅行者」が行なう加速 (「減速」もあるから、以下「変速」) の大きさは、全て同じ絶対値 a で、同じ期間 (「旅行者」の固有時間で測って) \Delta t (「折り返し点」での変速期間は 2\Delta t) 行なわれるものとする。また、「旅行者」の巡航速度は「残留者」の視点では 往路は V (0 < V < c は定数)、復路 -kc とし (往路・復路で巡航速度の絶対値は同一)、往路・復路のそれぞれで巡航所要時間は、「旅行者」の固有時間で p とする。

以下の議論では、x(X) 軸、y(Y) 軸のことは考えなくて良い。また、変速中の「旅行者」はリンドラー座標系の空間原点に載っていると考えることができる。

ミンコフスキー座標系空間原点をリンドラー座標系で考えると次の式が成り立つ。

cT &=& \frac{c^2}{a} \sinh\frac{at}{c} + z\sinh\frac{at}{c}\\<br />
0 &=& \frac{c^2}{a}(\cosh\frac{at}{c} - 1) + z\cosh\frac{at}{c}

従って、「旅行者」側から見た「旅行者」と「残留者」との関係は、リンドラー座標系から見た「残留者」の時刻と座標値とを、それぞれ T_RZ_R として:

\begin{eqnarray}<br />
T_R &=& \frac{c}{a}\tanh \frac{at}{c} \\<br />
Z_R &=& - \frac{c^2}{a} \left( 1 - \frac{1}{\cosh \frac{at}{c}} \right)<br />
\end{eqnarray}

になる。

出発直後には、\frac{at}{c} \ll 1 が成り立っていると看做せるから、上記の第1式は、級数展開して T_R \approx t - \frac{a^2}{3c^2}t^3 と書ける。つまり、出発直後では、1次の項のレベルでは、「旅行者」から見た「残留者」の時計は「旅行者」の時計と同期している。3次の項まで考慮すると、「残留者」の時計、「旅行者」の時計より遅れる。

少し、脱線しよう。もし、「旅行者」が、このまま加速を続けたらどうなるか?

「旅行者」から見た「残留者」の時計はドンドン進みが遅くなり、その時計は T_R = \frac{c}{a} 迄進むことは決してない。また、両者間の距離も一定以上離れず、リンドラー座標系で表現して \quad Z_R = - \frac{c^2}{a} に到達することはない (そこには、リンドラー時空の「事象の地平線」"event horizon" がある)。

これを、逆に「残留者」の側から見るならば、座標の変換式は

\begin{eqnarray}<br />
T &=& \frac{c}{a} \sinh\frac{at}{c}\\<br />
Z &=& \frac{c^2}{a}(\cosh\frac{at}{c} - 1)<br />
\end{eqnarray}

となる。

話を進める前に、この変換式は、ミンコフスキー座標系からみた「旅行者」の時刻と座標値がリンドラー座標系の固有時間で表わされている形になっているから、「旅行者」の4元速度及び4元加速度を計算するのに都合が良いので、ついでにまず、それらの平方を求めてみると、4元速度の平方は当然、

\left(\frac{dT}{dt}\right)^2 - \left(\frac{1}{c}\frac{dZ}{dt}\right)^2 = \left(\cosh\frac{a}{c}t\right)^2 - \left(\sinh\frac{a}{c}t\right)^2 = 1

となり、そして4元加速度の平方としては

\begin{eqnarray*}\left(\frac{1}{c}\frac{d^2T}{dt^2}\right)^2 - \left(\frac{1}{c^2}\frac{d^2Z}{dt^2}\right)^2 &=& \left(\frac{a}{c^2}\sinh\frac{a}{c}t\right)^2 - \left(\frac{a}{c^2}\cosh\frac{a}{c}t\right)^2\\<br />
&=& -\frac{a^2}{c^4}<br />
\end{eqnarray*}

が得られる。

さて、上記の変換式を簡単に変形すると、ミンコフスキー座標系からみた「旅行者」の固有時刻と座標値 (それぞれ t_Mz_M とする) を、「残留者」の固有時刻を使って

\begin{eqnarray}<br />
t_M &=& \frac{c}{a} \arcsin\!{\mathrm h}\frac{a}{c}T\\<br />
z_M &=& \frac{c^2}{a}\left(\cosh (\arcsin\!{\mathrm h}\frac{a}{c}T) - 1\right)\\<br />
 &=& \frac{c^2}{a}\left(\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}T^2} - 1\right)<br />
\end{eqnarray}

と表わすことができる。

リンドラー座標系からみると、「残留者」の時計が、T = \frac{c}{a} に到達しないと云うことは、ミンコフスキー座標系で表現すると、時刻 T = \frac{c}{a} 以降に「残留者」から「旅行者」に発信された光は、「旅行者」に追いつかないと云うことである。これは、やや面白い。なぜなら、「残留者」から見た「旅行者」の速度 \frac{dz_M}{dT} = aT/\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}T^2} は、c を超えることはないからである。(2008-06-19 [木] 補足:このことは、「ミンコフスキー幾何学」で考えるなら、「旅行者」の世界線は双曲線をなし、光錐の ZT 断面は双曲線の漸近線と平行な直線となるが、そうした双曲線上の任意の一点での接線を、双曲線が開く方向に延長すれば、その双曲線に「寄り添った」漸近線と必ず交わるものの、双曲線自身と漸近線自身は決して交わらないと云うことであって、当然のことである。)

なお、式 t_M &=& \frac{c}{a} \arcsin\!{\mathrm h}\frac{a}{c} は、ミンコフスキー座標系に対し等加速度運動する座標系の固有時間を表わす式として「場の古典論」の第1章末で扱われている。また、英文版ウィキペディアの "Twin paradox" の "Accelerated rocket calculation" でも採用されているのもこの式である。

しかし、この式は、「旅行者」の出発 (そして帰還) における「旅行者」の固有時間と「残留者」の固有時間との関係を規定するのみで、折り返し地点における「旅行者」の固有時間と「残留者」の固有時間との関係には妥当しない。"Accelerated rocket calculation" では、この式を出発・帰還だけでなく、折り返しにおいても無原則的に適用してしまうと云う誤りを犯している。このため、「旅行者」変速中の時間経過は、「旅行者」・「残留者」両者において、全体に対し無視可能な値にしか見積もられない ("Accelerated rocket calculation" では、値は間違っていると云うものの、実際にも「旅行者」においては、変速中の時間経過は無視可能な長さであるので、"Accelerated rocket calculation" は、あたかも正しい議論をしているように見える)。しかも議論の実質的な内容が、「残留者」から見た「旅行者」の時間経過を求めようとしているだけで、「旅行者」から見た「残留者」の時間経過は考えていない。もしそうしていたら、まさに「双子のパラドクス」が発生して議論の破綻が明瞭になったろう。

そもそも、"Accelerated rocket calculation" では、「旅行者」の変速期間が「残留者」の固有時間で同一長さを有すると云う正当化無しにはしてはならない措定をしており、そして実際に、これは正当化不可能なのである。折り返し地点における変速期間の長さが「残留者」と「旅行者」とでは、「残留者」・「旅行者」間の距離に応じた食い違いを起こすと云うのが「双子のパラドクス」の核心だからだ。

閑話休題。「残留者」から見た、出発直後の (\frac{at}{c} \ll 1) 「旅行者」の時刻と座標値の近似式は、それぞれ t_M \approx T - \frac{a^2}{6c^2}T^3 及び z_M \approx \frac{1}{2}aT^2 となる。最後の式が、古典的な等加速度運動に一致することは言うまでもなかろう。

「旅行者」の固有時間で \Delta t の間加速したあと、「旅行者」は巡航 (等速度運動) に入る。その速度 (勿論、「残留者」から見たもの) V (0 < V < c) は、上記から分かるように、\Delta t により

V = a\Delta t\Big/\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}\Delta t^2}

と表わされる。

また、出発してから加速を終えて巡航に入るまでの間、「旅行者」が進んだ距離 は、「残留者」から見て (これを L と書く):

L = \frac{c^2}{a}\left(\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}\Delta T^2} - 1\right)

である。

[吉例] に従って、ここで記号 \beta = V/c\gamma = 1/ \sqrt{1- \beta^2} を導入しておこう。

「旅行者」の巡航中は「旅行者」と「残留者」との間には特殊相対論が成立する。従って、「旅行者」が巡航中の間、「旅行者」から見て「残留者」の時間は \frac{p}{\gamma} 進むだけが、「残留者」の立場では、その間に自分の固有時間は \gamma p 進む。

そうすると、「旅行者」 の折り返し地点は、「残留者」から見て \gamma pV + 2L 離れていることになる。

折り返し点近傍の「旅行者」変速中は、特殊相対論が成立しなくなるが、ここでも変速が「等加速度」であると仮定されているから、別のミンコフスキー座標系とリンドラー座標系の対を考える。この2組目の座標系の対は、ミンコフスキー座標系の空間原点が折り返し点上にあり、それぞれの Z 軸が1組目のミンコフスキー座標系・リンドラー座標系と逆になっているものとする。ここで「旅行者」の折り返しを考えるなら、更に、時間の流れと加速度の符号も逆転しているとするのが自然である。そうすると、折り返し点でのミンコフスキー座標とリンドラー座標との間の変換式は、オリジナルのものを変えずに

\begin{eqnarray}<br />
cT &=& \frac{c^2}{a} \sinh\frac{at}{c} + z\sinh\frac{at}{c}\\<br />
Z &=& \frac{c^2}{a}(\cosh\frac{at}{c} - 1) + z\cosh\frac{at}{c}<br />
\end{eqnarray}

が使える。ここで、「旅行者」が 減速し始めて折り返し点に辿り着くまでの固有時間 \Delta t の間に、「残留者」の固有時間はどれだけ経過するかを考える。そのために、まず t = 0 つまり、「旅行者」が折り返し点に到着した時点で、「旅行者」と「残留者」との間のミンコフスキー空間での距離が \gamma pV + 2L であることを使えば、座標変換式の第2式は

\gamma pV + 2L = z

となる。この値と、「旅行者」の減速期間 \Delta t を第1式に代入して整理すると:

T = \left(\frac{c}{a} + \frac{\gamma pV + 2L}{c}\right)\sinh\frac{a}{c}\Delta t

従って、「旅行者」往復中における「旅行者」の経過固有時間 R と「残留者」の経過固有時間 H はそれぞれ:

\begin{eqnarray}<br />
R &=& 2\left(p + 2\Delta t\right)\\<br />
H &=& 2\left(\frac{p}{\gamma} + (2\frac{c}{a} + \frac{\gamma pV + 2L}{c})\sinh\frac{a}{c}\Delta t\right)<br />
\end{eqnarray}

ただし

\begin{eqnarray}<br />
V &=& \frac{a\Delta t}{\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}\Delta t^2}}\\<br />
L &=& \frac{c^2}{a}\left(\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}\Delta t^2} - 1\right)<br />
\end{eqnarray}

である。

ここで、

\sinh\frac{a}{c}\Delta t > \frac{a}{c}\Delta t > \frac{V}{c}

であることに注意すると、

\frac{p}{\gamma} + \frac{\gamma pV}{c}\sinh\frac{a}{c}\Delta t > \frac{p}{\gamma} + \frac{\gamma pV^2}{c^2} = \gamma p

及び

\begin{eqnarray}<br />
\left(\frac{c}{a} + \frac{L}{c}\right)\sinh\frac{a}{c}\Delta t &=& \frac{c}{a}\sqrt{1 + \frac{a^2}{c^2}\Delta t^2}\cdot\sinh\frac{a}{c}\Delta t\\<br />
&>& \frac{c}{a}\cdot\frac{a\Delta t}{V}\cdot\frac{V}{c} = \Delta t<br />
\end{eqnarray}

となるので、「旅行者」往復中における「旅行者」と「残留者」の経過固有時間は、次のようにまとめられる。

\begin{eqnarray}<br />
R &=& 2\left(p + 2\Delta t\right)\\<br />
H &>& 2\left(\gamma p + 2\Delta t\right)<br />
\end{eqnarray}

更に、変速期間 \Delta t を無視するなら、「旅行者」と「残留者」に特殊相対論的を形式的に適用した結果得られる「旅行者」の「残留者」に対する「時間遅延」と似たものが、この場合も発生することが分かる。ただし、勿論「残留者」の「旅行者」に対する「時間遅延」は発生しない。

関連記事:
nouse: 等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」 (2008年3月24日 [月])

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