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一般相対論によるサニャック効果の導出

(2008-11-10[月]補足):本ブログにおける、「サニャック効果」に就いての、現時点における最終的な議論は [nouse: ホロノミー (holonomy) としてのサニャック効果 (Sagnac effect): 物理篇] である。これも参照されたい。

ウィキペディア中「サニャック効果」を扱った記事を4件、訳してみた。その結果は以下の通り (なお、対応する日本語版ウィキペディアの記事は「サニャック効果」である。):

しかし、そのどれにも、一般相対論によるサニャック効果の導出が説明されていない (英文版では、線素の計量を示しているのに、それ以上は記載していない)。これは、やや意外だったが、「『教科書』には載っていないのかな?」と思って、披いてみた [場の古典論] でアッサリ見つかったので、これはこれで、やはり意外だった。もっとも、「サニャック効果」と云う言葉は出てこないのだが。

そして一番意外だったのは (むしろ「呆れた」のは)、サニャック効果は、一般相対論の初歩的議論で説明可能であり、しかも (少なくとも現状では) それ以外に説得力のある説明は不可能であるらしいにも関わらず、ウィキペディアに限らず、「特殊相対論の枠組内での説明」と称するものとか、更には、実質的にガリレイ・ニュートン的な説明が横行していることだった。


以下、[場の古典論] や "Introduction to General Relativity" (1997 Schäfer, G.) を参考にして、一般相対論によるサニャック効果の導出法を簡単にまとめておく。

一言、付け加えおくと、私が持っている翻訳の [(増訂新版) 場の古典論] (1964年。東京。東京図書。原書の第4版に当たるらしい) は、サニャック効果に就いて説明している見開き2ページ (pp.306-307) の間に、明らかな誤植が3箇所あると云う「豪の者」だが、今 (原書第6版) では直っているかもしれない。何れにしろ、一目で分かる誤植なので、気にすることもあるまい。

2011-07-01[金]補足:[場の古典論]原書第6版の和訳では、サニャック効果は第10章第89節 (pp.283--284) に解説されている。誤植は3箇所とも訂正済みである。

まず、実際の計算の前に、一般相対論の初歩の初歩をお浚いしておこう。

そのために、一般的な記法に従って、線素の計量の2次形式を ds^2 = g_{ij} dx^i dx^j と書くことにする (ただし g_{ij} は計量テンソル。添字 i, j は、0 から 3 に亘る)。

更に よくある「お約束」だが、添字 0 は時間軸のためのものとする。更に g_{00} の符号は ds^2 = c^2 d\tau^2 = g_{00} (dx^0)^2, つまり d\tau = (1/c) \sqrt{-g_{00}}\, dx^0 が成り立つ (\tau は固有時) ように取ってあるものとする。

ここで、式を dx^0 の2次方程式として整理すると:

ds^2 = g_{00} \left(dx^0 + \frac{g_{0\alpha}dx^{\alpha}} {g_{00}}\right)^2 - \frac{\left(g_{0\alpha} g_{0\beta} - g_{\alpha\beta} g_{00}\right) dx^\alpha dx^\beta} {g_{00}}

になる (添字 \alpha, は、 1 から 3 に亘る)。

この線素が、space-like な間隔を結ぶものである場合、その空間間隔の2乗 dl^2 は、上記の2次方程式の最小値 (負になる) の符号を逆転させた

dl^2 = \left( g_{\alpha\beta} - \frac{g_{0\alpha}g_{0\beta}}{g_{00}} \right) dx^{\alpha}dx^{\beta}

となる。

さて、空間間隔であるから、線素の両端間には因果性と云うか、時間の前後関係が成立せず (どちらにしろ微妙な言い方だが、ここでは気にしないでおく)、適切な局所慣性系を選んで、そこに投影して考えるならば、線素の両端は同時事象として扱えるようにできる。しかし、元の時空多様体では空間の歪み (計量テンソル) に応じた同時性からのズレが生じる。それを補正するために考え出されたのが、所謂 "Einstein synchronization" で、その値は、上記の2次方程式の2根の値の差を半分にし、更に c で割った

\frac{1}{c} \cdot \frac{g_{0\alpha}dx^{\alpha}} {g_{00}}

になる (ちなみに、ミンコフスキー空間では、g_{0\alpha} 成分は全て 0 になるから、固有時のズレは発生しないと云う当然の結果が得られる)。この固有時のズレは、経路に沿って積分することが可能だが、一般的には、その値は経路に依存する。

これで、サニャック効果の計算の準備が整った。

サニャック効果を計算するために、その円盤の回転軸を中心軸とする円筒座標系(z: 中心軸、r: 中心軸からの距離、\theta: 特定の半径方向を基準とする中心軸周りの角度)を考える。英語版ウィキペディア中の [サニャック効果] (Sagnac effect) にも示されているように、円筒座標系では、回転系の線素の計量は、回転の角速度 (一定) を \omega として:

ds^2 = (c^2 - r^2 \omega^2)\, dt^2 - dr^2 - r^2 d\theta^2 - dz^2 - 2r^2 \omega \, dt \, d\theta

と表わせる。従って、この座標系での線素両端での同時刻事象の計時のズレは

\frac{1}{c} \cdot \frac{r^2 \omega  (1/c) \, d\theta}{(c^2 - r^2 \omega^2) \cdot (1/c)^2} = \frac{r^2 \omega \, d\theta}{c^2 - r^2 \omega^2}

となる。この計時のズレを、経路全体全体にわたって積分すると (議論を簡単にするため、経路は単純閉曲線で、その z=0 平面への射影も単純閉曲線とする。実用では、光を導く光ファイバはコイル状でありうるだろう)、

\oint{\frac{r^2 \omega \, d\theta}{c^2 - r^2 \omega^2}} = \frac{1}{c^2} \oint{\frac{r^2 \omega \, d\theta}{1 - \frac{r^2 \omega^2}{c^2}}}

ここで、回転系の回転速度が、十分 (r\omega/c \ll 1 であって、r\omega/c の2次以上の項が無視できる程度に) 小さいならば、積分は

\frac{\omega}{c^2} \oint{r^2} d\theta = \pm \frac{2\omega}{c^2} S

となる。ただし、S は経路の z=0 平面への射影面積。プラスとマイナスの符号は線積分の経路の方向に依存する。この線積分の方向は、サニャック効果にあっては信号の伝搬方向のことであるから、出発点に戻った2つの信号の固有時の時刻の差は

\Delta t \approx \frac{4\omega}{c^2} S


位相シフトとしては、光線の波長を \lambda として

\Delta \psi \approx \frac{4\omega}{c \lambda} S


となる。特に経路が、z 軸を中心とした半径 R の円ならば時刻の差は:

\Delta t \approx \frac{4\pi R^2 \omega}{c^2}

位相シフトは:

\Delta \psi \approx \frac{8\pi^2 R^2 \omega}{c \lambda}

となる。これで、サニャック効果を示す式が導出された。


以下は、余談である。

話柄は「サニャック効果は、特殊相対論で説明できる」と云う主張に関する。

例えば、フランス語版のウィキペディア "Effet Sagnac" ("Dernière modification de cette page le 13 septembre 2007 à 07:06." ただし、下記引用部分は、私が訳した "31 août 2007 à 09:20" のものと同じ) には、次のような箇所がある:

En réalité, l'effet Sagnac s'explique parfaitement dans le cadre de la Relativité Restreinte. Elle peut conduire à des difficultés et à des paradoxes si on n'a pas bien compris que l'invariance de la vitesse relative de la lumière (et d'une façon plus générale la symétrie des effets relativistes) concerne exclusivement les mouvements relatifs de translation à vitesse constante dans un espace-temps de Minkowski (et n'est valide que localement si on passe en Relativité Générale).
実際には、サニャック効果は特殊相対論の枠組内で完全に説明できる。光の相対的速度の不変性 (そして、より一般的には、相対論的効果の対称性) が、ミンコフスキー時空内での一定速度での相対的並進運動のみに係ること (一般相対論に移行するなら局所的でのみ成立するものであること) を充分に理解していないと、特殊相対論は混乱と矛盾とに迷いこむことがあるのである。

酷なことを言うようだが、この文章は支離滅裂だ(実は、フランス語版ウィキペディアの "Effet Sagnac" は、まとまりの悪い箇所が多く、訳していてしばしばウンザリした)。要するに「サニャック効果は、一般相対論を考慮に入れれば、特殊相対論の枠組内で完全に説明できる」と云う話の持って行き方で、「特殊相対論の枠組内で完全に説明できる」ことを強調したかったのだろうが、実際に表現されていることは、「サニャック効果は、特殊相対論の枠組内で完全に説明できるが、一般相対論を考慮に入れれなければ、特殊相対論の枠組内では完全には説明できない」になってしまっていて、論理として破綻している。あっさりと、「サニャック効果は、一般相対論の枠組でなければ、完全には説明できない」と書くべきだったのだ。

このほかにも、岩波の [理化学辞典] (第5版 1998年。東京。岩波書店) の [サニャック効果] の項 (p.517) には

回転座標系で回転方向にそって光が1周する時間と, 逆方向に1周する時間とに差があることをいう。慣性系に対する角速度 \Omega, 1周する経路で囲まれる面積を S とすれば、回転速度が非相対論的な場合の近似で, これら2方向での時間の差は 4S\Omega /c^2 となる。この効果は特殊相対性理論の効果で、サニャック, G. が回転する円板にすえられた光学系で効果を実証した (1912).

と、ハッキリ「特殊相対性理論の効果」と書いてあったりする...

もう一つ例を挙げておこう、日本語版ウィキペディアの [サニャック効果] (最終更新 2007年5月1日 (火) 17:48) では「サニャック効果」を

光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定である(相対性理論)為に、光路の運動によって光路の長さが変わったかのように見える現象である。 角速度と位相シフトの関係を観察するための最初のリング干渉計の実験は、フランス人Georges Sagnacによって、1913年に行われ、その結果、彼にちなんでサニャック効果と名づけられた。

と説明しているが、[理化学辞典] とは異なり、回転座標系と慣性系の区別がされておらず ([理化学辞典] の記述は、サニャック効果が「特殊相対性理論の効果」だと憶断している以外は無難なものだ)、意味が取りづらいが、「光路中を進む光の速度がその光路の運動に関係なく一定」と云う言い方は、慣性系の視点であるらしいと思える一方、「光路の運動によって光路の長さが変わったかのように見える」は、回転座標系の視点であるらしいと受けとられることを考えあわせると、恐らく (「原因」が慣性系側の視点で捉えられているらしいことから)、サニャック効果は特殊相対論的であると云うことなのだろう。ついでに書いておくと、この説明では、「リング干渉計」に就いての言及があるとはいえ、信号が「出発点」に戻ると云う、サニャック効果にとり本質的な前提が曖昧になっている。

ここで一点重要な注意をしておくと、この説明からにしろ、[理化学辞典] の記載からにしろ (それどころか、一般相対論を「密輸入」したのではない、純粋に特殊相対論的な「説明」は全てそうではないかと思うのだが)、サニャック効果が光以外にも、音波や物質波でも成り立つと云う所謂「サニャック効果の普遍性」の導出は勿論、そこへの接点さえも見いだせない。

しかし、上記の [一般相対論による導出] から見て取れるように、サニャック効果の本質は、「加速度系/重力場」において、ある点から出発した [対象] が、その「出発点」に戻ってきた時に、対象の固有時による時刻と出発点での固有時による時刻とに差が発生すると云うものだ(通常のサニャック効果の場合、[対象] つまり波動信号が2つあって、逆向きに経路を進むため、固有時の差が2倍になる)。

サニャック効果では、加速度系の中を閉曲線に沿って移動する対象の固有時が問題になっているのだが、一般相対論の立場 (アインシュタインの等価原理) では、加速度系と等価である重力場の中を閉曲線に沿って移動する対象の振る舞いが問題となる事象が存在する。それは、惑星の近日点移動である。太陽の周りを公転する惑星 (歴史的に注目されたのは水星だが) は、重力場ポテンシャルの影響で、軌道上に定めた一点 (歴史上は近日点が問題になった) に復帰するのに、軌道を 2\pi を越える角度移動しなければならないのだ。

つまり、サニャック効果は、惑星の近日点の移動と同種なのだ。勿論、線素が異なるから、安易な類比は謹むべきだろうが、それでも、サニャック効果において円盤の回転方向と同じ方向に進む信号と同様、惑星もまた、トラックを一周してスタート=ゴールに戻ってきたと思ったら、試合途中にゴールが少し先に引き直されていたランナーのような目にあっていると考えて良いかもしれない。

ついでに、惑星の近日点移動の式を、ここに書き留めておこう ([場の古典論] や、英文版ウィキペディアの "Kepler problem in general relativity" (last modified 00:39, 17 August 2007) で採用されている形式):

\Delta \varphi \approx \frac{6\pi G M}{c^{2} A \left( 1 - e^{2} \right)}

ただし、ここで \Delta\varphi は、惑星周回毎の近日点の移動量 (ラジアン)、 G は万有引力定数、M は太陽質量、A は軌道の長軸半径、e は軌道の離心率である。この式をケプラーの第3法則を用いて、太陽質量及び万有引力定数が見えなくなるように書き換えると:

\Delta \varphi \approx \frac{24\pi~3 A^2}{c^{2} P^2 \left( 1 - e^{2} \right)}

ただし、P は惑星の公転周期である (アインシュタインの [相対論の意味] では、こちらの形が採用されている)。

殆ど悪戯に近いが、ここで惑星の軌道が真円だった場合を考えてみよう。すると、離心率 e は O になり、軌道の長軸半径は、円の半径になるから、軌道が描く円の面積を S とし、惑星公転の角速度を \omega とすると、惑星周回毎の「近日点」(と呼べるものは、もはや存在しないが、公転の周回をはかる基準の出発点を決めて、それ) の移動量は:

\Delta \varphi \approx \frac{6 \omega^{2}}{c^{2}} S

時間に換算すると、\omega が一つ取れて:

\Delta t \approx \frac{6 \omega}{c^{2}} S

となり、サニャック効果と結構似てきてしまうのだ。もっとも、サニャック効果と惑星の近日点移動では \omega の物理的内容が異なっている --と云うか、回転座標系の計量と、シュヴァルツシルト計量(Schwarzschild metric) とが全く異なっているから-- 単に「似ている」と云うだけのことなのだが...

ちなみに、シュヴァルツシルト計量の線素は、極座標で表現して
c^2 {d \tau}^{2} = <br />
\left( 1 - \frac{r_{s}}{r} \right) c^{2} dt^{2} - \frac{dr^{2}}{1 - \frac{r_{s}}{r}} - r^{2} d\varphi^{2} - r^{2} \sin^{2} \varphi \, d\theta^{2}<br />
ただし、ここで、\varphiz 軸からの角度、また r_{s} = \frac{2GM}{c^{2}} はシュヴァルツシルト半径。


実は、サニャック効果の論理構造は、[双子のパラドクス] とも似ていることも注意しておいて良いだろう。ただし、むしろ「似て非なる」と言っておいた方が良いかもしれない (2008-04-16 [水] 補足:この記述に関しては「nouse: 等角速度円運動の旅行者における「双子のパラドクス」 (2008年3月24日 [月])」を参照されたい)。[双子のパラドクス] では、航行者の速度が真空中の光の速度に対して (正確に言えば、v/c の2次の項が) 無視できないほど速くなってから、十分長い間航行した後、折り返し点のみで加速度が発生するようになっているが、サニャック効果では、v/c の2次以上の項は無視されるし、また、後述のようにサニャック効果のポテンシャルは、それほど素朴なものではないからだ。

上記「折り返し点のみで加速度が発生する」に対し付言しておくと、[双子のパラドクス] の構成には、航行者が [出発点/終着点] において [停止している/する] 必要はないから、[出発点/終着点] での [加速/減速] は、議論の本質とは関係ないので、なくても構わない。さらに、もし、[出発点/終着点] での [加速/減速] を行なうものとして計算に繰り入れたとしても、[出発点/終着点] では、ポテンシャルとしては小さいから、結果に影響しない。

ちなみに、英文版ウィキペディアの "Twin paradox (last modified 09:14, 16 September 2007) の節 "Accelerated rocket calculation" 中ので行なわれている、ロケットに搭載されてる時計の経過時間の計算は、[出発点/終着点] での [加速/減速] による寄与と、折り返し点での [加速/減速] による寄与を同一に見積もっており、私には理解不能である (...と云う「婉曲語法」は、この文章では通じないかもしれないので、ハッキリ書いておくと、私には「御託」を並べているとしか見えない)。

贅言すれば、[双子のパラドクス] は、たとえ、航行者が真空中の光速度に比較可能な (comparable) 程度の速度に達した上で、更に十分遠く迄 (「お話し」としては「光年」単位の彼方に) 行ってから折り返して来なければ、残留者との「年齢のとり方」の違いが目立たず、パラドクスとして精彩に欠けるものになってしまうが、サニャック効果は、ナビゲーションシステムとして実用可能となる程の短い経路で観測可能になる。

特殊相対論と一般相対論とは、排除しあうものではないと云う当たり前の事 (「世界地図帳」と「地球儀」の一方が「正しい」とか「優れている」とか言いたてて、他方を発売禁止にするのは馬鹿げている) をわざわざ言いたくはないのだが、以下のことを言う前に、「そうなのだ」と念を押しておいてから話を続けると、「[双子のパラドクス] は、特殊相対論では説明できず、一般相対論で初めて説明できる」と云うコンテキストや、「水星の近日点移動の解明によって一般相対論の正しさが実証された」と云ったコンテキストでは、サニャック効果は優れて「一般相対論的」である。

しかし、大切なのは、特殊相対論で説明した方が解かりやすければ、特殊相対論で説明すればよく、一般相対論で説明した方が解かりやすければ、一般相対論で説明すればよいだけと云うことだ。

さて、最後にサニャック効果を私なりに定式化して、それが一般相対論の文脈で解釈したほうが自然だと云うことを示しておく。とは言え、別段突飛な話をするつもりはない。

サニャック効果は、円筒座標系における線素

ds^2 = (c^2 - r^2 \omega^2)\, dt^2 - dr^2 - r^2 d\theta^2 - dz^2 - 2r^2 \omega \, dt \, d\theta

における Einstein synchronization \frac{1}{c} \cdot \frac{g_{0\alpha}dx^{\alpha}} {g_{00}} ヨリ具体的には \frac{r^2 \omega \, d\theta}{c^2 - r^2 \omega^2} を閉経路に沿って積分して結果であることは説明した通りである。

さて、まず古典的なポテンシャルが存在しない回転座標系内で運動する物体 (静止質量 m) の非相対論的なラグランジアン (Lagrangian):

L = \frac{mv^2}{2} + m \bm{v} \cdot ( \bm{\Omega} \times \bm{r} ) + \frac{m}{2} ( \bm{\Omega} \times \bm{r} )^2


を考える。ここで、\bm{r}, \bm{v}, \bm{\Omega} は、それぞれ、運動物体の位置、速度、及び角速度を表わすベクトルである。また、言うまでもなかろうが、\cdot\times とは、それぞれベクトルの内積と外積を表わす。

この運動の古典力学的な作用積分と、相対論的な作用積分との対応を考えてみよう。

一般に作用積分はラグランジアンの時間積分になるわけだが、相対論的には、物体の速度が 0 であっても、その物体の静止エネルギーの符号を逆転させた -mc^2 がラグランジアンに残っていなければならない (運動する粒子のエネルギーには、ラグランジアンの減算が含まれることに注意)。そこで、上記の回転座標系内で運動する物体のラグランジアンにも定数 -mc^2 を加えて:

L = -mc^2 + \frac{mv^2}{2} + m \bm{v} \cdot ( \bm{\Omega} \times \bm{r} ) + \frac{m}{2} ( \bm{\Omega} \times \bm{r} )^2

としてから (このラグランジアンもまだ古典力学的である)、その作用積分を求めると:

\int L dt = -mc \int \left( c - \frac{v^2}{2c} - \frac{\bm{v} \cdot ( \bm{\Omega} \times \bm{r} )}{c} - \frac{( \bm{\Omega} \times \bm{r} )^2}{2c} \right) dt


になる。

一方、局所ミンコフスキー時空における自由質点 (つまり、測地線に沿って運動する質点) の特殊相対論的な作用積分は

- mc \! \int \! ds

で与えられるから、非相対論的なラグランジアンから構成した

\left( c - \frac{v^2}{2c} - \frac{\bm{v} \cdot ( \bm{\Omega} \times \bm{r} )}{c} - \frac{( \bm{\Omega} \times \bm{r} )^2}{2c} \right) dt

は、世界間隔 ds と対応する。従って、上記の式の2乗は、c \to \infty の時、世界間隔の2乗

ds^2 = (c^2 - r^2 \omega^2)\, dt^2 - dr^2 - r^2 d\theta^2 - dz^2 - 2r^2 \omega \, dt \, d\theta

と一致する筈である。

計算を行なってみると、実際に一致することがわかるが、その際、古典的なラグランジアンにおける遠心力の項 \frac{( \bm{\Omega} \times \bm{r} )^2}{2c} は、線素第1項 dt^2 の係数の計量テンソル中の r^2 \omega^2 に対応し、コリオリの力の項 \frac{\bm{v} \cdot ( \bm{\Omega} \times \bm{r} )}{c} は、線素第5項 (最終項) dt d\theta の係数 r^2\0mega に対応することが分かる (ラグランジアンの \frac{v^2}{2c} には 線素第2項の係数 1 と線素第3項 d \theta^2 の係数 r^2 が対応する)。

サニャック効果は、r^2 \omega^2c^2 に対して無視できる程小さい (つまり、遠心力ポテンシャルが十分弱く無視可能である) ことが前提とされている。この場合、分母は c^2 で置き換えられる。これは、つまり、サニャック効果に寄与しているのは、コリオリ力のポテンシャルだけだと云うことである。

実際に、式で確かめてみよう。簡単のため、半径 R の円盤が角速度 \Omega で回転しており、その周囲を角周波数 f_a の波動信号が速度 V で伝搬しているものとする。

上記のラグランジアンから分かるように、この場合、コリオリの力を発生させる「ポテンシャル」は \pm V\! R\Omega である (信号の伝搬方向が、円盤の回転方向と一致するばあい符号はマイナス、反対方向ならばプラスになる)。

ここで、一般相対論の効果として著名な「重力場での時間の遅延」を適用する。この「重力場での時間の遅延」とは、具体的には、弱いポテンシャル \phi がある場の固有時間は、慣性系の固有時間に比して、ほぼ

\left(1 + \frac{\phi}{c^2} \right)

倍になると云うものである。従って、円盤の周囲を円盤と同一方向に進行する信号の固有時間は、慣性系上の観測者の固有時間に対して、 ほぼ

\left(1 - \frac{V\! R\Omega}{c^2} \right)

倍になる。逆に、円盤の周囲を円盤とは逆方向に進行する信号の固有時間は、慣性系の観測者上の固有時間に対してほぼ

\left(1 + \frac{V\! R\Omega}{c^2} \right)

倍になる。従って、円盤の一周した後のそれぞれの信号の固有時間は、出発点に静止している観測者 (慣性系に居る観測者と、円盤上に静止している観測者の固有時間の差は、サニャック効果の立場からは無視できる) の固有時に対して、ほぼ

\pm \frac{V\! R\Omega}{c^2} \times \frac {2\pi R}{V} = \pm \frac{2\pi R^2 \Omega}{c^2} = \pm \frac{2 \Omega}{c^2}S

となる (ただし、S は円盤の面積)。これから、両信号の到達時間の差

\frac{4\Omega}{c^2}S

が、得られる。

同じことを、信号の位相で考えると、この場合適用すべき一般相対論的効果は、「重力場での赤方偏移」である。信号の角周波数 f_a とすると、弱いポテンシャル \phi がある場の角周波数は、ほぼ

\left(1 - \frac{\phi}{c^2} \right)\! f_a

だから、円盤と同一方向に進行する信号の角周波数は、ほぼ

\left(1 + \frac{V\! R\Omega}{c^2} \right)\! f_a

となる(つまり、実際には所謂「青方偏移」になっていることに注意)。また、円盤とは逆方向に進行する信号の角周波数は、ほぼ

\left(1 - \frac{V\! R\Omega}{c^2} \right)\! f_a

従って、円盤の周囲を一周した後、それぞれの信号の位相は、ほぼ

\pm \frac{V\! R\Omega}{c^2}\cdot f_a  \cdot \frac{2\pi R}{V}= \pm \frac{2S\Omega}{c^2}f_a

ズレる。この最後の式は f_a = 2\pi V/\lambda (\lambda は波長) を使って、

\pm \frac{2S\Omega}{c^2}\cdot \frac{2\pi V}{\lambda} = \pm \frac{4\pi S\Omega}{c\lambda}\cdot\frac{V}{c}

となる。ここで、信号が光であった場合は V=c だから

\pm \frac{4\pi S\Omega}{c\lambda}

となる。最終的には両信号の位相差は

\frac{8\pi S\Omega}{c\lambda}

となって、信号が光の場合のサニャック効果を表わす式が得られる。

しかし、式の導き方から分かるように、波動は光である必要はない (「サニャック効果の普遍性」)。そこで、波動が物質波 (ド・ブロイ波 "de Broglie 波") である場合の式を求めてみよう。

良く知られているように、質量 m が速度 v で運動している粒子の物質波の波長は、プランク定数を h として、\lambda = \frac{h}{mv} である。さらに、物質波の位相速度 V と、粒子の速度 (つまり、物質波の群速度) v との間には、関係 V \cdot v = c^2 が成り立つから、物質波について円盤周回後の位相のズレを計算すると、

\pm\frac{4\pi S\Omega}{c\lambda}\cdot\frac{V}{c} = \pm\frac{4\pi S\Omega}{(c^2/V)\cdot \lambda} = \pm\frac{4\pi S\Omega}{v \cdot (\frac{h}{mv})} = \pm\frac{4\pi mS\Omega}{h}

となる。この式は、

\pm\frac{2mS\Omega}{\hbar}

と書くこともできる。

つまり、サニャック効果の本質は、回転座標系中を進行する波動がコリオリ力のポテンシャルより、座標の回転と同一方向に進む場合は青方偏移、反対方向に進む場合は赤方偏移を受けることにあるのだ。

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コメント

サニャック効果は一般相対性理論ですっきり説明すべきだという事はわかっていました。ただ、光ファイバージャイロは、明らかに媒質の中を光が進むので、真空を光が進むモデルで説明されると原理はわかっても、どこか騙されている感は否めません。
実際のジャイロは実験を積み重ねて十分なデータを取得後、それを元に回転を正しく検出できるようにシステムが作られているのでしょう。

投稿: 年よりブレインズ | 2008年7月28日 (月) 22:29

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