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ホメーロス「ヘルメース讃歌 (ΕΙΣ ΕΡΜΗΝ)」読解 (ヘルメースの属性に関する部分)

[nouse: メルクリウス/ヘルメス図像リンク集: イル・ジョルナーレ ("Il Giornale") ロゴに関連して] (2007年3月12日) でも触れたようにヘルメス(メルクリウス)には様様な属性がある。

以下は、「[ホメーロスの諸神讃歌] (訳註:沓掛良彦) 1990年4月 東京 平凡社 pp.169-202」中の [讃歌第4番:ヘルメース讃歌] をザッと読み、ヘルメス(以下、原語 Ἑρμῆς に合わせて、適宜「ヘルメース」と言う)の属性に関わりそうなところの「当たり」を付けてから、その部分のギリシア語テキストを Perseus Digital Library 所収の "Hymn 4 to Hermes Hugh G. Evelyn-White, Ed." から転写して、それに若干の読解を試みたものである。

更に、参考として沓掛訳も、拙訳に対照して並記してある。ただ、沓掛訳の原テキストは Les Belles Lettres 版 ("Homère, Hymnes" Texte ètablit et traduit par J. Humbert, Sociètè d'édition, Paris 1967. 私は未見) であって、Perseus Digital Library 版のギリシア語テキストの基本になっている筈の Loeb Classical Library 版 (おそらく "Hesiod: The Homeric Hymns and Homerica (Loeb Classical Library #57)") とは異なる。このため、訳文のみどうしでの比較は厳密には無意味であるし、また、並記したことに他意はないので、拙訳との比較検討をするつもりはない。

なお、沓掛訳は、文庫化されて筑摩書房から発売されている(ホメーロスの諸神讃歌)。その際訂正がなされたとのことだが、その文庫版を私は未見なので、その内容は参照していない。

ギリシア語テキストには、別に Oxford Classical Texts (Oxford University Press) 所収の "Homeri Opera: Vol. V. Hymns: (Hymni, Cyclus, Fragmenta, Margites, Batr, Vitae)" がある。これは手元にあったので、綴りのチェック程度には利用した。


ヘルメースの誕生。牧者。幸運を齎す者。神神の使者。


1 Ἑρμῆν ὕμνει, Μοῦσα, Διὸς καὶ Μαιάδος υἱόν,
2 Κυλλήνης μεδέοντα καὶ Ἀρκαδίης πολυμήλου,
3 ἄγγελον ἀθανάτων ἐριούνιον,

1 ヘルメースを寿ぎたまえ。ムーサよ。そは、ゼウスとマイアの子。
2 キューレーネーと羊多きアルカディアとの護り主。
3 不死なる神神の御使い。幸運を齎す者。

ヘルメースを讃め歌え、ムーサよ、ゼウスとマイアの御子、
キューレーネーと羊多いアルカディアを統べる神、
幸運をもたらす御使者(みつかい)を。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.169

    第1行
  • Ἑρμῆν: 男性名詞「ヘルメース」(Ἑρμῆς) 単数対格。
  • ὕμνει: 動詞「歌う」(ὕμνεω) 能動相現在命令法第2人称単数。
  • Μοῦσα: 女性名詞 「ムーサ」(Μοῦσα) 単数呼格。
  • Διὸς: 男性名詞「ゼウス」 (Ζεύς) 単数属格。
  • Μαιάδος: 女性名詞「マイア」(Μαιάς) 単数属格。
  • υἱόν 男性名詞「息子」 (υἱός) 単数対格。
    第2行
  • Κυλλήνης: 女性名詞「キューレーネー」(Κυλλήνη) 単数属格。アルカディアの山。対応する形容詞 Κυλλήνιος (男性単数主格) は、名詞化してヘルメースの通り名でもある。
  • μεδέοντα: 動詞「守る、支配する」(μέδω) の能動相現在分詞男性単数対格(男性単数主格形は μεδέων)。 名詞用法として「守護者/支配者」の意。μέδω は動詞としては用いられず、専ら、この名詞形として現われる。ちなみに、女性単数主格形は μεδέουσα だが、これが所謂「メドゥサ/メデューサ」の由来。
  • Ἀρκαδίης: 女性名詞「アルカディア」(Ἀρκαδία) 単数属格。
  • πολυμήλου: 形容詞「羊に富む」(πολύμηλος) 女性単数属格。πολύ + μηλος
    第3行
  • ἄγγελον: 男性名詞「使者」(ἄγγελος)単数対格。 ἄγγελος は "angel" の語源。
  • ἀθανάτων: 形容詞「不死なる」(ἀθάνατος) 男性複数属格。ἀθάνατος の男性/女性複数形 ἀθάνατοι/ἀθάναται には名詞用法として「不死なる者たち」特に「神神」の意がある。
  • ἐριούνιον: 男性名詞「幸運を齎す者」(ἐριούνης) 単数対格。ヘルメースの別名。

「老獪なる赤子」。詐欺師。盗人。牧者。夢の配達人。「戸口を見張る者」


13 καὶ τότ' ἐγείνατο παῖδα πολύτροπον, αἱμυλομήτην,
14 ληιστῆρ', ἐλατῆρα βοῶν, ἡγήτορ' ὀνείρων,
15 νυκτὸς ὀπωπητῆρα, πυληδόκον, ὃς τάχ' ἔμελλεν

13 そも(マイアが)産みたまいしは、老獪なる赤子、口先三寸にて誤魔化し、
14 盗みを働き、牛を追う、夢の先達、
15 夜陰を窺い、戸口を見張る。

その時かのニンフが産んだのは、策略に富み、奸知に長け、
盗人にして牛を追う者、夢をもたらし、夜陰をうかがい、門口を見張る神であった。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.170

    第13行
  • ἐγείνατο: 動詞 「生まれる」(γείνομαι) 中動相アオリスト直説法第3人称単数。中動相として「産む」の意。
  • παῖδα: (男性)名詞「子供」(παῖς) 単数対格。
  • πολύτροπον: 形容詞 「劫を経た、老獪な」(πολύτροπος) 男性単数対格。オデュッセウス の「通り名」でもある。新生児であるヘルメースに対する形容なので可笑しみがでてくる(「海千山千の子供」)。ユング風の言い方をするなら「老賢者にして始原児」
  • αἱμυλομήτην 男性名詞「甘言で誤魔化すのが巧みな奴」(αἱμυλομήτης) 単数対格。Liddell-Scott で釈義を "of winning wiles" とするは、前に "man" が脱落したか?
    第14行
  • ληιστῆρ': 男性名詞「盗人」(ληιστήρ) 単数対格 ληιστῆρα の語末母音省音。
  • ἐλατῆρα: 男性名詞「(家畜を)追って移動させる者」(ἐλατήρ) 単数対格。
  • βοῶν: (男性/女性)名詞「牛」(βοῦς) 複数属格。"βοῦς" はラテン語 "bos" (属格形: bovis) を経由して、英語 "bovine" へ。BSE (牛海綿状脳症) の B である。
  • ἡγήτορ': 男性名詞「導く者」(ἡγήτωρ) 単数対格 ἡγήτορα の語末母音省音。
  • ὀνείρων: 男性名詞「夢」(ὄνειρος) 複数属格。
    第15行
  • νυκτὸς: 女性名詞「夜」(νύξ) 単数属格。
  • ὀπωπητῆρα: 男性名詞「見つめる者、窺う者」(ὀπωπητήρ) 単数対格。
  • πυληδόκον: 男性名詞「戸口の見張り」(πυληδόκος) 単数対格。


牛泥棒、敷居


20 ὃς καί, ἐπειδὴ μητρὸς ἀπ' ἀθανάτων θόρε γυίων,
21 οὐκέτι δηρὸν ἔκειτο μένων ἱερῷ ἐνὶ λίκνῳ,
22 ἀλλ' ὅ γ' ἀναί̈ξας ζήτει βόας Ἀπόλλωνος
23 οὐδὸν ὑπερβαίνων ὑψηρεφέος ἄντροιο.

20 ヘルメース、母なる神の胎内を飛び出でし後
21 留まり居べき神さびの揺籃より、幾許も居寝ぬまま
22 兎にも角にも起き出でて、アポローンの牛ども求め
23 天井高き洞窟の、敷居を跨いで越えて去りにけり。

ヘルメースは母の不死なる胎内から跳び出すと、
聖なる揺籃の中に、長くはじっとしてはいなかった。
天井の高い洞窟の敷居を躍り越え、
アポローンの牛どもを探しにでかけたのだ。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.170

    第20行
  • ὃς: 関係代名詞。男性単数主格。指示代名詞の代わりに使われている。ヘルメースのこと。
  • ἐπειδὴ: 接続詞 (ἐπεί の異形)。「..の時、..の後」
  • μητρὸς: 女性名詞 (μήτηρ) 単数属格。
  • ἀπ': 前置詞属格支配。ἀπό
  • ἀθανάτων: 女性名詞複数属格。複数だから、「不死なる者たち」つまり「神神」のこと。ヘルメースの母、マイアがその内の一人だと云うこと。
  • θόρε: 動詞「飛ぶ、跳ねる」(θρῴσκω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。
  • γυίων: 中性名詞「手、腕、足」(γυῖον) 複数属格。"μητρὸς γυῖα" で「子宮」の意。
    第21行
  • οὐκέτι: 副詞「もはや...しない」
  • δηρὸν: 形容詞「長い、長すぎる」(δηρός) 中性対格。副詞用法。
  • ἔκειτο: 動詞「横たわる」(κεῖμαι) 中動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • μένων: 動詞「本来の場所に留まる」(μένω) 能動相現在分詞男性単数主格。
  • ἱερῷ: 形容詞「神的な」(ἱερός) 中性単数与格。
  • λίκνῳ: 中性名詞「箕籃、揺籠」(λίκνον) 単数与格。
    第22行
  • ἀλλ': 接続詞。ἀλλά
  • γ': 小辞。「少なくとも、何れにしろ」γε
  • ἀναί̈ξας: 動詞「跳び起きる」(ἀναί̈σσω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。
  • ζήτει: 動詞「探す」(ζητέω) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • βόας: (男性/女性)名詞 (βοῦς) 複数対格。
  • Ἀπόλλωνος: 男性名詞「アポローン」(Ἀπόλλων) 単数属格。
    第23行
  • οὐδὸν: 男性名詞「敷居」(οὐδόσ) 単数対格。
  • ὑπερβαίνων: 動詞「跨ぎ越える」(ὑπερβαίνω) 能動相現在分詞男性主格。
  • ὑψηρεφέος: 形容詞「天井が高い、屋根が高い」(ὑψηρεφής) 中性単数属格。
  • ἄντροιο: 中性名詞「洞窟」(ἄντρον) 単数属格。


楽器 (竪琴) の発明者


24 ἔνθα χέλυν εὑρὼν ἐκτήσατο μυρίον ὄλβον:
25 Ἑρμῆς τοι πρώτιστα χέλυν τεκτήνατ' ἀοιδόν:

24 さても一尾の亀を見いだしたり。そは、限りなき宝にこそありけれ。
25 ヘルメース、亀をして妙なる音を奏でさせ初めにし者なりければ。

そこで一匹の亀を見つけたが、これは大層な宝を手に入れたというもの、
ヘルメースこそが、最初に亀を歌奏でる具としたのだから。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.170

    第24行
  • ἔνθα: 小辞。「そこで」
  • χέλυν: 女性名詞「亀」(χέλυς) 単数対格。
  • εὑρὼν 動詞「発見する」(εὑρίσκω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。その能動相現在完了直説法第1人称単数が εὕρηκα 「我見い出せり」
  • ἐκτήσατο: 動詞「得る」(κτάομαι) 能動相アオリスト直説法第3人称男性単数。
  • μυρίον: 形容詞「限りない」(μυρίος) 男性単数対格。
  • ὄλβον: 男性名詞「富、幸福」(ὄλβος) 単数対格。
    第25行
  • τοι: 小辞。「まことに」
  • πρώτιστα: 形容詞「一番最初の」(πρώτιστος) 中性対格。副詞として用いられている。「一番最初に」
  • τεκτήνατ': 動詞「工作する」(τεκταίνομαι) deponentia 中動相アオリスト直説法第3人称単数。τεκτήνατο
  • ἀοιδόν: 男性名詞「歌手」(ἀοιδόσ) 単数対格。「音楽的な音を出す」の意の形容詞的用法か。

走る者


69 αὐτὰρ ἄρ' Ἑρμῆς
70 Πιερίης ἀφίκανε θέων ὄρεα σκιόεντα,

69 (ヘルメースは)ようよう、
70 森の小暗いピーエリアーの山あいに走り着けり

ヘルメースは足速に駆けて、ピーエリアーの蔭なす山あいへと着いた。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.173

    第69行
  • αὐτὰρ: 小辞 「それで」「しかし、とはいえ」
  • ἄρ': 小辞「それで」「どうやら」「結局」「勿論」ἄρα
    第70行
  • Πιερίης: 女性名詞「ピーエリアー」(Πιερία) 単数属格。ムーサたちが住んでいたと云うマケドニアの山地。
  • ἀφίκανε: 動詞「到達する」(ἀφικάνω) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • θέων: 動詞「走る」(θέω) 能動相現在分詞男性単数主格。
  • ὄρεα: 中性名詞「山」(ὄρος) 複数対格。
  • σκιόεντα: 形容詞「蔭なす」つまり「木木が鬱蒼と茂っている」(σκιόεις) 中性複数対格。


足跡の詐術


73 τῶν τότε Μαιάδος υἱός, ἐύσκοπος Ἀργειφόντης,
74 πεντήκοντ' ἀγέλης ἀπετάμνετο βοῦς ἐριμύκους.
75 πλανοδίας δ' ἤλαυνε διὰ ψαμαθώδεα χῶρον
76 ἴχνι' ἀποστρέψας: δολίης δ' οὐ λήθετο τέχνης
77 ἀντία ποιήσας ὁπλάς, τὰς πρόσθεν ὄπισθεν,
78 τὰς δ' ὄπιθεν πρόσθεν: κατὰ δ' ἔμπαλιν αὐτὸς ἔβαινε.

73 かの時、アルゴス殺しなるマイアの御子は、牛の群れより用心深く
74 五十頭を、くすねて盗れば、嘶き騒ぐ
75 迷い出てたる牛どもに、砂地を渡らせ
76 さかしまに足跡を付けさせようと、悪巧み、おさおさ抜かりなく
77 牛どもの前に立ちふさがり、前の蹄を後ろにし、
78 後の蹄を前にせしめて、押し戻しつつ歩みたり。

マイアの息子、アルゴスの殺し手である神は、その牛の群から五十頭を切り離した。
そして足跡の向きを逆にさせ、砂地のあたりでかなたこなたと追いまわした。
策略を用いるにもぬかりなく、蹄の向きが逆になるように、
前足が後ろに後足が前になるよう歩かせ、自分はそれに向き合って歩いた。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.173

    第73行
  • τῶν: 定冠詞複数属格。「牛(複数)」を示す。指示代名詞として用いられている。奪格的な属格とすべきか、部分属格とすべきか微妙だが大意は変わるまい。
  • ἐύσκοπος: 形容詞 「目ざとい、用心深い」(εὔσκοπος) 男性単数主格。
  • Ἀργειφόντης: 「アルゴス殺し」男性名詞 (Ἀργειφόντης) 単数主格。ヘルメースのあだ名。
    第74行
  • πεντήκοντ': 数詞「50」。πεντήκοντα
  • ἀγέλης: 「(家畜の)一群」女性名詞 (ἀγέλη) 単数属格。
  • ἀπετάμνετο: 動詞 「切り取る、裁ち落とす」(ἀποτέμνω) 中動相未完了過去直説法第3人称単数。中動相では「切り取って横領する」の意となる。
  • βοῦς: (男性/女性)名詞複数対格。
  • ἐριμύκους: 形容詞 「喧しく嘶く」 (ἐρίμυκος) 男性/女性複数対格。
    第75行
  • πλανοδίας: 形容詞「迷い出た」(πλανόδιος) 女性複数対格。もとの群れから離れた牛たちを指す。これが女性形だと云うことは「牛ども」は雌であったか。
  • ἤλαυνε: 動詞「(盗んだ家畜を)追い立てる」(ἐλαύνω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。所謂「流音(幹)動詞」(verba liquida) であるため、アオリストの σ が消失する。高津 p.195。
  • ψαμαθώδεα: 形容詞「砂の」(ψαμαθώδης) 男性単数対格。
  • χῶρον: 男性名詞「地面」 (χῶρος) 単数対格。
    第76行
  • ἴχνι': 中性名詞 「足跡」(ἴχνιον) 複数対格。ἴχνια
  • ἀποστρέψας: 動詞「反転させる」(ἀποστρέφω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。
  • δολίης: 形容詞。「狡賢い」(δόλιος) 女性単数属格。
  • λήθετο: 動詞「気付かれない」(λανθάνω) 中動相未完了過去直説法第3人称単数。中動相としては「忘れる」の意(属格支配)。
  • τέχνης: 女性名詞「技能、手管」(τέχνη) 単数属格。
    第77行
  • ἀντία: 形容詞「対面する」(ἀντίος) 中性複数対格。副詞用法「対面して」
  • ποιήσας: 動詞 (ποιέω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。
  • ὁπλάς: 女性名詞 「蹄」(ὁπλή) 複数対格。
  • πρόσθεν: 副詞「前」
  • ὄπισθεν: 副詞「後」
    第78行
  • κατὰ: 副詞。「後を追って」と云う含意だろう。
  • ἔμπαλιν: 副詞「逆方向に」
  • ἔβαινε: 動詞「歩く」(βαίνω) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。


ヘルメースのサンダル


79 σάνδαλα δ' αὐτίκα ῥιψὶν ἐπὶ ψαμάθοις ἁλίῃσιν,
80 ἄφραστ' ἠδ' ἀνόητα διέπλεκε, θαυματὰ ἔργα,
81 συμμίσγων μυρίκας καὶ μυρσινοειδέας ὄζους.
82 τῶν τότε συνδήσας νεοθηλέος ἄγκαλον ὕλης
83 ἀβλαβέως ὑπὸ ποσσὶν ἐδήσατο σάνδαλα κοῦφα

79 さて、海辺の砂の上ではすぐさまに、編み上げのサンダルをば、
80 言語道断、前代未聞、驚天動地の様に作りなす。
81 そは、御柳とミルテらしき枝とを綯い交ぜにして
82 芽生えの柴の一抱えを
83 葉取らぬままに両の足へと縛りつけ、歩みの軽き履き物となしたるなり。

それから海辺の砂浜に来ると、たちまちちして御柳(タマリスク)と天人花(ミルテ)の小枝とを織りまぜて
驚くべき作である、何とも言いがたい、思いもよらぬ形の草鞋を編み上げた。
若枝を一抱えほど束にして、その葉ともどもしっかりと足に縛りつけ、
それを軽い草鞋となしたのだ。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.173

    第79行
  • σάνδαλα: 中性名詞「サンダル」 (σάνδαλον) 複数対格。通常複数形で用いられる。所謂「ヘルメスのサンダル」。(現代でも "hermes sandal" と云う商品が販売されている)。なお、このサンダルには「葉」は付いているが「翼」は付いていないことに注意。
  • αὐτίκα: 副詞「直ちに、その場で」
  • ῥιψὶν: 女性名詞「(麦藁、藺草、枝等の)編み物細工」(ῥίψ) 複数与格。
  • ψαμάθοις: 女性名詞「(海辺の)砂」(ψάμαθος) 複数与格。
  • ἁλίῃσιν: 形容詞「海の」(ἅλιοσ) 女性複数与格。
    第80行
  • ἄφραστ': 形容詞「表現不可能な」(ἄφραστος) 中性複数対格。ἄφραστα
  • ἠδ': 接続詞「であり、そして」。ἠδε
  • ἀνόητα: 形容詞「理解不可能な、前代未聞の」(ἀνόητος) 中性複数対格。
  • διέπλεκε: 動詞「編む」(διαπλέκω) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • θαυματὰ: 形容詞「驚くべき」(θαυματός) 中性複数対格。"θαυμαστός" の異形(叙事詩で用いられる)。
  • ἔργα: 中性名詞「作品」(ἔργον) 複数対格。
    第81行
  • συμμίσγων: 動詞「混ぜる」(συμμίγνυμι) 能動相現在分詞男性単数主格。
  • μυρίκας: 女性名詞「タマリスク (御柳)」(μυρίκη) 複数対格。
  • μυρσινοειδέας: 形容詞「ミルテ (銀梅花) のような」(μυρσινοειδής) 男性複数対格。ミルテ (Myrtle) はアプロディテ (Aphrodite) の神花とされる。ミルテ (μυρσίνη) そのものではなく、形容詞化 (εἶδος: 形状、種類) している。
  • ὄζους: 男性名詞「大枝、小枝」(ὄζος) 複数対格。
    第82行
  • συνδήσας: 動詞「結び合わせる」(συνδέω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。
  • νεοθηλέος: 形容詞「芽生えたばかりの」(νεοθηλής) 女性単数属格。
  • ἄγκαλον: 男性名詞「一抱え分」(ἄγκαλος) 単数対格。
  • ὕλης: 女性名詞「柴」(ὕλη) 単数属格。
  • なお、この行の "νεοθηλέος ἄγκαλον ὕλης" の部分は Oxford Classical Texts では "νεοθηλέαν ἄγκαλω ὥρην" を採用しており、脚注で、Loeb 版の形に言及している。
    第83行
  • ἀβλαβέως: 副詞「傷つけることなく」(ἀβλαβής)。
  • ὑπὸ: 前置詞。与格支配の場合は「に向かって」
  • ποσσὶν: 男性名詞「足」(πούς) 複数与格。
  • ἐδήσατο: 動詞「縛りつける」(δέω) 中動相アオリスト直説法第3人称単数。中動相として「我が身に縛りつける、我が身に結びつける、着る」
  • κοῦφα: 形容詞「軽い」(κοῦφος) 中性複数対格。


葡萄栽培の守護


87 τὸν δὲ γέρων ἐνόησε δέμων ἀνθοῦσαν ἀλωὴν
88 ἱέμενον πεδίονδε δι' Ὀγχηστὸν λεχεποίην
89 τὸν πρότερος προσέφη Μαίης ἐρικυδέος υἱός:
90 ὦ γέρον, ὅστε φυτὰ σκάπτεις ἐπικαμπύλος ὤμους,
91 ἦ πολυοινήσεις, εὖτ' ἂν τάδε πάντα φέρῃσι,
91α [εἴ κε πίθῃ, μάλα περ μεμνημένος ἐν φρεσὶ σῇσι]
92 καί τε ἰδὼν μὴ ἰδὼν εἶναι καὶ κωφὸς ἀκούσας,
93 καὶ σιγᾶν ὅτε μή τι καταβλάπτῃ τὸ σὸν αὐτοῦ.

87 さてもここに、花咲く葡萄園を築かんとする翁ありて、目に留めたるは、かの神
88 急ぎ平原目指して、草生す所に建てる都市オンケーストスを通り抜けんとする姿なり。
89 輝けるマイアの御子は、先手を打って翁に声をかけ
90 「やぁ、肩ひしゃげさせ草木を掘り起こしている爺さまよ。
91 成程、葡萄がみんな実ったならば、さぞかし葡萄酒が取れるだろうな。
91α [得心したなら、そなたの心に刻んで、努努忘るることなかれ]
92 見ざる、聞かざる、
93 言わざるを守ればこそ、お前の財産が即座に損なわれずにすむのだぞ。」

さて、草が緑の床なすオンケーストスを抜けて、平原へと向かうこの神に
花咲いている葡萄畑の手入れをしている老人が目をとめた。
そこでマイアの誉れ高い息子が先に言葉をかけた。
「肩をこごめて葡萄の木を掘り返している爺さんよ、
この葡萄が実ったら、たんと葡萄酒ができような。
だが、見ても見ぬふりをして、聞いても聞かぬふりをして、
黙っているがいい。あまえ自身の財産が損なわれたりしないかぎりはな。」
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.174

    第87行
  • γέρων: 男性名詞「老人」単数主格。
  • ἐνόησε: 動詞「気づく」(νοέω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。
  • δέμων: 動詞「作り上げる、構築する」(δέμω) 能動相現在分詞男性単数主格。
  • ἀνθοῦσαν: 動詞「花咲く」(ἀνθέω) 能動相現在分詞女性単数対格。
  • ἀλωὴν: 女性名詞「果樹園、葡萄園」(ἀλωή) 単数対格。
    第88行
  • ἱέμενον: 動詞「解発する、放出する」(ἵημι) 中動相現在分詞男性単数対格。中動相なので、自動詞的に「先を急ぐ」ぐらいの意味になる。
  • πεδίονδε: 副詞「平原へ、平地へ」
  • δι': 前置詞。 δια
  • Ὀγχηστὸν: 男性名詞「オンケーストス」(Ὀγχηστόν) 単数対格。古代ギリシア北部のボイオティア地方(Boeotia) の都市。往事、ボイオティアには (Copais) と云う湖があり、オンケーストスは、その湖畔に築かれていた。ポセイドーンの神殿があったと云う。
  • λεχεποίην: 男性名詞「草生す所に建つもの」(λεχεποίης) 単数対格。(λέχος:床 + ποίᾱ:草)。都市の形容語として使われる。
    第89行
  • πρότερος: 副詞「先に」
  • προσέφη: 動詞「声をかける」(πρόσφημι) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • ἐρικυδέος: 形容詞「著名な、輝かしき」(ἐρικυδής) 女性単数属格。「属格」である以上、この言葉は Μαῖα に係っている。
    第90行
  • γέρον: 男性名詞 γέρων 呼格。
  • ὅστε: 関係代名詞男性主格。ὅςὅστις と同義。
  • φυτὰ: 中性名詞「植物」(φυτόν) 複数対格。
  • σκάπτεις: 動詞「掘りおこす」(σκάπτω) 能動相現在直説法第2人称単数。
  • ἐπικαμπύλος: 形容詞「曲がった、捻じれた」(ἐπικαμπύλος) 男性単数主格。
  • ὤμους: 男性名詞「肩(及び上腕)」(ὦμος) 複数対格。所謂「限定対格」(別名「ギリシア式対格」)で形容詞の意味を限定している。「肩において」。"ἐπικαμπύλος ὤμους" は、「重みに『肩をひしゃげさせて』耕している」含意だろう。
    第91行
  • : 副詞「確かに、成程、如何にも」。単純な確認・保証ばかりでなく、皮肉、譲歩の意を持ちうる。
  • πολυοινήσεις: 動詞「多量の葡萄酒に恵まれる」(πολυοινέω) 能動相未来直説法第2人称単数と、能動相アオリスト接続法第2人称単数とが同形だが、接続法だろう。「葡萄が採れなくなることもありうる(葡萄を採れなくさせることもできる)」と云う、ヘルメースの「脅し」。
  • εὖτ': 接続詞。後続の ἂν と組みになって "εὖτ' ἂν" として接続法を導いて、未来時へ言及する。εὖτε
  • ἂν: 小辞。所謂 modal particle
  • τάδε: 近称代名詞中性複数主格。集合的に捉えられて、単数扱いになっているため、下の φέρῃσι が単数形になっている。
  • πάντα: 形容詞「全て」(πᾶς) 男性複数対格。副詞として使用されている。
  • φέρῃσι: 動詞「実を結ぶ」(φέρω) 能動相現在接続法第3人称単数。
    第91α行 Oxford 版では、これは欠行になっている。
  • εἴ: 接続詞「もしも」
  • κε: 小辞。"ἄν" に同じ。
  • πίθῃ: 動詞「説得する」(πείθω) 中動相接続法アオリスト第2人称単数。中動相では「納得する」ぐらいの意味になる。
  • μάλα: 副詞「非常に」
  • περ: 小辞。後置されて意味を強める。
  • μεμνημένος: 動詞「思い出させる」(μιμνήσκω) 中動相現在完了分詞男性単数主格。中動相なら通常は「思い出す」の意だが、特に独立用法の場合は「憶えておく、忘れない」
  • ἐν: 前置詞。与格支配。
  • φρεσὶ: 女性名詞「(情意の座としての)心臓、心」(φρήν) 複数与格。
  • σῇσι: 形容詞「汝の」(σός) 女性複数与格。
    第92行
  • καί: 接続詞
  • τε: 小辞。
  • ἰδὼν: 動詞「見る」(εἶδον) 能動相アオリスト分詞男性単数対格。
  • εἶναι: 動詞 (εἰμί) 能動相現在不定形。命令を表わす。"ἰδὼν μὴ ἰδὼν εἶναι" は「見えても見ないでおれ、(そうすれば...)」ぐらいか。
  • κωφὸς: 形容詞「鈍感な」(κωφός) 男性単数主格。
  • ἀκούσας: 動詞「聞く」(ἀκούω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。"κωφὸς ἀκούσας" は「耳を鈍感にしておくなら」ぐらいの意か
    第93行
  • σιγᾶν: 動詞「黙っている、言わないでおく」(σιγάω) 能動相現在分詞男性主格。「言わないでおくなら」
  • ὅτε: 接続詞。
  • μή: 接続法の動詞と合わさって、その動詞の実現を防止する目的を標示する。
  • τι: 不定代名詞「何か」(τις) 中性単数対格。
  • καταβλάπτῃ: 動詞「大きく損なう、損害を与える」(καταβλάπτω) 接続法中動相現在第2人称単数。中動相なので「自分自身に損害を与える」の意。葡萄が採れなくなったとしても、それは「老人」自身の態度の所為だと、ヘルメースは恫喝しているのである。
  • σὸν: 形容詞「汝の」(σός) 男性単数対格。
  • αὐτοῦ: 副詞「将にここで」


火起こしの発明


108 σὺν δ' ἐφόρει ξύλα πολλά, πυρὸς δ' ἐπεμαίετο τέχνην.
109 δάφνης ἀγλαὸν ὄζον ἑλὼν ἀπέλεψε σιδήρῳ
110 ... ἄρμενον ἐν παλάμῃ: ἄμπνυτο δὲ θερμὸς ἀυτμή:
111 Ἑρμῆς τοι πρώτιστα πυρήια πῦρ τ' ἀνέδωκε.

108 そしてすぐさま、薪を多く運び来て、火の術を得んとて努めては
109 月桂樹の見事な枝一条を握り締め、鉄刀にて皮を剥ぎ、
110 ...掌に納めて...熱き煙は上がりたり。
111 ヘルメースこそ、木切れに火を付けし始めの者なりき。

さて今度は薪をたくさん拾い集めて、火を起す術に心を砕いたのだが、
月桂樹の美しい枝を折り取るとそれを固く手に握り、
ざくろの木に突き立てて回すと、熱い焔が生じた。
つまりは、火打ち道具で火を起こす術を最初に世にもたらしたのはヘルメースである。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.175

    第108行
  • σὺν: 与格支配の前置詞だが、副詞として用いられいている。「すぐさま、そのまま引き続いて」。δέ 又は τε が後続することが多い。
  • ἐφόρει: 動詞「(何度も)運ぶ」(φορέω) 能動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • ξύλα: 中性名詞「薪」(ξύλον) 複数対格。
  • πολλά: 形容詞「多くの」(πολύς) 中性複数対格。
  • πυρὸς: 中性名詞「火」(πῦρ) 属格単数。
  • ἐπεμαίετο: 動詞「探し求める」(ἐπιμαίομαι) deponentia 中動相未完了過去直説法第3人称単数。
  • τέχνην: 女性名詞単数対格。
    第109行
  • δάφνης: 女性名詞「月桂樹」(δάφνη) 単数属格。ダフネー
  • ἀγλαὸν: 形容詞「美しい、輝ける」(ἀγλαός) 男性単数対格。
  • ὄζον: 男性名詞 「杖」(ὄζος) 単数対格。
  • ἑλὼν: 動詞「握る」 (αἱρέω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。
  • ἀπέλεψε: 動詞「皮を剥ぐ」(ἀπολέπω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。
  • σιδήρῳ: 男性名詞「鉄器(ナイフ、鎌等)」(σίδηρος) 単数与格。
    第110行 Oxford 版では、この行の直前が欠行になっている。
  • ἄρμενον: 動詞「嵌め合わせる、備えつける」(ἀραρίσκω) 能動相アオリスト分詞男性単数対格。
  • παλάμῃ: 女性名詞「掌」(παλάμη) 単数与格。
  • ἄμπνυτο: 動詞「息を吹き出す」(ἀναπνέω) アオリスト直説法第3人称単数。
  • θερμὸς: 形容詞「熱い、暖かい」(θερμός) 女性単数主格。
  • ἀυτμή: 女性名詞「息、煙」(ἀυτμή) 単数主格。この段階では「焔」は上がっていないようだ。
    第111行
  • Ἑρμῆς: 男性名詞主格。
  • τοι: 小辞「確かに」
  • πρώτιστα: 形容詞「一番初めの」(πρώτιστος) 中性複数対格。副詞「一番始めに」として使われている。
  • πυρήια: 中性名詞「(火を起こすための)木片」(πυρεῖον) 複数対格。通常複数形で用いられる。日本古語の「火鑽杵」と「火鑽臼」のこと。ただし、対格であるので、道具を使って火を起こしたと言うより、木片としての火起こし道具に火を付けたと云う感じになっている。
  • πῦρ: 中性名詞対格
  • τ': 小辞。τε
  • ἀνέδωκε: 動詞「齎す」(ἀναδίδωμι) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。


ヘルメースの足の速さ、巨大な歩幅


222 βήματα δ' οὔτ' ἀνδρὸς τάδε γίγνεται οὔτε γυναικὸς
223 οὔτε λύκων πολιῶν οὔτ' ἄρκτων οὔτε λεόντων:
224 οὔτε τι Κενταύρου λασιαύχενος ἔλπομαι εἶναι,
225 ὅς τις τοῖα πέλωρα βιβᾷ ποσὶ καρπαλίμοισιν:

222 人間の歩き方ではこのようになる訣がない。女の場合も含めてな。
223 灰毛の狼でも、熊でも、ライオンでもない。
224 鬣(たてがみ)荒荒しきケンタウロスでも無理だろう、
225 何者にせよ、かくの如き驚くべき歩幅で足速く歩むのは。

この歩き方は男のものでも女のものでもない、
灰色の狼のものでも、熊のものでも、獅子のものでもない。
思うに、たてがみをなびかせるケンタウロスのものでもない。
こんな巨大な歩幅で足速に歩いていくのは誰だろう。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.181

    第222行
  • βήματα: 中性名詞「歩き方、歩幅」(βῆμα) 複数主格。
  • οὔτ': 副詞「決して....しない」。οὔτι
  • ἀνδρὸς: 男性名詞 「人間、男」(ἀνήρ) 単数属格。
  • τάδε: 代名詞「これ」(ὅδε) 中性複数主格。
  • γίγνεται: 動詞「(属格を伴って)...に由来する」(γίγνομαι) deponentia 中動相現在直説法第3人称単数。
  • οὔτε: 副詞「...もまた...でない」
  • γυναικὸς: 女性名詞「女」(γυνή) 単数属格。この行の前半は「人間の歩き方ではこのようになる訣がない」の意味なのだが、「男の歩き方ではこのようになる訣がない」と云うようにも受けとれるので、"οὔτε γυναικὸς" と付け加えている。可笑しみのある所なのだが、それを自然に日本語に移すのは難しい。
    第223行
  • λύκων: 男性名詞「狼」(λύκος) 複数属格。
  • πολιῶν: 形容詞「灰色の毛の」(πολιός) 男性複数属格
  • ἄρκτων: 女性名詞「熊」(ἄρκτος) 複数属格。
  • λεόντων: 男性名詞「ライオン」(λέων) 複数属格。
    第224行
  • τι: 不定代名詞中性単数対格。
  • Κενταύρου: 男性名詞「ケンタウロス」(Κένταυρος) 単数属格。
  • λασιαύχενος: 形容詞「鬣(たてがみ)が荒々しい」(λασιαύχην) 男性単数属格。
  • ἔλπομαι: 動詞「希望を持たせる」(ἔλπω) 中動相現在直説法第1人称単数。中動相として「希望を持つ、希望に縋る」。名詞形「希望」は ἡ ἐλπίς (属格:ἐλπίδος, 対格:ἐλπίδα)。このギリシア語に因んだ社名を有する DRAM 製造会社 (エルピーダメモリ) があるのは周知の通り。


    第225行
  • ὅς: 関係代名詞男性単数主格。

  • τις: 不定代名詞男性単数主格。"ὅστις" で「...する者は誰でも」の意。「疑問」と云うよりむしろ「譲歩」か。

  • τοῖα: 形容詞「こうした、そうした」(τοῖος) 中性複数対格。

  • πέλωρα: 形容詞「驚異的な、巨大な」(πέλωρος) 中性複数対格。"τοῖα πέλωρα" で副詞句を作る。

  • βιβᾷ: 動詞「大股で歩く」(βιβάω) 能動相現在直説法第3人称単数。

  • ποσὶ: 男性名詞「足」(πούς) 複数与格。

  • καρπαλίμοισιν: 形容詞「早い」(καρπάλιμος) 男性複数与格。



ゼウスの伝令としてのヘルメース (アポローンとヘルメースを前にしたゼウスの言葉)


330 φοῖβε, πόθεν ταύτην μενοεικέα ληίδ' ἐλαύνεις,
331 παῖδα νέον γεγαῶτα, φυὴν κήρυκος ἔχοντα;

330 フォイボスよ、全体何処からなら、その見事な獲物を狩り出せるのじゃ?
331 生まれたばかりの子供のくせに、布令役ばりの背丈をしておるのう。

フォイボスよ、どこからこのみごとな獲物を追い立ててきたのじゃ。
生まれたばかりの子供のくせに、使者の格好をしてとるな。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.187

    第330行
  • φοῖβε: 形容詞「光り輝ける」(φοῖβος) 男性単数呼格。アポローンの通り名「フォイボス」
  • πόθεν: 疑問副詞「どこから」
  • ταύτην: 指示代名詞「その」(οὗτος) 女性単数対格。
  • μενοεικέα: 形容詞「満足すべき」(μενοεικής) 女性単数対格。
  • ληίδ': 女性名詞「獲物」(ληίς) 単数対格。ληίδα
  • ἐλαύνεις: 動詞「追い立てる」(ἐλαύνω) 能動相アオリスト接続法第2人称単数。アオリスト接続法と現在直説法とが同形だが、アポローンはヘルメースをゼウスの前に連れて来てしまっているので、「現在」ではなく「アオリスト」であると見なした方が順当。従って、接続法になり、ゼウスが戯れに訝しむ振りをしていると云うニュアンスが付く。これは、文脈にも合致する。
    第331行
  • παῖδα: 男性名詞 (παῖς) 単数対格。
  • νέον: 形容詞「若い、新しい」(νέος)。中性単数対格。副詞として用いられている。「新しく、最近」
  • γεγαῶτα: 動詞「生まれる」(γίγνομαι) 能動相現在完了分詞男性単数対格。
  • φυὴν: 女性名詞「成長、背丈」(φυή) 単数対格。
  • κήρυκος: 男性名詞「使者、伝令」。と云うより「布令役」か? (κῆρυξ) 単数属格。
  • ἔχοντα: 動詞「所有する」(ἔχω) 能動相現在分詞男性単数対格。


泥棒としてのヘルメス


336 παῖδά τιν' εὗρον τόνδε διαπρύσιον κεραϊστὴν
337 Κυλλήνης ἐν ὄρεσσι, πολὺν διὰ χῶρον ἀνύσσας,

336 あの紛れもない盗みを働いたのが子供だと分かったのは、
337 多くの地を経巡った後、キューレーネーの山中でのこと。

この子供ですが、こいつめは押しこみをはたらく盗人で、
わたしがあちこちを歩きまわった末に、キューレーネーの山の中で見つけたのです。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.188

    第336行
  • παῖδά: 男性名詞 (παῖς) 単数対格。
  • τιν': 不定代名詞 (τις) 男性単数対格。τινᾰ
  • εὗρον 動詞「見つけ出す」(εὑρίσκω) 能動相アオリスト直説法第1人称単数。
  • τόνδε: 指示代名詞「この」(ὅδε) 男性単数対格。
  • διαπρύσιον: 形容詞「全くの、紛れもない(泥棒)」(διαπρύσιος) 男性単数対格。一般的には「突き抜ける」ぐらいの意味だが、κεραιστής に係る場合は「全くの、紛れもない」の意になる。
  • κεραϊστὴν: 男性名詞「泥棒、略奪者」(κεραιστής) 単数対格。
    第337行
  • Κυλλήνης: 女性名詞「キュレーネー」(Κυλλήνη) 単数属格。アルカディアの山。ἐν' を挟んで、ὄρεσσι に係る。なお、Κυλλήνιος はヘルメースの通り名。
  • ὄρεσσι: 中性名詞「山」(ὄρος) 複数与格。
  • πολὺν: 形容詞 (πολύς) 男性単数対格。δια を挟んで、χῶρον に係る。
  • χῶρον: 男性名詞「場所、土地」(χῶρος) 単数対格。
  • ἀνύσσας: 動詞「達成する、実行する、旅を終える」(ἀνύω) 能動相アオリスト分詞男性単数主格。


ヘルメースの詭弁


378 πείθεο: καὶ γὰρ ἐμεῖο πατὴρ φίλος εὔχεαι εἶναι,
379 ὡς οὐκ οἴκαδ' ἔλασσα βόας, ὣς ὄλβιος εἴην,
380 οὐδ' ὑπὲρ οὐδὸν ἔβην: τὸ δέ τ' ἀτρεκέως ἀγορεύω.

378 私に優しい父親でありたいと思っていらっしゃるなら、信じてくださいまし、
379 私が牛どもを、財産にしようと自分の家へと追い立てたことはありませぬ。
380 私は家の敷居を跨いだこともありませぬ。これは、本当の話なのでございます。

信じてください。[私の大事な父上だと称しておられるのですから。]
裕かになろうとて、牛を我が家へ追ってくるようなことはしていないし、
敷居から外に出てもいません。これは嘘偽りのないところを言っているのです。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.190

    第378行
  • πείθεο: 動詞「説得する」(πείθω) 中動相現在命令法第2人称単数。中動相では「信じる」の意になる。
  • γὰρ: 小辞。「...であるなら」
  • ἐμεῖο: 代名詞。第1人称男性単数属格。ホメーロスにおける変異形。
  • πατὴρ: 男性名詞単数主格。
  • φίλος: 形容詞「魅力的な、愉快な、友好的な」(φίλος) 男性単数主格。名詞属格を伴って「(名詞属格)...にとって友好的な」の意。
  • εὔχεαι: 動詞「祈る、懇願する」(εὔχομαι) 中動相現在直説法第2人称単数。中動相なので自分自身に就いて願うことになる。
    第379行:ヘルメースの詭弁。実際、彼は、牛どもを「財産にしようと自分の家へと」ではなく、「燔祭にするためにピーエリアーの山あいへと」追い立てたのだった。
  • ὡς: 接続詞。名詞節を導く。前行の πείθεο に繋がる。
  • οἴκαδ': 副詞「自分の家まで」οἴκαδε
  • ἔλασσα: 動詞「(盗んだ家畜を)追い立てる」(ἐλαύνω) 能動相アオリスト直説法第1人称単数。
  • βόας: (男性/)女性名詞複数対格。
  • ὣς: 接続詞「...するために」。希求法とともに(先行する節は「過去」)。
  • ὄλβιος: 形容詞「(財貨に恵まれて)幸せな、祝福された」(ὄλβιος) 男性主格。
  • εἴην: 動詞 (εἰμί) 能動相現在希求法第1人称単数。
    第380行:ヘルメースの詭弁。家の敷居を「(歩いて)跨いだ」のではなく、「飛び越えた」のだ、と云うのが、ヘルメースの言い分だろう。
  • οὐδ': 接続詞「...もまたしない」οὐδε
  • οὐδὸν: 男性名詞「敷居」(οὐδός) 単数対格。
  • ἔβην: 動詞「歩く」(βαίνω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。ちなみに、第380行における表現は、"ὑπὲρ οὐδὸν ἔβην" であるのに対し、第23行では "οὐδὸν ὑπερβαίνων" であり、ὑπὲρ が前置詞になっているか、接頭辞になっているかぐらいの違いしかない。
  • ἀτρεκέως: 副詞「本当に」(ホメーロスで使われる)。 形容詞「本当の」ἀτρεκής から作られた副詞。動詞 ἀγορεύεινκαταλέξαι を伴う。
  • ἀγορεύω: 動詞「話す」(ἀγορεύω) 能動相現在直説法第1人称単数。


ゼウスがヘルメースの詭弁を嘉納する


389 Ζεὺς δὲ μέγ' ἐξεγέλασσεν ἰδὼν κακομηδέα παῖδα
390 εὖ καὶ ἐπισταμένως ἀρνεύμενον ἀμφὶ βόεσσιν.

389 ゼウス、大いに笑い給いき。詐欺師小僧が
390 牛のことを、言葉巧みに、しらきるを見そなわして。

この悪知恵に長けた子が、みごとにかつ言葉巧みに
牛の一件を否定するさまを見て、ゼウスは大声をあげて笑った。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.191

    第389行
  • Ζεὺς: 男性名詞単数主格。
  • μέγ': 形容詞 (μέγας) 中性単数対格。副詞として用いられている。「大いに、非常に」μέγα
  • ἐξεγέλασσεν: 動詞「声を出して笑う」(ἐκγελάω) 能動相アオリスト直説法第3人称単数。
  • ἰδὼν: 動詞「見る」(εἶδον) 能動相アオリスト分詞男性単数主格
  • κακομηδέα: 形容詞「誤魔化し上手の、嘘つきの」(κακομηδής) 男性単数対格。
  • παῖδα: 男性名詞単数対格。
    第390行
  • εὖ: 副詞「よく、徹底的に、完全に」
  • ἐπισταμένως: 副詞「巧みに」
  • ἀρνεύμενον: 動詞「否定する」(ἀρνέομαι) deponentia 中動相現在分詞男性単数対格。
  • ἀμφὶ: 前置詞。与格支配の場合は「に就いて」
  • βόεσσιν: (男性/)女性名詞「牛」(βοῦς) 複数与格。

笛の音の工夫


511 αὐτὸς δ' αὖθ' ἑτέρης σοφίης ἐκμάσσατο τέχνην:
512 συρίγγων ἐνοπὴν ποιήσατο τηλόθ' ἀκουστήν.

511 次に、ヘルメースは、またもや智恵を働かせて工夫をなし
512 笛の音を遠くまで聞こえるようにしき。

さて、ヘルメース自身はまた別の技術を新たに工夫して、
遠くにまで音のよく通る葦の笛(シューリンクス)をこしられた。
--[ホメーロスの諸神讃歌] 訳註:沓掛良彦 (1990年 東京 平凡社) pp.169-232 [ヘルメース讃歌 (讃歌第四番)] p.198

    第511行
  • αὖθ': 副詞「再び、更に、次いで」(αὖτε)
  • ἑτέρης: 形容詞「もう一つの」(ἕτερος) 女性単数属格。
  • σοφίης: 女性名詞「智恵」(σοφία) 単数属格。
  • ἐκμάσσατο: 動詞「工夫した」(ἐκμάσσατο) アオリスト直説法第3人称単数。
    第512行
  • συρίγγων: 女性名詞「パイプ、笛」(σῦριγξ) 複数属格。
  • ἐνοπὴν: 女性名詞「声、音」単数対格。
  • ποιήσατο: 動詞「作る、にする」(ποιέω) アオリスト直説法第3人称単数。
  • τηλόθ': 副詞「遠くに、遠くから」(τηλόθι) 属格支配の場合は「遠くから」
  • ἀκουστήν: 形容詞「聞こえる」(ἀκουστής) 女性単数対格。笛 (σῡρίγγων) が複数であることに注意。笛と云う楽器 (単数) を発明したと云うより、笛一般 (複数) の音が遠くまで届くように改良したと云うように受けとれる。

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