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セネカ [怒りについて De ira] からの引用句

[nouse: 「大衆が恐れる者は、必ずや大衆を恐れる」: ユリウス・カエサルの面前に抛り込まれた一句。] (2007年2月26日) に引き続き、セネカの [怒りについて (De ira)] からの引用句を書き留めておく。

(1,7,4) Quarundam rerum initia in nostra potestate sunt, ulteriora nos ui sua rapiunt nec regressum relinquunt. Vt in praeceps datis corporibus nullum sui arbitrium est nec resistere morariue deiecta potuerunt, sed consilium omne et paenitentiam inreuocabilis praecipitatio abscidit et non licet eo non peruenire quo non ire licuisset,...
--Itinera Electronica: Du texte a l'hypertexte
最初はわれわれの手に負えても、後になると、その力でわれわれを捕らえて後戻りを許さないものがある。たとえば、断崖から投げ落とされた体には、それ自身の裁量などは少しもできず、いったん投げ出されれば静止も停止もできない。もう取り消せない墜落のために、どんなに考えても悔やんでもすべて後の祭りであって、初めから行きたくはなかった所へ否応なしに達することになる。
--岩波文庫 33-607-2 [怒りについて] (訳:茂手木元蔵。1980年。東京 岩波書店) p.21

"quarundam" は quidam の女性複数属格 (quarum の末尾の m が d に後続されるため n に転化している)。"nos ui sua" 中の "nos" は対格。"ui" は vi つまり vis (女性名詞) の単数奪格。"sua" は suum の女性単数奪格。

"Vt" は Ut のこと。"in praeceps datis corporibus" の "corporibus" は corpus (n) の複数奪格("in" に支配されている)。"datis" は do の受動相完了分詞中性複数奪格("corporibus" と一致)。"praeceps" は副詞「真っ逆さまに」で、「断崖」の意ではあるまい。

"morariue" の -ue は -ve のこと。その前の morari の方は、deponentia 動詞の一つ moror の不定法現在。

"licet" は非人称動詞「許されている」の直説法現在(三人称単数)。"licuisset" は、その接続法過去完了(三人称単数)。

翻訳のチェックはしないつもりだったが少し書いておくと:

まず "Vt in praeceps datis corporibus nullum sui arbitrium est" は「断崖から投げ落とされた」云々ではなく「身体が真っ逆さまに落ちているようなもので、何も自由にならず」といったところか。

また "nec resistere morariue deiecta potuerunt" を「(いったん投げ出されれば)静止も停止もできない」とするのはどんなものだろう。morari の語義を考えると「停止も減速もできない」の方が良いのではないか?

"non licet eo non peruenire quo non ire licuisset" で「初めから行きたくはなかった所へ否応なしに達することになる」と云うのも引っ掛かる。"licuisset" が接続法であることを意識するなら「もとより行く筈もなかった所に辿り着いてしまう」ぐらいではないか。

うーむ。

当初の予定では、"De ira" からの引用句を十前後並べる積もりだったのだが、一つ書いただけで、なんだか面倒くさくなってきた。予定を切り上げて、今回はこれだけにしておく。

ちなみに、岩波文庫版のほかの "De ira" の現代語訳をネット上で探してみたところ、フランス語版英語版イタリア語版が出てきたが(ドイツ語版は見当たらなかった)、今回見た非常に狭い範囲内だけなら、イタリア語版が一番しっかりしているようだ。

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