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メモ: John Lennon "Imagine"

"Happy Christmas (War Is Over)" に就いて書いた (2006年12月22日) ついでに、"Imagine" (1971年。同一タイトルのアルバムに収録) に就いても少し書いておく。

原歌詞に就いては、以下のサイトなどを参照:

この歌詞は、その「政治性」とか「反宗教性」を云云されることがあるようだ。しかし、私の見るところでは、この詩の内容は、反教会(勿論、キリスト教の「教会」)的かもしれないが、少なくとも部分的には明確に宗教的だ。更に端的に言えば、新約聖書におけるイエスの宣教とパラレルな部分もある(そうでない部分もあるが)。

共産主義的言辞を理由とする「政治性」に就いても、この歌詞が描いているのは、(「類型的な」と云う表現が意地悪になってしまうなら、言い換えると、いみじくもタイトルが示すように) image としての宗教的コミューンであって、政治的現実(変革への具体的プロセス)に対する深刻な認識は見られない(注意: そのことの善し悪しを言っているのではない)。

ここでの John Lennon は、無邪気な教祖のように振る舞っている。もっとも、だからと言って、Lennon の意図は別として、彼の歌が政治的アジテーションの役割を持ちえないかと云うと、それは別の話なのだが...(付言しておくと、"Power to the People" などの一見アジテーション・ソングに見えるようなものより、"Imagine" の方が、人びとを動かす力は強いかもしれない)。


以下 "Song Lyrics Domain - Discover the songs you love..." 所収の "John Lennon Imagine lyrics" に従って論じる。

第1スタンザの "all the peple living for today" は、新約聖書中の「だから、あすのことを思い煩ってはならない。あすのことは、あす思い煩えばよい。その日の苦労は、その日だけで十分である」(マタイ6:34。[フランシスコ会訳聖書研究所]版。以下の新約聖書からの引用に就いても同様) を思い起こさせる。あたかもこれに応えるように、本来の意味を現代人に伝えるように訳すと云う目標を持って出版されたと云う "New Living Translation/NLT" 版の英文聖書 (1996年) では、[マタイ6:34] は "So don't worry about tomorrow, for tomorrow will bring its own worries. Today's trouble is enough for today." と訳されている。

むしろ、第1スタンザは、[マタイ6:34] を踏まえないと、理解が難しいかもしれない。人が平安に生きていくには、「天国」に生まれ変われたいと思い煩ったり、「地獄」に落ちたくないと思い煩ったりすべきではない、と云うのが、このスタンザの含意だろう。

ちなみに、島崎藤村は [千曲川旅情の歌] で、「昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ この命なにを齷齪 明日のみを思ひわづらふ」と詠っているが、藤村の自己憐憫と Lennon の自己肯定との方向性の異なり方が面白い。

第2スタンザでは、教会や国家が必然的に伴う思想信条、つまり「大義」を拒絶している。勿論、そうした拒絶の思想信条も、「大義」ではないにしろ、一定の思想信条になってしまう。しかし、それをカテゴライズするのは、あまり意味がないと思う。「小義」だから当然かもしれないが、「John Lennon の思想信条」は、本人以外にとっては(そして多分、本人にとっても)かなり漠然としており、「Lennon 教」とでも言うしかないのではないか。

「サビ」の第3スタンザと第5スタンザは、謂わば、「Lennon 教」への勧誘だな。

第4スタンザ第1行の "possessions" は、個々の「財産」と云うより、「財産と云う考え方」つまり「私的所有制」を指す。たしかに、このスタンザの内容は共産主義的だ。"No need for greed or hunger" などマルクスが「ゴータ綱領批判」(Karl Marx - Kritik des Gothaer Programms) で示した共産主義社会における生産と供給との関係のスローガン "Jeder nach seinen Fähigkeiten, jedem nach seinen Bedürfnissen! (一人ひとりが、それぞれの能力に応じて! 一人ひとりに、それぞれの必要に応じて!)" を連想させる(ただし、人間性の理解に就いては若干浅薄ながらも秀逸なこのキャッチコピーは、マルクスの独創ではないらしい)。しかし、Lennon のボンヤリと描いている「共産主義」は「科学的」なものではなく、この歌詞の言葉尻を踏まえるなら「夢想的」と言えるものだ(「科学的社会主義」が破綻した現在では、その分、「夢」の重みが歴史の前景に迫り出してきているが)。

たいして意味のある措定ではないが、あるいは、Lennon の「思想」は、communism より、anarchism や dadaism に近いかもしれない。Lennon は、どうすれば「大人達」の顰蹙を買うか良く知っていて、そして旨く顰蹙を買うと、それで逆に安心していたようなところがある。

第4スタンザに言う財産の否定も、マタイ第19章後半の[金持ちの青年の逸話] (「もし完全になりたいならば、帰って、あなたの持ち物を売り、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に宝を蓄えることになる。それから、わたしについて来なさい。」マタイ19:21) や、イエスが空腹になった群集にパンや魚を頒ち与えて満腹させたと云う逸話(マタイ第14章、マタイ第15章及び並行箇所)を思い起こさせる。

なお、第4スタンザ第4行末の "man" は、第2行末の "can" と韻を踏ませているのだが、冠詞なしに使われていて、「男」ではなく「人類一般」を表わしている。

第4スタンザ後半は、「世界は一家、人類はみな兄弟」と云ったところだ。それは、「史的弁証法」とは対極の発想であることに注意。更にこれは、「社会変革」のためには「闘争」が必要だと明確に意識していたナザレのイエスの考え方とも異なっている。イエスはこう言う:「わたしが来たのは地上に平和をもたらすためであると思うな。わたしが来たのは、平和をもたらすためではなく、剣を投げ込むためである。わたしが来たのは、人をその父と、娘をその母と、嫁をそのしゅうとめと仲たがいさせるためである。家の者は、主人の敵となる。」([マタイ10:34-10:36])。またマルコ第11章等に記されている、イエスの神殿境内市場への襲撃事件も参照。こうした反逆的行動と「アジテーション」ゆえに、イエスは処刑されることになるのだが、口実とされたのは、彼が「冒涜の言葉」を吐いたため、つまり「反宗教的」だと云うことだった。

第1, 第2, 及び第5スタンザは、それぞれ、最初の行で「天国(死後を含む将来への懸念)」、「国家(大義)」、「財産(私的所有制)」が無い世界をイメージするよう聴衆に呼びかけている。第2行では、イメージすることの叱咤又は挑発。第3行及び第4行は、第1行の敷衍。そして、第5行と第6行とで、そうした世界が素晴らしいものであることを約束する。全スタンザで第2行と第4行とが脚韻。

歌詞の大雑把な意味を書いておく。

考えてごらん

考えてごらん。「天国なんてものは無いんだ」って。
やってみれば簡単だよ。
足の下には地獄はなくって
頭の上には空があるばかり。
考えてごらん。「人びとみんなが
一日をその一日のためだけに生きている」姿を。

考えてごらん。「国家なんてものは無いんだ」って。
難しいことじゃないんだよ。
殺すこともないし、命を捨てなくてもいいんだ。
宗教なんかもなくってさ。
考えてごらん。「人びとみんなが
心穏やかに暮らしている」姿を。

夢物語を信じている奴って、君らは言うかもしれないな。
だけれど、こう云うのって僕一人だけじゃないんだよ。
君らがいつか、僕らの仲間になって
世界が一つになって欲しいんだ。

考えてごらん。「財産なんてものは無いんだ」って。
君らにはできるかな。
余計に欲しがることも、足りなくて困ることもないんだ。
人間がみな仲よく暮らしてさ。
考えてごらん。「人びとみんなが
世界全体を分かち合っている」姿を。

夢物語を信じている奴って、君らは言うかもしれないな。
だけれど、こう云うのって僕一人だけじゃないんだよ。
君らがいつか、僕らの仲間になって
世界が一つになって欲しいんだ。


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