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[イギリス幻想小説傑作集] 中の [幽霊船]

「サノックス卿夫人秘話」を読んだ後、引き続いて「イギリス幻想小説傑作集」(由良君美 編。1985年。東京。白水社。ISBN4-560-07073-3)の残りを読んだ。

それほど期待していなかったのだが、[拾い物] があって、それが [幽霊船] だ。"The Ghost Ship" by Richard Barham Middleton. 訳: 南條 竹則。

所謂 [ホラ話] なので、語り口と云うか、話芸と云うかが何よりも大切で(例えば、落語の [粗忽長屋] を思い出してほしい)、そして翻訳としての [幽霊船] は、勿論日本語での語り口だから、我我が感じるのは、訳者の話芸ということになる。これが、なかなか堂に入ったものなのだ。

ところが、これから聞かせる話は、こんな土地に住んでるおれたちでも変ちくりんだと思うくらいでね。毎年狩りの季節になりゃあ、幽霊猟犬が三つの群で獲物を追っかける……鍛冶屋のひい爺さんは一晩中死んだ紳士方の馬に蹄鉄を打っている……こんな村のおれたちでもね。今言ったようなことだってお節介やきのロンドンじゃ、まず、びっくりのくちだろ? だけど鍛冶屋なんか平気なもんで、小羊みたいにスヤスヤ寝ているよ。いつだったか奴さん頭痛がしたから、うるさい音をたてるなった連中に怒鳴りつけたことがある。そしたら次の朝、おわびのしるしに古いギニー金貨が一枚、鉄床に置いてあったっていうじゃないか。鍛冶屋は今でもその金貨を懐中時計の鎖につけてるよ。でも肝心の話に戻らなきゃいけないな。フェアフィールドの不思議話を語りだしたら、際限(きり)がないもの。-- p.63/64

原文も引用しておく。

Still, I must admit that the thing I'm going to tell you about was queer even for our part of the world, where three packs of ghost-hounds hunt regularly during the season, and blacksmith's great-grandfather is busy all night shoeing the dead gentlemen's horses. Now that's a thing that wouldn't happen in London, because of their interfering ways, but blacksmith he lies up aloft and sleeps as quiet as a lamb. Once when he had a bad head he shouted down to them not to make so much noise, and in the morning he found an old guinea left on the anvil as an apology. He wears it on his watch-chain now. But I must get on with my story; if I start telling you about the queer happenings at Fairfield I'll never stop.

ただし、翻訳として正確かと云うと、回答は留保せざるをえない。

例えば、「今言ったようなことだってお節介やきのロンドンじゃ、まず、びっくりのくちだろ? だけど鍛冶屋なんか平気なもんで、小羊みたいにスヤスヤ寝ているよ」は、"Now that's a thing that wouldn't happen in London, because of their interfering ways, but blacksmith he lies up aloft and sleeps as quiet as a lamb." に対応する訣だが、原文の含意は、ロンドンじゃ「びっくりのくち」でも、鍛冶屋が「平気」でもない。

まず、「お節介やきのロンドン」が「びっくり」するでは、文章がつながらない。"Now that's a thing that wouldn't happen in London, because of their interfering ways" が言っているのは、ロンドンでは何につけても邪魔立てするので、幽霊たちは気安く「毎年狩りの季節になりゃあ、幽霊猟犬が三つの群で獲物を追っかける……鍛冶屋のひい爺さんは一晩中死んだ紳士方の馬に蹄鉄を打っている……」などとしていられないと云うことだ。だからこそ、この文章はその後の鍛冶屋が「ひい爺さん」(勿論幽霊)や幽霊馬たちの行為に関わらず、仔羊のように寝ていると云うは表現につながるのだ。

"blacksmith he lies up aloft" を「鍛冶屋なんか平気なもんで」と訳してあるのも疑問だ。これは単に、鍛冶屋の仕事場が(多分)一階にあるのに対し、寝ている場所が(これも多分)二階にあると云うことだろう。だから、鍛冶屋は幽霊たちに対し "shouted down to" するのだ。

さらに、"But I must get on with my story; if I start telling you about the queer happenings at Fairfield I'll never stop." についても、私としては異論がある。

とにかく、私の試訳を書いておこう。

ところが、これから聞かせる話は、こんな土地に住んでるおれたちでも変竹林だと思うくらいでね。毎年狩りの季節になりゃあ、幽霊猟犬が三つの群で獲物を追っかける……鍛冶屋のひい爺さんは一晩中死んだ紳士方の馬に蹄鉄を打っている……こんな村のおれたちでもね。今言ったようなことでさえ、ロンドンじゃ起こりっこないだろ。連中口うるさいからね。だけど、こっちの鍛冶屋なんか二階に引っ込んで、仔羊みたいにスヤスヤ寝ているよ。ただ、いつだったか奴さん頭痛がしていたもんで、あんまり音を立てるなって上から連中に怒鳴りつけたら、次の朝、おわびのしるしに古いギニー金貨が一枚、鉄床の上に置いてあってさ。あいつ、今でもその金貨を懐中時計の鎖につけてるよ。でも肝心の話を急がないとな。フェアフィールドで起こったその変竹林な出来事を話しだしたら、中途で止めることはしないからね。

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