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ガリレオの些細な過ち

岩波文庫版「新科学対話(上)」(今野武雄・日田節次訳 1937年)の[第二日命題八](p.179)は次のようになっている(参考のため、対応イタリア語原典と、岩波文庫版が翻訳の底本としたと思われる英訳版とを付けておく)。

命題八
自分の重さで折れない最大限の長さの圓柱或ひは角柱を與へられたものとし、次にそれより大なる長さを與へて、この長さを持ち、しかも自分の重さに堪へ得る唯一、最大の圓柱或ひは角柱の徑を求むること。

Prop. VIII
Dato dunque un cilindro o prisma di massima lunghezza da non esser dal suo proprio peso spezzato, e data una lunghezza maggiore, trovar la grossezza d'un altro cilindro o prisma che sotto la data lunghezza sia l'unico e massimo resistente al proprio peso.

PROPOSITION VIII
Given a cylinder or prism of the greatest length consistent with its not breaking under its own weight; and having given a greater length, to find the diameter of another cylinder or prism of this greater length which shall be the only and largest one capable of withstanding its own weight.



上記引用部分の後、[命題八]の証明が続くのだが、その最後の部分はこうなっている(岩波文庫版の p.180)。ただし、以下の引用で、円柱 BC (従って、長さ BA 及び AC も)は所与、また、円柱 FE では、長さ DE のみが所与。そして I, M, O は、DE:AC=AC:I, DE:I=I:M=M:O となるような長さ。ここで、円柱 FE の直径 FD を FD:BA=DE:I を満たすように定めれば、円柱 FE は所望のものとなると云うのが、議論の骨子(「第二十五圖」を参照)。

galileo3

圓柱 FE の能率と圓柱 DG の能率との比は、DE2:AC2 (FG2) 即ち長さ DE:I に等しい [DE:AC=AC:I の故に]。しかるに圓柱 DG の能率と圓柱 BC の能率との比は DE2:I2, 或ひは I2:M2, 或ひは I:O に等しい。故に比を等しとおいて、圓柱 FE の能率と圓柱 BC の能率の比は長さ DE:O 即ち DF3=BA3 或ひは底面 DF の抵抗力對底面 BA の抵抗力に等しい。(以上)

上記引用中で「長さ DE:I」とか「長さ DE:O」とかあるのは、それぞれ「長さの比 DE:I」,「長さの比 DE:O」とするか、あるいは単に「DE:I」,「DE:O」方が良かったろう。

ついでに書いておくと、この引用部分で「能率」とか「抵抗力」とあるのが、[トルク]つまり[力のモーメント]であることを念頭に置いておくなら、式のところだけ拾って読んでも簡単に理解できるから、うっかり読みおとしてしまいそうなるが、「故に比を等しとおいて」と云う言い方は奇妙。

今まで進めてきた議論から最終的な結論を導き出すために使った論理の雛形への参照をしている訣だから「・・・によって」とか「・・・だから」と云う表現にならなければならないところだ。そして、どう云う雛形であるかは、議論の流れから逆に見て取れる。次のようなものだ。つまり、

2つの比の系列 α:β, β:γ と λ:μ, μ:ν とがあった時に
α:β=λ:μ かつ β:γ=μ:ν なら α:γ=λ:ν

と云う訣で、この部分のイタリア語原文を見てみると:

Il momento del cilindro FE al momento del cilindro DG è come il quadrato della DE al quadrato della AC, cioè come la linea DE alla I; ma il momento del cilindro DG al momento del cilindro BC è come il quadrato DF al quadrato BA, cioè come il quadrato di DE al quadrato della I, cioè come il quadrato della I al quadrato della M, cioè come la I alla O; adunque, per l'egual proporzione, come il momento del cilindro FE al momento del cilindro BC, così è la linea DE alla O, cioè il cubo DF al cubo BA, cioè la resistenza della base DF alla resistenza della base BA: che è quello che si cercava.

なお、英文版では以下の通り:

The moment of the cylinder FE is to the moment of the cylinder DG as the square of DE is to the square of AC, that is, as the length DE is to I; but the moment of the cylinder DG is to the moment of the cylinder BC, as the square of DF is to the square of BA, that is, as the square of DE is to the square of I, or as the square of I is to the square of M, or, as I is to O. Therefore by equating ratios, it results that the moment of the cylinder FE is to the moment of the cylinder BC as the length DE is to O, that is, as the cube of DF is to the cube of BA, or as the resistance of the base DF is to the resistance of the base BA; which was to be proven.


話が更に脇にそれてしまうが、注意しておくと、岩波文庫版では「しかるに圓柱 DG の能率と圓柱 BC の能率との比は」と「DE2:I2, 或ひは」との間に、訳ヌケがある。英語版の "as the square of DF is to the square of BA," に対応する部分で、「DF2:BA2, 即ち」ぐらいを補う必要がある。

さて、見比べてみると、イタリア語の "per l'egual proporzione" と "by equating ratios" との間にも、また "by equating ratios" と「比を等しとおいて」との間にもズレがある。ここらへんは「比(の系列)が一致している訣だから」ぐらいに訳しておくべきだった。

しかし、本稿の主題は日本語版の翻訳品質ではない。ガリレオ自身の議論の組み立てかたに就いて若干書き留めておきたいことがあったので、上記のことは、その前提として簡単に引用すれば良い筈のことなのだが、つい余計なことを書いてしまった。

以下が、今回の本題である。

[命題八]には、「別証」がある。[命題八]の証明の後、サグレドに一度では憶えきれないので、もう一度繰り返してくれないかと言われたサルヴィヤチが示したものである。

まず、岩波文庫版の181ページから引用しよう(「第二十六圖」を参照)。

サルヴィヤチ 喜んでお役に立ちませう。A を直徑が DC で、そして自分の重さを支へ得る最大限の圓柱とします。問題はそれより大きく、同時に自分自身の重さを支へ得る最大限の圓柱を決めるにあります。

galileo2

E を A に相似で、所與の長さを持ち、直徑が KL である圓柱としませう。MN を二つの長さ DC と KL の第三比例項 [即ち DC:KL = KL:MN] とし、そしてこれを E と同じ長さの今一つの圓柱 X の直徑としませう。さうすると、X は求むる圓柱なのです。

今底面 DC の抵抗力と底面 KL の抵抗力との比は DC2:KL2 即ち KL2:MN2, あるひは圓柱 E 對圓柱 X、即ち兩圓柱の能率の比に等しい[臂が等しいので]。そして又底面 KL の抵抗力と底面 MN の抵抗力の比は KL3:MN3 即ち DC3:KL3 或ひは圓柱 A 對圓柱 E、即ち圓柱 A の能率と圓柱 E の能率の比に等しい[相似形の故に]。故に二つの比を等しとおいて、A の能率と X の能率の比は底面 DC の抵抗力と底面 MN の抵抗力との比に等しい。そこで能率と抵抗力との關係は圓柱 X に於ても、圓柱 A の場合と丁度同じであります。


しかし、この議論の組み立て方は間違っている(勿論、命題八の本証は、別証とは独立して成立しているから、結論自体は正しい)。

まず、例によって、イタリア語原文と英訳版を引用しておこう。

イタリア語:
Salv. Non mancherò di servirla. Ora intendiamo un cilindro A, il diametro della cui base sia la linea DC, e sia questo A il massimo che possa sostenersi; del quale vogliamo trovare un maggiore, che pur sia il massimo esso ancora ed unico che si sostenga.

Intendiamone un simile ad esso A e lungo quanto la linea assegnata, e questo sia, v. g., E, il diametro della cui base sia la KL, e delle due linee DC, KL sia terza proporzionale la MN, che sia diametro della base del cilindro X, di lunghezza eguale all'E: dico, questo X esser quello che cerchiamo.

E perché la resistenza DC alla resistenza KL è come il quadrato DC al quadrato KL, cioè come il quadrato KL al quadrato MN, cioè come il cilindro E al cilindro X, cioè come il momento E al momento X; ma la resistenza KL alla MN è come il cubo di KL al cubo di MN, cioè come il cubo DC al cubo KL, cioè come il cilindro A al cilindro E, cioè come il momento A al momento E; adunque, per l'analogia perturbata, come la resistenza DC alla MN, così il momento A al momento X: adunque il prisma X è nella medesima costituzione di momento e resistenza che il prisma A.

ちなみに、上記引用伊文中 "v. g." とあるが、影印版では "v. gr." と見える(p.127)。しかし、どちらもラテン語 " verbi gratia" の略であり、意味(「例えば」)は変わらない。まぁ、この "v. g." は、英語版には、従って日本語版にも、訳されていないから、この注意は持って行きどころがないのだが。

英語:
SALV. I shall gladly do so. Let A denote a cylinder of diameter DC and the largest capable of sustaining its own weight: the problem is to determine a larger cylinder which shall be at once the maximum and the unique one capable of sustaining its own weight.

Let E be such a cylinder, similar to A, having the assigned length, and having a diameter KL. Let MN be a third proportional to the two lengths DC and KL: let MN also be the diameter of another cylinder, X, having the same length as E: then, I say, X is the cylinder sought.

Now since the resistance of the base DC is to the resistance of the base KL as the square of DC is to the square of KL, that is, as the square of KL is to the square of MN, or, as the cylinder E is to the cylinder X, that is, as the moment E is to the moment X; and since also the resistance [bending strength] of the base KL is to the resistance of the base MN as the cube of KL is to the cube of MN, that is, as the cube of DC is to the cube of KL, or, as the cylinder A is to the cylinder E, that is, as the moment of A is to the moment of E; hence it follows, ex aequali in proportione perturbata*, that the moment of A is to the moment of X as the resistance of the base DC is to the resistance of the base MN; therefore moment and resistance are related to each other in prism X precisely as they are in prism A.

命題八の内容をかいつまんで言うと:

2本の円柱片持ち梁が自重を支えうる最長の長さを有している時、第1の片持ち梁の直径が d, 長さが L であり、第2の片持ち梁の長さが第1の片持ち梁の長さの k 倍 (つまり kL) であるなら、その直径は第1の片持ち梁の k2 倍 (つまり k2d) である

と云うものだ。

「新科学対話」内部では、「片持ち梁が自重を支える最長の長さを有している」とは、片持ち梁をその固定端の最下部を支点とする梃子と考えて、自重の重力モーメントと、固定端での抵抗力のモーメントとが等しいことを言っていることに留意して以下読まれたい。

ガリレオは、第2の片持ち梁の長さが第1のものより長いこととして、議論を進めていてるのでそれに従うと、本証では、直径 d, 長さ L の第1の円柱片持ち梁 (BC) と、直径 k2d, 長さ kL の第2の円柱片持ち梁 (FE) とに対して、ガリレオは第2の片持ち梁の固定端から第1の片持ち梁の長さ L の同じだけの部分を仮想的に第3の片持ち梁 (DG) として考える。そして:

固定端での抵抗力のモーメントは、第1に対して第3は (k2)3 = k6 倍、従って第2に対しても k6 倍となる一方、自重の重力モーメントは、第1に対して第3は、k4 倍、第3に対して第2は k2 倍、合わせると第1に対して第2は k6 倍となる。

始めに、第1では、固定端での抵抗力のモーメントと自重の重力モーメントが等しいとされていた訣だから、第2でもこの両者は等しくなる。

以上が、本証での議論の要旨である。

これに対して、別証ではどうかと云うと、ガリレオは、長さ L, 直径 d の第1の片持ち梁 (A) と長さ kL, 直径 k2d の第2の片持ち梁 (X) がある時、第1の円柱片持ち梁に対して 係数 k の相似形をなすものを、第3の円柱片持ち梁 (E) として考える。当然、その長さは第2の片持ち梁と同じ kL になるが、直径は第1 (d) と第2の (k2d) 中間の kd となる。

そして、その議論の骨子はこうだ:

固定端での抵抗力のモーメントは、第1に対する第3の比 k2 は、自重の重力モーメントの第3に対する第2の比 k2 と等しい。また、固定端での抵抗力のモーメントに戻って、第3に対する第2の比は k3 は、自重の重力モーメントの第1に対する第3の比 k3 と等しい。順序は異なるが、比の値の系列は一致するから、第1で固定端での抵抗力のモーメントと自重の重力モーメントが等しいとされている限り、第2でもこの両者は等しくなる。

ガリレオの過ちは単純で、第1の片持ち梁に対する第3の片持ち梁の固定端での抵抗力のモーメント及び自重の重力モーメントを両方とも勘違いしたことにある。この場合、固定端での抵抗力のモーメントの比は k2 ではなく k3 であり、自重の重力モーメントの比は k3 ではなく k4 である。この結果、総体として両モーメントの第1に対する第2の比は、両者とも k6 となって、本証と一致する。

ガリレオは、[第二日]の始め近くで、機械の働きを考える際に、自重を考慮に入れる場合と入れない場合との区別を付けることの大切さを自ら強調しているにも関わらず、ここではそれを忘れてしまっているか、それとも、こちらの方がありそうだが、混乱してしまったようだ。

何故なら、「圓柱 E 對圓柱 X、即ち兩圓柱の能率の比 (il cilindro E al cilindro X, cioè come il momento E al momento X)」とか「圓柱 A 對圓柱 E、即ち圓柱 A の能率と圓柱 E の能率の比 (il cilindro A al cilindro E, cioè come il momento A al momento E)」とか云う謂い方をしているからだ。

もし、別証の議論のうち、後半の「即ち (cioè come)」以下「能率の比」までを削除し、さらに、単に「圓柱 E 對圓柱 X (il cilindro E al cilindro X)」や「圓柱 A 對圓柱 E (il cilindro A al cilindro E)」とあるのを、それぞれ普通に「圓柱」の重量(質量)の比と見なし、そして「抵抗力 (resistenza)」を、底面の抵抗力が片持ち梁の重心に働く効果として解釈するなら、こうした変更に応じて、結論部分の「A の能率と X の能率の比は底面 DC の抵抗力と底面 MN の抵抗力との比に等しい。そこで能率と抵抗力との關係は圓柱 X に於ても、圓柱 A の場合と丁度同じであります」は「A の重量と X の重量の比は底面 DC の抵抗力が A の重心に働く効果と底面 MN の抵抗力が X の重心に働く効果との比に等しい。そこで重量と抵抗力との關係は圓柱 X に於ても、圓柱 A の場合と丁度同じであります」と読み替えられるから、別証の議論は成立する。


以下は余談(前提となっているものが、ガリレオの勘違いにより成立していないから、穿鑿が無意味になってしまっている)。

別証伊原典中の "per l'analogia perturbata" は、成句風の表現で(とは言え、ネットを検索してみると、まさにこの用例しかヒットしない)、単純に字面だけからは意味を補足しがたい印象を受けるが、これは後続の主張の論理的根拠を言っているわけだから、後続の文章を読めば、その意味するところは、大体の見当がつく(本証中の "per l'egual proporzione" と対応していると考えられる)。

つまり、

2つの比の系列 α:β, β:γ と λ:μ, μ:ν とがあった時に
α:β=μ:ν かつ β:γ=λ:μ なら α:γ=λ:ν

この「定理」は簡単に一般化できて、比の系列が2段階だけでなくヨリ長くても成立する。だから、訳すなら「交差的」とか「たすき掛け」とかではなく、「順不同」の方が使い勝手が良いだろう。それに、"perturbata" の訳語としても、「順不同」の方が素直だ。

と云う訣で、訳を宛てるなら、イタリア語原典での "per l'analogia perturbata" は「順不同相似をなしているから」又は「不順相似をなしているから」ぐらいか。もっとも、図形の相似とは違って、量の[比]の話ではあるけれども・・・。ちなみに、英訳で(奇妙なことにラテン語にだが)書き換えを行なっているのは、この点を考慮したのかもしれない。このラテン語 "ex aequali in proportione perturbata" も、「比が順不同で一致しているから」とでも訳せるだろう。なお、英語版 footnotes 中に、"129.1 For definition of perturbata see Todhunter's Euclid, Book V, Def. 20. [Trans.]" とあって(上記引用英文中 "*" が付いている部分)、これは何らかの参考になるだろうと思うけれども未チェック。

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