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2006年1月の5件の記事

"evacuation area" 補足 その2: 戦時における日系米人強制収容の場合


"evacuation area" が、災害からの避難とは別の文脈で使われることがあるので、そのことを書いておく。

1941年12月7日(ハワイ現地時間)における日本海軍の真珠湾攻撃を契機とする日米戦争中、米国大統領フランクリン・ルーズベルト (Franklin D. Roosevelt) が 1942年2月19日に出した行政命令 9066 (Executive Order 9066) に基づいて、アメリカ合衆国西海岸地域(ワシントン州西部、オレゴン州西部、カリフォルニア州、アリゾナ州の一部)に居住していた日系米人が、所謂 "relocation camp" に強制収容されたが、この日系人が立ち退かされた地域が "evacuation area" として言及されることがある。ただし、当時の文書の中で使われていたかどうかは確認できなかった。

以下のサイトを参照:

  1. Japanese American Internment Online Exhibit

  2. Childhood Lost: the Orphans of Manzanar

行政命令 9066 が正式に破棄されたのは、1976年4月ジェラルド・フォード (Gerald Ford) 大統領によってだった。

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"evacuation area" 補足 その1

2006年1月19日付けの記事「災害(地震)対策文書中の用語「避難所/避難場所」の英訳としての "evacuation area" に就いて」で、"evacuation area" を「そこに避難すべき地域」として使用している例として、ランドルフ メイコン大学 (Randolph-Macon College) の「キャンパスの安全:緊急事態対応プラン」(Campus Safety: Emergency Response Plan) だけしか示さなかったので、もう一つと云うか、二つと云うか、別の大学の例を挙げておく。妙な言い方をするようだが、実は共にカリフォルニア大学 (University of California) なのである。


カリフォルニア大学サンタクルーズ校 (University of California, Santa Cruz) の情報テクノロジー・サービス (ITS: Information Technology Services) 部門の「緊急時対応プラン」(Emergency Response Plan) 中の "Unit Coordinator/Building Evacuators" (「部長/ビル避難担当者」とでも訳すべきか?)が緊急時にすべきことを列挙したうちの一つ:

Move injured people to evacuation area if possible (an evacuator stays with an individual with head and/or neck injuries, if in a relatively SAFE location.)

可能な場合には負傷者を避難場所に移送する(比較的に安全な場所にいる場合には、避難担当者は、頭部及び/又は頚部の負傷者と共に移動しないでいること)。

なお、このプランは採択日 (Date Adopted) が 2003年10月1日、改定日 (Date Revised) は2004年10月1日である。

二番目は、カリフォルニア大学バークレー校 (University of California, Berkeley) の「マクラフラン・ホール・ビル緊急時対応プラン」(McLaughlin Hall Building Emergency Plan) 中、火災が発生したビル内にいる場合の行動を規定した一節:

If alarm is sounded, immediately turn off any electrical equipment or machinery you are operating and proceed to the evacuation area. The last person to leave the room should close the door before evacuating the building. Report the exact location of any handicapped or trapped persons still inside to the Building Coordinator, Marilyn Witbeck, Assistant Building Coordinator Ronnie Goodlund, or to a Roll Taker.

火災報知器が鳴った場合、使用中の電気機器又は電動機械の電源を即座に切り、避難場所に移動すること。最後に部屋を出る者は、ビルから避難する前に、部屋のドアを閉鎖すること。ビル内に残っている身体障害者又は閉じ込められている人物の正確な位置を、ビル管理者のマリリン・ウィトベク (Marilyn Witbeck)、ビル管理者補佐のロニー・グッドランド (Ronnie Goodlund)、その他代理の者に報告すること。

このプランは採択日 (Date Adopted) が 1999年1月13日、改定日 (Date Revised) は2002年10月28日である。

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災害(地震)対策文書中の用語「避難所/避難場所」の英訳としての "evacuation area" に就いて

以前から公報や掲示で見かける度に気になっていたことを書いておく。

それは、災害時(具体的には所謂「大地震」を想定しているのだろう)における避難場所(「避難所」と云う言い方もするようだが)を案内する公報や公的掲示での英訳語のことだ。私が見かけた限りでは「避難場所/避難所」は、どれも "evacuation area" と訳されていた。

しかし、私の語感によれば、英語で "evacuation area" と言ったら、災害時に逃げ込む場所は意味しない。逆に、災害時に人々をそこから退去させるべき地域を意味する。これは、"evacuate" の基本的な意味が「空にする」ことから従っている("evacuate" は "vacuum"「真空」と同族)。ちなみに、「避難路」の英訳語としての "evacuation route" には、私も異存はない。「退避路」と言い換えることができる含意があるからだ。

私だったら、「避難場所」には "refuge" か "haven", ただし "haven" では、近くに実物の「避難港」があった場合、それと混同される可能性があるから、やはり "refuge" を当てるのが一番良いか、などと考えていた(前に "evacuation" を付けないで、文脈で処理したいところ)。

だが、これらは全て私の一人合点だ。と云う訣で、native speakers が作成したと信じられるウェブサイトを調べてみた。そうすると、"evacuation area" は、「そこから退避すべき地域」と「そこに避難すべき地域」の二通りに使われているのだな。困ってしまう。

ザッと見たところ、行政組織の作成した文書では「そこから退避すべき地域」が使われているのに対し、教育機関(私が気が付いたのは、ほぼ全て大学だったが)では「そこに避難すべき地域」だった。

ここで付言しておくと、教育機関の場合は、「そこから退避すべき地域」と云う意味の言葉を使う状況は余り考えられない。何故なら、「そこから退避すべき」なのは、「地域」と云う一般的な概念であるより、具体的に「校舎」や「寄宿舎」が想定されるからだ。

とにかく、例を幾つか示そう。まず「そこから退避すべき」の方。

最初は、米国の連邦緊急事態管理庁 (FEMA: Federal Emergency Management Agency) の 2005年3月7日付けの警戒レベル更新情報 (National Situation Update: Monday, March 7, 2005) から:

Utah Chemical Spill Forces Evacuations and Closes Interstate
A railcar leaking industrial waste, including caustic acids, has forced the closure of major highways and the evacuation of more than 6,000 people in South Salt Lake City, Utah. The leak was discovered early Sunday, March 6th, while crews were loading chemicals into the parked car. The cause for the leak was a faulty liner in the railcar. Spilled materials include hydrochloric, hydrofluoric, nitric and sulfuric acids.

An area less than one square mile, south and east of the rail yard, was recommended for evacuation, with less than half of that a mandatory evacuation area due to concerns for windborne fumes. Numerous streets and portions of Interstate 80 and Interstate 15 were closed. No injuries have been reported.

ユタ州で化学物質流出により住民避難・州間高速道路閉鎖
鉄道車両から腐食性の酸などの産業廃棄物が流出したため、ユタ州サウス・ソルトレーク・シティにおいて、主要高速道路が閉鎖され、六千人を超える人々が避難を余儀なくされている。流出は、3月6日日曜早朝、作業員が停車中の車両に化学物質を積み込んでいる際に発見された。流失の原因は、車両の内壁に欠陥があるためだった。塩酸、フッ化水素酸、硝酸、硫酸などが流出した。

操車場の南方及び東方1平方マイル弱の範囲に避難勧告が出されたが、そのうちの半分たらずの地域は、蒸散物が風で運ばれることが懸念されて、退避命令の対象となった。多くの街路と州間高速道路80号及び15号の一部とが閉鎖された。負傷者は報告されていない。


2005年10月23日付けの FEMA のニューズリリース (Release Number: HQ-05-351) は、ハリケーン [ウィルマ Wilma] への警戒をフロリダ州民に訴えたものだが、その中では、"non-evacuation area" と云う表現が出てくる。これは、退避指示対象外地域の意味:

Federal Government Continues Preparations For Hurricane Wilma
"Residents of Florida should continue watching the progress of the storm and follow the guidance of their state and local officials," said David Paulison, Acting FEMA Director. "Hurricane Wilma has been unpredictable and from all reports will be a major hurricane. Individuals need to heed evacuation instructions of their local officials and make sure that whether they are evacuating their homes or in a non-evacuation area, that they have sufficient food and water for their family for at least three days."

連邦政府はハリケーン・ウィルマへの警戒態勢を継続中
連邦緊急事態管理庁長官代理ディヴッド・ポーリソン (David Paulison) は、「フロリダ州の住民の皆さんは、これからもハリケーンの進路に注意を払い、州及び地方自治体担当者の指示に従ってください。ハリケーン・ウィルマは、予測を超えたものになっており、全ての観測結果が大型ハリケーンになることを示しています。住民の皆さんは、地方自治体担当者の退避指示に気を付けるようにし、自宅から退避しないのならば、退避指示対象地域外に住んでいることを確認してください。また、家族にとり十分な食料及び水を少なくとも三日分確保してください」と語った。


今だに尾を引きずっている感のあるハリケーン [カトリーナ Katrina] に関する例としては、米国沿岸警備隊 (United States Coast Guard) が、2005年11月4日に発行した 第5版 "Questions and Answers for Civilian Employees Affected by Hurricane Katrina" (「ハリケーン・カトリーナの影響を受けた軍属に関する質問解答集」)から引用する。なお、"Civilian Employees" は、[三軍]関連の文書なら当然「軍属」と訳すべきだが、[沿岸警備隊]ではどうか、やや迷った。しかし、米国沿岸警備隊の準軍隊的性格に沿って、やはり「軍属」と訳しておく:

A. EVACUATION ORDER ISSUES
A.9. What happens if an employee never left the evacuation area because he/she was assigned official duties in the area (permanent duty station), but the employee's dependents evacuated to the safe haven? (Version 3, dated 30 Sept. 2005)
If the employee's home is uninhabitable, the employee and his/her dependents will receive evacuation subsistence. The employee does not receive evacuation payments but is in a regular pay status.

A. 退避命令関連
A.9 軍属が、退避命令対象地域内(駐在地)での任務があったため同地域から全く出なかったが、同人の扶養家族は避難所に避難した場合はどうなりますか? (2005年9月30日。第3版)
軍属の自宅が居住不適格になっている場合、同人及びその扶養家族は、退避扶助が受けられます。軍属には退避手当ては支給されずに、通常の給与状態のままです。


次は、フロリダ州パスコ郡(Pasco County)の緊急事態管理室で出した、緊急事態対策マニュアル中の事業者向け留意点 "Protect Your Business!" の一節:

Develop A Written Plan
Develop a staffing policy that identifies essential employees and which of them, if any, must remain at the facility during the hurricane. Outline a chain of command and what each person's responsibilities will be pre and post storm. The policy should identify when employees will be released from work, as well as when they are expected to return. Employees living in designated evacuation areas should be released from work to protect their families and homes once an evacuation is ordered for their area, if not before. Businesses may predetermine that employees will return to work when county or local municipal employees are ordered to return, in case telephone service is out. Establish a rendezvous point outside the evacuation area and time for employees in case damage is severe and communications are disrupted.

計画書を作成しましょう
基本となる従業員を見極め、更に、その中にハリケーンの間中、施設に留まらせる必要がある者がいる場合には、その従業員を指定する配置方針を作成してください。命令系統と、ハリケーンの前と後とにおける各人の責任内容との要点をはっきりさせてください。前記配置方針では、従業員が何時職務から離れることになるのかと云うことと、何時職務に復帰することが期待されているのかと云うことを明確にするようにしてください。指定退避命令対象地域に居住する従業員は、その地域への退避命令が出される前とは言わないまでも、出されさえしたなら家族及び自宅を守るため職務を離れるようにされていなければなりません。事業所は、電話回線が不通である場合、国又は地方自治体職員への復帰命令が出された際に、従業員が職務に復帰すべきことを定めることができます。被害が甚大で通信が断絶している場合に、退避命令対象地域外でかつ期間外において従業員と面会する場所を決めておいてください。

前記の通り、大学の緊急事態(主に火災)対応マニュアルでは、"evacuation area" を、所謂「避難場所」の意味で使っているものがある。ただし、全てではない。私の見たところでは、米国のアイヴィリーグ (Ivy league) に属する大学の多く、スタンフォード大学 (Stanford University) や、英国のオックスフォード大学 (University of Oxford)・ケンブリッジ大学 (University of Cambridge)・ロンドン大学 (University of London) では、「避難場所」の意味で "assembly point" "assembly area" "meeting point" "meeting place" 或いは、この系列の類似の用語を使っているようだ。

とは言え、アイヴィリーグ中、コロンビア大学 (Columbia University) では該当する用語例を探し出せなかった。また コーネル大学 (Cornell University) では "Evacuation Assembly Location" や "evacuation meeting point" の他に、"Off-campus evacuation area" も使っている。


"evacuation area" を使っている例を一つだけあげておく。以下は、米国ヴァージニア州ハノーヴァ郡 (Hanover County) アッシュランド (Ashland) にあるランドルフ メイコン大学 (Randolph-Macon College) が出している「キャンパスの安全:緊急事態対応プラン」(Campus Safety: Emergency Response Plan) と云う文書の一節である:

Evacuations
In the event of an emergency campus evacuation, R-MC will employ the Hanover County Emergency Plan and all students and employees will be transported to an evacuation area designated by the Hanover County Emergency Services Coordinator.

避難
キャンパスを避難する緊急事態の場合、本学は、ハノーヴァ郡緊急事態プランを採用し、全ての学生及び職員は、ハノーヴァ郡緊急事態対策調整官が指定する避難場所に移される。

この原稿を書くにあたって、街なかなどで、私が見かけたのが特殊な場合なのかも知れないと思って、「避難所/避難場所」の英訳を "evacuation area" としている例を日本語ウェブをネットで検索してみたが、市や区レベルばかりではなく、国や都、そして JIS でも使われていた。

  1. 内閣府が作成した「首都直下地震対策に関する参考資料」([文書のプロパティ]によれば作成日時2005年6月20日)では、[NTTドコモのiモード災害用伝言板サービス] の [メッセージ登録内容] の例として、「避難所に居ます」の英語版として "At evacuation area" が示されている。
  2. JIS の定めている「案内用図記号」規格 [JIS Z 8210 2002] 中 [広域避難場所] を示す図記号(発行年2002年。分類 6.1.4) の表示事項(つまり「広域避難場所」)の英文版は "safety evacuation area" になっている。(「JIS Z 8210 2002 案内用図記号 掲載図記号 一覧」を参照(日本工業標準調査会のウェブサイトからは、JIS規格票原本を閲覧することができる)。
    なお、総務省消防庁が2005年3月に決定した津波避難用の3つの図記号中 [津波避難場所] 及び [津波避難ビル] は、その検討時に付された英文は "Tsunami Evacuation Area" と "Tsunami Evacuation Building" だったが、これが最終案に含まれているかどうかは、確認できなかった。
  3. 東京都生活文化局文化振興部事業推進課が2003年3月に発行した「Earthquake Survival Manual いざというときのためのサバイバル・マニュアル」では
    避難場所に避難(大きな公園・広場)
    火事の危険から身を守り、鎮火を待つ場所
    の対応英文は
    Evacuate to the Evacuation Area (a large park or open space)
    This is a place safe from fire and for people to wait until fire is extinguished.
    である。
  4. 東京都交通局が2001年8月30日に発表したニュースリリースによれば『駅周辺案内地図上で避難場所に指定されている公園等に「避難場所EVACUATION AREA」と表記するとともに中国語、ハングルも併記する』ことが決められている。


最後に、私一個の意見を言うなら、「避難場所」の意味で "evacuation area" を使うのは、やはり気持ちが悪い。native speakers が誤解しなければ良いがなどとも思う。

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Nursery Rhyme "Little Robin red breast" メモ

これから、折りを見て、所謂 Mother Goose 或いは、英国流の言い方をするなら Nursery Rhymes の事を書いてみようと思う。

ただし、Mother Goose に就いて勉強したのは大昔の話で、そしてそれ以来ご無沙汰しているから、大したことが書ける訣ではない。

文字どおり、ノートブックの埃を払って、当時を思い出しながら、簡単なメモを作っていく心づもりだ。


最初に取り上げるのは、コマドリが主人公だ。ただし、有名な "Who killed Cock Robin?"「誰がコマドリを殺したの」ではない。次のようなものだ:

Little Robin red breast,
Sitting on a pole,
Niddle, Noddle,
Went his head,
And Poop went his Hole.

アカムネ・コマドリ
棒の上
ペコリ、ペッコリ
おじぎすりゃ
お尻の穴からポッタポタ

しかし、現在では、この形で見かけることは少ない。次の bowdlerized edition が一般的だろう:

Little Robin Redbreast
Sat upon a rail.
Niddle, naddle went his head;
Wiggle, waggle went his tail.

アカムネ・コマドリ
手すりにとまって
おつむの方はペコリ、ペッコリ
おっぽの方はピクリ、ピックリ

"The Oxford Dictionary of Nursery Rhymes" (Oxford 1951) でも、本文に採用されているのは「おっぽ」版の方だ(p.371)。ただし、「尻の穴」版も注の方で言及されている(p.372)。それによると、「尻の穴」版は、1744年ごろの "Tommy Thumb's Pretty Song Book" に収録されている。

この "Tommy Thumb's Pretty Song Book" は、英文学史上現存する最古の Nursery Rhymes の収集本だと云うことだ。

これには「第2巻」と銘打たれているらしいが、実際には「第1巻」は存在せず、"Tommy Thumb's Pretty Song Book" に先行するのは "Tommy Thumb's Song Book" と云う物であったらしい。しかし、こちらの方は広告は知られているものの、実物の現存は確認されていないとのこと。

読み比べてみるは、オリジナルの方が出来が良い。修正版は、最後の一語を "hole" から "tail" にしたために、それと韻を踏む "pole" も "rail" に換えざるをえなくなっているが、このため情景が散漫になっている。

そして勿論、最後の一行の持つ力に雲泥の差がある。

子供たち、特に幼児の [ウンコ好き] と、大人たちの [教育的配慮好き] とは、共に興味深いが、安易な議論をすることは避けておこう。

ただ、あらゆる教育的配慮に関わらず、子供たちは「ウンコ版」の方を歌い継いできている可能性があることは考えておいて良いだろう。

Carol Easterbrook Wolf と云う女性は、その祖母である Olivia McMullin Whitehead (06 Aug 1895 - 10 Feb 1981) の思い出を綴った文章の中で、祖母から教わった [ウンコ版] が、彼女が知った最初の詩だったと述べている。

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古川柳「物さしを嫁へ投げるは美しい」と「手を出さっせえと物さし姑出し」に就いて

以下の内容は古川柳研究者の間では常識化している筈だが、私が検索した限り、ネット上ではヒットしなかったので書いておく。

2009-03-08[日]補足: モルセラの独り言 [2005年5月11日] の条に、「手を出さっせへと物差し姑出し」について、以下の説明とほぼ同内容のことが記載されていることを発見した。さらに、それは [渡辺信一郎著「江戸のおしゃべり―川柳にみる男と女 (平凡社新書 (030))」] の紹介記事であるとのこと。

山路閑古の「古川柳名句選」(筑摩書房 筑摩叢書102。1968年 ISBN4-480-01102-1. ちくま文庫 1998年 ISBN4-480-03393-9. 私が持っているのは、筑摩叢書版なので、この文章での言及はそれに従う) の p.246 及び p.247 では、以下の川柳の「鑑賞」がされている。

物さしを嫁へ投げるは美しい
手を出さっせえと物さし姑出し

岩波文庫判の[誹風柳多留]では第三巻の p.159 (14篇24丁)と第四巻の p.185 (20篇9丁)とに、それぞれ「物さしを娵へなけるはうつくしひ」と「手を出さつせへと物さししうと出し」として採録されているものだが、これに対して山路閑古は、以下のように説明・鑑賞している。

物さしを嫁へ投げるは美しい
犬猿もただならぬ古川柳の姑と嫁との間で、両者が一緒に仲よく針仕事をしているなどの情景は、句としてはめずらしい部類に属するが、世間普通の家庭には、別に見られないことでもなかったのであろう。嫁が物さしを探していると、姑が無言で投げてよこすなどもありそうなことで、自然のままにうまく描かれている。

手を出さっせえと物さし姑出し
前出句の物さしを投げるというのが、読者の誤解を生じやすいと見て、このような訂正を試みたものと思われる。こう言わなければ、姑の善意が読者に充分に伝わらないと、作者は考えたのであろう。

しかし、室山源三郎は、社会思想社刊の[江戸川柳の謎解き](1994年。現代教養文庫1541 D292 ISBN4-390-11541-3) では、次のように説明している(p.35):

物差しを嫁に投げるは美しい
裁縫などの時、寸法を計るのに用いる物差しを手渡しするとその仲が不和になるという俗信があった。「美しい」は、この場合、心がけが立派だ。「手を出さつえと物差し姑出し」(二〇・9)は意地悪な方。


(三省堂の[江戸川柳便覧] 1998年 佐藤要人編 ISBN4-385-13849-4 でも、 同様の解釈が示されている。)

実は、私も子供のころ、たしか母親から「物さしを手渡しにすると縁が切れる」と云うことを聞いたような記憶がうっすらとある。そして、その曖昧な記憶と、「古川柳名句選」の上記引用部分を以前読んだ時の面妖な気分の明瞭な記憶とがしっかり結びついていているのだ。有り体に言ってしまえば、「古川柳名句選」は、この二句以外のことは、少しも憶えていない。

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