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信用できない引用句サイト(鄧小平の「猫論」に関係して)

猫に就いての引用句をネット上で探していたら、引用句サイト WorldOfQuotes.comCats と云うページで、次のようなものを見つけた(Catlines Mewsletter Volume 3 Issue 2 でも同様):

His friends he loved. His direst earthly foes--
Cats--I believe he did but feign to hate.
My hand will miss the insinuated nose,
Mine eyes the tail that wagged contempt at Fate.
Author: Sir William Watson (2)
Source: An Epitaph

Black cat or white cat, it's a good cat that catches the mice.
Author: Sir William Watson (2)
Source: An Epitaph

It doesn't matter if a cat is black or white, as long as it catches mice.
Author: Sir William Watson (2)
Source: An Epitaph

最初の一つは、まぁ良い(大体、これは猫に就いての詩ではなく、犬に就いての詩らしいが、まぁ良い)。問題は、後の二つだ。どちらも、鄧小平 (1904-1997。四川省出身) の有名な「猫論」そのままではないか。

Sir William Watson (1858-1935) は英国の詩人だが、何故こんなことが起こったのか? 偶然の一致? それとも、二人の間に何らかの接点が(直接ではないにしろ)あったのか? そう言えば、鄧小平は十代で渡仏している(1920年)。その時にでも William Watson の詩を読んだのか。それとも、晩年に至るまで、ブリッジ好き、サッカー好きの鄧小平は、その一方で英語詩の愛好者でもあったのか? これは一つ調べてみようと、あれこれのサイトを覗いてみたのだが、結論は何の事はない。WorldOfQuotes.com の編集ミスですね。

大体、調べだすとすぐ話が奇妙になっていったのだ。

鄧小平が「白い猫でも黒い猫でも鼠を取る猫は良い猫だ」と云う意味のことを最初に言ったのは、1962年のことらしい(ただし、日付は資料により区区)。

原文を確定しようと、中国語サイトを覗いてみてみると、サイトにより、微妙に異なる言い回しで引用がなされている。こられには、鄧小平の言葉自体と云うより、「猫論」の主旨をのべたものもあるようだ(以下、当方のシステムで文字化けする中国語サイト中の文字は、対応する表示可能漢字に適宜置き換えた)。

1. 不管白猫黑猫,会捉老鼠就是好猫。
「老鼠」は、「老」が付いていても(付くと俗語になるらしいが)「ネズミ」の意。
--鄧小平理論的核心不是"猫論"
--小参考総第292期 1999.01.01 全面報道中国政治反対派的新聞和評論


2. 不管白猫黑猫,抓住老鼠就是好猫
--寂寞如雪—写在午夜的思索集
--大参考総第2404期(2004.10.01)専門散播各種受中共査禁的新聞和評論
「老鼠」の代わりに「耗子」とするものもある(北方方言とのこと)。意味は同じで「ネズミ」。
--十一、不管白猫黑猫,抓住耗子就是好猫


3. 不管白猫黑猫,能抓住老鼠就是好猫
--大参考総第1239期(2001.06.22)専門散播各種受中共査禁的新聞和評論


4. 不管白猫黑猫,能抓老鼠的就是好猫
--Wikiquote: 鄧小平

しかし、注目すべきは、こうした変異例の中で「白猫」が「黄猫」になっているものだろう。なぜなら、それが鄧小平が使った本来の表現であり、そして、もともとは、彼の同僚であった劉伯承(りゅうはくしょう。1892-1986。四川省出身)が常常口にしていた四川省に伝わる諺であったと云うことだから。以下が、その例(ちなみに、中国語の「黄」は、日本語の場合より広義で、赤みがかったもの、つまり茶色っぽいものも含むとのこと)。

5. 他引用刘伯承経常説起的四川諺語: "不管黄猫黑猫,只要捉住老鼠就是好猫。"
--"猫論"—民諺背后的真理
「他」は勿論鄧小平のこと。


6. 刘伯承同志経常講一句四川話:"黄猫、黑猫,只要捉住老鼠就是好猫。"
--領袖人物資料庫
ここでの話者は鄧小平。


7. 不管黄猫黑猫,能抓老鼠的就是好猫
--Wikiquote: 鄧小平 (注)


8. 不管黄猫黑猫,能抓耗子的那只就是好猫。
--也来淡淡方舟子

つまり、現在中国語サイトから収集できる情報による限り、Sir William Watson が鄧小平の「猫論」に影響を与えた可能性はないと結論できる。

では何故、ここまで表現が一致したのか?

ここで、話が一挙にグズグズになるのだが、別の引用句サイト GIGA QuotesCATS と云うページでは、次のようになっている。

His friends he loved. His direst earthly foes--
Cats--I believe he did but feign to hate.
My hand will miss the insinuated nose,
Mine eyes the tail that wagged contempt at Fate.
- Sir William Watson (2), An Epitaph

If a dog jumps in your lap, it is because he is fond of you; but if a cat does the same thing, it is because your lap is warmer.
- Alfred North Whitehead

Black cat or white cat, it's a good cat that catches the mice.
- Deng Xiaoping

It doesn't matter if a cat is black or white, as long as it catches mice.
- Deng Xiaoping

WorldOfQuotes.com は、これを「編集」して、自らのサイトに組み込んだのだろう。その際、"Deng Xiaoping" を誤って "Sir William Watson (2)" としてしまったとかなり断定的に推定できる。

強力な状況証拠があって、実は "WorldOf.." と "GIGA" のどちらにも (Sir 抜きの) "William Watson" と云う人物(17世紀初頭のイギリスにおける「Bye Plot バイ事件」の首謀者)の言葉が再録されているのだが、"GIGA" の方の人名索引では、どちらの Watson も "W" の項にあって並んでいる。だから "William Watson (1)" と "Sir William Watson (2)" とのように番号を付けて区別している。しかし、"WorldOf.." の人名索引では "William Watson (1)" は "W" の項、"Sir William Watson (2)" は "S" の項に入っているので番号を付けて区別する必要がない。それなのに、番号は付けたままになっている。これは、"WorldOf.." が "GIGA" の内容を写したときに、番号を削除し忘れたためだろう。

ちなみに "WorldOf.." は、"William Watson (1)" においても、似たような「編集ミス」をして、別人からの引用句を組み込んでいる。とうてい信用できないサイトと言えるだろう。


以下のサイトも参考のこと:
The Poems of William Watson, by William Watson

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