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飛行機に原子時計を載せて・・・

電波時計に就いてネットを調べていたら、次のように書いてあったので、少し気になって、リンクを張ったのは、電波式腕時計が故障したと思ったら・・・に見られるとおりです。

時間計測の精度は振り子時計、水晶時計、原子時計と向上してきました。現在では、二千万年に1秒まで達しています。これは、アインシュタインの一般相対性理論効果が十分にあらわれる大きさです。
--JP2WGS 上ヱ地 義徳: 電波時計 > ひとやすみ

[飛行機に原子時計を載せて飛行させ、相対論の検証を行った]と云う話を読んだことを連想したので、その心覚えで、注意しておいたのです。実際関係があるかどうかは、[上ヱ地] (「うえぢ」と、お読みするらしい)さんに問い合わせるしかないでしょうが、そこまでする事はないでしょう。

しかし、自分のうろ覚えの方は正しておきたい。大体「相対論の検証を行った」と言うが、その「相対論」は [特殊] なのか [一般]なのか? 普通に考えるなら、[一般] まで視野に入れないとワザワザ原子時計を飛行機に載せる甲斐がないけれど、そう云う先入見で議論を進めて行くと、しばしば足元をすくわれるので、ここはシッカリ確認しておきたい。

と云う訣で、ネットを調べだしましたが、例によって手古摺りました。一次情報、と言うか、一次情報に繋がる情報、と言うべきか、兎に角、個別具体的なデータが見つからない。

結局、出所はこれだろうと思われるのは、雑誌 "Science" に所載の J.C. Hafele と R.E. Keating とによる次の論文(私は未見):

1. J.C. Hafele and R.E. Keating, ``Around-the-World Atomic Clocks: Predicted Relativistic Time Gains'' Science, 177, 166-168 (1972);

しかし、これはネット上では公開されていないみたいですねぇ。逆に、この論文に批判的な発言がネット上に散見する。

そうしたところから始めて、丁寧に読む気は更更起きないから、幾つかの記事の触りの部分だけを抓み食いしてみましょう。

2. J.C. Hafele と R.E. Keating とによる報告のデータ処理を問題にして、その結論は信憑性が無いと断じている。

Abstract.
The original test results were not published by Hafele & Keating, in their famous 1972 paper; they published figures that were radically different from the actual test results which are here published for the first time. An analysis of the real data shows that no credence can be given to the conclusions of Hafele & Keating.

Conclusions
The H & K tests prove nothing. The accuracy of the clocks would need to be two orders of magnitude better to give confidence in the results. The actual test results, which were not published, were changed by H & K give the impression that they confirm the theory. Only one clock (447) had a failry steady performance over the whole test period; taking its results gives no difference for the Eastward and the Westward tests.

A. G. Kelly PhD
HDS Energy Ltd, Celbridge, Co. Kildare, Ireland.
--Hafele & Keating Tests; Did They Prove Anything?

要約
本来の実験結果を、Hafele と Keating は、彼らの著名な1972年の論文では発表しなかった。彼らが発表したのは、(今回ここに初めて明かされる)実際の実験結果とは根本的に異なる図面だった。本当のデータを分析すると、Hafele と Keating の結論には信頼性を置くことが出来ないことが判る。

結論
Hafele と Keating とによる実験は何も証明していない。信頼性の置ける結論を導き出すには、時計の精度は、あと二桁優れているものでなければならなかったろう。発表されることのなかった実際の実験結果は、Hafele と Keating とにより彼らが相対論を検証したと云う印象を与えるために変更されていた。一台の時計(447号)のみが、実験の全期間を通じてかなり安定した動作を維持したが、その結果を採用するなら、東回りの実験と西回りの実験とでは差がでない。

3. W.Nawrot は、Hafele-Keating 実験に就いて、次のように結論している:

The gravitational effects and various accelerations are playing a too great role in the experiments with macroscopic clocks and are too big in comparison with the kinetic time change. If we just omit only one of the gravitational effects, a false result of the calculations could be obtained. The speeds of planes are too low to give us the reliable result which would not depend that strongly on accelerations of various origin.

According to above, experiments with macroscopic clocks can not be a proof for the hitherto interpretation of the twin paradox
--W.Nawrot "Gravitational effects in Around-the-World Atomic Clocks experiment"

重力の効果も、様様な加速の効果も、これらの巨視的な時計による実験において果たしている役割が大き過ぎるし、また、運動論的な時間変化と比較しても大きすぎる。もし重力の効果のうちの一つだけでも無視するなら、計算結果は間違ったものになってしまうだろう。飛行機の速度は、様様な要因で発生する加速に大きく依存ることのないような信頼性ある結果を得るには遅すぎる。

従って、巨視的な時計による実験は、双子のパラドクスの従来の解釈を証明するものとはなりえない。
//2007-05-12 (土) 以前の訳文は、意味が取りづらいと思われたので、改めた。(ゑ)

Hafele & Keating と、上記二つの論文と、どちらが説得力がありそうかと云うことには、判断を差し控えます。つまり、分らないのです。

Hafele-Keating 実験に追試は行なわれなかったのか、気になったのですが、やはり行なわれてはいるらしく、それに就いての言及が、記事 "Gravitational time dilation" の最後の方にありました。

4. 次の二つ:

  1. C.O. Alley, ``Relativity and Clocks'' in Proceedings of the 33rd Annual Symposium on Frequency Control (Electronic Industries Association, Washington, 1979).
  2. R.F.C. Vessot, M.W. Levine, E.M. Mattison, E.L. Blomberg, T.E. Hoffman, G.U. Nystrom, B.F. Farrel, R. Decher, P.B. Eby, C.R. Baugher, J.W. Watts, D.L. Teuber and F.D. Wills, ``Test of Relativistic Gravitation with a Space-Borne Hydrogen Maser'' Phys. Rev. Lett. 45 2081-2084 (1980).

しかし、こうした話は、相対論の検証と云う本来の目的に関しては、既に陳腐化していると考えて良いようです。というのは、

5. GPS (Global Positioning System )衛星に就いて、こう述べられていることから窺い知れます。

要約:
相対性理論は間違っているといった疑似科学的言説が横行している。相対性理論の基本原理である光速度一定の原理は、GPS衛星が働くための基本的な原理である。GPS衛星は身近なところではカーナビや、巡航ミサイルの位置決めにも利用されている。光速度一定が成り立たなければ、カーナビは働かないのである。GPS衛星には原子時計が搭載されている。一般相対論によれば、高空を飛ぶ人工衛星の時計は地上の時計より遅れることが予言されるが、GPS衛星の時計はその遅れに対する補正もなされている。要するに、特殊相対論、一般相対論は最新技術に応用されており、もはや初歩的な意味で間違っているというような時代ではないのである。
--神戸大学理学部地球惑星科学科 松田卓也: カーナビと巡航ミサイルと相対論について (2002年7月、物理学会九州支部講演会、九州大学国際会議場にて)

(補足 2007-04-17: 上記引用中「一般相対論によれば、高空を飛ぶ人工衛星の時計は地上の時計より遅れることが予言される」の「遅れる」は --進む-- の誤りである。[nouse: [飛行機に原子時計を載せて・・・] 補足: 相対論の話を少しばかり] 参照)


GPS 衛星の発信する電波の周波数に対する相対論的補正の具体的な数値は、次の記事(日本語のものと英語のものが一つづつ見つかりました)に説明されています。

6. GPS 衛星側での補正

7. Relativistic Effects on Satellite Clocks

最後に、相対論の教科書にもリンクを張っておきましょう。

8. Reflections on Relativity
[[20070929補正。実際に読んでみて、どうもピンとこないので削除する。]]

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